銀行営業の凄腕たち【Episode1】差別化難しい為替はアイデア勝負

金融営業の凄(すご)腕たちは、銀行にもいる。三井住友銀行で市場営業推進部の副部長を務める松本興治さんは、機関投資家や事業法人などの顧客に外国為替に関連する商品を提供する為替営業のスペシャリストだ。1998年からのキャリアは既に20年を超える。市場参加者が極めて多く、様々な要因で動く外為市場で生き残るには冷静な状況分析と決断力が欠かせない。穏やかな表情で的確に言葉を紡ぐ松本さんの顔には、顧客からの信頼の厚さがにじみ出ている。 三井住友銀行 松本興治氏 まつもと・こうじ  1993年慶大卒、同年4月にさくら銀行(現三井住友銀行)に入行。98年から為替営業に携わる。2011年よりシンガポールに駐在し、19年4月に帰国して市場営業推進部の副部長。父も銀行員で幼少時を海外で過ごした   誰よりも早く顧客ニーズを発掘 ――そもそも、為替営業とは何ですか。 「為替(直物と先物)と外貨預金、デリバティブ(金融派生商品)を顧客に販売します。主に取り扱っているのは為替先物で、顧客が指定した期日にドルと円を交換するものです。輸出企業であればドル売り・円買いとなります。さらにデリバティブを組み込むことで多様な為替リスクヘッジ(差損回避)のニーズに対応しています」 「銀行らしく顧客の業種は様々で、機関投資家、総合商社、その他事業法人など多岐にわたります。海外取引に関わる非常に多くのお客様に取引していただいています。規模も大企業から中堅・中小企業まで様々です。海外に進出する顧客が増えているので、それぞれの国で発生する現地通貨での為替変動リスクなどもろもろのエクスポージャー(リスクの度合い)をどう管理すればいいかなどを提案しています」 ――為替は株のように銘柄の数で勝負できない分、商品の差別化は難しいように見えます。 「さらにいえば相場動向などメディアやソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)で情報があふれている分野を扱うため、単純に『こんな商品があります』と売るのではまったく違いは出せません。提供できる商品やプライスに他行との差はほとんどないので、差別化は確かに難しいです。とすれば、同じ為替予約でも、顧客が本当に求めているニーズがどこにあるのかをいち早く正確に把握することが重要になります」 「駆け出しのころは数多くの商品をひたすら説明し、顧客に選んでもらっていました。当時の上司からは『お客様のニーズに沿う商品は何なのか、自分で仮説を立ててから提案しなければだめだ』と叱られたのを覚えています。ただあるとき、『支払いも受け取りも円だから為替リスクはない』と言うお客様の話をよく聞いてみると、毎月の円の支払金額が変動していることに気づきました。ドルを円換算して支払っているだけだったのです。これでお客様のニーズに沿った提案ができると悟れた気がします」 「そこで支払いの『建値』を円からドルに変え、為替リスクを管理できる仕組みを作りました。シンプルといえばシンプルな営業ですが、顧客とじっくり対話をしていたからこそだと思います。複雑にみえるデリバティブの営業もその延長線上にあるのです」 年始の円高、指し値注文に再び脚光 ――最近の顧客ニーズに変化はありますか。 「年明けに一瞬、急激に円高・ドル安が進みました。最近は、相場が急変動したときでも対応できるよう、顧客にはリーブオーダー(指し値注文)を勧めるようにしています」 ――年初は「フラッシュ・クラッシュ」と呼ばれる円高方向への瞬間的な動きで、相場はすぐに反転しましたが、いずれにしろ「転ばぬ先のつえ」の認識は必要なんですね。 「相場はどう突き詰めても100%の正解はありません。だからリスクに備えましょうと語り続けることが大事です。1月以降、顧客の間ではリーブオーダーに対する意識が高まり、注文が増えてきました。このことが市場の厚みにもつながっているのではないでしょうか」 ――日本企業のアジア進出でアジア関連ビジネスが拡大しているのではないですか。 「シンガポールの駐在経験が長かったのですが、この8年間でアジア通貨のニーズが格段に増えたと感じます。シンガポールドルやタイバーツ、インドルピーなどの扱いが急拡大しました。肌感覚としてアジア通貨の取扱量は3倍くらいになっているのではないでしょうか。取り扱う通貨も8年前に比べると多種多様になり、新興国通貨の相場見通しや新興国の為替オペレーションの仕方に対する情報提供を求められることも増えました」 「ひところは長期為替やオプション付きの外貨預金など投資絡みも含めて複雑なデリバティブ商品がはやりました。ですが自分は、ヘッジ商品に限れば極力簡潔なほうがいいと考えています。顧客だって複雑な商品でないほうが安心できるはずです」 「仕組みを理解しやすくリスクを平準化した商品で、ヘッジ効果を最大限高めていく。アイデア勝負でこれからもお客様に最高の価値を提供していきたいですね」 〔日経QUICKニュース(NQN) 菊池亜矢、矢内純一〕 ※日経QUICKニュース(NQN)が配信した注目記事を一部再編集しました。QUICKの情報端末ではすべてのNQN記事をリアルタイムでご覧いただけます。

