相場波乱時こそ、自らをコントロールする by 北野一氏(シリーズ:ベテランに聞く)

「市場の世界では自らをコントロールできるかが全て」--。1982年に金融の世界に足を踏み入れて以来、債券から為替、株式まで幅広い業務に携わってきたみずほ証券エクイティ調査部長の北野一氏はこう強調する。金融を巡る環境はめまぐるしく変化しており「過去の経験や教訓を生かすという発想ではなく、日々考えを更新していくことが必要」と指摘する。【聞き手は日経QUICKニュース(NQN)長谷川雄大】

北野一(きたの・はじめ)

1982年に大阪大学法学部を卒業後、三菱銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。資金証券部で債券トレーディングなどに携わる。97年に東京三菱証券(現三菱UFJモルガン・スタンレー証券)に移り、日本株チーフ・ストラテジストを務める。2006年からJPモルガン証券やモルガン・スタンレーMUFG証券、バークレイズ証券でそれぞれチーフ・ストラテジストを務める。16年にみずほ証券に入社。エクイティ調査部長を務め、18年8月からエコノミストも兼任

■ブラックマンデーで未熟さを痛感

金融自由化まっただ中の1982年、当時の三菱銀行(現三菱UFJ銀行)に入社した私は、85年に債券ディーリングを行う資金証券部に異動した。世は国債の大量発行時代。規制の緩和・撤廃で新しく銀行に認可された業務だ。当時の銀行にとっては新しい業務で経験者がいない。若手ではあるが、指標銘柄は自分が中心に売買していた。

そこで自分の未熟さを思い知った出来事がある。87年10月19日の「暗黒の月曜日(ブラックマンデー)」だ。米国株式市場で、ダウ工業株30種平均が1日にして500ドル超下落した。下落率は23%と、世界恐慌時を上回って史上最大。米市場では株が売られるとともに債券も売られた。ただ、さすがに株の下落が激しく、徐々に米債券は「フライト・トゥ・クオリティー(質への逃避)」という形で買い戻された。私はその時、債券で金利低下方向にポジションを持っており、日本の債券も買われていればそのままで良かった。しかし、なぜか日本の債券は買われず、金利は高止まりしたまま日本市場に戻ってきた。ロスカットのルール上、寄りつきでそのポジションをクローズせざるを得ず、午前中はぼうぜん自失だった。

後から思えば、87年5月当時の指標銘柄の利回りは2.55%(10年債)まで下がっていた。当時の短期金利が4%くらいだったので、大幅な「逆イールド」だ。指標銘柄のプレミアムといってもあまりにもミスプライシングだが、それが放置されるくらい市場が未熟だったのだろう。そんな逆イールドの巻き戻しが始まり、債券先物で大損する事業法人が出てきて、その後に起こったのがブラックマンデーだった。米国とドイツは金融政策を巡って不協和音があり、米国が金融引き締めに向かったり米国株が極めて割高に買われていたりと、大波乱の兆候はすでにあったのだ。

もう少し全体像がみえていれば、ロスカットせずに当時組んでいた金利低下方向のポジションを生かすことができたと思う。しかし当時は日々、目の前にある日本の指標銘柄の値動きしか見えておらず、視野があまりにも狭かった。後場になって再度ポジションを金利低下方向に復元したが、絶好のきっかけがあったにもかかわらず、初動を慌てて大間違いをした。何が起ころうと常に落ち着いていること、しっかりとできる限りの情報を収集することが大切だと痛感した。

■心に刺さった先輩ディーラーの言葉

88年にニューヨークに転勤した。大変尊敬できる先輩ディーラーとの食事の際、非常に印象に残っている言葉がある。どんなアプローチで相場をみているのかと聞かれ、私は「予測精度を上げることで、収益を大きくできる」と答えた。すると、先輩の言葉は「そのアプローチは100%間違っている」。「予測精度を上げても、買いたい時に本当に買えるのか、売りたい時に本当に売れるのか。本当の買い場や売り場とは、相場が大きく動いて怖くて売買できない時だ。その時に自分をコントロールできるか否かが全てだ」と言うのだ。ブラックマンデーで失敗をした後だったので、その言葉は心に刺さった。

ニューヨークで米国債のディーリングに携わった後は、日本に戻って為替アナリスト業務に従事した。日本の銀行に対して子会社を通じた株のビジネスが認可され、その立ち上げで97年に東京三菱証券(現三菱UFJモルガン・スタンレー証券)に移って株式リサーチを担当した。債券から為替、株式まで幅広く経験したことで、各分野で「感覚のようなもの」を培うことができたと思う。金融の世界では、どれくらいの値幅や金利が動いたら心理的に動かされるのかなど、テキストを読むだけでは分からない感覚がある。どの分野でも相場という意味では同じで「感覚のようなもの」や経験は生かせる。

ただ、金融は過去の学習や経験だけで乗り切れる単純で楽な世界ではなく、日々新しく学ぶことのほうが多い。常に考えをアップデートし、新しい考え方を吸収していかなければならない。金融界では繰り返し、様々な理論が生まれては廃れる。例えば、教科書には「株は業績と金利で決まる」と教えるが、実は正しくない。正確には「業績か金利で決まる」であり、なぜ違うのかを常に考えていかなければならない。

■自分の「性能」や「歩留まり」を知るべし

これまでの経験で特に苦労したのは、トレーダーではなくリサーチに移ってからで、アイデアが浮かばない時だ。ただ、そういう時は焦らずに情報収集作業に努めること。自分の「性能」や「歩留まり」を知ることも大事だ。自分の場合は1のアウトプットを出すために100の情報をインプットしなければならない。自分の性能を知るために大学までの学校教育があると考えている。
 
マネジメントとリサーチでは仕事に違いがあるようにみえるが、本質は変わらない。異なるのはインプットとアウトプットの形だけで、インプットがなければアウトプットが出ないことに変わりはない。他社との競争という意味で、勝機があるのは案外マネジメントだ。リサーチは誰もがインプットの重要性を知っているのに対し、マネジメントの仕事では意外とインプットが重視されていないためだ。マネジメントにとって必要なインプットは何かをつかんだ者が勝つ。

(随時掲載)

 

 

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