クラウド融資、匿名化解除で本来あるべき姿に クラウドクレジット杉山社長

QUICKイノベーション本部=吉田晃宗 ソーシャルレンディングとも呼ばれる貸付型(融資型)クラウドファンディング業界で、貸付先情報を開示する「匿名化解除」の動きが始まった。海外向け特化の貸付型クラウドファンディング事業を運営するクラウドクレジット(東京・中央)も、7月19日から情報公開をスタートした。杉山智行社長に、匿名化解除の取り組みと今後の展開について聞いた。 ネット融資仲介「貸付先の非匿名化は歓迎」 クラウドクレジット杉山社長(3/22配信)はこちら 貸付先企業が建設した中東のソーラーパネル。貸付先のGES社の社名は26日に公開 ――匿名化解除の進捗と貸付先の反応はどうですか 「貸付先のほぼ全社から社名開示の同意を頂いており、手続きが完了して情報公開が可能となったファンドから順次発表しています。成長国の成長企業にお金を届ける、という投資哲学を貫いてきたため、企業名や経営者を公開することに抵抗はまったくありません」 「匿名化解除は貸付先企業も希望していたことで、情報開示によって、投資家に事業内容や経営陣についてより詳しく理解してもらうことを期待しています。今後は、貸付先企業を招いたセミナー等も予定しており、投資家に貸付先企業をより知ってもらうための施策も実施したいと思っています」 ――投資家にもメリットが大きいと? 「2つのメリットを得られると考えています。ひとつは、当社の場合は英語にはなってしまいますが、投資家がインターネット上の公開情報を用いて独自に案件の実在性を調査することができます。また、自分の投資したお金を誰がどのように使い、社会にどういう付加価値が創出されたかが明確に分かるようになります。貸付型クラウドファンディング業界がようやく本来のあるべき姿に戻り、『クラウドファンディング2.0』が始まったと言えます」 ――今後の課題、テーマは何ですか 「累計出資金額は210億円、運用残高は120億円、ユーザー登録数は約4万に迫っています。おかげさまで、この6月には単月黒字化を達成しました。海外向けソーシャルレンディングは分散投資によってリスクを抑制できますので、投資家に一層の分散投資を促す機能を順次実装していきたいと思っています」 「業界の目標として次のステップは税制改正でしょうか。現在、ソーシャルレンディング投資における利益は分離課税の対象ではなく、雑所得扱いです。一定の透明性がある金融商品として、今後は株式や投資信託の利益と同様な扱いになるよう業界として働きかけていくことも考えています。実際、イギリスでは、ソーシャルレンディングは分離課税どころか(NISAのモデルとなった)ISAの対象となっています」

個人認証APIの「総合商社」が強み TRUSTDOCKの千葉CEOに聞く

3月7日に開催された「金融イノベーションビジネスカンファレンス(以下FIBC)2019」の「FinPitch」において、ベンチャー企業のTRUSTDOCK(トラストドック、東京・千代田)がオーディエンス賞とQUICK賞をダブル受賞した。上場企業のガイアックスからスピンアウトして設立し、銀行・証券口座開設時などの本人確認(KYC)業務のための様々なAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)を作っている。 TRUSTDOCKの千葉孝浩・代表取締役CEO 2018年11月30日、「犯罪による収益の移転防止に関する法律」(犯罪収益移転防止法、犯収法)について施行規則の一部改正命令が公表された。改正により、郵送不要でオンライン上で完結する本人確認方法(eKYC)が一部許容されることから、FinTechサービスをはじめ、金融業界に大きな影響を与えると予想されている。 このKYC分野で注目を集めているのがTRUSTDOCK。代表取締役CEOである千葉孝浩氏に、事業展開と法改正について聞いた。 ――現在の事業内容は。 「KYCに必要なAPIの提供に特化している。