世界レベルに成長する中国の「大湾岸圏」 HSBCレポート

QUICKは「アジア特Q便」と題し、アジア各国・地域の現地の声をニュース形式で配信しています。今回は、HSBCグレーター・チャイナ統括 チーフ・エグゼクティブのヘレン・ウォン氏が中国の大湾岸圏についてレポートします。 中国は「広東・香港・マカオ大湾岸圏」として知られる同国南部に、世界的な競争力を備えた国際的水準の都市圏を構築するという地域統合計画を推し進めている。技術革新、金融、貿易に軸足を置くこうした地域は、グローバリゼーションの新たなリーダーとして浮上しつつある。 1970年代後半以来、長期にわたって広東省は中国の改革開放政策で先頭に立ってきた。広東省は再び、この経済の転換をリードしつつあるが、今回は世界の工場としての地位からサービスと技術革新のための非常にダイナミックな拠点(ハブ)への転換が目標とされている。広東省のサクセスストーリーで重要な役割を果たした要因の1つが、香港に近いという地理的条件であり、両地域は主に市場主導で共に成長してきた。 広東省、香港、マカオの経済の統合をさらに発展、深化させ、中国の経済発展と改革開放政策におけるこの地域の役割を拡大させるために、中国は「大湾岸圏」として知られる都市群の開発計画を策定した。 この画期的な構想は、自然の地理的条件に基づいて、広東省の珠江デルタ地域の9都市(広州、深セン、珠海、仏山、中山、東莞、恵州、江門、肇慶)に加えて、香港、マカオの2つの特別行政区を結びつけ、世界的な競争力を備えた経済圏を構築することを目的とするものである。 過去数十年間にわたって、大湾岸圏の都市はそれぞれ独自の優位性および経済構造を生み出してきた。この計画の狙いは、香港、マカオ、広東省で、確立された製造業のサプライチェーン、技術革新力、金融サービス、物流、洗練された消費市場などの分野の相補的な強みを結び付けることである。この計画の最終目標は経済の新たな成長拠点を生み出すことである。この成長拠点が、中国の経済発展を先導し続けるだけでなく、東京、サンフランシスコやニューヨークなどの世界の主要な湾岸地域に匹敵する規模に成長することが目標とされている。 この構想は非現実的なものではない。大湾岸圏の11都市は、人口、経済規模、その資源の観点から見て、1つの独立国家同様の繁栄を実現することが可能である。 大湾岸圏の人口を合計すると6795万人となり、世界最大の都市群である東京首都圏の人口4400万人を上回る 。その面積は約5万6000平方キロメートルとニューヨーク都市圏の面積に匹敵する。 中国で最も急速に成長している地域の1つである広東・香港・マカオ大湾岸圏の2016年のGDPは合計で1.4兆米ドルであった。2030年までにこの地域のGDPは4.6兆米ドルに達すると予想されており、その場合、東京、ニューヨーク、サンフランシスコの湾岸地域を上回り、経済規模が世界最大の湾岸圏になることになる。 大湾岸圏は経済規模が巨大であるだけでなく、国内のみならず国際的にみても明確な競争力を備えた多様な産業を多数抱えている。 世界的にみて成功している湾岸地域を調べてみると、いくつかの共通点が見いだされる。全ての地域に、活発な国際金融センター、発達したサービス産業、強固な物流網、複数の一流大学に加えて技術革新の拠点がある。この好例として、技術革新とハイテク分野で高く評価されているサンフランシスコ湾岸地域や、金融サービスで強みを持つニューヨーク都市圏を挙げることができる。 シリコンバレーがサンフランシスコ湾岸地域の中心部にあるのと同様に、深センには製造業の大きな集積があり、中国における技術革新の中心地となっている。中国で最も高く評価され、最も独創性のある企業のうち、ファーウェイ(華為技術)とテンセント(騰訊控股)という2社の本拠が深センにある。アップルなどの海外のテクノロジー分野の巨人も深センに研究開発拠点を建設している。 香港は、深センの革新的な環境に対して、完全に補完的な役割を果たしている。香港は引き続き金融センターとしての役割を果たし、中国企業がグローバルな展開を始める場合の出発点として機能することになるとみられる。深センには中国本土における2つの証券取引所のうちの1つである深セン証券取引所があることもあり、香港と深センは活発な金融センター、そして証券取引所を持つニューヨークに類似している。