消えゆくLIBOR㊦ 検討委の松浦議長「システム対応、少なくとも1年」

2018年8月に発足した「日本円金利指標に関する検討委員会」はこれまでに6回の会合を開いた。LIBORの公表停止に伴う今後の課題やリスクについて、検討委員会の議長を務める三菱UFJ銀行経営企画部の松浦太郎部長に聞いた。 ――現在の検討委員会の進捗状況や課題を教えてください。 「そもそも金利指標という単語自体が一般になじみが薄い。半面で様々な金融取引や金融サービスに指標金利が利用され、膨大な取引契約の内容が指標に左右されうる。LIBOR公表が仮になくなった場合に向け、どういうことに備えなければならないのか、金利指標のユーザーを含めて多くの主体が委員会に参加して好ましい方法を検討中だ」 「決済などのインフラや商慣行を整えていく必要もある。まずはLIBORの公表停止の可能性が高い点やその影響の大きさを多数の人に理解してもらうことが重要であり課題だ。備えをしっかり進め、公表停止に向けた混乱の抑制が望まれる。指標を使った取引が円滑にできなくなるのを避けるためにも、共有された理解を下地に、今後予定している市中協議には積極的に意見を出してもらいたい」 ――システム対応などの準備期間はどのくらい必要でしょうか。 「まず知っておいてほしいのは、21年末で必ずLIBORの公表が止まるとは現時点で誰にも言えないことだ。監督当局のFCAは停止権限を行使すると明言しているわけではない。そのうえであえて21年末をXデーと仮定すると、1年以上は準備期間が必要だろう」 「現在の金利指標と違うものを利用するならシステムや事務上の対応が不可欠だ。金融機関各社によって対応は異なるため、いつまでに準備できれば大丈夫だとははっきりとは言えないが、少なくとも1年はかかるだろうとの認識だ」 ――どんなことを想定しておかなければならないでしょうか。 「『ニワトリが先か、卵が先か』の話だが、LIBORに代わる指標をより多くの人が使い始めればそれが一般的な指標として認識されるようになってくる。また、いつの段階と一義的には述べられないが、代替指標が浸透するのと裏返しに、LIBORを使った取引市場の厚みがだんだんなくなっていくということもあるのではないか」 「LIBORの取引が薄くなると既存のLIBOR取引の解消が難しくなっていく可能性には注意が必要だろう。タイミング次第ではLIBORでの取引自体がリスクとなりかねない」 「今後、(中長期の金利スワップなどで)21年末越えの取引が自然体で増えていくであろうことにも留意しなければならない。深刻度は時間とともに増す」 「LIBORに代わる指標に切り替える対応の一つの形態として、LIBORが公表されなくなったときの代替指標金利などの要件をあらかじめ契約に定めておくフォールバックという枠組みがある。だがこの形態を採ると、仮にLIBOR公表停止が21年末となった場合、実際のフォールバックに伴う契約変更の確認やシステムへの記帳、付随する決済が一斉に実施されることになる。金融機関などとの話し合いのなかでもフォールバックを待つより、新規契約を最初から代替の金利指標で締結するほうが好ましいと伝えていくつもりだ」 ――住宅ローンなどへの影響はどうでしょう。 「円LIBOR絡みの市場はドルに比べると規模が小さい。相対的にみれば影響は大きくならないだろう。一般的に国内の住宅ローンなどはLIBORを利用したものは多くないと認識している。ローン関連での契約への影響の範囲は限られそうだ」 「ただ金融機関が自社で提供する金融サービスのなかで、直接LIBORを契約に利用していないか、また、間接的であっても金融商品を評価する際に利用していないかなどきちんと確認しなければならないだろう。契約の相手方としっかりコミュニケーションを取り、利用者側もいま一度どういう契約を結んでいるかを確認するなど、互いに慎重な事前対応を進めてほしい」 〔日経QUICKニュース(NQN) 菊池亜矢〕 ※日経QUICKニュース(NQN)が配信した注目記事を一部再編集しました。QUICKの情報端末ではすべてのNQN記事をリアルタイムでご覧いただけます。

