「ひるまず迷わず」機械ならでは モデル運用、定石なき相場で成果

日経QUICKニュース=今晶、菊池亜矢 感情を持たない機械ならではの判断に、運用パフォーマンス改善のヒントがあるかもしれない。 世界的な低金利の環境のもとで、株式や債券など伝統的な運用資産とは異なる「オルタナティブ(代替)投資」が広がっている。しかし、多くは利回りを求めるあまり、市場規模が小さく信用リスクは高い社債や証券化商品に流れてしまいがちだ。半面、一部の投資家は伝統資産を中心とした取引「商品」を変えず、コンピューターや人工知能(AI)の積極活用など取引の「手法」を変え、成果を生み出している。 日本で創業した独立系ヘッジファンドで、資産総額が2000億円程度に達するGCIアセット・マネジメントも、機械化に前向きなファンドの1つだ。コンピューター・プログラムを用いた「アルゴリズム取引」を取り入れ、人間ならちゅうちょしてしまいそうな戦略にも淡々と取り組んでリスク分散効果が出るようにしてきた。 ■ブレグジット決定前に「ポンド売り」指示 どのような手法なのか。1つの好例が、英国が欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)を国民投票で決めた2016年6月の動きだ。ブレグジットを含めた一定の政治リスクをプログラミングしていたアルゴの指示は「英ポンドを対円で売る」。国民投票前の金融・資本市場の雰囲気は「英国民の判断はほぼ間違いなくEU残留だろう」で、人間ならポンド売りへの傾斜はまず不可能だったはずだ。一方、欧州株は買い持ちにした。英国民投票の後はポンド安と欧州株安が同時に進み欧州株の持ち高には逆風だったものの、ポンドの下げのほうがきつく、結局は収益拡大に貢献した。 2014~15年にかけて日欧など主要先進国の異次元緩和政策が進んだ際には、先物、現物を問わず国債を買い続けた。日本円の長期金利の指標である新発10年物国債利回りがゼロ%に近づき、人間なら相場の高値警戒感にひるみかねないところだったが、機械は気にしなかった。その後、日銀は16年1月にマイナス金利政策の導入を決めた。 コンピューターは過去のデータから短期と長期の相関性をそれぞれ分け、様々な組み合わせで瞬時に判断できる。16年5月以降はポンド安の長期化を見込んだが、株安は短命に終わるとして欧州株の買い持ち高は減らさないとの判断を示した。実際に英国の国民投票後、欧州株は間を置かずに値を戻し、結果的にポンド売り持ち高での利益を享受できたという。 ■商品でなく手法がオルタナティブ GCIアセットの山内英貴最高経営責任者(CEO)は、機械併用のメリットについて「人間の常識に従って判断すれば得られなかった利益が実現でき、全体のパフォーマンスが改善する効果が期待できる」と強調する。そのうえでAIなど、人間による「定性判断」を介しないモデル運用をさらに強化していく可能性に触れた。 ヘッジファンドの取引モデルはもともと、先物やデリバティブ(金融派生商品)を組み合わせて相場の上昇・下落のどちらでも収益を確保できるよう練り込まれてきた。だが2008年のリーマン・ショックやその後のギリシャ危機などを経て、主要国では低金利と過剰流動性が常態化している。かつては「逆相関」になることが定石だった株式と債券の相場がしばしば同方向に動き、伝統的な資産ではリスク分散の効果をなかなか出せなくなっていた。対策の1つがオルタナティブ「商品」への傾斜であり、オルタナティブ「手法」だったわけだ。 AIなど機械的なモデル運用は、大相場になっても冷静さを失わず、経験などに基づく思い込みにとらわれる人間心理との「逆相関」が起こりやすくなる。代替投資、もしくはヘッジ投資の新たな潮流としてのモデル運用の存在感は今後、一段と高まっていく公算が大きい。 ※日経QUICKニュース(NQN)が配信した注目記事を一部再編集しました。QUICKの情報端末ではすべてのNQN記事をリアルタイムでご覧いただけます。

HFTの生命線 「超短期」「超高速」にAIはどこまでついていけるか

