神戸鋼、脱踊り場の鍵は石炭火力?

※QUICKのオプションサービス「QUICKエクイティコメント」で配信された記事を再編集しています。 神戸製鋼所は9月12日に加古川製鉄所(兵庫県加古川市)で2期目の脱りん炉が8月に稼働を開始したと発表した。高炉から取り出したばかりの溶けた鉄から、不純物を取り除くための設備で、設置に90億円を投じた。自動車向けの高級鋼板などを製造するには欠かせない工程だ。これで総額1045億円をかけた加古川製鉄所の設備投資が完了したもよう。10月末の神戸製鉄所(神戸市灘区)で高炉を停止し、加古川製鉄所に集約するための準備がひととおり整ったことになるという。 <10月末で停止を予定する神戸製鉄所(神戸市灘区)の高炉>   高炉跡地に石炭火力発電所 「電力事業」を収益の柱に 神戸製鉄所の高炉跡地に建設を予定するのは石炭火力発電所だ。同社は既に隣接地で、2基の石炭火力発電所を運転している。1基目が運転を開始したのは2002年で、04年に2基目を増設。現在は140万キロワットを発電して、電力を関西電力に販売している。これだけでも神戸市のピーク時の約7割をカバーする電力だが、さらに神戸鋼は2基130万キロワットと大規模な発電能力を持つ発電所を建設する予定だ。 16年4月に発表した21年3月期を最終年度とする中期経営計画では、従来の鉄やアルミ・銅の「素材系事業」、圧縮機やコベルコ建機などの「機械系事業」に加え、新たに「電力事業」を収益の柱と位置付けた。16年7月には都市ガスを燃料に火力発電する真岡発電所(栃木県真岡市)を着工。神戸製鉄所の高炉跡地に増設する発電所についても、環境アセスメントの手続きに入っており、「収益の3本柱」化は順調に見える。   火力発電に地元住民から不安の声 ただ、ここにきて神戸鋼の株価は踊り場状態が続いている。中国での鋼材需要回復などを追い風に、JFEHDが今月14日に年初来高値を更新したのに対し、神戸鋼は7月31日の年初来高値を上回れないままだ。アナリストの間では高炉株におおむね強めの投資判断が目立つ中で、あるベテランの市場関係者が「神戸鋼は電力事業が当初の計画通り順調に進むかという点で、先行きに不透明さを感じる投資家も一部にいるようだ」とこぼしていた。   <神戸鋼とJFEHDの7月末を100とした株価チャート QUICK端末(ActiveManagerより) というのも、神戸で増設する発電所が石炭火力であることから、環境への影響を懸念する住民の声が増えているからだという。地元紙の神戸新聞が手厚く報じている。いくつか拾ってみると「石炭発電に意見書495通 神鋼公表『健康被害心配』の声も」(9月21日付)、「石炭火力発電所計画 神鋼 問われる説明姿勢」(9月20日付)、「神鋼火力発電 公害患者団体 設置是認せず 県などに要請書提出」(9月1日付)――といった見出しが並ぶ。 神戸鋼が現在、売電用に運営しているのは神戸の出力140万キロワットの発電所のみ。建設中の真岡発電所は出力124.8万キロワットの計画だ。新たに神戸で計画している発電所は130万キロワットだから、同社の出力全体で約3分の1を占める重要な発電所になる。23年3月期までに順次稼働する予定だが、建設が遅れたり、あるいは建設できないといった事態になれば、電力事業の中長期的な収益予想を大きく見直す必要に迫られかねない。 7月に4回の住民説明会 「国の計画、法を順守」 神戸鋼はQUICKエクイティコメントの取材に対し、7月に4回の住民説明会を開催したうえ、環境影響評価準備書への一般意見に対する事業者見解の提出や、公聴会への出席を通じて、住民からの意見に対応していると説明。大気汚染や二酸化炭素の排出など環境への影響についても、高効率の発電設備を導入することなどで「国の計画、法を順守していく」(秘書広報部)としている。客観的に見れば、法的に逸脱している部分がなければ、発電所建設は計画通り進む公算だ。 とはいえ足元では石炭火力発電の建設に逆風が吹いている。同じ兵庫県内でも今年4月、Jパワー(9513)が石炭火力で発電する高砂火力発電所(兵庫県高砂市)の建て替えを延期したことが明らかになっていた。売電先である関西電との交渉がまとまらなかったという。その関西電も1月、節電の浸透などを受けて当初の見込みより投資回収に時間がかかると判断し、赤穂発電所(兵庫県赤穂市)で石炭への燃料転換を取りやめたと発表した。 神戸鋼が中期計画で目指す財務指標である「ROA(総資産利益率)5%以上」「負債資本倍率(DEレシオ)の1倍以下堅持」は、21年3月期の目標。神戸の新たな発電所稼働は、ひとまず織り込まれていない。だが、中長期的な成長イメージの中に、新たに収益の柱として「電力事業」をきちんと位置づけられるのか。それを見極めるうえで今後、神戸製鉄所の石炭火力発電所計画が改めて注目される展開もありそうだ。 【QUICKエクイティコメント:山本学】 QUICKエクイティコメントはQr1などQUICK端末のオプションサービスです。端末オプションではすべてのニュースをリアルタイムでご覧いただけます。 29日までフリートライアル実施中! http://corporate.quick.co.jp/service/professional/#forAdvisor *本情報は、現時点までの値動きの分析であって、現在または過去における有価証券の価値の情報を提供するものであり、将来における有価証券の価値(値上がり益、利子、配当等の経済的価値)に関する情報を提供するものではありません。

ブラックロック、石川製株を5%超取得

米運用会社ブラックロックの日本法人のブラックロック・ジャパンが石川製(6208)株を15日までに5.36%を取得したことが22日、分かった。ブラックロック・ジャパンが22日付で関東財務局に提出した大量保有報告書で判明した。 保有目的は「純投資(投資一任契約に基づく顧客の資産運用および投資信託約款基づく資産運用目的)」としている。9月上旬には北朝鮮のミサイルによる地政学リスクの高まりで防衛関連と言われる石川製などに買いが集まっていた。 (QUICK NewsLine)   ■この1カ月の石川製の株価の推移 (QUICK ActiveManagerより) ■QUICKのサービスについてはこちら http://corporate.quick.co.jp/service/professional/#forAdvisor *本情報は、現時点までの値動きの分析であって、現在または過去における有価証券の価値の情報を提供するものであり、将来における有価証券の価値(値上がり益、利子、配当等の経済的価値)に関する情報を提供するものではありません。

海外の為替プロが見る世界 どうなる?日本の総選挙、次期FRB議長

日本の総選挙や日米中央銀行の人事など投資家に転機となる可能性のある材料が相次ぐ。英米系投資銀行ブラウン・ブラザーズ・ハリマン(BBH)の通貨戦略責任者、マーク・チャンドラー氏に10月下旬投開票見通しの衆院選や各国金融政策の行方、次期米連邦準備理事会(FRB)議長の予想、中長期のドル円相場の見通しなどについて聞いた。   日本の総選挙は安倍・自民党の勝利の可能性が高い ――日本では安倍晋三首相が衆院を解散し、10月下旬に総選挙に踏み切るとの見方が強まっています。どのような展開を予想していますか。 「安倍・自民党の勝利の可能性が高いとみている。主な要因は2つある。ひとつは、最大野党の民進党は足元で離脱者も出るなど勢力の縮小傾向が止まらず、東京都議選で躍進した小池百合子都知事率いる地域政党で、側近の若狭勝衆院議員らによって進められている新党結成の準備も整っていない点だ」 「次に、自民党は夏以来、スキャンダルにより支持率を落としていたが、北朝鮮問題への強い対応で巻き返している。英国の欧州連合(EU)離脱を巡る国民投票や米大統領選はサプライズとなったが、一方で欧州選挙はサプライズが起きなかった。日本の選挙は後者となるのではないか」 ――安倍首相は2019年10月に予定される消費税率10%への引き上げで増える財源の使途変更を主要争点に据える考えだと伝わっています。裏を返せば、消費増税を実施することを意味しますが、この判断をどう評価しますか。 「過去、消費増税後に起きたことは、景気減速と(一時的な)インフレ上昇だ。19年10月に消費増税に本当に踏み切るのかどうか確証を持てないが、賃金が上がらない中での増税は日本の景気を押し下げる。米国では国内総生産(GDP)の7割を消費が占めるが、日本も同様に高水準を占めており、現段階では増税に動くタイミングではないと考える」 ドル円相場はいずれ上昇トレンド、上昇余地は1ドル=120円程度 ■米10年債利回りとドル円の変化率   ――10年近くに渡って続いてきた世界的な金融緩和政策に変化が出てきていますが、世界経済や投資への影響をどうみますか。 「先進7カ国(G7)ではカナダ、米国が利上げを実施し、英国も今後数カ月で利上げに踏み切る可能性が高い。こうした政策転換に対して各国の中央銀行は市場との丁寧な対話で金融政策の透明性とコミュニケーションを図っており、政策転換によってボラティリティー(変動率)が過度に高まるリスクをうまく抑えられるとみている」 「日本の投資家はより利益を享受するために、今後も相対的に高い利回りが見込める海外資産に目を向けることが考えられる。ただ、米国のヘッジファンドや運用会社は米国株を始めとするリスク資産について過大評価されていると警戒している。海外リスク資産の割高感が意識され、今後の調整余地に留意する必要も出てくる中で日本の投資家は厄介な状況に置かれているといえる」 ――日米金融政策の方向性は明らかに違いますが、今年のドル円相場は円高トレンドで推移しています。現状の評価と今後の見通しを教えてください。 「2016年末は1ドル=116円台だったが、現在は110円台前半での動きとなっている。一つの要因としては、トランプ米大統領が掲げた減税や財政拡張策の実現性に対する懐疑的な見方が強かったことが挙げられる。米国の経済成長と物価上昇の加速に賭ける『トランプ・トレード』の流れで生じた円安・ドル高の巻き戻しが起きている」 「先行きのドル円相場を予想する上で日米金利差が重要だが、日銀は長期金利をゼロ%程度に誘導するイールドカーブ・コントロールを導入しており、米長期金利の行方がカギを握る。米10年債利回りとドル円の変化率をみると8割程度の相関が確認できる」 「先行きについては、米税制改正の実現や2018年の米中間選挙に向けた景気浮揚期待などを背景に米長期金利の低下トレンドが続くとは想定しづらい。また、日銀の金融緩和の流れも続く見通しで、ドル円相場はいずれ上昇トレンドへと回帰するだろう。2018年までを見通すと、ドルの上昇余地は1ドル=120円程度まであるとみている。一方、120円以上の円安が進めば、米当局によるけん制発言がドルの上値を抑えるだろう」 現FRB議長のイエレン氏が再任か ――2018年2月に任期満了を迎えるイエレンFRB議長の後任はズバリ誰だと予想していますか。 「イエレン現議長が再任される可能性が高いとみている。イエレン氏は民主党員であり、トランプ大統領が主張する金融規制の緩和などに慎重な姿勢をみせており、彼女の再任を信じていない市場参加者は多いようだ。ただ、イエレン氏は極めて適切な仕事をしており、量的金融緩和(QE)のテーパリング(段階的な緩和縮小)を進める中で経済をうまくナビゲートしている。利上げも慎重に進め、金融引き締めに積極的な『タカ派』色が強まることはないだろう」 「9月のQUICK月次調査<外為>で、日本の外為市場参加者は過半数がイエレン現議長の再任を予想しているとのことだが、とてもスマートな考え方だと思う。日銀の黒田東彦総裁も任期満了が近付いているが、物価上昇率2%目標を果たしたいと考えているのではないか。黒田総裁が再任されても驚かない」 ~聞き手はQUICKロンドン支店長 荒木朋~ ■QUICKのサービスについてはこちら http://corporate.quick.co.jp/service/professional/#forAdvisor *本情報は、現時点までの値動きの分析であって、現在または過去における有価証券の価値の情報を提供するものであり、将来における有価証券の価値(値上がり益、利子、配当等の経済的価値)に関する情報を提供するものではありません。

