AI普及で相場の長期大変動は起きにくく 機械学習の第一人者が語る

日経QUICKニュース(NQN)=今晶、菊池亜矢 金融・資本市場で人工知能(AI)活用が進み、外国為替市場のような競争が激しいマーケットではデータはすぐに解析される。高頻度取引(HFT)の拡大もあり、かつてのような「大相場」は持続しにくくなった。東京銀行(現三菱UFJ銀行)などでデリバティブ(金融派生商品)ディーラー経験を持ち、市場取引におけるコンピューター利用研究の第一人者でもある桜井豊氏は「AI時代に大変動は長期化しづらい。緩やかなトレンド(基調)形成が基本と理解すべきだ」と指摘する。 桜井氏は現在、独立系シンクタンクRPテックの取締役兼AIファイナンス応用研究所の所長を務める。2019年6月に『機械学習ガイドブック』(オーム社)を刊行した。 桜井豊(さくらい・ゆたか)氏  1986年早大卒、東京銀行に入行。93~2000年はロンドン支店で円金利オプションや、異なる通貨間の交換取引である「ベーシス・スワップ」のマーケット・メーカーとして活躍した。00年にソニー銀行に転じ、01年から執行役員市場運用部長を務めた後、10年にRPテックに移籍 ■自然言語処理、投機筋の運用の定番に ――現在、機械学習は市場取引でどう活用されていますか。 「機械学習を(市場での取引に)応用しようとする試みは広がりを見せている。むやみに使うのではなく、適切な目的を決め、それに対しピンポイントで機械学習を取り入れるやり方がうまくいきやすい」   「対象となる情報はそれこそ多岐にわたる。大量のデータ処理や高頻度での取引をするのなら高性能のコンピューターが必要だが、そうでなければ20万~30万円程度の市販のパソコンでも多様な使い方が可能だろう。ディープラーニング(深層学習)のツールがずいぶん発達してきたこともあり、選択肢が増えてきた」 「機械学習の試験的な利用も容易になった。個人や中小企業レベルでも(公表され入手が容易な経済統計などの数字や、自社の在庫と販売実績といった)手持ちのデータと、少し知識をもつ人材がいれば試せるはずだ。正しく使うにはコツが必要だが、ビジネス用途では、例えば注文を受ける前でもある程度の正確さで販売予想を立てられるような使い方もできるようだ」 ――どういう分野での進展が目立ちますか。 「近年はテキストや活字、音声といった『自然言語処理』の分野の発展がめざましい。テキスト解析などは基礎的な技術として昔からあるが、ディープラーニングなどを活用したいくつかの新手法をうまく組み合わせることで、ウェブブラウザーの機械翻訳はここ数年で飛躍的に性能が向上した」 「自然言語処理のノウハウは、既にヘッジファンドなどの投機筋の運用で定番の1つになっている。ニュース見出しはこれまでも解析されてきたが、テキスト以外のデータを併用したり、さらに深く文脈を分析したりすることも可能になってきた」 ■リスク配慮、緩やかトレンドの時代に ――この8月は、トランプ米大統領の予測不能な言動や行動に市場が振り回された1カ月でした。どう受け止めていますか。 「過去に情報量が少なかったときは、AIを含めたコンピューター勢は対応できず、HFTも流れに乗れなかったので、外国為替市場で円相場は大きく円高に振れた。だが情報が蓄積され技術的にも成熟するにつれてHFTの存在感が回復し、市場は安定してくる。訳もわからず参入し相場をかき回す参加者も減る。足元でリスク回避や欧米の金融緩和観測などを背景に円高加速の思惑が根強いにもかかわらず、変動率は逆に下がっているのはそのためだろう」 「かつて円相場のトレンドが変わるときには、市場が短期に激しく揺れ動いた。1日に数円単位で値が動くのが当たり前で、1998年の「LTCM(ロングターム・キャピタル・マネジメント)ショック」時には2営業日で20円程度も円が急伸した」 「昔は規制が緩く、一方向にポジション(持ち高)を大きく傾けるディーラーがかなりおり、ひとたび巻き戻されると際限なくオーバーシュート(行き過ぎ)した。リスク管理の制約がきつくなった現在は、もうそんなことはない。