具体的には、導入事業者のKYC業務フローと、(身分証の確認作業やデータベースなど)KYCサービスを提供する事業パートナーを結び付けるAPIを作成している。用意してあるAPIをシステムに組み込むことで、導入事業者はフルデジタルのKYCを低コストで実現できる。費用はトランザクション(処理量)に応じて頂く形式にしている」 「KYCに必要なタスクは業法ごとに異なる。我々は、身元確認、個人番号取得、郵送といったタスクごとのAPIを用意しており、業法ごとに必要な組み合わせを提案することができるため、あらゆる業種に対応可能だ。身元証明や個人認証のためのAPIの総合商社のような存在だと自負している」 TRUSTDOCKのサービスイメージ ――なぜ始めたのか。 「当初はシェアリングサービスのようなCtoC(個人間取引)プラットフォーム向けを想定してスタートした。従来の家事代行派遣では派遣される人間の身元は派遣事業者が担保していた。CtoCになるとマッチングプラットフォーム事業者が本人確認し、お墨付きを与えることになる。配車アプリのUBERや民泊マッチングのAirbnbもそうだ」 「だが、プラットフォーム事業者にとってKYC業務の負担は重く、消費者にとっても本人確認書類を複数の業者に預けることに忌避感がある。この溝を埋めるような事業として思いついた。困難な道のりであることは感じつつ、将来性と社会的意義を感じて挑戦した」 「蓋を開けてみれば、反応が良かったのが金融業。金融業はKYCに関して法規制が厳しく、対応しなければそもそも営業できないという課題を抱えているためだ。そのためFinTech向けに注力し、2017年夏ごろに事業化した」 ――金融業向けの開発は困難では。 「金融だから難易度が高い、というわけではない。事業者ごとに要件がバラバラなシェアリングサービスに比べると、金融は法律という要件がはっきりしている」 「法律、技術、業務に対する深い理解を備えたエンジニアが開発に携わることが我々の強みだ。エンジニア自身が法律を読み込み、かつ顧客の業務を理解したうえで開発する。そのため、いわゆる『伝言ゲーム』が発生せず、開発速度が早い。カメラアプリといったフロント部分の開発も自社で手掛けている。社員は両手で数えるほどだが、毎週現場のフィードバックを受け、サービスや業務の改善を進めている」 「最近は、大企業の新規事業部隊や、金融の本丸と言えるような企業でも話が進んでいる。FinTechという、金融関連の法規制を守る必要がある案件で実績を上げたことが評価されたとみている」 ――犯収法改正の影響は。 「eKYCは追い風だ。改正法において、eKYCでは『専用ソフトウェア』を使うことが規定されており、我々のようなサービスの出番となる」 「一部で誤解があるかもしれないが、犯収法の改正は、全体としては規制強化だ。改正がFATF(金融活動作業部会、マネーロンダリングやテロ資金対策を審査する国際組織)勧告に基づくものであることから分かる通り、日本はデジタルでの本人確認が甘かった。FinTechを普及させるため、KYCに必要な時間を短縮する一方、本人証明書類の撮影手法などを複雑化した、という形だ」 ――海外展開など今後の見通しは。 「各国ごとの法律に最適化(ローカライズ)した形でサービスを提供する必要があるため、海外展開は容易ではない。ただ、一番難易度が高いのが日本であるため、日本で蓄積した実績を強みとして海外に展開する可能性もありうる」 「犯収法改正は、関連業種が多く、意義が大きい。動かない山を動かした、とさえ言える。この法改正を形骸化させず、世間で使えるようにしていきたい。我々の事業を通じて、1日で金融取引の口座が開設できることが当たり前の世の中にすることを目指す」 【聞き手はQUICKイノベーション本部 吉田晃宗】

ネット融資仲介「貸付先の非匿名化は歓迎」 クラウドクレジット杉山社長