株式市場にノーベル賞の季節 「ペロブスカイト太陽電池」に注目

株式市場でノーベル賞関連銘柄を発掘する恒例の季節がやってきた。科学情報サービス会社の米クラリベイト・アナリティクスは20日、論文の引用数などからノーベル賞候補者22人の予想を発表した。 日本人では化学賞に桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授(64)が候補にあがった。21日午前の株式市場では薄くて軽く低コストが期待される「ペロブスカイト太陽電池」の関連銘柄の売買が盛り上がった。 「ペロブスカイト太陽電池」は産学官が協力して実用化を目指す 「ペロブスカイト太陽電池」は日本で産学官が協力して実用化を目指している。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は2015年6月4日、太陽光発電の発電コスト低減に向けた新たなプロジェクトの始動を発表した。 そのうちの一つが「低コストペロブスカイト太陽電池の技術開発」だ。15年時点での同技術の採択先は早稲田大学や東京大学のほか企業ではパナソニック(6752)、東芝(6502)、積水化学工業(4204)、アイシン精機(7259)、富士フイルム(4901)だった。 NEDOが15年に発表した同プロジェクトでは20年までに発電コスト14円/kWhを実現する太陽電池モジュール、30年までに7円/kWhを実現する技術の確立を目指している。 ノーベル賞候補の宮坂教授が所属のベンチャーも脚光 ノーベル賞候補となった桐蔭横浜大学の宮坂教授が取締役を務める、同大学発ベンチャーのペクセル・テクノロジーズ(横浜市)も脚光を浴びている。 宮坂教授が取締役のペクセル社は光電変換技術の実用化に取り組む大学ベンチャー企業として2004年に発足した。ペクセル社はかつて藤森工(7917)や昭電工(4004)と「色素増感型」と呼ばれるタイプの太陽電池を共同開発していた。 21日午前の株式市場では藤森工は前日比9%高まで上げる場面があった。太陽電池に関連する銘柄に幅広く買いが入り、太陽電池の製造販売を手がけるエヌ・ピー・シー(6255)は前日比8%高まで上昇する場面があった。 2015年6月9日時点の基礎研究の分野における科学研究助成事業の研究成果報告書によると、ペロブスカイト関連化合物の産業財産権を持つ稀元素(4082)は前日比16%高まで買われた。 ノーベル賞関連銘柄の売買は短期的な傾向 株式市場ではノーベル賞関連銘柄の物色は秋の定番行事で、株価の上昇後に利益確定売りが急激に進み、中長期では影響がない場合も多い。 16年はノーベル生理学・医学賞を東京工業大学の大隅良典栄誉教授が受賞、関連銘柄とされたタカラバイオ(4974)やコスモ・バイオ(3386)、医学生物学研究所(4557)の株価は急騰後、1週間も待たずに急落した。 17年のノーベル賞は生理学・医学賞が10月2日、物理学賞が3日、化学賞が4日にそれぞれ発表される。 ■QUICKのサービスについてはこちら http://corporate.quick.co.jp/service/professional/#forAdvisor *本情報は、現時点までの値動きの分析であって、現在または過去における有価証券の価値の情報を提供するものであり、将来における有価証券の価値(値上がり益、利子、配当等の経済的価値)に関する情報を提供するものではありません。 【QUICKコンテンツ編集グループ:片野哲也】

「投資しながら貯める」資産形成の背中を押すフィンテック        ―QUICK資産運用討論会FIN/SUM(フィンサム)スペシャル―

QUICK資産運用研究所は9月19日、東京・丸の内で「QUICK資産運用討論会FIN/SUM(フィンサム)スペシャル」を開いた。日本経済新聞社と金融庁、Fintech協会が主催する「FINtech/SUMmit WEEK2017」のワークショップとしての開催。 200席近い会場がほぼ満席となり、金融とテクノロジーを融合したフィンテックが日本の資産運用を変える「切り札」になるか、金融庁をはじめ各界の代表者が熱のこもった意見を交わした。     金融庁参事官「多くの国民には『投資は貯めてからするもの』と思い込み」 討論は「資産運用はなぜ広がらないか」「マネーの流れを変えるには」「フィンテックは背中を押してくれるか」という3つのテーマに沿って進んだ。 今回の討論会ではフィンサムならではの試みとして、会場参加者にスマホを通じてアンケート調査する「参加型のパネルディスカッション」のスタイルを取った。 金融庁参事官の油布志行氏は「多くの国民には『投資は貯めてからするもの』との思い込みが染みついている。実際のところ、それでは将来の資産形成は難しい」との考えから、マインド(意識)を「投資しながら貯める」に変える政策の意味合いを説明。来年からスタートする「つみたてNISA(積み立て型の少額投資非課税制度)」を通じた資産形成への取り組みの広がりに期待を寄せた。 回答者47人「金融機関は信用できる」がゼロ ロフトワーク代表取締役の林千晶氏は個人と金融機関との距離感を指摘した。金融機関の信頼性に関して会場参加者にスマホで回答を募ったところ、47名の回答者のうち「金融機関は信用できる」とした回答はゼロで「あまり信用できない」は20人ほどだった。フィンテックで金融機関がより身近になる余地は大きそうだ。 「高齢者だけを相手にした投資信託の販売ビジネスモデルはいずれ行き詰まる」というレオス・キャピタルワークス代表取締役社長の藤野英人氏は「金融庁は長官が『10年後の未来から舞い降りたターミネーター』として先頭に立ち、資産運用業界の将来を見据えた政策を立案している」と評価した。 フィンテックのアイデアがこれから具体化 日本でベンチャー企業を立ち上げたオーストラリア出身のマネーツリー代表取締役のポール・チャップマン氏は豪州と比べた日本の投資教育の不十分さについて問題提起。藤野氏は投資教育のはじめの一歩として個人が「働くことの素敵さ」を再認識することが不可欠であり、投資されるような会社であってこそ会社は素敵になるとの考えを披露した。 個人が安心して「投資しながら貯める」資産形成を始める――。そんな動きを後押しする様々なフィンテックのアイデアがこれから具体化してきそうだ、との認識を深める討論会になった。 (QUICK資産運用研究所) ◆QUICK資産運用討論会FIN/SUMスペシャル◆ 【テーマ】「フィンテックが変える日本の資産運用」 【日 時】2017年9月19日(火) 16:00~18:00 【場 所】新丸の内ビルディング9階 コンファレンススクエア Room901 【登壇者】パネリスト(50音順) ◯ポール チャップマン 氏(マネーツリー 代表取締役) ◯林 千晶 氏(ロフトワーク 代表取締役) ◯藤野 英人 氏(レオス・キャピタルワークス 代表取締役社長) ◯油布 志行 氏(金融庁 参事官) モデレーター ◯北澤 千秋(QUICK資産運用研究所長)

