チャート、それは森羅万象を表すもの by 井上英明氏(シリーズ:ベテランに聞く)

「チャートは過去の出来事をすべて織り込んだうえでいまの位置にいる」。「筋金入りのチャーティスト」を自認する三菱UFJ信託銀行資金為替部の井上英明部長は自分がこれだと決めたチャートを追い続けることで相場を理解し、好成績を収めてきた。バブルの崩壊や金融危機などを無傷で乗り切るのは困難だが、井上氏は「森羅万象をあらわすチャートから相場動向を的確に語れるようにしたいといつも心がけている」と話す。【聞き手は日経QUICKニュース(NQN) 金岡弘記】 井上英明(いのうえ・ひであき)氏 1989年に三菱信託銀行入社、主に為替ディーラーとして東京やロンドンでキャリアを積む。2015年から3年間は秘書室長として市場業務から離れていたが18年に復帰 ■短期から長期まで、毎朝200以上に目を通す 外国為替市場に20年ほどかかわってきた。一時は欧米債投資や(年金などの)信託勘定の運用にも携わったが、為替トレーディングの経験が圧倒的に長い。若いときには手書きでチャートをつけた。現在は情報端末の画面上でいくつものチャートを開き、できるだけ細かくチェックする。 駆け出しのころ、社内に「ギャン・チャート」と呼ばれるチャート分析の日本における第一人者がいた。入行4年目から彼の指導を受け、長期休暇にも毎日徹夜で「宿題」をしなければならないほど徹底的にノウハウをたたき込まれた。 チャート分析で意識するのは「トレンド」と「日柄」(相場が上昇か下落を始めてからの日数)などで、手で書いて体に覚え込ませた。現在はビッグデータの時代だが、過去のデータ解析に重きを置きすぎるとトレンド把握の際には漏れが出てくると思う。 チャートの利点はすべての事象が価格に織り込まれていまの位置にいること。そこを意識してチャートを眺めると、次にどういったトレンドになり、どう推移するかがよく分かる。 カスタマーディーラーだったときはチャートだけで顧客を納得させるのは難しかった。チャート以外にも視野を広げ、機関投資家と輸出入企業の需給や金融政策、政治要因や地政学リスクなど相場の基本的な変動要因を頭に入れておいた。現在相場を動かしている材料や、まだ相場水準に反映されていないものの今後注目を集めそうなもの探し出し、チャートベースの基本予想に付け加えることで説得力を高めていく手法をとった。 この経験は大いに役にたった。判断基準をいくつか持つことは相場に飲み込まれないためには重要だろう。 いまも毎朝、最低200以上のチャートのチェックは欠かさない。最初は2週間分程度の時間足チャートで昨晩の海外市場や短期的なトレンドを把握する。次に1年分をみて短期トレンドの中の位置を確認する。最後に5年分の月足チャートで長期トレンドを理解する。 ただ実際には、長期トレンドをしっかりとらえるには5年では足りない。リーマン・ショックからでも10年がたつ。30年などのより長いチャートもあわせてウオッチすることで今後の予測につながる。 ■システム任せは危険 マーケットに関する法令上の規制が年々厳しくなり、市場参加者の顔ぶれはだいぶ変わった。以前は東京市場にも積極的にリスクをとる参加者が多く、緊張感や臨場感に満ちていた。一方、足元ではコンピューター経由の取引が主流。外資系金融機関ではスポット(直物)取引のディーラーを置かない会社もある。 コンピューターは平時は流動性を供給するものの、無用な損失を避けるためにあまり冒険できないセッティングになっている。何か異常事態が起こればいっせいに手を引き、すぐに市場が凍りつきかねない。日本時間の1月3日早朝7時30分すぎ、ドルの対円相場で起きた「フラッシュ・クラッシュ」(瞬時の急落)は象徴的だ。システム任せにするリスクは十分に考えておかなければならないだろう。 リーマン・ショックのように市場全体が混乱した際、誰が流動性を供給できるのか。人がやっていたことをシステム化し省力化するのは結構だが、リスクに対応可能な次の世代を育てる責任がわれわれにはある。システム化する一方で、人間が関わる余地は保っておかなければならないと考えている。 ■危機の時こそ相場を語るのがプロ 危機の時こそ相場を語れ。誰もが浮足立っているところで市場関係者として冷静に物事を語るのは難しいが、マーケットを生き抜こうとするならば避けては通れない。 記憶の中に2つの出来事が鮮明に残っている。まずは2001年の年末。円相場が1ドル=120円台から上昇傾向を強め、100円突破を試した。10人中9人は100円を大幅に超える円高になると予想していたはずだ。だが私はチャート分析で2ケタ台へ上昇せず反転すると確信し、顧客にも円安見通しを示し、的中させた。 もう1つはリーマン・ショック時にドルが対円で急落すると当てたことだ。1998年のLTCM(ロングターム・キャピタル・マネジメント)破綻に伴う危機(ドルは対円で暴落)を経験し、下げ相場では二番底が怖いと実感していた。リーマン・ショック時に一度円安・ドル高に振れたが、経験則と肌感覚から短期的に10円以上の円高になると思い国内輸出企業や外貨を持つ投資家などに円買い・ドル売りを促すメールを送った。間を置かずに円は急伸した。 自慢話をしたいのではない。危機の時に情報発信できないなんてプロとして失格だということだ。リーマン・ショックを知らない若手などの生き字引となって、危機の際にしっかり荒波を乗り切れるチームでありたいと常に意識している。 足元はまだレンジ相場だ。レンジ相場はつまらないが、個人投資家は相場の流れに逆らう逆張り戦略でコツコツと収益を積みあげながらチャートのセンスを磨き、自らの「型」を作って次の大きなトレンドをつかみたい。 いろいろなチャートを眺めて長期トレンドを抑え、どっしりと構えて流行に一喜一憂しない。それが(機関投資家のように期間ごとの収益に左右されない)個人にとって最も大切だろう。 (随時掲載)

兜町REBORN 動き出した「大家」、内外の金融ベンチャー集積

東京証券取引所を中心に日本を代表する株の街として知られてきた日本橋兜町(東京・中央)。一歩路地を入ると歴史を感じさせる看板を掲げた証券会社や老舗の飲食店が点在し、再開発の進んだ近隣の日本橋や大手町に比べると取り残されているようにもみえる。しかし、その兜町が大きく変わり始めた。一部で大規模な工事が進み、既存の建築物でも内装を改めて街ににぎわいを取り戻す新しい役割を与えられたビルが増えてきた。英ロンドンのシティや米ニューヨークのウォール街と並ぶ世界屈指の金融センターを目指した改革がじわり進んでいる。 ■割安オフィスは「活性化の先行投資」 東京証券取引所からほど近いビルの地下にあるオフィス「FinGATE BASE」。まだ入居者のない一室に入ると、いかにも頑丈そうな大きい金庫が目に飛び込んできた。ここはもともと1997年に経営破綻した山一証券が入っていたビルで、株券を保管していた金庫をそのまま残した。複数の部屋に残存する金庫はすでにその役目を終えているが、金融関係者にとっては興味深いインテリアに映るかもしれない。 旧山一証券で使われていた金庫は今やインテリア(写真上)。クッションでリラックスしながら仕事できる共用スペースの奥にはボルダリングが見える(下) BASEに入居するのは今後の成長が見込まれる国内外の金融関連企業だ。賃料は周辺相場に比べて半分ほどという。東京証券取引所ビルなどを保有し「兜町の大家」とも称される平和不動産(8803)が2018年7月にオープンした。同社の吉松和彦開発推進部次長は、割安にオフィスを提供する理由を「兜町を活性化させるための先行投資」と説明する。最近のベンチャー企業のオフィスに見受けられるような、クッションを置いて寝そべって仕事ができる場所に加え、ボルダリングや卓球ができる共用スペースまで備える。 ■KABUTO、KAYABAをフィンテックの街に 兜町の再開発の機運が高まったきっかけが、政府・東京都が14年に打ち出した「東京国際金融センター」構想だ。東京駅周辺や兜町周辺を国際的な金融ビジネス拠点に育てようとする計画で、特に兜町近辺では金融ベンチャーなどを呼び込もうとする動きが活発になってきた。 新しい金融拠点ブランド「FinGATE」の名を冠したオフィスはほかに2つある。東証に隣接した「兜町第6平和ビル」に入る「FinGATE KABUTO」は、新興の国内外の資産運用会社などを誘致するために18年4月に開設した。 18年11月に千代田区神田小川町から移転してきたばかりの独立系運用会社、アトム・キャピタル・マネジメントの土屋敦子代表取締役は「これからの自社の成長を考えたとき、東京都などが金融センターを目指す兜町にオフィスを構えるのはメリットがあると考えた」と話す。資産運用業の活性化を目的に平和不動産が主導して設立した国際資産運用センター推進機構(JIAM)が同じフロアにオフィスを構え、人脈づくりを期待する。「部屋は以前より広くなり、事業規模の拡大に伴って社員を増やす」(土屋氏)考えで、トレーダーの採用も検討している。 永代通り沿いにある「FinGATE KAYABA」では、主にフィンテック企業を誘致している。2年前に港区六本木から移ったフィンテックベンチャー、ロボット投信の野口哲社長は「日本橋と比べても大幅に安い賃料は、ベンチャー企業にとって大きな利点」と語る。 入居企業が気軽に使える共用スペースがあり「同業が近くに集積して活発にコミュニケーションできる」(吉松氏)魅力もある。実際、KAYABAでは「共用スペースで定期的に入居企業の懇親会などを開き、情報交換している」(野口氏)という。 ■高層ビルやサービスアパート、ホテル構想も 平和不動産が今まさに工事を進めているのが、茅場町駅を出てすぐの「兜町7地区」と呼ばれる地域だ。かつては金融の専門書を販売する書店や証券会社が入る年季の入ったビルが建っていたが、複数棟を取り壊してガラス張りのあか抜けた高層ビルに一新する。株主総会や決算説明会を開くことができる会議室やセミナールームが設置される予定だ。兜町周辺ではほかに海外の資産運用会社や高度金融人材を迎えるため、サービスアパートやホテルを建設する構想も進む。 東証から株券売買の立会場が閉鎖されて今年で20年になる。有力な証券会社の多くが本社機能を大手町近辺に構えるなか、証券関係者が減り活気を失ってしまったと言われる兜町。かつてのようなにぎわいの復活に向けた挑戦が静かに始まっている。 〔日経QUICKニュース(NQN) 内山佑輔〕 ※日経QUICKニュース(NQN)が配信した注目記事を一部再編集しました。QUICKの情報端末ではすべてのNQN記事をリアルタイムでご覧いただけます。

