どうなる3月相場?勝率アノマリーから解読

日経平均は2月12日引け値で1万5000円を割りこみました。2014年10月21日以来、1年4カ月ぶりの1万5000円割れです。年初の1万9000円の高値から1ヶ月半ほどで4000円の下落で2割以上下げたことになります。 この相場下落について「長期的には買い場が来ている」との指摘も増えてきていますので、「QUICK Money World」にあるマーケットカレンダーで2月と3月のアノマリーを振り返りながら、3月の相場を大胆に予想してみました。 2月は売り先行の月 「セル・イン・メイ」という言葉を聞いたことがあると思います。米国でとても有名な格言で、「株は5月に全部売ってしまい、夏は相場が枯れるのでポジションを持たずに過ごし、ハロウィーンの頃に相場に戻ってきてまた株を仕込むのが年を通じては一番好いパフォーマンスになる」というものです。これを過去の実績で検証すると非常に成功率の高い投資だということが判ります。このように、株式市場において、合理的な説明はできないけれども、過去の経験則から起こりがちな株価の季節性などをアノマリーといいます。 2月で有名な格言には「節分天井、彼岸底」があります。2月の節分頃に天井を付けて、3月の春分の日の彼岸の頃に底値になるということなのですが、いろいろな人がこのアノマリーの信憑性を実証していますが、あまり検証結果は芳しくありません。ただ今年は直近高値が2月1日の1万7905円です。このアノマリーが今年は当たっているとするなら、3月後半まで下げる可能性もあるかもしれません。 さて、日経平均の勝率面での「特異月」についても確認しておきましょう。1976年以降で月ごとの勝率が高いのは、12月が68%、4月が65%、1月と11月が63%とこの4ヶ月がベスト4です。したがって、アノマリー的には、12月に掉尾の一振で上げた後、1月に天井を付け、2〜3月は調整から切り返し、4~5月にかけて今年前半の高値をつけにいく季節性のパターンが読み取れます。2月の勝率は54%です。下げの特異日をみると、勝率が30%台なのが、3日、5日、9日、20日、21日です。アノマリー的には、月前半の下げ日が多く、後半21日を経過すると上げの日が多くなってきます。特に25日は勝率80%の上げ特異日です。今年は下げの特異日20日、21日が週末となるため、むしろラッキーかもしれません。 これらのアノマリーを総合すると、足元の相場は底値固めをしている、とみることもできるでしょう。 3月は中央銀決定会合を経て実質最終商い日にかけてジリ高 さて、3月の月間の勝率は59%で、とりわけ高い月ではありませんが、アノマリー面では市況改善が見込まれます。 というのも、2月よりは勝率が上がることに加え、2月に5日もあった上昇率30%台という下げの特異日が1日もありません。一方、上げの特異日は15日の79%、18日の71%と、この2日が70%を超えます。70%こそ超えませんが、年度末権利付き最終日前後である26〜28日あたりの上げる確率も高くなっています。権利付き最終日を控え、配当、分割、株主優待などの権利確定の買いが増えるのと、機関投資家、特に金融機関が年度末を控え3月3週くらいまでに年度内の売りを終了するためだと思われます。 3月のアノマリーを実際の経済カレンダーと合わせてみましょう。11日が東京市場のメジャーSQです。10日には、ドラギ総裁が追加利下げを示唆した欧州中央銀行(ECB)理事会があります。14〜15日が日銀決定会合、15〜16日が米連邦準備委員会(FRB)の米連邦公開市場委員会(FOMC)が開催されます。SQの11日、決定会合の15日が上げの特異日であることが注目されます。 そして4月は月間の上げが65%と12月に次いでもっとも上げる月になります。4月は金融機関などの新年度でまた買いから入る投資家が多いのと、年金のニューマネーの配分が4〜5月にあるためだと言われています。今年もアノマリー的には日経平均が4〜5月に年初来高値をつけてくる期待が強いです。仮に4〜5月に1万9000円以上を目指すなら、3月は月後半にかけて1万8000円程度を目指す展開が期待されるのではないでしょうか。

生保株の業績が期待ほど伸びなかった理由とは?

好決算で株価は上昇するも予想は据え置き 2016年2月12日に発表された、大手生命保険の一角である第一生命保険の2015年4~12月期(第3四半期)連結決算は、純利益が前年同期比32%増の1735億円でした。これは、4~12月期としては、相互会社から株式会社に移行して以降の最高益を更新しています。 第一生命単体で順ざやが拡大しただけでなく、2015年2月に買収した米プロテクティブ生命の収益が寄与したことなどから好決算となりましたが、16年3月期の連結業績見通しは純利益が1610億円、経常収益が7兆960億円と据え置きました。第3四半期時点で会社通期予想を上回るなど、進捗率から考えれば好調そのものであるにもかかわらず、なぜ、通期会社業績予想を据え置いたのでしょうか。 マイナス金利導入による影響 保険会社は、年金や保険金・給付金を支払うために、株式市場や債券市場において「機関投資家」として資金を運用しています。第一生命保険の2015年3月末の資産の状況は、為替ヘッジ付き外債などの比率を増加させてはいるものの、45.1%が公社債での運用となっており、未だ高い比率を占めている状況です。 2016年1月29日に日銀金融政策決定会合で発表された「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」は、公社債での運用が中心となっている保険会社にも大きな影響を与えました。「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」は、金融機関が保有する日本銀行当座預金に0.1%のマイナス金利が適用されるというもので、具体的には、日本銀行当座預金を3段階の階層構造に分割し、それぞれの段階に応じてプラス金利、ゼロ金利、マイナス金利が適用されます。 マイナス金利の適用が伝わってから、市場ではまず、収益が圧迫される可能性があるのは銀行等ではないかと注目されました。金利低下による貸出業務の利ザヤが縮小すると懸念されるためです。 この理由だと一見、保険会社への影響は無いように思われますが、運用面を見ると問題が浮き彫りとなります。頼みの長期国債のリターンが大幅に低下することになるからです。 仕組みはこうです。銀行は、今まで日本銀行当座預金に預けているだけで0.1%の金利を受け取ることができていましたが、今回の政策によりゼロ金利もしくはマイナス金利となる部分が発生するため、その部分の資金を国債など少しでも利回りのある安全資産に振り向けます。その動きが顕著になった結果、日本10年物国債の利回りは急低下し、一時は利回りがマイナスとなりました。 これまで日本銀行が実施していた「量的・質的金融緩和」政策は、国債の買入れなどを通じて、起点(翌日返済など一番期間の短い金利)を維持しつつ、返済までの期間が中長期の国債の利回りを低下させるものでした。専門的に言えば、「起点を据え置いた状態で利回り曲線(イールドカーブ)を押しつぶす(フラット化)」を狙ったものであり、金利の低下はあったものの、国債を購入して運用する保険会社は、長期国債などでは一定の利回りを確保できていました。 しかしながら、今回の政策はイールドカーブの起点をマイナスに引き下げてしまうため、状況に応じて長期国債までもがマイナス金利になってしまいます。長期国債で巨額を運用する生命保険会社は、リターンが大幅に低下することになります。このような運用難の状況を考えれば、通期会社業績予想が据え置かれたのも理解できます。 決算内容の驚きを可視化 日本銀行によるマイナス金利採用の発表は市場関係者においても想定外だったため、発表以前に作成された証券アナリスト達の第一生命の業績予想は、非常に強気なものでした。実際、4~12月期の連結経常利益は、会社通期予想進捗率88%で達成が確実視され、純利益については、すでに会社見通しを超えていますので、業績予想据え置きは、サプライズだったといえるでしょう。 このような、業績予想におけるサプライズを可視化できるツールが「決算サプライズメーター」です。企業規模などを加味したうえで、決算等で会社が発表した最新の今期業績予想(純利益)と、証券アナリストの予想の平均値(純利益)を比較して算出される「サプライズレシオ」により、数値化して見ることが可能となります。  今回の第一生命保険の例では、「サプライズレシオ」が-152.32となっており、期待と比して、業績予想が伸びていないことが一目でわかります。このように、「サプライズレシオ」のマイナスが大きいほどネガティブサプライズ、プラスが大きいほどポジティブサプライズとなるため、決算資料に目を通す時間がなかったとしても、「サプライズレシオ」と「決算サプライズメーター」をチェックするだけで、俯瞰的に企業業績を見ることができるのではないでしょうか。  

