米朝首脳会談を12日に控え、韓国などアジアの株式市場で「頭の体操」が繰り広げられている。トランプ米大統領が3月8日に会談受諾を表明し、緊張緩和に伴い北朝鮮への経済協力が活発になるとの思惑が浮上。一部銘柄に先回り買いが広がった。その一手が吉と出るか、肩すかしに終わるか。投資家も首脳会談の結果に注目している。
■韓国は建設・鉄道で大幅上昇銘柄も
韓国市場で上昇が目立つのが建設や鉄道株だ。中断している南北経済協力が再開すれば、北朝鮮のインフラ整備などで恩恵が大きいとみられるためだ。先週末8日まで3カ月の株価上昇率をみると、なかでもセメント株の上昇が目立ち、現代セメントは4倍強、星信洋灰も2倍以上になった。首都平壌で高層ビル建設などが増えると見込んでか、現代エレベータの株価は約8割上昇した。
4月の南北首脳会談では、鉄道や道路の整備を目指す方針を打ち出した。ソウルから平壌を経由し中朝国境付近を結ぶ「京義線」と朝鮮半島東部沿岸の「東海線」の2線や、道路の整備を進めるとみられる。鉄道車両・システムなどを手がける現代ロテムの株価も2倍以上になった。
6月に入り一時的に買われる場面があったのがカジノ関連株だ。金英哲(キム・ヨンチョル)朝鮮労働党副委員長が1日にトランプ大統領と会談した際に「カジノを含むリゾート施設建設計画への協力を求めた」と韓国の一部メディアが5日に伝えた。グランド・コリア・レジャーは同日6.5%、パラダイスは5.8%上昇した。
■中国は観光株が上昇、国境銘柄は期待剥落
中国市場では、北朝鮮との国境地帯に本拠を置く銘柄に買いが集まるケースが見られた。直近3カ月で3割ほど株価水準を切り上げた長白山旅遊は、吉林省を本拠とする旅行会社。北朝鮮との国境地帯にそびえる長白山(朝鮮側の名称は白頭山)一帯を中心とした観光事業を手掛ける。ただ、「北朝鮮関連」にはさえない銘柄も多い。吉林電力や不動産の長春経開などは一時的に上げる場面があったが、勢いは続かなかった。
■シンガポール、ホテル株が悲喜こもごも
米朝首脳会談の会場となったシンガポール企業にも影響は及んでいる。会談のシンガポール開催が決まった5月11日以降、会場候補として名前が挙がった「シャングリ・ラ・ホテル」を運営する香港市場上場の香格里拉亜州(シャングリ・ラ・アジア)は、先週末までの約1カ月で株価が1割ほど上昇した。中国と台湾の首脳会談の舞台となった2015年11月にも、同社の株価は堅調に推移した経緯がある。今回は会談の会場としての座は逃したがトランプ米大統領の宿泊先となり、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の宿泊先の米マリオット・インターナショナル運営の「セントレジスホテル」とともに注目されている。
一方で、厳戒態勢が続くため短期的には収益に悪影響が出そうな企業もある。リゾート開発大手ゲンティン・シンガポールの株価はこの1カ月でみると上げているが、会談がセントーサ島で開かれると決まった5日以降は同島で運営するカジノやテーマパークへの集客に支障が出かねないとして売りに押された。同じく厳重警備区域の市中心部にホテルを保有するCDLホスピタリティ・トラストの株価は低迷している。
【NQN(日経QUICKニュース)香港=安部健太郎、桶本典子、NQNシンガポール=村田菜々子】
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