東京ゲームショウ開幕直前 意外な出展企業に注目

秋の定番イベントとなった「東京ゲームショウ2017」が、9月21~24日(ビジネスデイは21・22日、一般公開日は23日・24日)にかけて幕張メッセで開催される。中間集計(9月6日時点)での出展社数は601社(昨年最終は614社)、出展小間数は1930小間(同1939小間)となり、出展社数は歴代2位、出展小間数は同3位で、過去最大だった昨年に迫る規模。また、海外出展社は315社(同345社)で、昨年に引き続き全出展社601社の過半を占めている。 出展タイトル数は1000超え 最先端から気軽に楽しめるゲームまで 出展タイトル数は1042で、家庭用ゲーム機、スマホ、PCなど多彩なプラットフォーム向けで、話題のVR(仮想現実)に対応した最先端ゲームから、誰でも気軽に楽しめるゲームまで、幅広いジャンルのゲームタイトルの出展が予定されている。最終的な出展タイトル数や各社ブース概要・イベント情報は、東京ゲームショウ2017の会期初日である21日の午前中に公開される。   ゲームショウの主役の一社で、ソニー傘下であるソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)は「プレイステーション ブース」の出展内容を公開。「プレイステーション4(PS4)」の未発売タイトルを中心に「モンスターハンター:ワールド」(カプコン)、「グランツーリスモSPORT」「コール オブ デューティ ワールドウォーII」(SIE)をはじめ、日本国内初となる「Detroit Become Human」(SIE)などを試遊出展する。さらに、PS4の魅力を高めゲーム体験をより豊かにするPS VR向けタイトルとして、「V!勇者のくせになまいきだ R」(SIE)をはじめ、ソフトウェアメーカー各社がバラエティに富んだタイトルのため試遊出店が多数ラインナップされており注目を集めそうだ。下記は出展タイトルとそのメーカーである。基本的にソニーが多いのだが、カプコン、スクエニ、バンダイナムコも複数のラインナップを取り揃えている。 <試遊出展予定タイトル一覧> ゲームソフト会社に目を転じると、セガサミー(6460)傘下のセガゲームスは、ソニックシリーズの最新作「ソニックフォース」を出展し、試遊プレイ台やステージイベントのほか、ゲームサウンドのライブも実施。Aiming(3911)は、事前登録者数の多さで話題のスマホ向けMMORPG「CARAVAN STORIES」を電撃オンラインブースに登場させる。コーエーテクモ(3635)は今冬配信予定の新作スマホゲーム「アトリエオンライン~ブレセイルの錬金術士~」の映像を出展。24日実施の「アトリエ20周年」スペシャルステージでは,本作の女性主人公の声優を発表するとともに、担当声優を交えたイベントも行うという。   自動車プレス部品大手の東プレも出展 高性能キーボード手がける 変わりどころの出展企業といえば東プレ(5975)だろう。東プレはプレス加工技術と金型設計技術に強みを持つ独立系の自動車部品メーカーだが、高性能のコンピュータ用キーボード「Realforce(リアルフォース)」を手掛ける。その「REALFORCE」シリーズのキーボードは軽やかな打鍵感と高い堅牢性からゲーマーに人気があることから、ゲーミングモデル「REALFORCE RGB」を発売するなどE-SPORTSと関係が深いようだ。東プレは「REALFORCE TYPING CHAMPIONSHIP 2017」と題して、タイピング日本一を決める(タイピングの速さと正確性を競う)大会を主催し、8月の予選を経て成績上位16名による対戦形式のトーナメントを東京ゲームショウ2017の東プレブースで開催するという。他のゲーム会社とは一線を画すが、E-SPORTSの発展とともにクローズアップされていく銘柄になるかもしれない。 イー・ガーディアンはカスタマーサポートに実績 チャットサービス「G-Bot」提供 その他では、ネットセキュリティ企業であるイー・ガーディアン(6050)も注目か。同社はアプリ・ゲーム業界のカスタマーサポートやデバッグサービスなど、総合ネットセキュリティ企業としてネットを安心・安全に利用できるための様々なサービス提供。これまで、スマホアプリやオンラインゲームを中心に600タイトル以上のカスタマーサポート実績を有し、海外ゲーム会社の日本進出支援も数多く手がける。先日にはカスタマーサポートのノウハウを活かして、ゲーム・エンタメ業界に特化したチャットボットソリューション「G-Bot」の提供を開始している。同社のブースでは、多言語対応可能なチャットボットを活用したカスタマーサポートやユーザー間コミュニケーションの監視業務、公式SNSアカウントの運用等を行うコミュニティマネジメント、デバッグ、人材派遣などゲームのバックヤード業務全般のサービスを紹介するという。 【東京ゲームショウ出展企業を総合偏差値で相対評価】 東京ゲームショウ2017に出展する上場企業(傘下企業が出展も含む)33社のなかで、どの銘柄が相対的に有望なのかを判断してみたい。そこで、出展企業をユニバースとして偏差値評価をしてみよう。具体的な計算方法は、市場規模(時価総額、売上高、利益など)、成長率・収益性(増益率、ROEなど)、バリュエーション(PER、PBR、配当利回りなど)、財務(自己資本比率、負債比率、営業CF)、株価変化率(過去1年リターン、HV、他ドル変化率など)等の各項目で10段階のランク付けをする。最上位を「10」、最下位を「1」とし、対象ユニバースの上位3%以上を「10」、買い3%未満を「1」とするような形。細かい定義は下記のようになる。 概ね中央値に近い5及び6が各々19%あり、それに近い4及び7が各々15%ある。4~7までで約68%を占める。つまり、10段階評価で対象ユニバースを正規分布に近い形で評価したうえで、各項目の数値を集計。それを偏差値換算したのが下記の結果だ。 <東京ゲームショウ出展企業を総合偏差値> ・東京ゲームショウに出展する33銘柄を対象 ・総合偏差値順に掲載 ・9月14日時点のデータを利用 総合偏差値トップのネクソン(3659)は、主力のオンラインゲーム「アラド戦記」の好調などで、8月中旬に発表した6月中間決算で純利益は過去最高益を更新している。同2位には本文で取り上げた東プレがランクイン。テレ朝やフジメディアなど純粋なゲーム会社ではない銘柄がランキング上位に名を連ねたのも興味深いといえよう。 ※QUICKエクイティコメントで配信された記事を再編集して、掲載しています。 QUICKエクイティコメントはQr1などQUICK端末のオプションサービスです。端末オプションではすべてのニュースをリアルタイムでご覧いただけます。 29日までフリートライアル実施中! http://corporate.quick.co.jp/service/professional/#forAdvisor *本情報は、現時点までの値動きの分析であって、現在または過去における有価証券の価値の情報を提供するものであり、将来における有価証券の価値(値上がり益、利子、配当等の経済的価値)に関する情報を提供するものではありません。   【QUICKエクイティコメント:本吉亮】

1時間睡眠? 寝袋? 大槻さん、アナリストのお仕事って大変ですね  

理論派、賢そう、高給取り――。アナリストという職に対する一般的なイメージは、おおよそこんな具合だろうか。発する一言、レポートに記載した一文が相場を動かす影響力を持つこともあり、金融業界では花形の職業のひとつとされる。しかし、実際は異なる。華やかさとは裏腹に肉体労働で機関投資家の厳しい評価にさらされる毎日だ。「金融女子」としてキャリアを積み上げてきた著名アナリスト、マネックス証券の大槻奈那さんに聞いた。   信託銀行でキャリアをスタート、バブル崩壊後に不良債権の現実に直面 「外資系証券でアナリストをしていた当時は朝5時に出社し、夜中の1~2時まで働いていました。繁忙期は寝袋持参で1時間睡眠のこともあったんですよ」。現在マネックス証券でチーフ・アナリストを務める大槻奈那さんだ。穏やかな風貌の大槻さんがこんな激務をこなしてきたとは、とても思えない。なぜ金融業界に足を踏み入れたのか・・・。    大槻奈那さん キャリアは日本経済がバブル景気に沸く頃、三井信託銀行(現:三井住友信託銀行)の総合職としてスタートした。女性の総合職は当時珍しく、約110人の新入社員のうち、わずか3人だったという。新橋支店の融資課に配属され、不動産・建設会社を中心とした法人営業を担当した。 信託銀行を就職先として選んだ理由はシンプルだ。都銀に比べ広範な業務ができて極端な地方転勤がないこと。「(東京大学)文学部卒業だったうえ、短期留学で活動が遅れたので都銀への就職は厳しいと思って・・・」(大槻氏)とは言うが、若いころから不動産に興味があった点も信託銀の門をたたいた動機の1つだという。 時代はバブル末期。不動産価格は説明不可能なほど高騰した。そして崩壊の序曲が奏でられると、おのずと返済が厳しさを増す債務者との面会が増えた。財務内容が悪化している企業経営者たちに売却すべき資産などについて助言するようになった。経営的には深刻な状況だったがバブル崩壊直後だったこともあり、売却した資産で利ざやを稼げるケースも多く、こうした経営者たちにはなぜか活気があったという。クレジットアナリストの道を歩むスキルを結果的に磨き始めたのはこの頃からだ。その後は、銀行で不良債権処理業務に携わり企業の信用評価のスキルを積んだ経験を生かし、スタンダード&プアーズ・レーティング・ジャパンに転職した。   リアルタイムで善し悪しが判断されるブローカーズポイント 新聞やテレビ・雑誌などに登場することも多いアナリスト。華やかに見えるものの、「シゴト」としては決して楽ではない。証券会社のアナリストは、お客さんにあたる運用会社による評価がすべてといっても過言ではない。お給料のほか社内的なポジションも大きく左右される。証券会社と運用会社の間にはアナリストの評価システムが構築されており、ほぼリアルタイムで更新される。「毎朝、パソコンの画面に出るんですよ。私の評価がどうなっているのか。もちろん下がっていることもあります・・・それがキツくて。評価を下げた方が誰かも何となくわかりますから。精神的なプレッシャーは相当なものでした」 運用会社が証券会社に支払う手数料は主に「ブローカーズポイント」というポイント制で決まる。このポイントの中にはアナリストが執筆するレポートやコメントも含まれる。それらに対して悪い評価が続けば自社の売り上げに悪影響を及ぼしかねない。高まるプレッシャーが睡眠時間を削ることになった。 画像はイメージ   突っ走ったキャリアの道、その傍らにある1つの後悔 社会人になってから寝る間も惜しんでキャリアを積み上げていった大槻さん。インタビューの中でプライベートに関する質問を投げかけてみると、直後に出てきたのは「後悔が1つあるんです」という一言だった。それは「子供を生まなかったこと」だという。仕事で脂が乗るにつれ、子供という選択肢の優先順位は自然と低くなっていったうえ、当時は子供を持つことへの関心も低かった。時が経つにつれ「親族の子供などを見てふと感じたことがあったんです。感じたことのない愛情を持てたのかもしれない、と」。 現在は名古屋商科大学の経済学部で教授として、将来日本経済や金融業界を担うであろう若者たちに金融システムや、国際金融などについて教えている。今回のインタビューは女子大学生や若い女性社会人に向けた「先輩」からのメッセージになると意識していたようだった。   MiFID2でアナリスト半減!? アナリストとしてはベテランの大槻さんが今、危惧している事があるという。それは人工知能(AI)の台頭と、欧州で来年からスタートする新金融規制「第2次金融商品市場指令(MiFID2)」だ。この規制は、運用会社がこれまで証券会社などに支払っていた費用を金融商品の売買手数料と、調査費に分離して管理・開示することが求められるというもの。投資家保護が目的だが、費用が明らかになることで調査レポートなどの必要性が問われ、結果としてアナリストが淘汰される懸念がある。 大槻さんはAIに仕事を奪われる前に新規制により世界のアナリストが半減してしまうかもしれないという。しかし、それよりも大手の機関投資家と一般投資家との間に生まれる情報格差を心配している。「これからのアナリストは情報格差を埋めることがより一層求められるでしょう」と、大槻さんは話す。 【QUICKコンテンツ編集グループ:根岸てるみ、岩切清司】

衆院解散・総選挙へ 「教育無償化」銘柄は?

