AI取引、テールリスクには無力 長期投資の全面依存は難しく

日経QUICKニュース(NQN)=今晶、菊池亜矢 波乱要因の少ないごく短期の取引での活用ノウハウはほぼ確立している半面、長期投資での全面的な依存は難しい――。人工知能(AI)に対する現時点での金融・資本市場の評価だ。経験則の通じない「想定外」の事態に臨機応変に対処できないためだが、そのことを理解するには、AIの基本的な思考回路を把握しておく必要がある。 ルール有のゲームは強いが…… AIの基本は統計処理で、基準となる確率分布が安定していることが重要になる。例えば、サイコロを振ってどの目が出るかは6分の1の均等な確率。しかも1から6以外の目が出ることは絶対にない。そのような、決まった現象が決まった確率で発生する事態を高速で処理するのは得意中の得意だ。ルールが明確で、起こりうる現象すべてを想定し戦略として落とし込める、いわゆる「ゲーム」でAIはめっぽう強い。チェスや将棋、囲碁の世界での強者ぶりは皆が知る通りだ。 市場でこの「ゲーム性」を最もよく体現するのは、マイクロ秒(100万分の1秒)単位の速さで売り買いを繰り返す高頻度取引(HFT)など、パターンを単純化できるごく短期の取引だ。HFTはわずかな需給のゆがみに着目した裁定取引で「入力されたデータ(変数)に沿ってパターンを分析し、ミクロレベルの変化を察して注文を出す」(バークレイズ銀行で日本のEコマース・トレーディング部門のヘッドを務めるデービッド・サン氏)。取引自体はHFT向けにチューニングされた専用の高性能コンピューターが担う。 AIの主な役割は人間よりも早く判断をし、プログラム修正などの指示を的確に出すことだ。HFTのコンピューターと同様に、不眠不休で働き収益機会を増やせる。 中銀が意外な行動をとったら…… だが長い目で見ると、参加者が極めて多くランダムに動きやすい市場では均一な確率で起きる現象はないといっていい。そのため、ある現象から割り出したデータを将来の事象に当てはめる「予測」の精度を上げるのは厳しい。しかも、AIは知らないことや分からないことに直面すると思考を止めたり、暴走したりする。機動的な対応が可能な人間との現時点での最大の違いはここだ。 市場は、「テールイベント」と呼ばれる「起きる確率は非常に低いが、起きると影響が極めて大きい」事象にも遭遇する。確率は低いといっても、2000年以降は03年のイラク戦争から08年のリーマン・ショック、11年の欧州債務危機や15年1月のスイスフラン・ショックなど「ショック」と呼べる大変動は決して少なくなかった。そんなテールイベントのリスクに対し「AIは無力」というのが市場の定説だ。 機械分析の根幹をなす分析軸の1つに「中央銀行は理性的に動く」がある。ところが、日銀による異次元の金融緩和策など中銀が従来の行動パターンを外れるケースが増えてきた。ハイライトがスイスフラン・ショックだ。スイス国立銀行(中銀)がそれまでかたくなに守ってきた1ユーロ=1.20フランの維持姿勢を突然撤回。中銀のフラン高阻止を前提に分析してきたプログラムは総崩れとなった。 自ら誤差を修正できない…… 学界を中心に、テールリスクの予測を試みる研究が進んでいる。それでもまだ「極めて低い確率で起きうる一度きりの現象」にはてこずっているようだ。テールリスクが起きる度にデータを入力し続ければ、人間と同じように学習し、いずれ適切な判断ができるようになる――。その通りなのだが「言うはやすし」なのだ。 バークレイズのサン氏が面白い事例を教えてくれた。欧米で評判の、まるで人間が書くかのような自然な文章を書けるAIプログラムに小さな誤りが生じたとする。人間なら「あ、間違えた」とすぐに直せるが、コンピューター上の誤差はどんどん拡大し、その後の文章は支離滅裂になっていくらしい。誤差要因がデータにないためAIは誤差を検知できず、修正するすべがないわけだ。 AIにおける機械学習には、出発地と到達地を設定しルールだけを教えて正解は与えない「強化学習」がある。自動運転などで期待される手法だ。だがランダム性の強さから考えて、金融・資本市場での実用化に向けたハードルは高いだろう。机上でトレーニングを重ねても、データ上の確率は現実世界の確率にはならない。 市場環境は日々刻々と変わる。きょうは円安・ドル高で円売り・ドル買いが最適だったとしても、あすも取りうる最適の戦略になるわけではない。人間なら「あしたはあしたの風が吹く」と鼻息混じりでこなせることなのにAIはできない。その差は大きい。 ※日経QUICKニュース(NQN)が配信した注目記事を一部再編集しました。QUICKの情報端末ではすべてのNQN記事をリアルタイムでご覧いただけます。