消えゆくLIBOR㊤ 迫るXデー、代替の指標金利へ準備待ったなし

金利指標として広く利用されているロンドンの銀行間取引金利(LIBOR)の公表が2021年末以降、止まる可能性が高まっている。LIBORは10年代に不正操作問題に巻き込まれ、監督当局である英金融行為規制機構(FCA)のベイリー長官は「公表継続は難しい」との認識を示す。国内でも貸し出しや債券など円LIBORを参照とした金融取引は多く、指標金利の移行に備える動きが広がってきた。 英金融安定理事会(FSB)がまとめた資料によると、円のLIBORを参照指標にした取引は14年3月時点で30兆ドル(19年5月14日の円相場の水準である1ドル=109円台半ばで換算すると約3286兆円)にも達する。金利スワップやシンジケートローンといった専門性が強い取引に主に用いられるが、企業向けの貸し出しや社債の発行条件などで「6カ月物の円LIBORプラス○○%」といった具合に使われるケースも多い。 もしLIBORの公表が止まるとどうなるか。関連取引の条件を決められなくなり、利息の受け渡しなどに不都合が生じるだけでなく、金利変動リスクの管理が困難になる。 日本では18年8月、日本銀行金融市場局を事務局とする「日本円金利指標に関する検討委員会」が設立された。ここが示しているLIBOR公表停止に備えるうえでのポイントは(1)新しい金融取引でLIBORに代わるどんな指標を利用していくか(2)既存のLIBORを参照した金融取引をLIBOR公表停止時にどうするか(フォールバック)――の2点だ。 (1)の代替指標については無担保コール翌日物金利に基づいた新たな指標や、既存の東京銀行間取引金利(TIBOR)が選択肢となる。(2)は契約当事者の間で、参照金利をLIBORから変更する枠組みにあらかじめ合意しなければならない。 金融仲介の基礎となる金利指標の行く末は金融機関だけではなく、金利指標を金融取引で利用する事業法人や機関投資家にも影響しそうだ。LIBORはドルやポンドなどの他の主要通貨でも関連取引が膨らんでいる。国内でもドル建ての金利スワップなどで関わりが深く、今後はそれらの通貨建てのLIBORに関しても動向を注視していく必要がありそうだ。 〔日経QUICKニュース(NQN) 矢内純一〕 =㊦で「日本円金利指標に関する検討委員会」の松浦太郎議長のインタビューを掲載 ※QUICKでは22日、LIBORの公表停止に対する市場参加者の理解を深める目的のセミナーを開き、日本銀行金融市場局市場企画課の大竹弘樹課長と「日本円金利指標に関する検討委員会」の松浦議長(三菱UFJ銀行経営企画部部長)が基調講演する。LIBOR公表停止などをテーマにしたパネルディスカッションも開催される。

平成・危機の目撃者⓮ 大西知生が見た外為指標不正の真実(2013)

信用失墜の瀬戸際、取引ルール作りに奔走 巨大な外国為替市場では参加者の利害関係が極めて複雑だ。しかも相対取引が中心のため長年、明確なルールがないままの「なれ合い」体質がまん延していた。国際ルールが固まったのはつい最近の2017(平成29)年。きっかけは13年、10年代前半まで繰り返されてきた外為指標の不正が発覚したことだ。ルール作りに奔走し「Mr.FXJapan」と呼ばれた大西知生氏は「あそこで動かなければ外為市場は瀕死(ひんし)の状態に陥ったかもしれない」と振り返る。       大西知生氏 おおにし・ともお 1990年に慶大経済学部を卒業し東京銀行(現・三菱UFJ銀行)に入行。その後はチェース・マンハッタン銀行(現・JPモルガン・チェース銀行)やドイツ銀行グループで為替市場にかかわり、2017年12月まで東京外国為替市場委員会の副議長として国際ルールの整備にあたった。現在は仮想通貨(暗号資産)交換業への参入を目指すFXcoinの代表取締役社長 ◆なれ合い体質まん延、顧客無視のディーラーも 2010年代前半、金融・資本市場では2つの大きな不祥事が起きた。