「膨大な過去の相場データを取り込んで『勝ちパターン』を抽出し、条件が揃ったときに瞬時に正しく動作する」。コンピュータープログラムを使った「アルゴリズム取引」によく用いられる定義だが、人間のエンジニアを介するとプログラムのバグ修正などの際、どうしてもタイムラグが生じる。競争の激しい世界だけに判断の遅れは致命的だ。そこで存在感を増しているのが、人よりもはるかに機動的かつ迅速に対処できる人工知能(AI)だ。 ディーリングに必要な「柔軟な思考」「機微」は、AIにはまだ荷が重い 極めて高い頻度で売り買いを繰り返すHFT(高頻度取引)が外国為替や株式先物などの市場を席巻し、相場をにぎわしているのは周知の通りだ。HFTは最速でマイクロ秒(100万分の1秒)単位で持ち高を回転させ、高速アルゴリズム取引の頂点に立つ。このモデルは市場で何が起こり、需給環境がどう変化しているのかを瞬時に判別して、誰よりも早く反応することで収益機会を増やすのが基本だ。それだけに、人による修正が必要な通常のアルゴ・プログラムに比べると、AI組み込み型の利点は大きいと考えられる。 「米国勢を筆頭に、為替直物や各種先物でHFTを手掛ける大口投資家のAI活用はかなり進んでいる」。これが市場の共通認識だ。電源と適切な通信・メンテナンス環境が確保できれば24時間休まず正確に動き続けられる点で、アルゴとAIの親和性は極めて高い。HFTのような不眠不休型短期トレーディングのサポート役としてのAI浸透は自然といえる。 ただ、やや長い目でみると課題も多い。外為市場のように参加者が多く様々な要因が複雑に絡み合うマーケットでは、政治家や金融・通貨当局者の発言、さらに国際商品市況などのどの部分が持続的な「テーマ」なのか、需給バランスはどうなるかといった予測は難しい。その時々の状況に応じた柔軟な考え方が必要だ。過去のデータにとらわれがちなAIにはまだ荷が重いだろう。 ディーリングで最終的に勝つには、どの戦略をとれば利益を最大化できるか、損失を最小限に収めるにはどうしたら良いかなどについてギリギリの決断を迫られる。上がるか下がるかの方向を当てただけでは用をなさない。例えばドルが上がりそうだと想定した時、どのぐらいの確率で当たるのか、どこまで上昇するのか。さらに直物でドルをどれだけの額を買うべきなのか、ドルのコール(買う権利)オプション購入を併用すべきなのか、株や金利関連商品と組み合わせるべきなのか。そのあたりの「機微」をAIに求めるのはまだ難しいだろう。 それでも、AIが得意とする「市場でいま何が起きているかをより速くより正確に収集し、アウトプットする」経験を積み重ねることで活路は開けるはず――。関係者はそう考えている。膨大なパターンから戦術を選び出し組み合わせる「最適化」はAIの独壇場だ。あるヘッジファンドのマネジャーは「パターン分析だけではランダムな市場に対処できないが、市場に向き合い続ければAIなりに『ランダム』を理解するかもしれない」と期待を寄せる。 「餅は餅屋」という。利益の最大化などの課題解消はまだ遠いが、一時期のAIブームが落ち着いた足元では、AIにどこまで実現させたいのか、AIの得意分野を見いだし選別していく余裕が生まれているはずだ。大手システム開発会社や金融機関各社の研究は急ピッチで進行している。 【日経QUICKニュース(NQN ) 今 晶】 ※日経QUICKニュース(NQN)が配信した注目記事を一部再編集しました。QUICKの情報端末ではすべてのNQN記事をリアルタイムでご覧いただけます。

平成・危機の目撃者➎ 二宮圭子が見た1ドル=79円台突入(1995)