感情のないコンピューターは入力したルールを決して外れない」 ――振れそうで振れない、そんな相場展開が続くということでしょうか。 「リスク管理が厳格な時代は、何か事が起これば投資家はいっせいに手を引く。市場に厚みをもたらすHFTも同じで、相場の瞬時の急落(フラッシュクラッシュ)のきっかけになる。今年1月、正月の『真空地帯』を突いて円が対ドルで瞬間的に急騰したような現象は状況次第ではこの先もしばしば起きるだろう。それでも、誰かがポジションを持ち過ぎているわけではないため、(LTCMショックのような)反動に伴う劇的な長期のトレンド転換は生じないはずだ」 「データが蓄積されれば、AIはそう間を置かずに対応できる。今後はコンピューター制御にAIの関与が深まっていくため、相場が大きく振れても短命に終わる傾向は続きそうだ」 「過去の相場はダイナミックに動いて面白かったが、不必要に変動しすぎていたのではないだろうか。現在はリスクに適切に配慮しつつ、合理的な相場水準を意識しながら緩やかにトレンドを作るという、いままで体験してこなかった局面だと感じる。AI時代の新たな典型をみせられているのかもしれない」 ■それでも「大局観」は必要 ――AI活用のポイントは何ですか。 「市場でAIを活用して勝っている人のほとんどは、学習したものが絶対だとは考えていない。学習したことが機能しない可能性は高いとの前提でコンピューターを使っている。過去の経験則が役に立たない場面は必ずある。8月はその典型だろう。意識しているしないにかかわらず、最終的に全体像を捉えたり、構造を読み取れたりする『大局観』を有している人は強い」 「浮き沈みが激しい中でも、HFTなどで生き残ってきた投資家は多くいる。技術を使っていま何ができていて、これから何ができるかをきちんと理解しているからだ。色々なツールが出回っているが、うまく使いこなせなければ宝の持ち腐れだ」 ――国内銀行も遅ればせながら機械化に向かっています。 「日本の金融機関はようやくツールを使い始めたばかりで、海外に比べると周回遅れだ。しかも実際のツールを動かしているのはほぼ30歳代。実際に何が起きているか、自分の手や目で確認している経営陣はゼロといっていい。決定権のある人が技術や問題を把握しないまま、最適な決定をするのは難しいだろう」 参考記事:AI取引、テールリスクには無力 長期投資の全面依存は難しく(7/26)      「ひるまず迷わず」機械ならでは モデル運用、定石なき相場で成果(7/12)      HFTの生命線 「超短期」「超高速」にAIはどこまでついていけるか(7/5) ※日経QUICKニュース(NQN)が配信した注目記事を一部再編集しました。QUICKの情報端末ではすべてのNQN記事をリアルタイムでご覧いただけます。

平成・危機の目撃者➌ 今井雅人が見たアジア通貨危機(1997~98)

ドルペックがバブル助長、リーマン危機も同根 三和銀行(現三菱UFJ銀行)外国為替部門の大物ディーラーで鳴らし、剣道の達人でもある今井雅人氏は現役時代、研ぎ澄まされた勘で相場の転換点を察知し、アジア金融危機をもたらした新興国の過剰なドル調達や対米ドルの固定相場制(ドルペッグ)といった背景を見逃さず利益を出した。「おいしい話は永遠に続かない」。誰もが分かっているはずなのに、もうけたいとはやる心が先に立ってバブルを生んでしまう――。今井氏は「利益追求が市場参加者の目的である限り、危機は繰り返す」と断言する。 今井雅人氏 いまい・まさと 1985年に三和銀行(現三菱UFJ銀行)入行。89年から5年間米国のシカゴ支店で勤務し、通貨先物市場を通じて外国為替市場との関わりを深めた。三和銀と東海銀の合併で生まれたUFJ銀行のチーフディーラーを経て2004年に退職し、金融情報会社グローバルインフォ(現DZHフィナンシャルサービス)を設立。マットキャピタルマネジメント代表兼経済アナリストとしてい積極的に情報配信を続ける。