世界市場は依然として主要国の政治動向に関心を寄せている。当面のテール・リスクとして意識される仏大統領選挙。先日来日したサクソバンクのチーフエコノミストであるスティーン・ヤコブセン氏は「EU内の選挙を気にかけているのは外国人だけ」と冷静な欧州市場の雰囲気を語る。同氏との一問一答は以下の通り。
仏大統領選でルペン勝利の確率は10%以下
──フランス大統領選挙の第2回の投票でルペン党首が勝利する可能性はどの程度ですか?
「10%以下だとみている。仮に大統領に就任することができたしても、フランスを掌握することはできない。フランスの議会選挙が6月に実施され、50対50で旧政党が分かれており、欧州連合(EU)離脱ための選挙を実施することはできない。
──フランス大統領選挙終了後、金融市場はどう反応するのでしょうか
「現在、ユーロ・フランス株式・仏債券はディスカウントがある状態だ。フランスの大統領選挙終了後にユーロは大幅な上昇を続けると確信を持っている。ユーロのフェアバリューは1.12150ドルといったところか」
「フランス株式も買いだとみている。欧州市場の成長株は米国やグローバル株式をアウトパフォームするだろう」
欧州人はEU内選挙を気にかけていない
──フランス国債とドイツ国債の利回り差が開いています。選挙後には縮小に向かいますか?
「フランス国債とドイツ国債の利回りの差は50~60bp程度あると思うが、半分程度に縮小すると考えている。EU内の選挙を気にかけているのは外国人だけだ。欧州の人間は気にかけていない。アジア圏や米国の投資家はEUの選挙のメカニズムを十分に理解しないまま、懸念している。憲法ではルペン党首は大統領に就任できたとしても、EU離脱のための選挙を実施することはできない。フランス憲法の89条では議会の60%の承認が必要だ」
──最近、ユーロの対ドル相場で上昇が目立ちますが、背景には何がありますか
「欧州中央銀行(ECB)は現在、テーパリング(量的緩和による資産購入の買入れ縮小)をにおわせており、米連邦準備理事会(FRB)の金融政策といずれ歩調を合わせるだろう」
──欧州景気が持ち直しています。ECBの金融政策はどう見るべきでしょうか
「4月からECBは量的緩和(QE)の月間買入額を減らす、もしインフレ率のモメンタムに変化がなければ、夏頃に金融引き締めの意図を何らかの形で市場に伝え、9~10月頃に金利の引き上げなどを議論するだろう。4月からQEの月間の買入額を800億ユーロから600億ユーロに減らすなど、ECBの現行の政策はテーパリングの方向に進んでいる」
今後1年間、ユーロは1ユーロ=1.15ドルまで上昇
──ユーロ相場の上昇もECBの政策を織り込んだ展開といえるのですか?
「間接的な言い方をするとドルの上昇はピークアウトした。ドルは昨年12月の水準まで戻ることはないだろう。ユーロは選挙に対する不安でディスカウントがある状態だ。今後1年間では、ユーロは少なくとも1ユーロ=1.15ドルまで上昇するだろう。ユーロの対ドル相場のレンジは今後6カ月後ごとに切り上がっていくだろう」
「米国経済は大統領選挙以降のリフレーショントレードで過大評価されている。しかし、今後1年半後に米国が不況に陥る可能性は50%以上だとみている」
──え?米国が不況に?足元では景気拡大が続き、今後はトランプ政権の財政出動なども期待できますが…
「国内総生産(GDP)全体に占める新規の貸し出しの変化を示すクレジット・インパルスが停滞している。クレジット・インパルスの低下と経済の影響は9カ月の遅行スパンがあり、世界中で現在クレジットが低下しており、経済成長にとって下振れリスクとなる。貸し出しは引き締められており、米国の経済成長が過去1年半で2%を超えていないことから、米国が再び不況に陥ること可能性がある」
──米国が不況に陥った場合、どのような展開が想定されますか?
「トランプ政権はFRBに金融緩和策を実施するように強いるだろう。たとえ、米10年債の利回りが1.15%になったとしてもサプライズではない。景気刺激策も実施するだろう。トランプ大統領の政策は読みやすい。実行しようとしている政策は50~60年代の経済政策と同じで、50~60年代に憧れている。一方で、生産性・テクノロジーといった未来に対する熱望がない。政策は国家主義的なものになり、米国の生産性や経済成長にとって悪影響を与える。一方で、実行できる政策を予測するのも難しいのだが」
(聞き手はQUICKデリバティブズコメント西本)