「アジアで圧倒的ナンバーワン、世界発着の旅行会社を目指す」JTB・高橋広行氏

人口減による消費停滞への打開策として期待されるのがインバウンド(訪日外国人)の増加。インバウンドの拡大で潤う旅行業界最大手・JTBの高橋広行社長に見通しと戦略を聞いた。※本記事は2015年12月10日にQUICK端末で配信した記事です。   地方勤務から社長へ…自治体に根ざした経営戦略に自信 【問】高橋社長は関西ご出身ですね。 【答】入社以来、関西、中国、四国エリアを中心に地方勤務していた社員がJTBの社長になったのは初めてだと思います。今、当社は地域戦略とグローバル戦略の両輪で経営を進めています。そういう意味では、私は地域を経験しているはじめての社長ということになります。社長になったのは、地域を経験していることが大きかったのかもしれません。西日本を中心に営業の現場を経験しているところが歴代の社長と違うところです。 【問】社長にご就任されて1年5カ月が経過しました。手ごたえはいかがでしょう。 【答】地域戦略についてはまさに「我が意を得たり」という思いです。2006年、当社は地域に正対して発展することを志向して地域密着を掲げ分社化を行いました。ここに来て政府は国策として地方創生を打ち出していますが、当社は2006年の分社化以来地域戦略を進めています。例えば、政府の日本版DMO(デスティネーション・マネージメント・オーガナイゼーション。地域の観光マーケティング・マネージメントを担う機関)は、当社が10年前から取り組んでいるDMC(デスティネーション・マネージメント・カンパニー。豊富な地域の知恵、専門性、資源を所有し、イベント、ツアー、地域交流や地域活性化を企画提案する会社)と同じ考え方です。DMC戦略は、地域の埋もれた観光資源を掘り起こし磨き上げて商品化し、それを全国あるいは全世界に流通させて、地域にお客様を呼び込むことで地域を活性化させる、というものです。まさに今、当社が10年前から進めてきた戦略が国の戦略と具体的な形で合致したという思いです。 【問】御社が先手を打って国が後追いをしているようです。 【答】そこまでは言えませんが(笑)。バブル崩壊時に初めて赤字に転落するなど痛手を被った経験から、追い詰められる前に先手を打って改革に取り組んできたことや、マーケットに正対して事業を推進してきたことが、国に先んじて地域事業戦略を展開する結果になっているのだと思います。 当社は地方創生の推進に関与しています。既に多くの自治体からご相談いただき、ふるさと旅行券(商品券)、プレミアム旅行券(商品券)、ふるさと納税などのお手伝いをさせていただいています。2006年に地域分社化して地域密着の営業を展開しているため、地域のことがよくわかります。例えば、ふるさと納税を申し込まれたお客様にふるさと納税のお礼用の地域特産品をアドバイス出来ます。国が政策を打ち出せば「それではこんな感じでやりましょう」と具体策を提案させて頂くことが出来るので、ふるさと納税をはじめ地方創生にかかわる一連のオペレーションを全国の自治体から任されているのだと思います。 旅行業の先行き懸念背景に、交流文化事業へ注力 【問】地域事業戦略を推進する上で2006年の分社化は大きな意味を持っているのですね。 【答】2006年の分社化は当社の歴史始まって以来の大変革だったと思います。地域別と専門領域別の分社化を同時に行いました。地域のお客様と地域を訪れるお客様へのサービスを強化するために、全国1社であった体制を北海道から沖縄まで9地域の分社体制にしました。さらに、お客様のニーズの高度化・多様化に対応するために、ひとつの支店で店頭営業も渉外営業もこなす総合型の営業スタイルから店頭営業と渉外営業を分け、それぞれが専門性を高めていく機能別営業スタイルに変えました。総合型営業の時には店頭と渉外が連携する面もあれば、依存してしまうという面もあったことから、機能別営業スタイルに変えることで主体性を高めるという目的もありました。 分社化に際して、当社がこれから目指す姿、果たすべき社会的役割をとらえ直し、交流文化事業を事業ドメインに据えました。交流文化事業とは、お客様の感動と喜びのために、JTBグループならではの商品・サービス・情報および仕組みを提供し、地球を舞台にあらゆる交流を創造し続けることです。人が動き、人が接して交われば会話が生まれます。会話が生まれると文化が生まれます。その文化を創造して新しい事業を開発しています。 【問】そのためのスローガンが「感動のそばに、いつも」ですね。交流文化事業を事業ドメインに据えた背景をお教え下さい。 【答】ひとつは、事業領域を広げるためです。少子化問題もあって長期的には国内の旅行マーケットがシュリンクしていくのは目に見えています。縮小していく国内マーケット対策として事業領域を広げていく必要性に迫られています。旅行業で培った知見やノウハウがあるので、旅行の周辺部分に事業領域を広げるということです。もうひとつは、事業の質を高めるためです。旅行業は価格競争にいつも晒されています。企画力やオリジナリティーなどを前面に出して次元の違う、質の高い事業を展開すれば、競争が緩和されて経営が安定します。それを交流文化事業の中でやっていこうということです。 【問】会社が大きく舵を切ることに社員に戸惑いはなかったですか。 【答】社員は旅行業をやるために当社に入社しています。それがある日突然、「交流文化事業だ」ということですから、「交流文化とは何ですか」、「旅行会社が旅行ではない事業をどうしてやるのですか」、「そんなことやってビジネスになるのでしょうか」といった声がかなりありました。最初は大変でしたが、2006年の分社化から成功事例が出る度に「これが交流文化事業だ」ということを積み重ねて、現在では社員の理解を得られています。これは本当に大きな意識改革です。一朝一夕に出来ることではありません。交流文化事業の推進にはそれなりの人材を育てないといけません。 【問】交流文化事業に力を入れているのは御社だけですね。 【答】そうですね。交流文化事業を事業ドメインに据えることで、一段と地域活性化、観光立国に寄与出来ると思っています。実際、旅行業とは関係のないような事業、こんなことまでJTBがやっているのですかと言われるような事業をやっています。地方創生、ふるさと商品券、プレミアム商品券などは旅行そのものではないのですが、旅行事業で培ったノウハウや経験をベースに新規事業を展開しています。   地域の恵み発掘、「まちおこし」をより魅力ある観光コンテンツへ 【問】分社化して地域の期待もかなり高まったのではないですか。 【答】これは予想以上で、「分社化してJTBさんは九州に来られたのですね。九州にどれだけお客様を連れてきていただけるのですか」といったお話をよくいただきました。地域のお客様のニーズにお応えするためにどうすればいいのか。当社のパッケージツアーでどうやって地域に呼び込むか。いろいろ模索しながら検討しました。その結果、例えば、ひとつの観光地に東京発、大阪発、仙台発、札幌発、福岡発の複数のパッケージ旅行担当者が個別に見に行って開発・販売するというスタイルをやめて、観光地のエリアの担当者が責任を持ってパッケージツアーを企画・開発して全国に販売するというスタイルに変えました。地域の人たちを巻き込み、当社と地域が一体となってじっくり掘り下げて開発することが出来ますから、これまでなかった面白い商品ができあがります。その成功事例が「地恵のたび」です。「地恵のたび」は、地域活性化をテーマに、知恵と工夫によってまちおこしに取り組む地域の魅力に触れ合う地域交流型旅行商品です。 【問】御社と地域が一体となって行う交流文化事業の推進によって「地恵のたび」が生まれたのですね。地域にどのようにアプローチされるのですか。「地恵のたび」の事例と合わせてお教え下さい。 【答】地域とは違う目線で、「こういう問題を抱えていますが、このように解決してはいかがですか」とソリューション営業を仕掛けます。地域の問題解決をお手伝いする過程で地域の宝を掘り起こし、磨きをかけて商品化していくお手伝いをします。 例えば、長野県の阿智村は、昼神温泉だけに頼らない継続的な地域ブランドの構築が課題でした。2006年に環境省推進の全国星空継続観測において「星が最も輝いて見える場所」第1位を獲得したのですが、阿智村にとっては星がきれいなのが日常です。当社の社員が「この星空は商品になります」と提案したことを契機に星空を観光資源とする気運が高まり、「こういうことが出来ないか」、「もっとストーリーが作れないか」、地域の人と知恵を出し合いながら一生懸命考えました。それで夏場は未稼働のスキー場を活用してはどうかという案が浮上し、「天空の楽園」ナイトツアーを企画しました。ホテルにバスが迎えに来て、ガイドさんがバスの中で星空への思いを盛り上げていく話をします。スキーのリフトであがって降りた所に銀河鉄道999に出てくるようなキャラクターの格好をしたスターコンシュルジュが「ようこそ星空の世界へ」とお迎えし、星空案内で夜の旅を盛り上げます。上に行くと明かりがこうこうとついています。そこに寝転がって夜空を見ます。一斉に照明が消されて星に手が届きそうなくらいの満天の星空が広がります。 【問】暮れなずむ夕日、さんざめく星たち。そこには美しい魅惑の風景が広がっているのですね。忙しい日常を抜け出して心を潤す旅にでかけてみたくなります。 【答】この企画が「地恵のたび」でものすごく売れました。初年度から目標を上回る観光客の誘致に成功し、昼神温泉の宿泊客も増加しました。その結果、パッケージツアーのエースでも取り扱うようになりました。 もうひとつ、大阪府東大阪市は町工場の多い地域で観光地ではなかったのですが、「ものづくり観光」をテーマにストーリー性を持たせて企画したところ大変な人気を博し、今では全国から年間6千人を超える修学旅行生を中心としたお客様が工場見学に訪れています。東大阪の町工場の一番の経営課題は労働力の確保です。学生たちは、社長や職人さんの話を聞き、本物のモノづくりを体験します。現場を見てもらい、関心を持ってもらうことで就職につなげることが期待出来ます。ものづくり・技術大国日本として、ものづくりを体験させることは教育的見地からも良い教材になります。職人にも教える喜びという新たなモチベーションが生まれ活気づきます。自分たちの仕事を見直すきっかけにもなります。人が来ると宿泊や食事などで地域にお金が落ちます。 【問】地域経済や国内旅行市場が元気になります。 【答】日本の人口が減っていく中で、国内旅行を活性化することは当社の大きな命題だと思っています。日本人の国内旅行の年間平均旅行回数は1.4回、宿泊日数は2.4日くらいです。人口減少で国内旅行市場はさらにシュリンクしていくことが予想されます。国内旅行が低迷するのは、魅力ある観光コンテンツが少ないからです。人を呼べる観光資源はたくさんあります。魅力ある観光資源を掘り起こし、旅行回数を増やしていくことが必要です。一度行ったところでも、従来だったらお決まりの観光地を巡るだけだったのが、こういう体験が出来るとか、こういう新しい食事が味わえるとか、地域の観光資源を掘り起こし、それを流通させて地域にお客様を呼び込んでくる。その成果のひとつが「地恵のたび」です。 【問】「地恵のたび」には北海道から沖縄まで86のツアーがありますね。 【答】灯台もと暗しで、地域にいるとその観光価値に気づかないことがたくさんあります。阿智村の人たちも東大阪の人たちも星空や町工場がこれほどの観光資源になるとは思ってもみなかったでしょう。全国には埋もれている観光資源がたくさんあります。地域の課題解決をお手伝いするなかで、地域の埋もれた観光資源を掘り起こし、磨き上げて商品にして、地域にお客様を呼び込む。つまり、地域のお客様を旅行にお連れする「発(はつ)営業」に加えて、お客様を地域に呼び込んでくる「受(うけ)営業」を一緒に行うことで地域を活性化させる。それが当社の役割だと思っています。そうした地域事業戦略を具体的に進める戦略を47都道府県の47とDMC(デスティネーション・マネージメント・カンパニー)の頭文字をとって47DMC戦略と呼んでいます。地域の支店長は、地域のお客様を国内旅行や海外旅行にお連れするだけでなく、地域にお客様を呼び込んでくることが求められます。これからも「地恵のたび」を充実させていきます。 【問】厳しくもやりがいがあるお仕事です。 【答】そういうことをいつも社員に話しています。当社の地域事業戦略は非常にやりがいがある。地域貢献という公益に資することをやろうとしている。なおかつビジネスでやろうとしている。公益と企業益の両立を目指すやりがいのある仕事であると社員に理解させています。 訪日外国人向けの新路線開拓へ 【問】訪日外国人向けの観光コンテンツとして阿智村や東大阪はいかがでしょう。 【答】これからはこのようなところにも関心が持たれると思います。ゴールデンルート一極集中の問題もあります。外国人向けのプログラムも企画中で、国内800店舗、海外500カ所のネットワークを活用して東大阪から世界へと発信する準備を進めています。 【問】「地恵のたび」がゴールデンルート一極集中を緩和し、外国人旅行者を分散するツールになるということですね。 【答】そうです。ゴールデンルート(日本を訪れる外国人旅行者の多くが利用する観光ルート。具体的には、東京から箱根、富士山、名古屋、京都、大阪を回って帰国するルート)に外国人旅行者が集中しています。日本に初めて来た時に一番人気の高い所に行くことは仕方がないことなのですが、時期によってはホテルやバスの手配が出来ないほど混み合っています。従って、限られた観光ルートだけでは収容しきれなくなり、経済効果も頭打ちになります。観光ルートを多様化させて地方に分散させることが必要です。実際、ゴールデンルートや日本の代表的観光地を訪れた外国人旅行者が、次の行き先として地方に足を向けはじめています。この地方への流れを確かなものにするために、地域の魅力を掘り起こして外国人旅行者にご案内します。ゴールデンルート以外の広域観光ルートをどう開発していくかが大きなテーマです。 今、第二のゴールデンルートと言われているのが、名古屋から飛騨高山、北陸を経るドラゴンルート(昇竜道)と言われるルートです。北陸新幹線開業後、国内でも北陸旅行がブームになっています。金沢、富山、能登や、五箇山・白川郷などの世界遺産に外国人旅行者が押し寄せています。 【問】第二のゴールデンルートがドラゴンルートだとすれば、第三のゴールデンルートは北海道・東北方面のルートでしょうか。北海道新幹線の開業が来春2016年3月と間近になりました。 【答】これから大事になってくるテーマが、インバウンド(訪日外国人)市場の盛り上がりをいかに東北に波及させるかです。幸いにして、日本全国に新幹線網が広がっています。東京を起点に2時間30分あれば、関西・北陸、東北もある程度の所までは行けます。東北は観光資源の宝庫です。自然、歴史、文化、食、温泉など、観光に欠かせない要素のすべてを備えた第一線級の観光地です。 【問】奥入瀬渓谷や十和田湖もあります。あの紅葉の美しさを外国人旅行者が見たらびっくりすると思います。 【答】そこに外国人旅行者が行かないわけがない。函館から青森に南下するルートがゴールデンルートに対抗する新たな有力観光周遊ルートになると考えています。 外国人旅行者は、震災で大被害を受けた東北への旅行を遠慮しているところがありますが、東北のお客様は外国人旅行者に来てほしいと思っています。一方、東北の人たちの中にはいまだに苦しんでいる人もいます。2016年、震災から5年の節目として震災を風化させない、東北を忘れない、福島を忘れないという思いを込めて、JTBグループをあげて東北のキャンペーンをやるつもりでいます。東北、福島の人たちと一緒に正しい情報を内外にきちっと発信していきます。北陸新幹線が開業して、首都圏だけでなく東北からも北陸に行きやすくなりました。この冬は北陸の良さというものを首都圏エリアから東北エリアの方々に知っていただくいいチャンスです。 【問】2015年1~10月の訪日外国人旅行者数は、前年同期比48.2%増の1631万人超えと通年で過去最高だった14年の1341万人を更新。年間1900万人台に達する見込みです。訪日外国人急増の背景をどうお考えですか。 【答】円安に加えて、ビザの発給要件の緩和が大きかった。それから、免税店が急激に充実しています。これは爆買いを支えるインフラです。今、免税店はすごいです。政府は2020年までに2万店の目標を掲げていますが、既に1万9千店と間違いなく目標を超えます。この流れは地域にも及びます。当社は地域の旅館や商店に「外国人旅行者がどんどん来るようになってからでは遅いので、早く免税制度を申請して受け入れ準備をして下さい」とお願いしています。 グローバル事業枠組み構築でシェア拡大を…各国の習慣にも配慮 【問】御社の訪日外国人旅行者取り扱いのシェアはどのくらいですか。 【答】当社のシェアは15%くらいです。この結果には満足していません。というのも、当社は他社が持っていない強みを持っています。発(はつ)地ではグローバルネットワークを持っており、受(うけ)地ではきちっと受け入れるだけの体制を整えています。訪日外国人はどんどん伸びていますが、その内の4人に一人は中国人旅行者です。当社は中国において、中国政府公認の旅行エージェントですが、中国公認の外国の旅行会社は世界でJTB、アメックス、TUIの3社だけで、当社にはそういうアドバンテージがあるのです。そういったことを踏まえ、東京オリンピック・パラリンピックの2020年までに30%を目指します。 【問】2020年東京オリンピック・パラリンピックで日本に関心が向いている時ですから30%は固いのでは。 【答】いえ、高い目標です。現在はJTBグローバルマーケティング&トラベルが、フル稼働で訪日外国人対応をしていて、前年比150%以上というすごい伸びを続けているのですが、それでもシェア30%にはまだまだ届きません。訪日外国人、例えば、中国人旅行者が航空券や日本での宿泊先を確保する場合、中国のエージェントや海外のサイトを利用することが多く、当社をはじめ日本の旅行会社は十分に中国人の需要を取り込みきれていません。中国人は現地の中国系の旅行会社を通じて日本に来て、日本での手配も中国系が行っています。日本の旅行会社のネットワークに取り込めていない中国の人たちがものすごく多いのです。従って、シェア30%は高い目標ですが、実現に向けて強力に推進していきます。 【問】中国の旅行者の中では富裕層がターゲットでしょうか。 【答】そうです。日本でもお金が安ければいいという低価格志向のお客様と、少々お金が高くてもいい旅行がしたいという品質志向のお客様がいます。それは中国も同じです。確かに、中国人旅行者は爆買いに象徴されるように買い物中心です。せっかく日本に来たのに1日中ずっと買物に回って宿泊も食事も簡素な低価格で粗悪なツアーもあります。日本食を食べたかった、旅館に宿泊したかった、温泉に入りたかった、自然・景勝地観光をしたかったといった声が中国人旅行者の間にあります。これから個人ビザ発給要件の緩和で個人ベースの中国のお客様が増えていきます。個人で来られる富裕層をどう取り込むかが中国戦略の最大のテーマです。 【問】訪日外国人の取り扱いを増やすためにはグローバル事業の展開が欠かせません。どう推進していきますか。 【答】今までは、日本のお客様を海外にお連れする、海外のお客様を日本に訪日外国人として呼び込んでくる日本発・日本着という日本中心のビジネスモデルでしたが、当社は日本以外のマーケットで最終的に世界発・世界着というビジネスモデルを作り上げようとしています。世界発・世界着というのは日本を経由しないビジネスモデルです。例えば、アメリカの拠点からアメリカのお客様を中国へ、中国の拠点から中国のお客様をヨーロッパへお連れするというものです。 今、世界500のネットワークを活用して世界発・世界着の旅行を広げて、現地の人たちに日本以外の国へ旅行してもらうサービスの強化をはかっています。そのために現地の有力会社を買収しています。例えば、2014年、スペインのヨーロッパ・モンド・バケーションズの株式を取得しました。スペイン語のスペインツアーの旅行会社です。また、中南米に当社が買収した関連会社があり、中南米発でスペインのヨーロッパ・モンド・バケーションズで受けるのですが、これはほとんど日本人が関与しないビジネスです。M&Aをこれからも必要に応じて進めて行きます。地球を舞台にあらゆる交流を創造し続け、地域戦略とグローバル戦略を加速させ、地域経済と国内旅行市場を活性化させます。そして、アジア市場における圧倒的ナンバーワンポジションを確立させます。 【問】訪日外国人が増える一方で、受け入れ体制の問題が指摘されています。現況をどう見ますか。 【答】ここに来て一気に環境整備が整いつつあります。例えば、外国人旅行者が日本に来て感じる不平・不満のトップがWi-Fi環境です。この環境が整備されていなかったために、街中を離れるとネット接続が出来ない、観光情報を得ることが出来ないといった問題が起こりましたが、今ではほとんど整備されています。多言語表示も進んでいます。空港や駅、主な観光地では、まちの標識などが英語、中国語、韓国語など複数カ国語で表示されています。それから両替問題です。日本の銀行は3時に閉まる、空港に行かないと両替出来なくて不便という問題があります。それを解決する手段として当社独自で両替用ATMを開発して主だったホテルや旅館に設置しました。両替用ATMを置く余裕がない宿泊施設には外貨両替を代行するサービスを始めました。日本の旅館の意識も相当変わってきています。ほとんどの旅館で外国人旅行者に対して「さあ、やるぞ!」という状況になっています。 おもてなしを標榜する国であれば、外国人旅行者が日本に来て困っていることは解決していかないといけません。例えば、ハラル対応です。ビザ発給条件の緩和でインドネシア、マレーシア、シンガポールなどムスリム(イスラム教徒)が多数派を占める東南アジアからの観光客が急増すると予想されます。イスラムの人たちは豚肉を食しません。アルコールもたしなみません。お祈りするスペースが必要です。そうしたことにきちっと対応することがリピーターの増加につながります。日本人が海外で日本語表示を見て「日本人旅行者を大事にしてくれている」と感じるのと同じことです。それがおもてなしの一番の入口です。既に訪日外国人の4割から5割くらいがリピーターです。新規だけでは実現が難しい訪日外国人2千万人、3千万人もリピーターを増やす努力を欠かさなければ実現可能となるでしょう。 (聞き手・QUICK情報・コンテンツ本部 岡村健一) <高橋広行氏略歴> 1957年徳島県生まれ。79年関西学院大学法学部卒業、日本交通公社(現JTB)入社。2001年JTB西日本エース事業部長、03年高松支店長、05年広島支店長、06年JTB中国四国取締役広島支店長、07年同常務取締役広島支店長、10年JTB取締役旅行事業本部長、12年JTB西日本代表取締役社長、14年6月JTB代表取締役社長。