金融とテクノロジーの融合であるフィンテックは、発展途上ながら、社会課題を解決する大きな可能性を秘めている。インターネット上で個人から事業資金を集めるクラウドファンディングもその一つで、この市場の大半を占めるのが、ソーシャルレンディングと呼ばれる貸付型(融資型)ファンド。なかでも海外向けに特化しているのがクラウドクレジット(東京・中央)だ。 クラウドクレジットは主に新興国向けの貸付型ファンドを運用・販売している。ファンドの販売手数料は無く、出資金に対して最大4%の運用手数料を運用開始時あるいは毎年度に分けて支払う。為替手数料などの費用を投資家が負担する場合もある。 足元のソーシャルレンディング業界は悪質な業者によるトラブルが相次いでおり、金融庁は従来匿名を原則としてきた融資先情報について公表を求める方針に転換。業界を取り巻く環境も変わりそうだ。クラウドクレジットの杉山智行社長に、同社の現状と匿名化解除への対応について聞いた。 ――海外向けに特化している理由は クラウドクレジットの杉山智行社長 「投資機会が多いからです。当社は、日本と比べて銀行の貸出余力が低く、資金需要が大きい国に対して、日本の余剰資金を融資しています。世界規模で資金余剰と資金不足をつなぐことで、年利回り6.77%(18年11月時点での顧客全員の平均値)を実現しています」 「国内は資金余剰のため、融資でリスクに見合った水準の金利を得ることが難しくなっていると考えています。国内を対象とした融資型ファンドで高い利回りを実現しているのは、質の高い事業者のみで、他は単純に実体がなかったことが、ここ数年で露呈しました」 「新興国には、成長企業にリスクに見合った水準の金利で貸し出せる機会が豊富にあります。当社の投資先はノンバンクやマイクロファイナンス機関が多いです。現在は、地域で見れば東欧、業種でいえばノンバンクに偏っていますが、今後はアジアのレイターステージ(=事業が軌道に乗った)のベンチャー企業向け融資を拡大する方針で、今年中には地域、業種ともに分散がかなり進むとみています」 ――どのように投資先を審査しているのか 「まずヒアリングによる初期審査を実施します。その後の本審査では、ビジネスモデルや事業計画、財務状況の確認に加え、投資先国の法務、財務面で調査も実施します。当社はレファレンス(第三者の評価確認)も重視しており、投資先国ではできるだけレファレンスをとれる主体を増やしています。実際、半年に1社くらいの頻度で、レファレンスの結果を受けて審査を中止することがあります。当社の審査通過率は初期審査からだと10件に1件程度、本審査以降で4件に1件程度です。継続的に投資先のモニタリングも実施しています」 ――顧客の利用状況は 「2019年3月時点でID登録者数が3万4000人を超え、うち1万5000人を超える方が投資を実行されています。投資実行者のうち2割程度が、株式、投資信託での資産運用を経験したことがないという方で、多くが(経済的リターンだけでなく新興国の貧困といった社会課題の解決も目指す)社会インパクト投資の文脈で購入していただいていると見ています。昨年1月以降、我々は社会インパクト投資ファンドにも注力しています」 ――融資先の「匿名」原則の解除どうみる 「当局が匿名化の方針を転換することは、当然必要な措置だと考えており歓迎しています。まっとうなソーシャルレンディング事業者はどの会社も、匿名化に反対してきました。匿名化は、当初から民間事業者が懸念していた通り、悪質な事業者が詐欺的なファンドを日本の個人投資家に大量に供給する温床となってしまったため、非常に残念に思います」 「当社は匿名化解除が実行された時点で、ほぼ全案件の融資先企業の社名を開示します」 ――サブプライムローン商品と似ているとの意見もある 「リスク・リターンの観点からは、近い分類だと思っています。十数年前のサブプライム危機の本質は、リスク商品を大量に抱え込んではいけないはずの銀行が、リスクの高いサブプライム商品を大量に保有してしまったため、リスクが表面化した際に投げ売りが起こり、パニック化してしまったことです」 「当社はファンドを紹介するときに『安全安心』とは言いません。あくまで、リスクをとってもいい資金で融資するファンドであることを強調しています。また、お客様全体の損益状況など様々な情報を公開しております。今後も借り手の財務数値の開示範囲の拡大など、透明性を向上させていきます」 ※ 2014年6月から18年11月までに運用を開始したファンドの統計。