09年から衆院議員を務め、現在4期目 ◆腑に落ちない値動きが虫の知らせ 成功体験を1つを挙げるとすれば、アジア通貨危機やロングターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)破綻などを受けて市場が混乱した1997~98年だ。98年の秋にはあっという間に20円近く円高・ドル安が進むなどかなり荒っぽく動いた。実は円高が加速する直前までずっとドルを買い持ちにしていたのだが、ふと居心地の悪さを覚えて円買い・ドル売り戦略に変えた。とたんに円は上昇し、1ドル=115円を大幅に超えたところで利益を確定できた。 なぜ持ち高をひっくり返そうと思ったか。タイミングについては虫の知らせとしかいいようがないが、予兆は感じていた。水準自体は1ドル=140円台で安定していたにもかかわらず値動きがかなりおかしかったのだ。 例えば1ドル=140円20銭で厚い円買い・ドル売り注文が控えているのにそれよりも円安の140円50銭で取引が成立した後、次の出会い値が再び140円20銭になるといった具合だ。外為取引は短い期間で資金交換を終えるため、無担保でお金を貸し借りする市場に比べると与信管理は緩い。それでも決済リスクなどを考慮し、経営基盤が弱そうな銀行とは取引しない。売りと買いのレートの逆転現象は特定の金融機関を巡る不安が水面下で広がっている状況を示唆しているのではないか。そう解釈した。 修羅場をくぐったディーラーには市場の空気をかぎ分ける力が備わっている。仲介業者(ブローカー)の声と電子トレーディングシステム(EBS)の取引画面が伝える生の注文状況や、次々と成立していく取引などの一次情報から投資家やディーラーが何を考えているのか、何が起こっているのかを判断していく。メディアやインターネットで流れる相場動向は二次情報でしかなく、重要度は低い。 1997~98年に話を戻す。当時のアジアはほとんどが成長途上の純債務国。金利の低い米ドルで資金を調達し、自国を含めた金利の高い国で運用して利息収入を稼ぐ「キャリー取引」に傾いていた。ドルペッグ制の下で、アジア通貨の対ドル相場は動きが鈍いとの前提にたつ危うい戦略だった。ひとたび投資家が運用資金を引き揚げると取り付け騒ぎのような状態に陥る。 タイから始まったマネー収縮は瞬く間に広がり、タイが変動相場制に移ると他の国も固定相場を維持できず、98年には多くがペッグ制を廃していった。傷を負った世界の金融機関や投資家は体力低下に苦しむ。それを察知した他の市場参加者は与信枠を絞り、EBSなどが示す値段の不可解さにあらわれる。 ◆2007年まだ危機感薄かった日米欧の金融当局 2008年にリーマン・ショックが起きたときはアジア危機とそっくりだと思った。07年の「パリバショック」から小康状態を挟み、本格的な金融危機にいたる2段階の構えは、タイバーツの暴落からアジア全体の危機に波及したころと似ていた。原油高で潤った中東などのオイルマネーがドルペッグ制をテコにドル建ての資産に流れ、低所得者向け融資(サブプライムローン)証券市場の過熱をもたらしたのもアジア危機前のキャリーブームを連想させる。 07年の冬に榊原英資元財務官(現インド経済研究所理事長)とニューヨークに出張した。前半は当時のガイトナー・ニューヨーク連銀総裁やサマーズ元財務長官など当局関係者や学者を中心に回った。日本の財務官だった篠原尚之氏(現東大教授)が後に振り返っている通り、日米欧ともに金融・通貨当局の危機感はまだ乏しく、市場の混乱を楽観的に捉えている印象を受けた。 半面、出張後半に訪れたゴールドマン・サックスやメリルリンチなどの投資銀行の幹部、ジョージ・ソロス氏といった著名投資家を回ると様子が違う。「金融機関の資金調達が難しくなっている」「何となくおかしなムードだ」との声が相次いだ。榊原氏とは「市場の混乱は止まりそうにない」との意見で一致した。 米政府の最大のミスはリーマン・ブラザーズをさっさと見限ったことだ。1つの銀行が倒れると市場は「次はどこか」と疑心暗鬼になり、短期金融市場を中心に取引が凍りつく。信用不安の怖さはアジア危機で身にしみていたはずだが、教訓を生かせなかった。