銀行営業の凄腕たち【Episode1】差別化難しい為替はアイデア勝負

金融営業の凄(すご)腕たちは、銀行にもいる。三井住友銀行で市場営業推進部の副部長を務める松本興治さんは、機関投資家や事業法人などの顧客に外国為替に関連する商品を提供する為替営業のスペシャリストだ。1998年からのキャリアは既に20年を超える。市場参加者が極めて多く、様々な要因で動く外為市場で生き残るには冷静な状況分析と決断力が欠かせない。穏やかな表情で的確に言葉を紡ぐ松本さんの顔には、顧客からの信頼の厚さがにじみ出ている。 三井住友銀行 松本興治氏 まつもと・こうじ  1993年慶大卒、同年4月にさくら銀行(現三井住友銀行)に入行。98年から為替営業に携わる。2011年よりシンガポールに駐在し、19年4月に帰国して市場営業推進部の副部長。父も銀行員で幼少時を海外で過ごした   誰よりも早く顧客ニーズを発掘 ――そもそも、為替営業とは何ですか。 「為替(直物と先物)と外貨預金、デリバティブ(金融派生商品)を顧客に販売します。主に取り扱っているのは為替先物で、顧客が指定した期日にドルと円を交換するものです。輸出企業であればドル売り・円買いとなります。さらにデリバティブを組み込むことで多様な為替リスクヘッジ(差損回避)のニーズに対応しています」 「銀行らしく顧客の業種は様々で、機関投資家、総合商社、その他事業法人など多岐にわたります。海外取引に関わる非常に多くのお客様に取引していただいています。規模も大企業から中堅・中小企業まで様々です。海外に進出する顧客が増えているので、それぞれの国で発生する現地通貨での為替変動リスクなどもろもろのエクスポージャー(リスクの度合い)をどう管理すればいいかなどを提案しています」 ――為替は株のように銘柄の数で勝負できない分、商品の差別化は難しいように見えます。 「さらにいえば相場動向などメディアやソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)で情報があふれている分野を扱うため、単純に『こんな商品があります』と売るのではまったく違いは出せません。提供できる商品やプライスに他行との差はほとんどないので、差別化は確かに難しいです。とすれば、同じ為替予約でも、顧客が本当に求めているニーズがどこにあるのかをいち早く正確に把握することが重要になります」 「駆け出しのころは数多くの商品をひたすら説明し、顧客に選んでもらっていました。当時の上司からは『お客様のニーズに沿う商品は何なのか、自分で仮説を立ててから提案しなければだめだ』と叱られたのを覚えています。ただあるとき、『支払いも受け取りも円だから為替リスクはない』と言うお客様の話をよく聞いてみると、毎月の円の支払金額が変動していることに気づきました。ドルを円換算して支払っているだけだったのです。これでお客様のニーズに沿った提案ができると悟れた気がします」 「そこで支払いの『建値』を円からドルに変え、為替リスクを管理できる仕組みを作りました。シンプルといえばシンプルな営業ですが、顧客とじっくり対話をしていたからこそだと思います。複雑にみえるデリバティブの営業もその延長線上にあるのです」 年始の円高、指し値注文に再び脚光 ――最近の顧客ニーズに変化はありますか。 「年明けに一瞬、急激に円高・ドル安が進みました。最近は、相場が急変動したときでも対応できるよう、顧客にはリーブオーダー(指し値注文)を勧めるようにしています」 ――年初は「フラッシュ・クラッシュ」と呼ばれる円高方向への瞬間的な動きで、相場はすぐに反転しましたが、いずれにしろ「転ばぬ先のつえ」の認識は必要なんですね。 「相場はどう突き詰めても100%の正解はありません。だからリスクに備えましょうと語り続けることが大事です。1月以降、顧客の間ではリーブオーダーに対する意識が高まり、注文が増えてきました。このことが市場の厚みにもつながっているのではないでしょうか」 ――日本企業のアジア進出でアジア関連ビジネスが拡大しているのではないですか。 「シンガポールの駐在経験が長かったのですが、この8年間でアジア通貨のニーズが格段に増えたと感じます。シンガポールドルやタイバーツ、インドルピーなどの扱いが急拡大しました。肌感覚としてアジア通貨の取扱量は3倍くらいになっているのではないでしょうか。取り扱う通貨も8年前に比べると多種多様になり、新興国通貨の相場見通しや新興国の為替オペレーションの仕方に対する情報提供を求められることも増えました」 「ひところは長期為替やオプション付きの外貨預金など投資絡みも含めて複雑なデリバティブ商品がはやりました。ですが自分は、ヘッジ商品に限れば極力簡潔なほうがいいと考えています。顧客だって複雑な商品でないほうが安心できるはずです」 「仕組みを理解しやすくリスクを平準化した商品で、ヘッジ効果を最大限高めていく。アイデア勝負でこれからもお客様に最高の価値を提供していきたいですね」 〔日経QUICKニュース(NQN) 菊池亜矢、矢内純一〕 ※日経QUICKニュース(NQN)が配信した注目記事を一部再編集しました。QUICKの情報端末ではすべてのNQN記事をリアルタイムでご覧いただけます。