円、波乱前提のオプション衰退 値動き1円でも大相場の時代

外国為替市場で世界的に円相場の膠着が続いている。マイクロ秒単位で売り買いを繰り返す高頻度取引「HFT」やHFT並みの高速売買をする個人の外為証拠金(FX)投資家の存在感が相変わらず大きく、もともと動きが小さかった東京市場に限らず欧米の取引時間帯でも「たかが1円動けば大相場」となっている。オプション市場では「ストラドル」や「ストラングル」と呼ばれる相場の波乱を前提とする取引の影が薄れている。 電子ブローキングシステム(EBS)のデータから3~4月の円の日米欧市場を通した日通し値幅をみると、米金融政策と世界景気の先行き不透明感が強まった3月20日と22日の1円10銭台が目立つ程度。4月に入ってからは1日と11日の70銭台が今のところ最も大きい。円が1ドル=111~113円台で停滞していた昨年10~12月と似た状況だが、今月は値幅が50銭に届かなかった日が12日までの10営業日で6営業日もある。 オプション市場では円の上値の重さが意識され、円高の為替差損リスクを回避(ヘッジ)する目的の取引が細って予想変動率(IV)の低位安定をもたらしている。IVの1カ月物は前週後半に4.7~4.8%台と、過去最低を付けた2014年夏以来の低さになった。大相場を前提とするオプション戦略に適した環境にはない。 ストラドルの買い手は権利行使価格が同じプット(売る権利)とコール(買う権利)を同額購入し、ストラングルは権利行使価格をやや離してプットとコールを求める。いずれも相場がどちらかに振れさえすれば利益を積みあげられるため、直物でも積極的に持ち高を傾けて収益の最大化を狙う。だが、その戦略が一昨年あたりからなかなかうまくいかなくなってきた。 「ストラングルやストラドルはむしろ、波乱なしを前提に売る参加者が増えている」(外国証券のオプションディーラー)という。15日の東京市場で円相場は一時1ドル=112円09銭近辺と前週末のニューヨーク市場で付けた3月以来の安値水準に並んだが、下落ペースは依然として緩やかだ。オプションの売りは行使されたときのリスクが極めて高いものの、背に腹は代えられない――。そんな空気が広がっている。 【日経QUICKニュース(NQN ) 今 晶】 ※日経QUICKニュース(NQN)が配信した注目記事を一部再編集しました。QUICKの情報端末ではすべてのNQN記事をリアルタイムでご覧いただけます。