中国、エコカー普及へ優遇策相次ぐ 比亜迪など急成長も、目標に遠く

QUICKではアジア特Q便と題し、アジア各国・地域のアナリストや記者の現地の声をニュース形式で配信しています。今回は、フィリップ証券(香港)のルイス・ウォン(Louis Wong)氏がレポートします。※本記事は2015年12月11日にQUICK端末で配信した記事です。 目標台数達成に向け新政策でテコ入れも 中国が新エネルギー自動車の発展に力を入れている。2009年に発表した「自動車産業の調整と振興計画」で、新エネルギー自動車市場の発展に向けて3年間で取り組む目標と措置を打ち出していた。すなわち、11年までに純電動やプラグインハイブリッド、一般型ハイブリッドなど新エネルギー自動車の年間生産能力を50万台にまで引き上げ、乗用車全体の販売台数に占める新エネルギー自動車の割合を5%前後にするという目標だ。しかし、11年の中国自動車市場の総販売台数は1850万台。このうち5%に相当する台数は92万5000台だが、同年の中国の新エネルギー自動車の生産台数は8368台、販売台数は8159台と、目標数値から遠くかけ離れている。  新エネルギー自動車産業の発展を加速させるため、中国国務院(政府)弁公庁(事務局)は14年に「新エネルギー自動車の活用・普及の加速に関する指導意見」を発表、新エネルギー自動車産業の発展に向けて全面的で系統化されたガイドラインを提示した。その後、新エネルギー自動車に関する奨励策や支援策を相次いで公布。今年について言えば、「2016~2020年新エネルギー自動車の活用・普及の財政支援策に関する通知」「省エネ、新エネルギー使用の車両・船舶に対する車両・船舶税の優遇策に関する通知」「電動自動車の充電インフラ設備建設の加速に関する指導意見」など、ほぼ毎月のように新たな政策が打ち出されている。 純電動車の売れ行き好調…新エネルギー車全体では販売量過去最多も 主要都市で相次いだ新エネルギー自動車の購入制限の撤廃、及び新エネルギー自動車の購入補助などの優遇政策を受け、今年に入り中国の新エネルギー自動車市場は飛躍的に拡大した。中国自動車工業協会のデータによると、新エネルギー自動車の1~10月期の生産台数は18万1200台と前年同期の3.7倍に、販売台数は17万1100台と同3.9倍に増加した。現時点の市場統計に基づく今年の販売台数は25万台前後に達する見込みだ。米国の今年の新エネルギー自動車の予測販売台数は18万台であり、中国は販売台数で米国を抜き世界最大の新エネルギー自動車市場となるもようである。 しかし、中国の今年の新エネルギー自動車販売台数は同国政府が12年に制定した目標から依然としてかけ離れている。中国国務院は12年6月発表の「省エネと新エネルギー自動車産業の発展計画(2012-2020年)」の中で、純電動車とプラグインハイブリッド車の累計生産販売台数を15年までに50万台に、生産能力を20年までに200万台に、そして同年までに累計生産販売台数を500万台超に、それぞれ増やすという主な市場目標を明確に掲げた。この目標達成に向けて、今後さらに多くの奨励策や支援策が発表されることになるだろう。 現在、中国で販売されている新エネルギー自動車の車種は数十種類、主な車種にそれぞれ10種類以上のモデルがある。テスラ・モーターズ(コード@TSLA/U)やトヨタ(7203)など日米のブランド以外は大半が国産だ。中国の自動車関連の調査機関である全国乗用車市場信息聯席会(CPCA)の統計によると、新エネルギー乗用車の販売台数は10月に2万1375台と前年同月の4.1倍に達して過去最多を記録した。今年1~10月の累計販売台数は11万600台だった。このうち純電動車は累計6万8300台、プラグインハイブリッド車は同4万6600台だった。純電動車の販売台数は3カ月連続で増加し、10月の新エネルギー乗用車全体の販売台数の72%を占めた。一方、プラグインハイブリッド車の販売台数は減少傾向だった。 中国自動車大手の比亜迪、大量受注と「7+4」戦略で純利益5倍超見込む 中国自動車大手の比亜迪(BYD、コード@1211/HK)が新エネルギー自動車で急速な成長を遂げている。「秦」「唐」「宗」「元」「商」といった車種を相次いで投入。今年1~10月の新エネルギー自動車の累計販売台数は4万3100台と、前年同期の3.2倍に膨らんだ。1~9月期の売上高は前年同期比20%増の484億9400万人民元、純利益は前年同期の5倍の19億6000万元だった。同社は15年度の純利益が14年度の5.35~5.81倍になると予測している。14年度の純利益(4億3300万元)をもとに算出すると、15年度の純利益は23億2000万~25億1500万元に達する見通しだ。同社によると、第4四半期(10~12月期)にプラグインハイブリッド車の売れ行きが引き続き急速に伸び、公共交通関連や特用車の分野の受注が大量に納品となる見込み。BYDは今後、新エネルギー車戦略を自家用車と公共交通関連という2つの主軸から全方向の市場開拓へと切り替え、「7+4」戦略に積極的に取り組む。「7+4」戦略とは、自家用車やタクシー、公共バス、環境衛生関連の車両、都市部の商品物流関連、陸上旅客輸送関連、都市部の建築物流関連という従来の7つの領域と、倉庫、鉱山、港、空港という4つの特殊領域をカバーすることを指す。  BYDがプラグインハイブリッド車の分野でトップと称される一方、北京汽車(コード@1958/HK)は純電動車分野の王者だ。北京汽車が発表した統計によると、今年1~9月期の同社の新エネルギー車の販売台数は累計1万1251台と前年同期の12.75倍に達した。2年間連続で純電動車の国内生産販売台数トップを記録し、純電動車の販売台数で世界で4位に入った。同社の事業計画「衛藍事業計画2.0」によると、20年までに新エネルギー車の販売台数を20万台にまで引き上げ、国内市場シェア15%超を達成する計画だ。

「中国経済は『中進国の罠』にはまるか」丹羽連絡事務所・中島精也氏

話し手:丹羽連絡事務所 チーフエコノミスト 中島精也氏(※本記事は2015年12月10日にQUICKで配信された記事です) 【景況判断】現状(3カ月前比):やや良い 先行き(3カ月後):やや良くなっているGDP予測:15年度0.9% 16年度1.1%【金 利】短期:TIBOR3カ月 0.17%長期:10年物新発国債 0.35%【円 相 場】 125円/1ドル【株 価】22,000円/日経平均*GDP予測値は実質GDP成長率、前年比%*長短金利、円相場、株価は3カ月後(2016年3月末)の予測値 1.景気見通し:「回復はするものの力強さに欠ける」 本年7-9月期のGDPの伸びは前期比-0.2%、年率-0.8%と2四半期連続のマイナス成長だった。定義によれば日本経済は景気後退入りしたことになる。しかし、需要項目の中身を見ると、在庫投資の成長寄与度が-0.5%と大きくGDPの足を引っ張った。在庫のマイナスを除けば前期比0.3%、年率1.2%成長となるので、これが実感に近い。あまり表面的な数字に振り回されることはない。ただし、今年4月以降の景気指標の動きを振り返ると、正直言って期待はずれであったのは否定できない。 第1に消費の回復が鈍い。雇用は10月の雇用者数が5,704万人で前年同期比1.3%プラスの75万人増。失業率も3.1%の低水準に改善している。それなら労働需給の逼迫で賃金が上昇しなければならないが、そうなっていない。10月の所定内給与の伸びはわずか0.1%、その他の残業代や特別給与が押し上げても、現金給与総額は0.7%の伸びに過ぎない。幸いと言って良いのか、消費増税効果の一巡から物価の伸びが落ち込んだために、実質賃金は0.4%とプラスだが、消費を支えるに迫力不足は否めない。 第2は輸出の弱さである。10月の輸出数量の伸びが-4.6%と、実に本年5月以降プラスの月がない。円安で輸出増を当てにしていた当局は全く当てが外れてしまった。円安でも企業はドル建て価格を下げないので、輸出数量が伸びないのは道理だ。結局、円安による為替差益で輸出企業が潤うだけだった。それならもっと賃上げを、と安倍政権のイライラが増すのみである。 鈍い消費と弱い輸出を考慮すれば、第3に企業が設備投資に慎重な姿勢を取るのはうなづける。結局、安直にマクロ政策で設備投資を刺激しようとしても、成長期待が高まらなければ、企業は投資をしない。アベノミクス第3の矢「民間投資を喚起する成長戦略」をスピード感を持って果敢に実行するしか手はない。景気は緩やかな回復軌道を辿ると思われるが、力強さに欠けるのが問題だ。 2.金融環境:「日米ともに金融政策の大幅な変更は予想し難い」 12月15?16日に米連邦公開市場委員会(FOMC)が開かれるが、11月の雇用統計は非農業雇用者数が前月比21万1千人増と好調持続を示したこと、またイエレンFRB議長が「FOMCは年内の利上げが適切だと指摘してきた」と利上げを強く示唆しており、利上げという出口戦略第二幕がスタートするのは間違いない。市場の関心は既に年明け後の利上げペースに移っている。FRBの2つの使命の1つである雇用の最大化は達成されているが、もう1つの物価の安定についてはPCEデフレーターが1.3%の伸びと2%目標から大きく乖離しており、賃金の伸びが加速しない限り連続利上げとは行かない。よって、ドル高の進行は限定的だろう。   FOMC翌日の12月17-18日には日銀政策決定会合が開かれる。これまで黒田総裁は「先行きは好調な企業業績から設備投資も緩やかに増加し、消費も雇用・所得環境の着実な改善で底堅く推移する。期待インフレは長い目で見れば上昇する」と景気、物価共に強気の見方を述べており、額面通りに受け取れば、追加緩和はないということになる。しかし、昨年10月31日に期待インフレの低下を回避するとして、突然の追加緩和(バズーカ2)に踏み切った事例もある。今回、日銀が動かないとなると、むしろ円高に振れるリスクもある。それを回避するため、何らかの小規模な政策変更、例えばJ-REITやETFの購入規模の増大などは心積もりしておいたほうが良さそうだ。いずれにせよ、日米ともに大きな金融政策の変更は考えにくいので、円相場も一気に130円を目指すような劇的な動きは予想し難い。 3.注目点:「中長期的に正念場を迎える中国経済」 中国の今年7~9月期のGDPは前年同期比で6.9%と、ついに7%割れとなった。低調な中国経済が続いている根本原因は地方政府の過剰債務、国有企業の過剰設備、その両者に貸し込んでいる銀行の不良債権にある。振り返ると、リーマンショック後の4兆元の景気刺激策が地方経済に大きな歪みをもたらした。景気対策に必要な資金は地方政府傘下の融資平台が債券を発行して集めた。また、信託会社は購入した融資平台債券を裏付けとした理財商品を組成して投資家に売却した。この悪名高きシャドーバンキングを通じて得られた資金が採算性を度外視して、不動産開発、造船、鉄鋼などの投資に回った結果、地方経済のバランスシート悪化は深刻化し、今後数年間はバランスシート調整で景気回復が望めない。  加えて長期的視点から中国経済がいわゆる「中進国の罠」に直面している点を指摘しなければならない。中国経済の発展は安価で豊富な労働力を武器に先進国から直接投資を呼び込んだことで説明される。国内の労働力の高い伸び、外資に依存した資本ストックの急増、外資に付随する高い技術による生産性の伸びの3つが中国の高成長を実現させた。しかし、一人っ子政策の影響で、今後は労働力の伸びはマイナスへ転換する。外資も2000年比6倍にも跳ね上がった賃金や元高を嫌気して、ミャンマーやベトナムなど新天地に向かっている。そうすると、外資依存の技術や生産性上昇にも限界が出てきた。 これまで多くの後進国が中進国(中所得国)までは発展するが、先進国になれなかったのは、外資依存の成長モデルに安住して、自前の独創的な技術開発に成功しなかったからだ。同じような道を歩んで来た中国は今、正に「中進国の罠」に直面しようとしている。決して楽観視できない。国際競走に勝てるだけの技術開発力を有する国へ変身できるか否か、これからが中国経済の正念場と言えるだろう。 <中島精也氏略歴> 1947年生。72年横浜国立大学経済学部卒、伊藤忠商事入社。日本経済研究センター出向、独ifo経済研究所客員研究員(ミュンヘン駐在)、九州大学経済学部大学院非常勤講師、伊藤忠商事チーフエコノミストなどを経て、2015年4月より現職。著書に「傍若無人なアメリカ経済」(角川新書)、「グローバルエコノミーの潮流」(シグマベイスキャピタル)、「アジア通貨危機の経済学」(共著、東洋経済新報社)。日経産業新聞「眼光紙背」に寄稿、ifo経済研究所”World Economic Survey”のメンバー、PHP総研のグローバルリスク分析プロジェクトのメンバーなど。