安倍晋三首相は18日、2019年10月の10%への消費増税を予定通り実施し、増税分の使い道に子育て支援や教育無償化の財源を加える検討に入った。8%から10%への増税分の約8割を財政健全化に回すとした使途割合も見直し、憲法改正とともに10月22日投開票の衆院選で訴える見通し。 教育無償化とは、義務教育の小中学校に加え、幼稚園や保育園、高校、大学の授業料などを実質的に無料にすることで、「人づくり革命」を掲げる安倍政権は幼児教育・保育の早期無償化と大学進学の負担軽減を打ち出している。文部科学省によると、無償化に必要な追加財源は3~5歳児の幼稚園・保育園が約7000億円、高校で約3000億円、大学は約3兆1000億円に上り、幼稚園から大学まで全て無償化する場合は4兆円超を捻出する必要があるとされる。 幼児教育・保育の無償化では、財源確保の手段として企業と従業員が負担する「こども保険」の創設が自民党から提案されているほか、企業の拠出金を活用する案も選択肢となっている。また、大学教育では返済不要の給付型奨学金の拡充が軸で、在学中は国が授業料を肩代わりし、卒業後に収入に応じて返済してもらう「出世払い」の導入も検討されている。 家計負担の軽減で学習塾にもメリットがあるとみられる。上場する学習塾運営会社の一覧はこちら。 コード 銘柄名 4745 東京個別 9733 ナガセ 4714 リソー教育 4668 明光ネット 9795 ステップ 9769 学究社 4718 早稲アカ 9760 進学会 5721 S・サイエンス 4735 京 進 2179 成学社 4720 城南進研 4645 市進HD 9696 ウィザス 4705 クリップ 4678 秀 英 9778 昴   QUICKエクイティコメントはQr1などQUICK端末のオプションサービスです。端末オプションではすべてのニュースをリアルタイムでご覧いただけます。 29日までフリートライアル実施中! http://corporate.quick.co.jp/service/professional/#forAdvisor *本情報は、現時点までの値動きの分析であって、現在または過去における有価証券の価値の情報を提供するものであり、将来における有価証券の価値(値上がり益、利子、配当等の経済的価値)に関する情報を提供するものではありません。    

衆院解散・総選挙へ 株は?経済政策は?

バンカメ、「自民党の大敗リスクは限定的、政策発動余地少なく17年末は2万1000円」 連休中に主要メディアは一斉に安倍晋三首相が衆院を解散する意向を固めたと伝えた。バンクオブアメリカ・メリルリンチ日本証券は18日付のレポートで「直近の内閣支持率 の回復を鑑みると、安倍首相が総選挙を通して政治的資本を再構築し、自民党内における求心力を取り戻すか否かは中立的であるとみられる」とした。「失業率は断続的に低下しており、株式市場も堅調である。内閣支持率、 不支持率、自民党支持率は押し並べて 2014年11月当時と大差ない水準まで回復している」としつつも、不確定要素として「小池都知事勢力の新党結成の動きが出てきており、対抗勢力が明確化した7月の東京都議選では、自民党は苦戦を強いられた」などの点を挙げた。 ただ、「小池都知事勢力が全国に候補を擁立するには時期尚早であり、都議選で自民党から離反した公明党は、今回の衆議院選では与党として自民党と協力関係にある」との見方を示し、「自民党の大敗リスクは限定的」と指摘した。 株式市場に対する影響については、「総選挙で自民党が議席を大幅に減らし、安倍首相の責任問題に発展しない限り、今回の選挙が日本の市場に与える中期的な影響は限定的であろう」と指摘した。選挙後の見通しについては「安倍首相が選挙を通じて政権運営の主導権を取り戻し、連立与党が経済対策を訴えれば、過去の総選挙前後に見られた株式市場の上昇が顕在化する可能性はある」とする一方で、「マクロレベルでみると、政策発動の余地は大きくなく、2012年や2014年の様な大相場に発展する公算は小さい」という。今年末の日経平均株価の予想を2万1000円に据え置いた。 野村證、「解散前後に日経平均は平均3.6%上昇」 野村證券は18日付のリポートで、90年以降の衆議院解散を対象に、その前後の日経平均株価の値動きをみると「解散の5営業日前から15営業日後にかけて平均的には3.6%ほど値上がりした」として、解散前後に株価は平均的に上昇しやすいと指摘した。ただ、2005年8月の「郵政解散」や2012年11月の「近いうち解散」では大幅高だったが。2014年12月の「アベノミクス解散」後は横ばいのため、「選挙公約で国民に何を問うのかが注目されよう」とも指摘している。 一方、10月総選挙となれば「以降の政治スケジュールは2018年9月に自民党総裁選、19年7月に参院選、21年10月までに衆院選という風に切り替わる」としながら、「当初、臨時国会では『働き方改革関連法案』、『IR実施法案』などが提出される予定であったが、これらは18年の通常国会以降にずれ込むことになるだろう」と指摘。重要法案の成立が遅れることを警戒していた。 ドイツ証、「選挙後の経済政策にはほとんど期待できない」 ドイツ証は18日付のリポートで、「多くの人にとっては解散の理由が不透明であり、北朝鮮の軍事的緊張が高まる中で解散を行う余裕があるのか、自民党以外の選択肢がほとんどない中での『政局ファースト選挙』という不満がつのるだろう」と指摘した。今後の政策に関しては野党も全面的には反対したくない教育無償化が含まれている点に着目し、「財源のないまま、追加国債発行による教育無償化が進む可能性が高まりそう。2019年10月に予定されている消費税の引き上げは衆院選の前倒しによって予定通り実施される可能性が高くなった」と指摘した。 なおマーケットへの影響については「与党が衆議院で過半数を維持するが3分の2を下回り、改憲派議員数も3分の2を下回る場合が、改憲よりも経済が中心の課題となる意味で、負の影響が最小限に抑えられるだろう」と指摘。ただ一方で「アベノミクスの中身は外向き・市場原理重視から、内向き・ポピュリズム志向へシフトしており、選挙後の経済政策にはほとんど期待できない」とも厳しい見方を示した。   QUICKデリバティブズコメントはQr1などQUICK端末のオプションサービスです。端末オプションではすべてのニュースをリアルタイムでご覧いただけます。 http://corporate.quick.co.jp/service/professional/#forAdvisor *本情報は、現時点までの値動きの分析であって、現在または過去における有価証券の価値の情報を提供するものであり、将来における有価証券の価値(値上がり益、利子、配当等の経済的価値)に関する情報を提供するものではありません。      