アルゴ勢とっくに「Brexit」 2年前からポンドの優先度引き下げ、備えはむしろ日銀緩和への思惑

英議会は15日(日本時間16日朝)、欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)協定案を否決したものの金融・資本市場での反応は今のところ目立たない。2016年の国民投票でブレグジットが決まって以降、長期投資家は英ポンド建ての資産整理を進め、そう簡単には浮足立たなくなっている。コンピューター・プログラム経由の「アルゴリズム」も英国の優先度を下げ、トランプ米大統領の存在感が増した17年初めごろから米国の政治・金融政策などに軸足を移している。 英議会での採決結果が伝わると外国為替市場で英ポンドは急落したが、あまり間を置かずに戻した。対円は1ポンド=138円前後を底に140円近辺まで反発。15日の東京市場17時時点で付けていた139円90銭台とほぼ同じ水準になり、円の対ドル相場は1ドル=108円台でのもみ合いを続けた。「安全資産」のドイツや米国の債券への買いは限られ、米国では主要な株価指数が上昇しハイテク株の比率が高いナスダック総合株価指数は1カ月ぶりの高値を付けた。 ポンドは、主要通貨にもかかわらず取引に厚みがなく、何も材料がない平時でも変動率は高い。採決前後に注文が細り、値が振れやすくなっていたことや、15日の英議会採決に否決予想がもともと多かった点を踏まえれば市場参加者は総じて冷静だったと解釈できるだろう。 「日欧の(金融緩和策の)『出口』は完全に遠のいた。そちらのほうが重要だ」。アルゴ周辺からはそんな声も聞こえてくる。15日の日米株高の背景には中国の金融緩和を含めた経済対策への期待があった。世界景気の先行き不透明感は簡単には消えそうになく、米連邦準備理事会(FRB)の利上げ継続観測はだいぶ後退し、欧州中央銀行(ECB)の19年中の利上げには黄信号がともった。日銀もひょっとすると何らかの追加緩和を検討するのではないか――。プログラムの一部は日銀に関するニュースに円売りで応じる備えをしているという。 日銀が進める国債の大量買い入れやマイナス金利の弊害などから、日本国内では「追加緩和といっても何をするのか」との疑念が強い。ただ海外では日銀の政策に明るくない投資家がかなりいる。 ある欧州系ヘッジファンドの日本人マネジャーは「日銀が早ければ1月にも追加緩和の検討を始める、との思惑が出ているようだ」と話す。円が対ポンドや対ドルを含めてここにきて上値が重くなっているのには日銀の政策を巡る思惑が一枚かんでいるのかもしれない。 【日経QUICKニュース(NQN ) 編集委員 今 晶】 ※日経QUICKニュース(NQN)が配信した注目記事を一部再編集しました。QUICKの情報端末ではすべてのNQN記事をリアルタイムでご覧いただけます。

ゆがんだ毎勤、消費増税に影響も ゆらいだ基幹統計への信頼、市場関係者に聞く

賃金や労働時間を示す厚生労働省の毎月勤労統計調査で不適切な調査が発覚し、マーケットに波紋を広げている。調査対象の事業所について、500人以上は全て調べることになっているが、東京都では1464カ所を調べなければならないところを3分の1にあたる491カ所しか調べていなかった。毎月勤労統計は「基幹統計」とされており、政府が公表する他の統計にも影響が広がりそうだ。 問題となった東京都は大企業が集積している。従業員数が多い大企業は中小企業と比べると賃金が高く、2004年から17年までの調査分ではこうした大企業が調査から抜け落ちていた。根本匠厚生労働相は11日の記者会見で、きまって支給する給与などの金額が「低めになっているという影響があった」と明らかにした。 毎月勤労統計は「基幹統計」に位置づけられる。今回の不適切な調査は政府の他の統計への影響が避けられない。第一生命経済研究所の伊藤佑隼エコノミストは「(内閣府の)雇用者報酬の数値に影響する可能性がある」と話す。雇用者報酬は国内総生産(GDP)と一緒に内閣府が公表し、毎月勤労統計は元データの一つになっている。毎月勤労統計の数値が実態を表していなかったことで、雇用者報酬の数値もゆがめられていたことになる。 厚生労働省がきまって支給する給与を再集計したところ、給与がこれまで公表されていた数値よりも0.3~0.7%高かったことが明らかになった。実際には給与が高かった一方で、18年7~9月期のGDPの個人消費は実質で前期比0.2%減と振るわない。今年は10月に消費税率の引き上げを控えている。個人消費が想定以上に悪いとなると、政府の増税などの対策にも影響する可能性がある。 毎月勤労統計の不適切調査問題が市場に与える影響を関係者に聞いた。 ■「アベノミクスへの影響も」岩下真理・大和証券チーフマーケットエコノミスト 毎月勤労統計に不適切調査があったということは、GDP統計の雇用者報酬の改定をする必要があるということだ。マーケットへの直接の影響はあまり考えられないものの、アベノミクスの成果とされる「雇用・所得環境の改善」において所得環境を測る基幹統計が不適切だったということになり、政策への影響は気がかりだ。 今回のようにある統計に間違いが発覚してもそこだけに対処していてはまた他の統計で再び間違いが発覚する可能性がある。統計を専門にする庁を設けるなど、政府全体の統計のレベル向上を目指すべきだと考える。また現状では統計を扱うことができる専門的な人材も不足している。統計の精度を確保するためには予算を通して人材の確保を進めていくべきだろう。 ■「海外から日本の統計全般に不信感」斎藤太郎・ニッセイ基礎研究所経済調査室長 毎月勤労統計の不適切調査問題は、極めて深刻なものだ。経済政策を含め何をするにも(統計を通じて)現状を把握することが重要だが、今回の統計の問題でその根本が揺らいでしまった。海外から厚生労働省以外の省庁の手がける統計に疑念を持たれる可能性があり、日本政府のまとめる統計への不信感が高まることになる。 重視される統計は時代によって変化する。足元では賃金動向は注目度が高い。特に毎月の賃金の動きを把握できるのは毎月勤労統計が唯一のものだった。賃金の動きの把握が一段と難しくなる。 金融市場では本来、自国の統計をみながら景気の先行きを判断して取引する。日本は米国などに比べてこうした機会が少なかった。今回の問題で統計への信頼度が低下し、「経済指標をみながらの投資判断ができない」と考える人が増えてもおかしくない。 【日経QUICKニュース(NQN ) 金尾久志、岩本貴子、金岡弘記】 ※日経QUICKニュース(NQN)が配信した注目記事を一部再編集しました。QUICKの情報端末ではすべてのNQN記事をリアルタイムでご覧いただけます。

