株式市場で印刷関連株やブライダル関連株の一角が動意付いている。安倍晋三首相が前週末、皇太子さまの新天皇即位に伴う新元号を即位1カ月前の4月1日に公表すると表明したのを受け、特需が見込める「改元関連銘柄」として注目が集まったためだ。もっとも今年改元があることは以前からわかっていた話。株価の急上昇は思惑先行の色彩が強く、持続性に疑問も残る。
印刷関連で上昇が目立つのは例えばカワセコンピ(7851、2部)。7日に続き8日も制限値幅の上限(ストップ高)まで買われた。同社は官公庁や企業、金融機関向けのデータ印字や書類加工などを手掛け、「平成」が新元号に変わることによる印刷物の刷り直し需要の恩恵を受けるとみられている。商業印刷に強い光陽社(7946、2部)や図書印(7913)も連日で大幅高になった。
印刷関連株は30年前、昭和から平成に切り替わる際も特需の思惑でにぎわった経緯がある。カワセコンピによると今年は「金融機関の店頭で使う伝票などの印刷需要が4月以降に発生する。現場はゴールデンウイーク返上になるかも」(総務部)と話す。
ブライダル関連では結婚相談所大手のIBJ(6071)やパートナーA(6181、マザーズ)、挙式を手掛けるワタベ(4696)の株価が足元で堅調だ。2000年に「ミレニアム婚」がブームになったように、新元号の最初の年に結婚したいと考える人が増える可能性があるためだ。
第一生命経済研究所によると日本の婚姻数は00年に前年比4.7%増と大きく伸びた。熊野英生首席エコノミストは今年についても00年の再現が期待できるとみており「婚活や結婚による需要は最大780億円になる」と試算する。企業側も「3カ月後に結婚式を挙げられる短期プランなど『元年』に合わせたキャンペーンをするかもしれない」(ワタベのIR担当者)とやる気満々だ。
ただし改元特需はあくまで一時的なもの。持続的な企業業績の拡大や株高の材料にはつながらない可能性が高い。特需といえるほどの受注増があるかどうかは企業によっても濃淡の差がある。
印刷大手の大日印(7912)は「世の中のデジタル化が進んでいることもあり、社内ではあまり印刷物の特需は話題になっていない」(IR担当)。凸版(7911)も「(新元号の使用は5月からなので)カレンダーの刷り直し需要は考えにくい。改元に伴う記念出版物の受注はありうるが現時点ではまだみえない」(広報部)。事業の多角化が進みカレンダーや伝票帳簿類への依存度が高くない印刷大手にとって、今回の特需はさほど実感がないかもしれない。
年間売上高30億円規模のカワセコンピも「改元特需の規模は30年前に比べれば小さい」と説明する。社会の変化により、すでに様々な書式が和暦から西暦に切り替わってしまっていることが一因という。
改元関連銘柄の活況には、現在の市場環境も一役買っている。米中貿易摩擦などで内外の株式相場が荒れるなか、国内印刷やブライダルビジネスは「外部環境に影響されにくい内需関連銘柄」(証券ジャパンの大谷正之調査情報部長)と映る。それらの業種のうち、値動きが大きくなりがちな中小型株に幕あいつなぎの物色が向かっている面がある。
7日に上昇した印刷銘柄のなかでも、共同印(7914)や野崎紙(7919、2部)は翌日は利益確定売りに押された。三木証券の北沢淳投資情報部課長は「腰の入った買いではないという点には注意が必要」と話していた。
〔日経QUICKニュース(NQN) 宮尾克弥〕
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