ASEAN発足50周年、インフラ事業を基盤とする経済成長の黄金期が到来 HSBCレポート

QUICKではアジア特Q便と題し、アジア各国・地域の現地の声をニュース形式で配信しています。今回は、HSBC商業銀行部門アジア太平洋地域統括責任者のスチュワート・テイト氏がレポートします。 ASEAN主要経済圏、今後5年間でインフラ投資2倍に 今年で発足50周年を迎えるASEAN(東南アジア諸国連合)の主要経済圏は、今後5年間にインフラ投資を2倍に拡大して7,000億米ドル超とすることを約束している。これによって貿易や観光産業、今後数十年間の持続的な経済成長のための開発事業に弾みがつく可能性がある。 またASEANのメンバー10ヵ国の経済政策における財政支出計画の焦点は、主に2020年にかけて輸送環境を整備することにある。 世界経済フォーラムの国際競争力レポートでは、長期的に堅調な経済を創出する上でインフラが極めて大きな役割を果たすことから、こうした投資が重要であるとされている。 さらに、ASEAN内外の貿易や投資を活発化し、人とモノの流れを円滑にするために、一段と連携を強化することの重要性も軽視できない。 こうした取り組みは、世界最大の人口を抱えて急速に成長を遂げる、活気に満ち溢れたASEAN地域において域内外の企業が事業機会を最大限に拡大するための支援となる。ASEAN諸国全体のGDPは約2兆8,000億米ドルとすでに世界第7位の規模にあり、今後2030年までには世界第3位まで入ってくることが予想される。 ASEAN地域のサプライチェーンの輸送網が改良されれば輸入コストが減少する。現在の世界貿易の70%を中間財やサービス、資本財が占めているとの世界銀行の推計から判断してもコスト減少の効果は決して小さいものではない。   ASEANの潜在的な購買力に中国も期待 またASEANでは、今後数10年間に新たに創出が見込まれる5,700万世帯の中間層家計の消費活動を追い風に、貿易数量が2014年から2025年の間にほぼ倍増して2兆8,000億米ドルに達すると予想されていることからも、サプライチェーン改良のもたらす効果は小さくない。 こうした裕福で若い都市人口の増加により巨大な消費者購買力が見込まれることは、中国が「一帯一路」構想の下で貿易活性化につながるインフラ整備や投資、事業を強化しようとする大きな理由でもある。 ASEANと中国は、相互貿易額を昨年の5,000億米ドルから2020年までに倍増させて1兆米ドルにするとの目標を掲げている。こうした背景からもインフラ投資や主要プロジェクトに関わるエコシステム事業の機会は特に魅力的なものとなっている。   インドネシアに大規模な事業機会 ASEAN域内のあらゆる大国に事業機会はみられるが、直近で大規模なチャンスが生まれているのはインドネシアである。 インドネシアが2016年から2020年の間に計画しているインフラ投資は3,500億米ドルとASEAN主要5ヵ国の合計額の約半分に相当する。それには以下のような理由がある。 ASEANで最大の経済規模を有するインドネシアでの輸送インフラへの投資はGDP比6%と域内で最も低い水準にあり、フィリピンの同13%やマレーシアとタイの19%、シンガポールの31%に遅れをとっている。 インドネシア政府のインフラ予算は2014年以降に倍増したが全体的な支出必要額には遠い。また財務省は2015年から2019年までに民間セクターには1,300億米ドル相当の事業機会が生じると推計している。   タイは1,200億米ドルのインフラ支出を計画 インドネシアに次ぐ規模のインフラ市場を有するのはタイである。事業規模で700億米ドルに相当する56件の巨大プロジェクトを始めとする、1,200億米ドルのインフラ支出が計画されている。 タイでは、GDPの84%を製造業が占め、また製造業製品のほぼ全て(96%)が陸上輸送されているという現実が、輸送網の改善を促す背景となっている。 早期着工が予定される56件の巨大プロジェクトの事業規模が700億米ドルであることに加え、事業規模440億米ドルの「東部経済回廊」開発計画によりタイは民間セクターの資金調達の主要市場となり、必要資本の4分の1前後は「官民連携(PPP)」の下で調達される見通しである。   フィリピン、道路・鉄道整備の「ドリームプラン」 ASEANの議長国を50周年の節目の年に務めているフィリピンも、2017年から2022年までに1,440億米ドルの積極的なインフラ投資を行うことを念頭に、今後数十年間をかけて競争力を強化するための画期的な計画を策定している。 実施が予定されている投資案件の約90%は輸送網に関連するものであり、また政府が「ドリームプラン」と称する2018年から2020年までの道路と鉄道に係る直近の整備事業の規模は410億米ドルである。 フィリピンでは政府が税制改正に動いていることによって外国からの対内直接投資が促進され、外国資本による企業所有の規制が緩和されている。また一段の民間投資が促され、すでに中国企業がフィリピンのインフラ事業に参画し始めている。   マレーシアは鉄道投資を柱に輸送網を整備 マレーシアでは、輸送網を巡る大きな事業機会は、国内の各地域間の連絡や地方における連絡を活性化し経済効率を改善することであり、また適切に統合された輸送システムを創設し、ASEAN地域における国際貿易ハブとしてのマレーシアの地位向上につながる物流能力を高度化することにある。 2016年から2020年までの5年間のインフラ支出計画は850億米ドルとされ、2011年から2015年までの500億米ドルから増加している。 輸送網の整備への支出においては鉄道投資が柱とされ、シンガポールとバンコクをつなぐ高速鉄道を中心に、現存の大量輸送能力を強化し東海岸の開発を進める計画が立てられている。   シンガポール、地下鉄システムの規模を拡大 シンガポールの輸送インフラはすでに世界最高水準だが、さらに都市国家として地下鉄システムの規模を2030年までに2倍に拡大する政府計画の下で一段と進歩する見通しだ。 2016年から2020年までの期間に3つの新しい路線を建設して地下鉄網をさらに113キロメートル延伸させる事業では、600億米ドルの新規投資が生まれると予想される。これは2011年から2015年までの期間の投資額の500億米ドルを上回っている。   ASEANはインフラ事業を基盤に黄金期へ ここに挙げた全ての経済活動は、ASEANの各経済圏が未来を見据えて経済成長と経済開発の基盤作りに注力していることの表れである。 すなわち、50周年を迎たASEANではインフラ事業が貿易と投資の成長を下支えする黄金期が始まろうとしているのである。

任天堂スイッチからAI時代の必需品に エヌビディア日本法人代表に聞く

株式市場では世の中の技術革新に合わせていくつも大きなテーマが立ち上がる。人工知能(AI)や自動運転、あらゆるモノがネットにつながる「IoT」に医療や次世代ゲーム。米半導体大手のエヌビディアはこの多くの分野で技術の中核を担っている。 エヌビディアはゲームの画像処理半導体(GPU)のメーカーとして1993年に創業した。1999年1月22日に米ナスダックに上場したエヌビディア株の初値は1.75ドル、約20年が経過した今では170ドル前後と100倍にもなった。 足下では任天堂のゲーム機「ニンテンドースイッチ」などゲーム向けとデータセンターのサーバー向けのGPUが好調だ。エヌビディアの強さの源泉はどこにあるのか。日本法人の代表で米国本社副社長も兼ねる大崎真孝氏に聞いた。 ただの半導体メーカーではなくシステムまで一貫して手がける ――エヌビディアとはどんな会社でしょうか 「半導体のハードからシステムまで一貫して手がけるAIコンピューティングカンパニーだ。他の半導体のチップメーカー、システムを提供する会社などとは大きく異なる」 「当社の従業員は1万1000人で、そのうちエンジニアが8000人だ。ハードのエンジニア3500人に対してソフトのエンジニアは4500人。半導体のメーカーでここまでソフトのエンジニアを抱えている会社はいないだろう」 ――会社の強みはどこにありますか 「ゲーム用のGPUの高い演算能力がスパコンなどにも使われるようになり、今ではAI開発の現場のプラットフォームになっている。AIの技術を開発するベンチャーたちが利用しているのも当社のプラットフォームだ」 「自動運転であれ医療であれ、AIの現場で起きているのは、多くのデータを学習しそれにより認知・判断するディープラーニング(深層学習)が主流だ。膨大なデータ量を扱うため、逐次処理のCPUよりも大規模並列処理のGPUが適している」 技術革新の早いAIの世界では専用品より標準品 (AI開発のプラットフォームになるエヌビディアのGPU) ――エヌビディアのGPUにはどんな特徴がありますか 「当社が提供しているGPUはAIの特定用途に向けた専用製品ではなく標準製品だ。今のAIの世界は技術革新の進化が早すぎて専用のチップを作り込んでもすぐ陳腐化してしまう。10~20年後にAIの進化のスピードが成熟化すれば特化型の半導体も活躍する場が出るかもしれないが、現状では標準製品がベストだろう」 ――標準品である強みとは 「エヌビディアのGPUは『CUDA』という並列プログラミングの統合開発環境を提供している。エンジニアはスーパーコンピュータからロボット、自動運転車などに搭載されるGPUまで同じコードが使える。これがソフトを含めた標準環境を有する標準製品の強みでエヌビディアのすべての製品は同じソフトウエアが走る」 「CUDAは世界中の1000を超える大学の講座で教えられている。このCUDAを習得したコンピュータサイエンティストたちが昨今のAIの潮流を作っていると言っても過言ではない」 世界で引く手あまた、日本の技術をリスペクト (エヌビディアが提供する自動運転車向けAI車載コンピューター) ――自動運転では欧米メーカー、トヨタとも提携しました 「実は自動車メーカーとの歴史は長い。10年前から車のカーナビの分野ではパネルの画像の部分を担当してきた。自動運転の技術が進んできてからメーカーと組み始めたのではなく、必然的な流れでの提携も起こっている。自動運転に関して既に100社以上のパートナーと提携をしている」 ――大手企業から新興市場の企業までエヌビディアとの提携を発表しています 「先方や他社との関係もあり、発表されている提携はあくまで一部にとどまる。公表されているよりも多くの企業が当社の技術を利用している」 ――今後、注力する分野はどこになりますか 「当社にとってAIは最重要分野だ。ただしゲームや映画、あらゆる分野での設計の現場での画像処理技術の分野も凄まじく成長する。環境配慮型都市のスマートシティーなどビジュアリゼーション(物や現象の可視化)とAIの融合といった新たな技術も生まれつつあり、エヌビディアは多くの分野に力を注いでいく」 ――会社として日本市場をどう見ていますか 「当社は日本をアジアの一つの国ではなく、独立した『日本部門』として重要視している。それは日本の技術をリスペクトしているためだ。日本はゲームや自動車、医療、ロボットなど多くの部門で世界トップクラスの技術を持っており、まだまだ伸びていくだろう」   大崎真孝(おおさき・まさたか) 1991年近畿大学理工学部卒業後、半導体の製造・販売の日本テキサス・インスツルメンツ株式会社に入社。エンジニアと営業を経験した後、米国本社に異動して事業開発を担当した。2010年に首都大学東京経営学博士前期課程を卒業(MBA)、2014 年にエヌビディアに入社した。 現在はエヌビディア日本法人代表兼米国本社副社長として日本におけるAI コンピューティングの普及に注力している。 【QUICKコンテンツ編集グループ:片野哲也】

