相場の微かな変化を見抜く by 花井健氏(シリーズ:ベテランに聞く)

記憶に残る外国為替ディーラーといえば誰か。問われたときに名前が挙がる日本人は少ない。その一人が日本興業銀行(現みずほ銀行)のすご腕で鳴らした花井健氏だ。現在は企業経営アドバイザーとして為替経験をいかす花井氏は現役時代、徹底的に相場に入り込み、かすかな変化も見逃さず勝ち抜いてきたとの自負がある。「周囲に『運が良い』と映っても実は地道な努力の積み重ねによるところが多い。『見抜く力』を得られるか否かが勝敗を分ける」と指摘する。【聞き手は日経QUICKニュース(NQN)編集委員=今 晶】 花井 健(はない・たけし)氏 1977年に大阪市立大商学部を卒業。興銀(当時)に入行し国際為替営業部長やみずほコーポレート銀行の本店営業第4部長、執行役員上海支店長、常務執行役員アジア・オセアニア地域統括役員を経て2009年に楽天に移籍。現在は自己勘定で取引をするとともにアシックスや丸運、日本精線、タツタ電線、LIFULLの社外取締役と複数の企業で顧問を務めるほか、母校の大阪市立大の国際交流アドバイザーとして教壇に立つ   ■「微か(かすか)なるより顕か(あきらか)なるはなし」 これは孔子の説とされ、日立製作所フェローの矢野和男氏は著書「データの見えざる手」(草思社)で「君子は微かを知るがゆえに顕かを知る」と読み替えている。現在の世の中も、見えているようで見えていないことだらけだろう。 見えていないものをそのままにしていては進歩はない。相場漬けの日々を送り、ニュースなどで表に出ていない動きやパターンの変化、構造を細かく拾う地道な作業、真の人脈作りと情報収集が必要だ。王道やマニュアルなど無く、うまくいっても「幸運」ぐらいに軽く受け止められるのかもしれないが、それが実力だと胸を張っていい。 デジタル技術や人工知能(AI)との付き合い方のツボもそこにある。AIによるデータ解析や経済指標への反応スピードは格段に進歩し、短期取引はAIやアルゴリズムの独壇場になりそうだ。だがAIもアルゴも精度がまだ低く、相場のオーバーシュート(行きすぎ)を引き起こしやすい。流れに逆らう「逆張り」が有効な局面がしばしば生じている。判断をするのは人間だ。 とにかくIT(情報技術)との関わりは避けては通れない。AIなどの長所と短所をしっかり把握し、取引につなげるのは人の仕事。長期投資では人間の出番が増えるだろう。人と機械の特性をそれぞれうまく活用した分業体制が理想だ。 ■性悪説でシステムを作り、性善説で人を管理する 感情に流されず欲望を前面に出さない「無心」「無我」の境地は、頭では大切だとわかっていても簡単には割り切れない。外為市場の先人は様々な工夫で無心になれるよう努めてきた。例えば元東京銀行(現三菱UFJ銀行)の若林栄四氏(現ワカバヤシエフエックスアソシエイツ代表取締役)は相場変動を「神意」とみなし「負けは神の領域に近づきすぎたから」と自らに言い聞かせ、チャートなどを駆使して淡々と敗戦処理に臨んだという。 人間が作り出す「有機質」の要素では説明できない客観的な現実がマーケットには厳然と存在する。勝てるトレーダーはそんな「無機質」の視点を必ず持っている。著名な日本人のディーラーとしてまず名前が挙がる堀内昭利氏(現AIAビジネスコンサルティング社長)やチャーリー中山(中山茂)氏はこの無機の部分、具体的にはディーリングで最も大切なロスカット(損切り)が見事だった。 上手にロスカットをして負けが込まないようにできればおのずと勝機は増える。相場は期待通りにはならない。常勝は不可能と割り切って臨んできた。 為替取引を通じて得た座右の銘は「性悪説でシステムを作り、性善説で人を管理する」。やすきに流れがちな人間に本質的な罪はない。弱い人を追い込まないようにルールを決める。あとはそれを実行に移せるかどうか。為替に限らず、事業運営の全般に当てはめられる真理だと思う。 みずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)本店営業第4部長で不良債権の処理を担当していたとき、「不良債権がある取引先の希望通りの支援を続けていたら負担は際限なく増える。希望的観測はもたずに当初決めたガイドラインに従い、すぐに処理すべきだ」と当時の斎藤宏頭取に訴え、理解してもらってスムーズに事を運べた。 ■トライ&エラーの意識忘れず 投資はトライアンドエラーの繰り返し。当たり前のようでも、何が正しくて何が間違っているのかの判断はかなり難しい。大事なのは謙虚に学ぶ姿勢だ。勝てるトレーダーはたいてい、貪欲に情報を得ようと食らいついてくる。 2006~07年、みずほでアジア・オセアニアビジネス担当の常務だったときだ。アジアの中央銀行幹部は金融政策の専門家ではあっても、需給環境が複雑な為替相場にはあまり明るくなかった。そのために中銀としての運用シナリオが正しいのか見極めたいと、為替専門の私にひんぱんにアドバイスを求めてきた。円を元手にした外貨建て取引「円キャリートレード」が盛んなころで、アジア中銀もこぞって円キャリーに傾いていたからだ。 上海勤務時には中国の金融当局が円の自由化の歴史や為替管理の方法について聞いてきた。政府関係者の為替マインドの高さに感心したことを覚えている。 Once a dealer always a dealer.  Don’t worry about failure, Worry about the chance you miss when you even try!   「一度ディーラーを経験したらずっとディーラー、失敗を恐れるな」――。ディーラーの合言葉だ。これを肝に銘じ、年齢に関係なく身に付けられるデジタル技術力と新たな人脈を広げられる人間力、リスクをとって市場に対峙する力の「新・3種の神器」を備えられれば、相場だけでなくこの先の社会の荒波も乗り越えられると信じている。(随時掲載)

新種乱立、止まらぬ「オルト離れ」 Zaif問題で心理悪化に拍車

仮想通貨市場でビットコイン以外の「オルトコイン」の需給悪化が続いている。ICO(イニシャル・コイン・オファリング)と呼ばれる仮想通貨技術を使った資金調達に伴うオルトの乱立でただでさえ需給が緩みやすくなっているところに、相次ぐハッキングによる不正流出問題で投資家離れが進んだ。そんな中で20日、国内で仮想通貨の不正流出が発覚。相場の先安観が改めて強まった。 仮想通貨交換会社のテックビューロ(大阪市)は日本時間の20日2時15分ごろ、運営する「Zaif(ザイフ)」に外部からの不正アクセスがあり、管理していたビットコイン、モナコイン、ビットコインキャッシュが流出したと発表した。 ザイフでの被害額は現時点で約67億円相当とみられ、1月にコインチェックで起きた仮想通貨ネム流出時の約580億円と比べると規模は小さいが、投資家は敏感に反応し多くの通貨が売り込まれた。 ビットコインなど市場規模の大きい通貨に打診的な買いが入り、ビットコインは下落前の水準である1ビットコイン=6300~6400ドル台のレンジに戻っている。半面、小規模オルトコインの下げはきつい。情報サイトのコインマーケットキャップを見ると、オルトには週間の下落率10%超えのコインがごろごろしている。 「国内外で頻発する不正流出を受け、交換会社はとりわけオルトコインの取り扱いに慎重にならざるを得なくなった」。そう危機感を抱く市場関係者は多い。 海外では悪意を持ったマイナー(採掘者)がマイナーの少ないオルトコインを狙ってブロックチェーン(分散型台帳)を書き換えてコインを盗み出した事例が増えている。セキュリティー面で脆弱なコインには上場廃止になったものも現れた。 日本国内での仮想通貨交換業には金融庁への登録が必要でコインチェック事件後は事実上、登録停止となっていた。最近になって登録再開の可能性も噂されていたが今回の問題を受け、「金融庁による交換所の登録再開は先送りされかねない」とアルトデザインの藤瀬秀平チーフアナリストは危惧する。 取り扱う交換所が増えなければオルトコインの流通市場の裾野拡大は見込めない。仮想通貨の時価総額全体に占めるオルトの比率は5月以降は下がるばかりで、その裏返しでビットコインの比率が上昇。足元では55~58%程度と昨年12月以来の水準まで高まっている。 ICOが盛んなロシアやスイス、エストニアなどでは現在も新たなオルトコインがどんどん立ち上がっている。その種類は2000近くまで膨れあがった。 アルトデザインの藤瀬氏によると、仮想通貨の市場全体の時価総額はピークだった年初比で4分の1だが、コイン増加により、1通貨あたりの時価総額は6分の1まで減っている。オルトコインの大部分がほとんど取引されていない状況のようだ。投資家の「オルト離れ」が止まる兆しはみえない。 【日経QUICKニュース(NQN) 尾崎也弥】 ※日経QUICKニュース(NQN)が配信した注目記事を一部再編集しました。QUICKの情報端末ではすべてのNQN記事をリアルタイムでご覧いただけます。

