「日経平均10万円」には根拠がある by 武者陵司氏(シリーズ:ベテランに聞く)

修羅場をかいくぐってきた人々の言葉は重い。そんな市場の大ベテランたちに大変動を乗り切るための相場との向き合い方を尋ねる「ベテランに聞く」。シリーズの第1回目、武者リサーチ代表の武者陵司氏は、40年以上にわたって株式アナリスト・ストラテジストとして市場と対峙し、その分析力は高く評価されている。武者氏は市場を動かす最も根本的なメカニズムは「企業の価値創造である」と指摘。今の日本企業は「オンリーワン領域」で戦う非常に強いビジネスモデルを築いており、日経平均株価の10万円突破が視野に入っていると主張する。【聞き手は日経QUICKニュース(NQN)=大西康平、張間正義】

 

武者陵司(むしゃ・りょうじ)氏
1973年に大和証券入社。企業調査アナリストとして自動車や電気機器などのセクターを担当。88~93年までニューヨークに駐在し、チーフアナリストとして米国のマクロ・ミクロ市場を調査。97年にドイツ証券調査部長兼チーフストラテジスト、05年に副会長を経て、09年に武者リサーチを設立して独立し、代表を務める

 

■市場を動かすのは、企業の価値創造

私が40年以上手掛けてきたリサーチという仕事は、世の中の背景にある理屈や道理を読み取り、仮説を立てて将来を展望する作業だ。因果関係と論理を使って、誰も知らないことについて「謎解き」をしていくようなもの。非常にエキサイティングな行為で、世の中を突き動かす一番大きなメカニズムを捉えるのが大事だ。

最も重要と考えているのは「企業による価値創造」だ。健全、かつ持続的に企業が価値を生み出せているかがポイントとなる。それが株価や金利といった市場価格を動かし、国内総生産(GDP)などの実体経済を動かし、さらには政治体制をも動かすと考えている。

私は1997年から2002年までの日本株に弱気の意見を出し続け、実際に的中させた。戦後の日本企業の価値創造の源泉は、米国から導入した技術を使い、円安と低賃金によって価格競争力のある製品を作り、米国へ輸出するというビジネスモデルだった。しかし、1980~90年代のバブル崩壊と米国による貿易摩擦によってこのモデルは崩壊した。その後、新たなビジネスモデルを生み出せなかったと考えたためだ。

05年以降は一転して日本株に超強気の意見を出し、また的中させた。03年のりそな銀行への公的資金の注入をきっかけに、信用収縮が止まるというパラダイム転換があったことがきっかけだ。さらに、日本企業の新たな価値創造モデルとして、日本に比べてコストが安い海外の労働力を活用しながら、高い技術力で稼ぐというあり方が見えてきたためだ。

ただ、07年7月以降、日本株に強気のスタンスを維持したのは大外れだったと考えている。リーマン・ショックがあっても日本企業の価値創造は揺るがないと確信していた。ただ金融危機の伝染力や、実体経済への影響力を軽視してしまった。私の認識に誤りがあり、学びとして修正している。

■「オンリーワン領域」で戦う日本企業は圧倒的に強い

私は2033年に日経平均株価が10万円を突破すると公言している。「そんなばかな」と思う方もいるかもしれないが、世の中の根本にある日本企業の価値創造の力から論理的に考えた結論だ。今の日本企業は「オンリーワン領域」で戦う、非常に強いビジネスモデルを確立した。

日本企業は国際分業が進む中で、周辺及び基盤の分野で圧倒的な強みを持っている。例えばデジタル機器が機能するためには、半導体などの中枢分野だけではなく、半導体が処理する情報の入力部分をつかさどるセンサーや、モーターなどのインターフェースといった周辺分野が必要だ。また中枢分野の製造工程を支える素材や部品、装置などの基盤分野も欠かせない。

周辺と基盤の分野に強みを持つ最大のメリットは、価格競争に巻き込まれるリスクが極めて低いことだ。今後、ハイテク業界はあらゆるモノがネットにつながる「IoT」関連投資が活発になり、極めて高い成長率となるだろう。その中で、希少性が高く、価格支配力が維持できる分野に強い日本企業は、極めて有利なポジションに立っている。

■過去の経験則が通用しないパラダイム転換を読み取る

アナリストの仕事も、昔と今とでは規制の強化などで大きく変化しているが、根本は変わらないと考えている。今後の社会では、過去の経験から予測できる広義の「不確実性」は人工知能(AI)で推測できるようになる。単なるトレーディングは誰がやってもAIを用いれば同じことになり、利益が出なくなるだろう。そこで、人間であるアナリストに求められるのは、過去のデータや経験則からは全く予測できない、狭義の「不確実性」を読み取ることだ。世の中のパラダイム転換を読み取ることが、金融のリターンの源泉となる。それに必要なのが仮説を立てて将来を見通すという知恵、つまりリサーチの力だ。

(随時掲載)

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