一つは世界の企業向け融資や、金利スワップなどのデリバティブ(金融派生商品)の基準となるロンドン銀行間取引金利(LIBOR)を巡る談合問題。12年、欧米大手銀の担当者が自らに利益になるようレートを決めていたことが発覚した。もう一つは13年に明らかになった為替指標の操作疑惑だ。欧米金融機関の一部の為替ディーラーが顧客から受けた注文に関する秘密情報を共有し、決済に絡む指標を操作しようとしていたとわかった。 疑惑発覚前の外為市場には取引規範として明文化されたルールがなかった。大手自動車メーカーがいくら売っている、機関投資家がいくら買っているといった情報があふれ、ディーラーたちが大手顧客の注文に便乗し売買をするといった顧客無視の動きがあった。いまでは禁止されている「見せ玉」などを駆使して収益をあげるのが良いディーラーとさえ思われていた。モラルの高いディーラーはなかなか利益を出せない不公平な状況も生じていた。 外為指標の不正はそうした不公平感や不満が吹き出す引き金にもなったほか、不祥事の責任が個人に対して追及されたために世界中のトレーダーは萎縮し、疑心暗鬼の連鎖によって日々の取引量は目に見えて細った。ルール作りは待ったなしだった。 ◆日本主導でガイドライン、バイサイドを説得 関係者が多岐にわたるとあって道のりは平たんではなかったが、日本がリーダーシップをとってどうにか合意にこぎ着けた。まず東京外国為替市場委員会は「外国為替ガイドライン」を作り、情報共有などについて具体例を挙げながらディーラーができること、できないことを「○」「×」形式で示した。例えば具体的な取引先名や、特定の水準にいくらの注文が控えるかなどは伝えてはならない。 東京を含む主要8カ国・地域の外為市場委員会の代表が東京に集まり2015年3月に開催された「外国為替市場グローバル会合」でこのガイドラインを公表すると、○×方式は分かりやすいと高く評価された。17年5月に国際決済銀行(BIS)が明らかにした「グローバル外為行動規範」でも同じ形式が採用になった。内容は日本に近い。外為業務の国際ルールをようやく一本化できた。 ガイドライン作成にあたってまずは国内の大手銀行、証券のマネジャーたちを集めて会合を開いた。すると「ガイドラインの通りに業務をするともうからなくなるからと反対」との声があがった。半面、自分の部下であるドイツ証券のスタッフには「ガイドラインよりもさらに厳しく律するぐらいにしてほしい」と指示した。顧客の一部は「ドイツ証券は情報をくれなくなった」と離れていった。 ガイドラインを作っても使ってくれる人がいなければ意味がない。大手製造業、商社、機関投資家などの「バイサイド」にも理解してもらわなければならなかった。東京外為市場委員会のメンバーはバイサイドと何度も議論した。 当初は「外為市場の改革というが、そもそもセルサイド(銀行や証券などのセールス部門)が悪いことをしたのが原因。その結果ルールを厳しくしたから情報提供などのサービスクオリティーが低下するのでは納得がいかない」と不満をぶつけてくるバイサイド幹部もいた。それでも市場の健全化はセルサイドだけでなくバイサイドも恩恵を受けるのだと粘り強く説明し、理解を得た。 一方、指標関連の不祥事をもたらしたヒューマン・リスク(人間のトレーダーを置くリスク)を完全に消し去るのは難しい。このところ急速に進んでいるコンピューター取引や人工知能(AI)の活用拡大はこと外為市場では避けられないだろう。感情をもたない機械取引はプログラムに沿って淡々と動くので、恣意的な不正はしない。記録も取りやすく顧客への説明責任を果たせる。 ◆今度は仮想通貨、実需拡大に期待 外為市場で自分ができることは一通りできたかなと思っていたところに仮想通貨と出会った。「外為市場のルール作りをした大西さんのような人が仮想通貨業界にもいたらいいのに」と周囲に乗せられる格好で転身を決めた。「仮想通貨は人々の生活を豊かにする」と確信した当時の思いは変わっていない。 17~18年初めのようなバブルが再び起こる可能性は低く、国際送金などにおける仮想通貨の利用を模索する企業は増えている。バブルを起こした投機取引の熱は冷めたが、決済などに絡む「実需」が拡大すれば、必要なインフラとして世間の認知度が増すだろう。 =聞き手は日経QUICKニュース(NQN)尾崎也弥 =随時掲載

