QUICKコメントチーム=川口究
巨大台風が立て続けに日本を襲ったが、その要因の1つとして考えられているのが地球温暖化だ。環境問題への関心が日増しに高まる中で投資の世界では「ESG」がキーワードであることをいまさら記す必要性も乏しくなってきた。それを象徴する1つのイベントが先日、都内で開催された。
国際資本市場協会(ICMA)と日本証券業協会(JSDA)が9日に共催した「グリーンボンドコンファレンス『グリーン、ソーシャル及びサステナビリティ・ボンド市場の発展ー日本とアジア』は今年で3回目。参加者は初回が約400名、2回目が約550名だったのに対し今回は約700名にまで増大した。国内の機関投資家の間でESG投資は定着しつつあるといってよさそうだ。
カンファレンスで挨拶する小泉進次郎環境相
ESG投資で先行する欧州では投資手法も先を行く。BNPパリバ・アセット・マネジメントは最近、開催したメディア向け勉強会で、気候変動に関するリスク管理の一環として来年から石炭に関わる投資に制限を加える姿勢を強調していた。対象は燃料炭の採掘を行う企業と石炭を用いた発電に関わる企業。燃料炭の生産量やCO2の排出強度に基準を設け、これを上回る場合には投資対象から除外する。
19年3月時点では運用資産全体に占める割合は0.25%程度にあたるという。このほか、投資先企業全体に対しても、ESGスコアや炭素排出量に関するベンチマークを設け、基準値を逸脱する場合は保有株式数などに制限を加えるとする。
説明にあたったマーク・ルイス氏(同社サステナビリティ・リサーチ・グローバル・ヘッド)は、EROCI(投下資本に対する回収エネルギー率)の観点で経済性分析を行うと、道路輸送燃料としてガソリンが再生可能エネルギーに対する競争力を維持するためには、石油の取引価格が1バレル10ドル程度で推移する必要があるとの見解を示した。また1000億ドルを再生可能エネルギーに投資して電気自動車(EV)を動かす場合と、石油に投資してガソリン自動車を動かす場合のネットEROCIを比較。自動車の燃料として用いられる石油需要は全体の約40%を占めており、今後は再エネに代替されるリスクがあると指摘した。
カナダの投資会社ジニアス・キャピタル・マネジメントが9月25日に発表した「ダイベストメント・レポート」も目を引く内容だった。分析結果は、化石燃料関連企業からのダイベストメントが投資成果にプラスに寄与するというもの。
化石燃料企業を除き世界の素材・消費財・金融をポートフォリオに加えた同社のファンド(カナダ株式35%、グローバル株式65%)は、13年か5月から19年7月までの間に年率で12.83%の利益をあげたという。ファンドを購入した投資家は結果的に「ダイベストメント=投資撤退」を実行した格好になった。加えて同ファンドはカナダ市場全体のパフォーマンスを上回った。
ジニアス・キャピタルに限らず、兆候は世界市場でも確認できる。国連加盟国が「持続可能な開発目標(SDGs)」の最終文書に合意した15年8月2日の前営業日を起点に、石炭株を中心としたETF(VanEck Vectors Coal ETF、グラフ青)と石油株のETF(iShares Global Energy ETF、グラフ緑)、そしてクリーンエネルギー関連で構成されるETF(iShares Global Clean Energy ETF、グラフ赤)を比較した。
<2015~2019年>
<2019年>
石炭株を中心としたETF(グラフ青)が18年をピークに右肩下がりを続ける半面、クリーンエネルギーのETF(グラフ赤)は今年に入り上値を試す展開。特に今年に入ってからのパフォーマンスの明暗ははっきりしており、ESG投資の加速を物語っているようだ。割高・割安やグロース・バリュー、配当利回りといった伝統的な投資指標だけで投資判断を下せる投資環境は終わりに近づいているのかもしれない。
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