ビットコイン、11月に再分裂も? 国際通貨研の志波氏

「ビットコインに再分裂の火種がくすぶっている」。こう指摘するのは公益財団法人国際通貨研究所の志波和幸主任研究員だ。8月の分裂騒動を機に取り決められた事案が守られず、一部の関係者の間で不満が生じているという。 8月のビットコインの分裂騒動が持ち上がった背景には、取引増加にシステムが対応できず、ビジネスの収益機会を逃していることに関係者が不満を抱えていたことがあると、志波氏は説明する。この不満を解消するため、A案とB案が提示されたが決まらず、最終的に折衷案が採用された。折衷案とは、急増するビットコインの取引を成立させるため、まずはデータ圧縮プログラムを導入するA案を実施し、一定期間後に処理容量を増量する(今回は1メガバイトから2メガバイトに倍増)B案を実行するという2段階の対応を指す。ビットコインの多くの関係者がこの折衷案を支持したが、一部が反対。この結果、8月2日にビットコインからビットコインキャッシュが分裂・誕生した。 その後、ビットコインについてはA案まで実行されたが、それと同時にB案のプログラムをあらかじめ導入したサーバーを開発関係者がビットコインシステムにアクセスできないようにした。容量の引き上げは11月半ばを予定していたため、当初から「折衷案」を支持していたグループの主導のもと、その時期が近づくにつれ再び分裂騒動が高まるかもしれないと志波氏は予想する。「実際に一部の取引所からも不満の声が上がっている」(志波氏)という。 なお、国内の大手取引所ビットフライヤー(東京・港)によると、1ビットコインあたりの価格は9月4日時点で52万円を挟んで推移し、分裂後に約8割上昇している。ただ、志波氏は「外国為替とは異なり、ビットコインの理論値を算出する方法が現時点で見いだされておらず、割安なのか割高なのか判断することは難しい。一方、8月に分裂したビットコインキャッシュの流通を促している関係者は、その利便性などの説明責任を充分に果たしていない」と指摘する。 公益財団法人国際通貨研究所  志波和幸 主任研究員 <プロフィール> 1969年東京生まれ。 東京大学経済学部卒業。 1992年三菱銀行(現:三菱東京UFJ銀行)入行後、 国内外営業及び融資審査、ディーリング業務、持株 会社(三菱UFJフィナンシャルホールディングス) で信用リスク管理業務に従事。2016年2月より現職。

話題のサービス「VALU」 法的な立ち位置は、リアルマネートレードの側面も

個人の価値をネット上で売買するサービス「VALU」が話題になっている。5月に始まったVALUは実業家の堀江貴文氏ら著名人の参加で利用者が急増した。8月には人気ユーチューバー・ヒカルさんのVALU内での価値が思惑により高騰した後に暴落。一連の騒動でヒカルさんは取引で得たビットコイン(5465万円相当)で「自社株買い」を行うと宣言する流れになっており、VALUの法的な立ち位置が議論になっている。 VALUは「無名の個人を支援していくサービス」 「だれでも、かんたんに、あなたの価値をトレード」。VALUはウェブサイトでサービスをそう紹介している。利用者はサービス内で自分の「VA」を発行でき、そのVAは参加者たちに取引されて価格が変動していく。VAを購入するためには仮想通貨のビットコインが必要だ。 サービスの狙いについて運営会社バリュの小川晃平代表は「夢を持った無名の個人に対して、多くの人が支援していくサービスができれば良いと思っています」と話す。VAの購入は発行者への支援という立てつけだ。 VAの発行者は保有者に対して「優待」を設定できる。VAの発行者は保有者向けサロンや情報提供などが可能だ。優待は義務ではなく、規約では「換金性の高いものや、金銭的な見返りの約束などを行うもの現金、BTCを含む仮想通貨、電子マネー」などを禁止している。 新サービスの資金調達は金商法に該当するのか VALUでは個人が不特定多数を相手にビットコインを媒介にして資金調達ができる。株式市場の個人版という形に見えるため、金融商品取引法(金商法)に該当するのではないかとの議論が起きている。 それぞれの資金調達が金商法の対象になるかどうかについて金融庁は「株式市場に似ているかどうかではなく有価証券に該当するかどうかで判断する」と説明する。 金商法には投資性の強い商品に対する包括的な定義として「集団投資スキーム(ファンド)持分」がある。特定の資金調達が集団投資スキームに当たった場合は有価証券とみなされて金商法の規制対象となる。 有価証券と見なされる集団投資スキームの3要件に当たらずか 集団投資スキームに該当するかどうかの判断に重要なのが3つの要件だ。①金銭などで出資が行われる、②その出資で事業を行う、③出資対象事業が生み出す収益の配当や財産の分配がある、の3つに分類できる。 VALUでVAを発行して調達した資金で事業を行えば①と②の要件が該当する。ただ、VA発行者が優待を実施しない場合は③の「収益の配当や財産の分配」が該当しない。優待を実施している場合の判断は難しいがVALUでは優待について直接的な金銭の提供を禁止している。 インターネットで小口資金を集める手法としては「クラウドファンディング」が既に広がっている。クラウドファンディングでの金商法の規制について金融庁は「寄付型か投資型かなどそれぞれの中身を見て判断している」と話す。VALUでも実質に応じて判断する必要がありそうだ。 サービス内でのポイント売買はRMTの側面も VAが有価証券に該当しない場合、VALUは無名の個人や堀江貴文氏らの名前を冠したポイントを売買して楽しむサービスとも言える。発行されたタイミングでのVAの購入は発行者への支援の側面がある。一方で、既に発行されたVAの売買は発行者本人と関係ない取引にもなりうる。 VALUでVAを購入するためにお金を使う行為は多くのスマートフォン(スマホ)アプリでゲーム内のアイテムを手にする「課金」と同じだ。ただ、VALUではサービス内に課金したモノを売買し、ビットコインを通じて再び現金化できる所に特徴がある。 特定のサービス内でのポイントを購入、その後に現金化できるVALUの形式はリアルマネートレード(RMT)とも言える。西村あさひ法律事務所の平尾覚弁護士は「RMTは法律上は違法とされていないが、規約の内容によっては規約違反となる」と話す。VALUにおいてRMTは規約違反とならない。 新しいサービス、意義や法律の議論が続く 金商法は投機性の強い金融商品に対しての投資者保護を目的としている。ただ、金融商品ではない投機的なモノに対しては消費者契約法や風営法など他の法律も存在する。 麻生太郎財務・金融相は8月15日にVALUについて「消費者保護と新しいものを育てることの両方を考える必要がある」との見解を述べた。VALUは個人が資金調達をする新しい形式に育つのか。新時代の資金調達方法と法制度の議論も交えて、VALUの注目度が高まっている。 【QUICKコンテンツ編集グループ:片野哲也】

10周年を迎えるグリーンボンド市場 HSBCレポート

QUICKではアジア特Q便と題し、アジア各国・地域の現地の声をニュース形式で配信しています。今回は、HSBC グローバル・バンキング&マーケッツ、アジア太平洋地域統括責任者のゴードン・フレンチ氏がレポートします。 グリーンボンド、2016年の発行額は900億ドル以上 注目高まる 最初のグリーンボンドが発行されて今年で10年目となるが、グリーンボンド市場は成熟した市場を目指して現在も急成長中である。気候変動の影響を抑制する世界経済全体の取組みを支援するプロジェクトの資金源としてその重要性は一段と高まっている。 これまでの10年間を幼年時代とするならば、全く心配のない幼年時代だったとは必ずしも言えない。世界初の「グリーンボンド」が発行されたのは2007年7月で、その発行額は6億ユーロだった。その後に続く動きもまずまずだったが、当初の勢いは影を潜めていた。2013年には年間発行額が100億米ドルの節目を上回ったが、それでも債券市場全体から見れば極小さな存在だった。 しかし10年の年月を経た今、資本市場に生まれたグリーンボンドという幼子は目覚ましく成長した。昨年のグリーンボンド発行額は900億米ドルを突破し、2015年の2倍以上となった。その中にはポーランドが発行した、発行額7億5,000万ユーロの世界初のソブリン・グリーンボンドが含まれる。この1月にはフランスが22年物の発行額70億ユーロのグリーンボンドを発行した。これは発行額と長期年限の面で画期的だっただけでなく、投資家の需要が230億ユーロ超にまで膨らみ、発行予定額を大きく上回ったことでも大きく注目された。 成長を確信する3つの理由   気候変動は地球にとって差し迫った脅威であり、炭素集約度の高い技術やインフラを減らしていく取組みに充てる資金を確保するためにはまとまった資本注入が必要である。それは、風力発電タービンや太陽光発電企業、低炭素型交通システム、建造物や街全体のエネルギー効率と水資源利用効率を一段と高める技術などの進歩に向けて活用される。 グリーンボンド市場の発展は緩やかかもしれないが、今や低炭素社会を創り出す上で欠かせない存在になっている。気候変動を抑制する事業への投資機会を求めている資金は世界的に増加している。グリーンボンド市場は、企業がそうした資金を利用することを可能とし、またそうした資金を持続可能な環境に保つためのプロジェクト資金に振り向けていくものである。   現時点では世界の債券市場の1%にも満たない規模のグリーンボンド市場だが、我々が今後急速に成長すると確信する以下の理由がある: ①まず、汚染や世界的気温上昇から生じるリスクについての企業や消費者、投資家の認識に根底から変化が生じている。2015年に採択されたパリ協定では気候変動に対処する必要性について全会一致の世界的合意が成立した。その前提として、世界の平均気温上昇を産業革命前と比較して摂氏2度未満に抑える目標に向け、国家的な計画の推進を200ヵ国近い加盟国が批准することが必要だった。これを受けて環境技術の投資とそのための資金調達が活発化した。 ②次に、技術進歩によって(代替エネルギー技術から電気自動車、バッテリーまで)経済的合理性を備えた低炭素型技術がますます増えている。倫理的な意味だけでなく財政面からも環境投資は一段と理にかなったものとなりつつある。 ③3つ目の理由として、中国とインドが環境重視の経済を強く支持する立場をとったことが挙げられる。中国とインドの発行体が2015年にグリーンボンドを初めて起債したことにより、それまではスカンジナビア諸国や米国、英国が中心だった市場が地理的に広がった。昨年は中国で330億米ドルあまりの規模でグリーンボンドが発行され、15年にわずか10億米ドルで始まった中国でのグリーンボンド発行はすでに世界全体の3分の1を超えた。インドでの発行額はそれよりかなり小規模で、昨年はわずか10億米ドル強だったが、インドもやはり低炭素技術に関するパラダイムシフトを経験している最中である。 グリーンボンドを支援する潮流の勢いは増しているため、債券発行体も投資家もグリーンボンドを無視できなくなっている。 機関投資家の多くは気候に配慮した投資先を増やしたい 気候変動や環境を重視する「グリーン」の姿勢を疑われる債券があることも事実である。調達資金が本当に気候変動や環境に関するプロジェクトに充てられるのか、あるいは「グリーン」な姿勢に疑問のある企業に調達資金が向かっていないか、といった問題である。さらに、ある債券発行が他と同じように「グリーン」であることを誰が評価するのかという問題もある。こうした問題についての一貫した透明性のある回答がいまだ得られない状況に多くの投資家は置かれている。一方の債券発行体も、情報公開や運用報告、「グリーン」なベンチャー事業の認証などに追加的な作業やコストを投入することに消極的である。 しかし追加的な作業やコストは過大に見積もられる傾向があり、標準化と査定の取組みは進展している。例えば格付会社のスタンダード&プアーズは、ある債券がグリーンか否かだけではなくどの程度グリーンなのかを評価する仕組みをこの4月から実用化している。 またグリーンボンドへの然るべき評価がまだ十分に広まっていないと考えられるが、その利点は大きい。 まず、グリーンボンドの発行を通じて企業は、自らの投資ポートフォリオが炭素依存度の高い、持続可能でない債券発行体や事業に関わっていることを懸念している年金基金や政府系ファンドなどの投資家の間で増えている、グリーンボンドのような投資先を求める動きを捉えることができる。2016年の年初時点で、約23兆米ドルの資産が専門家による責任投資戦略の下で管理されている。これは2014年比で25%増であり、専門家が管理している世界全体の資産の4分の1を超えている。 同じように先にHSBCが行った調査でも、世界全体の機関投資家の3分の2が、低炭素型で気候に配慮した投資先への投資額を増やしたいと考えていることがわかっている。 さらにグリーンボンド発行によって、発行体は自らが地球温暖化という長期的な課題を意識しそれに備えていることを周知させることができる。 また気候変動に関するリスク特性の特定や最小化、監視を発行体に要請することは、低炭素型の発想を発行体の企業文化や事業戦略に組み込んでいく上での支援となる。こうしたことが長期的には企業価値評価(バリュエーション)や事業見通しにおいて、準備の遅れている企業よりも優位に立つことにつながる。 このように、グリーンボンド市場が成長を遂げてきたことに対しては歓迎の一語に尽きる。10周年おめでとう。