HFTの取引膨脹がボラ低下要因に ユーロ、強弱の材料綱引き

外国為替市場でユーロの対ドル相場の変動率(ボラティリティー)が低下している。ユーロは対ドルでは円よりも市場規模が大きく、マイクロ秒単位での売り買いを繰り返す高頻度取引(HFT)の主戦場の1つだ。材料の決定力不足からHFTの存在感が増し、その結果ボラティリティーは上がりにくくなっているようだ。 将来の為替レートを予測する通貨オプション市場で、ユーロの予想変動率(IV)1カ月物は足元で6%前後と昨年8月の「トルコショック」直前の水準まで下がってきた。相場膠着ですぐに連想するのは円相場だが、その円のIV(1カ月物)は5%台半ば程度なので実はさほど変わらない。 ■ユーロの予想変動率(対ドル、1カ月物) 直物のユーロの対ドル相場はここ1カ月ほど1ユーロ=1.12~14ドル台のレンジで推移している。米国の利上げ停止観測やドイツ経済の先行き不透明感から一時は派手に動いたが、「ユーロ高とユーロ安の要因が混在しているため、長めのスタンスで取引する投資家はあまり持ち高を傾けられない」(外国証券の為替ディーラー)情勢だ。それでも事業法人の決済絡みなどで常に多額のお金が行き来する市場だけに、注文はコンスタントに入ってくる。 そこでHFTの出番だ。既に存在する買いや売りに対して素早く反対の注文をぶつけ、目にも止まらぬ速さで持ち高を回転させていく。極めて高い頻度でまとまった規模の取引を行うため、相場の上下両方向に高い壁を作り変動のハードルを上げる。 オプションの需給面ではユーロ・プット(売る権利)需要のほうが強いものの、偏りは6カ月物~1年物でも0%台と大きくはない。主要国ドイツでの経済指標の悪化は気掛かりだが、ドイツは世界有数の経常黒字国でもある。ベテランの為替ディーラーからは「不況でもマネー回帰に伴う通貨高を招いた日本の記憶がよみがえる」との声が出ている。ベテランがサポートするコンピューター取引「アルゴリズム」などの戦略は一筋縄では行かないだろう。 【日経QUICKニュース(NQN ) 今 晶】 ※日経QUICKニュース(NQN)が配信した注目記事を一部再編集しました。QUICKの情報端末ではすべてのNQN記事をリアルタイムでご覧いただけます。

深読み裏読み、為替報告書に戦々恐々の円相場 米政権の本音どこに

16日の東京外国為替市場で円相場は反落したが、午後にかけては底堅さが目立った。日経平均株価の上昇に伴い円売りが増えてもおかしくはないところだが、近々公表が予想される米国の半期為替報告書に円買いを誘う内容が含まれるかもしれないとの思惑から、市場参加者は円売りへの慎重姿勢を崩せずにいる。 16日の東京市場での円の安値は1ドル=112円10銭台。前日17時時点の比較では30銭程度の円安水準にとどまる。為替報告書待ちの空気がある中、米国とサウジアラビアの関係悪化に対する懸念もくすぶったままで「積極的にリスクをとれる環境にはない」(みずほ証券の鈴木健吾チーフFXストラテジスト)という。 今回の米為替報告書での焦点は、中国が為替操作国に認定されるかだ。市場では「米国は中国の為替操作国指定は見送り、人民元安のけん制にとどめる」との見方が増えている。一部メディアが「米財務省職員がムニューシン財務長官に中国は人民元を操作していないと報告した」と報じたことが根拠となっているようだ。それでも「トランプ米政権が貿易不均衡を是正するために中国を標的にする可能性は残る」との警戒感は解けていない。 トランプ氏が対中貿易赤字を減らす構えを示し続ける限り、同様に対米黒字が多い日本にも矛先が向かいかねない――。外為市場ではそんな深読みが出ている。「為替操作国に指定するための条件が変わるのではないか」、「円の実質実効レートの低さを改めて指摘し、暗に円安進行をけん制するのではないか」といった観測が聞かれる。 大和証券の亀岡裕次チーフ為替アナリストは「為替報告書はかつては『景気の下支えを金融政策に頼りすぎないよう財政も活用したバランス良い施策を』と促したことがある」と振り返る。そのうえで「今回、間接的にでも金融緩和にまで言及すれば、日銀が緩和を続けにくいとの連想を誘っておかしくない」と話していた。 ふたを開けてみれば報告書の内容は想定の範囲内で、懸念払拭により円売り・ドル買いが膨らむ展開もあり得る。だがトランプ氏の本音はどうなのか、すぐには判定できそうにない。米中間選挙を3週間後に控えた現状で、思い切ったリスク運用や円売りにはかじを切りにくい。そんな空気が市場全体に流れている。 【日経QUICKニュース(NQN ) 蔭山道子】 ※日経QUICKニュース(NQN)が配信した注目記事を一部再編集しました。QUICKの情報端末ではすべてのNQN記事をリアルタイムでご覧いただけます。

