「もう絶滅危惧種とは呼ばせない」 ディーリング収益化へ山和証の挑戦

 今でも記憶に残る日経金融新聞の名物コラム「スクランブル」がある。2002年5月21日に掲載された「影響強める短期資金――ディーラー栄え個人消える?」だ。当時、東京・兜町だけで3000人以上の契約ディーラーが日計り商いに汗を流していたといい、隆盛を極めていた様子が伝わる。あれから15年、地場証券は相次いでディーリング部門を閉鎖し、今や短期売買の中心はネット証券を利用する個人投資家に移った。証券ディーラーは「絶滅危惧種」とまで揶揄されるようになった。だが、時代の流れに逆らおうとする証券会社もある。

 

 以下のチャートは山和証券のディーリング部門の陣容の推移だ。人員を増強しただけでなく今年4月には新卒4名を採用するなど急速な若返りもはかった。15年4月に大阪にはディーリング室を創設、16年4月にはシンガポールにも支店を開設しディーラーを配置している。

 ※山和証券提供

 

「ディーリング部の収益は市場環境に左右されにくい体質となり高水準で安定しています」と話すのは工藤哲哉執行役員ディーリング部長。秘訣は運用手法が多様なディーラーをそろえたことにあるという。

 そもそも00年代前半に市場の影響力を強めたディーラーが衰退した理由は、規制の強化と東京証券取引所の売買システムの刷新が背景にあるとされる。証券会社は自己資本比率の維持に神経質となり、ディーラーに供与するポジション=リスク許容度を絞るようになった。一晩で運用環境が変化しかねず、宵越しのポジションすら厳しくなった。おのずと多くのディーラーは日中の回転売買に注力し、運用手法の多様化から遠ざかっていった。
 そこに追い打ちをかけたのが、10年に東証が導入した高速取引に対応した現物株の売買システム「アローヘッド」だった。妙味のある注文が見えても発注する前に消化されてしまう現象が恒常化。外国人投資家が開発してきた超高速取引(HFT)の日本市場参入が日計りディーラーの「飯のタネ」を奪った。

 

 工藤氏が進めたのがポジションの自由度の拡大。「オーバーナイトで持ち越すのはザラにあります。ディーラーによっては半年以上も持ったままです。これらのディーラーは日中、板をあまり気にしません。個別企業の業績・財務分析に注力しポジションを構築しています」。以前までのディーラー像とはかけ離れている。
 加えて日本株以外の金融商品の売買が可能なプラットフォームの整備も進める。「海外市場の先物トレーディングを積極的に手掛けるディーラーも出てくるようになりました」(工藤氏)。日本株は円相場や外国人投資家の売買動向に大きな影響を受ける。投資環境の変化がディーリングの収益を直撃しやすかったが、投資対象や運用手法を多様化したことで市場環境の変化に左右されにくい収益構造へと変化し始めた。
 その分、マネジメント側には高度なリスク管理体制が必要となる。自宅でも部下の損益状況がリアルタイムでチェックができるようにした。社内のミドルオフィス、バックオフィスからも全面的な協力を得た。「ディーラーが能力を発揮できる環境を整備するため、管理部門の担当者が尽力したことも非常に大きい」(工藤氏)。

 ここで疑問も浮かぶ。短期売買のみならず、オーバーナイトのポジションを持つなら個人投資家もできる。収益をそのまま自分の資産にできる個人のデイトレの方が魅力的ではないか。また、かつては市場への流動性供給という存在意義が明確だったものの、HFTの登場により役割は薄まった。

 工藤氏にたずねてみても明確な回答はなかった。だが「流動性供給の役割を放棄するつもりはありません。また、様々なスタイルで売買に携わるプレーヤーが多様性に乏しい日本市場には必要だと思います。運用をビジネスとして担える人材を育てる機能の一端を証券会社の自己売買部門が担う必要性があるのではないでしょうか」と返してくれた。即戦力にはならない新卒を採用する狙いもここにある。

※ディーラーが何を考え悩んでいるのか。工藤氏(後)は常に対話を心掛ける

 証券ディーラーの存在感が薄まってから長い年月が経った。この間、業界から去ったプレーヤーも多いが、依然として第一線で活躍するディーラーもいる。山和証券のみならず新卒を採用する証券会社もある。単なる短期筋でも流動性供給者でもない第3の道。証券会社のオフィスにいるディーラー達は新たな存在意義を確立するための挑戦を始めている。

【コンテンツ編集グループ:岩切清司】

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