「お客さま視点で変わり続けて必然企業に」セコム・前田修司氏

ビッグデータを生かした新サービスを次々に生み出し、小型無人機「ドローン」や自律型飛行船など2020年東京オリンピックの防犯警備で注目されているセコム。社長時代の2012年にオールセコムのイメージで新たに描いた、前田修司代表取締役会長に同社の進化の理由や将来像を聞いた。※本記事は2016年2月10日にQUICK端末で配信した記事です。   関連企業:セコム(証券コード9735)     日本初の警備会社セコム、転機は1964年の東京オリンピックに 【問】御社は創業50年を超える日本初の警備会社です。 【答】1962年、当社は日本初の警備会社「日本警備保障」として創業しました。企業向けに巡回警備、常駐警備などの警備サービスを展開し、契約先は徐々に増えていきました。創業から2年後の1964年東京オリンピックでは当社1社、100人ほどの人数で代々木の選手村の警備を担当し、社会から高い評価と信頼を得て、飛躍のきっかけとなりました。当社が東京オリンピックで警備を請け負ったことで、日本で初めて警備会社にスポットがあたりました。 創業以来、当社は警備を通じて法人や個人の「安全・安心」を守ることに注力し、独自のセキュリティサービスやセキュリティシステムを作り出してきましたが、その枠をさらに広げ、社会全体の「安全・安心」を担う会社になると決断しました。これから来るであろう情報社会を見据え、セキュリティ事業で構築した情報通信ネットワークを活用し、防犯・防火だけでなく、より広範な「安全・安心」を提供する新しい「社会システム産業」の構築を開始すると、1989年に社内外へ宣言したのです。 「社会システム産業」の構築を目指して、当社はセキュリティ事業に続いて1983年情報系事業に進出、1991年「在宅医療サービス」の開始によりメディカル事業、1998年保険事業、1999年地理情報サービス事業、2000年不動産事業、2006年防災事業を開始するなど、「社会システム産業」構築に不可欠な事業分野を次々と開拓してきました。会社が成長する過程でM&Aも積極的に行ってきました。例えば、「安全・安心」には防災事業も不可欠ですので能美防災やニッタンと連携しました。そして、「社会システム産業」の構築を加速するために、2010年オールセコムの戦略を開始しました。 【問】オールセコムは前田会長が社長時代に登場した言葉ですね。 【答】そうです。現在も事業領域はセキュリティを中心に、防災、メディカル、保険、不動産、地理情報、情報通信の7つです。現在の事業領域を”サービス″分野で表現すると、データセンターを核とした「セキュリティ」「超高齢社会」「災害・BCP(事業継続計画)・環境」となり、”オールセコム”でイメージしやすくなりました。 【問】これまで何度か転機が訪れたと思いますが、オールセコム戦略もそのひとつですね。 【答】そうですね。いろいろなことがありました。例えば、1964年東京オリンピックでの選手村警備や、1965年4月スタートの宇津井健さん主演のテレビドラマ「ザ・ガードマン」、1990年長嶋茂雄さんのホームセキュリティのテレビCM「セコム、してますか?」などで世の中にセコムが知れ渡り、警備業が産業として認知されるようになりました。 技術的な切り口ではインフラの進化がありました。中でも通信回線事情の進化で文字情報だけでなく画像情報も送れるようになったことが大きかったです。当初、50ビット/秒の専用線から始まって、その後ISDN、ADSL、それと同時並行で携帯電話が普及してPHSなどが出てきました。結局、今は光回線と携帯電話網が主流となりつつあります。大容量のデータを早く送ることが出来ればデータを圧縮する必要がなくなるのです。1秒間に50ビットしか流れなかったのが今では最速で10ギガ程度まで実現しています。通信速度は2億倍速くなったと言えます。無線通信の回線スピードや容量が上がれば、携帯電話でも有線の通信網と同じレベルの画像送信が可能となり、犯罪が起きているリアルな瞬間をとらえることが出来るようになります。データセンターを中心に、防犯のみならず、「快適・便利」につながるサービスがどんどん広がっていきます。その形がまさにそこまで来ています。 私が当社に入社した頃、ホームセキュリティは10万件を超えるかどうかという状況でした。それが今や100万件を超えてどんどんネットワークが広がっています。また、家の中で子供や孫の写真などもホームセキュリティを利用すると当社のデータセンターに預けることが出来るようになりました。東日本大震災を機に、災害時の備えとして写真や身分証明書などの個人情報を当社がお預かりするサービスを始めたのです。入社時には、当社が今のような会社になるとはほとんどイメージ出来ませんでしたが、ネットワークが世の中を変えていくことは予想していました。 「『安全・安心』のサービス」…今後はビッグデータの活用がカギ 【問】2012年10月、東京電力のデータセンター運営子会社、アット東京を買収されました。御社の業績拡大に大きなインパクトがあったのではないでしょうか。 【答】これは大きかったですね。セコムグループでは、2000年に国内最高レベルのセキュリティを誇るセキュアデータセンターを構築していましたが、アット東京がグループ入りしたことで国内最大規模のデータセンターを持つことが出来ました。データセンターは、色々な事業分野からの基本情報をお預かりし、その後の変化情報、例えば、センサーの状況や画像データなどを解析し、セキュリティ、超高齢社会、災害・BCP・環境の3分野でサービスを行うビッグデータサービスが可能となるのです。そうしてさまざまな「安全・安心」のサービスが行き渡った社会、社会システム産業の実現を目指しています。 【問】データセンターの役割は非常に大きいのですね。ビッグデータから生み出される「安全・安心」のサービスにはどういうものがありますか。 【答】例えば、当社には監視カメラのデータがあります。リアルタイムの混雑状況、その中の性別や年齢の構成、建物の老朽化状況などがわかります。他のカメラと連携することで新しいコンテンツが生まれます。地理情報サービスを手掛けるパスコは32機の小型飛行機と25基の人工衛星を利用出来る体制を敷いています。こうした装置を使って上空と地上から撮った画像をあわせて3次元の3D画像を作り上げると、「ここの人はどの建物から見えるのか」、「ここを見るにはどこにカメラを設置すればいいのか」、などが全部わかります。 直近では、2015年12月、当社のドローン監視システムが国交省から認可され、24時間警備で夜も飛べるようになりました。当社のドローンは、画像認識とGPS(全地球測位システム)で自分の位置を認識しながら緯度経度を指示されるとそこへ飛んで行くことが出来る世界初の自律型小型飛行監視ロボットです。監視カメラやライトなどを搭載し、地上3~5メートルを時速10キロ程度で飛行して不審者に近づきます。撮影した動画は当社のセンターに送信され、警備員が急行します。 また、2016年2月末の東京マラソンでは飛行船を飛ばして新しい警備を実現します。飛行船の高精細カメラと地上の警備員のウエアラブルカメラを活用して立ち入り禁止場所などにいる不審者を発見することも出来ます。ゼッケン番号と顔を照合するシステムも取り入れ、テロ行為や替え玉参加を防ぎます。飛行船は、無線技術や画像・伝送技術、画像認識を搭載し、他のデータとの比較で、上空から地上でどんなことが起きているのか、例えば、不穏な動きがある、見慣れない不審物が置いてある、子供が迷子になっている、そういうことを監視することも可能となります。こういう時にはこういう可能性があるという傾向と分析をビッグデータに加えてカテゴライズしておくと推測出来るのです。 【問】日本もテロの潜在的脅威にさらされていますが、御社のドローンや飛行船があるから安心ですね。 【答】ありがとうございます。出来るだけそう感じてもらえる様に努力します。現在、ドローンや飛行船が色々なイベントなどでも使えるように調整しているところです。 【問】今年は日本でサミットが、2020年には東京オリンピックが開催されます。 【答】2008年洞爺湖サミットは当社をはじめ主に3社で警備を担当しましたが、2020年東京オリンピックは、業界全体、オールジャパンでやらないととても出来るものではありません。2020年東京オリンピックは1964年の時とは規模が違います。警備会社と警備員の数は、当時の1社100人から今や9400社54万人という規模にまで成長しています。1964年と2020年の東京オリンピックは全く別物という形で取り組まないといけません。聖火ランナーは47都道府県全部走りますから全国で警備することになります。都道府県すべてで雑踏警備や交通誘導を行います。それだけでも何万人もいるわけです。「安全・安心」をオールジャパンで発信していきます。 【問】警備の世界は、ガードマンによる警備から機械も活用した警備へと着実に進化を遂げています。「2020年東京オリンピックの警備は3割ガードマン、7割データ活用」との予測もあります。どうお考えですか。 【答】今は何とも言えません。ビッグデータの活用がカギを握ることは間違いありません。機械を活用した警備は増えています。しかし、人による警備も増えています。警備には人手が必要です。現場を警備員に確認してもらうことで情報の信頼度は高まります。最後は人です。 地域連携型の暮らし相談窓口を試験運転…超高齢化社会見据え 【問】連続して増収増益と業績も好調です。その理由をどうお考えですか。 【答】当社のビジネスモデルを愚直に実践しているということだと思います。当社のビジネスモデルは、現在の警備・防犯契約に新規の契約を積み上げていくストック型ビジネスモデルです。「安全・安心」のサービスを提供する対価として毎月継続的に一定料金をお客さまより頂きます。他業界に比べると景気が業績に与える直接的な影響は少ないと思います。国内企業や家庭向けの契約件数は200万件を超えています。その上で、技術、犯罪、社会の3つの動向に絶えず目配りしながらお客さまのニーズに応えようとしています。今期は企業向けの警備サービスの契約が国内外で伸びました。他社より値段が高くても当社のシステムを採用すれば、「より一層時間管理が出来る」、「環境に優しい」、「電気代やコピー代が下がるなど経費削減効果がある」、といった不況時でもお客さまに受け入れやすいご提案をさせて頂いていることも業績向上に寄与していると思います。 【問】連結売上高収入の内訳で構成比を見るとメディカル事業が上昇していますね。 【答】意図的にメディカル事業の売上構成比率を上げようとしているわけではありません。サービスは、セキュリティ、超高齢社会、災害・BCP(事業継続計画)・環境の3つで、力を入れているのは高齢化の分野だけではありません。オールセコムで取り組んでいます。もちろん、今後も超高齢社会の中で大きな役割を果たしていきたいと考えています。 【問】では、どう役割を果たしていきますか。 【答】例えば、気象災害はゼロには出来ませんが、気象災害による被害を減らす「減災」は出来ます。同じことが高齢化問題にも言えます。既往症を持つ高齢者が外出先で急に発症して倒れたり、認知症で徘徊したりすることもあるでしょう。しかし、危ないからと家に閉じこもっていては体調を崩すことにもなりかねません。健康な高齢者でいてもらうためにも、少しでも多く外出してもらいたいと思います。そのためにココセコム(屋外用携帯緊急通報システム)やセコム・マイドクタープラス(高齢者救急時対応サービス)があるのです。50グラムほどの携帯端末にGPS機能が内蔵されていて、家族は契約者専用のウェブサイトで位置検索が出来ます。自分が迎えに行けなければ、要請があれば稚内から沖縄まで2830カ所の国内拠点から当社の緊急対処員が駆けつけます。これらの拠点を活用してセキュリティに限らずあらゆるサービスを展開出来ます。利用件数は増えています。人口減に歯止めをかけようとしている政府目標には、高齢者が元気に安心して生活出来る環境も必要です。ココセコムやセコム・マイドクタープラスは政府の政策にも有効だと思います。 もうひとつあげると、2015年4月、東京都杉並区の久我山周辺地域を対象に、超高齢社会に対応する新サービス「セコム暮らしのパートナー久我山」を試験的に開設しました。地域に密着し高齢者のお困りごとにワンストップで対応するくらしの相談窓口です。高齢者は、移動のためにタクシーを頼んだり、住居の修理や家事代行を地域工務店や家事代行会社に依頼したり、重たい荷物の配達をスーパーに依頼したり、そういう細かな日常的なサービスをワンストップですべて受けられます。久我山モデルを地方、過疎地にも展開していきたいと考えています。 セキュリティ×情報サービス…ビジネスモデル構築と海外展開目指す 【問】地方には過疎地、隣の家が500メートル先という地域もあります。不採算も危惧されますが。 【答】医療も含めた7つの事業領域各々の採算ではなく、オールセコムで社会貢献という考え方で事業推進しています。 【問】提携先の久我山病院とスーパー、コンビニ、運送会社などいろいろな業界の会社とつながりが出来ます。 【答】そうです。そこからどんどんデータが集まってきます。社内のデータに加えて社外のデータも集積され、それがビッグデータになります。データセンターでビッグデータを有効に解析して新しいサービスを生み出します。久我山モデルから新しい事業要素や新しい事業展開のイメージどんどん出てくるようになります。 【問】御社はセキュリティ事業者というよりもビッグデータサービス事業者と呼べる存在とも言えますね。 【答】そう言われて違和感はありません。データから価値を生む経営はグーグルのような会社と言われたこともあります。 【問】事業領域は広範囲でグループの会社総数は200社に達しています。オールセコムには多角化経営のイメージもありますが。 【答】多角化経営ではありません。もちろん、脱警備会社を目指しているわけではありません。オールセコムで「安全・安心」で「快適・便利」なサービスをお客さまにお届けすることに資源を集中するということです。 【問】どういうスタンスでお客さまに「安全・安心」で「快適・便利」を提供していますか。 【答】他社が手掛けた方が社会にとって良いのであれば他社がやればいい。当社が手掛けた方が社会にとって良いのであれば当社がやればいい。当社グループの方がお客さまに「安全・安心」をより多くお届けすることが出来る。当社が手掛けることで社会に最も貢献出来る。そう判断した領域に参入しています。 【問】具体的には。 【答】例えば、2011年東日本大震災の時に避難所に立ち寄って被災者の方々からさまざまな苦労話を聞くことが出来ました。「薬が必要でも処方箋が津波で流されて服用薬の名前がわからない」、「通帳・印鑑が流されて預金が引き出せない」、「家族や友人の大切な写真や身分証明書が流された」、「家族に連絡を取りたくても家族の携帯番号がわからない」。そういった事態が続出しました。これらはまさに「安全・安心」に関わる問題です。被災された方々からの声やさまざまな被災状況を見て、企業や家庭、個人のデータをいつでもどんな時でも安全に取り出せて利用出来るシステムが必要であると痛感し、当社グループがやらなければならなかったことだと気付かされました。それで開発したのが「セコムホームセキュリティGカスタム」です。これは、ホームセキュリティを通じてデータセンターにお客さまの大切なデータをお預かりすることも出来る新しいシステムです。自宅に設置のホームセキュリティ端末のカメラで、運転免許証や健康保険証、服用中の薬、銀行通帳、大切な写真などを撮影すると、当社のデータセンターで安全に保管されます。データは、グループの情報セキュリティ会社、セコムトラストシステムズがしっかりと管理します。24時間対応のセキュリティ端末からいつでも預けたデータを利用出来ます。家が流されても必要な情報は流されずに保管し、必要な時に必要な情報を見ることが出来ます。2011年12月販売を開始しましたが、セキュアなデータセンターを持っていながら今までどうしてそういうサービスを提供してこなかったのか、震災前に作っておけばよかった、と後悔しました。 【問】震災を経験して情報管理の重要性を再認識され、なすべきことはまだまだあるとお感じになられたのですね。 【答】世の中がどんどん変わっていきますから、まだまだやるべきことはたくさんあります。高齢者向けのサービスです。久我山モデルから出てくるいろいろなニーズに応えていくということを全国に広げるには今の体制ではまだ不十分です。当社と提携する病院は全国に19カ所ありますが、西日本については手が回っていない状態です。これらの地域でも提携病院を増やし、全国でトータル的なサービスの実現を目指します。 世界でも断トツの高齢化率の日本で新しくビジネスモデルを作れば、そのビジネスモデルを海外へ展開出来ます。いち早く課題に取り組む日本から地球規模の「安全・安心」で「快適・便利」が提供出来るようになる。だからこそ日本で作り上げないといけないと思っています。高齢者の方たちに新しいサービスを提供して、意見を頂戴し、レベルアップし、世界に発信していきます。 「気づいたらセコム」へ…時代に即した変化を 【問】最後に、お客さまにサービスを提供する時に心掛けていることは何でしょう。 【答】当社では、世の中にとって、お客さまにとって大事なものは何かというところから考えていきます。技術から考えるのではなくサービスから考えます。例えば、「ICのミニマム化に成功したからこれは何かに使えないか」と考えるのではなくて、「このサービスをお客さまに提供するにはどういう技術やインフラが必要なのか」と考えます。その結果、「ICのミニマム化が必要だ」と考えます。技術から入っていくと偏った見方になります。この技術を使って何かをやろうと無理に作ると良い結果は得られません。サービスから考えるのがセコムです。 【問】お客さま視点だからこそ御社は時代とともに変わり続けられるのですね。 【答】社長時代から防犯のセコムから困った時はセコムと言われることを目標にしてきました。変わり続けて「気づいたらセコム」、意識しないで周りにいる空気みたいな必然企業になっているといいと思っています。 (聞き手・QUICK情報・コンテンツ本部 岡村健一)

西武HDが業績好調、インバウンドの追い風はいつまで続く? 