流動性低い通貨には手を出すな by 若林徳広氏(シリーズ:ベテランに聞く)

投資に必勝法などはなく、ミスを極限まで減らすことこそ勝利への近道。その鉄則に忠実に従い、相場の荒波を乗り越えてきたのが外国為替ディーラーのバート若林こと若林徳広・ステート・ストリート銀行東京支店長だ。若林氏は「相場観を間違えてもすぐに気づけば十分立て直せる」と指摘し、そのうえで「流動性」の大切さを訴える。「トルコリラのように相対的に流動性が低い通貨には手を出さぬ割り切りも必要」と説く。【聞き手は日経QUICKニュース(NQN)編集委員=今 晶】 若林徳広(わかばやし・とくひろ)氏 東京都出身。セント・メリーズ・カレッジ・オブ・カリフォルニアを卒業後、東京で外国為替のキャリアをスタート。以後トロントやシドニー、香港で勤務した後、2000年にステート・ストリート銀行に入行し東京支店の金融市場部部長や香港支店の外国為替営業部長を経て現在にいたる   ■どんな荒れ相場でも変わり身早く プロとして生き延びてきた人はともかくミスをしない。ミスをしないとは、相場観やポジショニングを間違わないとの意味ではない。誤解を恐れずにいえば変わり身の早さだ。読みが外れてもすばやく気持ちを切り替えて流れに乗り、相場が上げても下げても収益を得る。トライ・アンド・エラーを続け、経験を積んでミスを防げば収益拡大の好機はいずれ訪れる。 2008年のリーマン・ショックや12年にかけてのギリシャ危機、16年の英欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)決定と米大統領選でのトランプ氏当選後など金融市場が大荒れとなった時期を最前線の為替ディーラーとして過ごしてきた。相場が激しく動いているときはどこが適正水準かの見極めはほぼ不可能だ。それでも顧客や他のディーラーから価格提示を求められたらレートを出さなければならない。そんな中でミスなく注文をさばいていく力を付けていった。 若いころに野球をしていたので、1つのミスが試合全体に及ぼす悪影響の大きさは身にしみている。相場も、利害が異なる多数の参加者がせめぎ合うスポーツのようなものだ。ミスばかりしていては絶対に勝てない。 電子トレーディングシステム(EBS)が普及するまでは人間のブローカーがスピーカー経由で流す声を聞き、専用回線を通じてトレーダーとブローカーが取引していた。ブローカーの声色から大量の注文が入っているのか相場が荒れているのか、商いが厚いのか薄いのかだいたい推測できた。一方、デジタル全盛のいまは値段をコンピューターのモニター画面で見る時代。無機質な数字には感情がこもらない。相場の風向きを把握するのは難しくなっている。 足元ではコンプライアンス(法令順守)の制約もある。ディールはどうしても守りに入りがちだが、ミスの原因を減らして変化に対する感度を高められれば優位にたてる。 ■トルコリラ急落は起こるべくして起きた アルゴリズムなどの高速取引が存在感を増している。機械がひとたび反応するとごく短い時間で巨額のお金が行き来し、相場の振れが大きくなりやすい。 ここで重要なのが取引の自由度をあらわす「流動性」だ。流動性が低いと市場の混乱時に機動的な持ち高調整が難しく、思わぬ損失につながりかねない。流動性が乏しかったら手を出さないぐらいの割り切りがあっていいと思う。 8月にかけて急落したトルコリラにも同じことが言える。主要20カ国・地域(G20)メンバーでもあるトルコの市場規模はかなり大きく、リラの平時の流動性は問題ない。ただ先進国通貨に比べると足の速い投機資金の割合が高い。いざというときの流動性はだいぶ下がると考えられる。少なくとも相場が一定期間、一方向に振れ続けているときは急激な反動のリスクを意識すべきだ。 日本では低金利環境が長引いているため、トルコリラのような金利の高い通貨の需要は根強い。外為証拠金(FX)投資家を中心に持ち高は円売り・リラ買いに傾いてくる。半面、そのことを海外勢はよく知っていて、損失覚悟のリラ売りを行使させようと攻めてくる。流動性の問題と持ち高の偏り。7~8月にかけてのリラ安加速は起こるべくして起きたのだろう。 バブルやその崩壊時期の見分け方についての研究はまだ進んでいないが、場数を踏んだ金融機関は傷を最小限に抑えるためのノウハウを蓄積している。収益を上げるには、ある程度はリスクをとって動かざるを得ない。ここでも、いかにミスを減らすかの重要性が強調されているはずだ。(随時掲載)    

eスポーツ普及元年、関連株もスイッチON ゲームショウ20日開幕

国内最大のゲーム見本市「東京ゲームショウ」が20日に開幕する。スマートフォン(スマホ)ゲームやVR(仮想現実)など見どころはたくさんあるが、なかでも注目はビデオゲームでスポーツのようにユーザーが腕を競う「eスポーツ」だ。昨年も話題を集めたが、今年は出展エリアがより拡大して一段の盛り上がりが期待される。 近年は会場だけでなくスマートフォン(スマホ)を通じたネット動画で観戦を楽しむ人も増えている。海外を中心に高額賞金の大会が増えていることも参加者のレベル向上や、観戦者数の増加につながっている。インドネシアのジャカルタで8月に開かれたアジア競技大会でeスポーツは公開競技になった。 総務省がまとめた「eスポーツ産業に関する調査研究報告書」によると、eスポーツの2017年の世界市場規模は700億円程度だが、21年には1700億円程度に拡大するとの見方が紹介されている。国内の市場規模は17年時点で5億円未満にとどまっており、成長余地は大きい。これまで米国や韓国、中国が先行してきた分野だが、市場では「五輪の正式種目に採用されるとの期待があり、国内でも世間一般に評価されるようになる可能性は高まっている」(松井証券の窪田朋一郎シニアマーケットアナリスト)との声が聞かれる。 関連銘柄は少なくない。ゲームメーカーはソフトの開発はもちろんのこと、コナミホールディングス(9766、グラフ青)は強みを持つ野球コンテンツでeスポーツのイベントを実施していく。カプコン(9697、グラフ赤)も格闘ゲームのeスポーツ大会といった関連イベントを積極開催する方針を示すなど、単にソフト販売にとどまらない力の入れようだ。 eスポーツは画面上の相手の動きを素早くとらえて的確に反応できるかが勝敗を分けるため、高性能の液晶モニターやマウスなど関連機器も重要になる。アイ・オー・データ機器(6916)やエレコム(6750)にとって商機につながるほか、関連機器を販売する家電量販店も潤うだろう。 通信業界にも恩恵を与えそうだ。NTTドコモ(9437)は次世代通信方式(5G)技術を用い、スマホに絞ったeスポーツイベントを10月に開催する。同社は「今はまだパソコンなどを使って戦うプレーヤーが多いが、次第にスマホが増えて5G技術の活用が増える」(コンシューマビジネス推進部)とみる。KDDI(9433)は5G技術の普及を見据え、eスポーツの競技団体である「日本eスポーツ連合」と8月に公式スポンサー契約を結んだ。 eスポーツで出遅れたとはいえ、任天堂(7974)の「ファミリーコンピュータ」や「ニンテンドーDS」、ソニー(6758)の「プレイステーション」が世界を席巻した「ゲーム先進国」でもある日本。市場成長に弾みがつけば、本格参入する企業も相次ぐ公算が大きい。 【日経QUICKニュース(NQN) 内山佑輔】 ※日経QUICKニュース(NQN)が配信した注目記事を一部再編集しました。QUICKの情報端末ではすべてのNQN記事をリアルタイムでご覧いただけます。