インテュイティブサージカル、勢い失う株価 好決算にも反応薄く

NQNニューヨーク=横内理恵 手術機器のインテュイティブサージカルの株が勢いを失っている。手術支援ロボット「ダビンチ・サージカル・システム」の成長は続き、18日の通常取引後に発表した2019年4~6月期決算は市場予想を上回る増収増益となった。ただ、予想PER(株価収益率)が40倍を超えるなどバリュエーションの高さから、投資家は上値追いに慎重になっている。材料出尽くしの売りで時間外取引で株価は2%あまり下げる場面があった。 4~6月期決算は好調だった。売上高は前年同期比21%増の10億9800万ドルと、QUICK・ファクトセットがまとめた市場予想(10億3200万ドル前後)を上回った。ダビンチの出荷台数は前年同期比24%増の273台で市場予想(262台)を超えた。1~3月期(27%増)と比べて出荷の伸びは鈍化しだが、ダビンチの売上高は24%増と1~3月期(6%増)から伸びが加速し、市場予想を大幅に上回った。 販売傾向を占う上でアナリストらが注目していたのがリース販売だ。4~6月期は88台で全体の32%となり、1~3月期(33%)並みにとどまった。20~21年にかけてジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)やメドトロニックに加え、日本企業も市場に参入してくるとみられる。競争に備えてリースやアップグレード対応、廉価版ロボット投入などで少しでも普及率を高め、顧客の囲い込みを図っているとみられていた。 リースは短期的には増収率の鈍化や利益率低下を招く。人工知能(AI)など研究開発(R&D)に積極的に投資する姿勢を示していることもあり、利益率の低下が市場で懸念されていた。しかしふたを開けてみれば、ダビンチのリース以外の通常販売が予想以上だったため2期ぶりに営業増益となり、売上高営業利益率も大幅に改善した。 リースに頼らず収益を伸ばした点は評価されるべきだが、株式市場では積極的な買いにはつながらなかった。ダビンチについては先発企業の強みで、当面は競争優位を保てるとの見方は多い。だが「(新規参入で)数十年続いた独占的な地位を失う可能性が高いことを考えると、現在のバリュエーションはかなり高い」(BTIG)との声が少なくない。 株価は4月12日に上場来高値(589ドル)を付けた後、高値を1~2割下回る水準で推移している。しばらくは500ドルを挟むレンジを抜けられないと見ておいた方が良さそうだ。 ※日経QUICKニュース(NQN)が配信した注目記事を一部再編集しました。QUICKの情報端末ではすべてのNQN記事をリアルタイムでご覧いただけます。

「ひるまず迷わず」機械ならでは モデル運用、定石なき相場で成果

日経QUICKニュース=今晶、菊池亜矢 感情を持たない機械ならではの判断に、運用パフォーマンス改善のヒントがあるかもしれない。 世界的な低金利の環境のもとで、株式や債券など伝統的な運用資産とは異なる「オルタナティブ(代替)投資」が広がっている。しかし、多くは利回りを求めるあまり、市場規模が小さく信用リスクは高い社債や証券化商品に流れてしまいがちだ。半面、一部の投資家は伝統資産を中心とした取引「商品」を変えず、コンピューターや人工知能(AI)の積極活用など取引の「手法」を変え、成果を生み出している。 日本で創業した独立系ヘッジファンドで、資産総額が2000億円程度に達するGCIアセット・マネジメントも、機械化に前向きなファンドの1つだ。コンピューター・プログラムを用いた「アルゴリズム取引」を取り入れ、人間ならちゅうちょしてしまいそうな戦略にも淡々と取り組んでリスク分散効果が出るようにしてきた。 ■ブレグジット決定前に「ポンド売り」指示 どのような手法なのか。1つの好例が、英国が欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)を国民投票で決めた2016年6月の動きだ。ブレグジットを含めた一定の政治リスクをプログラミングしていたアルゴの指示は「英ポンドを対円で売る」。国民投票前の金融・資本市場の雰囲気は「英国民の判断はほぼ間違いなくEU残留だろう」で、人間ならポンド売りへの傾斜はまず不可能だったはずだ。一方、欧州株は買い持ちにした。英国民投票の後はポンド安と欧州株安が同時に進み欧州株の持ち高には逆風だったものの、ポンドの下げのほうがきつく、結局は収益拡大に貢献した。 2014~15年にかけて日欧など主要先進国の異次元緩和政策が進んだ際には、先物、現物を問わず国債を買い続けた。日本円の長期金利の指標である新発10年物国債利回りがゼロ%に近づき、人間なら相場の高値警戒感にひるみかねないところだったが、機械は気にしなかった。その後、日銀は16年1月にマイナス金利政策の導入を決めた。 コンピューターは過去のデータから短期と長期の相関性をそれぞれ分け、様々な組み合わせで瞬時に判断できる。16年5月以降はポンド安の長期化を見込んだが、株安は短命に終わるとして欧州株の買い持ち高は減らさないとの判断を示した。実際に英国の国民投票後、欧州株は間を置かずに値を戻し、結果的にポンド売り持ち高での利益を享受できたという。 ■商品でなく手法がオルタナティブ GCIアセットの山内英貴最高経営責任者(CEO)は、機械併用のメリットについて「人間の常識に従って判断すれば得られなかった利益が実現でき、全体のパフォーマンスが改善する効果が期待できる」と強調する。そのうえでAIなど、人間による「定性判断」を介しないモデル運用をさらに強化していく可能性に触れた。 ヘッジファンドの取引モデルはもともと、先物やデリバティブ(金融派生商品)を組み合わせて相場の上昇・下落のどちらでも収益を確保できるよう練り込まれてきた。だが2008年のリーマン・ショックやその後のギリシャ危機などを経て、主要国では低金利と過剰流動性が常態化している。かつては「逆相関」になることが定石だった株式と債券の相場がしばしば同方向に動き、伝統的な資産ではリスク分散の効果をなかなか出せなくなっていた。対策の1つがオルタナティブ「商品」への傾斜であり、オルタナティブ「手法」だったわけだ。 AIなど機械的なモデル運用は、大相場になっても冷静さを失わず、経験などに基づく思い込みにとらわれる人間心理との「逆相関」が起こりやすくなる。代替投資、もしくはヘッジ投資の新たな潮流としてのモデル運用の存在感は今後、一段と高まっていく公算が大きい。 ※日経QUICKニュース(NQN)が配信した注目記事を一部再編集しました。QUICKの情報端末ではすべてのNQN記事をリアルタイムでご覧いただけます。