チャート、それは森羅万象を表すもの by 井上英明氏(シリーズ:ベテランに聞く)

「チャートは過去の出来事をすべて織り込んだうえでいまの位置にいる」。「筋金入りのチャーティスト」を自認する三菱UFJ信託銀行資金為替部の井上英明部長は自分がこれだと決めたチャートを追い続けることで相場を理解し、好成績を収めてきた。バブルの崩壊や金融危機などを無傷で乗り切るのは困難だが、井上氏は「森羅万象をあらわすチャートから相場動向を的確に語れるようにしたいといつも心がけている」と話す。【聞き手は日経QUICKニュース(NQN) 金岡弘記】 井上英明(いのうえ・ひであき)氏 1989年に三菱信託銀行入社、主に為替ディーラーとして東京やロンドンでキャリアを積む。2015年から3年間は秘書室長として市場業務から離れていたが18年に復帰 ■短期から長期まで、毎朝200以上に目を通す 外国為替市場に20年ほどかかわってきた。一時は欧米債投資や(年金などの)信託勘定の運用にも携わったが、為替トレーディングの経験が圧倒的に長い。若いときには手書きでチャートをつけた。現在は情報端末の画面上でいくつものチャートを開き、できるだけ細かくチェックする。 駆け出しのころ、社内に「ギャン・チャート」と呼ばれるチャート分析の日本における第一人者がいた。入行4年目から彼の指導を受け、長期休暇にも毎日徹夜で「宿題」をしなければならないほど徹底的にノウハウをたたき込まれた。 チャート分析で意識するのは「トレンド」と「日柄」(相場が上昇か下落を始めてからの日数)などで、手で書いて体に覚え込ませた。現在はビッグデータの時代だが、過去のデータ解析に重きを置きすぎるとトレンド把握の際には漏れが出てくると思う。 チャートの利点はすべての事象が価格に織り込まれていまの位置にいること。そこを意識してチャートを眺めると、次にどういったトレンドになり、どう推移するかがよく分かる。 カスタマーディーラーだったときはチャートだけで顧客を納得させるのは難しかった。チャート以外にも視野を広げ、機関投資家と輸出入企業の需給や金融政策、政治要因や地政学リスクなど相場の基本的な変動要因を頭に入れておいた。現在相場を動かしている材料や、まだ相場水準に反映されていないものの今後注目を集めそうなもの探し出し、チャートベースの基本予想に付け加えることで説得力を高めていく手法をとった。 この経験は大いに役にたった。判断基準をいくつか持つことは相場に飲み込まれないためには重要だろう。 いまも毎朝、最低200以上のチャートのチェックは欠かさない。最初は2週間分程度の時間足チャートで昨晩の海外市場や短期的なトレンドを把握する。次に1年分をみて短期トレンドの中の位置を確認する。最後に5年分の月足チャートで長期トレンドを理解する。 ただ実際には、長期トレンドをしっかりとらえるには5年では足りない。リーマン・ショックからでも10年がたつ。30年などのより長いチャートもあわせてウオッチすることで今後の予測につながる。 ■システム任せは危険 マーケットに関する法令上の規制が年々厳しくなり、市場参加者の顔ぶれはだいぶ変わった。以前は東京市場にも積極的にリスクをとる参加者が多く、緊張感や臨場感に満ちていた。一方、足元ではコンピューター経由の取引が主流。外資系金融機関ではスポット(直物)取引のディーラーを置かない会社もある。 コンピューターは平時は流動性を供給するものの、無用な損失を避けるためにあまり冒険できないセッティングになっている。何か異常事態が起こればいっせいに手を引き、すぐに市場が凍りつきかねない。日本時間の1月3日早朝7時30分すぎ、ドルの対円相場で起きた「フラッシュ・クラッシュ」(瞬時の急落)は象徴的だ。システム任せにするリスクは十分に考えておかなければならないだろう。 リーマン・ショックのように市場全体が混乱した際、誰が流動性を供給できるのか。人がやっていたことをシステム化し省力化するのは結構だが、リスクに対応可能な次の世代を育てる責任がわれわれにはある。システム化する一方で、人間が関わる余地は保っておかなければならないと考えている。 ■危機の時こそ相場を語るのがプロ 危機の時こそ相場を語れ。誰もが浮足立っているところで市場関係者として冷静に物事を語るのは難しいが、マーケットを生き抜こうとするならば避けては通れない。 記憶の中に2つの出来事が鮮明に残っている。まずは2001年の年末。円相場が1ドル=120円台から上昇傾向を強め、100円突破を試した。10人中9人は100円を大幅に超える円高になると予想していたはずだ。だが私はチャート分析で2ケタ台へ上昇せず反転すると確信し、顧客にも円安見通しを示し、的中させた。 もう1つはリーマン・ショック時にドルが対円で急落すると当てたことだ。1998年のLTCM(ロングターム・キャピタル・マネジメント)破綻に伴う危機(ドルは対円で暴落)を経験し、下げ相場では二番底が怖いと実感していた。リーマン・ショック時に一度円安・ドル高に振れたが、経験則と肌感覚から短期的に10円以上の円高になると思い国内輸出企業や外貨を持つ投資家などに円買い・ドル売りを促すメールを送った。間を置かずに円は急伸した。 自慢話をしたいのではない。危機の時に情報発信できないなんてプロとして失格だということだ。リーマン・ショックを知らない若手などの生き字引となって、危機の際にしっかり荒波を乗り切れるチームでありたいと常に意識している。 足元はまだレンジ相場だ。レンジ相場はつまらないが、個人投資家は相場の流れに逆らう逆張り戦略でコツコツと収益を積みあげながらチャートのセンスを磨き、自らの「型」を作って次の大きなトレンドをつかみたい。 いろいろなチャートを眺めて長期トレンドを抑え、どっしりと構えて流行に一喜一憂しない。それが(機関投資家のように期間ごとの収益に左右されない)個人にとって最も大切だろう。 (随時掲載)