平成・危機の目撃者➏ 市東久が見た天安門事件(1989)

「有事のドル買い」の構図いまも 戦争や政治的な混乱の際に米国にマネーが向かう「有事のドル買い」は、1989(平成元)年の天安門事件まで定石だった。以後は米同時多発テロ事件や中国の台頭によって鳴りを潜めるが、市場では「基軸通貨であるドルの優位性は損なわれていない」との声が根強い。2018年にディーラー生活40周年を迎え、金利と外国為替の市場を縦横無尽に駆け続ける「生き字引」である市東久クレディ・スイス銀行東京支店長もそうみる一人だ。 市東久氏 しとう・ひさし  1976年に東京銀行(現三菱UFJ銀行)入行。78年から本店為替部の為替課でディーラーとしてのキャリアを開始。6年間のロンドン支店勤務中は、王立取引所で始まったロンドン国際金融先物取引所(LIFEE)の立会場の公認フロアトレーダーとして公開セリ売買方式での先物取引にも携わった。帰国後は国債トレーディング業務に従事し、ヘッジファンドを経て92年にクレディ・スイス・ファースト・ボストン銀行(現クレディ・スイス銀行)に移籍。金利裁定(アービトラージ)のディーラーとして短期市場ではその名を知らない人はいないほどの有名人で、今も現役で活躍。愛読書は新渡戸稲造の「武士道」 ◆「円買い」には違和感 1989年6月の天安門事件で円相場は1ドル=142円前後から150円をうかがう水準まで下げた。天安門広場で中国の民主化運動が武力で鎮圧され、学生のデモ隊に戦車が突っ込んだ映像は世界に衝撃を与えた。この少し前、ドルは緩やかな下落基調で、数億ドルものドルの買い持ちを抱えていた自分は苦しかった。過去に積みあげた「含み益」は毎日100万ドル単位で目減りしていく。天安門の後のドル高は苦境を打破できた点でも鮮明に記憶に残っている。 今のところこれを最後に有事のドル買いは起きていないが、構図が変わったわけではない。例えばもし朝鮮半島が有事となったら円はどうなるだろうか。地理的に近い日本の円を持ちたくないとの空気が広がり、大きな金融機関や投資家を中心に円を売ってドルを買う判断に傾いてもおかしくないとみている。 経済評論家などが最近「有事の円買い」を乱発しているのを聞くと違和感を覚える。有事とは、戦争など安全保障上の重大な危機が起きたときに投資資金が逃避先を探し回るような状況を指す。例えばどこかの超大国の主要都市にミサイルが着弾するといった強烈なインパクトを持つ事象だ。 現在の円買いは国際分散運用を手掛ける投資家が円の減価に備える目的で、資産の一部を整理して円に戻しているにすぎない。巨大な対外債権国の日本にお金が回帰しやすい面はあっても、有事のリスク回避に伴って円が買われているわけではない。こうした点をきちんと理解したうえで解説者は有事の円買いという言葉を使っているのだろうか。とても不安になる。 ◆流動性リスク対処、受け継がれぬ経験 風化のリスクは有事のドル買いに限らない。市場の混乱局面には経験豊富なベテランの存在が必要だが、足元では日銀の緩和長期化による市場縮小に見舞われた短期金融市場を中心に、ノウハウがまったく引き継がれず危機感を抱いている。具体的には流動性リスクへの対処だ。 1990年代後半の日本の金融危機を生き抜いたわれわれの世代は信用不安と流動性枯渇の恐ろしさが身にしみている。2008年のリーマン・ショック前後でもまずドルの手元資金を厚めにした。欧米金融機関がドルの調達に苦しみ、銀行間の取引金利が上がっていくとすぐにイメージできたからだ。 一方、大手米銀は為替フォワード(スワップ)を通じて日米金利差の拡大に賭ける取引を先行させた。ドルを直物で売って先物で買い戻すもので、これをするにはドル資金をきっちり確保しておかなければならないのにしていなかった。結果的にとんでもない高いコストでドルを借りるハメになり、大きな損失を出した。