分配金利回り5%超、高利回り実現するインフラファンドの仕組みとは?

  世界的な低金利下で個人マネーは行き場を失っています。銀行や信用金庫などの預金残高は3月末時点で1053兆円と過去最高に達しました。こうしたなか、5%超の利回りを捻出しているインフラファンドの存在はあまり知られていないようです。高利回りを実現する仕組みを探りました。 国内市場規模は200億円程度 インフラファンドは道路や空港などインフラ施設に投資する金融商品です。公的資金に限りがあるなか、投資マネーを取り込みインフラの整備や新設に役立てようというものです。これまでは機関投資家向けに提供されていましたが、2015年4月に東京証券取引所が上場インフラファンド市場を創設し、個人も投資可能になりました。ただ、上場しているのは3銘柄のみで時価総額は合計200億円弱にすぎません。 一方、世界各国の取引所に上場するインフラファンドの時価総額は15兆円程度(50銘柄弱)といわれています。市場規模が大きいのはオーストラリアと米国です。 米国にはマスター・リミテッド・パートナーシップ(MLP)と、イールドコ(YieldCo)の2タイプがあります。MLPは主に石油やシェールガスのインフラ施設を運営しています。30年超の歴史を持ち、100銘柄超が上場。オバマ前政権下で起きた「シェールガス革命」を機に脚光を浴びました。国内追加型投信の中には、MLPに投資するタイプもあります。一方、YieldCoは再生可能エネルギー施設を運営しています。 インフラファンドの仕組みは、不動産投資信託(REIT)と類似しており、保有するインフラを通じて得られた収益の9割を投資家に分配しています。国内のインフラファンド市場に上場している3銘柄が運営しているインフラはいずれも太陽光発電施設です。太陽光パネルで電力を発電し、これを売電して収益を上げています。収益は日射量に左右されますが、固定価格買取制度(FIT)という特典を受けられます。FITは、太陽光発電や風力発電など再生可能エネルギーで発電した電気を国が定めた価格で電力会社が買い取らなければならない制度です。適用期間は発電開始から20年間と限られるものの、ファンドにとって安定的な収入を得られるメリットがあります。ただ、足元で今後契約される電力(10kW以上)の買取価格は低下しています。     ※いちご都城安久町ECO発電所   高利回り・安定分配の源泉は利益超過分配金とFIT 7月末時点のインフラファンドの配当利回りは「タカラレーベン・インフラ投資法人」(9281)が6%、「いちごグリーンインフラ投資法人」(9282)が7%と、東証1部の予想配当利回り1.91%を大きく上回っています。高い配当利回りの背景には、不動産投資信託(REIT)と同様に収益の9割を分配金に充てるという仕組みとFITのほか、「利益超過分配金」がカギになっています。 利益超過分配金の原資は減価償却費の一部です。これら3つのインフラファンドの場合、安い土地に太陽光発電所の設備を設置しているため、会計上の資産に占める減価償却費の比率が高くなりがちです。しかし、多額の修繕費などが必要になるケースは少なく、キャッシュが残りがちです。そこで、会計上のみ発生する減価償却費を分配金として投資家に還元しているのです。いちご投資顧問の日色隆善上席執行役は、「当ファンドの分配金のうち、減価償却費の4割相当が利益超過分配金。日射量が平年の水準を下回った場合でも最低水準の売電料(基本賃料)を保証する仕組みを取り入れていることも安定的な高利回りの実現に寄与している」と説明します。利益超過分配金は利益分配金と税制上の取り扱いが異なり、配当所得(原則約20%の課税)には当たりません。 同じく多額の修繕費を必要としない物流施設を投資対象としたREITなども利益超過分配金を活用しています。   この利益超過分配金にFITによる安定的な売電収入が見込めるため、「いちごグリーンインフラ投資法人」(いちごグリーン)は国内インフラ投資ファンドとして初の10期分の予想分配金を発表しました。   ※出所:図表はいちご投資顧問が提供   国内上場は3銘柄のみ、景気拡大局面では株式に見劣りする可能性も 利回りの高さは投資魅力の一つですが、足元で上場しているインフラファンドは3銘柄とバリエーションが乏しいほか、市場規模が小さい点には注意が必要でしょう。加えて、太陽光発電設備を運営するこれらのファンドの運用成績は天候に左右されるものの、景気の影響は受けにくいといえます。半面、景気拡大局面では影響が限定的で株式などと比較すると、パフォーマンスが見劣りする可能性もあるかもしれません。