クラウドクレジット社のホームページから転載 ――ファンドの成績や融資回収の状況は 「2018年11月末で見ると、95%のお客様の推定リターンがプラス圏となっています。ファンドの元本割れ償還については円高によるものが多いです。運用中ファンドの遅延率は5%程度で、主にカメルーンの投資先が原因です。カメルーンの投資先は中小企業のデフォルトに加え、国外送金の部分で遅延してしまった事例もあります」 「ソーシャルレンディングの特徴として、伝統的資産との相関係数が低いという点があります。2018年末に米国株が急落したときも、当社ファンドは全体としてそれほど大きな影響をうけませんでした。ポートフォリオのリスク分散という観点でも、魅力的な資産と言えるのではないかと思っています」 ――今後の計画は 「お客様の資産をお預かりする金融事業者として、目先でいえば単月黒字化を達成することを重要視しています。今年2月には、法人投資家向けのプライベートファンドも開始しました。法人向けの運用は今年を通じて拡大していきたいと思っています」 【聞き手はイノベーション本部 吉田晃宗】

HFT隆盛で変質、外為市場は元には戻らず  by 花生浩介氏(シリーズ:ベテランに聞く)

外国為替市場の主要プレーヤーや取引形態は1980~90年代に比べると激変した。コンピューターや人工知能(AI)の発達で高頻度取引(HFT)が幅をきかせる時代になり、2008年のリーマン・ショック後に規制強化が進んだ影響もあってどんな場面でも腰を据えて売り買いの価格を示す「マーケットメーカー」は姿を消した。日本興業銀行(現みずほ銀行)や香港上海銀行(現HSBC)で30年以上為替ディーリングに携わった花生浩介氏は「HFTによって売買高自体は増えたが、市場の流動性はむしろ減少した。もう元には戻らないだろう」と話す。【聞き手は日経QUICKニュース(NQN)=菊池亜矢】 花生浩介(はなお・こうすけ)氏 1980年に日本興業銀行入行。84年から為替ディーリングの道を一貫して進む。2001年にロイヤルバンク・オブ・スコットランド(RBS)東京支店で外国為替部部長、06年から香港上海銀行に移り外国為替本部長とマネージングディレクター。17年にバルタリサーチを設立し個人の目線からマーケット情報を提供する傍ら、トレーニング用品やソフトウエアを扱うスポーツ関連企業フィットネスアポロ社の社長 ■混乱時のパニック増幅しやすく 現在の市場の主役はAIをバックにしたHFTだ。HFTはふだんはマーケットメーカーのように振る舞って相場の値動きを決める半面、混乱時にはいっせいに手を引き、パニックを増幅してしまう。いざというときには頼りにならない。責任感をもって市場機能を維持する真のマーケットメーカーがいない現在の外為市場は、市場メカニズムの是正といった自らの優れた機能を大きく損ねている。市場は事実上しぼんでしまったといっていい。 ディーラーの駆け出しのころ、日本はバブル絶頂期だった。金融危機の前で金融機関や投資家のリスク許容度は極めて大きく、いまでは考えられない大金が活発に動いていた。現在に比べるとはるかに小さい規模の市場の中で、30歳代にかけての5~6年は朝から夜中まで顧客の注文に応じて価格を出し続けた。 ときには大きなリスクも取ったが、ポジションの保有時間は長くて5分、下手をすると5秒で回転させて「流動性」を供給してきた。回転売買に徹していた気がする。結局はそれがリスクヘッジになっていたかもしれない。当時は自分よりも巨額の持ち高を振り回し、マーケットメーカーの役割を果たすディーラーがごろごろいて市場全体が活気づいていた。 ■ポンド危機の攻防に息のむ 忘れられないのは1992年の9月。英国がジョージ・ソロス氏率いるヘッジファンドの英ポンド売りに耐えられず、欧州の為替相場メカニズム(ERM)離脱を決めたころだ。ある日、東京市場でイングランド銀行(英中央銀行)がポンド防衛のため、日銀に委託してポンド買い・円売り介入をしたと噂された。一方、ロンドン市場でソロスファンドは売り崩しを続け、他の投機筋も追随し英ポンドは暴落した。 