平成・危機の目撃者➑ 大沢孝元が見たLTCM破綻(1998)

甘いリスク管理、はかなく散ったドリームチーム あんな偉人でも間違えるのか――。1998(平成10)年、通貨オプションのカリスマの一人で、ノーベル経済学賞受賞者でもあるマイロン・ショールズ氏が加わっていたヘッジファンドのロングターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)が破綻し金融工学系の市場参加者に衝撃を与えた。当時、社会人になったばかりの大沢孝元氏もその一人だ。為替のデリバティブ(派生商品)に長く携わってきた大沢氏は「LTCM事件をきっかけにリスクの正しい認識がいかに難しく、そして重要か分かった」と振り返る。 大沢孝元氏 おおさわ・たかもと 1998年に東京工大大学院の総合理工学研究科環境物理工学課程を修了後、チェース・マンハッタン銀行(現JPモルガン・チェース銀行)に入行。ストラクチャラー・カスタマーディーラーとして市場経験を積んだ。2007年6月にバークレイズ銀行の東京支店に転じるとストラクチャー担当で頭角をあらわし、14年に市場営業本部長に就いた。18年1月からは東京外国為替市場委員会の副議長も務める ◆巨大な振幅が瞬時に拡大、理論は役立たず LTCMはショールズ氏のほか、ショールズ氏とフィッシャー・ブラック氏が作ったデリバティブの価格算出式「ブラック・ショールズ方程式」を証明により確立し、ノーベル経済学賞をとったロバート・マートン氏も参加していた。米連邦準備理事会(FRB)出身者もいて市場からは「ドリームチーム」と呼ばれていたが、97年のアジア通貨危機と98年のロシア財政危機が抱える潜在的なリスクを見逃した。 LTCMの基本戦略は、資産価格が割安か割高かを見極めて売り買いする「レラティブ・バリュー」。自らの資産の何倍にも運用額を膨らませるレバレッジ取引に傾いていた。にもかかわらずリスク管理が甘かった。 リスク回避(ヘッジ)は厳密にし過ぎるとパフォーマンスを下げてしまう。半面、しないと市場が予想と真逆に動いたときのダメージは計り知れない。 ブラック・ショールズ方程式は相場の動きを予測するモデルで、熱伝導に似た法則性を活用している。だが、危機時の相場は巨大なエネルギーが波のように振幅を伴って瞬時に広がる。ブラック・ショールズ式の理論が役に立たない。 強気一辺倒の場合はバブルを起こし反動は激しい。それを防ぐにはリスクを認識しヘッジ可能な環境が必要なのだが、90年代はリスク管理に使えるパラメーター(要素)が少なすぎた。 リスクをリスクと気づかない状況。リスクに気づけず膨らんだ持ち高はリスクの顕在化とともに破裂し、影響は倍どころか「乗数」で拡大していく。 例えば外国為替市場での円高・ドル安だ。98年10月7日の夕刻、突如円相場は1秒間に1円以上の速さで急伸し、持ち高の時価評価額はわずか数分で数千万円~数億円振れた。経験不足だったあのころは怖くて顧客の電話はとれなかった。 折しも日本は金融システム不安のまっただ中だった。97年の三洋証券を皮切りに銀行と証券会社の破綻が続いていて、生命保険会社の一部は身売りを迫られた。不良債権問題から抜け出せず長くもがいてきたが、それだけにリスク管理では先行できたかもしれない。LTCM破綻後の円の急伸を主導した日本マネーによる対外資産の圧縮は2008年のリーマン・ショックではさほど目立たなかった。 人は「のど元すぎると熱さを忘れる」という。リーマン・ショックにおける欧米の混乱は1990年代の危機を忘れてしまったのかと思わせた。対して日本はバブル崩壊からの立ち直りが遅れていたぶん、自分も含めてリスクへの感応度や耐性は磨かれていたかもしれない。 ◆市場の歪みは本物か、どれだけ続くか見極めを 通貨オプションなどのデリバティブを組み合わせて商品設計する「ストラクチャー」部門での営業経験が長い。すべての商品の基本はリスクとリターンは釣り合うということ。メリットが大きければリスクも大きいし、メリットが小さければリスクも小さいわけだ。 リスクとリターンを釣り合わせればどんな商品でも作れてしまう。うまみの大きな商品はそれなりのリスクを内包している。低リスクで高収益を生む商品は作れない。 そんな世界なので、売る側にも買う側にも高い倫理観と専門知識が求められる。もし市場に何らかのゆがみが存在し、デリバティブで利益を得るチャンスが高いと判断したとしても、本当にゆがんでいるのか、ゆがみがどの程度持続するかは常に意識しなければいけない。利益追求の意欲が先にたつあまり、実は自分たちの目のほうがゆがんでいたなんて話もずいぶんある。 相場にかかわる人はすべからく、「何を勉強してもプラスにしかならない」と日々研さんすべきだ。数年前にギリシャ危機が起きた際にはギリシャ関連の書物を読みあさった。電子ブローキング(EBS)の価格変化の背後に、ギリシャの先人が川辺で板を使って洗濯する光景が思い浮かんだほどだ。そこまでのめり込んではじめてわかってくることは少なくない。 ◆AIはまだ発展途上 ここ数年、市場をにぎわせている機械取引や人工知能(AI)の分野はまだ発展途上だ。いまAI活用の場とされているのは、90年代から続くパターン分析や回帰分析の延長にすぎない。大量のマーケットデータを集めた「ビッグデータ」を機械に学習させて将来を読み解こうとするアプローチは、マシンラーニング(機械学習)であってもパターン分析の域を出ていない。 確かに機械学習によってパターン予測はできる。期間や利益率、リスクの量といった項目を詳しく入力すると、短期的には効果をあげられるレベルには達した。誤解を恐れずにいえば短期の相場を支配するのは主に様々な「ノイズ」で、それをビッグデータから解析できると一定の成績はあげられる。 AI活用の次のステップは中長期の相場予測だろう。マーケットデータは様々な「多次元的」要素を上がるか下がるかの「1次元」につぶしてしまっているので、取り扱いには注意しなければならない。大量のデータを使ったとしても、現実に起こっている相場変動を完全には分析できない。 現実の相場は人々の思考や文化、宗教、欲望や営みまでが複雑に絡み合う。あらゆる情報は相場に反映される半面、逆はまだ現時点では真ではない。 最近は気象の勉強を始めた。やりたいことが多すぎて時間が全然足りない。データ処理とAIの進展で次に何が生まれるのか、楽しみだ。10年後、20年後に後れをとることのないよう頑張りたい。 =聞き手は日経QUICKニュース(NQN)菊池亜矢 =随時掲載