ミセスワタナベ「瞬落」の後遺症 トルコリラ、近くて遠い20円台定着

トルコリラの上値が重い。米国の利上げペースが鈍るとの思惑や米中貿易交渉への楽観論などから米株式相場は持ち直し、投資家のリスク回避姿勢は緩んでいる。トルコなど高金利国の通貨には本来追い風のはずだが、主な買い手である日本の外為証拠金(FX)投資家「ミセスワタナベ」は年初のフラッシュ・クラッシュ(瞬時の急落)でかなりの痛手をこうむり、まだ十分に立ち直れていないようだ。 ■トルコリラ(グラフ青)とドル、ユーロの対円相場 トルコリラの対円相場は足元で1リラ=19円台後半で推移している。3日のフラッシュ・クラッシュで17~18円台まで下げた後、米株高などにつれて4日には20円台半ばまで戻したものの、昨年12月終盤に付けていた20円台後半~21円ちょうど近辺には届かないまま再びずるずると下げた。 FX大手外為どっとコムによると、3日のトルコリラの買い持ち高は前日比で23%程度減少した。値動きから考えて売りのほとんどが損失確定の注文とみられる。3日は他の通貨に対しても軒並み円高が加速したため、ユーロやドル、オセアニアの通貨などを並行して買っていた投資家はダブルパンチ、トリプルパンチだった公算が大きい。体力回復には時間がかかるだろう。 FXは「レバレッジ」と呼ばれる仕組みにより、差し入れた証拠金の25倍まで運用額を増やせる。リラの利息収入に相当する「スワップポイント」は1万通貨で1日あたり最大100円を超えることもある。1リラを買うのに必要な円の元手はユーロや英ポンドに比べるとはるかに少ないので、金利重視でリラを買う戦略の人気は根強い。だが、レバレッジに傾きすぎると逆回転にもろくなる。 レバレッジを抑えリスクを落としたら落としたで買いのインパクトは弱まる。トルコの政治・経済に新たな悪材料が出ているわけではなく、ミセスワタナベに余力が戻ればリラの需要は相応に増えそうだが、相場の上昇エネルギーは簡単には高まらないだろう。昨年末の水準は近くて遠い。 〔日経QUICKニュース(NQN) 編集委員=今 晶〕 ※日経QUICKニュース(NQN)が配信した注目記事を一部再編集しました。QUICK端末ではすべてのNQN記事をリアルタイムでご覧いただけます。

「首相交代」心臓に悪い⁉ 日本株びっくり予想の話です 2019年版、野村まとめ

野村証券が昨年末に公表した2019年の日本株を巡る10大サプライズのうち、機関投資家などが実現すれば最も驚きが大きい出来事として挙げたのは「首相交代」だった。4月の統一地方選や夏の参院選を控えるなか、安倍晋三首相による長期政権の揺らぎを市場は警戒しているようだ。 野村が「10大サプライズ予想」をまとめたのは今回が初めて。8日付のリポートでは、予想に関して(1)19年最大のサプライズにふさわしいもの(2)読者が考える19年最大のサプライズ――の2点についてのアンケート結果を公表した。サプライズ予想としてふさわしいとの回答が最も多かったのは「首相交代」で、「消費増税再延期」や「日銀が金融政策正常化を強行」が続いた。 野村の10大サプライズ予想 回答結果について、桑原真樹シニアエコノミストは「現時点では市場がそれだけ安倍政権の長期化を想定している証左だ」と指摘する。仮に、参議院選挙で与党の過半数割れとなれば「アベノミクスのテーマが逆流し、株安・債券安・円高になる可能性がある」とみていた。 4年に1度の統一地方選と3年に1度の参院選が重なる、いのしし年の亥(い)年にあたる19年。自らの選挙が終わった後に地方議員の動きが鈍って参院選で自民党が苦戦しやすい「亥年現象」も知られている。12年前の07年は「消えた年金」問題などで国会が混乱。安倍首相の第1次政権は参院選で惨敗し首相退陣につながった。こうした記憶が残っている投資家も多そうだ。 【日経QUICKニュース(NQN) 張間正義】 ※日経QUICKニュース(NQN)が配信した注目記事を一部再編集しました。QUICKの情報端末ではすべてのNQN記事をリアルタイムでご覧いただけます。

書き入れの「印」と駆け込みの「婚」 4月1日に向けて賑わう改元特需銘柄

株式市場で印刷関連株やブライダル関連株の一角が動意付いている。安倍晋三首相が前週末、皇太子さまの新天皇即位に伴う新元号を即位1カ月前の4月1日に公表すると表明したのを受け、特需が見込める「改元関連銘柄」として注目が集まったためだ。もっとも今年改元があることは以前からわかっていた話。株価の急上昇は思惑先行の色彩が強く、持続性に疑問も残る。 印刷関連で上昇が目立つのは例えばカワセコンピ(7851、2部)。7日に続き8日も制限値幅の上限(ストップ高)まで買われた。同社は官公庁や企業、金融機関向けのデータ印字や書類加工などを手掛け、「平成」が新元号に変わることによる印刷物の刷り直し需要の恩恵を受けるとみられている。商業印刷に強い光陽社(7946、2部)や図書印(7913)も連日で大幅高になった。 印刷関連株は30年前、昭和から平成に切り替わる際も特需の思惑でにぎわった経緯がある。カワセコンピによると今年は「金融機関の店頭で使う伝票などの印刷需要が4月以降に発生する。現場はゴールデンウイーク返上になるかも」(総務部)と話す。 ブライダル関連では結婚相談所大手のIBJ(6071)やパートナーA(6181、マザーズ)、挙式を手掛けるワタベ(4696)の株価が足元で堅調だ。2000年に「ミレニアム婚」がブームになったように、新元号の最初の年に結婚したいと考える人が増える可能性があるためだ。 第一生命経済研究所によると日本の婚姻数は00年に前年比4.7%増と大きく伸びた。熊野英生首席エコノミストは今年についても00年の再現が期待できるとみており「婚活や結婚による需要は最大780億円になる」と試算する。企業側も「3カ月後に結婚式を挙げられる短期プランなど『元年』に合わせたキャンペーンをするかもしれない」(ワタベのIR担当者)とやる気満々だ。 ただし改元特需はあくまで一時的なもの。持続的な企業業績の拡大や株高の材料にはつながらない可能性が高い。特需といえるほどの受注増があるかどうかは企業によっても濃淡の差がある。 印刷大手の大日印(7912)は「世の中のデジタル化が進んでいることもあり、社内ではあまり印刷物の特需は話題になっていない」(IR担当)。凸版(7911)も「(新元号の使用は5月からなので)カレンダーの刷り直し需要は考えにくい。改元に伴う記念出版物の受注はありうるが現時点ではまだみえない」(広報部)。事業の多角化が進みカレンダーや伝票帳簿類への依存度が高くない印刷大手にとって、今回の特需はさほど実感がないかもしれない。 年間売上高30億円規模のカワセコンピも「改元特需の規模は30年前に比べれば小さい」と説明する。社会の変化により、すでに様々な書式が和暦から西暦に切り替わってしまっていることが一因という。 改元関連銘柄の活況には、現在の市場環境も一役買っている。米中貿易摩擦などで内外の株式相場が荒れるなか、国内印刷やブライダルビジネスは「外部環境に影響されにくい内需関連銘柄」(証券ジャパンの大谷正之調査情報部長)と映る。それらの業種のうち、値動きが大きくなりがちな中小型株に幕あいつなぎの物色が向かっている面がある。 7日に上昇した印刷銘柄のなかでも、共同印(7914)や野崎紙(7919、2部)は翌日は利益確定売りに押された。三木証券の北沢淳投資情報部課長は「腰の入った買いではないという点には注意が必要」と話していた。 〔日経QUICKニュース(NQN) 宮尾克弥〕 ※日経QUICKニュース(NQN)が配信した注目記事を一部再編集しました。QUICKの情報端末ではすべてのNQN記事をリアルタイムでご覧いただけます。

株で勝つ、狙うは二番手業種の一番企業 by 木野内栄治氏(シリーズ:ベテランに聞く)