「決算サプライズメーター」は、企業が業績を上方修正した際、市場の期待を上回れば上回るほど、サプライズレシオのプラスの値が大きくなります。下方修正でも、市場の予想よりも数値が悪化しなければプラスとなります。一方、下方修正幅が市場の予想値を超える規模であれば、レシオのマイナスが大きくなります。上方修正でも、期待に届かなければマイナスとなります。 伸び目立つインバウンド需要 直近1週間の対象銘柄59件(2月15日時点)に関する決算サプライズメーターを見ると、西武ホールディングスのサプライズレシオが+145.82となりました。2016年3月期の最終利益予想について、従来の365億円の予想から487億円に上方修正しましたが、上方修正幅が市場予想(375億円)を大きく上回ったことを示しています。   同社は鉄道をはじめとする公共交通機関の雄として知られていますが、同時にプリンスブランドによるホテル事業も展開しています。訪日外国人客の増加などを追い風に、ホテルの稼働率が上昇したことが、業績の拡大要因になりました。最終利益部分では特別利益の影響もありましたが、インバウンド需要の取り込みに成功したと考えて良いでしょう。 「中国の景気減速でインバウンド客の減少が懸念される」などと言われたのは、昨年の夏くらいだったでしょうか。 実際に出てきた業績を見ると、2015年のインバウンド需要は堅調だったことが分かります。日本政府観光局の統計、「訪日外客数の動向」を見てみましょう。2015年のデータは推計値ですが、これまでの推移は添付した図版のようになります。2003年からの統計で、過去最高を更新する予定です。ちなみに2014年の訪日外客数の総数は1341万3467人であるのに対し、2015年の総数(推計値)は1973万7400人ですから、前年比で47.1%も増えることになります。   株式市場でインバウンドが注目テーマになったのは、2014年の秋口くらいからのこと。同年10月に、免税対象品目が全品目に拡大されたことを機に、訪日外国人客による日本国内での消費、いわゆる「インバウンド消費」が注目されるようになり、インバウンド関連銘柄が一躍、脚光を浴びるようになりました。インバウンド関連は、非常に幅広いセクターを含んでいます。鉄道や航空会社などの運輸関係、ホテルなどの宿泊関係は定番ですが、この他にもレストランチェーン、小売関係などへも対象は広がっていきます。 西武HDをはじめ、インバウンド関連銘柄の今後の注目点は、今後、つまり2016年以降の訪日外国人客の動向がどうなるかでしょう。減少に転じないまでも、伸び率が鈍るようだと、株式市場は中国景気の悪影響を懸念し始めるかもしれません。   市場期待に未達の企業相次ぐ 一方、住友ゴムは今回、2016年12月期通期の業績予想を新規に発表。アナリストの大部分が最終利益について、前期比50億円減の505億円を見込んでいましたが、会社は570億円と増益予想を発表。その結果、サプライズレシオの数値は、業績が大幅な上方修正となった西武HDよりも高い、+185.73になりました。 ただ気になるのは、市場の期待に比べて、想定以上に業績が伸びなかった企業が多く見られることです。ヤマハ発動機のサプライズレシオは-231.8。業績は会社予想並みではありましたが、市場予想が高かった分、実際に出てきた業績は、逆に市場の期待を裏切るものになりました。他、第一生命の-152.32、T&Dホールディングスの-106.38が、会社予想通りの業績だったものの、市場予想よりも悪かったことでサプライズレシオが大幅マイナスに。また、三菱マテリアルやバンダイナムコホールディングス、太平洋セメントなどは、業績が市場予想を大きく下回っただけでなく、実際の業績も下方修正されました。 注視される為替動向 2015年10~12月期決算は、特に3月決算企業にとって、業績の上方修正・下方修正が明確に見えてくるだけに、投資家も注目しています。今決算に関して言えば、一瞬とはいえ1ドル=110円台に入った為替レートが気になるところです。日本企業の想定為替レートは、2月15日発表のQUICK月次調査(外為)によると、平均値で1ドル=117円38銭です。今の為替レートだと、多くの企業は決算時に為替差損を考慮しなければならなくなり、業績面でネガティブな要因になります。当然、株価にも影響が及ぶだけに、今後の為替レートの動向は注視したいところです。

勝率はリターンに関係なし?低勝率売買ルールのバックテスト結果を公開

ローソク足の動きを完全に予測する 「すべての取引で利益になりました。これこそ勝利の聖杯です!」…勝率100%というものは、私たちがマーケットにおいて目指すべき目標であり、憧れであると思われがちです。その理由は、「マーケットには普遍的な原理があり、それを知っている者が利益を得られる」と私たちは考えるからです。 突然ですが、実は筆者はローソク足の動きを完全に予測することができます。皆様には特別にその動きというものを公開させていただきます。それは、「ローソク足は左から右へ動く」ということです。しかし、これはチャートとローソク足の作成法に普遍性とルールがあるからこそ言えるのです。 冗談はここまでにして、マーケットに普遍の原理は存在するのか考察をしていきたいと思います。そこで、これをよく知っていると考えられる、あるヘッジファンドを紹介します。LTCMというファンドは、オプション理論でノーベル経済学賞を受賞した経済学者やFRBの元副議長等で構成される資産運用の「ドリーム・チーム」でした。しかしながら、このファンドは現在存在していません。ロシアのデフォルト(債務不履行)を引き金に発足からなんと5年足らずで破綻してしまったのです。 これに限らず、圧倒的な情報量と豊富な経験を有する、海千山千の投資家やファンドマネージャーたちがマーケットに打ち負かされた例は枚挙にいとまがありません。そうするとマーケットには因果的に説明できるような、普遍といえる原理はまだ見つかっていないといってよいでしょう。ノーベル賞受賞者も見つけられないような普遍の原理、すなわち勝利の聖杯を見つけるぞという気概を持つ方以外は聖杯探しをやめた方が賢明でしょう。マーケットというものは論理を超えた「不確実性」に支配されているといっても過言ではないのです。 因果関係でマーケットを見てはいけない? 私たちが勝率にこだわりがちなのはマーケットについて因果論で捉えている点にあるのではないでしょうか。これらは確かに私たちが日常生活を送るうえで重要な論理的思考方法であることに間違いありません。各種メディアは、自然現象や事件、不祥事といったトピックについての原因を究明し、結果としてそのトピックが発生したという結論をつけて報道しています。 しかしマーケットの不確実性を克服するほど因果論は万能ではありません。そもそも、不確実なものには完璧な予想を加えることができません。たとえ因果関係からして「株価が上がる」と予想されるような場面でも、マーケットは常にネガティブな事件発生の危険にさらされています。いわゆる株価予想はこのようなリスクのせいで台無しになりやすいのです。プロの予想が打ち砕かれることは当然であり、責められるべきものではありません。 また、因果的に相場を見る時の弊害としては、原因と結果が結びつかなかったり、明確に分類できないような複数の事象が発生したりする場合、無理に結論をこじつけてしまうことがあることが挙げられます。「リスク選好的な流れで株高」の翌日に「世界経済停滞観測で株安」といったニュースが出ることがあるのもこれが原因です。本来ファンダメンタルズの流れは一朝一夕で変わるものではないはずです。しかし適当な事情をひろって「これが原因だ」結論をこじつけてしまうのです。確かにミクロ・短期の視点では納得できるかもしれません。しかしマクロ・長期の視点ではつじつまが合わなくなってしまうという結果となってしまいます。下の図にも示すように、相場が全体として上昇トレンドを描いているとしても、個々のニュースに振り回されれば、そのトレンドを見失いかねないのです。 その他の弊害としては、上手な人であればあるほど「自己の分析は優れている」という認知バイアスに陥りやすく、リスクマネジメントを疎かにしてしまいがちになることが挙げられます。先ほど挙げたLTCM破綻の一因でもあります。すなわち、因果論によればありえないような出来事が起こることを、ほとんど想定していない状態に陥りやすくなってしまうのです。その結果、破綻に直結する危険な意思決定をとってしまいがちになるのす。 マーケットが根本的に不確実である以上、予想を完璧にあてること(=勝率100%)は不可能なのです。 勝率20%台でも儲かるカラクリ 現に、マーケットの予想に頼らなくても継続的に利益を出し続けられる人がいます。その中には、個々の取引に限って言えば勝率20%の手法を用いている人も存在するほどです。ここで「勝率100%は無理でも60%とか、最低でも51%はないと商売にならないのではないか」と考えてしまうではないでしょうか。それは勝率という言葉が持つ意義を検討しなければなりません。 私たちは「利益が正解。損は間違い」というように、取引をクイズの正解数で評価してしまいがちです。損したら落ち込んでしまうでしょうし、利益になったらうれしくなる人もいるのではないでしょうか。その結果、落ち込むことが多い勝率20%の手法がダメな手法に見えてしまうのです。反対に正解数が多く、勝率は高ければ高いほどいい手法であると考えてしまいがちになるのです。 したがって、うれしくなる回数が多い「高勝率」という要素が過度にクローズアップされるのだと考えます。しかし、期待値という概念を知れば、勝率がいくらであっても(どれだけ損失の回数が多かろうとも)一喜一憂することはなくなります。 くじ引きで考えてみましょう。1回100円で、箱に入った5枚のうち1枚の当たりを探すというルールであるとします。くじは引いた後に箱に戻し、再度100円を払えば引き直せます。当りくじの賞金は600円です。この場合、当たりが出る確率は平均5回に1回です。すなわち勝率20%であるといえます。そうすると一枚の当たりくじを引くまでにだいたい500円かかると見積もることができます。そうであるにもかかわらず賞金はそれより多い600円です。したがって、おおよそ5回で100円儲かります。 逆に、5枚のうち4枚はあたりで、はずれの1枚は2000円支払うというくじはどうでしょうか。4枚が当たりであるため確かに勝率は80%です。しかし5回で得られる賞金の額は平均して2400円であるのに対し、くじに支払う額は参加費の500円に加えはずれの2000円で2500円となります。そのため、このくじを引くと1回あたり20円とられてしまうという結果になります。 そうすると初めに検討したくじを引くべきです。なお、勝率20%といえども、所持金が500円だからといって挑戦するのは考え物です。なぜなら期待値というものは限りなく試行回数を重ねた場合に収束するらしい値であるため、たった数回の試行では偏りが出ることがあるからです。そのため、わずかな回数引いただけでは期待値の効果を受けることなく大切なお金をすってしまうこともあります。反対に、わずかな試行回数の間で当たりが連続する場合も留意しなかればなりません。ある程度の試行回数をこなさなければそれが真の勝率であるかわからないからです。 前者のくじの場合、平均すれば1回につき20円ずつ儲かっていることになる以上、はずれをひいても悲しくなったり、悔しくなる感情が生まれてこないはずです。何千回とくじをひくだけの作業となり、むしろつまらなくなってしまうほどだと思います。しかし、お金は増えているという結果になります。 よくある話として、成功したデイトレーダーが「退屈」だと答えるインタビューがあります。こうなるのも本質的には期待値にあります。彼らは期待値の優位性に基づいて決まった事をやるだけであり全体的にみれば利益が出でいることを知っています。そのため個々のトレードの結果が損でも得でも感情が生まれないのです。それが退屈と表現されるのでしょう。 低勝率の売買ルールとバックテスト結果は? さて、取引を行う上で期待値の重要性を実証するためにここで当社端末「Qr1」を用いてテストしてみましょう。 期間 2006年2月2日~2016年2月2日(リーマンショックを挟んだ10年間) ルール ①MACD が終値でシグナルを上に突き抜けたら(ゴールデンクロス)、翌日に買い ②利食い +20%以上 ③損切   -2%以下 ※チャート下段、紫の線は当該手法のリターン、緑の線が銘柄の騰落率です。特別気配や、ストップ制限値幅の場合は、寄り付いた時の値段で約定する設定になっています。そのため、損失額が-2%を大きく超える場合も考慮されています。 ※MACDとは…短期と長期の指数平滑移動平均(EMA)の差(MACD)と、MACDの移動平均線(シグナル)を描画したものです。MACDがシグナルを下から上に突き抜けたときが買いシグナル、上から下に突き抜けたとき売りシグナルとされます。   今回用いる条件はこれだけです。 ①日経平均株価指数 手法のリターン:+18.31% 勝率:15.91% 銘柄の騰落率:+8% 優位性(銘柄の騰落率比):+10.31%  一口コメント:損切幅が小さく、利益確定の幅が大きいため、下落トレンドに強いです。さらに、MACDのゴールデンクロスを条件に入れているため、原則として下落の真っ最中に玉を仕込むことはありません。一方、2011年2月から2012年の10月は小幅なレンジ相場であり損切の回数が上昇しました。よってレンジ相場には弱く、下落相場には強い手法であるといえます。 ②トヨタ自動車(7203) 手法のリターン:+12.64% 勝率:19.12% 銘柄の騰落率:+10% 優位性:+2.64% 一口コメント:2014年6月以降の相場に注目。急激に上昇した場合、利益確定の幅が20%である以上、それ以上のリターンは見込めません。また、その後再びゴールデンクロスするまで待たなければならないため買いのタイミングが遅れます。したがってこの手法は、押し目をつけつつゆっくりと上昇する銘柄に強いということになります。 ③富士フィルムホールディングス(4901) 手法のリターン:+26.04% 勝率:20.78% 銘柄の騰落率:+12% 優位性:+14.04% 一口コメント:2012年以降は押し目をつけつつ緩やかに上昇しているため利益を最大化できています。2006年からの下落トレンドも、損切幅が小さいため騰落率を大きく下回ることはありませんでした。 ④任天堂(7974) 手法のリターン:+65.90% 勝率:30.77% 銘柄の騰落率:+2% 優位性:+63.90% 一口コメント:2007年の超上昇相場では利益確定の幅と、買うための条件の問題から指をくわえて見守るしかありませんでしたが、値崩れしてからは強いです。 ⑤東京電力(9501) 手法のリターン:+32.78% 勝率:26.56% 銘柄の騰落率:-80% 優位性:+112.78% 一口コメント:2011年2月付近のギャップを見ていただきます。窓開けによる意図しない損失-38.70%を被っていますが、ふたたびゴールデンクロスするまでじっと待つことでリターンが回復しました。最終的には100%もの差が付きました。 ⑥シャープ(6753)  手法のリターン:-11.61% 勝率:16.67% 銘柄の騰落率:-60% 優位性:+48.39%  一口コメント:強い下落トレンドでもきっちりと2パーセントで損切りすれば傷口は浅くなります。   おまけ:値動きの非常に激しい時期がある銘柄   ①そーせいグループ(4565)手法のリターン:+129.55% 勝率:33.68% 銘柄の騰落率:+240% 優位性:-110.45% 一口コメント:最後の急騰劇に逆転されてしまいました。もっとも、この後株価が落ち着けばこの手法の真価が発揮されるため注目です。 ②ガンホー・オンライン・エンターテイメント(3765) 手法のリターン:+194.48% 勝率:28.74% 銘柄の騰落率:+50% 優位性:+144.48% 一口コメント:2012年からの上昇相場には乗られていませんが、それはこの手法の射程外です。気にせずルールを執行していたら、最終的には144%もの差が付きました。 ③ミクシィ(2121) 手法のリターン:-8.73% 勝率:20.25% 銘柄の騰落率:+25% 優位性:-33.73% 一口コメント:2014年2月以降の相場に注目です。全く乗ることができていません。値動きのスピードが早すぎる銘柄は弱いのでしょう。 結果 平均総リターン: +51.04% (原資産比+151.04%) 試行回数: 677回  平均勝率: 24.52%  期待値: +0.075%(資金1000万円の場合1回あたり7500円程度の利益となる計算) 今回は、極々簡単なルールで実践してみましたが、それでも期待値はプラスでした。十分な資金をもってこの手法を用いれば、利益から手数料や税金を差し引いてもプラスになります。(例:資金1000万円で考えた場合、利益:5104000円 手数料:1000円*677=67万7000円 税金:20.315%=899345円 手取り利益:3527655円※手数料はネット証券を参考とした架空の価格です) 確率論でマーケットを見ると、一回一回の勝ち負けに対するこだわりが消え、悩みもなくなることでしょう。以上より、勝率20%台でも勝てます。本当は期待値(一回当たりのリターン)が大切だったのです。

