債券市場の一部で現物債の取引単位を小さくするよう求める声があがっている。日銀は7月の金融政策決定会合で緩和策の修正を決めたが、以降のオペ(公開市場操作)の姿勢などから「金利の変動幅はしばらくは広がらない」との受け止めが拡大。呼応するように先物の動きは徐々に鈍り、現物債の売買は成立しづらくなった。そんな中で少しでも取引を活性化させ、市場機能を回復する策として「刻み幅縮小」待望論が出てきたわけだ。
唱えられているのは、業者間の取引を仲介する日本相互証券で利回りベースで0.005%刻みとなっている現在の現物債の取引値幅をより細かくするというものだ。
足元では債券先物の日中値幅がしばしば10銭を下回り、5銭以下の日もある。「債先が10銭動けば現物の新発10年債利回りは0.010%程度、3~4銭なら0.003~0.004%程度上下するイメージ」(国内証券の債券ディーラー)だ。もし債先が3~4銭の値幅で膠着すれば現行の0.005%刻みでは厳しい。刻み幅を0.001%単位にすれば取引機会が増え、市場の厚みが戻るとの見方が出ている。
取引所や日本相互証券などのようなブローカー(仲介業者)を通さない金融機関同士の相対取引では既に、刻みを小さくしているケースが多い。日本相互証券では29日、約2カ月ぶりに新発10年債の取引が成立しなかったが、相対取引では「10年債は0.097~0.098%といった利回りで、数百億円規模の売買が成立していた」(国内金融機関)という。トレーディングシステムがお互いに対応しているのなら特に問題はない。投資家の認知度が高い日本相互証券でも同様の取引ができれば、商いがより活発になるとのシナリオには、確かに一理ある。
問題は、刻み幅が細かくなればなるほど取引1回当たりの収益率が下がりかねないことだ。外国為替市場ではかなり前から主要通貨の取引で刻み幅が小さくなり、極めて狭い範囲で頻繁に売り買いを繰り返す高頻度取引(HFT)が台頭。市場規模は天文学的な数字にまで拡大したが、相場の変動率(ボラティリティー)は下がり、収益をコンスタントに上げられる投資家はむしろ減少した。
日銀がボラティリティーを抑えながら市場機能の回復を目指しているのなら刻み幅の縮小は歓迎すべきことかもしれない。一方で仲介業者や投資家の体力を奪ってしまっては意味がない。
日本相互証券は日経QUICKニュース社の取材に対し「現時点で刻み幅の縮小は予定していない」と説明している。市場の中でも「相場の膠着で困っているどこかの金融機関が、自らに有利なように『ポジショントーク』を展開しているだけ」といった冷ややかな意見は少なくない。現実味はまだまだ薄いようだ。
【日経QUICKニュース(NQN) 片岡奈美】
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