数カ月前にベアー・スターンズを処理して安心したのだろうか。もしリーマンも救っていたら激震は食い止められたかもしれない。 ◆何事も永遠には続かない 危機はたいてい、みなが「大丈夫だろう」と慢心した後に起こる。言い換えれば誰もが「危ない」と警戒しているときには何も起こらない。昨年末から19年初めにかけて株式相場が急落すると、「19年の後半は危ない」との予想が増えたが、2月にかけて株高が再開した。本当の危機の芽は心理的な要素が濃く、目には見えにくい。 アジア危機やリーマン・ショック時は日米欧や新興国の間でだいぶ金利差が開いていたので、キャリーによるバブルの可能性を主にチェックしておけばよかった。だが足元では主要国の金融緩和と金融機関の規制強化によって金利格差を背景にしたカネの流れは細っている。傾斜は株式など他の資産できつくなっていると考えられるが、PER(株価収益率)の点などから判断すると株式相場がとんでもなく割高とまではいえないのが実情だ。ではリスクの芽はどこに潜んでいるのか。 個人的に気になるのが中国の不動産市場だ。深センなどの新興地域に向かうと不動産価格の異常さに驚く。日本円で500万円だった土地がわずか数年で2億円に達するぐらいの上げ幅を普通に記録している。この部門が崩れると怖い。ただ中国では不動産も株も手掛けるといった総合投資家が少なく、株の相場には不動産ほどの熱は感じられない。このままいくとしばらくは中国が大崩れすることはないだろう。 2018年初めにかけての仮想通貨ブームも既に去り、金融・資本市場への影響も薄れた。一時は国境をまたいでの通貨機能に期待が増えていたが、主権国家における通貨発行権は極めて重要なものだ。もし侵害されれれば政府・中央銀行はただちに規制するだろう。しかも仮想通貨は存在そのものに決定的な矛盾を抱えている。決済手段としての通貨は価格安定が不可欠なのに、投機資金で市場を活性化させるには変動がないといけない。 おそらく危機は、我々がいま把握していない場所から発生するのだろう。改めて肝に銘じておきたいのは、何事も永遠には続かないということだ。 =聞き手は日経QUICKニュース(NQN)菊池亜矢 =随時掲載

チャート、それは森羅万象を表すもの by 井上英明氏(シリーズ:ベテランに聞く)

「チャートは過去の出来事をすべて織り込んだうえでいまの位置にいる」。「筋金入りのチャーティスト」を自認する三菱UFJ信託銀行資金為替部の井上英明部長は自分がこれだと決めたチャートを追い続けることで相場を理解し、好成績を収めてきた。バブルの崩壊や金融危機などを無傷で乗り切るのは困難だが、井上氏は「森羅万象をあらわすチャートから相場動向を的確に語れるようにしたいといつも心がけている」と話す。【聞き手は日経QUICKニュース(NQN) 金岡弘記】 井上英明(いのうえ・ひであき)氏 1989年に三菱信託銀行入社、主に為替ディーラーとして東京やロンドンでキャリアを積む。2015年から3年間は秘書室長として市場業務から離れていたが18年に復帰 ■短期から長期まで、毎朝200以上に目を通す 外国為替市場に20年ほどかかわってきた。一時は欧米債投資や(年金などの)信託勘定の運用にも携わったが、為替トレーディングの経験が圧倒的に長い。若いときには手書きでチャートをつけた。現在は情報端末の画面上でいくつものチャートを開き、できるだけ細かくチェックする。 駆け出しのころ、社内に「ギャン・チャート」と呼ばれるチャート分析の日本における第一人者がいた。入行4年目から彼の指導を受け、長期休暇にも毎日徹夜で「宿題」をしなければならないほど徹底的にノウハウをたたき込まれた。 チャート分析で意識するのは「トレンド」と「日柄」(相場が上昇か下落を始めてからの日数)などで、手で書いて体に覚え込ませた。現在はビッグデータの時代だが、過去のデータ解析に重きを置きすぎるとトレンド把握の際には漏れが出てくると思う。 チャートの利点はすべての事象が価格に織り込まれていまの位置にいること。そこを意識してチャートを眺めると、次にどういったトレンドになり、どう推移するかがよく分かる。 