「中国の波乱は米国に伝播する懸念」三菱UFJモルガン・スタンレー証券・佐治信行氏

話し手:三菱UFJモルガン・スタンレー証券 チーフエコノミスト 佐治信行氏(※本記事は2016年1月21日にQUICKで配信された記事です) 【景況判断】現状(3カ月前比):悪い 先行き(3カ月後):悪くなっている 【GDP予測】15年度1.0% 16年度0.8% 【金 利】短期:横這い TIBOR3カ月 0.169%      長期:横這い 10年物新発国債  0.200% 【円 相 場】円高 115円/1ドル 【株 価】株安 17,000円/日経平均 *GDP予測値は実質GDP成長率、前年比% *長短金利、円相場、株価は3カ月後(2016年4月末)の予測値 1.景気見通し:「国内景況感に息切れ鮮明」 2015年11月の鉱工業生産(経産省)は季調済前月比-1.0%と3カ月ぶり減。出荷(同-2.5%)が生産以上に落ち込み、在庫率(同+2.9%)は9月以来の高水準まで逆戻り。内外需の持ち直しが企業の想定以上に弱く、在庫調整は足元停滞。一方、12月生産予測調査に拠れば、12月生産予測指数は同+0.9%で、この場合の10~12月期生産指数は季調済前期比+1.4%と3期ぶりの増産。もっとも、マイナスが続く生産予測実現率を加味すると、生産は前期比+0.1%程度と僅かな増産に留まる。11月の実質消費支出(二人以上世帯、総務省)は前年比-2.9%と3カ月連続減で、前月(同-2.4%)から減少幅が拡大。この消費不振は暖冬による季節商品の売れ行きの悪さによるものだけではない。実質可処分所得(同-2.5%)が3カ月連続で減少する中で、15年春以降値上がりが顕在化してきた費目向けの支出がここに来て軒並み弱くなっている。被服及び履物費が4カ月連続減、教養娯楽費が3カ月連続減、その他の消費支出が6カ月連続減といった有様だ。特に高齢者世帯の消費の低迷は深刻さを増している(60歳以上世帯の実質消費は同-10.4%)。財政健全化の遅れから来る社会保障給付抑制、それにベアの恩恵が受けられず所得が伸びない中、大規模金融緩和の長期化で円安からの消費財物価上昇に晒されている。季調値でみた10~12月期実質消費支出は2期ぶりのマイナスとなる可能性が濃厚だ。 2.金融環境:「リスクオフの円買い顕著」 昨年12月16日に7年ぶりのゼロ金利解除を決めたFOMCは、今後について、データ次第としながらも、「インフレが目標を下回っていることに鑑み、インフレの目標に対する実際と予想される進展を注視」と明言。「現在予想される経済状況は緩やかなFF金利の上昇のみ正当化する」点を強調した。声明は、「FF金利がしばらくの間は長期的にノーマルとみられる水準より低位であり続ける可能性が高い」と述べ、利上げが「浅い」ことも改めて指摘。イエレン議長が会見で、「後の急激な利上げは景気後退を招きかねないが、早めに始めれば緩やかな利上げが可能」と述べたのは、景気後退を招くと利下げ余地がないため、利上げは緩やかにならざるを得ないということ。株価頭打ち(消費減速)とこれまでのドル高(純輸出悪化)・原油安(エネルギー関連設備調整)で年前半の成長が力強さに欠けそうな点も踏まえると、追加利上げは年央以降か。世界経済への懸念や原油安によるリスクオフ時に逃避通貨となりやすい円は、特に年前半、対ドルで上昇しやすい点に注意が必要であろう。 それに対してユーロは、ECBの追加緩和(観測)が当面、対ドルでの上昇抑制要因となろう。ECBが量的緩和(QE)本格化を宣言してから1年、QEは貸出促進にはECBの期待ほど寄与していないが、対外債券投資促進・対内債券投資抑制というポートフォリオ・リバランスも含め、ユーロ相場の低め(=ユーロ安)維持には一定の効果が出ている。ただ、「前年比+2%をやや下回る」というECBのインフレ率目標自体は原油安の進行によって遠のき続けている。労働需給ひっ迫が顕著なドイツでもサービス物価が上がらない(12月前年比+1.2%)状況が示唆するようにユーロ圏の超低インフレは根深く、ECBのQEは相当長期化することになりそうだ。一方、新興国混乱による全面的なリスクオフや、ECB内タカ派が発言力を増すなどして追加緩和期待が遠のけば、ECBの意図に反して為替がユーロ高に振れる可能性がある。 3.注目点:「中国経済の波乱が米国へ」 世界最大の経常収支黒字国、中国の外貨準備高が減ってきている。経常収支が黒字にも拘わらず外貨準備高が減っているということは、経常収支で稼いだ資金がその国に対する不信から海外に流出しているか、経常収支の黒字額が嘘であるか何れかだ。事実としては中国からは資本収支と誤差脱漏との合計で2015年に約6,000億USDもの資金が海外流出した。同年の経常収支2,800億USDの倍以上の資金が海外に逃げたことになる(9月までの途中経過)。一方、米国の国際収支統計は誤差脱漏が2015年に3,029億USD(9月までの数値から推計)の流入となった。中国の外貨準備の減少とほぼ同一であるところが興味深い。しかも、米国の資本収支統計では地域別詳細が公表されている。2015年誤差脱漏の地域別最大の流入超過額は中国であり、その金額は年率5,050億USDと2014年の2,828億USDからほぼ倍増している。誤差脱漏に地域別のデータがあることは不思議に思えるが、米国の対中国での誤差脱漏は、入手元が中国と分かっている資金フローながらも、従来からの分類である直接投資、証券投資での株式、債券、また預金、貸付等には分類し難いものが計上されているはずである。ここからは推察の領域であるが、中国本土と米国内の中国人同士(親類等)での証書無き資金の貸借を通じた不動産投資等が考えられる。中国経済の波乱は米国経済の波乱に直結するのである。 <佐治信行氏略歴> 1958年生。82年関西学院大学法学部卒。日興證券入社。日興リサーチセンター投資戦略部長、興銀証券チーフエコノミスト、みずほ証券チーフエコノミスト、三菱UFJ証券チーフエコノミストなどを経て、2010年5月より現職。日経ヴェリタス・エコノミスト人気調査第1位(2015年)。

海外投機筋が円先物を3年ぶりに買い越し…その時、個人投資家は?

年明けから急速な円高・株安の流れが続いています。「この動きが当面も続くのでは」と懸念させるような統計が発表され、金融市場の専門家が注目しています。 米国の金融政策が利上げに舵を切ったにも関わらず、海外投機筋が3年ぶりに円先物(対ドル)の買い越しに転じたのです。 海外勢が3年ぶりに円を買い越し…「中国」と「原油」を警戒 米商品先物取引委員会(CFTC)が日本時間の1月9日に発表した海外投機筋の円の持ち高(1月5日時点)は4103枚(約512億円)の買い越しとなっています。2012年10月16日以来、およそ3年3カ月ぶりで、日本経済新聞は「ヘッジファンドの相場予想が円安から円高に転じたことを示している」と報じています。アベノミクス開始以来、初めて円の買い持ちに転じたことになります。 教科書的に見れば「米国が利上げに動けば、ドルの金利が上昇し、為替市場でドル高が進む」と考えたいところですが、市場の動きはその逆です。昨年12月に米国が利上げに踏み切って以降、円高・ドル安が続き、実際に海外投機筋も円の売り姿勢から買い姿勢に転じているのです。 いったい何が起こったのか。 確かに昨年後半まで、海外投機筋は、利上げへの期待から円売り・ドル買い姿勢でした。ただ実際利上げが発表されれば、いったん材料出尽くしの機運が高まります。そこに中国経済や原油安といった不安材料が湧き起これば当然、リスク回避の意識が強まります。世界経済不安からドルの利上げペースが鈍る、つまり米国の経済成長が順調に進まないという不安が強まってしまいます。 3月期決算の主要企業の15年度下期の想定レートは1ドル=120円台が中心。さらなる円高は日本の輸出企業の株価の重荷にもなります。   8日発表の昨年12月の米雇用統計では、非農業部門の雇用者数が市場予想を大幅に上回ったが、相場は反転しなかった。(中略) 米雇用統計が改善したのに円高・株安が止まらないのは、市場参加者の関心が「米国の金融政策より人民元安や原油安といったリスク要因に移っている」(三菱東京UFJ銀行の内田稔氏)ことが大きい。不安が不安を呼び相場にブレーキがかかりにくくなっている。 米雇用統計の発表直後にはいったん1ドル=118円85銭まで円安となったが、そこから一気に反転し、117円台前半まで円高が進んだ。 ※日本経済新聞からの引用 国内FX参加者は逆張り…ドル買い・円売り持ち高を堅持 この海外投機筋の動きがどれだけ珍しい動きだったのか、そして国内の個人投資家、つまりFX(外国為替証拠金取引)参加者はどのように動いたのか。 以下のチャートは、直近3年間の海外投機筋(ピンク)、国内店頭FX取引(青)、くりっく365(緑、東京金融取引所に上場するFX)の、それぞれのドル円の持ち高動向です。ピンク色、つまり海外投機筋の持ち高の推移(計算値)を見ると、今年に入り、突然、ドルの売り越し(=円の買い越し)に転じたことがわかります。 また米国が利上げに踏み切った昨年12月以降、海外投機筋のドル買い持ち高が減るにつれ、円高が進んでいることが分かります。     ※このチャートの詳細はこちらのページで確認できます。   この状況下で、国内のFX参加者はどう動いたか。同じ週のくりっく365、店頭FX統計ともに、買い越しを維持。3つの統計の中で、先行的に公表される店頭FX統計を見ると、先週末時点(1月12日にサイトで公開)で依然、ドルの買い越しを続けていることがわかります。年初からの相場急変時、海外投機筋の円買い・ドル売りに、国内のFX参加者は追随しなかった様子が見てとれます。 外国為替市場参加者の「波」を見極めろ このチャートから、この先どうなるか、少し頭の体操をしてみましょう。 海外投機筋のドル円持ち高の推移をみると、2015年の春や秋のように、海外投機筋のドル円の買い越し持ち高がトントンになるまで縮小したあたりが、ドル円相場の底になっているようです。とはいえ、当時は米国の利上げ期待のもとにあった相場。実際に米国が利上げに踏み切った足元の相場で、同じ動きになるかは不透明です。 一方、国内FX参加者の動きを示すくりっく365、店頭FX統計は、ドル円相場が軟調になったとき、ドル円の買い持ち高を増やす逆張りの姿勢を見せています。同じ動きを繰り返すのであれば、戻りを狙った下値での買い主体になると考えられます。 ただ、国内FX参加者が、いつ、海外投機筋の動きに追随するかは不明です。今後の円相場の動向を見通すためにも、海外、国内、各参加者の持ち高の「波」を見極め、波に大きな変化が起こっていないかどうかをチェックすることが必要となりそうです。