ソフトバンク決算説明会LIVE 孫社長、60歳目前「自己採点は28点」

  ※このコンテンツはQUICK端末でリアルタイム配信したニュースを再構成しました。 7日に2017年4~6月期決算を発表したソフトバンクグループ(9984)は午後4時30分から都内で決算説明会を開催した。孫正義社長が50分ほどプレゼンテーションを実施、記者への質問に答えた。やりとりは以下の通り。   体調不良は咳喘息が原因  16:32 孫社長 「今週に満60歳を迎える。40代で一勝負、50代でビジネスモデル、60代で後継者を作る。その思いは一度も変わっていない。その60代を今週で迎える。60歳ではなく、60代のどこかで後継者を見つける」 16:35  会見に臨む孫社長の声がかれている。株主総会でも同様に体調が悪く、孫社長の体調を心配する声は多い。 孫社長 「咳喘息だった。初期のものだから心配ないと医者に言われた」 16:38 孫社長 「スプリントについて何を強がりを言っているのかとこれまで言われてきた。しかし、国内の通信に迫る勢いまで改善してきた」 「今、この場ですら粉飾決算ではないか、大赤字だと思いたい人もたくさんいるんじゃないか。現実はスプリントは我々の利益を最もけん引する会社に生まれ変わっている」 16:43 孫社長 「アリババ株は3年後に売却、現金を先に入る形にした。アリババの株価が上がればデリバティブの損が出る仕組み。アリババの株価が上がると本当は有利だが、会計上の損が出る。現金が出るわけではない」 「今から2年後にデリバティブ損は戻ってくる。第一四半期末の株価のままでいれば、デリバティブの繰り戻し分の会計上の益が出る。もし今が2年後だとするならば1兆円弱の含み益が出る」 16:46 孫社長 「今後もアリババ株が上がることを望んでいる。アリババ株の上昇でデリバティブ損はでるが、その後に益が出てくる、貯金している状況だ」 16:50 孫社長 「100万円の財産に対して35万円までの借り入れなら安全な範囲ではないか。ソフトバンクはそれが21%(21万円)の財務状況なので安全な範囲だ」 16:55 孫社長 「モバイルの解約率が初めて同業他社のKDDIさんを下回った」 16:59 孫社長 「ビジョンファンドは我々ソフトバンクが意思決定をする。ヤフージャパンのように投資先の日本法人を作っていきたい」 「世界で最先端を走っている彼らは伸びまくっている。ユーザー数は前月対比で10%、20%増と伸びている。今はシンギュラリティ夜明け前、インターネットが始まったころの興奮を覚えている」 17:05  ソフトバンクは7月18日、オフィスシェア大手の米ウィーワークと合弁会社を設立すると発表した。会見ではウィーワークの事業内容を説明する動画を流した。 孫社長 「世の中は決定的に変わろうとしている。ITやスマホの進化で人々のライフスタイルが変わっている。レンタル屋は昔からある。プラットフォームとそうでないものが全く違う。説明してもわかろうと思わない人にはわからない」 「物凄いチャンスがある。今こそ打って出るべきだ。収益の柱の通信事業は安心してキャッシュを稼げる」 17:05 孫社長 「無理して決算を作らなくていい。それが今のソフトバンクの立場だ」 17:12 孫社長 「17歳のころから恋焦がれていたアーム。出荷したチップは28%増。売り上げは我々のさじ加減次第、スマホのマーケットシェアは98%なので。今はがめつく行くのではなく先行投資の時期。技術者を前年対比で25%増やしている」 「新CPUなど急激に技術を高めている。画像認識では暗い場所で人を認識できるレベルになってきている。今後20年間でアームのチップが1兆個のIoTデバイスに入っていく。非常に買ってよかった」 17:16 孫社長 「同志的結合による起業家集団を作りたい。エヌビディアもそのうちの一つ。たった4.9%しか持っていないが想いは同じ」 17:21 孫社長 「従来の日本の財閥とは違う。ブランドは自由で良い、ソフトバンクのブランドは付けさせない。十分に育ったら卒業していく。成長起業家集団、一緒に革命していく」 「従来のシリコンバレーのように完全に買収、一つのブランドに封じ込めるやり方でもない。ソフトバンク独自の組織論。ベンチャーキャピタルとも違う、群戦略だ」   ~記者からの質問が始まる~   17:25 ――プラットフォームとそうでないものの違いとは。 孫社長 「プラットフォームは胴元、OSのような存在。その上にアプリケーションがのるような共通基盤だ。いちアプリケーションではない」 「圧倒的なマーケットシェアを持って基盤を作らなくてはいけない。アプリケーションと競合するのではなく、場を提供する」 スプリント再編「言うとスカッとするが、ぐっとこらえて我慢している」 17:28 ――スプリント再編の行方は。3か月前は本命がTモバイルだったが。 孫社長 「複数の事業統合の相手先を想定し、交渉を行っている。近い将来なので、なおさらのことコメントを控えたい」 17:30 ――KDDIやドコモなどの値下げに対抗しないのか 携帯子会社の宮内社長 「変える方向性はない」 孫社長 「分離プランなので大きな値下げではないのではないか」 17:33 ――5Gについて 孫社長 「5Gの時代は必ずやってくる。通信速度が速くなり、IoTの接続に適したネットワークができる。時期は2020年以降だと思うが、ソフトバンクは5Gの中核技術を世界で最も早く、商用サービスに入っている」 「5Gの主要機能を既に取り入れている。5Gの時代になると2.5ギガヘルツがプラチナバンドになる。技術を蓄積してきたメリットはたくさんある」 17:36 ――ビジョンファンドについて 孫社長 「だいたいのケースで20~40%の筆頭株主、それに近い立場で影響を与える。単なる事業提携では3年程度で終わる。資本を持つ、血のつながりがあるのは大きい。ベンチャーキャピタルのように上場したら売却するような関係ではない」 「情報革命という志を共有している起業家集団だ。儲かればいい、金銭的つながりとは違う。我々のブランドで染め上げるものでもない同志的結合だ」 17:38 ――スプリントは今でもTモバイルが本命か 孫社長 「統合の時期の意思決定をする時期は近い。1社じゃなく複数を考えている。ヒントになることは言えない。言いたいんですよ私も。言うとスカッとするが、ぐっとこらえて我慢している」 ウーバーとリフト「関心があるとだけ申し上げる」 17:41 ――アームとエヌビディア、半導体などでどんなプラットフォームになるのか 孫社長 「エヌビディアは先見の明と先進テクノロジーが賞賛に値する。本当はもっと前からたくさん買いたいという思いがあった。ビジョンや想いは共通する部分が多い。エヌビディアはアームの重要なライセンス先。具体的に何をどうしようとあるわけではない」 17:43 ――60歳を迎えてやり遂げたこと、やり残したことの自己採点は 孫社長 「自己評価でいくとしまったな、28点。育英財団で8歳の子供たちを見てもう一度戻りたい。とことんやれたのにと思う。後悔することだらけ」 「ただ、人生は終わったわけではない。ソフトバンクの組織体、生命体は300年ぐらい伸び続けていって欲しい、そうするつもり。先は明るい、楽しみ、まだまだ攻めていくという思い」 17:48 ――ウーバー、もしくはそのライバルのリフトについて 孫社長 「ソフトバンクがウーバーに関心がある、という噂は聞いている。リフトに関しても決まったことはない。関心があるとだけ申し上げる」   【QUICKコンテンツ編集グループ:片野哲也】

ダウ初の2万2000ドル突破、トランプ政権発足後で最も上昇した銘柄は?

2日の米株式市場でダウ工業株30種平均が初の2万2000ドルを突破しました。終値は前日比52ドル32セント(0.23%)高の2万2016ドル24セントでした。トランプ氏が大統領選に勝利した2016年11月8日から直近8月2日までのダウ構成銘柄の騰落率を調べたところ、27銘柄が上昇しました。上昇率が最も大きかったのはボーイングで66%、次いでアップルが42%、マクドナルドが38%でした。これらの3銘柄は足元の好決算による株価上昇が寄与したようです。米航空機大手ボーイングの2017年4~6月期決算は最終損益が17億6100万ドルの黒字(約1957億円の黒字)と、前年同期の2億3400万ドルの赤字から黒字に転換しました。 一方、大統領選直後にトランプ氏が掲げる規制緩和の期待から株価が上昇し、トランプ相場の主役といわれたゴールドマン・サックスの上昇率は24%と、ダウ平均並みにとどまりました。トランプ大統領の目玉政策である医療保険制度改革法(オバマケア)の見直しが頓挫するなど、政策に対する期待感がはく落。ゴールドマン・サックスの株価も伸び悩んだようです。    

「もう絶滅危惧種とは呼ばせない」 ディーリング収益化へ山和証の挑戦

 今でも記憶に残る日経金融新聞の名物コラム「スクランブル」がある。2002年5月21日に掲載された「影響強める短期資金――ディーラー栄え個人消える?」だ。当時、東京・兜町だけで3000人以上の契約ディーラーが日計り商いに汗を流していたといい、隆盛を極めていた様子が伝わる。あれから15年、地場証券は相次いでディーリング部門を閉鎖し、今や短期売買の中心はネット証券を利用する個人投資家に移った。証券ディーラーは「絶滅危惧種」とまで揶揄されるようになった。だが、時代の流れに逆らおうとする証券会社もある。    以下のチャートは山和証券のディーリング部門の陣容の推移だ。人員を増強しただけでなく今年4月には新卒4名を採用するなど急速な若返りもはかった。15年4月に大阪にはディーリング室を創設、16年4月にはシンガポールにも支店を開設しディーラーを配置している。  ※山和証券提供   「ディーリング部の収益は市場環境に左右されにくい体質となり高水準で安定しています」と話すのは工藤哲哉執行役員ディーリング部長。秘訣は運用手法が多様なディーラーをそろえたことにあるという。  そもそも00年代前半に市場の影響力を強めたディーラーが衰退した理由は、規制の強化と東京証券取引所の売買システムの刷新が背景にあるとされる。証券会社は自己資本比率の維持に神経質となり、ディーラーに供与するポジション=リスク許容度を絞るようになった。一晩で運用環境が変化しかねず、宵越しのポジションすら厳しくなった。おのずと多くのディーラーは日中の回転売買に注力し、運用手法の多様化から遠ざかっていった。  そこに追い打ちをかけたのが、10年に東証が導入した高速取引に対応した現物株の売買システム「アローヘッド」だった。妙味のある注文が見えても発注する前に消化されてしまう現象が恒常化。外国人投資家が開発してきた超高速取引(HFT)の日本市場参入が日計りディーラーの「飯のタネ」を奪った。    工藤氏が進めたのがポジションの自由度の拡大。「オーバーナイトで持ち越すのはザラにあります。ディーラーによっては半年以上も持ったままです。これらのディーラーは日中、板をあまり気にしません。個別企業の業績・財務分析に注力しポジションを構築しています」。以前までのディーラー像とはかけ離れている。  加えて日本株以外の金融商品の売買が可能なプラットフォームの整備も進める。「海外市場の先物トレーディングを積極的に手掛けるディーラーも出てくるようになりました」(工藤氏)。日本株は円相場や外国人投資家の売買動向に大きな影響を受ける。投資環境の変化がディーリングの収益を直撃しやすかったが、投資対象や運用手法を多様化したことで市場環境の変化に左右されにくい収益構造へと変化し始めた。  その分、マネジメント側には高度なリスク管理体制が必要となる。自宅でも部下の損益状況がリアルタイムでチェックができるようにした。社内のミドルオフィス、バックオフィスからも全面的な協力を得た。「ディーラーが能力を発揮できる環境を整備するため、管理部門の担当者が尽力したことも非常に大きい」(工藤氏)。  ここで疑問も浮かぶ。短期売買のみならず、オーバーナイトのポジションを持つなら個人投資家もできる。収益をそのまま自分の資産にできる個人のデイトレの方が魅力的ではないか。また、かつては市場への流動性供給という存在意義が明確だったものの、HFTの登場により役割は薄まった。  工藤氏にたずねてみても明確な回答はなかった。だが「流動性供給の役割を放棄するつもりはありません。また、様々なスタイルで売買に携わるプレーヤーが多様性に乏しい日本市場には必要だと思います。運用をビジネスとして担える人材を育てる機能の一端を証券会社の自己売買部門が担う必要性があるのではないでしょうか」と返してくれた。即戦力にはならない新卒を採用する狙いもここにある。 ※ディーラーが何を考え悩んでいるのか。工藤氏(後)は常に対話を心掛ける  証券ディーラーの存在感が薄まってから長い年月が経った。この間、業界から去ったプレーヤーも多いが、依然として第一線で活躍するディーラーもいる。山和証券のみならず新卒を採用する証券会社もある。単なる短期筋でも流動性供給者でもない第3の道。証券会社のオフィスにいるディーラー達は新たな存在意義を確立するための挑戦を始めている。 【コンテンツ編集グループ:岩切清司】

人気記事ランキング

  1. 登録されている記事はございません。

アーカイブ

PAGE TOP