史上初の米朝首脳会談を6月に控え、東アジアの一部の投資家の間で「北朝鮮人気」が盛り上がっている。北朝鮮と国際社会の関係が改善し、あわよくば経済の改革・開放まで進めば、周辺地域や関連ビジネスを手掛ける企業が潤うのではないか――といった期待が背景にある。当然ながら、こうした動きは思惑先行の域を出ない。市場関係者や現地メディアの空騒ぎに終わる可能性も大だ。
■中朝ビジネス関連株もにぎわう
中国国家統計局が16日発表した4月の新築住宅価格のデータに、ある「異変」が起きた。中国の主要70都市のなかで前月比の値上がり率が最大となったのは遼寧省丹東市(2.0%上昇)。言わずと知れた北朝鮮との国境の街で、中朝貿易の7割を担う。遼寧省を含む中国東北部は概して景気が低迷しているが、丹東市だけは別のようだ。
住宅価格は米朝間の雪解けムードとともに急上昇し、市政府は今月14日に住宅購入制限策を打ち出したほどだ。似たような話は韓国にもある。台湾の自由時報(電子版)が先週伝えたところによると、北朝鮮との軍事境界線に近い非武装地帯(DMZ)周辺の地価が上がっているという。
「北朝鮮は経済的な未踏地だ」(台湾の週刊誌・鏡週刊)。朝鮮半島情勢への注目が高まるにつれ、アジアの投資家やビジネスマンの間でこんな認識が浮上している。香港紙の明報は4月下旬、韓国のコンサルティング会社の分析として、北朝鮮はインフラや物流・消費、観光など7つの分野で商機があると伝えた。鉄鉱石などの地下資源が豊富なほか「アパレル生産の基礎技術が普及済みで、同産業に強みを持つ韓国と手を組めば、世界に通じるサプライチェーン(供給網)を形成することも可能」(鏡週刊)との期待がある。
こんな思惑を背景に、中国・上海株式市場では北朝鮮とゆかりのある企業の株式がにぎわっている。例えば丹東市を本拠とし北朝鮮向けのバスを生産したこともある遼寧曙光汽車集団の株価は、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)委員長が電撃訪中した3月末に急伸した。北朝鮮に近い中国・吉林省の旅行会社である長白山旅遊も今年に入り堅調に推移している。経済交流の活発化をにらんだ動きだ。
■「平壌に高層ビル林立」のびっくり予想
市場には、金委員長が過去の指導者よりも経済の改革・開放に前向きなのではないかとの観測がある。今月には金氏の側近である朴泰成(パク・テソン)朝鮮労働党副委員長を団長とする視察団が訪中し、「北京のシリコンバレー」と呼ばれる中関村地区を訪れた。スイス留学経験もある若い金氏は西側の経済体制になじみがあるのではとの見立てだ。
香港メディアには、北朝鮮が市場経済の導入に成功すれば「首都の平壌に、米ニューヨークのマンハッタンのような高層ビルが林立する『ピョンハッタン』が出現する」(明報)とのビックリ予想すら登場した。
もちろん、現時点では米朝首脳会談が予定通り開かれるかどうかも不確実で、バラ色のシナリオが実現する保証はまったくない。北朝鮮の国内総生産(GDP)は韓国の約50分の1、中国の400分の1程度にすぎず、多少経済成長したところで周辺の国や企業への恩恵は知れている。
市場関係者の間では「住宅や関連株への買いは完全に思惑先行。余った投資資金が話題に飛び付いている面が大きい」(国浩資本ヘッド・オブ・リサーチの袁志峯氏)との冷静な見方も多い。時ならぬ北朝鮮投資ブームは、貿易摩擦などで先進国の資産を買いにくい金融・資本市場の現状の裏返しといえるだろう。
【NQN香港・桶本典子】
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