通貨危機、次の感染候補はスリランカ 脆弱な財政、ルピー最安値

トルコやアルゼンチン、インドネシア、インドなど新興国の通貨が相次いで下落するなか、国際金融市場では次に急落の憂き目に遭う新興国通貨の候補探しが始まっている。野村インターナショナルのファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)分析によると、今後1年間で通貨暴落のリスクが最も大きいのは財政基盤の脆弱なスリランカだという。 野村は10日付のリポート「通貨危機早期警戒指標・ダモクレスの紹介」で、短期対外債務や外貨準備、資本流入額、実質短期金利、財政・経常収支などのデータをもとに、新興30カ国・地域について通貨危機が発生するリスクを調べた。ダモクレスとは一触即発の危機を示す古代ギリシアの故事「ダモクレスの剣」で知られる人物のことだ。リポートによると、発生可能性を示すスコアが175と最も高かったのがスリランカだ。 スコアは100を上回ると「通貨危機のおそれにさらされている」、150を上回ると「危機がいつ起きてもおかしくない」と定義される。スリランカに次ぐのは南アフリカ共和国(143)、アルゼンチン(140)、パキスタン(136)、エジプト(111)、トルコ(104)といった国々。いずれも対外債務が大きく、通貨安が債務負担を膨張させる悪循環に陥りやすい。南アやアルゼンチン、トルコなどはすでに通貨暴落が世界的話題になっているが、それ以外の国にもリスクが潜んでいるわけだ。 一方、インド(25)やインドネシア(0)、フィリピン(0)のスコアは低い。通貨は足元でいずれも直近の安値圏にあるが、野村の見立てでは今後危機的な急落に発展する兆候はないという。 スコアが最も高かったスリランカ。実際、通貨ルピーは下げが目立ってきている。スリランカ中央銀行によると6日に対米ドルで過去最安値となる1米ドル=162.0424ルピーを付け、昨年末に比べて6%下落した。 2017年末のスリランカの政府債務残高(暫定値)は対国内総生産(GDP)比で77.6%。対外債務だけでも35.5%に達する。野村インターナショナルによると、外貨準備高は輸入の5カ月分未満にすぎず、短期債務の水準も高い。通貨安が進めば、資金繰り懸念が一層高まる可能性がある。 スリランカやパキスタンは大国インドと近接する一方、近年は「一帯一路」戦略を掲げる中国と経済的な関係を深めている。通貨急落の発生で経済情勢が不安定になれば中国への依存度が強まり中印の対立に飛び火するなど、地政学リスクの震源地になる可能性も否定できない。 【日経QUICKニュース(NQN ) 村田菜々子】 ※日経QUICKニュース(NQN)が配信した注目記事を一部再編集しました。QUICKの情報端末ではすべてのNQN記事をリアルタイムでご覧いただけます。

通貨安、スウェーデンにも 政治の季節の欧州にポピュリズム懸念

外国為替市場でスウェーデンの通貨クローナが9年ぶり安値圏で低迷している。対ユーロは8月下旬に1ユーロ=10クローナ台後半と2009年7月以来のユーロ高・クローナ安水準を付けた後、戻りらしい戻りがない。9日投開票のスウェーデン総選挙では反移民を掲げる極右政党が躍進する可能性が高い。イタリアなどで生じたポピュリズム(大衆迎合主義)の波が北欧にも広がるとの警戒感から先回りしたクローナ売りが続いているようだ。 スウェーデンの議会は任期4年で定数は349。前回2014年の議会選では第1党が社会民主労働党(113議席)、第2党が穏健党(83議席)で、第3党に反移民を掲げる極右・民主党(42議席)が続いていた。二大政党の社民党や穏健党の支持が縮小する中、市場参加者の多くは「今回の選挙は民主党が第1党になる確率が非常に高い」(ナットウエスト・マーケッツ証券の剣崎仁氏)とみている。 民主党のオーケソン党首は移民反対を掲げる。総選挙の後にEU離脱の是非を問う国民投票の実施を公言するなど穏やかではない。欧州議会が実施した調査でスウェーデン国民がEU市民だと感じる割合は現在8割近く、仮に民主党が第1党となっても国民投票の実施に向けたハードルは高いが、オーケソン氏がすぐに宗旨を替える公算は小さい。政権発足には時間がかかりそうで、「最終的に脆弱で不安定な政権になる恐れがある」(剣崎氏)。 政治の先行き不透明感はスウェーデンの金融政策にも影を落とす。中央銀リクスバンクは6日、金融政策委員会の結果を発表。政策金利の見通しについて前回までの「ゆっくりした利上げを年末に向けて始める」から「10月は据え置き、12月か19年2月に0.25%引き上げる」に変更した。年内利上げのシナリオがだいぶ怪しくなり、投機的なクローナ売りを促した面がある。 ユーロ圏では10月、主要国ドイツのバイエルン州で州議会選挙を控える。バイエルン州はメルケル首相と難民問題を巡り対立したキリスト教社会同盟(CSU)の地元だ。来年5月には欧州議会の選挙も予定される。この過程で反移民勢力が拡大すれば「移民や難民問題を巡るEUの運営方針へ影響を与えかねない」(第一生命経済研究所の田中理主席エコノミスト)。ポピュリズム懸念はスウェーデンからユーロ圏に回帰するかもしれない。 イタリアの財政問題は簡単には解消されそうにない。スウェーデン総選挙がEU全体への不安を誘い、「クローナ安」から「ユーロ安」に波及していく可能性も想定すべきだろう。 【日経QUICKニュース(NQN ) 菊池亜矢】 ※日経QUICKニュース(NQN)が配信した注目記事を一部再編集しました。QUICKの情報端末ではすべてのNQN記事をリアルタイムでご覧いただけます。

20年ぶり安値に沈むインドネシアルピア 危機の「常連」、株価も急落

インドネシアの通貨ルピアへの売り圧力が強まっている。4日に一時1米ドル=1万5000ルピア台まで下げ、1998年7月以来、約20年ぶりの安値水準に沈んだ。米国発の貿易摩擦激化やトルコ・アルゼンチンなど新興国通貨の急落がルピアを直撃。インドネシアは「対外リスクに脆弱」という見方が海外の投機筋に勢いを与え、株式相場も急落している。 「ルピアの値動きはファンダメンタル(経済の基礎的条件)から乖離(かいり)している」。現地メディアによるとインドネシア中央銀行のペリー総裁は、最近のルピア下落は市場心理の悪化によるものだとして通貨安をけん制した。中銀は8月31日から9月4日まで7兆1000億ルピアを投入し、ルピア買い・米ドル売り介入で防戦。5日も為替介入を実施し、どうにかルピアを支えようと懸命だ。 ルピア売りの主な震源地は海外だ。トルコリラやアルゼンチンペソといった経済に不安を抱える新興国の通貨が暴落し、新興国通貨全体に不安の連鎖が広がっている。インドでも通貨ルピーが連日で過去最安値を更新。貿易摩擦が世界経済の減速を招くとの懸念や、米国の利上げ基調も引き続きルピアを含む新興国通貨にとって逆風だ。 市場ではインドネシアの十分な外貨準備高や財政規律の改善を理由に、ルピアは「売られすぎ」との声が多い。シンガポールの金融大手DBSグループ・ホールディングスは、「インドネシアにトルコやアルゼンチンとの明確な共通点はなく、ルピア売りが(危機の発生を示唆する)警告であるとは考えていない」と分析する。 とはいえインドネシアは経常赤字と財政赤字の「双子の赤字」を抱え、企業の米ドル建て債務も多い。2013年の「テーパー・タントラム(米連邦準備理事会=FRBの量的緩和縮小をめぐる市場の混乱)」の際、ルピアは経済基盤が弱い「フラジャイル・ファイブ(脆弱な5通貨)」の1つとして急落するなど、新興国不安が高まる場面では必ず売りの対象になる「常連」だ。市場心理の悪化でファンダメンタルにかかわらずルピア売り圧力が続く可能性が高い。 インドネシア当局は通貨安の食い止めに懸命だ。中銀は5月以降4回の利上げを実施し、政策金利を合計1%以上引き上げた。政府は経常赤字削減のため、一部輸入関税の引き上げを決めた。しかし通貨安自体が投資家心理を悪化させる悪循環に陥り、売り圧力を抑えるのは容易ではない。 いったんは為替介入によってルピア安を強引に押しとどめたが、売りの勢いは株式相場に波及。インドネシアの主要株価指数であるジャカルタ総合指数も5日の下げ幅が一時5%に迫った。金融市場で新興国の不安が一段と広がっていくのか。トルコやアルゼンチンに続いてインドネシアの動きからも目が離せなくなってきた。 【日経QUICKニュース(NQN) 村田菜々子】 ※日経QUICKニュース(NQN)が配信した注目記事を一部再編集しました。QUICKの情報端末ではすべてのNQN記事をリアルタイムでご覧いただけます。

