平成・危機の目撃者➓ E・ユルマズが見た「トルコショック」(2018)

政治も経済も危うさ、リラ急落は再び起きる

長期金利がマイナス圏に沈むなど、金利低下が続いた平成の日本。行き場を失った個人マネーの一部は高い金利の新興国に向かった。そんな中で2018年の夏にかけて起きたトルコリラ・ショックは、新興国運用の難しさを改めて意識させた。トルコ出身のエコノミストで現在は日本で株式投資のアドバイザーも務めるエミン・ユルマズ氏は「トルコの政治的混乱は簡単には収まりそうになく、ショックは再び起こり得る」と警鐘を鳴らす。

  Emin Yurumazu氏

えみん・ゆるまず トルコ出身で1996年に日本に留学。2006年に東京大学大学院理学修士を取得後、野村証券に入社し15年に四季リサーチ株式会社に移る。現在は複眼経済塾の取締役・塾頭として、投資を実践する方法を指南中

◆GDP(Global Debt Problem)の火種

平成が始まるとほぼ同じタイミングで冷戦が終結し、東西の区別がなくなった。資本が世界中をかなり自由に動けるようになり、新興国はお金の調達が容易になった。その結果、借金が膨らみ、2000年からいままででおよそ3倍の240兆ドル近くに増えた。

新興国の高い成長は多額の借金のうえに成り立っている。その現実は忘れてはならない。国民総生産(GDP)ならぬ「GDP(Global Debt Problem)」が危機の火種になる可能性を常に警戒すべきだろう。

中国だけでなく、インドやメキシコも主要先進国に匹敵する経済規模になってきた。20カ国・地域(G20)の枠組みの中でもっと発言権を持っておかしくないのだが、そうはなっていない。

◆米露のはざまで揺れ動く

米通商代表部(USTR)は3月上旬、トルコとインドを一般特恵関税制度(GSP)から外すと発表した。十分な経済発展を遂げたためというのが表向きの理由だが、本当は新興国に米国側につくか、ロシアにつくかを選ばせているだけだ。冷戦の構造は変わってないのかもしれない。

トルコは北大西洋条約機構(NATO)加盟国でありながら、ロシア製のミサイルシステム「S400」を導入しようとしている。米国とロシア双方のご機嫌をとっているわけだ。S400のパーツは今年の夏にも届くとされており、米露の間でのトルコの振る舞いが第2のトルコショックのような状況を引き起こす可能性は十分にある。

3月末の統一地方選では、エルドアン大統領が率いる与党連合が首都で敗北したとみられるなど厳しい結果だった。内政も昨年に比べると安定しているとはいえない。

トルコ軍は1980年代から、クルド人の独立国家建設を目指す武装組織である現在のクルド労働者党(PKK)と武装闘争を繰り返してきた。PKKの分派勢力は過激派組織「イスラム国」(IS)の掃討作戦で米軍と協力したため、トルコ政府の扱いは難しくなっている。ISと唯一真剣に戦ってきたクルド人を見直す機運が国際的に出ているうえ、長引く内戦でクルド人たちのアインデンティティが強まり、クルド人国家が誕生するのは時間の問題かもしれない。

◆原油価格上昇の影響大、通貨安に

エネルギー輸入とドル建て債務が多いトルコ経済は原油価格の影響を受けやすい。トルコリラと原油相場の関係をみると、原油高とリラ安のきれいな「逆相関」が成り立つ。中東や南米の政治不安が原油高を促せばトルコの景気とリラへの打撃も大きくなる。高い金利にばかり目を奪われていては本質を見誤るのではないか。

日本人は投資対象として日本を見直す必要があるだろう。世界経済の中心は米国と中国を中心とした環太平洋圏に移っている。欧米から日中をみた「ファーイースト(極東)」の表現はもう当てはまらない。

日本には隠れた名企業がたくさんある。選球眼を磨き、個別株の運用を通じてもっと投資を楽しんでほしい。

=聞き手は日経QUICKニュース(NQN)矢内純一

=随時掲載

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