「リスク回避の円高」ここから定着 1985年の「プラザ合意」以降に強まった円高の圧力は平成にも引き継がれた。円相場は95年に1ドル=79円台後半と未曽有の高値圏に浮上し、2011年には75円台前半とさらに値を伸ばした。95年は日本でバブルの後始末が始まり、同年1月に起きた阪神大震災の打撃が残る中で日本の経常黒字体質にも焦点が当たった。米シティバンクの外国為替ディーラーを務めていた二宮圭子氏は「95年は『危機の円高』『リスク回避の円高』が定着した年」と振り返る。 二宮圭子氏 にのみや・けいこ  シティバンク銀行入行後、1993~2000年に法人金融部門・外国為替部のインターバンクディーラーを経験。その後SMBC信託銀行に移り、投資調査部でシニアFXマーケットアナリストとして、為替市場の調査・分析および個人投資家向け情報提供を担当。テクニカル分析が得意。定期的に日経CNBCテレビ「朝エクスプレス」などのコメンテーターも ◆90円超えて天井見えず恐怖 インターバンク(銀行間)ディーラーになったのは1993年。著名投資家ジョージ・ソロス氏が引き金をひいた前年の英ポンド危機の波紋は既に収まっていた。対ドルの円相場も緩やかな調整局面が続いて鉄火場の経験を積めず、95年に加速した円高には戸惑い、慌てた。1ドル=90円程度までは想定の範囲だったが、それを超えたときには天井がまったく見えなくなった気分で、怖かった。 相場が一方向に振れ続けると注文は偏り、取引が成立しにくくなる。背景に金融危機などの何らかの事件・事故があると投資家はただでさえリスクをとれなくなっているので、参加者は細っていき、相場の振れ幅がより拡大していく。そんなときは対外債権を多く抱える日本で、マネーの自国回帰が通貨高を促すかどうかに着目すればよいというのが95年の超円高が示した教訓だった。 シティのような大手銀で、売り買い双方のレートを常に提示し市場に厚みをもたらす「マーケットメーカー」は苦しい。だがマーケットメーカーが逃げの姿勢だと顧客や取引相手の他の銀行は離れ、市場の流動性は一段と薄くなる。リスク管理の制約がきつくなった今では考えられないが、当時のマーケットメーカーは「相場環境が厳しくても、多少の損は覚悟で常に相手に適正な値を提示するのがディーラーの責務」との使命感にあふれていた。 ディーラーに攻めの姿勢がないと通貨当局の信認も得られない。90年代半ば~後半といえば「ミスター円」こと榊原英資氏などがアグレッシブに為替介入をしていたころだ。財務省の委託を受けた日銀からの注文にそつなく応じることもディーラーの責任。安心して任せてもらえるよう常に臨戦態勢をとった。提示される値から本気度を推し量ったものだ。 ◆タイバーツ急落、ピンチヒッターでピンチ乗り切る EBS(電子ブローキングシステム)が発達する前のディーリングは複数のブローカー(仲介業者)との間で専用回線を通したほか、銀行担当者とダイレクトに電話でやりとりしたり、ロイターのチャット機能を使ったりするアナログな作業の積み重ねだった。目の前にはブローカーとつながった7~8つのスピーカーとマイクが並び、それぞれから聞こえてくる売りと買いの値段の優劣を瞬時に判別しベストな条件で取引を成立させていく。それに電話やロイターなどを組み合わせていく職人芸の世界だった。 ボイス(声)中心の世界は現在に比べ、相場が緊張しているか否かを測りやすかった。半面、たいていは大台を省略するので、荒れているときにはいったいいくらで取引されているのかすぐ理解できない。そのリスクを痛感したのが1997年夏のアジア通貨危機だ。 タイを震源地とする危機が発生した後、休暇中だったアジア担当の代わりにアジア通貨のトレーディングデスクに回ったことがある。慣れていないので水準感がまずわからない。しかも取り扱う通貨の数が多く、スピーカーからは各通貨の値が一緒くたに流れてくる。発展途上だった各国の法規制にも目配りしなければならない。相場は大荒れで収拾のメドはたたず、大台がいくらか気にしながらの五里霧中の取引は生きた心地がしなかった。 代打期間は2週間ほどだったが、一日の上下動が激しいときだったので少しミスをしても挽回可能だった。場数を踏んできた他のディーラーのサポートも得て次第に平常心を取り戻し、どうにか乗り切れたのを覚えている。 97~98年は日本も大手金融機関の経営破綻などで危機的な状況にあり、当初は円の悪材料とみなす空気が出ていた。だが、米ロングターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)ショックなどを経た98年秋には円が急伸。