HFT隆盛で変質、外為市場は元には戻らず  by 花生浩介氏(シリーズ:ベテランに聞く)

外国為替市場の主要プレーヤーや取引形態は1980~90年代に比べると激変した。コンピューターや人工知能(AI)の発達で高頻度取引(HFT)が幅をきかせる時代になり、2008年のリーマン・ショック後に規制強化が進んだ影響もあってどんな場面でも腰を据えて売り買いの価格を示す「マーケットメーカー」は姿を消した。日本興業銀行(現みずほ銀行)や香港上海銀行(現HSBC)で30年以上為替ディーリングに携わった花生浩介氏は「HFTによって売買高自体は増えたが、市場の流動性はむしろ減少した。もう元には戻らないだろう」と話す。【聞き手は日経QUICKニュース(NQN)=菊池亜矢】 花生浩介(はなお・こうすけ)氏 1980年に日本興業銀行入行。84年から為替ディーリングの道を一貫して進む。2001年にロイヤルバンク・オブ・スコットランド(RBS)東京支店で外国為替部部長、06年から香港上海銀行に移り外国為替本部長とマネージングディレクター。17年にバルタリサーチを設立し個人の目線からマーケット情報を提供する傍ら、トレーニング用品やソフトウエアを扱うスポーツ関連企業フィットネスアポロ社の社長 ■混乱時のパニック増幅しやすく 現在の市場の主役はAIをバックにしたHFTだ。HFTはふだんはマーケットメーカーのように振る舞って相場の値動きを決める半面、混乱時にはいっせいに手を引き、パニックを増幅してしまう。いざというときには頼りにならない。責任感をもって市場機能を維持する真のマーケットメーカーがいない現在の外為市場は、市場メカニズムの是正といった自らの優れた機能を大きく損ねている。市場は事実上しぼんでしまったといっていい。 ディーラーの駆け出しのころ、日本はバブル絶頂期だった。金融危機の前で金融機関や投資家のリスク許容度は極めて大きく、いまでは考えられない大金が活発に動いていた。現在に比べるとはるかに小さい規模の市場の中で、30歳代にかけての5~6年は朝から夜中まで顧客の注文に応じて価格を出し続けた。 ときには大きなリスクも取ったが、ポジションの保有時間は長くて5分、下手をすると5秒で回転させて「流動性」を供給してきた。回転売買に徹していた気がする。結局はそれがリスクヘッジになっていたかもしれない。当時は自分よりも巨額の持ち高を振り回し、マーケットメーカーの役割を果たすディーラーがごろごろいて市場全体が活気づいていた。 ■ポンド危機の攻防に息のむ 忘れられないのは1992年の9月。英国がジョージ・ソロス氏率いるヘッジファンドの英ポンド売りに耐えられず、欧州の為替相場メカニズム(ERM)離脱を決めたころだ。ある日、東京市場でイングランド銀行(英中央銀行)がポンド防衛のため、日銀に委託してポンド買い・円売り介入をしたと噂された。一方、ロンドン市場でソロスファンドは売り崩しを続け、他の投機筋も追随し英ポンドは暴落した。 投資家が中央銀行に歯向かうなどということは通常は考えられない。だがERM離脱によって英国の金利は大幅に低下し、通貨安もあってその後の英国経済は回復に向かった。政府・中銀の無理な政策を市場メカニズムが是正した好例といえ、ファンド勢の動きに感心したのを覚えている。 コンピューターの草創期で取引記録は完全には機械化できず、損益も手計算でリアルタイムでの把握は難しかった。それが不正やミスの温床になったわけで、昔を懐かしんでもしょうがない。ただコンプライアンス(法令順守)強化など規制でがんじがらめになった結果、市場のダイナミズムは間違いなく失われた。 「毎日が戦争」の感覚で混乱の極みのような生活を続けていたにもかかわらず、疲れたとか嫌になったとかの記憶はない。大きな損失を抱え途方にくれたことは何度もあったが、ディーリングは結果がすべて。学歴も派閥も関係ない極めてフェアな世界で奮闘できたのは幸せだった。 外為市場はスポーツに例えると、地元の野球少年がメジャーリーガーと一緒にプレーするようなもの。「伝説のディーラー」と呼ばれる人は尊敬できる人が多く、いつか自分もそうなりたいと励みになっていた。理屈やデータの通りに動くコンピューターやAIの時代はそれはそれでフェアなのかもしれないが、淡泊すぎる。 ■大局観を忘れずに そんな中でも為替でディーリングを続けるとすればどんなスタンスで臨むべきだろうか。とりあえずは世界の大まかな流れを忘れないようにしたい。 ニューヨークで勤務した1990年代後半は米経済が絶好調だった。政策を担っていたのはグリーンスパン米連邦準備理事会(FRB)議長とルービン財務長官、サマーズ財務副長官という最強トリオ。折しもWindows95が発売になり、IT(情報技術)化の波が押し寄せていた。業種を問わずパソコン導入が加速した。米国のバロンズ誌が毎年出す景気予測で、エコノミストらの「好景気は続かない」という主張がことごとく外れていく。それまでと違うレベルで設備投資の革命が起きていると感じた。 「本場」に身を置くことで近視眼的な見方から離れ、大局観を得るのは大切だ。インターネット全盛の現代はネット経由で様々な情報を入手できるが、それでも「百聞は一見にしかず」の真理はまったく変わらない。 リーマン・ショックを境に産業の主役が金融からITに移ったことも重要だ。金融はITと親和性が高く、リーマン・ショック前までは最先端の技術を誇る業界だった。しかし、金融危機後は名だたる金融機関が公的資金で救済され金融規制に縛られると業界全体が萎縮した。現在はアップルやグーグルなど大手IT企業の取り組みのほうがずっと面白く金融は背中を追いかける格好になっている。金融とITをあわせた「フィンテック」でファイナンスは前だが、実際にはITの後じんを拝しているとの印象が否めない。 足元のAI活用はコンプライアンス違反を避けるためとの後ろ向きな理由もある。機械なら基本的に不正はしない。ヒューマンエラーによる訴訟リスクを抱え込まずに済む。金融は徹底的にリスクを抑える方向になり、生産性を抑えた。 ■次の活路は新興国市場に AI活用の大きな流れはおそらく止められない。万難を排して最先端の技術革新をもう一度金融に取り入れないと、金融業界の復活はないだろう。 金融が他の産業と異なるのは決済をつかさどっている点だ。決済は最も大切な社会インフラの1つで、多額の資金を安定的に決済することで社会全体の安定を下支えする。流動性や安定性は他の産業とは比較にならないほど大切で、流動性を担保する意味は大きい。1回あたりの取引金額から考えてもリスクが取りにくい環境になっているはずなのに、機械化以前のほうがリスクが少なかったように思えるのは昔のほうが流動性が厚かったからだろう。 昨年初めにかけて仮想通貨がブームとなったが、投機性だけに焦点が当たると通貨としての必然性は失われる。為替を含めた決済システムを仮想通貨の基幹技術「ブロックチェーン」に変えるといった話でも、市場流動性を確保する方向に持っていくなどの努力を忘れてはならない。 昨年の「トルコリラショック」などを振り返ると、新興国では短期金融や為替市場が未整備で、為替差損リスクヘッジの手法や投資情報など主要国では当たり前のインフラがまだ整っていないと痛感した。新興国経済は世界全体の約半分を占めるまでに拡大しているのに金融市場は脆弱で、流動性は異様に低い。 裏を返せば、新興国市場での流動性創出は金融業界に残された数少ない課題だ。経済成長率が1~2%の先進国でできることはほとんどなく、もはやリターンも期待できない。次の活路は新興国に求めるべきだろう。 (随時掲載)