例えば、中国のインターネット関連サービス分野の巨人であるテンセントは深センを本拠としているが、香港証券取引所に上場している。 一方、広州は先進的な製造業および最新のサービス業の拠点として発展しつつある。さらにマカオは、隣接する珠海市横琴とともに、国際的なレジャー産業の中心地となることを目指している。 これら中核都市に加えて他の珠江デルタ地域の都市の膨大な資源、面積、比較的安価な労働力という強みにより、大湾岸圏は国際的な協力および競争での優位性を大幅に高めて、技術革新、金融、物流、貿易面で世界的にみて重要な都市群として浮上することになるとみられる。 大湾岸圏の発展に伴い、その影響は地理的境界をはるかに越えて広がり、中国の「一帯一路」構想の進展にとって追い風となるとみられる。大湾岸圏は「シルクロード経済ベルト」(中央アジアから欧州へ)および「海上シルクロード」(東南アジア、大洋州からアフリカおよび中東へ)に沿った国々を結ぶ上で重要な役割を果たすことになるとみられる。 湾岸地区の発展には包括的な輸送ネットワークの構築が不可欠である。橋とトンネルから構成される東京湾アクアラインやサンフランシスコ・オークランド・ベイブリッジ、ゴールデン・ゲート・ブリッジは湾岸地域のインフラを象徴するほんの数例である。 大湾岸圏では近年輸送インフラが大幅に拡充され、地域統合の基盤となっている。広州、深セン、香港を結ぶ広深港高速鉄道は2018年第3四半期に開通する予定である。これにより香港から深センの国境までの列車移動の所要時間はわずか14分に短縮されることになる。香港、珠海、マカオを結ぶ港珠澳大橋によって、香港と珠海またはマカオ間の車移動の所要時間は4.5時間から約40分に短縮される。この橋によって、香港、マカオおよび珠海デルタ西部地区の経済発展が促進されるとみられる。 中国経済は、労働集約型で製造業が基盤となった経済から、中流階級の成長に支えられたサービス業・技術革新指向型の経済に移行しつつあるため、大湾岸圏は中国の新しい成長モデルへの転換を先導することになるとみられる。製造業、技術革新、物流関連の多くの分野で圧倒的な強みを持っていることとは別に、大湾岸圏は金融テクノロジー、再生可能エネルギー、バイオ医薬、ヘルスケア、医療機器、観光、ウェルス・マネジメントの分野でも成長する可能性がある。 適切な金融、物流、製造業および技術インフラが整備されていることは、大湾岸圏構想が成功するための条件の一部にすぎない。人、物、資本の地域内の自由な移動を確保するためには、関連する地域間の政策および規制を整備する必要がある。 大湾岸圏の発展は始まったばかりである。世界はこの胸を躍らせるような変化に細心の注意を払うべきである。なぜなら、この都市群は世界的な生産、技術革新の重要な拠点にとどまらず、世界の商業および経済成長の中心となる可能性があるからだ。

アリババ、5億人のデータを「リアル」活用 商取引の転換目指す【アジア特Q便】

QUICKではアジア特Q便と題し、アジア各国・地域のアナリストや記者の現地の声をニュース形式で配信しています。今回は、フィリップ証券(香港)のルイス・ウォン(Louis Wong)氏が中国インターネット通販最大手、アリババ集団の動きをレポートします。   2016年開催のアリババ集団のフォーラム「雲棲大会」で、馬雲会長は初めて「ニューリテール(新小売り)」というコンセプトを打ち出した。その戦略の一つが、オフライン企業への投資や買収を通じてオンラインとオフラインの業務を結合するというものだ。百貨店業態がアリババによる従来のリテール改造の最初の試験場となる。アリババは14年3月に香港株式市場に上場していた中国百貨店大手の 銀泰商業に53億7000万香港ドルを出資し、同社の2番目の大株主となった。さらに17年5月には同社の株式を非公開化した。 「生活選集(ハウスセレクション)」はアリババと銀泰商業が提携する新たな小売りプロジェクトだ。生活選集は16年12月、銀泰商業の浙江省杭州市の武林店内に1号店を開設した。面積約1200平方メートルの店内に並ぶ商品はいずれも、アリババ傘下の通販サイト「天猫(Tモール)」の良質な「淘(タオ)ブランド」。ホームテキスタイルや食器・調理具、家具、児童用品、ペット関連のほか、撮影といったクロスオーバーなサービスを含めた6つの商品群をそろえている。 