外為ディーラーは狩猟民族たれ by 小池正一郎氏(シリーズ:ベテランに聞く)

狩猟民族の心構えがなければディーリングには勝てない――。市場のベテランに相場との向き合い方を聞く「ベテランに聞く」の第2回はグローバルマーケット・アドバイザーの小池正一郎氏。外国為替市場の生き字引で円が変動相場制に移る以前から市場に関わってきた小池氏は、日本人が好むレンジ前提で相場の流れに逆らう取引の「待ちの姿勢」を批判する。そのままでは欧米投機筋などの執拗な順張りには到底太刀打ちできないという。【聞き手は日経QUICKニュース(NQN)編集委員=今晶】 小池正一郎(こいけ・しょういちろう)氏 1969年に長銀入行後、外国為替畑を主に歩き、2度のニューヨーク支店経験をもつ。長銀証券を経てスイスUBS銀行外国為替本部の在日代表に就いた後、米シティバンク・プライベートバンクに移籍。2006~15年に国際金融情報コンサルティング会社のプリンシパリス・日本代表を務め、現在にいたる ■徹頭徹尾アグレッシブなスタイル 高収益を目指すにあたって必要な心構えはいくつかあるが、その1つが「市場は狩猟民族が仕切る」との認識だ。著名投資家ジョージ・ソロス氏にせよ、ジム・ロジャーズ氏にせよ、そのトレードスタイルは徹頭徹尾アグレッシブだった。狙った獲物をどこまでも追いかけるように、相場の流れに乗る順張りを突き詰めてくる。 苦い経験がある。日本長期信用銀行(現新生銀行)のニューヨーク拠点でトレーダーをしていたときだ。ドルが対円で上げ始めた局面で、なじみの外国銀行ディーラーからレートを出すよう求められた。ドルの売りと買い双方のレートを示すと彼は買ってくる。しばらくするとまた彼から再びレートを出せと言われ「さらに買われると困るからややドル高にしよう」とレートを提示するとちゅうちょせずに買う。その後間を置かずに再び彼から呼ばれ、かなりドル高の水準を示したにもかかわらずたたみかけて買ってくる。 海外勢のこうした買いによってドルは上昇する一方だったが、売り手に回ったこちらは含み損でノックアウト寸前。「狩猟民族はこういうものか」と心底怖くなった。 足元では狭い範囲で売り買いを繰り返す機械取引の「HFT」が増えてきたものの、欧米勢の基本的なマインドは変わっていないはずだ。ここ数年だと2016年の英国による欧州連合(EU)離脱決定やトランプ相場などで一度動きが出ると、狩猟民族の強みをいかんなく発揮する。軽い気持ちで逆張りをすると大けがしかねない。 ■高いところにお金が流れる 相場予想をする際にまず押さえておきたいのは「高いところにお金が流れる」との原則だ。高い低いの判断基準は安全性と成長性、利殖性の3つ。安全性には市場規模の大きさや取引の自由度をあらわす「流動性」の概念を含む。 有事の際に円買いが進むのは、日本が国として安全だからではなく、円の流動性が高いためだと理解すべきだろう。利殖性は一般市民の目線で、名目金利から物価上昇率を差し引いた「実質金利」の高低が深くかかわってくる。 この原則を18年の相場に適用すると、米ドルと米国株が有望とみている。市場では米利上げが米景気を冷やすとの懸念がくすぶっているものの、米経済指標は今のところ堅調で、景気の腰は相当に強いのではないか。米株式相場の上昇局面はまだ続くと思う。 次に相場は生き物であり、勢いの強弱について常に意識しなければならない。例えば幼、青、壮、老の4段階に分け、現在どのレベルにいて基調転換の可能性がどの程度高いかを考えていく。市場は群集心理に左右されるので、参加者が何を注視しているのか、いち早く情報を得る努力も必要だ。 ■地球儀を眺める気持ちで視野を広げよ 「地球儀の上に立って世界を眺めろ」。いつだったか、米バンカース・トラスト(現ドイツ銀行)の名物ディーラーがこんなアドバイスをくれた。外為市場の中心はユーロの対ドル取引やドルの対円取引で、日本人に限らず円、ドル、ユーロの主要3通貨ばかり見てしまいがちだ。だが他にも収益源はいっぱいある。 2回目のニューヨーク赴任後、のちにソロス・ファンドのアドバイザーを務め、ソロス氏による1992年の英ポンド売りの舞台裏をよく知るリチャード・メドレー氏(故人)と親しくなった。メドレー氏がごく限られた人数向けに開いたパーティーで、デビッド・マルフォード氏(元米財務次官)などの「通貨マフィア」(通貨当局の事務方の幹部)に近づけた。ヘッジファンド業界のことも深く知り、視野が急速に広がった。メドレー氏がその後、調査会社を立ち上げ、市場に影響を与えたのは周知の通りだ。 インターネット全盛の現代は情報があふれていて、玉石の見極めはかなり難しい。既に通貨マフィアの時代ではなく、政府や中央銀行、民間金融機関はコンプライアンス(法令順守)の制約がきつく、昔のように独自に質の高い情報を得られることはなくなった。ただ、人でもメディアでもいいので、信頼できる情報源を1つでも作っておきたい。 個人的なおすすめは英エコノミスト誌だ。記事は長くて小難しいが、表紙などの風刺画に政治や経済、市場の本質がうまく表現されている。それを見るだけでも参考になる。 (随時掲載)  