「(同じ市場で)1から10までを知る必要はない」。大和証券チーフテクニカルアナリストの木野内栄治氏は、1988年の入社以来、一貫して国内外の株式調査に携わってきた。投資家にとっては国内市場だけでなく、海外や他の金融商品など1つの市場にとらわれない広い視野を持つことが必須だという。必ず勝てる「ベストな業種(セクター)」を探すのではなく、2番手、3番手業種のなかで「一番の企業を探す」ことが、個人投資家が相場で勝つ秘訣と指摘する。【聞き手は日経QUICKニュース=井口耕佑、張間正義】 木野内栄治(きのうち・えいじ)氏  1988年成蹊大学工学部卒、大和証券入社。株式本部に配属になり以降一貫してテクニカル分析に携わる。日本経済新聞社及び日経ヴェリタスのアナリストランキングで、04年から15年連続で市場分析アナリスト部門の第1位。景気循環学会の常務理事も務める ■市場と企業、2つの視点で知識広げる 日本のバブル景気がピークにさしかかる1988年に入社した私は、株式本部で主に日本株の調査業務に携わっていた。私にとって人生の転機となったのは、やはり90年代初頭のバブル崩壊だ。政府・日銀の金融引き締め政策が裏目に出ていると感じ、日本株はもうダメだという趣旨のリポートを書こうとした。さすがに当時の証券会社の立場上、そんなリポートを出せるわけがなく「そんなに日本株が嫌いなら」ということで、米ナスダックや香港など、外国株式市場の担当に変更になった。 当時はまだオプション取引や、指数先物と現物株の裁定取引などは国内での認知度が低かった。そこに目を付け、バブルまっただ中に積極的に裁定取引を仕掛けてきたのが米大手証券のソロモン・ブラザーズ(後にスミス・バーニーと合併)だった。彼らがどういう意図で売買を行ったのか、事後的ではあるが深く理解することができた。 今から考えれば、入社後すぐに国内外の株式相場に触れられたのは、マーケットと企業という2つの観点から知識を広げられて大きな意味があった。企業研究の点で、海外市場を見ていると学ぶことが多かった。米マイクロソフトに代表されるIT(情報技術)企業など、米国には当時の日本にはないセクターがあり、先んじて学習して知識が深まった。 とはいえ、日本株市場より米国株市場の方が優れている、と言いたいわけではない。国内市場も海外市場も、それぞれ良いところがあり、相互に影響を及ぼし合っている。いきなり海外市場を知ろうとするのではなく、まずは日本株のことを知ってから海外に目を転じる姿勢が重要だ。 ■米利上げで新興国株安を予見 日本株から転じて担当した香港株市場は、92年から93年にかけて世界的な株高が波及し絶好調だった。ただ私にとって、米国が94年から利上げの方針を示したことが気がかりだった。株高を謳歌する新興国から米国に資金が流れるとみて、アジア株高に警鐘を鳴らす内容のリポートを書いた。 結果的には、米利上げで新興国市場から資金が流出するという、現在では広く知られている構図を見抜くことができた。これも幅広い国の金融市場に目を配っていたためと考えている。ただ、この話には続きがあり、香港株についても株価がピークアウトしそうだとの後ろ向きなリポートを書いたため、日本株担当に戻されることになったのだが……。 ■情報の幅と深さはトレードオフ 日本株と外国株、両方を担当して分かったことは、ひとつの市場について1から10まで全てを知ることは不可能、ということだ。私の経験上、6くらいまでは努力の量に比例して知見も増えていくが、そこからは急速に知識吸収のペースが落ちる。そうなったら一度、その分野から視点を別の分野に移してみるのも手だ。海外株について知るほど日本株についても理解しやすくなる、というように、金融の知識は相互関係にあるからだ。 長く株式市場にいると、必要な情報とそうでないものの区別が付くようになってくる。例えば海外での成長が期待できる株を調査するとき、絶対に株価が上がる「ベストなセクター」を探す必要はない。セクター自体の成長度合いは2番目でもいいのだ。ただ、その中でどの銘柄に投資をすべきかという点については、一番の企業を当てなければならない。 ましてや、投資家はアナリストのように株式調査が専門ではない。情報の取捨選択はより自由に行える。株式市場に携わるときは「情報の幅と深さはトレードオフ」だということを常に頭に入れておくべきだ。 (随時掲載)

ESG投資、環境債の発行額が4倍に 商船三井など個人向けも

ESG(環境・社会・企業統治)投資への関心が債券市場でも高まっている。2018年は環境に配慮した事業に資金使途を限定する「グリーンボンド(環境債)」の発行が相次ぎ、国内発行体による発行額は17年の4倍強となった。社会的問題に必要な資金を調達する「ソーシャルボンド(社会貢献債)」や、社会的責任投資(SRI)分野に調達資金を振り向ける「サステナビリティボンド」も含め、債券市場でもESG投資の動きが着実に広がってきた。 みずほ証券によると、国内発行体による18年のグリーンボンドの発行額は4355億円と17年(1060億円)に比べ大きく増えた。案件ベースでは29件となり、前年(5件)の6倍に膨らんだ。ESG債全体の発行額も6500億円弱と、3000億円程度だった前年から倍増した。 国際資本市場協会(ICMA)と日本証券業協会は12月上旬、グリーンボンドやソーシャルボンドに関するセミナーを開催した。国内を含むアジアの発行体や銀行、証券会社、機関投資家など、前年を40%も上回る550人の市場関係者が押し寄せ、登壇者の話に熱心に耳を傾けた。ESG投資への関心が高い海外勢だけでなく、国内の金融市場関係者も今後の動向を把握しようと情報収集に余念がない。 「国内市場では量よりも質的な変化が印象的な1年だった」。みずほ証券の香月康伸シニアプライマリーアナリストはこう振り返る。円建て債券の発行が外貨建て債券の発行を初めて上回り、「国内投資家が投資しやすい環境になってきた」(香月氏)。発行体は海運や空運、ノンバンク、機械など業種の多様化が進んだ。一方、個人投資家向けグリーンボンドが発行されるなど投資家層の拡大もみられた。 グリーンボンドなどの発行には、第三者機関による認証や発行後の定期的な情報公開などが必要で、通常の社債などと比べて追加コストがかかる。ESG投資への関心の高まりから通常の社債などに比べて人気化しやすい側面もあるが、「リスク量は普通社債と変わらない」、「投資家側も確認や審査すべき項目が増えるのはコスト増だ」といった声も根強く残る。理念には共感できても債券としての優位性にはつながっていない。 それでも国内で初の個人向けグリーンボンドを発行した商船三井(9104)は「自社の環境への取り組みを広くアピールするうえで有益だった」(財務部)という。複数の企業や団体が投資を表明することも珍しくなく、国内でも発行体・投資家がともに環境対策や社会貢献を重視している姿勢を示す「ツール」として活用する動きが広がりつつある。 英非営利団体のクライメートボンド・イニシアチブによると、世界のグリーンボンド発行額は18年に2100億ドルに達するという。17年(1620億ドル)に比べ3割ほど増える見込みだ。国内でグリーンボンドをはじめとしたESG関連の債券は一定の存在感を示し始めているとはいえ、国内の公募債市場に占める割合はわずかだ。19年の国内債券市場では、一段の発行増を期待する声が高まっている。 【日経QUICKニュース(NQN ) 片岡奈美】 ※日経QUICKニュース(NQN)が配信した注目記事を一部再編集しました。QUICKの情報端末ではすべてのNQN記事をリアルタイムでご覧いただけます。

ゴーンの教訓 その報酬制度に透明性はあるか 米ESG投資のプロに聞く

ESG(環境・社会・企業統治)投資への関心が高まっている。野村ホールディングスが出資する米投資顧問、アメリカン・センチュリー・インベストメンツ(ACI)でヘッド・オブ・ESG&インベストメント・スチュワードシップを務めるギオン・マスコット氏に投資家として日本企業に求めることを聞いたところ「報酬制度の透明性が必要だ」と語った。 ――ACIは長くESGをテーマとした投資に取り組んでいます。運用体制の特徴はどこにあるのでしょうか。 「ACIはESGが(金融市場で)主流となる前から取り組み、独自のESGスコアリングシステムを保有している。企業のESG課題への取り組み度合いを財務上のリスクに換算したうえで、ファンダメンタルズ(経済の基礎条件)分析に統合している。すでにESG評価を550億ドル以上の資産で活用している」 ――金融市場では急激にESG投資や、投資を通じて社会問題の解決を目指すインパクト投資への関心が高まっています。 「マーケットがESGに関連するリスクに反応するようになってきたからだ。米フェイスブックや独フォルクスワーゲン、そして日産自動車の事件など市場で重要なテーマになっている。運用担当者は、投資プロセスのなかで十分にESG要素を統合することが求められている」 「もう一つは(1980年以降生まれの)ミレニアル世代の増加だ。日本だけでなく欧州や米国でミレニアル世代は次の世代として勢いを増している。彼らはESGへの関心を共有している。日本では政府がインパクト投資を支援していることも大きい」 ――19年以降はESGのなかでもどのようなテーマに注目されていますか。 「次の2~3年で3つの大きなテーマがある。ひとつは気候変動のうち、水利用に不便を感じる水ストレスの問題だ。企業がこの問題に対応しているかの調査を始めている」 「2点目はサイバーセキュリティーだ。社会のデジタル化が進む中で、消費者は個人の情報がどのように集められ、共有されているか懸念している。(企業は)よりよい管理方法が求められる。欧州連合(EU)が施行した(厳しい情報管理を企業に求める)『一般データ保護規則(GDPR)』は、他の国・地域の政策にも広がっていくだろう」 「『G』の分野では、取締役会の多様性が重要だ。海外の年金基金なども関心を持っている」 ――日本でもESG投資の資金は急激に増えています。日本企業に投資家として求めることはありますか。 「『E』と『S』の分野では情報開示が詳細まで進み、高く評価したい。一方で『G』の分野の情報開示は米国やドイツ、カナダの企業と違いが大きい。日本企業には取締役会の独立性と多様性を求めたい」 「報酬制度の透明性も必要だ。ESG分野に資金を振り向ける投資家は、同時にリターンも期待しているからだ。ACIでは、最高経営責任者(CEO)の報酬が(投資期間中の株式の値上がり益と受取配当金の合計を投資開始時点での株価で割って算出する)『トータルシェアホルダーリターン』と連動しているかに注目している」 【日経QUICKニュース(NQN) 聞き手は岩本貴子】 ※日経QUICKニュース(NQN)が配信した注目記事を一部再編集しました。QUICKの情報端末ではすべてのNQN記事をリアルタイムでご覧いただけます。