インドネシア、成長の牽引役は「一次産品」から「観光産業」にシフト

※QUICKではアジア特Q便と題し、アジア各国・地域のアナリストや記者の現地の声をニュース形式で配信しています。今回はインドネシアの現地記者アディ・ビナルソ氏がレポートします。※本記事は2015年12月7日にQUICK端末で配信した記事です。 インドネシア、観光産業に熱意…ビザ免除も 世界の一次産品価格の低迷が続き、最高値の水準まで戻る可能性が低いとみられる中、インドネシアに待望の外貨収入をもたらし、経済成長を促進する産業として、いま、観光産業に関心が集まっている。 この東南アジアの国には数多くの自然の景勝地や個性的な歴史的、文化的に価値の高い遺跡がある。しかし、宣伝不足や現状に対応できない老朽化したインフラ環境、官僚主義といったことが長い間、観光産業の妨げとなってきた。インドネシアには毎年約900万人の外国人観光客が訪れているが、隣国のマレーシアやタイに大きな後れを取っている。マレーシア、タイにはそれぞれ毎年2400万人、2700万人の外国人観光客が訪れている。  ジョコ・ウィドド大統領はこの実績に不満を示し、2019年までに旅行者数を2000万人呼び込むことを目標に、より多くの旅行者を誘致するための複数のプログラムを実行に移した。大統領の最初に動いた計画は、具体的には45カ国・地域から訪れる観光客の査証(ビザ)を免除するもので、この結果、9月の外国人旅行者数は前年同月比で10%近く増加した。  観光省も観光キャンペーンを見直し、国内の観光地を紹介するため、地域のケーブルテレビチャンネルの番組に資金を援助し、その制作にも関わっている。これは、この1年間にマレーシアとシンガポールが考案し、インドネシアやそのほかの東南アジア各国の観光客の誘致に大きく成功した戦略を模倣したものだ。入国管理局も、観光客が短期滞在ビザの延長をより簡単に行えるようサービスを改善すると約束した。 空の旅を快適に…航空インフラ整備続く インドネシア中央銀行のデータによると、第3四半期の観光産業による外貨収入は28億米ドルで、前年同期の23億米ドルに比べて22%増加した。これは17%減少した一次産品の輸出収入とは対照的な結果だ。また、海外で働く380万人のインドネシア人労働者からの送金は16億ドルで横ばいだった。  同国のインフラ未整備に対処するため、運輸省は国内各地にある空港185カ所のうち100カ所の滑走路を2000メートル以上に拡張することを計画している。2019年までにボーイング737-800型狭胴機に対応することが目的だ。イグナシウス・ジョナン運輸相は「我々は空港間の接続を改善し、空の旅を人々にとって手頃なものにしようとしている。しかし、現在の滑走路のままでは実現できない」と話した。ジャカルタ郊外の国際的な玄関口であるスカルノ・ハッタ国際空港やバリ島のングラライ国際空港など26カ所の空港を運営している国営空港運営アンカサ・プラ1とアンカサ・プラ2も、より多くの旅行者に対応するため、空港の能力を拡張している。 低成長脱却の切り札なるか 民間企業も精力的に事業を拡大している。インドネシアの上場旅行大手の1つであるパノラマ・セントラウィサタ(コード@PANR/JK)は先月、ジョグジャカルタのホテル買収を完了したところだ。同社は、訪問する旅行者数を2016年に22万3000人以上に倍増させることを計画しており、ベトナム、ミャンマー、中国、日本といった新しい市場に働き掛ける広告宣伝活動を強化している。同社のブディ・ティルタウィサタ社長は「我々は観光客のビザを免除するという政府の政策を頼りにしている。ビザ免除はインドネシア観光産業の成長を確実にする良い方向への第一歩だ」と話した。  インドネシアの大手不動産複合企業の1つ、リッポー・グループもまた、伝説の生物コモドオオトカゲの生息地である東ヌサトゥンガラ州ラブアンバンジョなどインドネシア東部に新たに旅行者を誘致する目的でホテル、ショッピングモール、病院開発に投資した最初の企業群の1つだ。  バリ、東ヌサトゥンガラ、西ヌサトゥンガラ各州の経済は合わせて、2015年第3四半期に前年同期比で11.8%成長した。これらの地域の成長率は国全体の成長率である4.73%を上回った。観光業がけん引役となった各州は、同国経済にある程度の貢献をしたといえるだろう。  バンバン・ブロドジョネゴロ財務相は「我々は観光という1つの産業により照準を合わせることで、経済成長を実現する上での障害を克服する方法を見つけたのだ」と話している。 【翻訳・編集:NNA】

中国、株価てこ入れの出口策を段階的に実施 課題は「国家隊」保有株の処分

※QUICKではアジア特Q便と題し、アジア各国・地域のアナリストや記者の現地の声をニュース形式で配信しています。今回は、香港の現地記者ジェスロ・オー氏がレポートします。※本記事は2015年12月4日にQUICK端末で配信した記事です。 規制緩和は自信の表れ 中国政府は今年7月、株式相場の暴落を阻止するべく「暴力的な相場てこ入れ」を行った。証券会社やファンドに共同で株式購入を命じて相場を下支えするように求めただけでなく、多くの行政的な措置を打ち出した。これらの措置には、新規株式公開(IPO)の一時凍結や証券会社に自己勘定取引で日次ベースでの買い越し(すなわち購入額が売却額を上回ること)を厳令したことなどが含まれる。しかし、最近、これらの「暴力的な相場てこ入れ」措置が次第に撤廃される兆しがある。その背景には、株式相場の先行きに対する中国政府の自信がある。  中国証券監督管理委員会(証監会)はこのほど、IPOの審査・認可を再開して株式市場の資金調達機能を回復すると宣言した。これまでIPO再開は相場下落の口実とされがちだった。市場の資金をIPOに大量に持ち去られることを懸念する投資家がリスク回避で利益確定売りを出すためだ。しかし、今回の証監会のIPO再開宣言に対する投資家の反応は比較的に冷静だった。株式相場は急落せず、中国政府は「暴力的な相場てこ入れ」時の非常措置を徐々に取り消すことに対して自信を十分に強めた。  その後、証監会は「証券会社の自己勘定取引に対する日次ベースの買い越し要求の取り消しに関する通知」を発表。7月の株価暴落期間に規定した、上海総合指数が4500ポイント以下の時に証券会社が日次ベースで買い越しを維持しなければならないとする要求を明確に撤廃した。この出口策が伝わった後も株式市場の動きは冷静で、証監会は市場運営を今後徐々に通常の状態へ戻すことへの自信を強めた。 出口戦略移行は織り込み済み?  数カ月前、中国政府が出口策を準備中との誤報を中国メディアが報じてパニックを引き起こしたことがあった。中国政府はその後、証券会社やその他機関による株式市場での不法な活動の取り締まりに乗り出し、中国政府の出口策という偽りの情報を「悪意」で報じたとして国内の記者を取り調べた。しかし、中国政府の出口への動きが今回再び伝わったものの、金融市場はパニックとならず、人民元建てA株市場の動きは冷静だった。前回と今回の反応がこのように大きく異なったのはなぜか。それは、前回は市場心理が落ち着いておらず中国政府の出口策が伝わりパニックとなったものの、数カ月が過ぎて市場心理が次第に回復し、また政府の多くの景気下支え策を目にして投資家が相場の先行きに対する自信を取り戻したことで、政府の出口策を恐れなくなったためだと思われる。  IPO再開と証券会社の自己勘定取引の日次ベースでの買い越し規定取り消しという、いずれも「暴力的な相場てこ入れ」のヘビー級の行政措置を撤廃することに中国政府は自信を持った。加えて、「場外配資」と中国語で称される、証券会社以外の融資会社からの融資について清算作業が完了したうえ、証券業界の不法な活動の取り締まりで成果が出たことで、株式市場が回復軌道を取り戻すことに対して中国政府は自信を充分に強めたようだ。もっとも、「暴力的な相場てこ入れ」では当初、上海総合指数の4500台回復を目標としていたが、現時点でわずか3500付近にとどまっている。なぜ政府は前倒しで「矛を収めた」のだろうか。それは恐らく、現実的な方法を考慮したためと思われる。中国経済は勢いが衰え、マクロ的な外部環境も芳しくない。加えて米国の利上げが迫る中、無条件で相場を4500台に押し上げることは現実離れしている。一方、株式相場は現在の水準で落ち着きを見せており、比較的に低水準にあるときに徐々に出口策を行えばそれに伴う動揺を減らすことができる。逆にむやみに4500台に押し上げて出口策に動けば多くの利益確定売りを招き、新たな株価暴落の危険を生み出す恐れがある。 ”国家隊”の退路確保がカギ  今なお残る比較的大きな課題は、「暴力的な相場てこ入れ」時に証券会社や国有企業などの「国家隊(国家チーム)」が購入した株式だ。中国株式市場全体の時価総額の6%を占めると推測されるこれらの株式が出口策により市場に売り出されれば、動揺を招く恐れがある。このため、どのようにこれらの株式を売却するかについては慎重に取り組み、ゆっくりと時間をかけて秩序正しく進める必要がある。香港政府が1998年に海外資本の攻撃に対抗して行った株式市場介入を参考にすることも可能だろう。大量の資金を投じて株式を購入し、上場投資信託(ETF、当時の香港では「盈富ファンド」と呼んでいた)の形で証券取引所で売買する方法により機関投資家や市民に売却して持ち株を徐々に減らすという方法である。

インドネシア、経済特区への優遇税制で投資呼び込む 財政再建に課題も

※QUICKではアジア特Q便と題し、アジア各国・地域のアナリストや記者の現地の声をニュース形式で配信しています。今回はRHB OSK証券インドネシアのヘルミー・クリスタント氏がレポートします。この記事は11月24日にQUICKの端末サービス上で配信されたものです。   先月に続き新たに景気浮揚策打ち出す…SEZへの投資呼び込みに積極的 インドネシア政府は、経済政策パッケージをさらに進めるため、主要3項目からなる景気浮揚策の第6弾を打ち出した。最大25年間のタックスホリデー(一時免税措置)をはじめとする経済特区(SEZ、インドネシア語ではKEK)による景気対策などは、海外からの投資を呼び込もうとする姿勢を明確にした。 ■経済特区への優遇税制 インドネシアのSEZは現在8カ所。SEZにはそれぞれ重点産業があり、主要な資源や人材を得られる地域に設置されている。インドネシア政府は、経済刺激策第6弾に、SEZへの投資を呼び込むためタックスホリデーを盛り込んだ。1兆ルピアを超える投資については、10~25年に渡り、法人税の20%~100%を免除、5000億~1兆ルピアまでの投資については、免税率は同水準のまま、期間を5~15年とする方針だ。投資が各SEZの重点分野以外を対象としている場合も、6年間にわたって30%のタックス・アローワンス(一時減税措置)を付与する。これらすべての税制優遇措置に加え、SEZに対してすでに導入されている輸入税、付加価値税(VAT)、奢侈(しゃし)税の免税措置も継続する。政府はまた、SEZ内で外国人の不動産購入を認める方針だ。一連の政策は投資先としてのインドネシアの魅力を高めるだろう。 ■水供給に関する規定の見直し インドネシア政府は水供給の規定を見直す方針だ。水供給事業は今後、公共事業化される計画。水供給事業の運営権や認可付与などの権限はすべて中央政府に返還される。これは新規投資の誘致と矛盾するように思われるが、これらの変更は憲法裁判所が2月に下し水資源法『2004年第7号』を無効とする判決を順守するために必要な措置だ。ただ、インドネシア政府は、既に水資源利用に関する事業認可を所有している民間企業については、新たな規定が制定されるまで事業を継続できるようにする考えを明らかにしている。それでも、今後、規定がより強化される可能性もあることから、インドフードCBP(@ICBP/JK)やユニリーバ・インドネシア(@UNVR/JK)といった消費財企業のボトル入り飲料水事業にマイナスの影響が及ぶ可能性がある。 ■手続きのさらなる簡略化 政府は、景気浮揚策第1弾に盛り込んだ貿易の規制撤廃をさらに進めるため、薬品とその原料に関する輸入手続きをさらに簡素化する予定だ。手続きに要する時間は1時間未満に短縮される見通し。この規制緩和は、カルベ・ファーマ(@KLBF/JK)やミトラ・クルアルガ(@MIKA/JK)、サラナ・メディタマ・メトロポリタン(@SAME/JK)などの医薬品企業や病院に前向きな影響を与えるはずだ。 経済特区モロタイ島開発…総面積1200ヘクタール、費用は6兆ルピア超見込む ほかに、景気浮揚策第6弾で恩恵を受ける企業としては、カワサン・インダストリ・ジャバベカ(@KIJA/JK)をあげる。同社は現在、タンジュンレスン(バンテン州)とモロタイ島(北マルク州)の2カ所のSEZで開発事業を進めている。開発面積は合わせて2647ヘクタール。KIJAは今年初め、タンジュンレスンのSEZの開発に向け、7社(地場企業3社、海外企業4社)と出資に関する覚書(MOU)を締結した。また、モロタイ島の(SEZ)開発については、台湾の投資企業約20社と提携している。同SEZの開発費用は推定で最大6兆8,000億ルピア、総面積は1200ヘクタール。 インドネシア政府が、SEZの開発をさらに進めるため、インフラ整備に取り組んでいることも好材料とわれわれは考えている。公共事業・国民住宅省のデータによると、8カ所のSEZで予定されているインフラ整備事業は、タンジュンレスンを除き、今年に入札が完了し、発注先が決まった。ただ、(タンジュンレスンについても、)政府はジャカルタ~メラク~タンジュンレスン間を結ぶ有料道路を建設する計画を表明している。延長80キロメートルとなる同道路の建設は、入札から3年以内の完工を見込んでおり、来年には着工する必要がある。 予想下回るGDP成長率の流れはいつまで? ■7~9月期のGDP成長率、予想を下回る インドネシアの中央統計局が発表した7~9月期の国内総生産(GDP)成長率は前年同期比4.73%と、4~6月期(4.67%)をわずかに上回った。ただ、中央銀行の予測(4.85%)と市場予測(4.80%)には届かず、依然として経済回復の鈍さが浮き彫りになった。これを受け、インドネシア政府がより効果の高い景気刺激策対策を打ち出すと見込んでいる。同国政府は現在、財政赤字リスクの拡大に直面している。税収が目標を下回り、10月中旬時点で57%にしか達していないことが主な要因だ。10~12月期に財政支出が拡大する見通しであることから、財政赤字幅が今後拡大する可能性は高い。このため、インドネシア政府は当初の支出目標を達成することはできないかもしれないが、特に今年前半の予算執行ペースが鈍かったこともあり、それはある程度予想されていたことだといえる。より重要なことは、10~12月期に支出パターンが目に見える形で改善されることだ。支出パターンの改善は支出目標の達成よりも重要なことであり、今後のインフラ開発事業の推進に関して政府への信頼感を高める。当社のエコノミストは、インドネシア経済は2015年下半期に前年同期比で4.9%の成長を達成し、前年同期比4.7%だった2015年上半期よりも成長が加速すると予測している。この予想は、政府支出が堅調に伸び、投資が順調に進むことを前提としている。通年では、(これまでの)実質GDP(成長率)予測を維持する。われわれは、(インドネシアの)2015年の成長率を4.8%と予測し、2014年の5%を下回るとみている。【翻訳・編集:NNA】