ハイパーマーケットとショッピングモール内スーパーは、アリババによる従来のリテール改造の2つ目の試験場となる。アリババは17年11月、約224億香港ドルを投じて高キン零售(サンアート・リテール)の株式36.16%を直接的、間接的に取得すると発表した。サンアートは中国最大規模のハイパーマーケット運営企業で、「欧尚(オーシャン)」「大潤発(RTマート)」という2大ブランドで全国29省・市・自治区にハイパーマーケット446店を展開している。16年度の売上高は1000億人民元を超え、長年に渡り中国小売業界でトップシェアを維持している。 その後、アリババはサンアートに対して同社発行済み株式すべてをまとめて買収すると提案した。しかし、結果はサンアートの発行済み株式の約0.0032%の30万3600株を取得したにとどまった。このため、サンアートは引き続き香港株式市場で上場を維持している。 サンアートの非公開化に失敗したものの、アリババはわずか1カ月でアリババ経済圏の5億人を超える消費者や数百万社に上る販売業者、クラウドプラットフォーム、ビッグデータのリソースが、大潤発のサプライチェーンの店舗ネットワークにダイナミックに融合しつつあることを明らかにした。ネットスーパー「天猫スーパー」 の100万点を超える精選された商品が大潤発の20都市にある店舗167軒に導入されたと発表した。 調査研究機関のリポートによると、日用消費財(FMCG)分野の約1割の消費者がサンアート(欧尚+大潤発)の消費者であると同時に、淘宝(タオバオ)系列(天猫+淘宝)の消費者でもある。このため、両社の提携は相乗効果を生み、新たな市場の獲得が可能だという。両社は今後さらに、かつてない消費体験を消費者に提供するべく、AR(拡張現実)やVR(仮想現実)といった新たな技術を提供していくとみられている。 一方、アリババ集団は引き続き、ニューリテールの事業組織の変更を進めていく。同社はこのほどクラウドリテール事業部と天猫、淘宝とを全面的に合併させると発表した。天猫のニューリテールプラットフォーム事業部がアリババ集団のクラウドのインフラ設備やデジタル化能力、ビッグデータのリソースを統合することになる。 アリババはクラウドリテール事業部のニューリテール業務とデジタル業務の全面的な融合で、オンライン・オフライン一貫のより完備されたサポートを世界のブランドに提供し、商取引(コマース)全体の大転換をけん引すると表明した。同時に世界のブランドとともに、最先端のニューリテール業態を通じ、より高い消費者ニーズを満たしていくとも述べている。 ※アジア特Q便は、QUICK端末で先行してご覧いただけます。 本情報は、情報の提供を目的としており、投資その他の行動を勧誘することを目的としたものではありません。有価証券その他の取引等に関する最終決定は、お客様ご自身のご判断と責任で行って下さい。株式会社QUICKおよび情報提供元であるルイス・ウォン氏は、本情報を利用して行った投資等により、お客様が被った、または、被る可能性のある直接的、間接的、付随的または特別な損害またはその他の損害について、一切責任を負いません。

AI半導体最前線 エヌビディアにライバル続々

QUICKではアジア特Q便と題し、アジア各国・地域のアナリストや記者の現地の声をニュース形式で配信しています。今回は台湾の現地記者、李臥龍(リー・ウォーロン)氏がAI半導体の最前線をレポートします。 時代はGPUからASICへ 人工知能(AI)が急速に隆盛し、グラフィック処理ユニット(GPU)が主な演算チップに採用されたことで、画像処理半導体の2大メーカーであるエヌビディアとアドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)の株価が急騰した。もっとも、アプリケーションが一段と多様化するなか、特定用途向け半導体集積回路(ASIC)に切り換えるシステムメーカーも少なくない。画像処理半導体は今年にもASICにその地位を奪われることになると予測するアナリストは多い。 AIは過去数年間の半導体におけるメインストリームだと言えるだろう。エヌビディアやAMDの株価が数倍に高騰したことからも、高速演算チップを用いた膨大なデータや画像を処理は今後の流れであることが充分に分かる。 多くのシステムメーカーが音声・画像認識や自動運転、医療などに深層学習(ディープラーニング)を備えたAI半導体を導入している。