上場間際ソフトバンクの強みと課題 香港の投資ファンドこうみる 

19日に迫ったソフトバンクグループ(SBG、9984)の国内通信子会社ソフトバンク(SB、9434)の新規上場は国内投資家だけでなく、日本株に投資する海外勢からも注目度が高い。SBの事業価値や親会社の株価への影響をどうみているのか。香港の投資ファンドで日本企業を含む銘柄調査を担当する専門家に聞いた。 「携帯市場の競争激化に不安」 ◎豊盛金融集団(馮宏遠アナリスト) ――SBの企業価値をどう評価していますか。 「日本の携帯通信市場は競争が激化する見通しで、投資対象として魅力的ではない。市場が既に飽和しつつあるところに、来年秋には楽天が新たに参入する。さらに日本政府も通信料金の大幅な引き下げを求めている。先行きは明らかに通信料が低下しそうだ」 「配当性向の高さは日本の個人投資家をある程度引きつけそうだが、将来的に通信料収入が減少しても維持できるのか疑問が残る」 ――親会社SBGの株式にはどのような影響がありますか。 「今回の上場は親会社のSBGにとっては前向きな材料だ。上場による資金調達で国内通信の価値を顕在化しつつ、設備投資負担の重い通信事業を自律的な形に切り離せる。ただ、我々は親会社のSBGの事業環境にも慎重で、現在は株式を保有していない」 ――上場を評価しながら、SBGの先行きに慎重な理由は。 「今後のSBGの中心となる『ビジョン・ファンド』の投資先は主にテクノロジーやスタートアップ企業だ。こうした業界は投資尺度からみて既にかなり割高な企業が多いうえ、現在のように世界景気が減速し始めている状況では投資の回収に時間を要するだろう」 「(SBGの)負債の大きさも先行きに慎重な理由だ。少なくとも2019年後半までは米利上げが継続するとみられるなか、負債の多い企業は投資家から敬遠されやすい」 「ファンドの中核がサウジアラビアからの資金であることも懸念材料だ。サウジは記者殺害事件で外交的な問題を抱えるのに加えて、足元の原油価格の下落もあり、長期的に安定して資金を供給し続けられるのか不安がある」 ――日本株全体の先行きの見方を教えてください。 「今後1~2年の日本株は、米国などと比べて相対的に堅調だとみている。ただ足元は世界景気が後退局面に近づきつつあり、世界の株式相場はそれほど割安ではない。日本株も目先が買い場とはみていない」 「業界別では化粧品や食品に対して強気だ。景気が減速しても食事や日用品、パーソナルケアで質の高さを求める傾向は続くだろう。訪日旅行客の増加で、日本の化粧品や食品のブランド力が中国市場で高まっていることも評価できる」 「5Gでグループの優位性」 ◎易方資本(王華CIO、関博文シニアアナリスト) ――SBGに対する投資スタンスを教えてください。 王氏「SBGは米アルファベット(グーグル)と並んで長期保有している銘柄だ。次世代通信規格『5G』の時代になればグループとしての優位性が大きい。通信速度が飛躍的に高まる5Gでは、位置情報など利用者データを活用したサービスが広がる。英半導体設計のARMのほか、ヒト型ロボットの『ペッパー』などを有しており、通信事業からの膨大なデータをうまく活用しやすい立場だ。あらゆるモノがネットにつながる『IoT』で独自のエコシステム(生態系)を築く存在になり得る」 ――子会社SBの上場がSBG株に与える影響は。 関氏「SBGは通信会社からAI(人工知能)やロボットなど、純粋なテクノロジー企業の側面が強まる。日本国内での通信料金の引き下げ圧力や、5G関連の設備投資が負担になる通信事業の分離は投資家にとって好ましい。一方、こうした理由から新規上場するSBの株式に対しては慎重だ」 ――5Gで提携するファーウェイの孟晩舟・副会長がカナダで逮捕されました。 王氏「SBだけでなく、通信業界全体にとって基地局などでファーウェイの製品を使わないことにより設備投資の負担が増す可能性がある。北欧のノキアやエリクソン、日本のNEC、富士通といったあたりが設備の代替メーカーになりそうだが、一般にファーウェイ製品より価格は高いだろう」 ――ソフトバンク・ビジョン・ファンドの資金の出し手であるサウジアラビアは記者殺害事件で外交的に孤立し、投資家からも不安視する声があります。 王氏「サウジアラビアの問題は確かにSBGにとって懸念材料だ。この問題の今後の展開を予想するのは難しい。ただ、現段階では上記のような優位性があるSBGの株式を売却するほど深刻だとは捉えていない」 ――SBG以外で将来性を評価している日本企業はありますか。 王氏「ソニー(6758)と村田製作所(6981)に投資している。ソニーはスマートフォン向け画像センサーや仮想現実(VR)端末『プレイステーションVR』が先行きの収益に寄与するとみている。村田製は積層セラミックコンデンサー(MLCC)の自動車向け需要の増加がテーマだ」 (聞き手はNQN香港=柘植康文、易方資本は書面でのインタビュー)

アナリストの本質は企業価値を見極めること by 鈴木行生氏(シリーズ:ベテランに聞く)

アナリストは自分の担当セクターのみに安住していてはならない。アクティブファンドが勝てないとされる今こそ、アナリストの存在価値が試されている――。日本ベル投資研究所の鈴木行生・代表取締役主席アナリストは野村総合研究所の出身。野村ホールディングス取締役や日本証券アナリスト協会会長などを歴任し、自ら設立した調査会社で今も現役アナリストとして企業調査に関わり続ける。「セルサイドのアナリストの充実こそが、企業と投資家の間の対話に不可欠だ」との信念を持つ。【聞き手は日経QUICKニュース(NQN)=張間正義、井口耕佑】 鈴木行生(すずき・ゆきお)氏 1975年に野村総合研究所入社。自動車や重工メーカーなどのアナリストを務める。97年野村証券取締役金融研究所長、05年野村ホールディングス取締役。07年日本証券アナリスト協会会長。10年に日本ベル投資研究所を設立。同社のアナリストとして中・小型株の分析を行う傍ら、複数の企業の社外取締役を務める ■社長と同じ目線で企業を見る 私のアナリストとしてのキャリアは75年に野村総研に入社してから、自動車部品メーカーやエレキ関連の企業担当として始まった。といっても、デンソーなどの大きなメーカーは自動車業界担当のベテランが担当しており、駆け出しだった私は小型のメーカーが主な相手だった。 生まれて初めて書いたアナリストリポートは、今でもはっきりと記憶に残っている。自動車のヘッドライトなどの部品を作る国内の照明メーカー3社の、業績や経営体質を比較したものだった。ここまではっきり覚えているのは、このリポートを3社それぞれの役員会で発表したからだ。自分が書くリポートは、他でもない企業の社長に読まれる。緊張感とともに、自分の意見を重んじてくれていることに身の引き締まる思いもあった。 このことから学んだのは、アナリストは社長と同じ目線で企業をみなければならないということだ。自分と対等の人間が書いたものでなければ、彼らも信頼してくれないだろう。 ■インデックス化の流れの中でこそ存在意義 アナリストの仕事は、その名の通り「アナライズ(分析)」することだ。この分析とは、複数の同業を比べる「比較」と、将来の財務状況や業績を見通す「予想」とに分類される。当事者から一歩離れたところから比較、予想ができるのはセルサイドのセクターアナリストだけだ。 今はアクティブファンドが勝てない時代、インデックス投資がもてはやされる時代になってきている。アナリストもバイサイドの引き合いが強まっているが、だからといってセルサイドのアナリストの必要性がなくなったわけではない。 バイサイドアナリストは自分のポジションを持っている以上、ファンドマネジャーに近い存在だ。自分の保有銘柄で自己完結してしまいがちで、本当に投資家・経営者に有益な分析ができない恐れがある。多くの企業を客観的に比較できるセルサイドアナリストの存在意義は、今でも高まっていると考える。 ■目標株価と利益予想に終始しない 今のアナリストは、リポート内で企業の目標株価を100円上げるか下げるかに全神経を使っているように見える。私が若い頃はみんな経常利益を当てるのに必死だった。これらには一定の意味はあるが、アナリストの本質は企業価値を見極めることにあるということを忘れてはいけない。 今は短いスパンで内容の軽いリポートを書くことが重視されているようだ。それはそういったリポートの方が読まれ、結果的にその証券会社にアナリスト料が入ってくるからだが、これではアナリストは深みのある分析ができない。 証券会社がリポートの仕組みを改められれば一番良いが、アナリスト一人ひとりにもできることはある。それは「ちゃんと書いたら皆が読む」というのを意識することだ。今は日々、大量のリポートが発行されているから、リポート一枚一枚の価値が下がって読まれなくなってしまう。1つのリポートに時間をかけ、深みのある内容を加えることができれば、そのリポートは業界で必読のものになるだろう。 ■セクター「領空侵犯」のすすめ 例えば楽天は、電子商取引に始まり金融を手がけ、今や通信にも乗り出そうとしている。ソフトバンクも投資会社の枠に収まらず人工知能(AI)を次代の成長の軸に位置づけている。今や1つの企業が1つのセグメント内のみで事業を展開する例はまれだ。 翻って、アナリストの世界ではまだまだ自分の領域からは出ないしきたりが横行しているように感じる。私が若い頃も他業種について調べるのは「領空侵犯」としてご法度だった。ただ、1つのセクターのみに特化し、他業界のことを何も知らないアナリストの意見は、これからの市場では重用されなくなるだろう。 異なる業種の間で企業を比べる、ある種ファンドマネジャーのような目が求められる。といっても1人で3~4業界をカバーするのは至難の業。今後はチームを組んで企業調査を行うのも手かもしれない。いわばアナリストも「インデックス化」の時代だ。異なる業界のアナリスト同士が協調し、業界全体の底上げを図るべきだと考える。 (随時掲載)

