インターネット上の仮想通貨ビットコインが上場投資信託(ETF)を巡る動きに揺れている。米国でのETF承認に対する期待からコイン価格は回復傾向にあったが、早期の承認実現は難しいとの慎重論が徐々に増え、相場の調整を促している。
情報サイトのコインデスクによるとビットコインのドル建て価格は日本時間25日に一時1ビットコイン=8470ドル程度と、5月下旬以来の高値を付けた後に失速。27日朝方には7850ドル程度と、ピーク比で約600ドル下げた。
下落のきっかけは、米著名投資家のウィンクルボス兄弟が上場承認を求めていたビットコインETF「ウィンクルボス・ビットコイン・トラスト」について米証券取引委員会(SEC)が再び不承認を決めたと公表したことだ。兄弟の申請は昨年3月に一度却下され、請願書が改めて出されていたが、SECはこれも拒否した。SECは声明で、仮想通貨の詐欺や価格操作などの不正行為を防ぎ、投資家を保護する機能が取引所に十分備わっていないとの懸念を示している。
ビットコインETFの承認はウィンクルボス兄弟のほか、複数の団体が承認獲得を目指している。とりわけ市場関係者が注目するのは、シカゴ・オプション取引所(CBOE)が申請し米資産運用会社が手掛けるビットコインETFだ。
CBOEのETF承認を巡る議論の結論が出るのは早くて8月10日。話し合いが長引けば9月に延長される。一方、金融当局の国際機関である金融活動作業部会(FATF)は仮想通貨に関する国際基準の明確化を、次回20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議が開かれる10月までに求めているもようだ。
国際通貨研究所の志波和幸主任研究員は「将来的なETF市場の拡大は期待できるものの、ルールが明確に決まるまでは簡単には承認は下りないだろう」と指摘する。ETFが先に承認されてしまうと、国際基準の重要性が薄れてしまいかねない。「判断は来年3月あたりまで持ち越されるのではないか」(アルトデザインの葵聡恵シニアアナリスト)との声も出ている。
ETFは通常、複数の銘柄をパッケージ化している。ただビットコインETFに含まれるのはビットコインだけで、イーサリアムなどのオルトコインに分散投資ができるわけではなさそうだが、ビットコインに絞ることで、交換所ごとに価格が違う「一物多価」や仮想通貨を保管する電子財布であるウォレットのハッキングリスクなどの問題点を克服できると考えられている。「CBOEなど信用力の高い取引所に上場すれば機関投資家や個人が安心してビットコインに投資するのが可能になる」(アルトデザインの葵氏)。
ビットコインは、物価上昇率が年内にも100万パーセントに達する見込みのベネズエラなど自国通貨への信頼が著しく低い国では逃避先としての「実需」が見込める。投機取引が相場の行方を左右しているほとんどの先進国でも、ETFで市場に厚みが出れば、投資対象としての可能性は広がる。そのためにはFATFなどによる厳格なルール整備が不可欠で「規制当局の仮想通貨を巡る議論は米国のみならず、世界各地でこれまで以上に活発になる」(セレントの柳川英一郎シニアアナリスト)と見られている。前途はまだ多難だ。
【日経QUICKニュース(NQN) 尾崎也弥】
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