「再誕から躍進へ『全社員が営業マン』で攻めに転じる」長谷工コーポレーション・辻範明氏

平成バブル崩壊の負の遺産に屈することなく、倒産危機を乗り越え、復配、優先株の消却・全額償還を果たし、業績回復を成し遂げたマンション建設最大手の長谷工コーポレーション。辻範明社長に苦しい時代を乗り越えたポイントや今後の展開を聞いた。※本記事は2015年10月21日にQUICK端末で配信した記事です。 長谷工再建、裏側には決死のプロジェクト 【問】まず、再建までの道のりをお教え下さい。 【答】当社は1995年3月期に初の連結赤字に転落して、オーナー社長のもとで自主再建に取り組みましたが、残念ながら断念することになり、1999年5月から本格的なリストラに入りました。経営陣の体制も建設省(現国土交通省)から来られていた嵩聡久(だけとしひさ)さんが社長に、大和銀行(現りそな銀行)から再建支援で来られた岩尾崇さん(故人)が副社長に就任し、主力金融機関である大和銀行(現りそな銀行)、日本興業銀行(現みずほ銀行)、中央三井信託銀行(現三井住友信託銀行)からも1名ずつ来られて、再建がスタートしました。 当時は、首都圏で大規模マンションが出始めた「はしり」の時期で、マンション市場全体は好調に推移していました。当社の業績も好調に推移し、2007年3月期は連結経常利益で過去最高益(630億円)を記録しました。そのタイミングでは優先株の償還が出来る状態に辿り着いていました。しかし、2008年リーマンショックで流れが一気に変わってしまい、また苦しい時期が続くことになりました。  前任の大栗育夫社長(現会長)のもとで2012年4月から中期経営計画(4N計画)がスタートし、残り400億円の優先株を期間利益で全額償還するという大目標を立てました。マンション業界は苦しい時期ではありましたが、2013年にブライトンホテルや横浜のビルなど保有資産が売却出来たことで資金を回収することが出来ました。アベノミクスの影響だと思いますが、他のゼネコンが、公共工事や民間の一般工事の受注が増える中で手間のかかるマンション工事から少しずつ手を引き始めたため、当社への工事依頼が増えていきました。その結果、2014年3月期は3000億円の受注目標を立てていたのですが、中間決算時に3500億円に上方修正することになり、最終的には3600億円超の受注を確保することが出来ました。受注の材料も積み上がってきたことから、2015年3月期と2016年3月期の決算がほぼ見えてきました。そこで、2014年2月に優先株の全額償還と復配を決めました。 【問】再建完了と同時に社長にご就任されました。 【答】2014年という年は創業者の長谷川武彦氏の生誕100年の年です。創業者の生誕100年を迎えた年に、当社は再生して再誕しました。これも何かの縁なのかと思います。  社員には「修羅場、土壇場、正念場の3つの場を役職員全員で乗り切った」というメッセージを送りました。1995年に赤字に転落し、自主再建の期間中には多くの社員が給与カットされました。それでも立ち行かなくなって、債務免除を柱とした経営再建が1999年から始まり、本格的なリストラに入って一段と社員の処遇は抑えられました。そのような中で、辞めないで皆で歯を食いしばって力を合わせて苦難を乗り切ろうと努力してきました。私の部下が「再建中の会社だから道の真ん中を堂々とは歩けないけど、道の端っこを上を向いて歩こう」とよく言っていました。その時の頑張りがあったから今があると思っています。 【問】インタビュー直前、長谷工ビル1階の来客コーナーに立ち寄ってきました。とても明るい雰囲気ですね。 【答】苦しい時期でも1階の来客コーナーは打ち合わせの声で賑わっていました。来社したデベロッパーにも「これなら長谷工はつぶれない」と思ってもらえたかもしれません。 【問】再建の時のことをもう少しお聞きします。今、振り返っても壮絶な再建だったのではないですか。例えば、どのような時に辛いとお感じになりましたか。 【答】しんどいことはたくさんありました。当社は、マンションの用地情報を取得して、その土地をデベロッパーに買っていただき、マンションの建設工事を特命で請け負うという、通常の建設会社とは異なるビジネスモデルを持っています。土地を押さえないと仕事に結びつきません。土地の契約内容は、例えば、2割の前金を払って3カ月後に残りの8割を払うというもので、3カ月の間にデベロッパーを決めて土地をスイッチ出来なければ、2割の手付金を放棄することになります。そんなことをすれば信用を失い経営が一段と悪化します。当時は決められた融資枠がありましたから新たな土地契約も出来なくなります。会社がつぶれるかもしれません。まさに時間との戦いです。「絶対決める!」と意気込んでやっていました。それでも、残金決済1カ月前になってもスイッチ先が決まらないことが何度もありました。盆が明けたらもう10日しかないのに8月末の残金決済が決まっていないから夏休みがない。新年を迎えようとしているのに1月末の残金決済が決まっていないから正月は休んだ気がしない。毎日追いつめられていました。  大船駅前(神奈川県)で1500戸という大規模なマンション用地を取得した時は、毎日胃が痛くてほとんど寝られませんでした。当時、1000戸以上の物件は関東圏にはありません。かつてない規模なので3社のデベロッパーと勉強会を重ねてきました。ところが、土地を取得した後に、2社から「立地は申し分ないがやめる」と言われてしまったのです。土地契約はしているからもう真っ青。残った1社をベースに奔走して必死に営業をかけ、何とか引受先を見つけました。 【問】よく決まりましたね。 【答】もう決死の覚悟でした。残った1社と当社だけでは決済出来ない。当社がつぶれる可能性もある。皆、会社がそういう状態にあることがわかっているから必死です。ただ、必死でも悲壮感を持って相手先に行くとなかなか決まりません。売値はいいが1500戸という規模に相手がリスクを感じていたら、その不安を払拭するような勢いで営業は訪問しないといけません。営業部隊を全員集めて、「この土地は絶対デベロッパーが買ってくれる。この売り値であればデベロッパーは買ってくれる。そういう信念を持って『土地を押さえました』、『大丈夫です。絶対売れます』と売り込みに行きなさい」と檄を飛ばしました。それで相手の窓口に営業が売り込みに行きます。そうすると「感触はそう悪くない」、「この会社はやってくれるかもしれない」という見込み先がぽちぽち出てきました。相手が当社の案件を上にあげたら営業の上司が行く。相手がさらに上にあげたら営業の上司の上の者が行く。役員の私も行く。そうやって相手を説得していきました。工期を分けずに一発で着工して販売も行いましたが、当時の売り値が20坪で2700万円くらいと割安感があったところに営業の努力もあって、売り出すたびに売れるという好結果が続き、予定通り1500戸すべてが完売しました。 【問】大船でのご成功は印象に残るプロジェクトになりましたね。 【答】そうですね。当時の私は取締役事業部長という営業の責任を負っていました。株価が50円を切り、13円をつけたこともあり、そのような時にどのようにして工事をいただくか、これが一番しんどかった。普通であれば当社に発注してくれない。土地を取得する時に50億円くらいまでであれば何とかなりましたが、当時は大型のマンション用地が出てきており、土地代が1物件で200億円くらいしました。その時代に腹をくくって取得した土地が2000年くらいからの大規模マンションブームの走りになりました。その象徴とも言えるのが大船プロジェクトです。豊洲のプロジェクトも全体で1500戸あり、2つを同時に走らせながらデベロッパーにスイッチ出来たことが一番印象に残っています。 増収増益、マンション工事受注も好調 【問】次に、経営状況についてお聞きします。3期連続の増収増益です。 【答】工事量の増加や利益率の改善などにより増収増益となりました。利益率の改善は、労務価格が慢性的な労働者不足などによってリーマンショック前の水準まで戻った後、直近は比較的落ち着いていることや、施工効率向上の施策が奏功したことによるものです。  施工効率向上の施策について具体例をいくつかあげると、一つ目は、受注(着工)の平準化と先手の労務確保によって労務効率が向上したこと、二つ目は、物件の大型化によって資材発注で規模のメリットが効いたこと、三つ目は、竣工・引渡時期及び件数の集中が緩和した結果、突貫対応費が低減したこと、四つ目は、生産効率向上のための省力化工法や工業化工法(VH分離、基礎省力化工法)に取り組んだこと、などです。 【問】足元の受注も好調です。 【答】売上高の先行指標となる受注高についても好調に推移しています。2015年3月期の期初は4000億円の目標でスタートしましたが、第2四半期で4400億円、第3四半期で4600億円に上方修正し、4642億円で着地しました。2016年3月期も同水準の勢いで4700億円を予想しています。受注の中身は2013年の初めから変わってきており、土地持ち込みによらない受注が増えています。例えば、野村不動産や住友不動産、三井不動産などメジャー7と呼ばれる大手不動産会社からマンション工事の設計・施工を発注いただくケースが増えました。当社のビジネスモデルである「土地持ち込みによる特命受注」と「逆輸入(土地持ち込みによらない受注)」の比率は2014年3月期がおよそ55:45、2015年3月期はさらに逆輸入が増えて45:55、2016年3月期は30:70まで逆輸入が増加する可能性があります。その理由は大きく2つあります。ひとつは、橋や道路、オフィスビルを手掛ける他社ゼネコンが、手間がかかるマンションの工事を請けたがらないということに加えて、マンション以外の工事が増えてきたためマンション事業から撤退していったからです。もうひとつは、当社はマンション専業でずっとやってきていますから、昔から苦しい時でもついてきてくれた協力会社の下支えもあって工事費が安定しているからです。そのため、工事費は急激な変動にさらされず、他社ゼネコンと比べて低価格で出来るのが当社の強みです。 【問】入居後のクレームにはどう対応していますか。 【答】一般のマンションではクレームが発生すると事業主や管理会社を通して施工会社に連絡が入ります。これでは一刻も早い対応を求めるお客様の納得は得られません。そのため、マンションのつくり手である当社が直接対応する仕組みを模索し、2008年にはお客様からのご要望やご相談などをダイレクトに受け付ける長谷工プレミアムアフターサービスを開発し、スタートさせました。1級建築士などマンションのことを知り尽くした専任のスタッフが対応し、対応した内容はコールセンターの記録に残し、見える化して水平展開することで改善につなげています。一つの作業所で起きたクレーム内容を他の作業所も共有することで同じクレームが発生しないようにしています。また、当社の設計部隊や技術開発部隊にもフィードバックされ、クレームにつながりにくい材料選びや工法の開発などに役立てています。当社のマンションは他のゼネコンと比べてクレームが少ないとデベロッパーから評価されています。 「マンション専業」の強み…国内外の事業展開にも優位性発揮 【問】では、国内事業の展開についてお教え下さい。まず、どんなマンションを提供していきますか。 【答】当社では、長期優良住宅認定マンションや低炭素建築物認定マンションなど、国土交通省の施策には先頭を切って前向きに取り組んできました。マンション向け家庭用燃料電池「エネファーム」の初採用や、長谷工アネシスによる高圧一括受電事業を本格化させるなどエネルギー対策にも積極的に取り組み、「Be-liv」(広い住空間と多彩なセレクトオプションを創出)、「Be-Next」(基本性能の充実、可変性、環境や防災の3つのコンセプトを持つ)など新しいマンション企画を提案しています。今後も省エネルギー関連、次世代マンション、次世代生産システムの開発に積極的に取り組んでいきます。当社の原点であるモノの作り方を設計段階から整理し、出来るだけ同じ材料、同じディテールで納めながら、デベロッパーによって違う仕様・外観に合わせた商品に仕上げていくことでコストを抑えていきます。普通のサラリーマンが買える安心・安全で快適なマンション作りをこれからも続けていきます。 【問】施工戸数は累計でどのくらいになりましたか。 【答】昭和43年に自社施工の第1号マンションを着工以来、施工戸数は57万戸を超えました。この数は国内最多で、分譲マンションのストックの約1割に相当します。首都圏・近畿圏の供給数に対する当社の施工戸数のシェアも30%近くになっています。当社は、マンションというひとつの居住形態を広く普及させ、業界に先駆けた技術開発で今日の日本のマンションのスタンダードを築いてきました。 【問】日本の住宅作りにものすごく貢献されているのですね。 【答】ありがとうございます。民間の住宅公団だと言われた時もありました。  【問】これだけ多くのマンションを建設してきました。今後はストックの分野が大きな事業になりますね。 【答】そうです。長期的な成長についてはフローとストックの2本柱の確立と思っています。フローは長谷工コーポレーションの建設事業、ストックはサービス関連事業として位置づけています。建設事業は2020年東京五輪以降に落ち込むとみています。サービス関連事業の強化は絶対に必要です。サービス関連事業では、分譲マンション管理、賃貸マンション管理、高齢者向け住宅、リフォーム、マンションの買い取り再販事業などが核となります。  あの厳しいリストラの時代、長谷工コミュニティや長谷工ライブネットなどストック系で利益貢献できる会社の売却話も持ち上がりました。今から思えば、売却にまで至らなかったことは本当に幸いでした。 【問】フローとストックのポートフォリオをどうお考えですか。 【答】ストックビジネスは地道な事業で一気に伸びることはありませんが、フロー2に対してストック1くらいが一番いいと考えています。今年度からアネシスグループにストック関連子会社を集約しましたが、それぞれの会社の利益水準を上げていくことが重要だと考えています。 【問】超高齢化社会を睨み、シニア、シルバー向け住宅ビジネスに積極的です。 【答】全国の高齢者人口は2040年頃まで増加の一途を辿る見込みです。長谷工グループとしても優良な「高齢者向け住宅」、「介護関連サービス」を提供していきたいと考えています。2020年頃まで市場は急拡大するものの、その後拡大スピードは徐々に緩やかになると見込まれることから、これからの10年間を事業拡大の重点期間と考えています。2013年に生活科学運営(高齢者向け住宅を運営)をM&Aし、当社グループの一員に加わってもらいました。生活科学運営、センチュリーライフ(高齢者向け住宅を運営)の運営施設数・在宅介護拠点数を拡大していきます。規模の拡大とノウハウ獲得の促進を図るためにM&Aや事業提携も視野に入れています。 【問】東日本大震災でも大きな影響はなく震災に強いと評判です。 【答】2011年3月末に竣工引き渡し予定のマンションが多かったのですが、震災によって引き渡しを遅らせた物件はひとつもなく、建物自体の被害も少なかったおかげでデベロッパーからもおほめの言葉をいただきました。これまでマンショントップメーカーとして決して華美ではないが品質確保や技術開発に先駆的に取り組んできたことでしっかりとした対応は出来ていると自負しています。 【問】地方戦略はどう展開していきますか。 【答】サービス関連事業を地方中核都市に展開することは常に検討しています。ただし、限られた戦力をどの地域に投下するかといった優先順位の問題もあり、グループ各社ごとに進出状況は違っています。建設関連事業の展開については、協力会社の確保が必須であり慎重な判断が求められますが、情報収集は継続的に行っています。 【問】海外事業はどう展開していきますか。 【答】米ハワイでは、オアフ島西部エバ地区で住宅建設、分譲事業を推進しています。今後、住宅事業と並行して、地区内のリゾート・商業エリアの事業の具体化を図るべくプランを検討中です。ベトナムのハノイでは、現地企業との共同開発のサービスアパートメント、HASEKO・HIMLAMBC CT1計画(ハノイ市ロンビエン区、総戸数110戸、竣工予定2017年2月)を着工しました。今後は、当社が日本で展開している分譲マンションの企画から設計・施工、販売、管理までの一貫した事業をベトナムにおいても展開すべく、「HHCT1」をショーケースとして活用し、ベトナムおよび日本の事業主への提案営業を行っていく予定です。 【問】御社のマンション建築における優位性は当面続くと予想されています。御社の対抗馬がなかなか出てきませんね。 【答】他社ゼネコンは、マンション建設だけでなく、ビル建築、道路工事などいろいろな仕事をされています。不動産を買う資金力はあっても土地の相場観やマンションの売値がわかる営業マンは育ちません。一方、当社はマンション専業でやっていますから情報が社内にすぐ行き渡ります。大きな仕事を受注すると、開発、設計、建築、販売、管理などグループ会社を含めて各担当者は、誰が受注したのか、いつ頃自分のところに仕事が流れてくるのかがわかります。各部門間で同じレベルの会話が出来るようになります。社員には、土地売買から設計、建築、マーケティングなどマンションに関する豊富な知識と経験があります。社内の一体感とあわせて協力会社も一体感を持っています。デベロッパーから「長谷工の現場と協力会社の協力体制は群を抜いている」とほめられることがあります。私は協力会社も同じ長谷工グループだと思っています。このようなゼネコンは他にはありません。マンション専業でやってきた会社とそうでない会社とでは自然と力の差が出てきます。他社が当社スタイルを真似して事業展開するのは容易なことではありません。 【問】社員と協力会社の頑張りが業績回復の源になる、グループ内でも信頼感のある人間関係を築いていくことが長谷工の次につながる、ということですね。 【答】そうです。先程申し上げた通り、当社はマンション事業に特化しています。マンションで失敗したら会社がつぶれるかもしれませんから、社員も協力会社も、どうすれば売り上げを伸ばせるのか、どうすればコストを抑えることが出来るのか、どうすれば品質や施工精度を高めていけるのか、そういうことを日々検討し、勉強会を開催し、切磋琢磨しています。そこに当社の強さがあります。マンション特化という一本足打法には怖さもあり強さもあるということです。 【問】マンション事業の好調はいつまで続くとお考えですか。 【答】建設業界は、2020年東京五輪までの間に踊り場はあるにしろ、右肩上がりだと言われています。マンション市場がどうなるか予測することは難しいのですが、環境の変化に持ちこたえられる会社にするのが私の仕事だと思っています。昨年度、新中期経営計画「Newborn HASEKO」(NB計画)をスタートしました。それぞれStep、Jumpの頭文字をとって最初の3年(2015年3月期~2017年3月期)をNBs計画、続く3年(2018年3月期~2020年3月期)をNBj計画としています。優先株は償還し終えましたが、まだ自己資本が薄いため、前半NBsの3年間は自己資本の充実を図ってリスクにも耐え得る財務体質を目指します。後半NBjの3年間はM&Aを含めて攻めの姿勢で行く考えです。 長谷工株価データ 社員との対話を通じて攻勢へ 【問】社員との対話を重視されています。 【答】2010年にグループのサービス関連事業を統括する長谷工アネシスの社長を兼務することになり、同社の社員全員と話す機会を設けました。夕方、会議室でミーティングをした後、近くの中華料理店に行って酒を酌み交わし、意見の吸い上げを図りました。1回30人くらいのローテーションで2年半かけて1850人全員と対話しました。夜は、接待などで予定は詰まっており、ところどころ空いているスケジュールに埋めていきましたから2年半休みゼロでした。  いろいろな発見がありました。例えば、当社のコマーシャルを作りませんかという20代の若手社員の意見です。B TO B事業を行う当社にはテレビCMは必要ないと考えていましたが、B TO C事業を行うグループ内の長谷工コミュニティや長谷工リフォームなどはお客さまとダイレクトに接していますから、かれらを応援するテレビCMを製作することを決めました。愚直に頑張って仕事をしていますという感じが出ている長谷工らしいCMと思っています。 【問】出演者は社員の方々ですか。 【答】お客様の役以外は全員が社員です。元プロボクサーの内藤大助が出演していますが、大助は私の直属の部下でした。チャンピオンになったことを記念して皆でお金を出し合ってガウンを作りました。真面目な性格で、そのガウンを着て最後までリングにあがってくれました。今後もB TO C事業関連のグループ会社のCMはやってみたいと思っています。 【問】「社員全員をグループ全体の営業マンに育てる」とおっしゃっています。 【答】大きな企業になればなるほどグループ会社が何をしているのか話が出来ない社員が多くなります。これでは困ります。些細なことからマンションの購入やリフォームの話に広がることもあるからです。当社は生活に密着している企業グループです。住まいについてお客様に聞かれたことは答えられるようにしておかないといけません。5000人を超えるグループ社員全員がそういう意識で行動したら大きいです。ビジネスチャンスが広がります。  例えば、当社グループの販売会社で良い事例がありました。東京の長谷工アーベストの販売担当者に、マンションを購入いただいたお客様から、1年後に大阪の土地売却の相談が入り、当社大阪の不動産部隊につなげたことで翌年の土地契約に結びつきました。常日頃のお客様へのしっかりとした対応で信用を得て、自社以外のグループの仕事も意識したことが成果に結びついたのだと思います。  社員全員がグループの営業マンになるための取り組みは、今後3年間で徹底的に進める予定です。Eラーニングの実施やパンフレットの作成などで徐々に形になってきています。今は自己資本を積み上げて体力を増強することに注力していますが、守りだけでは勝てません。いずれ勝負をかけなければなりません。サービス関連事業を盤石なものにするためにも「社員全員がグループの営業マン」は重要な鍵になると思っています。 (聞き手・QUICK情報・コンテンツ本部 岡村健一) <辻範明氏略歴> 1952年岡山県生まれ。75年関西大学法学部卒業後、長谷川工務店(現長谷工コーポレーション)入社。99年取締役、2005年代表取締役専務執行役員、10年代表取締役副社長兼長谷工アネシス代表取締役社長などを経て14年4月より現職。趣味は写真撮影、ゴルフ。