ドルが凍りついた日、忘れない by 角田秀三氏(シリーズ:ベテランに聞く)

インターネットや電子取引が未発達で市場規模も小さかった1980~90年代の激動の時期を現場で過ごした外国為替や金利のディーラーがまず強調するのは、市場の厚みや自由度を示す「流動性」だ。自由に取引できない環境でのディーリングは確実に成功率が下がる。日本興業銀行(現みずほ銀行)でドイツマルク(現ユーロ)の名ディーラーだった角田秀三氏は「基軸通貨のドルでも、流動性を失う危険を感じたら取引を止める割り切りが必要」と指摘する。【聞き手は日経QUICKニュース(NQN)編集委員=今 晶】 角田秀三(かくた・しゅうぞう)氏 1977年に神戸大経済学部を卒業後、興銀に入行。82年にニューヨーク支店で為替ディーラーのキャリアを始め、いったん東京に戻った後、今度はチーフディーラーとしてニューヨークに渡る。帰国後は東京の金融法人部で公的年金やその他機関投資家の営業業務に就き、京都支店副支店長の在任時に為替ディーラーの専門職に転じた。英バークレイズ銀行などを経て現在は企業や投資顧問会社のアドバイザーとして為替情報や見通しを提供する ■一にも二にも流動性 ドルは世界の基軸通貨なのでいつでも自由に売り買いできると考えがちだが、決してそんなことはない。記憶に残る範囲でドルの流動性リスクが最も高かったのは2001年9月11日以降の数日間。米国の金融センターであるニューヨークを突如襲った同時多発テロに対する市場参加者の動揺は大きく、決済システム自体は健在だったにもかかわらずドル絡みの取引はすっかり凍りついた。 それ以外にも1985年のプラザ合意後に円高・ドル安が進む過程で、円相場が1ドル=200円の重要な節目を越えていく時もかなり不安定だった。相場の動きが速すぎてブローカー(仲介業者)などの現場は混乱し、正しいレートを見いだしにくかった。例えば199円で円売り・ドル買い注文が控えていたのに、ブローカーによっては1円以上も円高の198円で取引が成立するといった具合だ。 流動性の乏しい市場にあえて参入し、収益機会を増やしていく戦略もありだとは思う。だがリスクをきちんと管理できる体制になっていることが前提だ。米ドルでさえ状況次第では流動性がなくなりかねないのだから、新興国通貨の危うさは推して知るべし。そんな意識をもって慎重に臨むべきだろう。 ■「泣く子と中央銀行には勝てず」 平時は政府・中央銀行の動きにまず目配りしなければならない。金融・財政政策でマクロ経済の方向性を決めるだけでなく、為替レートが自国に不利とみればためらいなく介入してくる。かつては「泣く子と中銀には勝てず」といった。ドイツマルクの取引ではブンデスバンク(ドイツ連邦銀行)には絶対に歯向かってはいけなかった。 現在は貿易摩擦の影響で主要国では為替介入が難しくなってきたし、昔に比べると市場規模がかなり大きいために介入効果は生じにくいとの指摘が出ている。それでも必要であれば介入に踏み切るのは、通貨当局の責務だ。政府・日銀や欧州中央銀行(ECB)がしばらく介入していないのは、できなかったのではなく、相場水準に特に問題がなかったからだと理解すべきだ。 幕末の志士、坂本龍馬が著した「船中八策」には「金銀物貨宜シク外国ト平均ノ法ヲ設クベキ事」と書かれている。貿易収支や物価の安定における為替レートの重要性は現代日本でも変わらない。「中銀には逆らうな」の教訓は今も生きている。 ■中長期予想は「推進力」で判断 長めの予想をたてる際には、その根拠に相場を揺さぶるほどの推進力があるか否か吟味していく。円相場なら直近5円程度のレンジをどちらかに抜けられる材料を見いだせるのか。足元では米景気1強論や米利上げ観測、世界経済の先行き不透明感といった要素があるものの円は結局1ドル=110~115円のレンジにとどまっている。どちらの材料にも推進力がないと受け取れる。 19年は物価の基調を注視していきたいと考えている。日本では日銀の異次元緩和政策がこれだけ続いていてもインフレ率はなかなか上向かない。しかも中国景気の減速懸念などから原油相場に下落圧力がかかり、原油輸入国の日本の物価上昇を抑える。これらから導き出せるトレンドは円高だろう。 金利差は距離を置いて考えるべきだ。為替相場の変動率は金利よりも高いことが多い。もし不利な方向に一本調子で振れたときは利息収益があっさりパーになってしまう。 1980~90年代の主要銀行の外為ディーラーは互いを直接電話で呼び出す「ダイレクト・ディーリング(DD)」にいそしんだ。ドイツマルクの取引では米バンカース・トラスト(現ドイツ銀行)と富士銀行(現みずほ銀行)、興銀、住友銀行(現三井住友銀行)やモルガン銀行(現JPモルガン・チェース銀行)といったそうそうたるメンバーで、相場観を間違えると大損しかねない、果たし合いにも似た荒っぽい時代をすごしてきた。金利はあまり関係なかった。 その状況を今に当てはめることはできないが、為替には理屈抜きの局面がしばしば起こる。1つの要因にこだわらず、バランス良く判断していかなければならない時代だろう。 (随時掲載)

ファーウェイ・ショック 真の標的は5G、アジアで関連株急落

カナダ当局による中国の通信機器最大手、華為技術(ファーウェイ)の副会長逮捕が、アジアの株式市場を揺らしている。逮捕は米国の要請とされ、米中対立激化への懸念が再び高まった。ファーウェイは非上場企業だが、6日の香港や台湾市場ではスマートフォン(スマホ)関連銘柄に売りが波及した。米国の標的は覇権争いの渦中にある次世代通信規格「5G」とみられ、問題は長引きそうだ。 6日の香港市場ではファーウェイの同業である中興通訊(ZTE)の株価が一時10%近く下落した。スマホ部品の舜宇光学科技や瑞声科技控股(AACテクノロジーズ)も売られた。台湾では光学レンズの大立光電(ラーガン・プレシジョン)が制限値幅の下限(ストップ安水準)となる10%安となった。 ファーウェイはスマホの世界シェアが韓国サムスン電子に次ぐ2位で、米アップルをしのぐ。通信基地局では世界最大手で、通信業界での存在感は大きい。 創業者の任正非・最高経営責任者は中国人民解放軍出身で、逮捕された孟晩舟・副会長兼最高財務責任者(CFO)は任氏の娘だ。容疑の詳細は明らかではないが、米司法省がイランへの違法輸出に関わった疑いでファーウェイを捜査していると複数の米メディアは4月に報じていた。この関連容疑で拘束されたとみられる孟氏について米国は身柄の引き渡しを求めており、中国政府は「重大な人権侵害だ」と抗議する。 逮捕の背後にあるとみられるのが「5G」での中国と欧米の覇権争いだ。ファーウェイを巡っては、オーストラリアやニュージーランドが安全保障上の理由で5Gの整備事業への参入を禁止した。英通信大手は5Gでは同社製品を使用しないと決めている。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは11月下旬に「米政府が日本やドイツなどの同盟国にファーウェイ製品を使わないように説得を始めた」と報じていた。 米国と英国、豪州、カナダ、ニュージーランドは機密情報を共有する枠組み「ファイブアイズ」のメンバーだ。次世代の通信インフラを中国勢が握れば経済的な利益を失うばかりでなく、重要情報が中国政府に漏れて安全保障上のリスクになりかねないとの警戒感も強い。中国は先端分野で世界一を目指す産業政策「中国製造2025」の重点領域の一つとして5Gを掲げており、譲歩しないとの見方が多い。 ハイテク分野の米中対立ではZTEが今春、米企業との取引禁止の制裁を受け大打撃を受けたのが記憶に新しい。ZTEは米国製の半導体を調達できずに通信設備やスマホといった主力事業が停滞し、1~9月期は72億6千万元の最終赤字だった。同社は米国のベネズエラへの制裁に違反したとの疑惑も出て、11月に複数の米上院議員が米政府に調査を求めた。株式市場では、ファーウェイ幹部逮捕は「ZTE問題の再燃も連想されやすい」(岡三国際の小泉めぐみストラテジスト)との声がある。 今週には台湾電子機器製造の鴻海(ホンハイ)精密工業が米アップル「iPhone」の中国からベトナムへの生産移管を検討していると伝わった。同社の郭台銘董事長は「米中摩擦は5~10年続き、世界のサプライチェーンに大きな変化が起きる」と語った。米中摩擦の激化は、産業構造の大きな変動も促しつつある。 【NQN香港=柘植康文】 ※日経QUICKニュース(NQN)が配信した注目記事を一部再編集しました。QUICKの情報端末ではすべてのNQN記事をリアルタイムでご覧いただけます。