カスタマーディーラーだったときはチャートだけで顧客を納得させるのは難しかった。チャート以外にも視野を広げ、機関投資家と輸出入企業の需給や金融政策、政治要因や地政学リスクなど相場の基本的な変動要因を頭に入れておいた。現在相場を動かしている材料や、まだ相場水準に反映されていないものの今後注目を集めそうなもの探し出し、チャートベースの基本予想に付け加えることで説得力を高めていく手法をとった。 この経験は大いに役にたった。判断基準をいくつか持つことは相場に飲み込まれないためには重要だろう。 いまも毎朝、最低200以上のチャートのチェックは欠かさない。最初は2週間分程度の時間足チャートで昨晩の海外市場や短期的なトレンドを把握する。次に1年分をみて短期トレンドの中の位置を確認する。最後に5年分の月足チャートで長期トレンドを理解する。 ただ実際には、長期トレンドをしっかりとらえるには5年では足りない。リーマン・ショックからでも10年がたつ。30年などのより長いチャートもあわせてウオッチすることで今後の予測につながる。 ■システム任せは危険 マーケットに関する法令上の規制が年々厳しくなり、市場参加者の顔ぶれはだいぶ変わった。以前は東京市場にも積極的にリスクをとる参加者が多く、緊張感や臨場感に満ちていた。一方、足元ではコンピューター経由の取引が主流。外資系金融機関ではスポット(直物)取引のディーラーを置かない会社もある。 コンピューターは平時は流動性を供給するものの、無用な損失を避けるためにあまり冒険できないセッティングになっている。何か異常事態が起こればいっせいに手を引き、すぐに市場が凍りつきかねない。日本時間の1月3日早朝7時30分すぎ、ドルの対円相場で起きた「フラッシュ・クラッシュ」(瞬時の急落)は象徴的だ。システム任せにするリスクは十分に考えておかなければならないだろう。 リーマン・ショックのように市場全体が混乱した際、誰が流動性を供給できるのか。人がやっていたことをシステム化し省力化するのは結構だが、リスクに対応可能な次の世代を育てる責任がわれわれにはある。システム化する一方で、人間が関わる余地は保っておかなければならないと考えている。 ■危機の時こそ相場を語るのがプロ 危機の時こそ相場を語れ。誰もが浮足立っているところで市場関係者として冷静に物事を語るのは難しいが、マーケットを生き抜こうとするならば避けては通れない。 記憶の中に2つの出来事が鮮明に残っている。まずは2001年の年末。円相場が1ドル=120円台から上昇傾向を強め、100円突破を試した。10人中9人は100円を大幅に超える円高になると予想していたはずだ。だが私はチャート分析で2ケタ台へ上昇せず反転すると確信し、顧客にも円安見通しを示し、的中させた。 もう1つはリーマン・ショック時にドルが対円で急落すると当てたことだ。1998年のLTCM(ロングターム・キャピタル・マネジメント)破綻に伴う危機(ドルは対円で暴落)を経験し、下げ相場では二番底が怖いと実感していた。リーマン・ショック時に一度円安・ドル高に振れたが、経験則と肌感覚から短期的に10円以上の円高になると思い国内輸出企業や外貨を持つ投資家などに円買い・ドル売りを促すメールを送った。間を置かずに円は急伸した。 自慢話をしたいのではない。危機の時に情報発信できないなんてプロとして失格だということだ。リーマン・ショックを知らない若手などの生き字引となって、危機の際にしっかり荒波を乗り切れるチームでありたいと常に意識している。 足元はまだレンジ相場だ。レンジ相場はつまらないが、個人投資家は相場の流れに逆らう逆張り戦略でコツコツと収益を積みあげながらチャートのセンスを磨き、自らの「型」を作って次の大きなトレンドをつかみたい。 いろいろなチャートを眺めて長期トレンドを抑え、どっしりと構えて流行に一喜一憂しない。それが(機関投資家のように期間ごとの収益に左右されない)個人にとって最も大切だろう。 (随時掲載)

日本株、灯っていた超異例の下げ過ぎシグナル 裁定取引残が「マイナス」