底なしトルコリラ安、利上げ示唆の中銀声明にも冷淡 金融リスクの警戒感広がる

外国為替市場でトルコリラの下落が続いている。トルコ中央銀行は3日、インフレ率の急上昇を受けて9月の金利引き上げを示唆する声明を出したが市場の反応は冷ややかだった。利上げに否定的とされるエルドアン大統領の姿勢が変わらない限り、物価抑制と景気安定に必要な金融引き締めは難しいとの認識が広がっている。 4日の東京市場でリラの対円相場は1リラ=16円台後半で推移している。3日の中銀声明の発表後は17円前後まで上値を試したが、買いは続かなかった。8月の急落時に付けた過去最安値の15円台後半に近い水準で低迷したままだ。 3日に発表された8月のトルコ消費者物価指数(CPI)の上昇率は前年同月比17.90%と2003年12月以来ほぼ15年ぶりの高さになった。国内の生産者物価指数(PPI)は同32.13%と7月(25.00%)から一段と上昇ペースが速まった。生産者が物価上昇に耐えきれず消費者に価格転嫁する公算は大きく、「CPIの前年比上昇率は年末までに20%に達する」(みずほ証券投資情報部の折原豊水シニアエコノミスト)。トルコ中銀の危機感は相当高まったはずだ。 3日の中銀声明は「物価の安定を支えるため必要な措置を講じる」、「9月の金融政策委員会で金融のスタンスを調整する」というもの。オランダのラボバンクは3日付リポートで「中銀のチェティンカヤ総裁は声明を出すことによって、正攻法の利上げに踏み切る義務を自らに課した」と解説していた。 だが、エルドアン氏がチェティンカヤ氏の意向を尊重してくれるとは限らない。 みずほ証の折原氏は「市場が期待する大幅利上げにはおそらく踏み切れない」と話す。中銀介入にかじを切るエルドアン政権のもとで、引き締めを強化し通貨安を止められるかは依然として不透明だ。「少なくとも10%は利上げしないと市場は驚かないだろうが、政治サイドに金利上昇への嫌悪感が強いなかで、中央銀行がすべきこととそれが実際にできるのかは分けて考える必要がある」(ラボバンク)との懐疑論が目立つ。 三菱UFJリサーチ&コンサルティングの橋本和子研究員は「リラ安が進むなか、外貨建て債務の多いトルコ企業が経営危機に陥る恐れがある」と指摘する。市場からは「信用リスク懸念からトルコ系銀行のドル調達コストは上昇した」との声も聞こえてくる。 ただでさえトルコの大手企業はエルドアン大統領の縁故主義が強く、ガバナンス(統治)がうまく機能していないとされる。「トルコの金融機関が、借り換えが集中する年末にかけて円滑に借り換えを進められるかが焦点」(みずほ証の折原氏)との警戒感が広がってきた。 〔日経QUICKニュース(NQN) 菊池亜矢〕 ※日経QUICKニュース(NQN)が配信した注目記事を一部再編集しました。QUICKの情報端末ではすべてのNQN記事をリアルタイムでご覧いただけます。

米中摩擦の映し絵、弱い「豪ドル」 対円で1年10カ月ぶり安値に

外国為替市場でオーストラリア(豪)ドルの弱さが鮮明になっている。トランプ米大統領が追加の対中制裁関税に意欲を示す中、通商摩擦の激化により最も打撃を受けるのは中国への依存度が高い豪経済、という見方が改めて広がっているのだ。 3日の東京市場で、豪ドルは対円で一時1豪ドル=79円53銭近辺と2016年11月以来の安値、対米ドルでは1豪ドル=0.7166米ドル近辺と16年12月以来の安値を付けた。資源産出国の通貨として豪ドルとともに語られるカナダドルや、同じオセアニア通貨のニュージーランド(NZ)ドルに比べても安い。対NZドルは8月上旬には1豪ドル=1.11NZドル台だったが、足元では1.09NZドル前後まで下げている。 豪州にとって中国は日米と並ぶ重要な貿易相手国。「稼ぎ頭」の鉄鉱石や石炭だけでみれば圧倒的なお得意先だ。原材料をたくさん使う中国の製造業が米中摩擦によって失速すればてきめんに響く。 輸出が細っても国内で補えるのなら問題はないが、足元では豪国内情勢にも不透明感が生じている。豪統計局が3日に発表した7月の豪小売売上高は増加の市場予想に反して横ばいにとどまったほか、8月末発表の7月の住宅建設許可件数は市場予想以上に落ち込み、市場に驚きをもたらした。 さらに大手を含む一部金融機関が8月末、収益改善のために住宅ローン金利の引き上げを発表した。利払い負担が家計を圧迫し、個人消費を抑制すれば物価も上がりにくくなる。市場では「豪中銀の利上げも遠のくとの思惑が広がっている」(ナショナルオーストラリア銀行の柏木新一市場営業部部長)という。 あさって5日発表の4~6月期の豪国内総生産(GDP)は、前期比で0.7%増、前年比で2.8%増と1~3月期の1.0%と3.1%からの伸び率鈍化が見込まれる。足元の経済指標を踏まえ、下振れに身構える関係者も少なくない。 市場参加者が意識する豪ドルの下値メドは、対円では16年秋の米大統領選挙直後に付けた1豪ドル=77円前後。対米ドルでは「きょう付けた安値水準(0.716米ドル台)で踏みとどまれなければ厳しい」(外為どっとコム総合研究所の神田卓也調査部長)との声があがっている。米中の報復関税の応酬が収まる気配は今のところなく、豪ドルはもう一段下値を探る展開を想定しておく必要がありそうだ。 【日経QUICKニュース(NQN ) 蔭山道子】 ※日経QUICKニュース(NQN)が配信した注目記事を一部再編集しました。QUICKの情報端末ではすべてのNQN記事をリアルタイムでご覧いただけます。