ここでも「リスク回避の円買い」が勝った。 ◆機械時代でも受け継がれるもの 足元の外国為替市場は機械の「アルゴリズム」取引全盛の時代。人間のディーラーは徐々に数を減らし、かなりの部分をコンピューターに任せるようになっている。コンピューターが高速で回転売買を繰り返すため相場のボラティリティー(変動率)は安定してきた。そのうえ20カ国・地域(G20)が通貨安阻止の姿勢を示していることなどを背景に自国通貨売りの介入は難しくなった。21世紀初頭までのようにやっていては生き残れないだろう。 それでも受け継がれるものはある。インターバンクディーラーの仕事は経済指標などのマクロデータや、事業法人と投機筋などのお金の流れを的確につかみ、顧客に適正なレートを示すことだ。基本はアルゴ全盛のいまでも変わらない。顧客の持ち高状況を把握できれば次のトレンドをいち早くつかめる。 もし生身の人間として取引判断をするのなら、損をしたときに「取り返してやる」などと熱くならないことも重要だ。相場には必ずオーバーシュート(行きすぎ)が生じる。感情を持たない機械がプログラム通りに働いても起こるときは起こり、次にいったん止まるか反転する。そこでテクニカル分析などを用いて冷静に値動きを眺め、潮目を外さなければ必ず収益拡大の好機がやってくるはずだ。 =日経QUICKニュース(NQN)金岡弘記 =随時掲載

平成・危機の目撃者➍ F・ギレスピーが見た欧州債務問題(2013)

大手銀の技術者流出、そこからアルゴが広がった 平成時代の後半を彩ったコンピューター・プログラム取引「アルゴリズム」。アルゴが急速に広がった背景に、ギリシャの財政問題に端を発する危機に揺れた欧州大手銀からの技術者流出があったことはあまり知られていない。米JPモルガンや米ゴールドマン・サックスなどでアルゴに携わったフィリップ・ギレスピー氏は「欧州銀に集まっていたアルゴ専門家がヘッジファンドなどに移っていなければアルゴ取引はここまで普及しなかっただろう」と話す。 フィリップ・ギレスピー氏 ジョージア工科大学経営工学部を卒業し、コンサルタント業務を経験した後の2006年にリーマン・ブラザーズ入社。株部門の電子取引チームに属した。破綻前にリーマンを離れ、カリフォルニア大学で金融工学の修士号を取得しバークレイズ銀行東京支店の為替ディーラーとして市場に戻る。JPモルガンやゴールドマン・サックスを経て、18年2月より電子取引を主体とした暗号資産の流動性提供会社であるB2C2日本法人の代表取締役 ◆日進月歩の技術、慢性的にエンジニア不足 アルゴリズム取引の一種で、目にもとまらぬ速さで売り買いを繰り返す高頻度取引「HFT」は2010年代に入ると頭角を現し、13年(平成25)年ごろには外国為替を中心に進化が速まった。劇的といっていい。 13年前後といえば、ギリシャの債務隠しをきっかけとした危機のあおりで欧州銀の経営不安が拡大。ドイツ銀が不動産の関連商品を販売していた米国で、リスク管理の不備に絡む大型の訴訟案件を抱えるなどスキャンダルも相次いだ。その余波で報酬カットや人員整理などのリストラを余儀なくされた欧州銀から、マーケットに精通した多くのエンジニア(技術者)が流出した。 アルゴはとにもかくにもエンジニア次第だ。現在の仮想通貨(暗号資産)業界が技術者不足に悩んでいるように、技術が日進月歩であるためにその数は慢性的に足りない。しかも為替や株のアルゴには高度な金融知識が求められる。ギリシャ発の危機はそれらの問題点の解決に寄与してくれたわけだ。 HFTは円とユーロの対ドル取引など厚みがある市場で常にオファー(売り)とビッド(買い)双方の注文を示し、基本的にはリスクをとらずに小さな差益を積みあげていくモデルだ。市場に流動性を供給するマーケット・メーカーに似た役割を果たす。他のHFTとの激しい競争に勝ち、利益を出し続けるには技術的なアドバンテージを保ち続けなければならない。 ◆市場拡大で飽和、次は暗号資産へ 山口県で生まれた後、9歳で米国に渡り、小学校から大学まで米国で過ごした。