米金利低下と人民元高 為替めぐる米中“密約”説が浮上

1日の米中首脳会談以降、世界の株式・金融市場に地鳴りが響いている。目立つのは中国の通貨や長期金利の上昇と米国の長期金利の低下だ。一部の投資家はこれまでの米国一強を前提とした「米株買い・新興国株売り」のトレードから中国の回復を視野に入れたトレードへと投資戦略をシフトしている可能性がある。 中国通貨の人民元は対ドルで4日に1ドル=6.83元台まで一時上昇し、約2カ月半ぶりの元高水準を付けた。5日はやや伸び悩んでいるが、首脳会談直前の11月30日から12月4日までの上昇率は約1.8%で円の約0.9%を上回る。ユーロはほぼ横ばいだ。 「貿易摩擦の激化による中国の景気悪化への懸念が薄れ、海外投資家が人民元を買い戻している」(日本総合研究所の関辰一氏)という見方が一般的だ。しかし、市場の一部では別の読み筋が浮上している。 「米中の間には、まだ公表されていない合意があるはずだ」。ニッセイ基礎研究所の三尾幸吉郎氏は一時休戦に至ったトランプ大統領と習近平(シー・ジンピン)国家主席との間に期間限定の密約が交わされたのではないかとみる。人民元相場の切り上げについてだ。 通貨高は金融引き締め作用がある半面、米国に輸入拡大を約束した中国にとっては物価を押し下げ、消費を促す面がある。慢性的な資本流出不安を打ち消す効果もある。 国際通貨基金(IMF)によれば、米中の物価をもとにした購買力平価は1ドル=3.5元程度と実勢よりも大幅なドル安・人民元高水準だ。この観点から「人民元を現在の水準から1~2割程度切り上げても弊害は少ない」と三尾氏は話す。 北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉では、米国とメキシコの大筋合意後に通貨安誘導を防ぐ為替条項の存在が明らかになった。米韓のFTA見直し交渉も同じだ。トランプ外交は為替に関する約束を後出しにする傾向がある。 今後の焦点のひとつは、来年の経済政策を決める中国の共産党中央委員会第4回全体会議(4中全会)だろう。開催が遅れているとされるが、この場で為替調整やハイテク産業育成策「中国製造2025」の看板掛け替えを明らかにするとの観測が出ている。米国からの圧力ではなく、中国自らが決めたという点をアピールするためだ。 米中の長期金利の動きの違いも見逃せない。金融取引仲介のタレットプレボンによれば、10年物国債の利回りは11月30日に中国が3.37%程度、米国が3.00%程度だった。それが12月4日は中国が3.40%程度に上昇する一方、米国は2.91%程度に低下した。 人民元切り上げには米金利が低下した方が都合はよいが、足元の「米金利低下・中国金利上昇」は、市場の景気見通しの変化を示している可能性がある。 米金利の低下と中国金利の上昇が同時進行した2011年3~9月は、リーマン・ショック後の景気対策効果のはく落や欧州債務危機で先進国経済が減速する一方、新興国は内需拡大で成長して世界経済のデカップリング(非連動)論が語られた。米中の金利差拡大が持続するかどうかはもうしばらく推移を見守る必要があるが、トランプ減税効果の一巡や英国の欧州連合(EU)からの離脱問題など現在の政治経済情勢は11年当時と似通う点がある。 【日経QUICKニュース(NQN) 編集委員 永井洋一】 ※日経QUICKニュース(NQN)が配信した注目記事を一部再編集しました。QUICKの情報端末ではすべてのNQN記事をリアルタイムでご覧いただけます。

日銀2019年夏の「出口」を予言 バークレイズのリポート、市場に波紋

日銀は来夏にマイナス金利政策を解消する――。バークレイズ証券の山川哲史チーフエコノミストが11月28日付のリポートで示した予想が金融・資本市場で波紋を広げている。金融機関に評判の悪いマイナス金利政策は修正の思惑が絶えないが、海外勢に「出口政策」と受け止められれば円高加速につながりかねないだけに、政策修正には懐疑的な見方も根強い。現実味はあるのだろうか。 山川氏は今回のリポートで、19年度を通じて維持するとしていたマイナス金利政策を19年7月に解消すると予想。7月を過ぎると10月の消費増税やその後の反動による景気停滞などが見込まれるため、政策変更は難しくなるとの前提で、「変更するなら7月がデッドライン」と判断した。 7月までにまず、イールドカーブ・コントロールの方針を再び修正し、許容変動幅の拡大を通じ利回り曲線の傾きを急にして残存期間の長い国債の利回り上昇を促す。次に2%を「象徴的存在」として残したうえで徐々に物価が2%を目指すストーリーに変わりがないことを強調しつつ、現実路線にシフトするとのシナリオを描いている。 山川リポートの主張は金融機関の不満を代弁している面がある。山川氏が示す「マイナス金利政策は長期にわたって持続したときに加速度的に副作用が累積する」との指摘は、貸出先の確保や運用難にあえぐ地方銀行や信用金庫の苦境と重なる。 日銀が毎月公表している貸出約定平均金利によると1年以上の長期の「ストック貸出金利」は10月、国内銀行で0.860%と1976年の統計開始以降で最も低くなった。山川氏は「短期の政策金利がマイナスに固定される中、貸出金利の底上げがなければ金融機関の基本的な採算性はあがらない」と述べたうえで、「もしマイナス金利が解消できないまま次の景気後退期に突入し、景気刺激策の手足を縛られてしまう事態は中銀として避けたいはずだ」とも話していた。 ハードルは高い。日銀は7月31日に金融緩和継続の枠組みを強化するなかでフォワードガイダンスを導入し、「消費税率引き上げの影響を含めた経済・物価の不確実性を踏まえ、当分の間、現在のきわめて低い長短金利の水準を維持する」と表明した。前日銀審議委員の木内登英・野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストは「政府が消費増税に過敏になっていることを考えれば、増税の影響が懸念されるタイミングでの政策変更は進めにくい」と話す。 さらに外為市場では降って湧いたような米利上げの打ち止め観測により、円安・ドル高のドライバーの1つだった日米金利差の拡大が止まるとの見通しが増えてきた。「対ドルではまず19年中の利上げの可能性がある通貨が買われ、円買いはまだ強くない」(国内銀行の外為ディーラー)。それだけに日銀が仮に「出口」を意識させる措置に踏み切れば円高インパクトは相当大きくなる。 QUICKが3日に発表した債券月次調査では、日銀の金融政策で19年中に実施されると思うものについて「マイナス金利の縮小・撤廃」の割合は15%だった。「10年金利の許容レンジの拡大」(47%)や「19年中は修正しない」(39%)の割合のほうが高いものの、「いくつもの環境が整えばマイナス金利撤廃は起こりうる」とのムードはそれなりに醸成されてきている。 〔日経QUICKニュース(NQN) 菊池亜矢〕 ※日経QUICKニュース(NQN)が配信した注目記事を一部再編集しました。QUICKの情報端末ではすべてのNQN記事をリアルタイムでご覧いただけます。

相場はランダム、戦略に「絶対」はない by 星野昭氏(シリーズ:ベテランに聞く)

