日経QUICKニュース(NQN)=尾崎也弥、写真=Mark Thompson/Getty Images
ホンダの株価が持ち直し基調にある。2020年3月期は減益を見込むが、来期以降は販売台数の持ち直しやコスト削減効果で業績が改善に向かうとの期待が株価を支えている。国内自動車メーカーで唯一、参戦している自動車レースの最高峰、F1で培った技術力やブランド力も強い武器となりそうだ。
ホンダは8日発表の決算で今期の連結営業利益(国際会計基準)予想を前期比5%減の6900億円と、従来予想の6%増から引き下げた。得意とするインド市場での二輪車販売の落ち込みや、軽自動車「N―WGN(エヌワゴン)」で電動パーキングブレーキの不具合が発生し9月から生産を停止しているのが響く。
しかしホンダの翌営業日の株価は4%超上昇し、足元でも高値圏を維持している。18日も一時、前週末比1%高の3182円と、年初来高値(3290円)は射程圏内だ。決算と同時に発表した1000億円を上限とする自社株買いだけでなく、業績への期待もじわりと広がっているようだ。
7~9月期でみると、営業利益は3%増となった。販売費の減少やコスト削減で増益を確保した。エヌワゴンは20年初めに生産を再開するもようで、発売を延期していた新型フィットも2月に発売予定だ。米国では多目的スポーツ車(SUV)「CR―V」の販売が伸びている。SMBC日興証券の木下寿英シニアアナリストは「販売台数の持ち直しと為替要因で今期の営業利益は7500億円程度まで上振れしそうだ」と話していた。市場では来期は業績回復がより鮮明になるとの見方も多い。
ホンダは工場再編や部品会社の統合を進める一方、技術力にはさらに磨きをかける。今期の研究開発費は8600億円と、前期から5%増える見通しだ。決算会見でも自動運転や電動化など「CASE」時代に備えて開発を続けるホンダの意志の強さがにじみ出ていた。
電動車の開発にはF1も貢献している。ホンダは今季、イタリアのトロロッソに加え、英国の強豪チーム、レッドブル・レーシングにもエンジンなどのパワーユニット(PU)を供給している。PUにはホンダジェットの技術を取り入れた。
創業者・本田宗一郎氏の誕生日でもあった17日のブラジルグランプリ(GP)ではレッドブルのマックス・フェルスタッペンが今季3勝目を挙げ=トビラ写真、2位にトロロッソのピエール・ガスリーが入った。ホンダにとってワンツーフィニッシュ、ブラジルでの優勝はともにアイルトン・セナらと黄金期を築いた1991年以来となり、ホンダのF1復権をより印象づけた。
「勝っておごることなく、勝った原因を追求して、その技術を新車にもどしどし入れていきたい」という本田宗一郎氏の言葉通り、ホンダはこれまでF1での技術革新を燃費性能向上や電動化への応用につなげてきた。「今後はF1に参戦しているのを強みにした品ぞろえの充実や、販売戦略がもっと出てくれば業績拡大ポテンシャルは高まる」(ミョウジョウ・アセット・マネジメントの菊池真代表取締役)と期待する声もある。
ホンダのPBR(株価純資産倍率)は0.7倍程度と、1倍を超えるトヨタ(7203)とはまだ開きがある。インド市場の先行きなど課題も残るが、足元のホンダの株価は「業績回復期待を織り込みきっていない」(SMBC日興証券の木下氏)水準だ。株価快走に向けたエンジンは徐々にうなりを上げ始めているかもしれない。
ホンダレーシング、F1でのこれまでの歩み
1964 F1初参戦
1965 メキシコGPで初優勝
1968 シーズン終了後撤退
1983 F1再参戦
1987 中嶋悟がロータス・ホンダで日本人として初のフル参戦、日本中に「F1ブーム」巻き起こる
88~91 マクラーレンとタッグを組み4連覇、黄金期築く
(88年はアラン・プロストとアイルトン・セナが16戦中15勝)
1992 シーズン終了後撤退
2000 3度目の参戦
2006 ジェンソン・バトンがハンガリーGPで優勝
2008 リーマン・ショックの影響でシーズン終了後撤退
2015 4度目の参戦
2018 トロロッソにPU供給
2019 レッドブル・レーシングにもPU供給開始、2チーム体制に
6月にレッドブル・ホンダのマックス・フェルスタッペンが今季初勝利、ホンダは13年ぶりの優勝
11月にブラジルGPでホンダ勢が1991年以来のワンツーフィニッシュ
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