今年の最終盤で激しい浮沈を見せる日経平均株価。1010円安で2万円を割り込んだ日の翌日(26日)時点では25日移動平均からの乖離率がマイナス9.66%、東証1部の騰落レシオ(25日移動平均)が70を割り込むなど、指標面からみて明らかに下げ過ぎの水準だったが、もうひとつ、裁定取引残高がマイナス(売り残高が超過)という珍しいシグナルがその直前に灯っていた点も見逃せない。 東京証券取引所が発表した21日時点の裁定取引残高では、売り残高が2.94億株に対して買い残高が2.84億株。差し引きで売り残が0.1億株多くなったが、こうした現象は極めて稀だ。東海東京調査センターの仙石誠氏によると、こうした局面はこれまで1998年8月、2016年9月の2回しかないという。 ■裁定売り残が買い残を逆転 仙石氏は「過去の状況をみても下げ過ぎだったというひとつのシグナルだろう」と指摘する。1998年8月はアジア通貨危機やLTCMショックにより相場が下落していた時期で、2016年9月はチャイナ・ショックやブレグジットの決定後に現れた現象。すぐに相場が反転したとはいえないまでも、いずれも安値圏であったことを示していたと仙石氏はとらえている。 国内証券のテクニカルアナリストは「確かに目先は上げが期待できる状況だが、先物が買われる条件も必要だろう」との見方を示していた。漫然たる不安から大きく水準を切り下げてきた日本株。きょうのところは上げで慌ただしく、19年もジェットコースター並みの上り下りが続く可能性もありそうだ。(中山桂一) ※QUICKデリバティブズコメントで配信したニュースを再編集した記事です。トレーダーやディーラー、運用者の方々へ日経平均先物・オプション、債券現物、先物を中心に旬のマーケット情報をお伝えしています。ライター独自の分析に加え、証券会社や機関投資家など運用・調査部門への独自のネットワークから情報を収集し、ご提供しています。

相場はランダム、戦略に「絶対」はない by 星野昭氏(シリーズ:ベテランに聞く)

「わかりやすい相場できっちりもうけ、わからない相場には手を出さない」。為替ディーラーとして最前線に立ち続けてきた三菱UFJ銀行の星野昭氏。「最初は失敗も多かった」と振り返ったうえで、「相場で勝つには毎日相場を見続け、楽をしようと思わないこと」と勝利に近道はないと諭す。【聞き手は日経QUICKニュース(NQN) 金岡弘記】 星野昭(ほしの・あきら)氏 1989年に一橋大法学部を卒業後、東京銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。主に外国為替ディーラーとして東京やロンドンでキャリアを積み、2018年7月から三菱UFJ銀行シニアフェロー金融市場部共同部長。東京外国為替市場委員会の議長を長く務めるほか、今年からGlobal FX Committee副議長 ■テールリスクを味方につける まだ駆け出しのオプショントレーダーだった1990年代、現在はユーロになっているドイツマルクの対ドル取引を一時まかされた。銀行のオプショントレーディングは顧客や銀行間同士の取引を通じて作られる「ポートフォリオ」を管理する。数%の相場変動が起きた場合には対応できるようにしていたが、テールリスク(可能性は極めて低いが起こるとダメージが大きい)への備えは不十分だった。 あれは、ちょうど結婚相手の両親にあいさつに行った日だった。ロシアでクーデターが起こり、市場が混乱していることは想像できたが(日本語の)ニュースは円の対ドル相場が大きく動いていると伝えるだけでそれ以上に相場への影響が大きいはずのドイツマルクに関しては何も報じていなかった。慌てて東京に戻ったものの時すでに遅く、途中で会社に電話をかけたら「帰ってこなくていい」と言われるぐらい大きな損を出してしまっていた。 クーデターの予想は難しい。それ以降、テールリスクについて深く研究するようになった。 当時の上司は「敏腕トレーダー」と呼ばれる人だった。