【アルゴウオッチ】 円売り戦略中断、ドル買われすぎを警戒

外国為替市場でコンピューターを用いたアルゴリズム取引による円売り・ドル買いの勢いが収まり、円相場は1ドル=109円前後でいったんもみ合っている。コンピューターに組み込まれたテクニカル分析のシステムが「ドルの買われすぎ」(オーバーシュート)を示し始めており、ドル買いを止めた投資家も少なくない。前週半ばまでのドル買いで、米国の長期金利上昇が米経済に悪影響を及ぼすリスクをあまり考慮してこなかったという側面が、改めて意識されつつある。 金利上昇は良好なファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)を素直に映せば通貨高の要因だが、インフレや財政収支の悪化懸念などが背景なら国外へのマネー流出を伴って通貨安を促す構図も見逃せない。 4月27日からわずか1週間で12.75%もの利上げに踏み切ったアルゼンチンは「悪い金利上昇」の典型だ。高金利でペソ安阻止を狙う。それでもアルゼンチン国民が先行きを案じてドル建て資産などにお金を移し続ければペソの一段安は避けられない。 アルゼンチンは極端な例としても、トランプ米大統領が輸入制限や強硬な中東政策を通じて米国にインフレをもたらす可能性は否定できない。ニッセイ基礎研究所の上野剛志シニアエコノミストは「イラン情勢がさらに緊迫し、3年5カ月ぶりの高値圏で推移するニューヨーク原油先物がここから10ドル程度上振れすれば米景気への打撃は避けられない」と話す。 アルゴのエンジニアには市場経験の浅い人が多く、彼らの背後をベテランのトレーダーや元トレーダーが固めている。ベテランは「金利の良しあし」に神経質で、ドル高基調が本当に続くのか懐疑的にみている。このため「ドル相場の目標上限は低めに抑える傾向がある」(外国証券の顧客担当ディーラー)という。 野村証券の高田将成クオンツ・ストラテジストは2日の時点で「1ドル=110円よりも安い水準での定着には、商品投資顧問(CTA)などアルゴ勢による円の売り持ち転換が条件になる」と指摘していた。米商品先物取引委員会(CFTC)が4日に発表した1日時点の建玉報告で、CTAなどの投機筋を示す「非商業部門」の円の持ち高は5週ぶりに売り越しに転じたものの、その幅は1405枚と小さかった。3日以降は円が上昇したため、投機筋は再び円の買い越しに転じたと考えられる。 野村の高田氏は「対ユーロや対英ポンド、対オセアニア通貨で加速した米ドル高が円高・ユーロ安などにつながり、対ドルの円売りを仕掛けにくくした」とも指摘する。円高は投資家のリスクをとる姿勢の後退を意識させ、「悪い金利上昇」への懸念を助長する。4月の米サプライマネジメント協会(ISM)景況感指数の低下や同月の米雇用者数と平均時給の伸び鈍化も気掛かりだ。アルゴが円売り・ドル買いを再開するためのハードルは上がったようだ。 【日経QUICKニュース(NQN ) 今 晶】 ※日経QUICKニュース(NQN)が配信した注目記事を一部再編集しました。QUICKの情報端末ではすべてのNQN記事をリアルタイムでご覧いただけます。