「フィナーレは盛大に~曲芸飛行でイエレン議長が向かう先はバブルかクラッシュか?」大和総研・小林俊介氏

話し手:大和総研 エコノミスト 小林俊介氏(※本記事は2015年11月12日にQUICKで配信された記事です)     【景況判断】現状(3カ月前比):変わらず 先行き(3カ月後):やや良くなっている GDP予測:15年度+0.7% 16年度+1.7% 【金 利】短期:横這い TIBOR3カ月 0.17% 長期:横這い 10年物新発国債 0.30% 【円 相 場】 123円/1ドル 【株 価】21000円/日経平均 *GDP予測値は実質GDP成長率、前年比% *長短金利、円相場、株価は3カ月後(2016年2月末)の予測値   1.景気見通し:「踊り場から内需主導の緩やかな回復へ」 日本経済は輸出の停滞を端緒とした踊り場局面に置かれている。世界的に景気が停滞する中、資本財・素材の需要の伸びは期待しがたい。そしてこれらを主力とする日本からの輸出は低迷を続けるだろう。過剰生産能力を抱える中国向けはもちろん、米国向けも「ドル高・原油安」で企業部門の収益が弱含む中、回復までには時間を要するとみている。さらに輸出向けを中心とした出荷の伸び悩みを受け在庫が積み上がってきたことから、生産調整がスタートしている。当面の日本経済は足踏みを続けるだろう。 しかし、先行きの日本経済は緩やかな回復基調に復するとみている。まず外需は最悪期を過ぎつつある。「ドル高・原油安」による米国企業部門の悪化モメンタムには歯止めがかかり始めた。中国向け輸出も、消費財を中心として底入れの兆しが見え始めつつある。加えて内需が回復・拡大に向かう。まず消費については、「消費増税、円安・原油高を受けたインフレ、伸び悩む名目賃金」という三つの押し下げ要因が今年度に入ってから一巡し、解消されつつある。実質所得環境の改善は、タイムラグを経ながらも家計消費を押し上げていくだろう。設備投資についても、「ソフトな」分野を中心に堅調な推移を期待している。もちろん輸出停滞を端緒とする生産鈍化・低稼働率を背景として、機械受注統計等が示すようにハコモノや機械など能力増強関連の「ハードな」設備投資は振るわない。しかし短観などで確認される企業の設備投資意欲は強く、事業法人との面談等を通じたボトムアップでもITや研究開発関連の「ソフトな」設備投資に対する予算は拡大傾向にあるとの感触を得ている。これは「人手不足」が底流で続く中、企業が対応策として「賃上げ・雇用拡大」よりも「省力化・高付加価値化」を優先させている結果である。日本経済が完全雇用に接近する中、こうした「ソフトな」設備投資には持続的な伸びを期待できるだろう。 2.金融環境:「フィナーレは盛大に―利上げペースは極めて緩慢、流動性相場の最終局面へ」 流動性相場はまだ終わっていないと判断している。米国の利上げのペースは、市場予想のコンセンサスと比較して遥かにマイルドなペースにとどまるだろう。まず米国経済の見通しであるが、短期の景気循環から判断して「息切れ」の局面が近づいてきている。足下の米国経済を支えているのは家計消費であるが、これは「ドル高・原油安」により企業から家計に対して実質的な所得移転が発生しているためであり、その効果はじき剥落する。中長期的な景気循環から判断しても、過去5年以上にわたって設備投資の伸びが経済を牽引する「資本ストックの蓄積局面」に米国経済はあったわけだが、結果としてこれ以上の設備投資の拡大余地はあまり残されていない。米国経済は「成熟化」のフェーズに入っている。 こうした景気要因に加え、「技術的」制約が利上げのペースを抑制する。Fedには2.5兆ドルを超える莫大な準備預金が残されている。にもかかわらず「利上げ」を行うためには、超過準備に対する付利を引き上げなければならない。そして100bpの利上げをするためには250億ドル、200bpであれば500億ドルの財政負担が毎年新たに発生することになる。このように莫大な負担を強いる「利上げ」を本格的に行っていくという選択は、政治的にも許容され難いだろう。従って数回の利上げの次の一手はFedのバランスシート圧縮であり、本格的な利上げはその先となる。結果としてイールドカーブの形状は、①ベアフラットニング⇒②(極めて緩慢な)ブルスティープニング⇒③(遠い先の)ツイストフラットニング、という三段階での変遷を辿るだろう。 懸念されてきたよりも米国の金融政策が緩和的なものにとどまることは、新興国経済にとって僥倖(ぎょうこう)だ。これまで米国経済の見通しが強すぎる結果として国際的に金利が上昇する中、新興国からは投資資金が流出し、強制的に金融引き締めに追い込まれ景気が悪化するという「逆デカップリング」が発生していた。しかし現在は米国の金融引き締めに対する懸念の後退から新興国が置かれている環境は改善し、資金流出抑制よりも景気回復を優先できるという「コンバージェンス(収斂)」の局面に入っている。そして「米国の低金利継続(=バリュエーションの高止まり)」と「新興国経済の底割れ回避(=ボラティリティの低下=リスク許容度の改善)」の二つの好材料が揃う中、株式市場では流動性相場が継続するだろう。 3.注目点:「曲芸飛行でイエレン議長が向かう先はバブルかクラッシュか?」 リスクの本丸は、やはりFedだ。Fedは既に「バランスシートの縮小は利上げを開始してから行う」と公式な方針を発表している。逆に言えば、たった一度でも利上げした瞬間から、いつ国債やMBSの需給が悪化し始めてもおかしくない。結果としてタームプレミアムとリスクプレミアムが拡大し、世界中の全資産市場が劇的な「タントラム」に再度見舞われる可能性も無視できない。従って流動性相場の持続性は、最初の利上げとその先のバランスシート縮小懸念を「引き剥がす」コミュニケーションの巧拙にかかっている。 今後のシナリオとしては①利上げ時期を「引き延ばす」ことで時間を稼ぎ、その間に懸念を「引き剥がす」ガイダンスを浸透させるというもの、あるいは②早期に利上げを済ませてしまい、同時にハト派的なガイダンスを出すことで先行きの懸念を緩和するというものが穏当な落としどころとなるだろう。先日発表された10月の雇用統計の結果、および発表直後の市場の反応を勘案する限り、②の蓋然性が高いと判断している。もっとも、こうした政策は「クレジットバブルの予防」という、引き締めの本来の目的と矛盾するため、実際には市場にとってもう一段厳しい内容の政策判断が下される可能性もある。いずれにせよ、「三で割り切れる」(記者会見つきの)FOMCが開かれる月にはシートベルトをきつく締め、その先の2カ月間で訪れるであろうトレーディングチャンスを睨んで潤沢なキャッシュを準備しておきたい。 <小林俊介氏略歴> 1984年生。2007年東京大学経済学部卒業、大和総研入社。グローバル経済・金融市場分析を担当。2011年より派遣留学、米コロンビア大学および英ロンドンスクールオブエコノミクスより修士号取得。在学中、OECD(経済協力開発機構)委託プロジェクトに従事。2013年に大和総研帰任、日本経済担当。