シェア経済が揺さぶる物価の「常識」 専門家に聞く

民泊にライドシェア(相乗り)にレンタルスペース――。インターネットを介して個人がモノやサービスを売買・貸し借りするシェアリングエコノミーが、海外に続いて日本国内でも広がりつつある。シェアリングエコノミーの経済規模を捕捉するのは難しいが、2016年は総額4700億~5250億円程度にのぼったと内閣府は試算する。今後一段とシェアリングエコノミーが広がると、国内の消費や物価にどのような影響があるのか。大和総研でシェアリングエコノミーの研究に関わる市川拓也主任研究員と、「デジタル資本主義」(東洋経済新報社)の執筆に関わった野村マネジメント・スクールの森健上席研究員の2人に話を聞いた。 ■「物価の下押し圧力に」 大和総研の市川拓也主任研究員 シェアリングエコノミーは現在余剰となっている資産やスキルを有効に使えるようにする動きだ。空きスペースや車だけでなく、写真撮影といったスキルの個人間の提供もインターネットを通じて広がるとみている。 財やサービスの提供は、個人が副収入のひとつとして手がけるとみている。個人の所得を増やし、支出を後押しすることになる。 ただ価格設定はすでにある競合サービスと比べて低価格になることが多い。利用者側にはプラスだが、対象となる財やサービスの価格は押し下げることになりそうだ。既存事業者との競合が厳しくなれば、価格競争も起こりやすい。 財やサービスの販売にも影響が出てくる。一段とシェアリングエコノミーが普及し、「モノを持たないことがいい」という価値観が広がれば、消費者の購買行動が変わる。企業にとっては仮に単価は上昇しても、販売数量は減るだろう。 ■「一物一価の概念が崩れる」 野村マネジメント・スクールの森健上席研究員 シェアリングエコノミーの普及・拡大によって、物価の概念が変わり、「一物一価」という考えは崩れそうだ。提供される財・サービスが非常に多種多様になるだけでなく、同じ財やサービスを使っていても、使い方や利用条件に違いがあるため価格もひとつに定まらない。いままで購入していたものを買わずに使うだけになると、そもそもある財やサービスの「価格」を比較しにくくなる。 デジタル化の下で製造業が進めている「モノ」売りから「サービス」売りへの転換も同じ影響がある。 「サービス」売りの価格設定では、顧客の「支払い意思額」を明確にして請求することが必要になる。この支払い意思額は顧客ごとに異なるため、ここでも価格に差が付く。例えば音楽配信業界では1曲ごとの価格体系から、何十万曲へのアクセス価格へと価格の設定方法が変化している。これも物価の概念を揺さぶっていると言えるだろう。 シェアリングエコノミーは、高齢化や人口減少によって資産の稼働率が低下する日本との相性が良く、着実に拡大する。今後は退職者の知識やスキルもシェアの対象になるだろう。  【日経QUICKニュース(NQN ) 聞き手は岩本貴子】 ※日経QUICKニュース(NQN)が配信した注目記事を一部再編集しました。QUICKの情報端末ではすべてのNQN記事をリアルタイムでご覧いただけます。

現物債に「刻み幅縮小」待望論 0.001%単位なら取引活発に?

債券市場の一部で現物債の取引単位を小さくするよう求める声があがっている。日銀は7月の金融政策決定会合で緩和策の修正を決めたが、以降のオペ(公開市場操作)の姿勢などから「金利の変動幅はしばらくは広がらない」との受け止めが拡大。呼応するように先物の動きは徐々に鈍り、現物債の売買は成立しづらくなった。そんな中で少しでも取引を活性化させ、市場機能を回復する策として「刻み幅縮小」待望論が出てきたわけだ。 唱えられているのは、業者間の取引を仲介する日本相互証券で利回りベースで0.005%刻みとなっている現在の現物債の取引値幅をより細かくするというものだ。 足元では債券先物の日中値幅がしばしば10銭を下回り、5銭以下の日もある。「債先が10銭動けば現物の新発10年債利回りは0.010%程度、3~4銭なら0.003~0.004%程度上下するイメージ」(国内証券の債券ディーラー)だ。もし債先が3~4銭の値幅で膠着すれば現行の0.005%刻みでは厳しい。刻み幅を0.001%単位にすれば取引機会が増え、市場の厚みが戻るとの見方が出ている。 取引所や日本相互証券などのようなブローカー(仲介業者)を通さない金融機関同士の相対取引では既に、刻みを小さくしているケースが多い。日本相互証券では29日、約2カ月ぶりに新発10年債の取引が成立しなかったが、相対取引では「10年債は0.097~0.098%といった利回りで、数百億円規模の売買が成立していた」(国内金融機関)という。トレーディングシステムがお互いに対応しているのなら特に問題はない。投資家の認知度が高い日本相互証券でも同様の取引ができれば、商いがより活発になるとのシナリオには、確かに一理ある。 問題は、刻み幅が細かくなればなるほど取引1回当たりの収益率が下がりかねないことだ。外国為替市場ではかなり前から主要通貨の取引で刻み幅が小さくなり、極めて狭い範囲で頻繁に売り買いを繰り返す高頻度取引(HFT)が台頭。市場規模は天文学的な数字にまで拡大したが、相場の変動率(ボラティリティー)は下がり、収益をコンスタントに上げられる投資家はむしろ減少した。 日銀がボラティリティーを抑えながら市場機能の回復を目指しているのなら刻み幅の縮小は歓迎すべきことかもしれない。一方で仲介業者や投資家の体力を奪ってしまっては意味がない。 日本相互証券は日経QUICKニュース社の取材に対し「現時点で刻み幅の縮小は予定していない」と説明している。市場の中でも「相場の膠着で困っているどこかの金融機関が、自らに有利なように『ポジショントーク』を展開しているだけ」といった冷ややかな意見は少なくない。現実味はまだまだ薄いようだ。 【日経QUICKニュース(NQN) 片岡奈美】 ※日経QUICKニュース(NQN)が配信した注目記事を一部再編集しました。QUICKの情報端末ではすべてのNQN記事をリアルタイムでご覧いただけます。

トルコリラ急落から何を学ぶか by 小林芳彦氏(シリーズ:ベテランに聞く)

外国為替市場で7月以降に加速したトルコリラの下落は、日本で外為証拠金(FX)を手掛ける個人投資家に大きな打撃を与えた。銀行の為替ディーラーからFX業界に転じたJFX(東京・中央)の小林芳彦社長は「個人はどんぶり勘定になりがちで気がつくと負けが込んでいる」と指摘し、「自分がどれだけの頻度で勝ち、1回当たりどのぐらい勝てるトレーダーなのかの『身の程』をきちんと知ることが勝利への近道」と説く。【聞き手は日経QUICKニュース(NQN)編集委員=今 晶】 小林芳彦(こばやし・よしひこ)氏 1979年慶大商卒、協和銀行(現りそな銀行)入行。87年から本店資金為替部の調査役となり、カスタマーデスクのヘッドなどを務めた後、89年10月に外資系金融機関に移る。クレディ・スイス銀行の資金為替部長や独バイエリッシェ・ヒポ・フェラインス銀行(現ウニクレディト)為替資金部長、バンク・オブ・アメリカの為替資金部営業部長を歴任しFX業界に入った。「NO.1為替ディーラーが伝授するインターバンク流FXデイトレ教本」(日本実業出版社)などの著書がある ■自らの「損益分岐勝率」を知る 金利差重視で外貨を売り買いする人は金利の高い通貨を安く買って長く保有するだけなのでとりたてて戦法はないが、秒単位で売買を繰り返す「スキャルピング」などの短期取引で差益を狙うのなら押さえておきたいポイントがある。運も実力も備えた「常勝型」はめったにいない。たいていは勝率3~6割の間をうろうろしているだろう。問題は勝つときにどれだけ収益を上げられるかだ。 まず過去を振り返るところから始めてほしい。例えば円の対ドル取引で勝ちを収めた際に1ドル当たり何銭程度利益を上げ、負けたときに何銭損をしたか紙に書き出してみる。 敗戦時の損失が勝利を収めたときの1.5倍だったら、6勝4敗でどうにか収支トントン。7勝3敗でようやくプラスになる。勝率7割はかなり難しいはずだ。勝ちの数を増やせないなら1回当たりの損失を抑えるしかない。 含み損を抱えた持ち高をずるずると維持した結果、それまでコツコツと積みあげてきた利益がパーになった苦い経験はないだろうか。「まずいな」と思ったらただちに手を引くべきだ。リーマン・ショックなどのように相場が大きく荒れる局面ではなおさら、撤収のスピードが大切になる。 市場では「仮に1勝9敗の成績でも、その1回で大きく勝てれば収支はプラスにできる」とのもっともらしい解説をよく聞く。だが6勝4敗でトントンの人間がいきなり1勝9敗で勝てるはずはない。「逆転ホームラン」を狙うあまり損失確定のタイミングが遅れ、損を取り返せないまま終わるのが関の山だ。 限られた資金をどう使うかのルールは厳格にすべきだ。持ち高は差し入れた証拠金の10~20%程度に抑えたり、損失は証拠金の2%以内にとどめたりする。含み損を平準化するために持ち高を増やす「ナンピン」は避けたい。ナンピンを絶対ダメだとはいわないが、撤退の方針を決めて臨んでほしい。 ■ファンダメンタルズは金融政策と金利に絞れ ディーリングの基本は相場の流れに乗る「順張り」だ。日本のFX投資家は流れに逆らう「逆張り」を好むものの、逆張りはいわば、ぶつかってくる相手を受け止める横綱相撲だ。横綱のように胸を貸せるぐらいの力(お金)の余裕があればそれはそれで1つの選択肢だろうが、たいていは「衆寡敵せず」で寄り切られてしまう。 7月の金融市場を動揺させたトルコリラ安の局面でもFX勢は果敢に逆張りでリラを買った。だが結局は欧米ヘッジファンドなどの投機筋のリラ売りに歯が立たず、損失覚悟のリラ売りがさらなるリラ売りを招く悪循環に陥った。 ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)では金融政策と金利に絞って考えるとよいだろう。チャートなどを用いたパターン分析は何でもかんでも手を出すのではなく、ローソク足や一目均衡表、移動平均線など4~5個に絞って定点観測をする。値動きからマーケットのセンチメント(投資家心理の傾き)を瞬時に判断し、取引につなげていくアプローチも大切だ。 短期のディーリングは気持ちに余裕がないと勝てない。負けてカッカしているときは無理にディールをせず、パソコンのモニターの電源を消したり、冷たい水を飲んだりして心を落ち着かせることだ。 思い通りにいかないからといって「相場が間違っている」とムキになってはいけない。相場は常に正しいと謙虚に受け止める冷静さを保ちたい。(随時掲載)    