投資家が中央銀行に歯向かうなどということは通常は考えられない。だがERM離脱によって英国の金利は大幅に低下し、通貨安もあってその後の英国経済は回復に向かった。政府・中銀の無理な政策を市場メカニズムが是正した好例といえ、ファンド勢の動きに感心したのを覚えている。 コンピューターの草創期で取引記録は完全には機械化できず、損益も手計算でリアルタイムでの把握は難しかった。それが不正やミスの温床になったわけで、昔を懐かしんでもしょうがない。ただコンプライアンス(法令順守)強化など規制でがんじがらめになった結果、市場のダイナミズムは間違いなく失われた。 「毎日が戦争」の感覚で混乱の極みのような生活を続けていたにもかかわらず、疲れたとか嫌になったとかの記憶はない。大きな損失を抱え途方にくれたことは何度もあったが、ディーリングは結果がすべて。学歴も派閥も関係ない極めてフェアな世界で奮闘できたのは幸せだった。 外為市場はスポーツに例えると、地元の野球少年がメジャーリーガーと一緒にプレーするようなもの。「伝説のディーラー」と呼ばれる人は尊敬できる人が多く、いつか自分もそうなりたいと励みになっていた。理屈やデータの通りに動くコンピューターやAIの時代はそれはそれでフェアなのかもしれないが、淡泊すぎる。 ■大局観を忘れずに そんな中でも為替でディーリングを続けるとすればどんなスタンスで臨むべきだろうか。とりあえずは世界の大まかな流れを忘れないようにしたい。 ニューヨークで勤務した1990年代後半は米経済が絶好調だった。政策を担っていたのはグリーンスパン米連邦準備理事会(FRB)議長とルービン財務長官、サマーズ財務副長官という最強トリオ。折しもWindows95が発売になり、IT(情報技術)化の波が押し寄せていた。業種を問わずパソコン導入が加速した。米国のバロンズ誌が毎年出す景気予測で、エコノミストらの「好景気は続かない」という主張がことごとく外れていく。それまでと違うレベルで設備投資の革命が起きていると感じた。 「本場」に身を置くことで近視眼的な見方から離れ、大局観を得るのは大切だ。インターネット全盛の現代はネット経由で様々な情報を入手できるが、それでも「百聞は一見にしかず」の真理はまったく変わらない。 リーマン・ショックを境に産業の主役が金融からITに移ったことも重要だ。金融はITと親和性が高く、リーマン・ショック前までは最先端の技術を誇る業界だった。しかし、金融危機後は名だたる金融機関が公的資金で救済され金融規制に縛られると業界全体が萎縮した。現在はアップルやグーグルなど大手IT企業の取り組みのほうがずっと面白く金融は背中を追いかける格好になっている。金融とITをあわせた「フィンテック」でファイナンスは前だが、実際にはITの後じんを拝しているとの印象が否めない。 足元のAI活用はコンプライアンス違反を避けるためとの後ろ向きな理由もある。機械なら基本的に不正はしない。ヒューマンエラーによる訴訟リスクを抱え込まずに済む。金融は徹底的にリスクを抑える方向になり、生産性を抑えた。 ■次の活路は新興国市場に AI活用の大きな流れはおそらく止められない。万難を排して最先端の技術革新をもう一度金融に取り入れないと、金融業界の復活はないだろう。 金融が他の産業と異なるのは決済をつかさどっている点だ。決済は最も大切な社会インフラの1つで、多額の資金を安定的に決済することで社会全体の安定を下支えする。流動性や安定性は他の産業とは比較にならないほど大切で、流動性を担保する意味は大きい。1回あたりの取引金額から考えてもリスクが取りにくい環境になっているはずなのに、機械化以前のほうがリスクが少なかったように思えるのは昔のほうが流動性が厚かったからだろう。 昨年初めにかけて仮想通貨がブームとなったが、投機性だけに焦点が当たると通貨としての必然性は失われる。為替を含めた決済システムを仮想通貨の基幹技術「ブロックチェーン」に変えるといった話でも、市場流動性を確保する方向に持っていくなどの努力を忘れてはならない。 昨年の「トルコリラショック」などを振り返ると、新興国では短期金融や為替市場が未整備で、為替差損リスクヘッジの手法や投資情報など主要国では当たり前のインフラがまだ整っていないと痛感した。新興国経済は世界全体の約半分を占めるまでに拡大しているのに金融市場は脆弱で、流動性は異様に低い。 裏を返せば、新興国市場での流動性創出は金融業界に残された数少ない課題だ。経済成長率が1~2%の先進国でできることはほとんどなく、もはやリターンも期待できない。次の活路は新興国に求めるべきだろう。 (随時掲載)