【アルゴウオッチ】麻生財務相が辞任否定 変動率低下でHFT拡大

外国為替市場で円相場やユーロの対ドル相場といった主要な取引ペア(組み合わせ)の変動率が低くなってきた。トランプ米大統領がアルミニウムや鉄鋼の輸入制限で例外をもうけるなど寛容な姿勢を見せ始めたのに加え、国有地売却の決裁文書を巡って激震が走る国内でも麻生太郎財務相が自らの辞任を否定したことで金融・資本市場の緊張がひとまず和らいだためだ。低い変動率を好むHFT(コンピューター経由の高頻度取引)が拡大し、レンジ形成を促す流れになっている。 将来の為替レートを予測する通貨オプション市場で、円相場とユーロの対ドル相場の予想変動率は13日9時時点で1カ月物がそれぞれ7%台後半、6%台後半と、前月2月の米株価急落時などに付けたピークの10%台半ばと9%台後半よりも3%程度低い。 ■円相場と対ドル円相場の予想変動率 2月の米株安のきっかけの1つだった米金利上昇への警戒感も足元では緩んだ。米株式投資家の不安心理を測る指標とされるVIX(変動性指数)は前日12日の終値が15.78と、2月に40を一時超えていたのに比べればだいぶ落ち着いている。 HFTはマイクロ秒(100万分の1秒)以下の単位で小刻みに売り買いを繰り返す。値動きは狭ければ狭いほど都合がよく、水準はあまり関係がない。いったん取引規模が膨らめばそこで売買が交錯し、相場は膠着感を強めていく。もし円高・ドル安方向でHFTが席巻すれば、円は高値圏に定着することになる。 VIX安定が映す投資家のリスク選好回復は本来、日本から欧米などへの資金シフトを促すはずだが、国内では学校法人「森友学園」を巡って政治状況が緊迫。「国会空転の長期化や内閣支持率の低下で安倍晋三政権とアベノミクスが動揺すれば株安・円高に発展する」(SMBC日興証券の野地慎・チーフ為替・外債ストラテジスト)との懸念が消えていない。 国内の機関投資家は年度末でもあり、新規の外債運用には及び腰のようだ。半面、世論調査の結果が厳しくなるまでにはタイムラグが生じると考えられる。 JPモルガン・チェース銀行の佐々木融・市場調査本部長は「海外ではまだ森友問題を深刻にはとらえていない」と話す。麻生財務相が前日、自らの進退について「考えていない」と答えた影響もあるのだろう。逆に麻生氏の辞任が現実味を帯びてきた場合には、HFTがレンジ前提のディーリングから撤退し、相場が大きく振れる展開が予想される。 【日経QUICKニュース(NQN ) 今 晶】 ※日経QUICKニュース(NQN)が配信した注目記事を一部再編集しました。QUICKの情報端末ではすべてのNQN記事をリアルタイムでご覧いただけます。