エヌビディアは最も早い時期からこうしたメーカーと提携しており、当然のことながらAI市場の隆盛の最大受益者となった。 しかし、画像処理半導体の高速演算アルゴリズムは、すでにシステムのニーズを満たすことができなくなっている。 TSMC、ビットコイン関連で大型受注 最新の調査によると、最近の市場で注目を集めているビットコインなど仮想通貨ではマイニング(採掘)の難易度が絶えず高まり、GPUに替わりASICが用いられるようになった。 最新情報によれば、ビットコインのブームを巻き起こした中国のマイニング最大手ビットメインは今年、半導体受託生産会社(ファウンドリー)世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)にウエハー10万枚を一気に発注した。TSMCの回路線幅12ナノメートル(ナノは10億分の1)製造プロセスを用いてASIC半導体を生産し、次世代マイニング機器のコアチップにするという。関連の発注に関しては今年から出荷を開始し、毎月1万個を納める見通しだ。 この大型受注により、TSMCの株価に対する悪材料は打ち消された。スマートフォンの受注が予想を下回り、売上高が当初の想定から1割近く落ち込むとされていたが、減収幅は5%未満に縮まるとみられている。外国人投資家のTSMCに対する評価も変化した。外国人投資家は今年1月2日以降、累計でTSMC株を5万株買い越しており、TSMCの株価を226台湾ドルから7%高の242台湾ドルにまで押し上げた。 期待されるザイリンクスのFPGA 専門の海外投資機関も今後ASICがGPUに取って代わりAIの新たなスターになると有望視している。なかでも特に将来性を期待されているのが、製造後に回路構成の設定が可能な半導体FPGAの最大手である米ザイリンクスだ。FPGAの消費電力がGPUを下回る一方、処理速度が比較的速いというのがその主な要因。FPGAチップを用いてゲノム配列解析や音声認識の精度向上に必要なディープラーニングを行っているメーカーもすでにあるという。 AI発展の分け前にあずかろうとASIC開発を目指す半導体企業もますます増えている。米グーグルのAIチップの研究開発に協力したブロードコム、キャビウム、マーベル、マイクロセミ、台湾の聯発科技(メディアテック)と中国インターネット通販最大手アリババの連合などが例として挙げられる。AIアプリケーション向け半導体の商機をめぐって争う競合が増えることで、エヌビディアとAMDの好況も間違いなく分散されることになるだろう。 ※アジア特Q便は、QUICK端末で先行してご覧いただけます。 ※本情報は、情報の提供を目的としており、投資その他の行動を勧誘することを目的としたものではありません。有価証券その他の取引等に関する最終決定は、お客様ご自身のご判断と責任で行って下さい。株式会社QUICKおよび情報提供元である李臥龍氏は、本情報を利用して行った投資等により、お客様が被った、または、被る可能性のある直接的、間接的、付随的または特別な損害またはその他の損害について、一切責任を負いません。

キャッシュレス化を目指すインド HSBCレポート

QUICKではアジア特Q便と題し、アジア各国・地域の現地の声をニュース形式で配信しています。今回は、HSBCグローバル・アセット・マネジメントのインベストメント・ダイレクター、ニラン・メータ氏がレポートします。 インドの電子決済革命を牽引しているのは意外に思えるかもしれないが、政府である。 インド政府は、インド準備銀行(中央銀行)の助言の下、民間の専門家の協力を得て、ここ数年で国内の電子決済を飛躍的に前進させた。通常、新興国の政府は官僚主義的で、大きな技術革新を主導するようなことはほとんどなく、極めて珍しい成功例と言える。 インド決済公社(NPCI)は、インド国内のすべての小売業の決済システムを統括する組織として約10年前に設立された。その主要な目的は、複数のシステムを1つの標準的なプラットフォームに集約、統合することである。 決済手段の革新 インドは2022年までに携帯電話、スマートフォン、インターネットの利用者数が世界第2位になると予測されており、現在は電子商取引と電子決済の普及拡大を加速させるのに最適な時期とみられる。