騰訊、7~9月期決算に期待高まる アリババ好業績で連想、決算直前チェック

※QUICKではアジア特Q便と題し、アジア各国・地域のアナリストや記者の現地の声をニュース形式で配信しています。今回は、フィリップ証券(香港)のルイス・ウォン(Louis Wong)氏がレポートします。この記事は11月11日にQUICKの端末サービス上で配信されたものです。 中国ネット大手テンセント、アリババ好決算で市場が注目 中国ネットサービス大手の騰訊(テンセント)が10日に第3四半期(7~9月期)業績を発表する。発表を前に足元で同社の株価が堅調だ。節目の160香港ドルに迫り、約3カ月半ぶりの高値にまで上昇した。その背景には、ネット通販最大手のアリババグループ・ホールディングが先に発表した7~9月期業績が多少なりとも関係していると思われる。アリババの売上高は前年同期比32%増の221億人民元(約34億9000万米ドル)と、市場予測を上回った。このため、騰訊の7~9月期業績に対する期待が市場で高まっている。 騰訊の4~6月期業績を振り返ると、全体的に市場予想を上回った。売上高は前年同期比19%増の234億人民元、電子商取引業務を除いた場合は27%の増収だった。このうち、付加価値サービス収入が同17%増の184億元で、オインラインゲームとソーシャル・ネットワーク・サービス(SNS)業務が主に業績をけん引した。ネット広告収入は97%増の40億元だった。モバイル端末向けSNSのアフィリエイト広告や動画広告が主に業績を押し上げた。純利益は25.3%増の73億1400億元だった。 ユーザー状況は、6月末時点で騰訊のSNSである「QQ」の月間アクティブユーザー数(MAU)が前年同期比1.7%増の8億4300万人、スマートフォン(スマホ)向けQQのMAUは同20.4%増の6億2700万人に達した。また、同社のチャットアプリ「微信(WeChat)」のMAUは36.9%増の6億人で、ブログサービスの「QQ空間」のMAUは2.2%増の6億5900万人、スマホ向けQQ空間のMAUは15.4%増の5億7300万人だった。 オンラインゲーム、ネット広告業務に新たな動き…施策の有効性探る 騰訊は前評判が高いパソコンゲーム『モンスターハンター・オンライン(中国語名:怪物猟人Online)』や『ムーンライト・ブレーム(中国語名:天涯明月刀)』を発表する。また、『地下城と勇士』や『FIFAオンライン3(中国語名:足球在線3)』といった人気を集めているパソコンゲームの知的財産権をモバイルゲームにまで拡大する。さらには、世界のスポーツ競技とクロスオーバーさせた拡販を更に進めて、スポーツゲームとの組み合わせを開発する。その一例として、騰訊の動画サイト「V.QQ.COM(中国語名:騰訊視頻)」で米プロバスケットボール協会(NBA)の新シーズンを放送する際にゲーム「NBA2Kオンライン」を投入して、より多くのユーザーを獲得する。一方、ネット広告では、NBAの試合や音楽オーディション番組「ザ・ボイス・オブ・チャイナ(中国語名:中国好声音)シーズン4」などの優良ネット動画コンテンツに引き続き投資していくと同時に、モバイル広告資源の充実やアフィリエイト広告サービスの機能向上に取り組み、こうした新しい施策がオンラインゲームやネット広告業務をけん引する新たな動力となるかどうかを探る。 財務面は、6月末時の騰訊の現金および現金同等物が482億7000万元、定期預金が209億4000万元。借入金が85億6000万元、支払手形が389億9000万元で、現金(純額)が216億6000万元となっている。今年4月、騰訊は全世界で行う中期債(MTN)発行計画の元金総額の限度額を50億米ドルから100億米ドルに引き上げた。7月と9月にそれぞれ1億米ドルの優先債を発行して会社の運営資金に充当した。 業界特化の戦略的提携関係に重きを置く 現時点で騰訊は、モバイル端末を中心とした活発な「生態系」を構築して自社または提携先が持つ商品やサービスを中国の消費者にもたらすということに戦略の重点を置いている。そして、主に以下の方法により戦略を実行する。まずは、銀行カードと携帯電話機向け決済サービス「QQウォレット(中国語名:QQ銭包)」や「WeChatペイメント(中国語名:微信支付)」とが既に連携されているユーザーや提携先の企業による騰訊の決済ソリューションの採用を増やすことで、決済サービスの取引量を拡大する。次に、広告資源の拡充や広告主となる客層の拡大、社内組織の調整により、アフィリエイト広告の業務の流れを改善して同業務を伸ばす。3番目に、コンテンツ開発業者と収入を分配することでモバイル生態系のコンテンツの優良化を促し、ユーザー参加の度合いを高める。4番目に、ネット上の読書や動画鑑賞、音楽視聴といったデジタルコンテンツ定期購入サービスを新しいコンテンツや機能で充実させると同時に、主要コンテンツ提供業者との提携関係を拡充する。そして、最後に、中国トップクラスのクラシファイドサイトを運営する58.com(中国語名:58同城)への投資を増やすなど、業界内の垂直方向での戦略的な提携関係を高める。 留意すべき点として、MSCIが海外に上場する中国関連銘柄を同社の新興国指数に組み入れる動きを始めたという報道がある。現在、MSCIの新興国指数に採用される中国企業株は香港上場のH株(中国企業株)に限られている。このため、MSCIの新興国指数に海外上場の中国関連銘柄が採用されることになった場合、香港上場のH株から一部の資金が流出する可能性がある。こうした場合、最大の受益者は米国で株式を上場しているアリババとなるだろう。アリババ株には16億米ドルの資金が流入する見込みで、騰訊の株価に影響を及ぼすことになるもようだ。

中国の紫光、台湾・力成の株式25%取得へ 米マイクロンへの出資も模索

※QUICKではアジア特Q便と題し、アジア各国・地域のアナリストや記者の現地の声をニュース形式で配信しています。今回は台湾の現地記者、李臥龍(リー・ウォーロン)氏がレポートします。この記事は11月16日にQUICKの端末サービス上で配信されたものです。 合併、引き抜き…株式取得で半導体産業チェーン構築を目指す 中国の紫光集団が正式に台湾のメモリー・メーカーに資本参加した。10月30日、同社はメモリ・パッケージング・テストの力成科技(パワーテック)の第三者割当増資で、発行済み株式の25%を1株当たり75台湾ドルで取得すると発表。同時に、紫光集団傘下の展訊通信と鋭迪科微電子が台湾のICデザイントップの聯発科技(メディアテック)と合併する可能性があるとも表明し、世界の半導体業界に大きな衝撃を与えた。 紫光は既に、台湾のDRAMメーカーの華亜科技(イノテラ・メモリーズ)から高啓全・前会長を、全世界執行副総裁(グローバル・バイス・プレジデント)として引き抜き、メモリー分野の布陣を整えていた。こうした動きに続く今回の行動は、台湾メモリー関連上場企業に対する初の資本参加でもある。 紫光集団の趙偉国会長は自ら台湾を訪れ、この投資案件を発表した。これらの一連の動きは、「チップからクラウドコンピューティングまで」という完璧な産業チェーンを構築するためだ。力成科技はメモリーの後工程であるパッケージング・テストのメーカーである。紫光集団は将来、中国でNAND型フラッシュメモリーに積極的に進出しようとしており、それに必要な安定したパッケージング・テストの生産能力を確保したことになる。力成科技は1997年創業で、現在はパッケージング・テストで世界第5位に位置している。アメリカのメモリー・メーカーであるキングストンテクノロジーが大株主で、約3.83%の株式を保有し、取締役4ポストを持っている。また、台湾東芝半導体も1ポストを持っている。将来、紫光集団の資本参加に合わせて、増資後の株主構成と取締役ポストは変動があると見られている。紫光集団はここに高啓全氏を法人代表として派遣してくると予測されている。 「う回作戦」…虎視眈々と買収をねらう 消息筋によると、紫光はDRAM大手のアメリカのマイクロン・テクノロジーに買収を申し込んで拒否された後、「う回作戦」を採用した。まず、38億米ドルでハードディスク大手のアメリカのウェスタン・デジタルの株式15%を買収。さらに、このウェスタン・デジタルを通じ、フラッシュメモリー大手のアメリカのサンディスクを買収し、フラッシュメモリー分野に衝撃を与えた。こうして着々と、「チップからクラウドコンピューティングまで」に関連する技術と生産能力を構築している。紫光集団はまた、傘下のチップメーカーである同方国芯電子による増資で800億人民元を調達し、半導体業務に投じることを計画している。うち、37億9000万人民元を力成科技の株式25%買収に充てるほか、600億人民元をメモリー工場建物の建設に、残りの162億人民元を半導体関連企業の買収に、それぞれ充てる予定だ。   米マイクロンは紫光との資本提携に積極的 消息筋によると、紫光集団は工場建設に当たって「合資」方式で進めることを考えているという。現在、合資の対象として交渉を進めている企業には、すでに遼寧省大連市での工場建設を発表しているアメリカのインテルのほか、技術を持つ韓国のSKハイニックス、マイクロン、日本の東芝(6502)がある。 このほか、紫光集団はまた、マイクロンとの提携の戦略を変更し、ウェスタン・デジタルの方式を採用し、マイクロンに資本参加する可能性も模索している。 紫光集団が発表した800億人民元の増資で、引受先として親会社の清華控股に所属する西蔵紫光国芯、西蔵紫光東岳通信、西蔵紫光神采、西蔵紫光樹人教育、国研実業、同方国芯などの9社が含まれていたことから、マイクロンがこれに特に注目。双方は積極的に提携交渉を進めており、これが双方の提携成立を促進すると予測されている。  

インドネシア経済、7~9月期は回復か インフラ投資寄与、個人消費に懸念も

※QUICKではアジア特Q便と題し、アジア各国・地域のアナリストや記者の現地の声をニュース形式で配信しています。今回はインドネシアの現地記者アディ・ビナルソ氏がレポートします。この記事は11月5日にQUICKの端末サービス上で配信されたものです。 GDP低調改善なるか…市場は4.8%成長を予想 東南アジア最大の経済国であるインドネシアに景気回復の兆しがみられるかどうか、投資家は5日に発表される2015年7~9月期の国内総生産(GDP)の結果を注視している。  8000億米ドル程度の経済規模を誇るインドネシアの7~9月期GDPは、政府支出の拡大を背景に前年同期比で4.8%成長するとの予測がエコノミストらの一致した見解だ。市場予想通り4.8%成長を達成すれば、4~6月期の4.67%成長を上回り、2014年10~12月期以降で初めて経済成長率が拡大することになる。  シンガポール在住でDBS銀行のエコノミスト、ガンディー・カヒャディ氏は「7~9月期のGDPで投資の伸びが回復していることを示す何らかの兆候があれば、今後の見通しのプラス材料になる」と指摘する。「8月には貸し出しが伸び、特に新規投資に向けた融資が回復していることは好材料だ。政府は年末に向けて予算執行を急いでおり、こうした資金流入が民間企業に前向きな影響を及ぼすことから、全体的に投資が拡大している可能性もある」(カヒャディ氏)という。 投資の受け入れ好調も家計消費は依然として低迷 インドネシアの投資調整庁(BKPM)のデータによると、投資実現額(石油、ガス、銀行部門を除く)は7~9月期に前年同期比17%増加している。とりわけ、海外直接投資(FDI)は、シンガポール企業と日本企業の投資が堅調だったことで、同18%の増加を記録した。  インドネシアの経済成長を占う上で重要な指標の一つであるセメント販売量は、今年に入り7カ月間にわたって減少していたが、8月は一転して16%増に転じ、9月も3%の増加となった。  インドネシア・セメント協会(ASI)のウィドド・サントソ会長は「インフラ整備のほか、住宅・マンション建設が進んでいることが、セメント販売量が増加した理由だ」と説明する。同会長は「政府が公共案件の予算執行を進めていることから、セメント販売量は年末まで拡大し続けるだろう」との見方を示している。  一方、一次産品の海外輸出が縮小しているうえ、電子機器や機械、衣料品の輸出量も横ばい圏で推移していることから純輸出はインドネシアの成長にあまり寄与していない。また、消費者が家計収入の低下を受けて支出を見送る傾向にあるため、同国GDPの55%を占める家計消費は低迷状態が続いている。  インドネシア中央銀行の調査によると、9月の消費者信頼感指数(IKK)は97.5と、8月の112.6から大幅に低下し、2010年8月以来の最低水準となった。これは、消費者が今後の収入についてほとんど楽観的ではなくなったことを意味している。 5つ経済政策、景気浮揚の切り札となるか ジョコ・ウィドド大統領は、9月9日から10月15日の間に、投資と対外貿易に関する煩雑な手続きの合理化や企業が負担するエネルギー費用および輸送費用の軽減、中小企業向け輸出関連資金の調達支援など、5つの景気浮揚策を打ち出した。  インドネシアの国会本会議が10月30日、2016年度予算案を可決したことは経済を活性化させようとする政府の取り組みへの支持の表れといえる。同予算案には、来年度に5.3%のGDP成長率を達成するため、国営企業を通じた多くのインフラ開発関連支出が盛り込まれている。来年度の推定財政赤字は、対GDP比2.5%に相当する273兆ルピア(約200億米ドル)となる見込みだ。 【翻訳・編集:NNA】

台湾TSMC、iPhoneチップでサムスン上回る評価 半導体、ゼロ成長で競争激化か

※QUICKではアジア特Q便と題し、アジア各国・地域のアナリストや記者の現地の声をニュース形式で配信しています。今回は台湾の現地記者、李臥龍(リー・ウォーロン)氏がレポートします。この記事は11月2日にQUICKの端末サービス上で配信されたものです。 ナノメートルで性能変わる…競争激化する半導体業界 米アップルの新機種iPhone6sとiPhone6sプラスについて、新プロセッサーのA9チップに半導体受託生産会社(ファウンドリー)世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)と韓国サムスン電子の製品をそれぞれ採用したことから、ユーザーテストで両機種のバッテリー消費量に1時間の差が出た。このニュースは台湾から全世界へと伝わり、返品騒動を引き起こした。  アップルは後にiPhone6sとiPhone6sプラス両機種のバッテリー使用の差はわずか2~3%に過ぎないと説明した。しかし、市場ではTSMCの回路線幅16ナノ(ナノは10億分の1)メートル製造プロセスで生産されたA9チップがサムスンの14ナノメートル製造プロセスのA9チップを性能上で大きく上回るとの認識が一般的となっている。 こうした3次元構造の半導体設計の領域に突入したファウンドリー間の競争は、回路線幅が1Xナノ(10ナノメートル台)に突入に伴い熾烈(しれつ)化しつつあるようだ。 半導体の設備メーカーによると、TSMCは16ナノメートルでサムスンに出だしで遅れをとったものの後に同社を追い越す勢いとなり、TSMCのプロセス技術能力にアップルも注目している。次世代機種iPhone7に搭載するA10プロセッサーの生産をすべてTSMCに託す可能性もあるという。 これだけにとどまらず、これまで生産委託を分散させていた米クアルコムも2017年にTSMCの10ナノメートル製造プロセスを大々的に採用する予定だ。これによりTSMCは10ナノメートルの試験生産の進展を一段と速めて、サムソンを一層引き離す。 ゼロ成長も株価への影響は一時的か しかし、TSMCは今月中旬に開催した機関投資家向け業績説明会で、今年の設備投資を当初予定の105億~110億米ドルから80億米ドルへと大幅に下方修正すると発表した。削減幅は2割を超すが、依然として米インテルの73億米ドルを上回る規模だ。  TSMCの説明によると、20ナノメートルの設備のうち95%を16ナノメートルに転換可能であり、これに伴う設備調達の削減が設備投資の下方修正の30%を占めるという。さらに、生産効率の向上で可能となる機械購入の削減が下方修正の33%を占める。その他の投資削減は設備購入を来年に繰り越すことによるという。  TSMCは同時に、今年の半導体の成長予測値を当初予測の3%からゼロ成長へと下方修正した。同社が今年の成長率予測を下方修正するのは3度目。また、半導体の在庫調整が年末まで続くとの見方を示した。  さらにTSMCにとってマイナスなニュースであるのが、ハイテク関連ウェブメディア「ベンチャービート」の報道だ。同社の報道によると、インテルがアップル社の次期iPhoneに搭載するモデムチップの受注とSoC(システム・オン・チップ)の生産受託を希望しており、クアルコムまたはTSMCへの発注分を奪うもくろみだという。  もっとも、これら2つのマイナス報道もTSMCの株価に影響を及ぼすまでには至っていない。同社の株価は業績説明会前から上げ基調が続き、業績説明会で設備投資の大幅削減が明らかになって下落する局面もあったが、その後は再び堅調に推移している。 18年めどに南京で量産体制確立へ 一方、TSMCの中国進出計画については、同社の設備サプライチェーンから得た情報によると、同社が初めて中国大陸で設立することになる12インチのウエハー工場の場所が南京に確定した。同工場では16ナノメートルのFinFET(フィン型電界効果トランジスタ)製造プロセスを当初から直接導入し、17年末に試験生産、18年から正式に受注と量産を開始する予定という。  台湾中部の中部科学工業園区(中科)にあるTSMCの中科15工場の立ち上げも急ピッチで進んでいる。第1期で16年第2四半期(4~6月期)に装置が設置され、10ナノメートル製造プロセスを当初予定から半年前倒しして16年末までに段階的に稼働させる計画だ。