AIが個人投資家の「秘書」になる日 激変する証券営業、FIN/SUMで討論

QUICKは26日、金融庁と日本経済新聞社共催のフィンテック・サミット「フィンサム2018&レグサム」のパネル討論を都内で開いた。「AIやBOTを利用した顧客向けサービスの現状と将来」をテーマに、対面営業から非対面、とりわけネット対応に大きくシフトする国内証券会社の今後の戦略について、各社の担当者が意見を交わした(モデレーターは佐藤吉哉QUICK常務取締役)。金融機関関係者ら200名が参加した。 ■SMBC日興証券の丸山真志ダイレクトチャネル事業部長 「LINE」上でAIチャットボットのサービスを展開している。顧客が店頭から非対面の営業にダイナミックに変化していることが背景だ。大事なのは、こういう情報が欲しいという顧客に、きちんとその情報を提供する。それが顧客を守る、フィデュシャリー・デューティーにつながる。今の時代、顧客は利便性が高いサービスと低コストのサービスを使い分ける。60~70代も当たり前にスマホを使うし、LINEもそうだ。証券会社としてチャネルを広げるのは必須。今後はリアルタイムのチャートや、口座残高の確認もできるよう機能を高めていきたい。 ■大和証券の山本真ダイレクト企画部長 QUICKが開発したチャットボット「株talk」を運用している。コンタクトセンターに問い合わせが多い株式のサービスでニーズがあると考えて導入し、副次的には、センターへの問い合わせをボットのほうに誘導することでセンターの業務軽減にもつながった。株の質問はかなり複雑で、何を聞かれるかわからない部分も多く、なかなか対応が難しい。しかし、ゆくゆくは人間を補完できるようにAIを進化させ、究極的には(個人投資家一人ひとりの)秘書のようなサービスを提供したい。 ■みずほ証券の楠誠晃ダイレクトチャネル事業部長 AI活用については、まずは社内でノウハウを蓄積している段階だ。社内業務の効率化に重点を置き、問い合わせチャネルの拡充に努めているが、今後は他社のように「顧客の満足度」という観点で取り組みを見つめ直さなければいけない。コストカットもいいサービスを提供していくために必要。人にしかできないことと機械ができることの均衡点を探っていきたい。 ■三菱UFJモルガン・スタンレー証券の江面幸浩オムニチャネル企画部長 11月に新サービスを開始する。「対面より手軽に、ネットより手厚く」というのがコンセプトで、AIなどを活用したバーチャル担当者が顧客対応にあたる。株価や業績の変化などの質問に素早く答え、計算上は現在受け付けている質問の8割をやこれでカバーできる。これまでの証券営業は電話と対面に偏っていたが、ありとあらゆる手段でコミュニケーションをとっていく。次の戦略はデジタルマーケティングで、ビッグデータを活用して顧客のニーズを探るのがこれからの営業と位置付けている。

相場の微かな変化を見抜く by 花井健氏(シリーズ:ベテランに聞く)