「ダウンサイドリスク高まる2016年の世界経済」BNPパリバ証券・河野龍太郎氏

話し手:BNPパリバ証券 経済調査本部長 河野龍太郎氏(※本記事は2015年12月14日にQUICKで配信された記事です) 【景況判断】現状(3カ月前比):横ばい 先行き(3カ月後):回復 GDP予測:15年度0.9% 16年度1.1% 【金 利】短期:TIBOR3カ月 0.17% 長期:10年物新発国債  0.3% 【円 相 場】 120円/1ドル 【株 価】19000円/日経平均 *GDP予測値は実質GDP成長率、前年比% *長短金利、円相場、株価は3カ月後(2016年3月末)の予測値 1.景気見通し:「アベノミクス下で低成長が続くのはなぜか?」 アベノミクスの下で高い成長になったのは、2013年度だけだった。その後は、マイナス成長が散見される。もちろん、2014年度は消費増税が影響した。2015年度は中国など新興国経済の低迷も影響した。しかし、理由は需要サイドだけにあるのか。低成長の大きな理由が供給サイドにもある。まず、アベノミクスがスタートした段階では、マイナス2%程度の需給ギャップが存在していた。第一の矢と第二の矢の合わせ技によるヘリコプターマネー(事実上の中央銀行ファイナンスによる追加財政)によって、2013年は高い成長が可能となったが、その結果、2014年年初には、スラックはほぼ解消していた。つまり、経済が完全雇用に達したため、その後は、トレンドを上回る高い成長の継続が困難になっていたのである。既にトレンド成長率は0.3%とゼロ近傍まで低下しているから、スラックが解消された後、補正予算を編成しても、金融緩和を行い円安に誘導しても、高い成長の継続は難しくなっていたのである。 こうした中で、アベノミクスの最大の誤算は、大幅な円安にもかかわらず、輸出数量が全く増えなかったことである。確かに円安によって輸出企業の業績は著しく改善した。しかし、輸出数量が全く増えていないため、雇用者所得の改善は限定的なものに留まっている。個人消費が弱いのは、消費増税の後遺症もあるが、それだけでなく、円安によって輸入物価が上昇、家計の実質購買力が抑制されているためである。つまり、円安は、家計から輸出企業に所得移転をもたらすだけに終わっている。もちろん、円安による業績改善を背景に、株価は上昇傾向が続き、多少の資産効果は期待できる。また、財輸出の回復は限られているが、インバウンド消費などサービス輸出が膨らんでいる。これらを含めれば、円安は経済全体ではプラスだと見られるが、家計に悪影響が集中しているため、政治も円安に敏感になっている。戦後、円高には社会は敏感に反応してきたが、円安については常にWelcomeであり、これまでとは様相が大きく異なる。1ドル=300円だった1973年初頭の水準まで実質実効円レートが低下しているため、人々が円安に敏感になるのは、当然と言えば、当然かもしれない。 2.金融環境:「原油価格は低迷が続くのか?」 2000年代に原油高が続いたのは、基本的には、高度成長の続いた中国の旺盛な需要が主因である。中国の高度成長の終焉と共に、原油高の時代も終わった。本来なら、中国の高成長が終了した2011年に原油安が訪れ、2000年代前半の水準に回帰しても不思議ではなかったが、その後もFEDのアグレッシブな金融緩和が生み出す過剰流動性によって、2014年10月まで原油価格は高値で張り付いていた。さらに高値が続くという思惑から、easy moneyによるファイナンスによって、世界中で資源開発が続けられた。結局、2011年以降の原油高はFEDの一連のQEが作り出した典型的なバブルだったのであり、それ故、QE3の終了と共にバブルが崩壊、2014年10月に原油急落が始まったが、バブル醸成の過程で過剰ストックが相当に積み上げられてしまった。このため、地政学的リスクが急激に高まらない限り、しばらく原油価格の戻りは限られたものになる。資源国は過剰ストック、過剰債務問題を抱え、苦境が続くが、さらにFEDの利上げに伴う資本コストの上昇も加わる。中国需要が高まる前の2000~2004年の原油価格は30ドル強であり、それが当時の均衡価格だとすると、その後のドルベースの一般物価の上昇を加味した41ドル程度が現在の均衡価格と考えられる。ただ、調整過程でアンダーシュートが生じるなら、30ドル台が長引くリスクもある。 3.注目点:「2016年の世界経済のリスクは、アップサイドかダウンサイドか?」 明らかにリスクは、ダウンサイドに偏っている。下げ止まり傾向が観測されるといっても、中国経済は尚、下振れリスクを抱えている。2000年代の終盤にルイスの転換点を迎え、トレンド成長率が大きく下方屈折したが、当時、リーマンショックが低成長の原因と中国政府は誤認し、大規模財政を発動したため、それが過剰ストック問題をもたらした。さらに、ドルに対し事実上のペッグ制を続けているため、実体経済に比して割高な人民元が景気回復の足を引っ張る。トレンド成長率の下方屈折、過剰ストック・過剰債務問題、経済実態に比して割高な為替レートというのは、90年代の日本のおかれた状況と共通する。中国政府は財政政策で景気を下支えすると考えられるが、財政の規模を追求すれば、それは新たな過剰ストックを生む。こうした中、米国の内需が回復すれば、それはそれで望ましいのだが、それに伴いFEDの継続的な利上げ観測からドル高が進み、人民元の実効レートの上昇が中国経済の足を引っ張るおそれがある。このほか、懸念されるのは、リーマンショック後に強化された金融規制がFEDの金融引き締め効果を増幅することである。低利のドル資金を元手に資源開発を続けた経済主体はバブルの残骸を抱え、利上げ開始によってますます困難な状況となる。現在、米国で好調なのは住宅販売や自動車販売で、いずれも低金利環境によって支えられているものであり、FEDの政策転換は、好調な内需の前提も揺るがす。世界で二番目に大きくなった中国経済が減速局面にある中で、FEDの利上げの継続が、新興国バブル・資源バブル崩壊後の世界経済のダウンサイドリスクを高める。 <河野龍太郎氏略歴> 1964年生。87年横浜国立大学経済学部卒、住友銀行入行。89年大和投資顧問入社、エコノミスト、94年同社米国駐在エコノミスト、97年第一生命経済研究所入社、マクロ経済・金融分析を担当、2000年11月よりBNPパリバ証券チーフエコノミスト。著作に「金融政策の罠(共著)」(集英社)、訳書に「金融政策の理論と実践」(アラン・ブラインダー著)、「通貨政策の経済学」(ポール・クルーグマン著)等。日経ヴェリタス「2008年(第13回)、2009年(第14回)、2010年(第15回)、2012年(第17回)、2013年(第18回)、2014年(第19回)、2015年(第20回)債券アナリスト・エコノミスト人気調査」エコノミスト部門 第1位。日本経済研究センターESPフォーキャスト調査(2012年度、2014年度)総合成績優秀フォーキャスター。