中国・習主席、積極経済外交で海外進出強化 インフラ関連銘柄に恩恵

※QUICKではアジア特Q便と題し、アジア各国・地域のアナリストや記者の現地の声をニュース形式で配信しています。今回は、香港の現地記者ジェスロ・オー氏がレポートします。この記事は10月28日にQUICKの端末サービス上で配信されたものです。 習主席の米英訪問、中国の重要計画展開に寄与 中国の習近平国家主席が過去2カ月間、次々と忙しく外国を訪問した。9月の米国公式訪問に続き、10月には400億ポンド超のビジネス契約を「手土産」に英国を華々しく訪問、中英両国は包括的戦略パートナーシップを構築すると高らかに発表した。このように中国の指導者が2カ月間で米国と英国を相次いで訪問するということは極めて異例だ。  今回の習主席の米英訪問は、中国共産党の第13次「5カ年計画」策定前であることに特別な意味がある。習主席の外交強化は、次期5カ年計画で「一帯一路(新シルクロード)」やアジアインフラ投資銀行(AIIB)といった重要な計画を本格的に展開するうえでプラスとなる。 「5カ年計画」、成否のカギは中米相互の信頼関係か 「5カ年計画」は中国政府の経済と社会の発展に関する遠大な計画である。第1次「5カ年計画」は「一五計画」と称され、1953~57年にかけて実施された。これまでに12回の「5カ年計画」が行われている。そして、習主席が訪英から帰国した後の10月末に開催される中国共産党の中央委員会第5回全体会議(5中全会)で、2016~20年の第13次「5カ年計画」の枠組みが決定される。このような重要な国家計画に関する会議を前にして習主席が米国や英国を続けて訪問したのは、彼が既に政権を掌握することで中国の政局が比較的安定しており、今後は経済発展の促進に全力で取り組むという姿勢を対外的に示すためだと思われる。また、積極的な外国訪問は習主席が主張する「一帯一路」やAIIBが発展していく上での障害物を取り除くことにもなる。  「一帯一路」とAIIBは、中国が近隣国との経済的な連携を強め、経済や貿易に関する発言権を一段と発揮する場となる。この2つの計画により、中国は欧米が牛耳る世界銀行や国際通貨基金(IMF)に対抗するのだという見方もある。しかし、経済的な観点では、中国は「一帯一路」とAIIBを通じて発展資金を渇望するアジア新興国市場に資金と市場開拓のチャンスを提供することに協力する。  同時に、中国は余剰生産能力を「輸出」することができ、双方に利するウィン・ウィンの関係だと言える。「一帯一路」沿線国は、中国がインフラ建設発展への融資の旗振り役となって協力し、中国と経済貿易の地域的な連携を強めることを大いに歓迎している。ただ、米国はこれまで、この2つの計画に疑問を抱き、非協力的な姿勢を示してきた。このため、習主席の訪米で中米の相互信頼を高めれば、2つの計画への参加に関心を抱く他の諸国の計画に対する自信を一段と強める。  一方、英国は欧州の中で率先してAIIBに参加した国だ。習主席の訪英はAIIBに対する英国の支持に謝意を示すと同時に、両国の関係を強化することで2つの計画を全力で推進するための基盤を固めることになる。習主席とキャメロン英国首相は一緒にパブへ行き、フィッシュ&チップスやビールを味わっており、両者は友好をそれなりに深めたようだ。 市場はインフラ関連銘柄に注目 5中全会は10月26~29日まで開催される。すなわち、習主席の帰国後に開かれるタイミングだ。国有企業改革とインフラ強化による経済発展が焦点になると伝わっている。習主席の訪米と訪英で「一帯一路」とAIIBの発展基盤が強化され、外交の場が確立されたことで、中国は次期「5カ年計画」でインフラプロジェクトの海外進出チャンスの拡大に全力で取り組むことになるだろう。このため、インフラ関連銘柄は今後の中国・香港株式市場で引き続き輝かしいスター銘柄であり続けるとみられる。

上場後でも間に合う?郵政3社株への投資の考え方

ついに明後日11月4日、日本郵政グループ3社(日本郵政、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険※)が、東証1部に新規上場を果たします。資金吸収額が合計で1兆4000億円を超えるなど、各メディアでも様々な取り上げ方をされており、投資家の関心を集めています。 売り出し株への申し込みも活況だったと報じられていますが、申し込みの抽選に外れ、郵政グループ株を直接購入するには発行市場ではなく上場後の流通市場(セカンダリー)で手に入れるしかない投資家も多いと思います。さて、こういった投資家はセカンダリーでどう動くべきでしょうか。 初値の過熱に要注意 新規上場株は過去の株価推移が分からないため、似た銘柄のPBR(株価純資産倍率)や株価推移などを参考にし、投資判断を考えるのが一般的です。 上場に伴い、政府保有株の売り出しを実施する郵政3社。比較対象として取り上げられるのは、過去の新規上場時に政府保有株の売り出しのあった企業群です。公開価格と初値、あるいは現在までの株価を比べた勝率を見て語る記事が多いですが、株式トレーダーとしては直近1年間でどのような収益機会があるかが注目点だと思います。売り出し株の申し込みに外れた投資家も多いと思いますが、上場後にどのタイミングで投資するか、が次の論点となります。 売出価格に基づいた基本的な投資指標は以下の通りです。市場全体の平均から見て割安な水準と見る声は多いです。これは市場関係者が郵政3社の上場に対して不安を感じていることの裏返し、つまりできるだけ魅力のある株にしようという値決めが実施されたことを示しているとも言えそうです。   日本郵政 ゆうちょ銀行 かんぽ生命 PBR(倍) 0.41 0.47 0.67 予想配当利回り(%) 3.3 3.4 2.5   問題は割安だからこそ、申込み時の人気は高かったという事実もあります。申込み時の人気の流れを引き継げば、初値も過熱する可能性が残ります。初値をつけた後、どのような株価推移となるか、上場日からの経過月数(上場月の月末を1とする)で見てみましょう。以下、新規上場時に政府保有株の放出を伴った企業の公開価格(=売出価格)を100として、その後の株価の月末値の推移を見たグラフです。 ※国際石油開発は国際石油開発帝石に吸収される前の株価推移 過熱の記憶が語り継がれているNTT株は上場後3か月は上昇が止まりませんでしたが(上場からわずか2カ月後の87年4月に上場来高値318万円を付けた)、JR東日本やNTTドコモ、国際石油開発(現・国際石油開発帝石)は、上場した月の月末にやや株価は落ち着いています。過熱したNTTや、滑り出しの鈍かったJTを除けば、上場2~3か月目あたりからいずれも底堅い株価推移となっており、このあたりが狙い目なのかもしれません。 一方、初値が公開価格を下回ったJTは軟調な推移がしばらく続きました。現在は海外企業の買収が奏功し、株価(株式分割を調整後)は公開価格を大きく上回っているものの、上場直後の株価は低迷していたようです。 翌月末から期待される指数連動型投信の買い需要 さて、上場から2~3か月目以降に値動きが安定しやすい「大型上場のアノマリー」ですが、実は理由があるとの見方があります。というのも東証1部へ上場した銘柄は翌月末(過去には新規上場日の翌月の応答日の翌営業日)にTOPIX(東証株価指数)へ自動的に採用されるため、それ以降は株価指数連動型の投資信託の買いなどによる需給の支えが入るためです。 郵政3社も上場日の翌月末である12月29日大引け時点で、TOPIXに組み入れられる予定です。一部証券会社によれば、TOPIX連動ファンドによる郵政3社への買い需要は約1100億円とも言われています。大型株であるため、他の指数に組み入れられることも考えられます。 セカンダリーで郵政3社への投資を考えている投資家は、こういった需給のタイミングなどに注意しながら動くべきでしょう。 以下、政府保有株の売り出しを伴った過去の上場企業について、新規上場後3カ月間と1年間の株価チャートを掲載しておきます。郵政3社への投資の参考としてご覧ください。 9432 NTT 1987/2/9上場 ■3か月 ■1年   9020 JR東日本 1993/10/26上場 ■3か月 ■1年 2914 JT 1994/10/27上場 ■3か月 ■1年 9021 JR西日本 1996/10/8上場 ■3か月 ■1年 9022 JR東海 1997/10/8上場 ■3か月 ■1年 9437 NTTドコモ 1998/10/22上場 ■3か月 ■1年(株式分割などを調整) 9513 電源開発(Jパワー) 2004/10/6上場 ■3か月 ■1年   1604 国際石油開発 2004/11/17上場 ※国際石油開発帝石(1605)に吸収され、上場廃止 ■3か月 ■1年   ※郵政3社のデータは上場日以降、順次更新していきます

「上方修正」それってホントにいい決算?

”好決算でも暴落”のナゾ 10月中旬以降には企業の決算発表が多く行われました。これは「4~9月期中間決算」といいます。ほとんどの企業が3月に本決算を行うことから、そこからちょうど半年である9月までの業績をまとめて、4~9月期決算として発表します。また、来年1月中旬以降には第3四半期決算の発表も多く行われます。さらに来年4月以降には3月期の本決算を発表する企業が相次ぎます。 決算がらみの荒い値動きを見せる時期は、それに関する悲喜こもごもの声が多くみられます。なかでも、「決算はよかったのになぜ株価は下がったのだろう」といった疑問や「決算は下方修正されたけど株価は下がらずに助かった」といった思いを抱いた人は少なくないでしょう。 確かに私たちは「黒字」「増益」「上方修正」といった決算が発表された際、「株価の上昇」を連想しがちです。しかし、実際には常にそのような連想通りにいきません。むしろこのような好材料とも思える情報が開示された途端に株価が急落してしまうことすらあります。なぜ決算期には、このような不思議な値動きがよく見られるのでしょうか。 期待と裏切りが株価を動かす 株価は、株式に対する需要と供給によって決まり、需給を動かす要因として業績があります。すでに発表された業績に加えて、これまでに判明している情報から予想される将来の衰退ないし成長を先取りして価格に織り込んでいます。 将来の需給を予想して売買し、価格が決まるのは、他の財産やサービスの価格決定と同じです。たとえば夏物の衣服は、冬に需要が減り、価格が下落することが予想されるため、一足先に秋口にかけて安売りされます。秋口の時点で冬の需要減少と価格下落を先取りした結果、安売りがなされるのです。 マーケットは「未来を予想し、その予想によって売買する」という思惑的な動きをとるものです。決算の前に企業を分析したアナリストや機関投資家の業績予想が思惑につながりやすくなります。アナリストというプロの分析家が会社の将来について予想し、市場参加者はその予想を参考にして売買をする傾向があります。 このような過程を通じて、市場参加者の間では一種の「期待」が生まれます。アナリストの業績予想の平均値であるコンセンサスが一つの指標となります。 将来の業績に対する「期待」が株価に織り込まれているのであれば、単なる「黒字」や「上方修正」といった材料のみで株価が上がるか下がるかを判断することはできないでしょう。実際の業績が、市場の期待と同じ内容だったかどうか、見極めねばなりません。 会社が発表した数値と、事前の市場の期待を比べて、期待に届かなければ上方修正でも売り、つまり見かけ上「好決算」でも暴落という現象が起こりえます。決算発表の当日~翌営業日といったごく短期の値動きについては、この予想との比較が、株価を大きく動かす要因となります。株式市場に慣れた投資家やプロは常に、会社の発表が市場の期待度をどれくらい裏切るものかを見極めようとしています。   ここで上のグラフを見てみましょう。これは、住友ゴム工業が中間決算を発表する前後の株価の推移です。11月5日の午後6時に発表された決算は通期純利益30億円増の580億円を予想するという上方修正を含む内容でした。しかしながら翌日に株価が上昇することはなく、かえって下落してしまいました。ここで注目していただきたいものが画像下部の青いマーカー上に表示されている数値です。これは、会社の業績に対する市場の期待度の目安です。この60,700(607億円)という数字が市場の期待であれば、純利益が600億円程度で「当然だ」という反応になります。そのため、住友ゴム工業が見通しを上方修正をしたとしても株価が上がらない原因として、思ったよりも純利益が伸びなていないというネガティブな評価が影響したということが伺えそうです。 オドロキを数値化できる? このように私たちの期待を裏切るような出来事が起こりやすいものが企業の決算です。その出来事を客観的に評価できるツールが「決算サプライズメーター」です。このツールではQUICKが独自に算出している「サプライズレシオ」が確認できます。サプライズレシオとは、株式市場が感じた決算内容に対する「驚き」度を、企業規模などを加味して数値化したものです。これは会社が発表した最新の純利益の予想と、証券アナリストの予想の平均(QUICKコンセンサス)を比較して算出しています。この値が大きいほど、株式市場参加者の「驚き」を示し、株価も反応する傾向にあります。企業が業績を上方修正した際、市場の期待を上回れば上回るほど、サプライズレシオのプラスの値が大きくなります。上方修正でも、市場の予想よりも数値が及ばなければマイナスとなります。 下のJXホールディングスの図を見てみましょう。旧来の会社予想は1600億円の純利益予想でしたが、原油価格の下落等により1000億円の純利益になるのではないかという市場の期待が存在していました。しかし最新の決算ではその期待を下回り、450億円まで純利益の見通しが縮小してしまいました。この決算にサプライズレシオは約-510ポイントを示しており、市場が織り込んでいた悪材料よりも深刻なものとして評価されました。 一方ヤマダ電機はどうでしょうか。市場においては、「旧予想の約250億円から10億円程度の下方修正はやむなし」という期待が存在していましたが、実際は331億円の増益決算です。サプライズレシオは約168ポイントを示しており、良い意味で市場の期待を大きく裏切るものとなりました。その結果として株価も上昇しています。 ただし、サプライズレシオは勝利の聖杯ではないということに留意しなければなりません。株価は様々な要因によって変化するものである以上、サプライズメーターの数値と相関性がない動きをすることもあります。またこの傾向はサプライズレシオが±100ポイント未満の場合にもよく見られるもので、0ポイントに収束すればするほど方向感がつかめないというデメリットもあります。 そうはいってもやはり、驚きという抽象的な概念を数値化し、客観的な指標として共有できるツールは珍しいのではないでしょうか。冒頭で紹介したように今月以降は本決算等大切なIR情報が続々と発表されていく時期にもなります。そのような状況下で一つずつ決算の内容を精査することは、時間の点で限界があるでしょう。そのような状況下で網羅的、直感的に決算内容の良し悪しを判断するために、サプライズレシオという指標を投資判断の一要素に組み入ることが有効となるかもしれません。