逆にドル保有者のこちらは1日で数百万ドルほどの利益を計上した日もある。経験の差が物を言った好例だろう。 日本の短期市場では資金が潤沢で金利のない世界が長期化し、人員を配置して大々的にディーリングをする必要がない環境が当たり前になっている。経験者や専門家がいなくても何とかなっているものの、それこそ有事で右も左もわからなくなるリスクと背中合わせだ。 日本が量的金融緩和政策を解除して3度目の利上げ(初回は2006年、2回目は07年2月)のタイミングを測っていた07年3月1日、日銀主催の短期金融市場フォーラムで外国銀行の代表として提言をした。当時の中曽宏金融市場局長(後に日銀副総裁、現大和総研理事長)とも日銀の出口政策に向けて意見を交わした。無担保コール翌日物金利が0.001%に張り付き、既に短期市場がしぼんでいたので、経験者を市場に呼び戻す重要性についても語り合った。 中曽氏とやりとりをしてからさらに10年以上がたった。日銀が異次元の緩和策に足を踏み入れるにいたり、事態は一層深刻になってきたようだ。 ◆緩和が長期化、難しい時代に 日銀が異次元緩和に踏み切る前のことだ。日本の銀行は国内の融資ニーズが細って収益を上げられなくなるので、いずれ海外シフトしてドル建ての投融資を増やすと想定していた。ただ欧米の短期金融市場で簡単には直接ドルを借りられない地方銀行などがドル調達のため、手持ちの円を売ってドルを買おうとすると、ロンドン銀行間取引金利(LIBOR)比で0.80%前後も高い金利を払わなければならなかった。 ドル調達のコストが高すぎて運用しても収益を得られなくなったり、損失が出たりすれば投融資自体をやめざるを得なくなる。欧米銀が信用リスクを感じればドルを貸してくれなくなるかもしれない。ただでさえ米連邦準備理事会(FRB)が緩和からの「出口」に向かっているところだ。懸念は一昨年ぐらいから現実になり始めている。 数年前、前日銀総裁の白川方明氏と話をする機会があった。白川氏も自分と問題意識は一緒だった。貸出先を求めて海外へ打って出るとしても、資金調達やリスク管理のノウハウがなければうまくいかないだろうと心配していた。だが、経験はいっこうに蓄積されない。 1997年の金融危機の前の無担保コール翌日物金利は4%以上だった。2001年の量的緩和策の導入とともに0.001%になったとき、ものすごく小さな金利という意味で「ピーナツ」と海外の仲間にからかわれたのを覚えている。それがまさかマイナスになるとまでは当時は考えていなかった。 円金利単独での投資は基本的にはすることがない。フォワードで米金利の上下動に着目する戦略は引き続き有効だが、ドル資金の流動性の問題が出てくる。リスク管理の制約もきつい。 難しい時代になった。それでも有事にどう備えるべきかを常に意識しながら市場と向き合い続けたい。 =聞き手は日経QUICKニュース(NQN)菊池亜矢 =随時掲載

証券営業の凄腕たち【Episode3】何度も対話、顧客回り5年半で地球9周分

証券営業の凄(すご)腕担当者に情報収集や銘柄選別法の極意を聞く「証券営業・私の戦略」、3回目は野村証券ウェルス・パートナー課の課長、並木孝裕さん。自ら重要顧客の対応をしつつ営業統括として支店営業の責任を負うベテランだ。地方支店時代、地球約9周分の距離を営業車で回ったエネルギッシュさに加え、株価や金利を含め常に30~40種類の経済指標をチェックしデータを根拠に商品提案する緻密な営業スタイルが、顧客の信頼を獲得している。 野村証券 並木孝裕氏 なみき・たかひろ  2002年明大卒、日興コーディアル証券(現SMBC日興証券)入社、吉祥寺支店に配属、09年3月に同社を退社し、同年4月野村証券入社、本店ウェルスマネジメント部に。12年3月から約5年半の新潟支店時代を経て17年8月渋谷支店、現在はウェルス・パートナー課長として支店の営業を統括。これまで営業部門長表彰(旧CEO表彰)8回受賞、お客様満足度調査入賞1回。39歳、埼玉県出身 ――顧客対応で心掛けていることはありますか。 「電話でのご連絡ももちろんですが、直接お会いして顔を見て話をするのが基本です。