「アジアで圧倒的ナンバーワン、世界発着の旅行会社を目指す」JTB・高橋広行氏

人口減による消費停滞への打開策として期待されるのがインバウンド(訪日外国人)の増加。インバウンドの拡大で潤う旅行業界最大手・JTBの高橋広行社長に見通しと戦略を聞いた。※本記事は2015年12月10日にQUICK端末で配信した記事です。   地方勤務から社長へ…自治体に根ざした経営戦略に自信 【問】高橋社長は関西ご出身ですね。 【答】入社以来、関西、中国、四国エリアを中心に地方勤務していた社員がJTBの社長になったのは初めてだと思います。今、当社は地域戦略とグローバル戦略の両輪で経営を進めています。そういう意味では、私は地域を経験しているはじめての社長ということになります。社長になったのは、地域を経験していることが大きかったのかもしれません。西日本を中心に営業の現場を経験しているところが歴代の社長と違うところです。 【問】社長にご就任されて1年5カ月が経過しました。手ごたえはいかがでしょう。 【答】地域戦略についてはまさに「我が意を得たり」という思いです。2006年、当社は地域に正対して発展することを志向して地域密着を掲げ分社化を行いました。ここに来て政府は国策として地方創生を打ち出していますが、当社は2006年の分社化以来地域戦略を進めています。例えば、政府の日本版DMO(デスティネーション・マネージメント・オーガナイゼーション。地域の観光マーケティング・マネージメントを担う機関)は、当社が10年前から取り組んでいるDMC(デスティネーション・マネージメント・カンパニー。豊富な地域の知恵、専門性、資源を所有し、イベント、ツアー、地域交流や地域活性化を企画提案する会社)と同じ考え方です。DMC戦略は、地域の埋もれた観光資源を掘り起こし磨き上げて商品化し、それを全国あるいは全世界に流通させて、地域にお客様を呼び込むことで地域を活性化させる、というものです。まさに今、当社が10年前から進めてきた戦略が国の戦略と具体的な形で合致したという思いです。 【問】御社が先手を打って国が後追いをしているようです。 【答】そこまでは言えませんが(笑)。バブル崩壊時に初めて赤字に転落するなど痛手を被った経験から、追い詰められる前に先手を打って改革に取り組んできたことや、マーケットに正対して事業を推進してきたことが、国に先んじて地域事業戦略を展開する結果になっているのだと思います。 当社は地方創生の推進に関与しています。既に多くの自治体からご相談いただき、ふるさと旅行券(商品券)、プレミアム旅行券(商品券)、ふるさと納税などのお手伝いをさせていただいています。2006年に地域分社化して地域密着の営業を展開しているため、地域のことがよくわかります。例えば、ふるさと納税を申し込まれたお客様にふるさと納税のお礼用の地域特産品をアドバイス出来ます。国が政策を打ち出せば「それではこんな感じでやりましょう」と具体策を提案させて頂くことが出来るので、ふるさと納税をはじめ地方創生にかかわる一連のオペレーションを全国の自治体から任されているのだと思います。 旅行業の先行き懸念背景に、交流文化事業へ注力 【問】地域事業戦略を推進する上で2006年の分社化は大きな意味を持っているのですね。 【答】2006年の分社化は当社の歴史始まって以来の大変革だったと思います。地域別と専門領域別の分社化を同時に行いました。地域のお客様と地域を訪れるお客様へのサービスを強化するために、全国1社であった体制を北海道から沖縄まで9地域の分社体制にしました。さらに、お客様のニーズの高度化・多様化に対応するために、ひとつの支店で店頭営業も渉外営業もこなす総合型の営業スタイルから店頭営業と渉外営業を分け、それぞれが専門性を高めていく機能別営業スタイルに変えました。総合型営業の時には店頭と渉外が連携する面もあれば、依存してしまうという面もあったことから、機能別営業スタイルに変えることで主体性を高めるという目的もありました。 分社化に際して、当社がこれから目指す姿、果たすべき社会的役割をとらえ直し、交流文化事業を事業ドメインに据えました。交流文化事業とは、お客様の感動と喜びのために、JTBグループならではの商品・サービス・情報および仕組みを提供し、地球を舞台にあらゆる交流を創造し続けることです。人が動き、人が接して交われば会話が生まれます。会話が生まれると文化が生まれます。その文化を創造して新しい事業を開発しています。 【問】そのためのスローガンが「感動のそばに、いつも」ですね。交流文化事業を事業ドメインに据えた背景をお教え下さい。 【答】ひとつは、事業領域を広げるためです。少子化問題もあって長期的には国内の旅行マーケットがシュリンクしていくのは目に見えています。縮小していく国内マーケット対策として事業領域を広げていく必要性に迫られています。旅行業で培った知見やノウハウがあるので、旅行の周辺部分に事業領域を広げるということです。もうひとつは、事業の質を高めるためです。旅行業は価格競争にいつも晒されています。企画力やオリジナリティーなどを前面に出して次元の違う、質の高い事業を展開すれば、競争が緩和されて経営が安定します。それを交流文化事業の中でやっていこうということです。 【問】会社が大きく舵を切ることに社員に戸惑いはなかったですか。 【答】社員は旅行業をやるために当社に入社しています。それがある日突然、「交流文化事業だ」ということですから、「交流文化とは何ですか」、「旅行会社が旅行ではない事業をどうしてやるのですか」、「そんなことやってビジネスになるのでしょうか」といった声がかなりありました。最初は大変でしたが、2006年の分社化から成功事例が出る度に「これが交流文化事業だ」ということを積み重ねて、現在では社員の理解を得られています。これは本当に大きな意識改革です。一朝一夕に出来ることではありません。交流文化事業の推進にはそれなりの人材を育てないといけません。 【問】交流文化事業に力を入れているのは御社だけですね。 【答】そうですね。交流文化事業を事業ドメインに据えることで、一段と地域活性化、観光立国に寄与出来ると思っています。実際、旅行業とは関係のないような事業、こんなことまでJTBがやっているのですかと言われるような事業をやっています。地方創生、ふるさと商品券、プレミアム商品券などは旅行そのものではないのですが、旅行事業で培ったノウハウや経験をベースに新規事業を展開しています。   地域の恵み発掘、「まちおこし」をより魅力ある観光コンテンツへ 【問】分社化して地域の期待もかなり高まったのではないですか。 【答】これは予想以上で、「分社化してJTBさんは九州に来られたのですね。九州にどれだけお客様を連れてきていただけるのですか」といったお話をよくいただきました。地域のお客様のニーズにお応えするためにどうすればいいのか。当社のパッケージツアーでどうやって地域に呼び込むか。いろいろ模索しながら検討しました。その結果、例えば、ひとつの観光地に東京発、大阪発、仙台発、札幌発、福岡発の複数のパッケージ旅行担当者が個別に見に行って開発・販売するというスタイルをやめて、観光地のエリアの担当者が責任を持ってパッケージツアーを企画・開発して全国に販売するというスタイルに変えました。地域の人たちを巻き込み、当社と地域が一体となってじっくり掘り下げて開発することが出来ますから、これまでなかった面白い商品ができあがります。その成功事例が「地恵のたび」です。「地恵のたび」は、地域活性化をテーマに、知恵と工夫によってまちおこしに取り組む地域の魅力に触れ合う地域交流型旅行商品です。 【問】御社と地域が一体となって行う交流文化事業の推進によって「地恵のたび」が生まれたのですね。地域にどのようにアプローチされるのですか。「地恵のたび」の事例と合わせてお教え下さい。 【答】地域とは違う目線で、「こういう問題を抱えていますが、このように解決してはいかがですか」とソリューション営業を仕掛けます。地域の問題解決をお手伝いする過程で地域の宝を掘り起こし、磨きをかけて商品化していくお手伝いをします。 例えば、長野県の阿智村は、昼神温泉だけに頼らない継続的な地域ブランドの構築が課題でした。2006年に環境省推進の全国星空継続観測において「星が最も輝いて見える場所」第1位を獲得したのですが、阿智村にとっては星がきれいなのが日常です。当社の社員が「この星空は商品になります」と提案したことを契機に星空を観光資源とする気運が高まり、「こういうことが出来ないか」、「もっとストーリーが作れないか」、地域の人と知恵を出し合いながら一生懸命考えました。それで夏場は未稼働のスキー場を活用してはどうかという案が浮上し、「天空の楽園」ナイトツアーを企画しました。ホテルにバスが迎えに来て、ガイドさんがバスの中で星空への思いを盛り上げていく話をします。スキーのリフトであがって降りた所に銀河鉄道999に出てくるようなキャラクターの格好をしたスターコンシュルジュが「ようこそ星空の世界へ」とお迎えし、星空案内で夜の旅を盛り上げます。上に行くと明かりがこうこうとついています。そこに寝転がって夜空を見ます。一斉に照明が消されて星に手が届きそうなくらいの満天の星空が広がります。 【問】暮れなずむ夕日、さんざめく星たち。そこには美しい魅惑の風景が広がっているのですね。忙しい日常を抜け出して心を潤す旅にでかけてみたくなります。 【答】この企画が「地恵のたび」でものすごく売れました。初年度から目標を上回る観光客の誘致に成功し、昼神温泉の宿泊客も増加しました。その結果、パッケージツアーのエースでも取り扱うようになりました。 もうひとつ、大阪府東大阪市は町工場の多い地域で観光地ではなかったのですが、「ものづくり観光」をテーマにストーリー性を持たせて企画したところ大変な人気を博し、今では全国から年間6千人を超える修学旅行生を中心としたお客様が工場見学に訪れています。東大阪の町工場の一番の経営課題は労働力の確保です。学生たちは、社長や職人さんの話を聞き、本物のモノづくりを体験します。現場を見てもらい、関心を持ってもらうことで就職につなげることが期待出来ます。ものづくり・技術大国日本として、ものづくりを体験させることは教育的見地からも良い教材になります。職人にも教える喜びという新たなモチベーションが生まれ活気づきます。自分たちの仕事を見直すきっかけにもなります。人が来ると宿泊や食事などで地域にお金が落ちます。 【問】地域経済や国内旅行市場が元気になります。 【答】日本の人口が減っていく中で、国内旅行を活性化することは当社の大きな命題だと思っています。日本人の国内旅行の年間平均旅行回数は1.4回、宿泊日数は2.4日くらいです。人口減少で国内旅行市場はさらにシュリンクしていくことが予想されます。国内旅行が低迷するのは、魅力ある観光コンテンツが少ないからです。人を呼べる観光資源はたくさんあります。魅力ある観光資源を掘り起こし、旅行回数を増やしていくことが必要です。一度行ったところでも、従来だったらお決まりの観光地を巡るだけだったのが、こういう体験が出来るとか、こういう新しい食事が味わえるとか、地域の観光資源を掘り起こし、それを流通させて地域にお客様を呼び込んでくる。その成果のひとつが「地恵のたび」です。 【問】「地恵のたび」には北海道から沖縄まで86のツアーがありますね。 【答】灯台もと暗しで、地域にいるとその観光価値に気づかないことがたくさんあります。阿智村の人たちも東大阪の人たちも星空や町工場がこれほどの観光資源になるとは思ってもみなかったでしょう。全国には埋もれている観光資源がたくさんあります。地域の課題解決をお手伝いするなかで、地域の埋もれた観光資源を掘り起こし、磨き上げて商品にして、地域にお客様を呼び込む。つまり、地域のお客様を旅行にお連れする「発(はつ)営業」に加えて、お客様を地域に呼び込んでくる「受(うけ)営業」を一緒に行うことで地域を活性化させる。それが当社の役割だと思っています。そうした地域事業戦略を具体的に進める戦略を47都道府県の47とDMC(デスティネーション・マネージメント・カンパニー)の頭文字をとって47DMC戦略と呼んでいます。地域の支店長は、地域のお客様を国内旅行や海外旅行にお連れするだけでなく、地域にお客様を呼び込んでくることが求められます。これからも「地恵のたび」を充実させていきます。 【問】厳しくもやりがいがあるお仕事です。 【答】そういうことをいつも社員に話しています。当社の地域事業戦略は非常にやりがいがある。地域貢献という公益に資することをやろうとしている。なおかつビジネスでやろうとしている。公益と企業益の両立を目指すやりがいのある仕事であると社員に理解させています。 訪日外国人向けの新路線開拓へ 【問】訪日外国人向けの観光コンテンツとして阿智村や東大阪はいかがでしょう。 【答】これからはこのようなところにも関心が持たれると思います。ゴールデンルート一極集中の問題もあります。外国人向けのプログラムも企画中で、国内800店舗、海外500カ所のネットワークを活用して東大阪から世界へと発信する準備を進めています。 【問】「地恵のたび」がゴールデンルート一極集中を緩和し、外国人旅行者を分散するツールになるということですね。 【答】そうです。ゴールデンルート(日本を訪れる外国人旅行者の多くが利用する観光ルート。具体的には、東京から箱根、富士山、名古屋、京都、大阪を回って帰国するルート)に外国人旅行者が集中しています。日本に初めて来た時に一番人気の高い所に行くことは仕方がないことなのですが、時期によってはホテルやバスの手配が出来ないほど混み合っています。従って、限られた観光ルートだけでは収容しきれなくなり、経済効果も頭打ちになります。観光ルートを多様化させて地方に分散させることが必要です。実際、ゴールデンルートや日本の代表的観光地を訪れた外国人旅行者が、次の行き先として地方に足を向けはじめています。この地方への流れを確かなものにするために、地域の魅力を掘り起こして外国人旅行者にご案内します。ゴールデンルート以外の広域観光ルートをどう開発していくかが大きなテーマです。 今、第二のゴールデンルートと言われているのが、名古屋から飛騨高山、北陸を経るドラゴンルート(昇竜道)と言われるルートです。北陸新幹線開業後、国内でも北陸旅行がブームになっています。金沢、富山、能登や、五箇山・白川郷などの世界遺産に外国人旅行者が押し寄せています。 【問】第二のゴールデンルートがドラゴンルートだとすれば、第三のゴールデンルートは北海道・東北方面のルートでしょうか。北海道新幹線の開業が来春2016年3月と間近になりました。 【答】これから大事になってくるテーマが、インバウンド(訪日外国人)市場の盛り上がりをいかに東北に波及させるかです。幸いにして、日本全国に新幹線網が広がっています。東京を起点に2時間30分あれば、関西・北陸、東北もある程度の所までは行けます。東北は観光資源の宝庫です。自然、歴史、文化、食、温泉など、観光に欠かせない要素のすべてを備えた第一線級の観光地です。 【問】奥入瀬渓谷や十和田湖もあります。あの紅葉の美しさを外国人旅行者が見たらびっくりすると思います。 【答】そこに外国人旅行者が行かないわけがない。函館から青森に南下するルートがゴールデンルートに対抗する新たな有力観光周遊ルートになると考えています。 外国人旅行者は、震災で大被害を受けた東北への旅行を遠慮しているところがありますが、東北のお客様は外国人旅行者に来てほしいと思っています。一方、東北の人たちの中にはいまだに苦しんでいる人もいます。2016年、震災から5年の節目として震災を風化させない、東北を忘れない、福島を忘れないという思いを込めて、JTBグループをあげて東北のキャンペーンをやるつもりでいます。東北、福島の人たちと一緒に正しい情報を内外にきちっと発信していきます。北陸新幹線が開業して、首都圏だけでなく東北からも北陸に行きやすくなりました。この冬は北陸の良さというものを首都圏エリアから東北エリアの方々に知っていただくいいチャンスです。 【問】2015年1~10月の訪日外国人旅行者数は、前年同期比48.2%増の1631万人超えと通年で過去最高だった14年の1341万人を更新。年間1900万人台に達する見込みです。訪日外国人急増の背景をどうお考えですか。 【答】円安に加えて、ビザの発給要件の緩和が大きかった。それから、免税店が急激に充実しています。これは爆買いを支えるインフラです。今、免税店はすごいです。政府は2020年までに2万店の目標を掲げていますが、既に1万9千店と間違いなく目標を超えます。この流れは地域にも及びます。当社は地域の旅館や商店に「外国人旅行者がどんどん来るようになってからでは遅いので、早く免税制度を申請して受け入れ準備をして下さい」とお願いしています。 グローバル事業枠組み構築でシェア拡大を…各国の習慣にも配慮 【問】御社の訪日外国人旅行者取り扱いのシェアはどのくらいですか。 【答】当社のシェアは15%くらいです。この結果には満足していません。というのも、当社は他社が持っていない強みを持っています。発(はつ)地ではグローバルネットワークを持っており、受(うけ)地ではきちっと受け入れるだけの体制を整えています。訪日外国人はどんどん伸びていますが、その内の4人に一人は中国人旅行者です。当社は中国において、中国政府公認の旅行エージェントですが、中国公認の外国の旅行会社は世界でJTB、アメックス、TUIの3社だけで、当社にはそういうアドバンテージがあるのです。そういったことを踏まえ、東京オリンピック・パラリンピックの2020年までに30%を目指します。 【問】2020年東京オリンピック・パラリンピックで日本に関心が向いている時ですから30%は固いのでは。 【答】いえ、高い目標です。現在はJTBグローバルマーケティング&トラベルが、フル稼働で訪日外国人対応をしていて、前年比150%以上というすごい伸びを続けているのですが、それでもシェア30%にはまだまだ届きません。訪日外国人、例えば、中国人旅行者が航空券や日本での宿泊先を確保する場合、中国のエージェントや海外のサイトを利用することが多く、当社をはじめ日本の旅行会社は十分に中国人の需要を取り込みきれていません。中国人は現地の中国系の旅行会社を通じて日本に来て、日本での手配も中国系が行っています。日本の旅行会社のネットワークに取り込めていない中国の人たちがものすごく多いのです。従って、シェア30%は高い目標ですが、実現に向けて強力に推進していきます。 【問】中国の旅行者の中では富裕層がターゲットでしょうか。 【答】そうです。日本でもお金が安ければいいという低価格志向のお客様と、少々お金が高くてもいい旅行がしたいという品質志向のお客様がいます。それは中国も同じです。確かに、中国人旅行者は爆買いに象徴されるように買い物中心です。せっかく日本に来たのに1日中ずっと買物に回って宿泊も食事も簡素な低価格で粗悪なツアーもあります。日本食を食べたかった、旅館に宿泊したかった、温泉に入りたかった、自然・景勝地観光をしたかったといった声が中国人旅行者の間にあります。これから個人ビザ発給要件の緩和で個人ベースの中国のお客様が増えていきます。個人で来られる富裕層をどう取り込むかが中国戦略の最大のテーマです。 【問】訪日外国人の取り扱いを増やすためにはグローバル事業の展開が欠かせません。どう推進していきますか。 【答】今までは、日本のお客様を海外にお連れする、海外のお客様を日本に訪日外国人として呼び込んでくる日本発・日本着という日本中心のビジネスモデルでしたが、当社は日本以外のマーケットで最終的に世界発・世界着というビジネスモデルを作り上げようとしています。世界発・世界着というのは日本を経由しないビジネスモデルです。例えば、アメリカの拠点からアメリカのお客様を中国へ、中国の拠点から中国のお客様をヨーロッパへお連れするというものです。 今、世界500のネットワークを活用して世界発・世界着の旅行を広げて、現地の人たちに日本以外の国へ旅行してもらうサービスの強化をはかっています。そのために現地の有力会社を買収しています。例えば、2014年、スペインのヨーロッパ・モンド・バケーションズの株式を取得しました。スペイン語のスペインツアーの旅行会社です。また、中南米に当社が買収した関連会社があり、中南米発でスペインのヨーロッパ・モンド・バケーションズで受けるのですが、これはほとんど日本人が関与しないビジネスです。M&Aをこれからも必要に応じて進めて行きます。地球を舞台にあらゆる交流を創造し続け、地域戦略とグローバル戦略を加速させ、地域経済と国内旅行市場を活性化させます。そして、アジア市場における圧倒的ナンバーワンポジションを確立させます。 【問】訪日外国人が増える一方で、受け入れ体制の問題が指摘されています。現況をどう見ますか。 【答】ここに来て一気に環境整備が整いつつあります。例えば、外国人旅行者が日本に来て感じる不平・不満のトップがWi-Fi環境です。この環境が整備されていなかったために、街中を離れるとネット接続が出来ない、観光情報を得ることが出来ないといった問題が起こりましたが、今ではほとんど整備されています。多言語表示も進んでいます。空港や駅、主な観光地では、まちの標識などが英語、中国語、韓国語など複数カ国語で表示されています。それから両替問題です。日本の銀行は3時に閉まる、空港に行かないと両替出来なくて不便という問題があります。それを解決する手段として当社独自で両替用ATMを開発して主だったホテルや旅館に設置しました。両替用ATMを置く余裕がない宿泊施設には外貨両替を代行するサービスを始めました。日本の旅館の意識も相当変わってきています。ほとんどの旅館で外国人旅行者に対して「さあ、やるぞ!」という状況になっています。 おもてなしを標榜する国であれば、外国人旅行者が日本に来て困っていることは解決していかないといけません。例えば、ハラル対応です。ビザ発給条件の緩和でインドネシア、マレーシア、シンガポールなどムスリム(イスラム教徒)が多数派を占める東南アジアからの観光客が急増すると予想されます。イスラムの人たちは豚肉を食しません。アルコールもたしなみません。お祈りするスペースが必要です。そうしたことにきちっと対応することがリピーターの増加につながります。日本人が海外で日本語表示を見て「日本人旅行者を大事にしてくれている」と感じるのと同じことです。それがおもてなしの一番の入口です。既に訪日外国人の4割から5割くらいがリピーターです。新規だけでは実現が難しい訪日外国人2千万人、3千万人もリピーターを増やす努力を欠かさなければ実現可能となるでしょう。 (聞き手・QUICK情報・コンテンツ本部 岡村健一) <高橋広行氏略歴> 1957年徳島県生まれ。79年関西学院大学法学部卒業、日本交通公社(現JTB)入社。2001年JTB西日本エース事業部長、03年高松支店長、05年広島支店長、06年JTB中国四国取締役広島支店長、07年同常務取締役広島支店長、10年JTB取締役旅行事業本部長、12年JTB西日本代表取締役社長、14年6月JTB代表取締役社長。

