欧州連合(EU)が2018年1月に導入する新金融規制のスタートまであと半年に迫った。同規制によりアナリストの調査ビジネスが縮小し、金融機関の淘汰が進むとの見方もある。こうしたなか、シティグループは世界的に株式関連業務を強化。日本でもシティグループ証券は選ばれるリサーチを目指し調査部門の人員を増加する独自攻勢に出た。
MiFID2で転換期迎える調査ビジネス
「バイサイド、セルサイドに関係なく、垣根を越えた競争になる」――。こう話すのはシティ証の金井孝男調査本部長だ。同氏は、来年に導入される第2次金融商品市場指令(MiFID2)が今後の調査ビジネスを左右するとみている。MiFID2は07年にEUで施行された金融規制を強化し、投資家保護を手厚くしようというもの。具体的には、運用会社が投資銀行へ支払う費用を金融商品の売買手数料と、調査費に分離して管理・開示することが求められる。これに伴い、投資銀行へ支払う調査費を見直す動きが広がり、将来的なアナリストの必要性を問う声もある。
シティグループ証券 調査本部長 金井孝男氏
日本株の調査部門を強化、深堀りレポートでシェアアップねらう
シティグループは新規制をにらみ、約3年前からグローバルでエクイティ部門の強化に着手した。この一環としてシティ証でも日本株と投資戦略をカバーする調査部門をそれまでの約25人から33人に増加。金井氏は「深堀りした質の高いレポートを提供することで付加価値を高め、シェアアップを図る」と人員強化の狙いを語る。
例えば、同社は国や地域、担当業種を越えてグローバルのセクターアナリストが共同で執筆するプレミアムレポートを発行している。話題のテーマについて世界の動向を分析したボリュームがあるレポートだ。現場からボトムアップで提起された話題のテーマを「プロダクトマネージャー」や「グローバル・インダストリー・グループ・リーダー」と呼ばれる橋渡し役が吟味し、執筆担当者を選定する。
日本国内には唯一のグローバル・インダストリー・グループ・リーダーとして、テクノロジー担当の江沢厚太氏が在籍しており、同氏をリーダーとして昨年10月にバーチャルリアリティーをテーマとしたレポートを公表した。こうした深堀りレポートはアウトプットまでに3カ月以上の期間を要することもあるという。
日本国内においても昨年からアナリストに対する新しいガイドラインが定められ、上場企業に未公表の業績を取材することが不可能になるなど事業環境は厳しい。だが、金井氏は「米国では発行体が主体的に情報公開している。将来的には日本も同様の状況になるかもしれない。日本株リサーチのビジネスチャンスはある。シティが株式業務に力を入れていることについて投資家には広く理解され、シティと取引したいという安心感に繋がっていることを感じる」という。
【シティの調査部門について】
グローバルで総勢1000名超。このうちエコノミスト50名、各プロダクト別ストラテジストやクオンツ・アナリストが85名、300名のファンダメンタル・アナリストは約70カ国、計3500銘柄をカバー。日本におけるシティの調査部門は、日本株のカバー銘柄数が外資系証券で最大規模。ほぼ全てのセクターをカバーする日本株のほか、経済、金利、外債など幅広いカバレッジを備えている。
【QUICKコンテンツ編集グループ:根岸てるみ、岩切清司】