しかし現在のインドの現金決済比率は約80%と、先進国の約20-25%や中国の50%を大きく上回っているため(※1)、「キャッシュレス」経済とは程遠いのが現状である。そのほかにも、スマートフォンの普及率が低く、インターネットのサービスエリアが限定的で、電子決済の手数料が相対的に高いことなどが障害となっている。 しかしNPCIはこれらの課題に対処するため革新的な解決策を開発した。具体的には、スマートフォンやインターネットの普及率が比較的低いという問題を解決するために、インターネットに接続できない基本機能のみのベーシックな携帯電話を使って電子決済が可能なシステムを開発した。NPCIはまた、統合決済インターフェース(UPI)という、ピアツーピア、個人と商店、または企業間の決済をベーシックな携帯電話で行える統合型のオープンアーキテクチャシステムを開発した。世界の決済システムの展望において現時点で最も革新的な動きと言えよう。 だが、インドの巨大人口をカバーできるまでに利用網を拡大するのは依然として困難を伴う。しかし、アドハー(国民総背番号制)対応決済システム(AEPS)が、インドの電子決済革命の起爆剤になると考えられる。AEPSによりスマートフォンを持っていない利用者、そしてPOS(販売時点情報管理)システムを備えていない小売店という二つの問題が解決する。小売店側が普通のスマートフォンを持っていれば、10米ドルで買えるデジタル読取り装置をこれに接続することによって指紋および虹彩をスキャンできるようになり、買い手は銀行口座の本人確認にも利用できる生体認証IDを使って決済が可能となる。この「アドハー決済」は、インド特有の課題の解決のためにインドが独自に編み出した解決法となっている。 高額紙幣廃止がきっかけとなったキャッシュレス革命 インドは伝統的に現金中心の経済であったが、大きな変化がゆっくりと進行している。決済全体に占める現金決済の比率は2005年には92%だったが、2015年までに78%に低下した(※1)。つまり毎年1%ポイントずつ低下してきたことになる。昨年インド政府がGDPの12%、流通紙幣の86%(金額ベース)に相当する高額紙幣を廃止したことが電子決済を後押しする形になった(※2)。この決定によって人口の大半は、新紙幣が銀行やATMに届くまでの間、電子決済を利用することを余儀なくされた。 この期間に政府は、UPIシステムの根幹を強化し、自ら開発したスマートフォン用電子決済アプリ、バーラット現金決済インターフェース(BHIM)のサービスを開始した。BHIMシステムによって、銀行口座と携帯電話を持っていれば誰でもワンクリックで即時送金することが可能となった。2017年10月現在でBHIMアプリのダウンロード数は2,000万件(※3)に達し、政府は2018年3月までにこれを4億件にするという野心的な目標を設定した。 新たな参入企業と後続企業 インドの電子決済市場にはこれに注目した世界的な企業も参入している。中国のアリババはモバイル・ウォレット大手のPaytm(ペイティーエム)と提携し、より最近では、フェイスブックやグーグルがUPIを利用して、統合決済サービスをWhatsApp Messenger(ワッツアップメッセンジャー)や様々なグーグルのアプリに統合しようとしている。 WhatsAppはUPIに接続した決済システムの試用を2017年8月から実施しており、近日中に本格的に展開する予定だ。WhatsAppのインド国内のユーザー数は2017年半ばで2億5,000万人、またインドで販売されるスマートフォン10台中9台がアンドロイド端末であるため、これら企業の参入は電子決済革命に向けて注目すべき潮流と言える。 インドは決済の電子化を急速に進展させているため、電子決済に対する抵抗感は薄れ、デジタル化分野の透明性は向上し、今後も拡大し続けるとみられている。インド経済における現金に関わるコストの総額はGDPの1.7%(※4)程度と推定される。電子決済の拡大により、長期的にはこのコストは減少が見込まれる。企業と個人にもデジタル化分野の拡大による恩恵が広がるだろう。金融サービス企業が消費者行動・需要に関するデータを利用して顧客の理解を深め、利用者が適切なコストで金融サービスにアクセスできるように状況を改善するはずだ。 インドでは、デジタル決済革命が起こりつつある。同国の人口規模、経済成長ポテンシャル、また政府の電子決済普及に向けた積極的取り組みから見て、これは注目すべき潮流と言える。 出所: ※1. ボストン コンサルティング グループ(BCG)およびグーグルの報告におけるデータ – 電子決済2020(Digital Payments 2020) – 2016年7月現在 ※2. インド準備銀行(RBI)による2016年11月現在のデータ ※3. NPCIによる2017年12月現在のデータ ※4. Visaによる2016年10月現在のデータ