円が105円台接近、リスク選好でも上昇 日本政府の円高容認観測も

外国為替市場で円高・ドル安に再び拍車がかかった。15日の東京市場では一時1ドル=106円30銭近辺と2016年11月以来、約1年3カ月ぶりの高値を付けた。前日14日までとの大きな違いは、日米株高や変動性指数(VIX)低下で投資家のリスク選好意欲がだいぶ戻ってきたにもかかわらず、「低リスク通貨」の円に買いが進んだことだ。リスク選好の取引は主に対欧州通貨でのドル売りに集中し、対円のドル売りに波及しやすくなっている。   米株式相場は今週に戻り歩調を強め、14日まで4日続伸した。前週までの株安の引き金となったVIXは20を割り込み、投資家の不安心理が落ち着いたことを示すゾーンに入った。そこで為替市場の参加者はどう動いたか。円を売ってドルを買うよりも先に、「ドルを売って、ユーロや英ポンドだけでなく、ブラジルレアルや南アフリカ・ランドなど新興国の通貨を買う『リスク選好のドル売り』を増やした」(あおぞら銀行の諸我晃・市場商品部部長)という。   円はユーロや英ポンドに対してはドルとともに売られたものの、ドルを売ってユーロやポンドを買う勢いが勝った。もともと1月に3年1カ月ぶりの水準までドル安・ユーロ高が加速した局面で、円やスイスフランの対ドルでの上昇ペースはさほど速まらなかった。「そのためにドル安が波及する余地は相対的に大きくなっている」(あおぞら銀の諸我氏)とみられている。 米商品先物取引委員会(CFTC)が毎週まとめているシカゴ通貨先物市場の建玉報告によると、投機筋をあらわす「非商業部門」の円の売越幅は6日時点で11万枚超と大台を保っていた。今週に入ってにわかに強まった円高・ドル安に耐えきれなくなった円安派は少なくなかったと考えられる。海外で日銀による金融緩和政策の縮小観測が根強いこともあって、市場では「投機的な円の売り持ち高の解消は続く可能性が高い」(HSBC証券の城田修司マクロ経済戦略部長)との声が多い。 季節的な需給面でも円高・ドル安の余地がある。きょう15日は米国債の償還・利払い日に当たる。「(国内金融機関や生命保険会社などの機関投資家は)決算期末の3月に向けて利益や損失を確定させなければならず、円買いに傾きやすい」(大和証券の今泉光雄チーフ為替ストラテジスト)。足元の円高ペースについて行けず、円を買い遅れていた国内輸出企業からは3~6カ月程度の先物で円を買いたいとの注文が増えているようだ。 麻生太郎財務相は15日午前、現在の為替相場について「特別に介入が必要なほどの水準ではない」と述べた。海外投機筋の間では「日本政府は水準面でもスピードの点でも円高を容認している」との受け止めが広がっている。円の先高観は簡単には収まりそうにない。 【日経QUICKニュース(NQN ) 尾崎  也弥】 ※日経QUICKニュース(NQN)が配信した注目記事を一部再編集しました。QUICKの情報端末ではすべてのNQN記事をリアルタイムでご覧いただけます。

人気記事ランキング

  1. 登録されている記事はございません。

アーカイブ

PAGE TOP