卒業後は経営工学の知識を生かしてコンサルタントとして働いていたが2006年、リーマン・ブラザーズから株のトレーダーにならないかと誘いを受けたのをきっかけにマーケットでのキャリアをスタートさせた。アルゴ取引に出会ったのもそのころだ。 投資銀行には「プロップデスク」と呼ばれる自己売買部門がある。リーマンも同様で、そこでまずは海運コンテナの運賃動向に絡めてどの国のどの資産を取引するのがベストかというプログラムの構築にかかわった。 リーマンが破綻する少し前に入ったカリフォルニア大学バークレー校のハース・スクール・オブ・ビジネスでは大手ヘッジファンドのプロジェクトマネジャーなどそうそうたる面々が講師だった。そこでアルゴのおもしろさにはまり、どっぷりと漬かっていく。ビッドとオファーのさや(スプレッド)を取りに行くマーケット・メイク型アルゴは当時としては新しかった。 以降は英バークレイズ銀の外為ディーラーとしてアルゴを手掛け、JPモルガンを経て15年にゴールドマンに移った。実力主義のゴールドマンは居心地が良かった。だが、ヘッジファンドや他のフィンテック会社に技術的ノウハウが行き渡るにつれて先行きを不安視するようになった。そんな中で元同僚に誘われ、コンピューター時代の落とし子となる暗号資産の市場に転じた。技術者の流入が市場を広げ、飽和していく構図はアルゴと変わりない。 ◆「デジタルゴールド」化の可能性も 17年後半~18年初めのビットコインやビットコイン以外の「オルトコイン」の価格急騰は確かにバブルだった。流動性の低さや手数料の上昇など課題だらけで、金融資産としての人気もすっかり下火だ。それでも限られた自分のお金を守る手段の1つとして依然として魅力的だと考える。 ビットコインはリーマン・ショックの余韻さめやらぬ中で生まれた。銀行預金よりも多額の紙幣や電子マネーが当の銀行によって作り出される状況に対し、「非中央集権」の理念を掲げて登場した。ソブリンリスク(政府の信認リスク)が高まったときの常道は「無国籍通貨の金を買う」。ただデジタル化社会では、ビットコインなどが「デジタルゴールド」のポジションを得てもおかしくはないだろう。 足元では様々な国でポピュリズム(大衆迎合主義)が台頭している。例えばトルコのように経済基盤が脆弱で金利も高く、企業が外貨で資金繰りをしていた国では今後、政府の資本規制や外為リスクが上昇する過程で「自分の資産は自分で守る」との心構えが重要になる。トルコに限らず政治経済、通貨システムなどに難題を抱える国や地域で国境のない暗号資産を求める動きが出るのは自然の流れだ。 日本は株や為替を軸にした金融都市としては近年、シンガポールや香港に後れを取っている。一方、暗号資産の分野では逆転のチャンスがあるのではないか。その「根源的価値」がマクロ経済とどう結びつくのかについてこれから吟味し周知させながら東京を金融センターとして復活させるのが夢だ。 =聞き手は日経QUICKニュース(NQN)尾崎也弥 =随時掲載

相場の微かな変化を見抜く by 花井健氏(シリーズ:ベテランに聞く)

記憶に残る外国為替ディーラーといえば誰か。問われたときに名前が挙がる日本人は少ない。その一人が日本興業銀行(現みずほ銀行)のすご腕で鳴らした花井健氏だ。現在は企業経営アドバイザーとして為替経験をいかす花井氏は現役時代、徹底的に相場に入り込み、かすかな変化も見逃さず勝ち抜いてきたとの自負がある。「周囲に『運が良い』と映っても実は地道な努力の積み重ねによるところが多い。『見抜く力』を得られるか否かが勝敗を分ける」と指摘する。【聞き手は日経QUICKニュース(NQN)編集委員=今 晶】 花井 健(はない・たけし)氏 1977年に大阪市立大商学部を卒業。興銀(当時)に入行し国際為替営業部長やみずほコーポレート銀行の本店営業第4部長、執行役員上海支店長、常務執行役員アジア・オセアニア地域統括役員を経て2009年に楽天に移籍。