中国での環境意識の高まり:自転車利用、カーシェア、植樹 HSBCレポート

 QUICKではアジア特Q便と題し、アジア各国・地域の現地の声をニュース形式で配信しています。今回は、HSBC中国のデビッド・リャオ(David Liao)社長兼CEOがレポートします。   11月6~17日、ドイツのボンで第23回国連気候変動枠組み条約締結国会議(COP23)が開催された。COP23では、世界中の政府関係者が一同に会し、気候変動に関する世界的取組の今後について協議する。そこへ世界各国の政府にとっては意外な協力者が出現した。中国の13億8,000万人の消費者である。 中国の過去数十年にわたる飛躍的な経済成長は、人口の大半を貧困から脱却させたが、環境を犠牲にしてきたことは疑いようもなく、世界第2位の経済大国である中国の温室効果ガス排出量は世界最大である。中国の重工業が関連する大気汚染のニュースや、スモッグで包まれる国内の大都市のイメージが度々報じられている。 このため中国の消費者が環境を意識しているとの見方には説得力がないかもしれない。 しかし、中国の環境汚染がきわめて広範に拡大する兆候が浮上し、国民は気候変動に敏感になり新たな対策が必要と考えるようになった。 例えば市場調査会社のイプソスが8月から9月にかけて世界各国で実施した調査(※1)によれば、国内の気候変動を懸念する回答者が最も多かったのは中国で、回答者の24%が懸念事項上位3つのうちの一つに気候変動を挙げている。中国に次いでカナダが21%だったが、調査対象の26ヵ国の平均はわずか10%だった。 ※1 Ipsos, What Worries The World Survey, September 2017 https://www.ipsos.com/ja-jp/what-worries-world-autumn-2017J 同時に、中国で急速に拡大する中間所得層の間では、健康と生活の質に関する要求が一段と高まっている。こうした人々の多くはテクノロジーに詳しく冒険心が旺盛で、自分たちの嗜好や要望に応えようと革新的な民間企業が提供する新しいプロダクトやサービスを積極的に試そうとしている。 顕著な事例として、昨年1年あまりの間に急速に普及した自転車シェアリングが挙げられる。中国では一時は街路からほとんど姿を消した自転車が、現在は再び息を吹き返している。今や中国の多くの都市の街角や地下鉄の出口で、市民がモバイル機器をスキャンしてレンタル自転車の鍵を開け、毎日の通勤の最後の交通手段あるいはスーパーマーケットまでの足として利用する光景が見られる。 いたるところに自転車が駐輪されることを懸念する見方も一部にはあるが、こういった便利で低コストの取組をきっかけに、より健康的で経済的負担が少なく環境保全にもプラスとなるこの交通手段を、数百万人の中国人が再び愛好するようになっている。 自転車シェアリングサービスの新興企業として、中国のテンセントや米国シリコンバレーのベンチャーキャピタル、セコイア・キャピタルからの投資を得ているモバイクによれば、同社の1億人に上る顧客の自転車の利用はこの1年以内で倍増し、自動車での移動を半分に減らしたとされる。 さらにモバイク社は、10万人の顧客を対象に行った調査を基に、同社のサービス利用者は2016年半ばに計画がスタートしてからの1年間で、二酸化炭素排出量を54万トン減らしたと推計している。これは自動車を1年間に17万台減らしたことに相当する。 自動車を選好する人々にとっても、中国はカーシェアリングの試験台となりつつある。ドイツのミュンヘンを本拠地とする経営戦略コンサルティング会社ローランド・ベルガ―は、中国国内でカーシェアリングに利用される自動車の数は、大気汚染を抑止したい政府の取組を背景に、2025年まで毎年45%のペースで増加すると予想している。