「中国経済は『中進国の罠』にはまるか」丹羽連絡事務所・中島精也氏

話し手:丹羽連絡事務所 チーフエコノミスト 中島精也氏(※本記事は2015年12月10日にQUICKで配信された記事です) 【景況判断】現状(3カ月前比):やや良い 先行き(3カ月後):やや良くなっているGDP予測:15年度0.9% 16年度1.1%【金 利】短期:TIBOR3カ月 0.17%長期:10年物新発国債 0.35%【円 相 場】 125円/1ドル【株 価】22,000円/日経平均*GDP予測値は実質GDP成長率、前年比%*長短金利、円相場、株価は3カ月後(2016年3月末)の予測値 1.景気見通し:「回復はするものの力強さに欠ける」 本年7-9月期のGDPの伸びは前期比-0.2%、年率-0.8%と2四半期連続のマイナス成長だった。定義によれば日本経済は景気後退入りしたことになる。しかし、需要項目の中身を見ると、在庫投資の成長寄与度が-0.5%と大きくGDPの足を引っ張った。在庫のマイナスを除けば前期比0.3%、年率1.2%成長となるので、これが実感に近い。あまり表面的な数字に振り回されることはない。ただし、今年4月以降の景気指標の動きを振り返ると、正直言って期待はずれであったのは否定できない。 第1に消費の回復が鈍い。雇用は10月の雇用者数が5,704万人で前年同期比1.3%プラスの75万人増。失業率も3.1%の低水準に改善している。それなら労働需給の逼迫で賃金が上昇しなければならないが、そうなっていない。10月の所定内給与の伸びはわずか0.1%、その他の残業代や特別給与が押し上げても、現金給与総額は0.7%の伸びに過ぎない。幸いと言って良いのか、消費増税効果の一巡から物価の伸びが落ち込んだために、実質賃金は0.4%とプラスだが、消費を支えるに迫力不足は否めない。 第2は輸出の弱さである。10月の輸出数量の伸びが-4.6%と、実に本年5月以降プラスの月がない。円安で輸出増を当てにしていた当局は全く当てが外れてしまった。円安でも企業はドル建て価格を下げないので、輸出数量が伸びないのは道理だ。結局、円安による為替差益で輸出企業が潤うだけだった。それならもっと賃上げを、と安倍政権のイライラが増すのみである。 鈍い消費と弱い輸出を考慮すれば、第3に企業が設備投資に慎重な姿勢を取るのはうなづける。結局、安直にマクロ政策で設備投資を刺激しようとしても、成長期待が高まらなければ、企業は投資をしない。アベノミクス第3の矢「民間投資を喚起する成長戦略」をスピード感を持って果敢に実行するしか手はない。景気は緩やかな回復軌道を辿ると思われるが、力強さに欠けるのが問題だ。 2.金融環境:「日米ともに金融政策の大幅な変更は予想し難い」 12月15?16日に米連邦公開市場委員会(FOMC)が開かれるが、11月の雇用統計は非農業雇用者数が前月比21万1千人増と好調持続を示したこと、またイエレンFRB議長が「FOMCは年内の利上げが適切だと指摘してきた」と利上げを強く示唆しており、利上げという出口戦略第二幕がスタートするのは間違いない。市場の関心は既に年明け後の利上げペースに移っている。FRBの2つの使命の1つである雇用の最大化は達成されているが、もう1つの物価の安定についてはPCEデフレーターが1.3%の伸びと2%目標から大きく乖離しており、賃金の伸びが加速しない限り連続利上げとは行かない。よって、ドル高の進行は限定的だろう。   FOMC翌日の12月17-18日には日銀政策決定会合が開かれる。これまで黒田総裁は「先行きは好調な企業業績から設備投資も緩やかに増加し、消費も雇用・所得環境の着実な改善で底堅く推移する。期待インフレは長い目で見れば上昇する」と景気、物価共に強気の見方を述べており、額面通りに受け取れば、追加緩和はないということになる。しかし、昨年10月31日に期待インフレの低下を回避するとして、突然の追加緩和(バズーカ2)に踏み切った事例もある。今回、日銀が動かないとなると、むしろ円高に振れるリスクもある。それを回避するため、何らかの小規模な政策変更、例えばJ-REITやETFの購入規模の増大などは心積もりしておいたほうが良さそうだ。いずれにせよ、日米ともに大きな金融政策の変更は考えにくいので、円相場も一気に130円を目指すような劇的な動きは予想し難い。 3.注目点:「中長期的に正念場を迎える中国経済」 中国の今年7~9月期のGDPは前年同期比で6.9%と、ついに7%割れとなった。低調な中国経済が続いている根本原因は地方政府の過剰債務、国有企業の過剰設備、その両者に貸し込んでいる銀行の不良債権にある。振り返ると、リーマンショック後の4兆元の景気刺激策が地方経済に大きな歪みをもたらした。景気対策に必要な資金は地方政府傘下の融資平台が債券を発行して集めた。また、信託会社は購入した融資平台債券を裏付けとした理財商品を組成して投資家に売却した。この悪名高きシャドーバンキングを通じて得られた資金が採算性を度外視して、不動産開発、造船、鉄鋼などの投資に回った結果、地方経済のバランスシート悪化は深刻化し、今後数年間はバランスシート調整で景気回復が望めない。  加えて長期的視点から中国経済がいわゆる「中進国の罠」に直面している点を指摘しなければならない。中国経済の発展は安価で豊富な労働力を武器に先進国から直接投資を呼び込んだことで説明される。国内の労働力の高い伸び、外資に依存した資本ストックの急増、外資に付随する高い技術による生産性の伸びの3つが中国の高成長を実現させた。しかし、一人っ子政策の影響で、今後は労働力の伸びはマイナスへ転換する。外資も2000年比6倍にも跳ね上がった賃金や元高を嫌気して、ミャンマーやベトナムなど新天地に向かっている。そうすると、外資依存の技術や生産性上昇にも限界が出てきた。 これまで多くの後進国が中進国(中所得国)までは発展するが、先進国になれなかったのは、外資依存の成長モデルに安住して、自前の独創的な技術開発に成功しなかったからだ。同じような道を歩んで来た中国は今、正に「中進国の罠」に直面しようとしている。決して楽観視できない。国際競走に勝てるだけの技術開発力を有する国へ変身できるか否か、これからが中国経済の正念場と言えるだろう。 <中島精也氏略歴> 1947年生。72年横浜国立大学経済学部卒、伊藤忠商事入社。日本経済研究センター出向、独ifo経済研究所客員研究員(ミュンヘン駐在)、九州大学経済学部大学院非常勤講師、伊藤忠商事チーフエコノミストなどを経て、2015年4月より現職。著書に「傍若無人なアメリカ経済」(角川新書)、「グローバルエコノミーの潮流」(シグマベイスキャピタル)、「アジア通貨危機の経済学」(共著、東洋経済新報社)。日経産業新聞「眼光紙背」に寄稿、ifo経済研究所”World Economic Survey”のメンバー、PHP総研のグローバルリスク分析プロジェクトのメンバーなど。