近づく逆イールド、米企業債務9兆ドルの重さ

米国の長期と短期の金利差が急速に縮まり、世界中の投資家が注目している。短期金利が長期金利を上回る「逆イールド」になれば、米景気後退の予兆となるからだ。こうした見方に疑問を投げかけるエコノミストもいるが、過去の実例は多い。気掛かりなのは膨らんだ米企業の借金への影響だ。 米連邦準備理事会(FRB)のデータによれば、10年物国債と2年物国債の利回り差であるイールド・スプレッドは24日に0.19%まで縮小した。このまま8月が終われば、月末時点での水準としては逆イールドが起きた07年以来の小ささとなる。 一般的に逆イールドは、中央銀行の利上げが行きすぎて将来、景気が悪くなると投資家がみている証拠だと受け止められる。実際、1980年代以降、5回あった米国の景気後退局面では平均して約21カ月前に逆イールドが起きている。 逆イールド発生の原因の一つはカネ余りとそれに伴う年金など機関投資家の運用競争の激化だ。少しでも利回りを稼ぐため、長期債にマネーが殺到し、長期金利を押し下げるという経路が考えられる。 債券の需給が原因なら、「景気後退を過度に不安視する必要はないのではないか」という見方も成り立つ。だが、事はそれほど単純ではない。 逆イールドは短期で資金調達し、長期で貸し出す銀行ビジネスのうまみを奪う。利幅が薄れた金融機関はハイリスク・ハイリターン運用に走ったり、それが難しくなると貸し出しを渋ったりするようになる。 そこでポイントとなるのが企業の債務残高だ。FRBによれば民間企業(金融を除く)の債務残高(社債と借り入れの合計)は3月末時点で9兆ドル。名目国内総生産(GDP)に対する債務残高比率は45%を超え、09年以来の高水準となっている。 この比率は1980年代半ば以降、30%台後半を谷、40%台半ばを山として上下動を繰り返す傾向がある。山から山までの期間は10年前後だ。今回、問題なのは信用拡大のピークと逆イールドとが重なる可能性が高い点にある。似たようなケースは80年代後半や2000年前後にもあった。 「大型減税による現金ポジションの改善やまだ低い金利環境のおかげで、米国企業の返済能力は高まっている。このため債務残高は当面は管理可能」(三井住友アセットマネジメントの猿渡英明シニアエコノミスト)との声はある。 減税が長短金利差縮小の一因という見方もある。野村総研の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは「赤字が膨らむ財政資金を手当てするための米財務省証券(TB)の大量発行が短期金利を押し上げている面がある」とみる。構造的に長短金利差が広がりにくくなっているとすれば、事態は深刻だ。 米企業の収益力は、ドルの行方によっても左右される。26通貨を対象としたドルの総合的な実力を示す名目実効レート(FRB算出)は17日時点で前年比の上昇率が5%を超えている。ドル高はじわじわと企業収益を圧迫する可能性が高い。フィラデルフィア連銀が16日発表した8月の製造業景況指数も21カ月ぶりの水準に落ち込んだ。製造業の業況に陰りがみえるのも懸念だ。 【日経QUICKニュース(NQN) 編集委員 永井洋一】 ※日経QUICKニュース(NQN)が配信した注目記事を一部再編集しました。QUICKの情報端末ではすべてのNQN記事をリアルタイムでご覧いただけます。

米株ヘッジで「不人気」の日本株、大波乱なら立場逆転か

世界の株式市場で一人勝ちの様相を強める米国株だが、その強気相場が転機を迎えた時は不人気な日本株が相対的に輝きを取り戻すかもしれない。いまは見向きもされない投資指標面での割安感が強みに変わる可能性があるからだ。 「経済の実力を考え米国株の保有を増やす一方、日本株を空売りしている」。ある運用会社の幹部は明かす。循環的には世界景気の後退局面が近づいている。米中貿易戦争の先行きも全く読めず、強気一辺倒には傾けない。そう考えると、米国株に加え中国株とも連動性がある日本株はショックに備える際の格好のヘッジ売り対象になるというわけだ。 QUICK・ファクトセットによれば、世界の主要50株価指数(ドルベース)のうち、年初来で上昇しているのは米ナスダック総合指数の約14%など15にとどまるが、その3分の1を米国の指数が占める。日経平均株価は上げ下げを繰り返して、ほぼプラスマイナスゼロ近傍。押し目待ちの投資家にも、上昇基調に乗りたい投資家にも中途半端な水準だ。 日本には米国のアップルのようなIT(情報技術)関連のスター株が存在しない。物価は上がらず、企業の利幅も広がりにくい。ないない尽くしの日本株をあえていま買う必要はないというのが投資家の本音だろう。 日本株のPBR(株価純資産倍率)は1倍台前半だ。2倍台半ばの米国株や1倍台後半の独仏株を大きく下回る。割安といえば聞こえは良いが、資本効率が悪く投資家の期待が低い証拠でもある。 ただし、そうした見方は平時の立論だ。リーマン・ショック時のような大乱世では、割安という不名誉なレッテルが売り込みにくさという強みに変わる。 海外投資家は日本株に売り一辺倒というわけでもない。今年6月にニューヨーク証券取引所に上場した日本株上場投信(ETF)の「JPモルガン・ベータビルダーズ・ジャパンETF」が先月、市場で話題となった。運営費用の低さが投資家を呼び、大規模な資金流入があったためだ。QUICK・ファクトセットによれば上場来の資金流入差額は18億ドル。今年に入ってからのニューヨーク上場のETFへの流入額としては上位に入る。 「強気相場の最終局面での典型的な現象だ」。著名ストラテジストのピーター・タスカ氏は先月、英紙フィナンシャル・タイムズ(FT、電子版)に米アップルや米アマゾン・ドット・コムなど一部のIT(情報技術)大手に物色が集中する傾向に警鐘を鳴らす論文を寄せた。米S&P500種株価指数の年初来の上昇率は7%だが、業種で比較するとIT、及びアマゾンが含まれる一般消費財がいずれも16%で群を抜く。 ■「S&P500」(赤)、「S&P500(業種別一般消費材)」(青)、「日経平均」(緑)の3指数の相対比較 ※昨年末を100とする タスカ氏が危ぶむように米株が波乱に見舞われれば、日本株への影響も避けられないだろう。しかし、東証1部の予想PER(株価収益率)は現在でも14倍台半ばで過去5年では最低水準という点を忘れてはいけない。 日興アセットマネジメントの神山直樹チーフ・ストラテジストは年末の日経平均を2万3900円と予想する強気の見方を崩していない。電子部品など市場占有率が高い企業を中心に、1株利益の増加基調は変わらないとみているからだ。冒頭の米株買い・日本株売りポジションの賞味期限が来るのは案外、近いかもしれない。 【日経QUICKニュース(NQN )編集委員 永井洋一】 ※日経QUICKニュース(NQN)が配信した注目記事を一部再編集しました。QUICKの情報端末ではすべてのNQN記事をリアルタイムでご覧いただけます。