記憶に残る外国為替ディーラーといえば誰か。問われたときに名前が挙がる日本人は少ない。その一人が日本興業銀行(現みずほ銀行)のすご腕で鳴らした花井健氏だ。現在は企業経営アドバイザーとして為替経験をいかす花井氏は現役時代、徹底的に相場に入り込み、かすかな変化も見逃さず勝ち抜いてきたとの自負がある。「周囲に『運が良い』と映っても実は地道な努力の積み重ねによるところが多い。『見抜く力』を得られるか否かが勝敗を分ける」と指摘する。【聞き手は日経QUICKニュース(NQN)編集委員=今 晶】 花井 健(はない・たけし)氏 1977年に大阪市立大商学部を卒業。興銀(当時)に入行し国際為替営業部長やみずほコーポレート銀行の本店営業第4部長、執行役員上海支店長、常務執行役員アジア・オセアニア地域統括役員を経て2009年に楽天に移籍。現在は自己勘定で取引をするとともにアシックスや丸運、日本精線、タツタ電線、LIFULLの社外取締役と複数の企業で顧問を務めるほか、母校の大阪市立大の国際交流アドバイザーとして教壇に立つ   ■「微か(かすか)なるより顕か(あきらか)なるはなし」 これは孔子の説とされ、日立製作所フェローの矢野和男氏は著書「データの見えざる手」(草思社)で「君子は微かを知るがゆえに顕かを知る」と読み替えている。現在の世の中も、見えているようで見えていないことだらけだろう。 見えていないものをそのままにしていては進歩はない。相場漬けの日々を送り、ニュースなどで表に出ていない動きやパターンの変化、構造を細かく拾う地道な作業、真の人脈作りと情報収集が必要だ。王道やマニュアルなど無く、うまくいっても「幸運」ぐらいに軽く受け止められるのかもしれないが、それが実力だと胸を張っていい。 デジタル技術や人工知能(AI)との付き合い方のツボもそこにある。AIによるデータ解析や経済指標への反応スピードは格段に進歩し、短期取引はAIやアルゴリズムの独壇場になりそうだ。だがAIもアルゴも精度がまだ低く、相場のオーバーシュート(行きすぎ)を引き起こしやすい。流れに逆らう「逆張り」が有効な局面がしばしば生じている。判断をするのは人間だ。 とにかくIT(情報技術)との関わりは避けては通れない。AIなどの長所と短所をしっかり把握し、取引につなげるのは人の仕事。長期投資では人間の出番が増えるだろう。人と機械の特性をそれぞれうまく活用した分業体制が理想だ。 ■性悪説でシステムを作り、性善説で人を管理する 感情に流されず欲望を前面に出さない「無心」「無我」の境地は、頭では大切だとわかっていても簡単には割り切れない。外為市場の先人は様々な工夫で無心になれるよう努めてきた。例えば元東京銀行(現三菱UFJ銀行)の若林栄四氏(現ワカバヤシエフエックスアソシエイツ代表取締役)は相場変動を「神意」とみなし「負けは神の領域に近づきすぎたから」と自らに言い聞かせ、チャートなどを駆使して淡々と敗戦処理に臨んだという。 人間が作り出す「有機質」の要素では説明できない客観的な現実がマーケットには厳然と存在する。勝てるトレーダーはそんな「無機質」の視点を必ず持っている。著名な日本人のディーラーとしてまず名前が挙がる堀内昭利氏(現AIAビジネスコンサルティング社長)やチャーリー中山(中山茂)氏はこの無機の部分、具体的にはディーリングで最も大切なロスカット(損切り)が見事だった。 上手にロスカットをして負けが込まないようにできればおのずと勝機は増える。相場は期待通りにはならない。常勝は不可能と割り切って臨んできた。 為替取引を通じて得た座右の銘は「性悪説でシステムを作り、性善説で人を管理する」。やすきに流れがちな人間に本質的な罪はない。弱い人を追い込まないようにルールを決める。あとはそれを実行に移せるかどうか。為替に限らず、事業運営の全般に当てはめられる真理だと思う。 みずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)本店営業第4部長で不良債権の処理を担当していたとき、「不良債権がある取引先の希望通りの支援を続けていたら負担は際限なく増える。希望的観測はもたずに当初決めたガイドラインに従い、すぐに処理すべきだ」と当時の斎藤宏頭取に訴え、理解してもらってスムーズに事を運べた。 ■トライ&エラーの意識忘れず 投資はトライアンドエラーの繰り返し。当たり前のようでも、何が正しくて何が間違っているのかの判断はかなり難しい。大事なのは謙虚に学ぶ姿勢だ。