約5年半の新潟支店時代、クルマの運転距離は約35万キロメートル。地球9周分くらいお客様先を回りました。何度も会話をして心の底で考えていることを聞ける関係になってもらうことが重要です。自分がされて嫌なことは絶対にしません。『何日までに返事をします』とご回答いただいた時期までは一切連絡しません。若いときには数字ほしさに事前に連絡をしてしまいがちですが、急(せ)かされたお客様は嫌な思いをします」 「また我々がもつ情報を分かりやすく伝えたうえで、お客様自身にきちんと判断していただかなくてはいけません。たとえば投信ですが、信頼できるファンドが運用している商品は、株価が上がった銘柄の保有比率は上がり、下がった銘柄の保有比率は下げていることが後の運用報告書で分かります。そうした事実を3カ月から半年かけて見てもらったうえで商品提案すれば、納得して購入してもらえます。単純に株価が上放れしたから買いましょう、下抜けしたので売りましょうという提案スタイルでは、高い手数料を払ってまでなぜその商品をいま買わなくてはいけないのか、お客様にわかってもらえません。手数料を払ってでも購入してもらえる根拠を示す必要があります」 30~40種類の指標に目配り、データで提案 ――情報収集面ではどのような指標に注目していますか。 「世界経済の中心である米国の指標は影響が大きいので特に気にして見ています。失業率や賃金の上昇率がわかる雇用統計や新規失業保険申請件数を見て、いまお金が使える環境にあるのかを考えます。米国の家計の資産と負債の比率もチェックしますし、消費者信頼感指数やISM製造業・非製造業景況感指数、小売売上高はもちろん、自動車と不動産関連などの指数を見ます。住宅指標に関しては新築住宅着工件数や許可件数のほか、中古住宅の在庫と価格の推移も確認します」 「金融政策では米連邦準備理事会(FRB)のHPをみます。償還を控えたレポ取引がどのくらいあるかなどを開示しているからです。米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事録もそうですが、影響力のある人の発言は確認します。バルチック海運指数やダウ輸送株指数も含め、忘れない限り全部拾うようにしています。確認する指標は株価や金利も含めると30~40種類になるでしょうか。話題性のある市場・金融関係者が配信しているメールマガジンもいくつか読んでいます」 ――市場に変動があったときはどんな指標を注視しますか。 「(相場の変動率を示す)VIX指数は毎日見ています。特段の材料がなくても何か起きるときに激しく反応する指標もあります。たとえば企業のCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)市場。リーマン・ショックが起きるときにCDS市場で保証料率が急上昇したことが強く記憶に残っています。金利については10年債の金利ではなく、1カ月先、3カ月先のロンドン銀行間取引金利(LIBOR)を見ます。金融機関同士のお金の貸し借りの金利であるLIBORは、金融危機時に信用リスクが上がっている貸付先の金利上昇を受け、高まるからです」 過去の金利観を基に相場観を共有 ――日ごろ株価の分析で役に立つノウハウがあれば教えてください。 「1株あたり利益(EPS)と株価収益率(PER)の推移を確認しています。企業が今期、来期とどのくらいの利益を出せるのか見たうえで、過去のPERの水準と比較して売られすぎていないか考えてみます。現状では日本企業も米国企業も利益がかなり出ているので、お客様に訴える一つの指標になります」 「過去の金利観をしっかり持っていることも大切です。1980年台末のバブルの時は非常に金利が高かった一方で、株式の配当利回りは0%台でした。現在は当時と比べ金利は下がり、自社株買いをする企業も増えて配当利回りは高くなっています。こうした経緯を考えれば、いまは株の方が割安だとも考えられます。EPS、PER、金利の推移をチャートで示してお客様に見せると納得してもらえることが多いです。