「再誕から躍進へ『全社員が営業マン』で攻めに転じる」長谷工コーポレーション・辻範明氏

平成バブル崩壊の負の遺産に屈することなく、倒産危機を乗り越え、復配、優先株の消却・全額償還を果たし、業績回復を成し遂げたマンション建設最大手の長谷工コーポレーション。辻範明社長に苦しい時代を乗り越えたポイントや今後の展開を聞いた。※本記事は2015年10月21日にQUICK端末で配信した記事です。 長谷工再建、裏側には決死のプロジェクト 【問】まず、再建までの道のりをお教え下さい。 【答】当社は1995年3月期に初の連結赤字に転落して、オーナー社長のもとで自主再建に取り組みましたが、残念ながら断念することになり、1999年5月から本格的なリストラに入りました。経営陣の体制も建設省(現国土交通省)から来られていた嵩聡久(だけとしひさ)さんが社長に、大和銀行(現りそな銀行)から再建支援で来られた岩尾崇さん(故人)が副社長に就任し、主力金融機関である大和銀行(現りそな銀行)、日本興業銀行(現みずほ銀行)、中央三井信託銀行(現三井住友信託銀行)からも1名ずつ来られて、再建がスタートしました。 当時は、首都圏で大規模マンションが出始めた「はしり」の時期で、マンション市場全体は好調に推移していました。当社の業績も好調に推移し、2007年3月期は連結経常利益で過去最高益(630億円)を記録しました。そのタイミングでは優先株の償還が出来る状態に辿り着いていました。しかし、2008年リーマンショックで流れが一気に変わってしまい、また苦しい時期が続くことになりました。  前任の大栗育夫社長(現会長)のもとで2012年4月から中期経営計画(4N計画)がスタートし、残り400億円の優先株を期間利益で全額償還するという大目標を立てました。マンション業界は苦しい時期ではありましたが、2013年にブライトンホテルや横浜のビルなど保有資産が売却出来たことで資金を回収することが出来ました。アベノミクスの影響だと思いますが、他のゼネコンが、公共工事や民間の一般工事の受注が増える中で手間のかかるマンション工事から少しずつ手を引き始めたため、当社への工事依頼が増えていきました。その結果、2014年3月期は3000億円の受注目標を立てていたのですが、中間決算時に3500億円に上方修正することになり、最終的には3600億円超の受注を確保することが出来ました。受注の材料も積み上がってきたことから、2015年3月期と2016年3月期の決算がほぼ見えてきました。そこで、2014年2月に優先株の全額償還と復配を決めました。 【問】再建完了と同時に社長にご就任されました。 【答】2014年という年は創業者の長谷川武彦氏の生誕100年の年です。創業者の生誕100年を迎えた年に、当社は再生して再誕しました。これも何かの縁なのかと思います。  社員には「修羅場、土壇場、正念場の3つの場を役職員全員で乗り切った」というメッセージを送りました。1995年に赤字に転落し、自主再建の期間中には多くの社員が給与カットされました。それでも立ち行かなくなって、債務免除を柱とした経営再建が1999年から始まり、本格的なリストラに入って一段と社員の処遇は抑えられました。そのような中で、辞めないで皆で歯を食いしばって力を合わせて苦難を乗り切ろうと努力してきました。私の部下が「再建中の会社だから道の真ん中を堂々とは歩けないけど、道の端っこを上を向いて歩こう」とよく言っていました。その時の頑張りがあったから今があると思っています。 【問】インタビュー直前、長谷工ビル1階の来客コーナーに立ち寄ってきました。とても明るい雰囲気ですね。 【答】苦しい時期でも1階の来客コーナーは打ち合わせの声で賑わっていました。来社したデベロッパーにも「これなら長谷工はつぶれない」と思ってもらえたかもしれません。 【問】再建の時のことをもう少しお聞きします。今、振り返っても壮絶な再建だったのではないですか。例えば、どのような時に辛いとお感じになりましたか。 【答】しんどいことはたくさんありました。当社は、マンションの用地情報を取得して、その土地をデベロッパーに買っていただき、マンションの建設工事を特命で請け負うという、通常の建設会社とは異なるビジネスモデルを持っています。土地を押さえないと仕事に結びつきません。土地の契約内容は、例えば、2割の前金を払って3カ月後に残りの8割を払うというもので、3カ月の間にデベロッパーを決めて土地をスイッチ出来なければ、2割の手付金を放棄することになります。そんなことをすれば信用を失い経営が一段と悪化します。当時は決められた融資枠がありましたから新たな土地契約も出来なくなります。会社がつぶれるかもしれません。まさに時間との戦いです。「絶対決める!」と意気込んでやっていました。それでも、残金決済1カ月前になってもスイッチ先が決まらないことが何度もありました。盆が明けたらもう10日しかないのに8月末の残金決済が決まっていないから夏休みがない。新年を迎えようとしているのに1月末の残金決済が決まっていないから正月は休んだ気がしない。毎日追いつめられていました。  大船駅前(神奈川県)で1500戸という大規模なマンション用地を取得した時は、毎日胃が痛くてほとんど寝られませんでした。当時、1000戸以上の物件は関東圏にはありません。かつてない規模なので3社のデベロッパーと勉強会を重ねてきました。ところが、土地を取得した後に、2社から「立地は申し分ないがやめる」と言われてしまったのです。土地契約はしているからもう真っ青。残った1社をベースに奔走して必死に営業をかけ、何とか引受先を見つけました。 【問】よく決まりましたね。 【答】もう決死の覚悟でした。残った1社と当社だけでは決済出来ない。当社がつぶれる可能性もある。皆、会社がそういう状態にあることがわかっているから必死です。ただ、必死でも悲壮感を持って相手先に行くとなかなか決まりません。売値はいいが1500戸という規模に相手がリスクを感じていたら、その不安を払拭するような勢いで営業は訪問しないといけません。営業部隊を全員集めて、「この土地は絶対デベロッパーが買ってくれる。この売り値であればデベロッパーは買ってくれる。そういう信念を持って『土地を押さえました』、『大丈夫です。絶対売れます』と売り込みに行きなさい」と檄を飛ばしました。それで相手の窓口に営業が売り込みに行きます。そうすると「感触はそう悪くない」、「この会社はやってくれるかもしれない」という見込み先がぽちぽち出てきました。相手が当社の案件を上にあげたら営業の上司が行く。相手がさらに上にあげたら営業の上司の上の者が行く。役員の私も行く。そうやって相手を説得していきました。工期を分けずに一発で着工して販売も行いましたが、当時の売り値が20坪で2700万円くらいと割安感があったところに営業の努力もあって、売り出すたびに売れるという好結果が続き、予定通り1500戸すべてが完売しました。 【問】大船でのご成功は印象に残るプロジェクトになりましたね。 【答】そうですね。当時の私は取締役事業部長という営業の責任を負っていました。株価が50円を切り、13円をつけたこともあり、そのような時にどのようにして工事をいただくか、これが一番しんどかった。普通であれば当社に発注してくれない。土地を取得する時に50億円くらいまでであれば何とかなりましたが、当時は大型のマンション用地が出てきており、土地代が1物件で200億円くらいしました。その時代に腹をくくって取得した土地が2000年くらいからの大規模マンションブームの走りになりました。その象徴とも言えるのが大船プロジェクトです。豊洲のプロジェクトも全体で1500戸あり、2つを同時に走らせながらデベロッパーにスイッチ出来たことが一番印象に残っています。 増収増益、マンション工事受注も好調 【問】次に、経営状況についてお聞きします。3期連続の増収増益です。 【答】工事量の増加や利益率の改善などにより増収増益となりました。利益率の改善は、労務価格が慢性的な労働者不足などによってリーマンショック前の水準まで戻った後、直近は比較的落ち着いていることや、施工効率向上の施策が奏功したことによるものです。  施工効率向上の施策について具体例をいくつかあげると、一つ目は、受注(着工)の平準化と先手の労務確保によって労務効率が向上したこと、二つ目は、物件の大型化によって資材発注で規模のメリットが効いたこと、三つ目は、竣工・引渡時期及び件数の集中が緩和した結果、突貫対応費が低減したこと、四つ目は、生産効率向上のための省力化工法や工業化工法(VH分離、基礎省力化工法)に取り組んだこと、などです。 【問】足元の受注も好調です。 【答】売上高の先行指標となる受注高についても好調に推移しています。2015年3月期の期初は4000億円の目標でスタートしましたが、第2四半期で4400億円、第3四半期で4600億円に上方修正し、4642億円で着地しました。2016年3月期も同水準の勢いで4700億円を予想しています。受注の中身は2013年の初めから変わってきており、土地持ち込みによらない受注が増えています。例えば、野村不動産や住友不動産、三井不動産などメジャー7と呼ばれる大手不動産会社からマンション工事の設計・施工を発注いただくケースが増えました。当社のビジネスモデルである「土地持ち込みによる特命受注」と「逆輸入(土地持ち込みによらない受注)」の比率は2014年3月期がおよそ55:45、2015年3月期はさらに逆輸入が増えて45:55、2016年3月期は30:70まで逆輸入が増加する可能性があります。その理由は大きく2つあります。ひとつは、橋や道路、オフィスビルを手掛ける他社ゼネコンが、手間がかかるマンションの工事を請けたがらないということに加えて、マンション以外の工事が増えてきたためマンション事業から撤退していったからです。もうひとつは、当社はマンション専業でずっとやってきていますから、昔から苦しい時でもついてきてくれた協力会社の下支えもあって工事費が安定しているからです。そのため、工事費は急激な変動にさらされず、他社ゼネコンと比べて低価格で出来るのが当社の強みです。 【問】入居後のクレームにはどう対応していますか。 【答】一般のマンションではクレームが発生すると事業主や管理会社を通して施工会社に連絡が入ります。これでは一刻も早い対応を求めるお客様の納得は得られません。そのため、マンションのつくり手である当社が直接対応する仕組みを模索し、2008年にはお客様からのご要望やご相談などをダイレクトに受け付ける長谷工プレミアムアフターサービスを開発し、スタートさせました。1級建築士などマンションのことを知り尽くした専任のスタッフが対応し、対応した内容はコールセンターの記録に残し、見える化して水平展開することで改善につなげています。一つの作業所で起きたクレーム内容を他の作業所も共有することで同じクレームが発生しないようにしています。また、当社の設計部隊や技術開発部隊にもフィードバックされ、クレームにつながりにくい材料選びや工法の開発などに役立てています。当社のマンションは他のゼネコンと比べてクレームが少ないとデベロッパーから評価されています。 「マンション専業」の強み…国内外の事業展開にも優位性発揮 【問】では、国内事業の展開についてお教え下さい。まず、どんなマンションを提供していきますか。 【答】当社では、長期優良住宅認定マンションや低炭素建築物認定マンションなど、国土交通省の施策には先頭を切って前向きに取り組んできました。マンション向け家庭用燃料電池「エネファーム」の初採用や、長谷工アネシスによる高圧一括受電事業を本格化させるなどエネルギー対策にも積極的に取り組み、「Be-liv」(広い住空間と多彩なセレクトオプションを創出)、「Be-Next」(基本性能の充実、可変性、環境や防災の3つのコンセプトを持つ)など新しいマンション企画を提案しています。今後も省エネルギー関連、次世代マンション、次世代生産システムの開発に積極的に取り組んでいきます。当社の原点であるモノの作り方を設計段階から整理し、出来るだけ同じ材料、同じディテールで納めながら、デベロッパーによって違う仕様・外観に合わせた商品に仕上げていくことでコストを抑えていきます。普通のサラリーマンが買える安心・安全で快適なマンション作りをこれからも続けていきます。 【問】施工戸数は累計でどのくらいになりましたか。 【答】昭和43年に自社施工の第1号マンションを着工以来、施工戸数は57万戸を超えました。この数は国内最多で、分譲マンションのストックの約1割に相当します。首都圏・近畿圏の供給数に対する当社の施工戸数のシェアも30%近くになっています。当社は、マンションというひとつの居住形態を広く普及させ、業界に先駆けた技術開発で今日の日本のマンションのスタンダードを築いてきました。 【問】日本の住宅作りにものすごく貢献されているのですね。 【答】ありがとうございます。民間の住宅公団だと言われた時もありました。  【問】これだけ多くのマンションを建設してきました。今後はストックの分野が大きな事業になりますね。 【答】そうです。長期的な成長についてはフローとストックの2本柱の確立と思っています。フローは長谷工コーポレーションの建設事業、ストックはサービス関連事業として位置づけています。建設事業は2020年東京五輪以降に落ち込むとみています。サービス関連事業の強化は絶対に必要です。サービス関連事業では、分譲マンション管理、賃貸マンション管理、高齢者向け住宅、リフォーム、マンションの買い取り再販事業などが核となります。  あの厳しいリストラの時代、長谷工コミュニティや長谷工ライブネットなどストック系で利益貢献できる会社の売却話も持ち上がりました。今から思えば、売却にまで至らなかったことは本当に幸いでした。 【問】フローとストックのポートフォリオをどうお考えですか。 【答】ストックビジネスは地道な事業で一気に伸びることはありませんが、フロー2に対してストック1くらいが一番いいと考えています。今年度からアネシスグループにストック関連子会社を集約しましたが、それぞれの会社の利益水準を上げていくことが重要だと考えています。 【問】超高齢化社会を睨み、シニア、シルバー向け住宅ビジネスに積極的です。 【答】全国の高齢者人口は2040年頃まで増加の一途を辿る見込みです。長谷工グループとしても優良な「高齢者向け住宅」、「介護関連サービス」を提供していきたいと考えています。2020年頃まで市場は急拡大するものの、その後拡大スピードは徐々に緩やかになると見込まれることから、これからの10年間を事業拡大の重点期間と考えています。2013年に生活科学運営(高齢者向け住宅を運営)をM&Aし、当社グループの一員に加わってもらいました。生活科学運営、センチュリーライフ(高齢者向け住宅を運営)の運営施設数・在宅介護拠点数を拡大していきます。規模の拡大とノウハウ獲得の促進を図るためにM&Aや事業提携も視野に入れています。 【問】東日本大震災でも大きな影響はなく震災に強いと評判です。 【答】2011年3月末に竣工引き渡し予定のマンションが多かったのですが、震災によって引き渡しを遅らせた物件はひとつもなく、建物自体の被害も少なかったおかげでデベロッパーからもおほめの言葉をいただきました。これまでマンショントップメーカーとして決して華美ではないが品質確保や技術開発に先駆的に取り組んできたことでしっかりとした対応は出来ていると自負しています。 【問】地方戦略はどう展開していきますか。 【答】サービス関連事業を地方中核都市に展開することは常に検討しています。ただし、限られた戦力をどの地域に投下するかといった優先順位の問題もあり、グループ各社ごとに進出状況は違っています。建設関連事業の展開については、協力会社の確保が必須であり慎重な判断が求められますが、情報収集は継続的に行っています。 【問】海外事業はどう展開していきますか。 【答】米ハワイでは、オアフ島西部エバ地区で住宅建設、分譲事業を推進しています。今後、住宅事業と並行して、地区内のリゾート・商業エリアの事業の具体化を図るべくプランを検討中です。ベトナムのハノイでは、現地企業との共同開発のサービスアパートメント、HASEKO・HIMLAMBC CT1計画(ハノイ市ロンビエン区、総戸数110戸、竣工予定2017年2月)を着工しました。今後は、当社が日本で展開している分譲マンションの企画から設計・施工、販売、管理までの一貫した事業をベトナムにおいても展開すべく、「HHCT1」をショーケースとして活用し、ベトナムおよび日本の事業主への提案営業を行っていく予定です。 【問】御社のマンション建築における優位性は当面続くと予想されています。御社の対抗馬がなかなか出てきませんね。 【答】他社ゼネコンは、マンション建設だけでなく、ビル建築、道路工事などいろいろな仕事をされています。不動産を買う資金力はあっても土地の相場観やマンションの売値がわかる営業マンは育ちません。一方、当社はマンション専業でやっていますから情報が社内にすぐ行き渡ります。大きな仕事を受注すると、開発、設計、建築、販売、管理などグループ会社を含めて各担当者は、誰が受注したのか、いつ頃自分のところに仕事が流れてくるのかがわかります。各部門間で同じレベルの会話が出来るようになります。社員には、土地売買から設計、建築、マーケティングなどマンションに関する豊富な知識と経験があります。社内の一体感とあわせて協力会社も一体感を持っています。デベロッパーから「長谷工の現場と協力会社の協力体制は群を抜いている」とほめられることがあります。私は協力会社も同じ長谷工グループだと思っています。このようなゼネコンは他にはありません。マンション専業でやってきた会社とそうでない会社とでは自然と力の差が出てきます。他社が当社スタイルを真似して事業展開するのは容易なことではありません。 【問】社員と協力会社の頑張りが業績回復の源になる、グループ内でも信頼感のある人間関係を築いていくことが長谷工の次につながる、ということですね。 【答】そうです。先程申し上げた通り、当社はマンション事業に特化しています。マンションで失敗したら会社がつぶれるかもしれませんから、社員も協力会社も、どうすれば売り上げを伸ばせるのか、どうすればコストを抑えることが出来るのか、どうすれば品質や施工精度を高めていけるのか、そういうことを日々検討し、勉強会を開催し、切磋琢磨しています。そこに当社の強さがあります。マンション特化という一本足打法には怖さもあり強さもあるということです。 【問】マンション事業の好調はいつまで続くとお考えですか。 【答】建設業界は、2020年東京五輪までの間に踊り場はあるにしろ、右肩上がりだと言われています。マンション市場がどうなるか予測することは難しいのですが、環境の変化に持ちこたえられる会社にするのが私の仕事だと思っています。昨年度、新中期経営計画「Newborn HASEKO」(NB計画)をスタートしました。それぞれStep、Jumpの頭文字をとって最初の3年(2015年3月期~2017年3月期)をNBs計画、続く3年(2018年3月期~2020年3月期)をNBj計画としています。優先株は償還し終えましたが、まだ自己資本が薄いため、前半NBsの3年間は自己資本の充実を図ってリスクにも耐え得る財務体質を目指します。後半NBjの3年間はM&Aを含めて攻めの姿勢で行く考えです。 長谷工株価データ 社員との対話を通じて攻勢へ 【問】社員との対話を重視されています。 【答】2010年にグループのサービス関連事業を統括する長谷工アネシスの社長を兼務することになり、同社の社員全員と話す機会を設けました。夕方、会議室でミーティングをした後、近くの中華料理店に行って酒を酌み交わし、意見の吸い上げを図りました。1回30人くらいのローテーションで2年半かけて1850人全員と対話しました。夜は、接待などで予定は詰まっており、ところどころ空いているスケジュールに埋めていきましたから2年半休みゼロでした。  いろいろな発見がありました。例えば、当社のコマーシャルを作りませんかという20代の若手社員の意見です。B TO B事業を行う当社にはテレビCMは必要ないと考えていましたが、B TO C事業を行うグループ内の長谷工コミュニティや長谷工リフォームなどはお客さまとダイレクトに接していますから、かれらを応援するテレビCMを製作することを決めました。愚直に頑張って仕事をしていますという感じが出ている長谷工らしいCMと思っています。 【問】出演者は社員の方々ですか。 【答】お客様の役以外は全員が社員です。元プロボクサーの内藤大助が出演していますが、大助は私の直属の部下でした。チャンピオンになったことを記念して皆でお金を出し合ってガウンを作りました。真面目な性格で、そのガウンを着て最後までリングにあがってくれました。今後もB TO C事業関連のグループ会社のCMはやってみたいと思っています。 【問】「社員全員をグループ全体の営業マンに育てる」とおっしゃっています。 【答】大きな企業になればなるほどグループ会社が何をしているのか話が出来ない社員が多くなります。これでは困ります。些細なことからマンションの購入やリフォームの話に広がることもあるからです。当社は生活に密着している企業グループです。住まいについてお客様に聞かれたことは答えられるようにしておかないといけません。5000人を超えるグループ社員全員がそういう意識で行動したら大きいです。ビジネスチャンスが広がります。  例えば、当社グループの販売会社で良い事例がありました。東京の長谷工アーベストの販売担当者に、マンションを購入いただいたお客様から、1年後に大阪の土地売却の相談が入り、当社大阪の不動産部隊につなげたことで翌年の土地契約に結びつきました。常日頃のお客様へのしっかりとした対応で信用を得て、自社以外のグループの仕事も意識したことが成果に結びついたのだと思います。  社員全員がグループの営業マンになるための取り組みは、今後3年間で徹底的に進める予定です。Eラーニングの実施やパンフレットの作成などで徐々に形になってきています。今は自己資本を積み上げて体力を増強することに注力していますが、守りだけでは勝てません。いずれ勝負をかけなければなりません。サービス関連事業を盤石なものにするためにも「社員全員がグループの営業マン」は重要な鍵になると思っています。 (聞き手・QUICK情報・コンテンツ本部 岡村健一) <辻範明氏略歴> 1952年岡山県生まれ。75年関西大学法学部卒業後、長谷川工務店(現長谷工コーポレーション)入社。99年取締役、2005年代表取締役専務執行役員、10年代表取締役副社長兼長谷工アネシス代表取締役社長などを経て14年4月より現職。趣味は写真撮影、ゴルフ。

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