「わかりやすい相場できっちりもうけ、わからない相場には手を出さない」。為替ディーラーとして最前線に立ち続けてきた三菱UFJ銀行の星野昭氏。「最初は失敗も多かった」と振り返ったうえで、「相場で勝つには毎日相場を見続け、楽をしようと思わないこと」と勝利に近道はないと諭す。【聞き手は日経QUICKニュース(NQN) 金岡弘記】 星野昭(ほしの・あきら)氏 1989年に一橋大法学部を卒業後、東京銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。主に外国為替ディーラーとして東京やロンドンでキャリアを積み、2018年7月から三菱UFJ銀行シニアフェロー金融市場部共同部長。東京外国為替市場委員会の議長を長く務めるほか、今年からGlobal FX Committee副議長 ■テールリスクを味方につける まだ駆け出しのオプショントレーダーだった1990年代、現在はユーロになっているドイツマルクの対ドル取引を一時まかされた。銀行のオプショントレーディングは顧客や銀行間同士の取引を通じて作られる「ポートフォリオ」を管理する。数%の相場変動が起きた場合には対応できるようにしていたが、テールリスク(可能性は極めて低いが起こるとダメージが大きい)への備えは不十分だった。 あれは、ちょうど結婚相手の両親にあいさつに行った日だった。ロシアでクーデターが起こり、市場が混乱していることは想像できたが(日本語の)ニュースは円の対ドル相場が大きく動いていると伝えるだけでそれ以上に相場への影響が大きいはずのドイツマルクに関しては何も報じていなかった。慌てて東京に戻ったものの時すでに遅く、途中で会社に電話をかけたら「帰ってこなくていい」と言われるぐらい大きな損を出してしまっていた。 クーデターの予想は難しい。それ以降、テールリスクについて深く研究するようになった。 当時の上司は「敏腕トレーダー」と呼ばれる人だった。彼らが「上がる」「下がる」と言えば実際にそうなるのを不思議に思っていたが、スポット(直物)部門に移って日々の需給を眺めているうちに自分も、かなりの確率で相場の方向性を当てられるレベルにまで成長した。毎日相場を考えることで見る目がいくらかは育ったのだろう。 そうした経験もあって98年のLTCM(ロングターム・キャピタル・マネジメント)危機の際にはテールリスクを味方につけられた。当時はロンドン駐在。危機を受けた相場急変時に取引に入れ込みすぎ、過労で倒れてしまったほどだ。 ■分からない相場からは手を引く 相場の8割はランダム。ランダムな相場は上げと下げの予測がほぼ不可能だ。だから人工知能(AI)予測もなかなかうまくいかない。 基本は無理をせず、取引は最小限にとどめて多くを受け流す勇気が必要だろう。90年代に得た「悟り」もそこがポイント。わかりやすいときだけやり、わからなければ手を引くことに尽きる。 ただランダムな相場にも対峙の仕方はある。例えば値幅と出来高を調べ、値幅の大小と出来高の大小によって4つのパターンに分ける。ランダムな相場は回帰分析における中心回帰的な動きをするとされる。もし出来高が少なくて値幅が大きければ、いずれ戻る可能性は高いと判断して戦略をたてられる。 いずれにせよ自分の相場観を論理的に説明できるかが重要だ。もし体系づけられれば、倒れるほどに精力を傾けた過去の取引パターンの機械化・自動化が可能になる。かつては考えすぎて頭がもうろうとし、夢では真っ暗な中で機械だけ動いている不気味なディーリングルームが浮かんできた。 現在の為替相場は他の市場との相関が強まっている。市場は昔のように為替と金利を分けて見てはいない。株や商品も含めすべての市場が密接に連関している。株や商品、債券それぞれの上げ下げに触発されて為替が大きく動く。その震源地を見極められないとディーリングには絶対に勝てない。 ■高金利通貨の取引は甘くない 世間ではうまいトレーダーの条件として「きちんとストップロス(損失を抑える目的の注文)を置ける人」がよく挙げられる。ストップロスを置くと確かに安心だがその結果、緊張感なく寝ていては絶対に勝てない。一定の相場水準に達したら電話連絡をしてもらい、それを受けて実際に注文するかしないかを決める「コールオーダー」だけを置く。修羅場でストップロスの是非を判断する苦しい状況に耐えてこそ勝てる力を身につけられると思う。 相場にどっぷりつかっていた若いころは、短期的な相場の流れに乗る「順張り」でアグレッシブに取引をしていた。半面、最近は逆張りも多い。相場に対峙する際のストラテジー(戦略)に絶対はない。自分にあったスタイルを見つけることが大切だ。 個人の資産運用では引き続き高利回りのエマージング(新興国)通貨が人気だが、見た目の高い利回りにだまされてはいけない。プロの世界では0.1%単位で利回りを確保しようと日々競っているのに、リスクをとったらすぐに数%単位の収益を得られるなどというほど為替は甘くない。 今夏の「トルコショック」ではかなりの投資家が痛手を被った。急落局面で少しずつでも逆張りを続けられる体力がないと長い勝負には勝てないだろう。 高金利通貨は売りも簡単ではない。「ショート(売り持ち)はスポットで勝ち、ファンディング(調達)で負ける」という。売り持ちに伴って不足する資金は為替スワップなどを通じて借り入れるが、当然、高い利息を払わなければならない。ごく短い期間のうちに為替差益を得られなければコスト負けしてしまう。 主要通貨はボラティリティー(変動率)の低い状態が恒常化している。だが今後は要注意だ。為替相場の大変動は景気循環の転換点で起こりやすい。足元ではその転換点が近づいているのではないか。社債などのクレジット(信用)市場や株価に目を凝らしておきたい。 正確な見極めは容易ではないが、これまで安定していた主要国の通貨にもトレンドが生じる可能性は十分ある。ボラティリティーを生かして為替差益を積みあげるチャンスが来るかもしれない。 (随時掲載)

すべての道は金利に通ず by 鈴木涼介氏(シリーズ:ベテランに聞く)

一国の経済の基礎的条件(ファンダメンタルズ)や金融政策と最も密接に関わるのは金利の市場だろう。しかも一回あたりの取引額が大きく、名だたる金融機関やヘッジファンドが慎重に立ち回るため、株や外国為替よりも理路整然とした動きをしやすいとされる。ドイツ銀行やHSBCロンドンで敏腕の金利ディーラーとして活躍した鈴木涼介氏は現在は仮想通貨の世界に身を置くが、自らの経験を踏まえて「すべての道は金利に通ず」と明言する。【聞き手は日経QUICKニュース(NQN)編集委員=今晶、尾崎也弥】 ※11月27日付の記事を再配信しています。 鈴木涼介(すずき・りょうすけ)氏 高校から英国で教育を受け、ロンドン大のキングスカレッジ自然科学工学部数学科で学んだのちドイツ証券に入社。円金利スワップ担当としてディーラーのキャリアをスタートさせた。ドイツ銀行東京支店を経て英国に戻り、ドイツ銀ロンドン拠点の金利・通貨スワップデスクでヘッドトレーダーを務めた。2013年に英HSBCロンドンに移籍し主要7カ国(G7)短期金利・通貨スワップ部門のヘッド。18年に独立してゼニファス・キャピタルを立ち上げ。仮想通貨ヘッジファンドを運営するほか、一般向け投資教育プラットフォームの構築を目指し、ツイッターで情報発信も ■判断に迷ったら金利を見よ 外為市場には「金利と為替の方向性が違ったら、たいてい金利が正しい」との自虐的な教訓がある。債券や短期金融市場の効率性と合理性をよくあらわしていると思う。投資判断に悩んだら必ず金利動向を参照すべきだ。 もちろん株や為替と同様、金利にも情報や需給の偏りがもたらすゆがみは生じる。だが、きわめて見えにくい。短期資金やデリバティブ(派生商品)の取引は参加者の信用力に応じて価格や金利水準がころころと変わるため、惑わされるのだ。そんな中で巨額のお金を回していくのだから、相場環境とゆがみの有無を的確に判断できなければ絶対に生き残れない。 例えば現在、日本の金融機関は「ベーシススワップ」や「為替スワップ」を通じてドルを調達する際に大幅な上乗せ金利を求められるのに対し、ドルの保有者は取引相手を選べば円をかなり安く調達できる。さらにドルの需給が引き締まりがちな海外の決算期末を意識し、スワップを年末年始を挟む期間にするだけで円のコストはさらに下がり、国庫短期証券(TB)での運用利回りは良くなる。 もしそのような微妙な違いに気づき、収益を高められる人なら他の市場でも必ずつぶしがきく。資産の割安・割高を見極めて売買する「レラティブバリュー」運用で十分生き残れるだろう。 ■「負けて覚える相場かな」 相撲界に「負けて覚える相撲かな」との格言がある。相場も実践あるのみだろう。オンライン証券会社がよく提供している模擬トレードのシステムで練習してからなどとは決して思わないことだ。身銭を切ってディーリングに臨み、負けてお金を失うからこそ真剣に敗因と向き合い、次につなげられる。 もちろん大けがばかりして再起不能になっては意味がない。自信がなければ投じる資金を最小限に抑え、トライ・アンド・エラーの精神を忘れずに臨むべきだ。 長めの相場シナリオをたてるときは過去の経験則やチャートには頼らず、ファンダメンタルズの変化を意識しながらまずは自分で考えてほしい。ファンダメンタルズ分析は外為証拠金取引(FX)や株では短期トレーダーを中心に軽視されがちだが、金利系の投資家は誰もがきちんとやっている。 ■仮想通貨でも金利ディーラーの視点 インターネット上の仮想通貨は引き続きビットコイン(BTC)が主役になるだろう。足元では機関投資家や富裕層はあまり仮想通貨に手を出していない。ただ富裕層は「我」や向上心が強く、もっともうけて他人との差を広げたいと頑張る。仮想通貨市場の将来性や収益性が高いと判断すればすぐに買いを増やしそうだ。 ポイントは仮想通貨の上場投資信託(ETF)の行方だ。承認されれば正式に「アセット(資産)クラス」の仲間入りをする。機関投資家の保有ハードルが低くなるので、気の早い個人は先回りした買いを進め、相場には上昇圧力がかかるだろう。 ここで重要なのは金利ディーラーが大切にする時間軸の視点だ。ビットコインETF市場などが再び拡大に向けて動き出したとしても、法律やシステムが整って実際にマネーが流入するのはだいぶ先の話だ。前のめりな買いに対しては淡々と売り、底値を確かめたほうがよい。 BTC市場の復活までにそれなりに時間がかかるとすると、大口投資家はなかなか持ち高を積みあげられない。では、BTCの代わりはないだろうか。 いま注目しているのはリップル(XRP)だ。一民間企業であるリップル社が深くかかわるXRPは、管理者不在の印象が強い仮想通貨らしからぬファンダメンタルズの底堅さをもつ。銀行間の資金決済にも試験的に用いられ、認知度は高い。 トルコやアルゼンチンといった対外債務が多く、経済基盤が脆弱な国の人々が自国通貨安を回避(ヘッジ)する目的でもリップルは使われやすいとみている。足元ではトルコリラ建てのXRP相場がしばしば値を上げている。トルコのエルドアン体制は安定しているが、経済政策は心もとない。トルコでは銀行口座をあえて持たず、リラ安ヘッジのためにリップルなど仮想通貨を求める人が結構いるようだ。 (随時掲載)

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