現在は自己勘定で取引をするとともにアシックスや丸運、日本精線、タツタ電線、LIFULLの社外取締役と複数の企業で顧問を務めるほか、母校の大阪市立大の国際交流アドバイザーとして教壇に立つ   ■「微か(かすか)なるより顕か(あきらか)なるはなし」 これは孔子の説とされ、日立製作所フェローの矢野和男氏は著書「データの見えざる手」(草思社)で「君子は微かを知るがゆえに顕かを知る」と読み替えている。現在の世の中も、見えているようで見えていないことだらけだろう。 見えていないものをそのままにしていては進歩はない。相場漬けの日々を送り、ニュースなどで表に出ていない動きやパターンの変化、構造を細かく拾う地道な作業、真の人脈作りと情報収集が必要だ。王道やマニュアルなど無く、うまくいっても「幸運」ぐらいに軽く受け止められるのかもしれないが、それが実力だと胸を張っていい。 デジタル技術や人工知能(AI)との付き合い方のツボもそこにある。AIによるデータ解析や経済指標への反応スピードは格段に進歩し、短期取引はAIやアルゴリズムの独壇場になりそうだ。だがAIもアルゴも精度がまだ低く、相場のオーバーシュート(行きすぎ)を引き起こしやすい。流れに逆らう「逆張り」が有効な局面がしばしば生じている。判断をするのは人間だ。 とにかくIT(情報技術)との関わりは避けては通れない。AIなどの長所と短所をしっかり把握し、取引につなげるのは人の仕事。長期投資では人間の出番が増えるだろう。人と機械の特性をそれぞれうまく活用した分業体制が理想だ。 ■性悪説でシステムを作り、性善説で人を管理する 感情に流されず欲望を前面に出さない「無心」「無我」の境地は、頭では大切だとわかっていても簡単には割り切れない。外為市場の先人は様々な工夫で無心になれるよう努めてきた。例えば元東京銀行(現三菱UFJ銀行)の若林栄四氏(現ワカバヤシエフエックスアソシエイツ代表取締役)は相場変動を「神意」とみなし「負けは神の領域に近づきすぎたから」と自らに言い聞かせ、チャートなどを駆使して淡々と敗戦処理に臨んだという。 人間が作り出す「有機質」の要素では説明できない客観的な現実がマーケットには厳然と存在する。勝てるトレーダーはそんな「無機質」の視点を必ず持っている。著名な日本人のディーラーとしてまず名前が挙がる堀内昭利氏(現AIAビジネスコンサルティング社長)やチャーリー中山(中山茂)氏はこの無機の部分、具体的にはディーリングで最も大切なロスカット(損切り)が見事だった。 上手にロスカットをして負けが込まないようにできればおのずと勝機は増える。相場は期待通りにはならない。常勝は不可能と割り切って臨んできた。 為替取引を通じて得た座右の銘は「性悪説でシステムを作り、性善説で人を管理する」。やすきに流れがちな人間に本質的な罪はない。弱い人を追い込まないようにルールを決める。あとはそれを実行に移せるかどうか。為替に限らず、事業運営の全般に当てはめられる真理だと思う。 みずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)本店営業第4部長で不良債権の処理を担当していたとき、「不良債権がある取引先の希望通りの支援を続けていたら負担は際限なく増える。希望的観測はもたずに当初決めたガイドラインに従い、すぐに処理すべきだ」と当時の斎藤宏頭取に訴え、理解してもらってスムーズに事を運べた。 ■トライ&エラーの意識忘れず 投資はトライアンドエラーの繰り返し。当たり前のようでも、何が正しくて何が間違っているのかの判断はかなり難しい。大事なのは謙虚に学ぶ姿勢だ。勝てるトレーダーはたいてい、貪欲に情報を得ようと食らいついてくる。 2006~07年、みずほでアジア・オセアニアビジネス担当の常務だったときだ。アジアの中央銀行幹部は金融政策の専門家ではあっても、需給環境が複雑な為替相場にはあまり明るくなかった。そのために中銀としての運用シナリオが正しいのか見極めたいと、為替専門の私にひんぱんにアドバイスを求めてきた。円を元手にした外貨建て取引「円キャリートレード」が盛んなころで、アジア中銀もこぞって円キャリーに傾いていたからだ。 