ミセスワタナベ「瞬落」の後遺症 トルコリラ、近くて遠い20円台定着

トルコリラの上値が重い。米国の利上げペースが鈍るとの思惑や米中貿易交渉への楽観論などから米株式相場は持ち直し、投資家のリスク回避姿勢は緩んでいる。トルコなど高金利国の通貨には本来追い風のはずだが、主な買い手である日本の外為証拠金(FX)投資家「ミセスワタナベ」は年初のフラッシュ・クラッシュ(瞬時の急落)でかなりの痛手をこうむり、まだ十分に立ち直れていないようだ。 ■トルコリラ(グラフ青)とドル、ユーロの対円相場 トルコリラの対円相場は足元で1リラ=19円台後半で推移している。3日のフラッシュ・クラッシュで17~18円台まで下げた後、米株高などにつれて4日には20円台半ばまで戻したものの、昨年12月終盤に付けていた20円台後半~21円ちょうど近辺には届かないまま再びずるずると下げた。 FX大手外為どっとコムによると、3日のトルコリラの買い持ち高は前日比で23%程度減少した。値動きから考えて売りのほとんどが損失確定の注文とみられる。3日は他の通貨に対しても軒並み円高が加速したため、ユーロやドル、オセアニアの通貨などを並行して買っていた投資家はダブルパンチ、トリプルパンチだった公算が大きい。体力回復には時間がかかるだろう。 FXは「レバレッジ」と呼ばれる仕組みにより、差し入れた証拠金の25倍まで運用額を増やせる。リラの利息収入に相当する「スワップポイント」は1万通貨で1日あたり最大100円を超えることもある。1リラを買うのに必要な円の元手はユーロや英ポンドに比べるとはるかに少ないので、金利重視でリラを買う戦略の人気は根強い。だが、レバレッジに傾きすぎると逆回転にもろくなる。 レバレッジを抑えリスクを落としたら落としたで買いのインパクトは弱まる。トルコの政治・経済に新たな悪材料が出ているわけではなく、ミセスワタナベに余力が戻ればリラの需要は相応に増えそうだが、相場の上昇エネルギーは簡単には高まらないだろう。昨年末の水準は近くて遠い。 〔日経QUICKニュース(NQN) 編集委員=今 晶〕 ※日経QUICKニュース(NQN)が配信した注目記事を一部再編集しました。QUICK端末ではすべてのNQN記事をリアルタイムでご覧いただけます。

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