【アルゴウオッチ】 膨らむ「米債先ショート」、CTAも惑わす

コンピューター経由のアルゴリズム取引を手掛けるシカゴの商品投資顧問(CTA)などの投機筋が、米10年物国債先物のショート(売り持ち高)拡大を解釈しあぐねている。債先の主要な売り手としてささやかれるのは、様々な資産価格の変動率(ボラティリティー)に応じて資産配分を調整する「リスク・パリティー」型のヘッジファンド。だが10年現物債の値幅がここにきて特に大きくなったわけではない。傾向が見いだせない中でアルゴの動きは鈍った。 アルゴ系CTAはここ1カ月ほど、米経済指標などのファンダメンタルズ(基礎的条件)を分析し判断する「グローバル・マクロ」の米長期債買い戦略に便乗してきたとみられる。足元の米利上げや米中貿易摩擦などによる新興国経済の減速が米景気にも影を落とすとのシナリオが前提だ。ところが、グローバルマクロとともに債先を買ってもそれを上回る規模で売り注文が覆いかぶさってくる。 米商品先物取引委員会(CFTC)が毎週まとめているシカゴ商品取引所(CBT)の建玉報告によると、投機筋をあらわす非商業部門の米10年債先物の売越幅は14日時点で69万8194枚だった。データが開示されている1993年以降では最も多い。 10年債のショートは5月下旬に110万枚を超えた後、米中貿易摩擦への懸念がくすぶった7月にかけては90万枚前後まで細ったが、8月に入ると再び急ピッチで増えている。14日時点は118万4009枚と5月のピークを一気に超えた。その間、米10年債利回りは久しぶりに3%台に乗せたものの、中国の景気懸念やトルコ情勢の混迷などを前に低下し23日は2.8%台で推移している。リスク・パリティーが米債売りを急ぐほど振れてはいない。 野村証券の高田将成クロスアセット・ストラテジストは23日付リポートで「リスク・パリティーの売りは保有現物債のヘッジ(現物の価格下落リスク回避)」と指摘した。リスク・パリティーが本気で変動率上昇を警戒しているのなら、現物の売りがもっと膨らみ米長期金利にはより強く上昇圧力がかかっていたはずで、本来のリスク・パリティー戦略とは分けて考える必要があるとの認識を示した。 真相はやぶの中だが、巨額のショートはふとした拍子に巻き戻しが加速しかねないだけに、売りには積極的には加わりづらい。「新債券王」と呼ばれるダブルライン・キャピタルのジェフリー・ガンドラック氏が17日、米債ショートの積み上がりに警鐘を鳴らした記憶も残る。さりとて売り手の本音がはっきりしないうちは買いにも傾けない。 「同じ債先を売るなら金利先高観がそれなりに出ている日本国債のほうがいいのではないか」――。米債先に対するアルゴの気迷いはしばらく続きそうだ。 【日経QUICKニュース(NQN) 編集委員 今 晶】 ※日経QUICKニュース(NQN)が配信した注目記事を一部再編集しました。QUICKの情報端末ではすべてのNQN記事をリアルタイムでご覧いただけます。  

外為ディーラーは狩猟民族たれ by 小池正一郎氏(シリーズ:ベテランに聞く)

狩猟民族の心構えがなければディーリングには勝てない――。市場のベテランに相場との向き合い方を聞く「ベテランに聞く」の第2回はグローバルマーケット・アドバイザーの小池正一郎氏。外国為替市場の生き字引で円が変動相場制に移る以前から市場に関わってきた小池氏は、日本人が好むレンジ前提で相場の流れに逆らう取引の「待ちの姿勢」を批判する。そのままでは欧米投機筋などの執拗な順張りには到底太刀打ちできないという。【聞き手は日経QUICKニュース(NQN)編集委員=今晶】 小池正一郎(こいけ・しょういちろう)氏 1969年に長銀入行後、外国為替畑を主に歩き、2度のニューヨーク支店経験をもつ。長銀証券を経てスイスUBS銀行外国為替本部の在日代表に就いた後、米シティバンク・プライベートバンクに移籍。2006~15年に国際金融情報コンサルティング会社のプリンシパリス・日本代表を務め、現在にいたる ■徹頭徹尾アグレッシブなスタイル 高収益を目指すにあたって必要な心構えはいくつかあるが、その1つが「市場は狩猟民族が仕切る」との認識だ。著名投資家ジョージ・ソロス氏にせよ、ジム・ロジャーズ氏にせよ、そのトレードスタイルは徹頭徹尾アグレッシブだった。狙った獲物をどこまでも追いかけるように、相場の流れに乗る順張りを突き詰めてくる。 苦い経験がある。日本長期信用銀行(現新生銀行)のニューヨーク拠点でトレーダーをしていたときだ。ドルが対円で上げ始めた局面で、なじみの外国銀行ディーラーからレートを出すよう求められた。ドルの売りと買い双方のレートを示すと彼は買ってくる。しばらくするとまた彼から再びレートを出せと言われ「さらに買われると困るからややドル高にしよう」とレートを提示するとちゅうちょせずに買う。その後間を置かずに再び彼から呼ばれ、かなりドル高の水準を示したにもかかわらずたたみかけて買ってくる。 海外勢のこうした買いによってドルは上昇する一方だったが、売り手に回ったこちらは含み損でノックアウト寸前。「狩猟民族はこういうものか」と心底怖くなった。 足元では狭い範囲で売り買いを繰り返す機械取引の「HFT」が増えてきたものの、欧米勢の基本的なマインドは変わっていないはずだ。ここ数年だと2016年の英国による欧州連合(EU)離脱決定やトランプ相場などで一度動きが出ると、狩猟民族の強みをいかんなく発揮する。軽い気持ちで逆張りをすると大けがしかねない。 ■高いところにお金が流れる 相場予想をする際にまず押さえておきたいのは「高いところにお金が流れる」との原則だ。高い低いの判断基準は安全性と成長性、利殖性の3つ。安全性には市場規模の大きさや取引の自由度をあらわす「流動性」の概念を含む。 有事の際に円買いが進むのは、日本が国として安全だからではなく、円の流動性が高いためだと理解すべきだろう。利殖性は一般市民の目線で、名目金利から物価上昇率を差し引いた「実質金利」の高低が深くかかわってくる。 この原則を18年の相場に適用すると、米ドルと米国株が有望とみている。市場では米利上げが米景気を冷やすとの懸念がくすぶっているものの、米経済指標は今のところ堅調で、景気の腰は相当に強いのではないか。米株式相場の上昇局面はまだ続くと思う。 次に相場は生き物であり、勢いの強弱について常に意識しなければならない。例えば幼、青、壮、老の4段階に分け、現在どのレベルにいて基調転換の可能性がどの程度高いかを考えていく。市場は群集心理に左右されるので、参加者が何を注視しているのか、いち早く情報を得る努力も必要だ。 ■地球儀を眺める気持ちで視野を広げよ 「地球儀の上に立って世界を眺めろ」。いつだったか、米バンカース・トラスト(現ドイツ銀行)の名物ディーラーがこんなアドバイスをくれた。外為市場の中心はユーロの対ドル取引やドルの対円取引で、日本人に限らず円、ドル、ユーロの主要3通貨ばかり見てしまいがちだ。だが他にも収益源はいっぱいある。 2回目のニューヨーク赴任後、のちにソロス・ファンドのアドバイザーを務め、ソロス氏による1992年の英ポンド売りの舞台裏をよく知るリチャード・メドレー氏(故人)と親しくなった。メドレー氏がごく限られた人数向けに開いたパーティーで、デビッド・マルフォード氏(元米財務次官)などの「通貨マフィア」(通貨当局の事務方の幹部)に近づけた。ヘッジファンド業界のことも深く知り、視野が急速に広がった。メドレー氏がその後、調査会社を立ち上げ、市場に影響を与えたのは周知の通りだ。 インターネット全盛の現代は情報があふれていて、玉石の見極めはかなり難しい。既に通貨マフィアの時代ではなく、政府や中央銀行、民間金融機関はコンプライアンス(法令順守)の制約がきつく、昔のように独自に質の高い情報を得られることはなくなった。ただ、人でもメディアでもいいので、信頼できる情報源を1つでも作っておきたい。 個人的なおすすめは英エコノミスト誌だ。記事は長くて小難しいが、表紙などの風刺画に政治や経済、市場の本質がうまく表現されている。それを見るだけでも参考になる。 (随時掲載)  