彼らが「上がる」「下がる」と言えば実際にそうなるのを不思議に思っていたが、スポット(直物)部門に移って日々の需給を眺めているうちに自分も、かなりの確率で相場の方向性を当てられるレベルにまで成長した。毎日相場を考えることで見る目がいくらかは育ったのだろう。 そうした経験もあって98年のLTCM(ロングターム・キャピタル・マネジメント)危機の際にはテールリスクを味方につけられた。当時はロンドン駐在。危機を受けた相場急変時に取引に入れ込みすぎ、過労で倒れてしまったほどだ。 ■分からない相場からは手を引く 相場の8割はランダム。ランダムな相場は上げと下げの予測がほぼ不可能だ。だから人工知能(AI)予測もなかなかうまくいかない。 基本は無理をせず、取引は最小限にとどめて多くを受け流す勇気が必要だろう。90年代に得た「悟り」もそこがポイント。わかりやすいときだけやり、わからなければ手を引くことに尽きる。 ただランダムな相場にも対峙の仕方はある。例えば値幅と出来高を調べ、値幅の大小と出来高の大小によって4つのパターンに分ける。ランダムな相場は回帰分析における中心回帰的な動きをするとされる。もし出来高が少なくて値幅が大きければ、いずれ戻る可能性は高いと判断して戦略をたてられる。 いずれにせよ自分の相場観を論理的に説明できるかが重要だ。もし体系づけられれば、倒れるほどに精力を傾けた過去の取引パターンの機械化・自動化が可能になる。かつては考えすぎて頭がもうろうとし、夢では真っ暗な中で機械だけ動いている不気味なディーリングルームが浮かんできた。 現在の為替相場は他の市場との相関が強まっている。市場は昔のように為替と金利を分けて見てはいない。株や商品も含めすべての市場が密接に連関している。株や商品、債券それぞれの上げ下げに触発されて為替が大きく動く。その震源地を見極められないとディーリングには絶対に勝てない。 ■高金利通貨の取引は甘くない 世間ではうまいトレーダーの条件として「きちんとストップロス(損失を抑える目的の注文)を置ける人」がよく挙げられる。ストップロスを置くと確かに安心だがその結果、緊張感なく寝ていては絶対に勝てない。一定の相場水準に達したら電話連絡をしてもらい、それを受けて実際に注文するかしないかを決める「コールオーダー」だけを置く。修羅場でストップロスの是非を判断する苦しい状況に耐えてこそ勝てる力を身につけられると思う。 相場にどっぷりつかっていた若いころは、短期的な相場の流れに乗る「順張り」でアグレッシブに取引をしていた。半面、最近は逆張りも多い。相場に対峙する際のストラテジー(戦略)に絶対はない。自分にあったスタイルを見つけることが大切だ。 個人の資産運用では引き続き高利回りのエマージング(新興国)通貨が人気だが、見た目の高い利回りにだまされてはいけない。プロの世界では0.1%単位で利回りを確保しようと日々競っているのに、リスクをとったらすぐに数%単位の収益を得られるなどというほど為替は甘くない。 今夏の「トルコショック」ではかなりの投資家が痛手を被った。急落局面で少しずつでも逆張りを続けられる体力がないと長い勝負には勝てないだろう。 高金利通貨は売りも簡単ではない。「ショート(売り持ち)はスポットで勝ち、ファンディング(調達)で負ける」という。売り持ちに伴って不足する資金は為替スワップなどを通じて借り入れるが、当然、高い利息を払わなければならない。ごく短い期間のうちに為替差益を得られなければコスト負けしてしまう。 主要通貨はボラティリティー(変動率)の低い状態が恒常化している。だが今後は要注意だ。為替相場の大変動は景気循環の転換点で起こりやすい。足元ではその転換点が近づいているのではないか。社債などのクレジット(信用)市場や株価に目を凝らしておきたい。 正確な見極めは容易ではないが、これまで安定していた主要国の通貨にもトレンドが生じる可能性は十分ある。ボラティリティーを生かして為替差益を積みあげるチャンスが来るかもしれない。 (随時掲載)

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