上海勤務時には中国の金融当局が円の自由化の歴史や為替管理の方法について聞いてきた。政府関係者の為替マインドの高さに感心したことを覚えている。 Once a dealer always a dealer.  Don’t worry about failure, Worry about the chance you miss when you even try!   「一度ディーラーを経験したらずっとディーラー、失敗を恐れるな」――。ディーラーの合言葉だ。これを肝に銘じ、年齢に関係なく身に付けられるデジタル技術力と新たな人脈を広げられる人間力、リスクをとって市場に対峙する力の「新・3種の神器」を備えられれば、相場だけでなくこの先の社会の荒波も乗り越えられると信じている。(随時掲載)

【アルゴウオッチ】 円売り戦略中断、ドル買われすぎを警戒

外国為替市場でコンピューターを用いたアルゴリズム取引による円売り・ドル買いの勢いが収まり、円相場は1ドル=109円前後でいったんもみ合っている。コンピューターに組み込まれたテクニカル分析のシステムが「ドルの買われすぎ」(オーバーシュート)を示し始めており、ドル買いを止めた投資家も少なくない。前週半ばまでのドル買いで、米国の長期金利上昇が米経済に悪影響を及ぼすリスクをあまり考慮してこなかったという側面が、改めて意識されつつある。 金利上昇は良好なファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)を素直に映せば通貨高の要因だが、インフレや財政収支の悪化懸念などが背景なら国外へのマネー流出を伴って通貨安を促す構図も見逃せない。 4月27日からわずか1週間で12.75%もの利上げに踏み切ったアルゼンチンは「悪い金利上昇」の典型だ。高金利でペソ安阻止を狙う。それでもアルゼンチン国民が先行きを案じてドル建て資産などにお金を移し続ければペソの一段安は避けられない。 アルゼンチンは極端な例としても、トランプ米大統領が輸入制限や強硬な中東政策を通じて米国にインフレをもたらす可能性は否定できない。ニッセイ基礎研究所の上野剛志シニアエコノミストは「イラン情勢がさらに緊迫し、3年5カ月ぶりの高値圏で推移するニューヨーク原油先物がここから10ドル程度上振れすれば米景気への打撃は避けられない」と話す。 アルゴのエンジニアには市場経験の浅い人が多く、彼らの背後をベテランのトレーダーや元トレーダーが固めている。ベテランは「金利の良しあし」に神経質で、ドル高基調が本当に続くのか懐疑的にみている。このため「ドル相場の目標上限は低めに抑える傾向がある」(外国証券の顧客担当ディーラー)という。 野村証券の高田将成クオンツ・ストラテジストは2日の時点で「1ドル=110円よりも安い水準での定着には、商品投資顧問(CTA)などアルゴ勢による円の売り持ち転換が条件になる」と指摘していた。米商品先物取引委員会(CFTC)が4日に発表した1日時点の建玉報告で、CTAなどの投機筋を示す「非商業部門」の円の持ち高は5週ぶりに売り越しに転じたものの、その幅は1405枚と小さかった。3日以降は円が上昇したため、投機筋は再び円の買い越しに転じたと考えられる。 野村の高田氏は「対ユーロや対英ポンド、対オセアニア通貨で加速した米ドル高が円高・ユーロ安などにつながり、対ドルの円売りを仕掛けにくくした」とも指摘する。円高は投資家のリスクをとる姿勢の後退を意識させ、「悪い金利上昇」への懸念を助長する。4月の米サプライマネジメント協会(ISM)景況感指数の低下や同月の米雇用者数と平均時給の伸び鈍化も気掛かりだ。アルゴが円売り・ドル買いを再開するためのハードルは上がったようだ。 【日経QUICKニュース(NQN ) 今 晶】 ※日経QUICKニュース(NQN)が配信した注目記事を一部再編集しました。QUICKの情報端末ではすべてのNQN記事をリアルタイムでご覧いただけます。

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