相場はランダム、戦略に「絶対」はない by 星野昭氏(シリーズ:ベテランに聞く)

「わかりやすい相場できっちりもうけ、わからない相場には手を出さない」。為替ディーラーとして最前線に立ち続けてきた三菱UFJ銀行の星野昭氏。「最初は失敗も多かった」と振り返ったうえで、「相場で勝つには毎日相場を見続け、楽をしようと思わないこと」と勝利に近道はないと諭す。【聞き手は日経QUICKニュース(NQN) 金岡弘記】

星野昭(ほしの・あきら)氏

1989年に一橋大法学部を卒業後、東京銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。主に外国為替ディーラーとして東京やロンドンでキャリアを積み、2018年7月から三菱UFJ銀行シニアフェロー金融市場部共同部長。東京外国為替市場委員会の議長を長く務めるほか、今年からGlobal FX Committee副議長

■テールリスクを味方につける

まだ駆け出しのオプショントレーダーだった1990年代、現在はユーロになっているドイツマルクの対ドル取引を一時まかされた。銀行のオプショントレーディングは顧客や銀行間同士の取引を通じて作られる「ポートフォリオ」を管理する。数%の相場変動が起きた場合には対応できるようにしていたが、テールリスク(可能性は極めて低いが起こるとダメージが大きい)への備えは不十分だった。

あれは、ちょうど結婚相手の両親にあいさつに行った日だった。ロシアでクーデターが起こり、市場が混乱していることは想像できたが(日本語の)ニュースは円の対ドル相場が大きく動いていると伝えるだけでそれ以上に相場への影響が大きいはずのドイツマルクに関しては何も報じていなかった。慌てて東京に戻ったものの時すでに遅く、途中で会社に電話をかけたら「帰ってこなくていい」と言われるぐらい大きな損を出してしまっていた。

クーデターの予想は難しい。それ以降、テールリスクについて深く研究するようになった。

当時の上司は「敏腕トレーダー」と呼ばれる人だった。彼らが「上がる」「下がる」と言えば実際にそうなるのを不思議に思っていたが、スポット(直物)部門に移って日々の需給を眺めているうちに自分も、かなりの確率で相場の方向性を当てられるレベルにまで成長した。毎日相場を考えることで見る目がいくらかは育ったのだろう。

そうした経験もあって98年のLTCM(ロングターム・キャピタル・マネジメント)危機の際にはテールリスクを味方につけられた。当時はロンドン駐在。危機を受けた相場急変時に取引に入れ込みすぎ、過労で倒れてしまったほどだ。

■分からない相場からは手を引く

相場の8割はランダム。ランダムな相場は上げと下げの予測がほぼ不可能だ。だから人工知能(AI)予測もなかなかうまくいかない。

基本は無理をせず、取引は最小限にとどめて多くを受け流す勇気が必要だろう。90年代に得た「悟り」もそこがポイント。わかりやすいときだけやり、わからなければ手を引くことに尽きる。

ただランダムな相場にも対峙の仕方はある。例えば値幅と出来高を調べ、値幅の大小と出来高の大小によって4つのパターンに分ける。ランダムな相場は回帰分析における中心回帰的な動きをするとされる。もし出来高が少なくて値幅が大きければ、いずれ戻る可能性は高いと判断して戦略をたてられる。

いずれにせよ自分の相場観を論理的に説明できるかが重要だ。もし体系づけられれば、倒れるほどに精力を傾けた過去の取引パターンの機械化・自動化が可能になる。かつては考えすぎて頭がもうろうとし、夢では真っ暗な中で機械だけ動いている不気味なディーリングルームが浮かんできた。

現在の為替相場は他の市場との相関が強まっている。市場は昔のように為替と金利を分けて見てはいない。株や商品も含めすべての市場が密接に連関している。株や商品、債券それぞれの上げ下げに触発されて為替が大きく動く。その震源地を見極められないとディーリングには絶対に勝てない。

■高金利通貨の取引は甘くない

世間ではうまいトレーダーの条件として「きちんとストップロス(損失を抑える目的の注文)を置ける人」がよく挙げられる。ストップロスを置くと確かに安心だがその結果、緊張感なく寝ていては絶対に勝てない。一定の相場水準に達したら電話連絡をしてもらい、それを受けて実際に注文するかしないかを決める「コールオーダー」だけを置く。修羅場でストップロスの是非を判断する苦しい状況に耐えてこそ勝てる力を身につけられると思う。

相場にどっぷりつかっていた若いころは、短期的な相場の流れに乗る「順張り」でアグレッシブに取引をしていた。半面、最近は逆張りも多い。相場に対峙する際のストラテジー(戦略)に絶対はない。自分にあったスタイルを見つけることが大切だ。

個人の資産運用では引き続き高利回りのエマージング(新興国)通貨が人気だが、見た目の高い利回りにだまされてはいけない。プロの世界では0.1%単位で利回りを確保しようと日々競っているのに、リスクをとったらすぐに数%単位の収益を得られるなどというほど為替は甘くない。

今夏の「トルコショック」ではかなりの投資家が痛手を被った。急落局面で少しずつでも逆張りを続けられる体力がないと長い勝負には勝てないだろう。

高金利通貨は売りも簡単ではない。「ショート(売り持ち)はスポットで勝ち、ファンディング(調達)で負ける」という。売り持ちに伴って不足する資金は為替スワップなどを通じて借り入れるが、当然、高い利息を払わなければならない。ごく短い期間のうちに為替差益を得られなければコスト負けしてしまう。

主要通貨はボラティリティー(変動率)の低い状態が恒常化している。だが今後は要注意だ。為替相場の大変動は景気循環の転換点で起こりやすい。足元ではその転換点が近づいているのではないか。社債などのクレジット(信用)市場や株価に目を凝らしておきたい。

正確な見極めは容易ではないが、これまで安定していた主要国の通貨にもトレンドが生じる可能性は十分ある。ボラティリティーを生かして為替差益を積みあげるチャンスが来るかもしれない。

(随時掲載)

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