インドネシア、セメント需要に回復の兆し 供給も増加で競争は激化か

※QUICKではアジア特Q便と題し、アジア各国・地域のアナリストや記者の現地の声をニュース形式で配信しています。今回はRHB OSK証券インドネシアのアンドレイ・ウィジャヤ氏がレポートします。この記事は10月30日にQUICKの端末サービス上で配信されたものです。 インフラプロジェクト増加…競争激化に懸念も インドネシアのセメント需要に回復の兆しが見えている。9月の販売量は、8月に引き続き堅調な伸びを維持した。ジャワ島とカリマンタン島以外での販売量が拡大、インフラプロジェクトが増加したことが背景にある。当社が追跡しているセメント企業に関しては、新規のインフラ案件関連で受注したことが分かった。ただ、向こう2年間で供給量が増大する見通しであることから、競争が激化すると予想し、インドネシアのセメントセクターの投資判断は「ニュートラル(中立)」を維持する。 9月セメント販売量、年初来最高水準も伸び率は減少 ■販売量の伸びは堅調に推移 9月の国内セメント販売量は、ジャワ島とカリマンタン島以外で販売量が拡大したほか、インフラ事業が増加したことから、年初来の最高水準となる570万トンに達した。8月の550万トンから4.7%増加している。1~9月の累計国内販売量は、4230万トンに達している。ただ、伸び率は前年同期比で1.7%減だった(1~8月では同2.3%減)。ジャワ島とカリマンタン島のセメント販売量が91万トン減少した一方で、スラウェシ島やスマトラ島、東部インドネシアでの販売量が18万トン拡大したことで、減少分の一部は相殺された。 ■回復の兆し 2015年第3四半期のセメント販売量は1450万トンと、前年同期の1400万トンから3.6%増加した。当社が追跡しているセメント企業は、新規のインフラ案件関連を受注している。セメン・インドネシア(コード@SMGR/JK、買い、目標株価:1万500ルピア)は、軽量高架鉄道(LRT)、東カリマンタン州バリクパパン~サマリンダ高速道路や東ジャワ州スラバヤ外郭環状有料道路の建設事業、中ジャワ州スマランのアフマドヤニ空港の拡張工事へのセメント供給契約を獲得した。また、インドセメント・トゥンガル・プラカルサ(インドセメント、コード@INTP/JK、中立、目標株価:2万ルピア)は、ジャワ島横断高速道路の中ジャワ州ソロ~東ジャワ州クルトソノ間の第1区間、西ジャワ州バンドンのソレアン~パシルコジャ高速道路、ジャカルタ外郭環状線(JORR)の西ジャワ州デポック~南ジャカルタ・アンタサリ間に関してセメントの供給を受注している。 セメント供給、需要を上回る見通し ■セメン・インドネシアがシェア首位 セメン・インドネシアは、2015年第3四半期に市場シェアを前四半期の42.2%から42.9%に伸ばした。一方、インドセメントの市場シェアは、前年同期の29.8%から26.8%に縮小した。ホルシム・インドネシア(コード@SMCB/JK)の市場シェアは、同期間に14.7%から14.4%に縮小している。東部インドネシアの販売量が堅調に伸びたことで最大の恩恵を受けたのは、セメン・インドネシアだった。セメン・インドネシアとインドセメントの経営陣はまた、2015年第3四半期の平均販売価格(ASP)が前四半期比で約2%下落したことを明らかにしている。販売量に占めるバラセメントの割合が増加したことと、販売価格の低下が要因だという。 ■投資判断:中立 セメント需要の拡大は見込めるが、供給量が需要を上回る速度で増加すると予測されることから、インドネシアのセメントセクターへの投資判断は「中立」を維持する。なぜなら当社は、国内セメント業界の競争が激化すると予想しているからだ。インドネシアのセメント生産能力は2015年度に前年度比20%、2016年度に同10%増加するのに対して、セメント販売量の増加率が2015年度に前年度比3.5%、2016年度には同6%にとどまると想定しており、当社の計算では2014年度に87%だった国内セメント生産設備の稼働率は、2016年度に72%に低下する見通しだ。 【翻訳・編集:NNA】

「焦点は再び政策対応へ」三井住友銀行・西岡純子氏

QUICKエコノミスト情報 VOL.719 2015/10/15 三井住友銀行 チーフエコノミスト(日本) 西岡純子氏 【景況判断】現状(3カ月前比):やや悪い 先行き(3カ月後):緩やかな改善 GDP予測:15年度0.7%   16年度1.5% 【金 利】短期:横ばい   TIBOR3カ月 0.17% 長期:やや低下 10年物新発国債 0.30% 【円 相 場】 120円/1ドル 【株 価】19000円/日経平均 *GDP予測値は実質GDP成長率、前年比% *長短金利、円相場、株価は3カ月後(2016年1月末)の予測値 1.景気見通し:「海外需要の下振れが足かせ」 今年4-6月の実質GDP成長率が輸出の下振れと天候不順による消費の減少によって前期比年率▲1.2%とマイナス圏に沈んだ後、7-9月も浮揚力なく、2期連続のマイナス成長が視野に入ってきた。こうした展開は昨年の今ごろと似ているが、昨年は消費増税による消費が景気回復を遅らせた一方で、今年は海外需要の下振れ圧力が強いという点が異なる。 海外経済については、欧州は総じてみると良好な回復軌道に乗っていると見られる一方、米国は回復モメンタムがなかなか強まらない。アジア経済については、民間部門のバランスシート調整が続く公算の高い中国と、外貨建て債務の解消に苦しむ中国以外のアジア新興国と、抱える構造問題は各国それぞれ異なるものの、全体として下振れリスクが強い。 日本国内では、高水準の企業収益を原資に個人消費や民間設備投資の増加につながるという好循環が見え始めているものの、海外経済の下振れ圧力を吸収してさらに上回る勢いかといえば、まだ心もとない。企業や消費者のマインド指標は頭打ち状態にあり、手持ちの所得が増えても支出につながらないという根詰まりが解消する気運がまた落ちてしまっている。特にアジア新興国経済の底入れが明確に見えてくるまで、年度後半の循環的な回復でも下振れリスクが強く意識される展開が続く見込みである。 2.金融環境:「金融緩和のバイアスは強く残る」 昨年後半来の新興国通貨の下落は、新興国による多額のドル建て債務の返済負担が高まることへの懸念や、資源価格の大幅な低下、一部新興国による政治リスク、経常収支のインバランスが急速に解消することへの懸念、中国当局による事実上の人民元切り下げなど諸要因が複合的に影響する中での動きであった。ごく足元では通貨、株価に持ち直す動きが見られるものの、リーマンショック以降、主要中銀が揃って供給した過剰な流動性が新興国に滞留するインバランスを是正するには時間を要し、新興国からの資金流出とドルへの資金の一極集中は当面続くと考えられる。 そうした資金偏在の是正の流れのなかで金融政策の正常化を進めようとするFRBであるが、2013年5月のバーナンキショックをはじめ、市場は癇癪(かんしゃく)を幾度も見せてきたことを踏まえると、利上げ判断は極めて慎重に行われ、市場が利上げにまだ耐えられないとFRBが判断すれば金融政策の正常化は先送りされる可能性が都度高まりやすい。米国では労働市場は均衡状態に戻ったものの、インフレ率は1%台前半と、ターゲットとする2%に対して距離を残したままであり、利上げに急ぐ環境でもない。 日本は、「所得から支出への好循環」の表れを今なお待っている段階に留まり、米国に比べ周回遅れの状態である。黒田日銀総裁は、16年度前半に物価目標を達成するとの強気見通しを繰り返すことで期待のコントロールに懸命であるが、市場や民間部門の期待インフレは逆行して軟化している。昨年10月末に日銀は、デフレマインドの転換が遅延するリスクの顕現化を未然に防ぐことを追加緩和決定の根拠とした。原油安が物価を下押しする影響は徐々に剥落することでコアCPIは上昇に転じると見込まれるものの、足元のインフレ期待の後退を看過できるほど経済環境は盤石ではない。仮に、政府が景気のテコ入れのための経済対策を講じてくるとなれば、金融政策で側面支援することを必要とする声も上がりやすく、当面、日銀の追加緩和期待は強く残る。 ECBも追加緩和期待が強いほか、BOEも初回利上げ観測は後退しつつある。主要先進国の金融緩和バイアスは強く残る展開となろう。 3.注目点:「全ては企業次第」 振り返ると、2012年12月の第2次安倍内閣発足と翌年4月の黒田日銀による異次元緩和導入で、日本経済の回復モメンタムは当初、大幅に改善した。2%物価目標は不可能との意見が大勢だった市場参加者の間でも、円安の流れの中では「もしかしたら可能かもしれない」という声がにわかに増えるほどであった。にもかかわらず、今年度に入って2四半期連続でのマイナス成長となる可能性が出てきているのは、海外経済の減速が当初の見通し以上であったことに加え、①政策目標の実現に時間がかかりすぎていることと、②成長期待の回復に勢いがつかないこと、の2つが背景であると考える。①と②は定性的な要因ながら、所得・貯蓄が潤沢な企業・家計部門の支出がなかなか増えない背景と考える上で、必ず行き着く構造的な問題である。 (旧)三本の矢は、成長戦略(第三の矢)の政策効果が発現するまでの間、金融政策(第一の矢)と財政政策(第二の矢)のポリシーミックスでもって景気を刺激する(時間を稼ぐ)というコンセプトが明確であった。家計部門には消費増税による支出減が不可避であったところ、所得を潤沢に持つ企業の投資行動を刺激することが成長戦略の主軸と据えられ、法人税減税や投資減税などが幅広く実施された。しかし、それ以外の成長戦略実現への具体策が遅れたことで、結局、政策目標実現への信認と期待が後退してしまった。成長戦略の推進力への信認が後退するとなれば、人口が減少する経済に期待は盛り上がらず、企業への積極的な投資も再度、先送りされてしまっている。消費者も、賃金が増えても貯蓄性向をむしろ強める姿勢が鮮明である。 そうした縮小均衡の経済において、財政・金融の両政策が景気を刺激する効果は限りがある。目下、財政制約や国債市場の需給構造から政策発動余地の限界を指摘する声が多いが、その限界よりも、景気を刺激する効果に限界が見えていることの方が深刻な問題である。法人企業統計ベースでは、日本企業は約340兆円の利益剰余金を抱えており、それをいかに積極的に投資や雇用者報酬に分配するかに全てがかかっている。 <西岡純子氏略歴> 1974年生まれ。京都大学経済学研究科(計量経済学)修了。2000年より日本興業銀行、日本銀行、三菱UFJ証券、ABNアムロ証券、RBS証券でエコノミストを経験して2015年より現職。日経ヴェリタス・債券エコノミスト人気調査第6位(2014年)。

投資の「大安」日を発見?マーケットカレンダーで見るアノマリー

カレンダーをふと見たときにその日が「大安」であれば、「何かいいことが起こるかもしれない」と考える人も多いかと思います。現に大安日には結婚式場の予約も多く入り、宝くじ売り場にはいつもより多くの人がくじを買いに足を運んでいます。反対に「仏滅」に何か新しいことを始める時には、少しばかり不安になる人も多いようです。 同じように、マーケットにおいても株価が上がりやすい日と、株価が上がりにくい日が存在しているのです。 日経平均株価が上昇しやすい日がある ここでQUICKが提供している、「マーケットカレンダー」を使ってみましょう。マーケットカレンダーとは、日経平均株価の終値の比較で前日から上昇したものを勝ち、下落したものを負け、変わらずを引き分けとして一定の期間を計測し、日別の勝率を算出したツールです。たとえば全期間(1976年~)で集計した10月1日の勝率が50%のとき、40年間で「10月1日の日経平均」が上昇した回数と「10月1日の日経平均株価」が下落した回数が変わらずであることを示します。日経平均が前日終値と同値になる可能性は、コイン投げでいえば、投げたコインがたまたま「直立」する状態に似ています。つまり上下する確率よりも低くなります。 そうすると原則として、上がるか下がるかという二択になります。勝率は試行を重ねるにつれて50%に収束すると考えられることから、日付ごとに値動きのクセは無いようにも思えます。 では実際はどうでしょうか。40年のデータを集積した「全期間(1976~)で集計」で見てみましょう。確かに勝率45%~55%の間に大多数の日付が集まっています。しかしながら、勝率70%を超える日もままあり、2月25日にはなんと勝率80%を示しています。一方、12月23日は勝率27%を示しています。 このような事実から考えうる活用方法としては、勝率の高い日の前日に株式を購入したり、勝率の低い日の前日にポジションを手じまったり、空売りの準備をしたりする等が挙げられます。その反面、勝率が50%に近い場合、「日付に基づく株価の上がりやすさ」という点では不明確であるため、マーケットカレンダーを投資の判断要素として活用することは難しいということになります。 以上より、マーケットカレンダーは勝率が50%から離れていれば離れているほど利益が出しやすいという指標になりうるそうです。 (※10月29日時点、全期間(1976~)で集計)   アノマリーの謎…なぜ株価の動きは同じパターンを示すのか なぜ極端な勝率を出す日付が生まれるのでしょうか。その理由は、実はよく分かっていないのです。このことをアノマリー(Anomaly)といい、金融市場においては「学問的理論では説明できない、経験則に基づいた市場の変化」という意味でよく用いられます。通常はランダムに動くはずの株価が何らかの要因によって、同じパターンの値動きをする局面が存在するのです。 具体的な例を挙げるとすれば「夏枯れ相場」という現象も金融市場におけるアノマリーの一つです。これは、夏の値動きが小幅になる、という意味の相場用語です。「夏にバカンスやお盆といった休暇が集中しやすいことから、市場参加者が減少し、相場も閑散として値動きが期待できないだろう」という経験則がその根拠として挙げられます。 では、マーケットカレンダーで算出される高勝率、低勝率の日付は、何らかの経験則で説明がつくでしょうか。 たとえば営業日ベースの勝率を見ると、月初から19営業日目の日経平均は上昇しやすいことが分かります。19営業日目はほぼ月末。月末には機関投資家による「お化粧買い(保有株の評価額を上げるために買い注文を入れること)」や「配当再投資の買い」が入るとの経験則・憶測が、市場関係者の間には存在しています。     答えは群集心理? アノマリーには、それを信じる投資家の投資行動が、市場の流れをアノマリー通りにさせるという側面があります。つまり「信じる人が多いから、その通りに動く」ということです。たとえばテクニカルのチャート分析も、「25日移動平均で反発する可能性が高い」と信じる投資家が多ければ多いほど、そこで押し目買いが入り、実際にその水準で反発しやすくなると考えられます。 このように考えると、何がアノマリーをアノマリーたらしめるのかという根源的な問題は、経験則に対する市場参加者の信頼という心理状態にあるともいえます。理論で説明できないような値動きについて経験則を当てはめて(こじつけて)、それを信じる人が増えれば自然とそれに沿った値動きが再現され、経験則となるのです。 先ほど説明した「お化粧買い」なども、実際にそういった買いが入っているかどうかは未確認のまま、噂や経験則先行で市場関係者が追随買いを入れ、結果としてアノマリー通りの動きになっている、という状況もありえます。   「アノマリー予備軍」を見つけ出してみよう 一方、理論や経験則で勝率が合理的に説明できない日付も存在します。このような「お日柄」に対して、どのように考えるべきなのでしょうか。 これまでの話に基づくと、経験則で値動きが説明できないもの、つまり値動きのクセに対する認知や信頼が乏しいものは、厳密にはアノマリーではありません。市場参加者の広い信頼を獲得する前の段階のアノマリー予備軍ともいうべき概念でしょう。 マーケットカレンダーは特殊なツールです。勝率の特異日を分析した結果、説得力のある理由が見つかったり、知る人ぞ知る地味なアノマリーを発見できるかもしれません。また「11月後半の勝率が良いのは米国の年末商戦に向けて明るい話が出てくる時期だからだ」「2月25日の勝率が8割もあるのは、日経225の語呂合わせだ」「12月23日の勝率が3割以下なのはサンタクロースのクリスマスプレゼント代金支払による資金需要に基づく換金売りだ」といった経験則が発見される(こじつけられる)ことにより、アノマリー予備軍はアノマリー化を果たすとも考えられます。 誰かが日付による勝率のクセを発見、分析し、説得力のある背景が説明され、クセを認知・信頼する投資家が増えれば増えるほど信憑性が向上し、アノマリーとして投資判断の材料とされるかもしれません。 皆さんもマーケットカレンダーからアノマリー予備軍を見つけ出し、背景を分析し、自分独自の「大安」日を見つけてみてはどうでしょうか。

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