落ちた橋、再び落ちそうな信用力 イタリア財政不安、株も債券も売り

イタリアで14日発生した高速道路の高架橋の崩壊事故が金融市場に影を落としている。インフラ投資など財政拡大が容認されるのではないかとの懸念がくすぶり、同国10年債利回りは足元で3.1%台と、政局混迷から同国金利が急騰した5月下旬以来の高さで推移している。今秋の欧州連合(EU)への予算案提出を前に、財政懸念を市場の波乱要因として意識する市場参加者が増えている。 イタリアではポピュリズム(大衆迎合主義)政党「五つ星運動」と極右「同盟」による連立政権が、予算案の閣内協議を進めている。予算案の作成中に起きた高架橋の崩壊事故を受け、サルビーニ内相は先週、「イタリア国民の安全を最優先しなければならない」と発言。EUの財政基準を超えても歳出を増やすべきだと主張した。 一方、EU側は監視の目を強めている。ダウ・ジョーンズ通信は17日、欧州委員会の報道官の話として「イタリアは2014~20年にEUインフラ基金から約25億ユーロの提供を受けている」と伝えた。EUとしては、イタリアは資金を受けている以上は財政基準を守るのが当然との考えのようだ。 イタリア政府は高速道路の管理会社「アウトストラーデ」の責任を追及する構えを見せる。同社の親会社である伊運輸大手アトランティアの株価は大きく値を下げている。同国の代表的な株価指数「FTSE・MIB」は前週末17日まで7日続落しており、トルコ情勢への過度な警戒が一服するなかでも下げ止まりの兆しは見えない。 事故の責任の所在がどこであれ、市場では「財政拡大の連想が働きやすく、イタリア債の売り要因として意識される」(三菱UFJモルガン・スタンレー証券の大塚崇広マーケットエコノミスト)との声が多い。予算案は9月27日までに議会に提出した後、EUに10月15日までに出さなければならない。 市場では「米中の貿易摩擦やトルコ情勢を材料にした取引に食傷気味になっている」(国内証券)との声も聞かれる。5月に金利が急上昇した際は世界的な株安も招き、金融市場に「イタリア・ショック」が走った。財政不安が強まる事態に備え、イタリアの金利上昇をきっかけに市場が再び動揺するシナリオも頭の隅に入れておいた方が良いだろう。 【日経QUICKニュース(NQN) 矢内純一】 ※日経QUICKニュース(NQN)が配信した注目記事を一部再編集しました。QUICKの情報端末ではすべてのNQN記事をリアルタイムでご覧いただけます。

「日経平均10万円」には根拠がある by 武者陵司氏(シリーズ:ベテランに聞く)

修羅場をかいくぐってきた人々の言葉は重い。そんな市場の大ベテランたちに大変動を乗り切るための相場との向き合い方を尋ねる「ベテランに聞く」。シリーズの第1回目、武者リサーチ代表の武者陵司氏は、40年以上にわたって株式アナリスト・ストラテジストとして市場と対峙し、その分析力は高く評価されている。武者氏は市場を動かす最も根本的なメカニズムは「企業の価値創造である」と指摘。今の日本企業は「オンリーワン領域」で戦う非常に強いビジネスモデルを築いており、日経平均株価の10万円突破が視野に入っていると主張する。【聞き手は日経QUICKニュース(NQN)=大西康平、張間正義】   武者陵司(むしゃ・りょうじ)氏 1973年に大和証券入社。企業調査アナリストとして自動車や電気機器などのセクターを担当。88~93年までニューヨークに駐在し、チーフアナリストとして米国のマクロ・ミクロ市場を調査。97年にドイツ証券調査部長兼チーフストラテジスト、05年に副会長を経て、09年に武者リサーチを設立して独立し、代表を務める   ■市場を動かすのは、企業の価値創造 私が40年以上手掛けてきたリサーチという仕事は、世の中の背景にある理屈や道理を読み取り、仮説を立てて将来を展望する作業だ。因果関係と論理を使って、誰も知らないことについて「謎解き」をしていくようなもの。非常にエキサイティングな行為で、世の中を突き動かす一番大きなメカニズムを捉えるのが大事だ。 最も重要と考えているのは「企業による価値創造」だ。健全、かつ持続的に企業が価値を生み出せているかがポイントとなる。それが株価や金利といった市場価格を動かし、国内総生産(GDP)などの実体経済を動かし、さらには政治体制をも動かすと考えている。 私は1997年から2002年までの日本株に弱気の意見を出し続け、実際に的中させた。戦後の日本企業の価値創造の源泉は、米国から導入した技術を使い、円安と低賃金によって価格競争力のある製品を作り、米国へ輸出するというビジネスモデルだった。しかし、1980~90年代のバブル崩壊と米国による貿易摩擦によってこのモデルは崩壊した。その後、新たなビジネスモデルを生み出せなかったと考えたためだ。 05年以降は一転して日本株に超強気の意見を出し、また的中させた。03年のりそな銀行への公的資金の注入をきっかけに、信用収縮が止まるというパラダイム転換があったことがきっかけだ。さらに、日本企業の新たな価値創造モデルとして、日本に比べてコストが安い海外の労働力を活用しながら、高い技術力で稼ぐというあり方が見えてきたためだ。 ただ、07年7月以降、日本株に強気のスタンスを維持したのは大外れだったと考えている。リーマン・ショックがあっても日本企業の価値創造は揺るがないと確信していた。ただ金融危機の伝染力や、実体経済への影響力を軽視してしまった。私の認識に誤りがあり、学びとして修正している。 ■「オンリーワン領域」で戦う日本企業は圧倒的に強い 私は2033年に日経平均株価が10万円を突破すると公言している。「そんなばかな」と思う方もいるかもしれないが、世の中の根本にある日本企業の価値創造の力から論理的に考えた結論だ。今の日本企業は「オンリーワン領域」で戦う、非常に強いビジネスモデルを確立した。 日本企業は国際分業が進む中で、周辺及び基盤の分野で圧倒的な強みを持っている。例えばデジタル機器が機能するためには、半導体などの中枢分野だけではなく、半導体が処理する情報の入力部分をつかさどるセンサーや、モーターなどのインターフェースといった周辺分野が必要だ。また中枢分野の製造工程を支える素材や部品、装置などの基盤分野も欠かせない。 周辺と基盤の分野に強みを持つ最大のメリットは、価格競争に巻き込まれるリスクが極めて低いことだ。今後、ハイテク業界はあらゆるモノがネットにつながる「IoT」関連投資が活発になり、極めて高い成長率となるだろう。その中で、希少性が高く、価格支配力が維持できる分野に強い日本企業は、極めて有利なポジションに立っている。 ■過去の経験則が通用しないパラダイム転換を読み取る アナリストの仕事も、昔と今とでは規制の強化などで大きく変化しているが、根本は変わらないと考えている。今後の社会では、過去の経験から予測できる広義の「不確実性」は人工知能(AI)で推測できるようになる。単なるトレーディングは誰がやってもAIを用いれば同じことになり、利益が出なくなるだろう。そこで、人間であるアナリストに求められるのは、過去のデータや経験則からは全く予測できない、狭義の「不確実性」を読み取ることだ。世の中のパラダイム転換を読み取ることが、金融のリターンの源泉となる。それに必要なのが仮説を立てて将来を見通すという知恵、つまりリサーチの力だ。 (随時掲載)

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