しっかり説明し相場観をきちんと共有しているので大きな金額を預けてもらえます」 ――営業統括として顧客からの苦情対応も多いのでは。 「きっかけを尋ねると、9割方こちら側に落ち度があります。たとえば担当者が会いにもいかずにいきなり目論見書を送りつけてきたという場合や、会いに来てほしくはないが市場が動いたときに電話くらいほしいというケースもあります。理由は様々ですが、間違いなく言い分があります。とにかく感情的にならずその言い分がわかるまで話を伺い続けることが重要です。ひとつひとつ丁寧に応えていけば、関係が好転するのは早いです。実際、一時期関係が思わしくなかったのに現在は100億を超える運用を任せてくれるようになったお客様もいます」 落ち着いた口調ですらすらとこちらの質問に的確に回答する並木さん。30代とは思えない安定感は、2013年下期から8期連続で部門長表彰を受けてきた自信に裏打ちされている。新しい担当になってから実績が表れるまでは1年半くらいの時間を要するという。時間を掛けて顧客との関係性をしっかりと構築している証拠だろう。業務に関わるものから話題のものまで週2冊、月に8~10冊の本を読んでいるという並木さんは人口動態から仮想通貨まで幅広い知識を持つ。結婚式の翌週には新聞広告を見て転職を決めるなど、ここぞと言うときは大胆な一面もある。〔日経QUICKニュース(NQN) 神宮佳江〕 =随時掲載

LIBOR上昇で円債回帰か、10年債入札は強い結果に

財務省が3日実施した10年物国債の入札は、強い結果となった。ロンドン銀行間取引金利(LIBOR)の上昇に伴い、ドルの調達コストが高まったことで、国内金融機関が外債投資を抑えて円債に回帰するとの見方が強まっている。これが2018年度最初の10年債入札での需要の強さにつながった。 償還時期と利率が350回債と同じ「リオープン発行」となった今回の入札は、最低落札価格が100円66銭と市場予想の中央値(100円65銭)を上回った。応札額は7兆4458億円、落札額は1兆7897億円で応札倍率は4.16倍だった。 応札倍率は3月の前回入札での4.53倍を下回った。だが例年、年度初めの入札は前の期末の債券需要が一巡した直後のため、投資意欲が後退する傾向がある。年度初めという同じ時期の応札倍率を振り返ると、今回は14年4月の4.76倍以来、4年ぶりの高水準だった。このため債券市場には「かなり強い結果だった」(国内証券のストラテジスト)との評価があった。 強かった需要の背景には、国内勢が外債投資を控え円債に回帰するとの思惑がある。国内勢による外債投資は、まずドルを調達しなければならず、その際にはLIBORに一定水準を上乗せした金利を払う。2月下旬に1.9%台だったドルのLIBOR3カ月物は現在、2.3%台に急上昇している。外債投資のコスト上昇が、円債への回帰を促すという読みにつながっている。 減税により、海外で抱えるドル預金を米国内に戻す米国企業が増えている。この結果、海外の金融機関は減ったドル預金を穴埋めするために短期金融市場でのドル調達を増やしている。こうした動きがLIBORを押し上げている。 財務省は18年度、通常入札による国債の市中発行額を約7兆円減らす計画だ。供給が減る一方で、日銀による買い入れオペは続いている。需給の引き締まりが債券相場を支える(利回り上昇を抑える)との見方は多い。長期金利の指標である10年債利回りは3日の入札後、前日比0.020%低い0.025%まで低下し3月26日に付けた今年の最低水準0.020%が近づいている。債券市場では「今後も利回り低下が見込まれるなら、今の水準でも魅力的」(東海東京証券の佐野一彦チーフ債券ストラテジスト)との声があった。 【日経QUICKニュース(NQN) 荒木望】 ※日経QUICKニュース(NQN)が配信した注目記事を一部再編集しました。QUICKの情報端末ではすべてのNQN記事をリアルタイムでご覧いただけます。

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