勝てるトレーダーはたいてい、貪欲に情報を得ようと食らいついてくる。 2006~07年、みずほでアジア・オセアニアビジネス担当の常務だったときだ。アジアの中央銀行幹部は金融政策の専門家ではあっても、需給環境が複雑な為替相場にはあまり明るくなかった。そのために中銀としての運用シナリオが正しいのか見極めたいと、為替専門の私にひんぱんにアドバイスを求めてきた。円を元手にした外貨建て取引「円キャリートレード」が盛んなころで、アジア中銀もこぞって円キャリーに傾いていたからだ。 上海勤務時には中国の金融当局が円の自由化の歴史や為替管理の方法について聞いてきた。政府関係者の為替マインドの高さに感心したことを覚えている。 Once a dealer always a dealer.  Don’t worry about failure, Worry about the chance you miss when you even try!   「一度ディーラーを経験したらずっとディーラー、失敗を恐れるな」――。ディーラーの合言葉だ。これを肝に銘じ、年齢に関係なく身に付けられるデジタル技術力と新たな人脈を広げられる人間力、リスクをとって市場に対峙する力の「新・3種の神器」を備えられれば、相場だけでなくこの先の社会の荒波も乗り越えられると信じている。(随時掲載)

HEROZ上場、「初手」から過熱 AI人気で記録的な高騰ぶり

24日の東京株式市場で、人工知能(AI)開発のHEROZ(ヒーローズ、4382)の取引が上場3日目にしてようやく成立した。初値は4万9000円と公開価格の10.9倍で、野村証券によると1995年以降のIPOで最大だった。初値を付けた後は過熱感から利益確定売りに押されて売り気配で終えたものの、時価総額は約1400億円と東証マザーズで6位にまで駆け上がった。 「人工知能(AI)関連のIPOをめぐる『成功体験』が投資家の人気を呼んだ」。いちよし証券の宇田川克己・投資情報部課長はHEROZの初値高騰をこう分析する。 早大将棋部の元主将で、将棋のアマチュア強豪として名をはせた林隆弘最高経営責任者(CEO)らが創業したHEROZ。開発したAIを搭載した将棋ソフトで名人に勝利した実績がある。マザーズ上場の記者会見で林氏は「将棋向けのAIを応用して建設やゲームなど、様々な業界にAIを提供している。AIが導入されていない業界もまだ多く、大きな可能性を感じている」と語った。 AI関連のIPOとして投資家の記憶に残っているのが昨年9月にマザーズに上場したパークシャ(3993)だ。初値は5480円で公開価格の2.3倍とまずまずの船出。だが上場後のわずか4カ月で株価は1万6730円と3倍強に膨らんだ。「HEROZも上場後に一段高になるのでは」との期待が、初値段階からの人気につながった。「今年5月以降にいったんIPOが途切れることも、投資家の資金を呼び込んだ」(いちよしの宇田川氏) 株式の需給もHEROZの株高を後押しした。需要動向に応じて実施するオーバーアロットメントを除けば、同社がIPOに際して実施したのは公募増資(自己株式の処分を含む)のみで発行済み株式数の5%強だ。今年上場した企業はIPO時に公募と売り出しの合計で発行済みの平均3割弱の株式を流通市場に供給しており、HEROZはひときわ需給の逼迫感が強い。 もっとも、パークシャのように今後も数倍の株価となるかどうかは不透明だ。成長期待が高いとはいえ、HEROZが開示している18年4月期の単独税引き利益は前期比2.3倍の2億1900万円。予想PER(株価収益率)を計算すると639倍に及び、パークシャ(450倍)よりも割高だ。 初値が3000万円と公開価格の約9倍に急騰し、初値時の上昇率で長年にわたって首位を維持してきたMTI(9438、1999年10月上場)はIT(情報技術)バブルの波に乗って、その後9750万円まで急伸。だが株式分割や公募増資を経て、今は653円だ。株式分割を考慮しても、00年1月に付けた実質的な上場来高値(2万250円)からは遠い。 HEROZの場合は、昨今のAIブームを背景に、さながら初手から王手飛車取りのような大盛り上がりを演じた。資本市場ではまだ「歩兵」だが、この後、見事「と金」に成り上がって活躍するには確かな実績が求められる。 【日経QUICKニュース(NQN ) 神能淳志】 ※日経QUICKニュース(NQN)が配信した注目記事を一部再編集しました。QUICKの情報端末ではすべてのNQN記事をリアルタイムでご覧いただけます。