兜町REBORN 動き出した「大家」、内外の金融ベンチャー集積

東京証券取引所を中心に日本を代表する株の街として知られてきた日本橋兜町(東京・中央)。一歩路地を入ると歴史を感じさせる看板を掲げた証券会社や老舗の飲食店が点在し、再開発の進んだ近隣の日本橋や大手町に比べると取り残されているようにもみえる。しかし、その兜町が大きく変わり始めた。一部で大規模な工事が進み、既存の建築物でも内装を改めて街ににぎわいを取り戻す新しい役割を与えられたビルが増えてきた。英ロンドンのシティや米ニューヨークのウォール街と並ぶ世界屈指の金融センターを目指した改革がじわり進んでいる。 ■割安オフィスは「活性化の先行投資」 東京証券取引所からほど近いビルの地下にあるオフィス「FinGATE BASE」。まだ入居者のない一室に入ると、いかにも頑丈そうな大きい金庫が目に飛び込んできた。ここはもともと1997年に経営破綻した山一証券が入っていたビルで、株券を保管していた金庫をそのまま残した。複数の部屋に残存する金庫はすでにその役目を終えているが、金融関係者にとっては興味深いインテリアに映るかもしれない。 旧山一証券で使われていた金庫は今やインテリア(写真上)。クッションでリラックスしながら仕事できる共用スペースの奥にはボルダリングが見える(下) BASEに入居するのは今後の成長が見込まれる国内外の金融関連企業だ。賃料は周辺相場に比べて半分ほどという。東京証券取引所ビルなどを保有し「兜町の大家」とも称される平和不動産(8803)が2018年7月にオープンした。同社の吉松和彦開発推進部次長は、割安にオフィスを提供する理由を「兜町を活性化させるための先行投資」と説明する。最近のベンチャー企業のオフィスに見受けられるような、クッションを置いて寝そべって仕事ができる場所に加え、ボルダリングや卓球ができる共用スペースまで備える。 ■KABUTO、KAYABAをフィンテックの街に 兜町の再開発の機運が高まったきっかけが、政府・東京都が14年に打ち出した「東京国際金融センター」構想だ。東京駅周辺や兜町周辺を国際的な金融ビジネス拠点に育てようとする計画で、特に兜町近辺では金融ベンチャーなどを呼び込もうとする動きが活発になってきた。 新しい金融拠点ブランド「FinGATE」の名を冠したオフィスはほかに2つある。東証に隣接した「兜町第6平和ビル」に入る「FinGATE KABUTO」は、新興の国内外の資産運用会社などを誘致するために18年4月に開設した。 18年11月に千代田区神田小川町から移転してきたばかりの独立系運用会社、アトム・キャピタル・マネジメントの土屋敦子代表取締役は「これからの自社の成長を考えたとき、東京都などが金融センターを目指す兜町にオフィスを構えるのはメリットがあると考えた」と話す。資産運用業の活性化を目的に平和不動産が主導して設立した国際資産運用センター推進機構(JIAM)が同じフロアにオフィスを構え、人脈づくりを期待する。「部屋は以前より広くなり、事業規模の拡大に伴って社員を増やす」(土屋氏)考えで、トレーダーの採用も検討している。 永代通り沿いにある「FinGATE KAYABA」では、主にフィンテック企業を誘致している。2年前に港区六本木から移ったフィンテックベンチャー、ロボット投信の野口哲社長は「日本橋と比べても大幅に安い賃料は、ベンチャー企業にとって大きな利点」と語る。 入居企業が気軽に使える共用スペースがあり「同業が近くに集積して活発にコミュニケーションできる」(吉松氏)魅力もある。実際、KAYABAでは「共用スペースで定期的に入居企業の懇親会などを開き、情報交換している」(野口氏)という。 ■高層ビルやサービスアパート、ホテル構想も 平和不動産が今まさに工事を進めているのが、茅場町駅を出てすぐの「兜町7地区」と呼ばれる地域だ。かつては金融の専門書を販売する書店や証券会社が入る年季の入ったビルが建っていたが、複数棟を取り壊してガラス張りのあか抜けた高層ビルに一新する。株主総会や決算説明会を開くことができる会議室やセミナールームが設置される予定だ。兜町周辺ではほかに海外の資産運用会社や高度金融人材を迎えるため、サービスアパートやホテルを建設する構想も進む。 東証から株券売買の立会場が閉鎖されて今年で20年になる。有力な証券会社の多くが本社機能を大手町近辺に構えるなか、証券関係者が減り活気を失ってしまったと言われる兜町。かつてのようなにぎわいの復活に向けた挑戦が静かに始まっている。 〔日経QUICKニュース(NQN) 内山佑輔〕 ※日経QUICKニュース(NQN)が配信した注目記事を一部再編集しました。QUICKの情報端末ではすべてのNQN記事をリアルタイムでご覧いただけます。

AIが個人投資家の「秘書」になる日 激変する証券営業、FIN/SUMで討論

QUICKは26日、金融庁と日本経済新聞社共催のフィンテック・サミット「フィンサム2018&レグサム」のパネル討論を都内で開いた。「AIやBOTを利用した顧客向けサービスの現状と将来」をテーマに、対面営業から非対面、とりわけネット対応に大きくシフトする国内証券会社の今後の戦略について、各社の担当者が意見を交わした(モデレーターは佐藤吉哉QUICK常務取締役)。金融機関関係者ら200名が参加した。 ■SMBC日興証券の丸山真志ダイレクトチャネル事業部長 「LINE」上でAIチャットボットのサービスを展開している。顧客が店頭から非対面の営業にダイナミックに変化していることが背景だ。大事なのは、こういう情報が欲しいという顧客に、きちんとその情報を提供する。それが顧客を守る、フィデュシャリー・デューティーにつながる。今の時代、顧客は利便性が高いサービスと低コストのサービスを使い分ける。60~70代も当たり前にスマホを使うし、LINEもそうだ。証券会社としてチャネルを広げるのは必須。今後はリアルタイムのチャートや、口座残高の確認もできるよう機能を高めていきたい。 ■大和証券の山本真ダイレクト企画部長 QUICKが開発したチャットボット「株talk」を運用している。コンタクトセンターに問い合わせが多い株式のサービスでニーズがあると考えて導入し、副次的には、センターへの問い合わせをボットのほうに誘導することでセンターの業務軽減にもつながった。株の質問はかなり複雑で、何を聞かれるかわからない部分も多く、なかなか対応が難しい。しかし、ゆくゆくは人間を補完できるようにAIを進化させ、究極的には(個人投資家一人ひとりの)秘書のようなサービスを提供したい。 ■みずほ証券の楠誠晃ダイレクトチャネル事業部長 AI活用については、まずは社内でノウハウを蓄積している段階だ。社内業務の効率化に重点を置き、問い合わせチャネルの拡充に努めているが、今後は他社のように「顧客の満足度」という観点で取り組みを見つめ直さなければいけない。コストカットもいいサービスを提供していくために必要。人にしかできないことと機械ができることの均衡点を探っていきたい。 ■三菱UFJモルガン・スタンレー証券の江面幸浩オムニチャネル企画部長 11月に新サービスを開始する。「対面より手軽に、ネットより手厚く」というのがコンセプトで、AIなどを活用したバーチャル担当者が顧客対応にあたる。株価や業績の変化などの質問に素早く答え、計算上は現在受け付けている質問の8割をやこれでカバーできる。これまでの証券営業は電話と対面に偏っていたが、ありとあらゆる手段でコミュニケーションをとっていく。次の戦略はデジタルマーケティングで、ビッグデータを活用して顧客のニーズを探るのがこれからの営業と位置付けている。

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