AI半導体最前線 エヌビディアにライバル続々

QUICKではアジア特Q便と題し、アジア各国・地域のアナリストや記者の現地の声をニュース形式で配信しています。今回は台湾の現地記者、李臥龍(リー・ウォーロン)氏がAI半導体の最前線をレポートします。 時代はGPUからASICへ 人工知能(AI)が急速に隆盛し、グラフィック処理ユニット(GPU)が主な演算チップに採用されたことで、画像処理半導体の2大メーカーであるエヌビディアとアドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)の株価が急騰した。もっとも、アプリケーションが一段と多様化するなか、特定用途向け半導体集積回路(ASIC)に切り換えるシステムメーカーも少なくない。画像処理半導体は今年にもASICにその地位を奪われることになると予測するアナリストは多い。 AIは過去数年間の半導体におけるメインストリームだと言えるだろう。エヌビディアやAMDの株価が数倍に高騰したことからも、高速演算チップを用いた膨大なデータや画像を処理は今後の流れであることが充分に分かる。 多くのシステムメーカーが音声・画像認識や自動運転、医療などに深層学習(ディープラーニング)を備えたAI半導体を導入している。エヌビディアは最も早い時期からこうしたメーカーと提携しており、当然のことながらAI市場の隆盛の最大受益者となった。 しかし、画像処理半導体の高速演算アルゴリズムは、すでにシステムのニーズを満たすことができなくなっている。 TSMC、ビットコイン関連で大型受注 最新の調査によると、最近の市場で注目を集めているビットコインなど仮想通貨ではマイニング(採掘)の難易度が絶えず高まり、GPUに替わりASICが用いられるようになった。 最新情報によれば、ビットコインのブームを巻き起こした中国のマイニング最大手ビットメインは今年、半導体受託生産会社(ファウンドリー)世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)にウエハー10万枚を一気に発注した。TSMCの回路線幅12ナノメートル(ナノは10億分の1)製造プロセスを用いてASIC半導体を生産し、次世代マイニング機器のコアチップにするという。関連の発注に関しては今年から出荷を開始し、毎月1万個を納める見通しだ。 この大型受注により、TSMCの株価に対する悪材料は打ち消された。スマートフォンの受注が予想を下回り、売上高が当初の想定から1割近く落ち込むとされていたが、減収幅は5%未満に縮まるとみられている。外国人投資家のTSMCに対する評価も変化した。外国人投資家は今年1月2日以降、累計でTSMC株を5万株買い越しており、TSMCの株価を226台湾ドルから7%高の242台湾ドルにまで押し上げた。 期待されるザイリンクスのFPGA 専門の海外投資機関も今後ASICがGPUに取って代わりAIの新たなスターになると有望視している。なかでも特に将来性を期待されているのが、製造後に回路構成の設定が可能な半導体FPGAの最大手である米ザイリンクスだ。FPGAの消費電力がGPUを下回る一方、処理速度が比較的速いというのがその主な要因。FPGAチップを用いてゲノム配列解析や音声認識の精度向上に必要なディープラーニングを行っているメーカーもすでにあるという。 AI発展の分け前にあずかろうとASIC開発を目指す半導体企業もますます増えている。米グーグルのAIチップの研究開発に協力したブロードコム、キャビウム、マーベル、マイクロセミ、台湾の聯発科技(メディアテック)と中国インターネット通販最大手アリババの連合などが例として挙げられる。AIアプリケーション向け半導体の商機をめぐって争う競合が増えることで、エヌビディアとAMDの好況も間違いなく分散されることになるだろう。 ※アジア特Q便は、QUICK端末で先行してご覧いただけます。 ※本情報は、情報の提供を目的としており、投資その他の行動を勧誘することを目的としたものではありません。有価証券その他の取引等に関する最終決定は、お客様ご自身のご判断と責任で行って下さい。株式会社QUICKおよび情報提供元である李臥龍氏は、本情報を利用して行った投資等により、お客様が被った、または、被る可能性のある直接的、間接的、付随的または特別な損害またはその他の損害について、一切責任を負いません。

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