(※2) ※2 Roland Berger, Car Sharing in China (6 April 2017) https://www.rolandberger.com/en/press/Car-sharing-in-China-Size-of-fleet-to-grow-45-percent-per-year-through-2025-%E2%80%93-h.html 環境に特に配慮している事例として、上海拠点のEVカードは23都市で8,000台を超える電気自動車を短期レンタルしている。利用者はモバイル端末のアプリとキーカードを使って、1分間当たりわずか0.50人民元ないし1日当たり180人民元でレンタルできる電気自動車を探すことが可能だ。180人民元は30米ドルに満たない金額である。 政府の振興策もあって中国の電気自動車市場も活況を呈している。昨年1年間に中国では25万7,000台の電気自動車が登録された。これは世界全体の電気自動車登録台数の55%に相当し、米国での登録台数の3倍である。 また中国当局が化石燃料自動車を将来禁止することも視野に入れていることから、電気自動車の市場は急速な拡大を続けるだろう。中国当局がこうした取組みを検討していると9月に報道された一方で、今年に入ってからフランスや英国でも同じ趣旨の発表が行われた。 より一般的な市民生活レベルでも、環境保全の考え方は中国人の日常に浸透しつつある。2016年8月にはユビキタス・モバイル決済アプリのアリペイに「アント・フォレスト」というミニアプリが導入された。このアプリの利用者はウォーキングやネットショッピング、請求書のオンライン決済などを通じて「グリーンエネルギー」ポイントを獲得する。アント・フォレストに十分なポイントを貯めた利用者は、それを実際の苗木と交換し内モンゴル自治区の砂漠に植樹することができる。 国連の環境プログラムと協調してこの取組みを主導しているアント・ファイナンシャルの報告によれば、このアプリが導入されてからの6カ月間に2億人のユーザーが参加し、この間のユーザーの行動変化によって推計15万トンの炭素排出量が削減され100万本を超える苗木が植樹された。 世界全体に突き付けられている環境問題に比して、こうした動きの全てはほんのわずかな前進にすぎないかもしれない。しかし中国の人口と経済規模の大きさを考えれば、こうした進歩は中国国内だけでなく世界全体にとって重要である。 またこれは中国で急速に増加する中間所得層の要求に応えたい企業にとっての教訓でもある。英国のベビー服販売業者であれ、日本の自動車メーカーであれ、あるいはアメリカのレストラン事業者であっても、中国の消費者が製品やサービスの価格や利便性だけでなく環境への影響を一段と意識し始めたことには注意を向ける必要がある。 消費者とともに中国の政府当局も、気候変動に関するパリ協定を順守するとした上で、エネルギー消費抑制や排出ガス削減、再生可能エネルギー創出の取り組みを強く推進している。これらによって地球環境は改善されていくだろう。    

中国の「シリコンバレー」が主導するデジタル革命 HSBCレポート

QUICKではアジア特Q便と題し、アジア各国・地域の現地の声をニュース形式で配信しています。今回は、HSBC広東省チーフ・エグゼクティブのモンゴメリー・ホー氏がレポートします。   中国、テクノロジー利用拡大 シリコンデルタが目覚ましい成長 世界のテクノロジー産業における次の大変革はおそらく、中国国内で最も革新的な企業の多くが本拠地を置く広東省の都市集積地帯のシリコンデルタから生まれるだろう。起業家精神や創造性、市場構造、通信インフラ、壮大な規模などを併せ持つ中国本土のテクノロジーセクターが、中国全体のけん引役となる日がやって来るのは時間の問題である。 その萌芽は特に珠江デルタで容易に見出すことができる。世界最大級のハイテク企業の本拠地である深センをはじめとする珠江デルタ地域全体は、今や世界をリードする先進的デジタル製造業のエコシステムへと進化している。 中国でテクノロジーの利用が急速に拡大したことが、シリコンデルタの目覚しい成長のきっかけとなっている。HSBCの「トラスト・イン・テクノロジー(Trust in Technology、英文レポート:http://www.hsbc.com/trust-in-technology-report)」調査によれば、中国本土の回答者の100%がスマートフォンを所有し、そのうち82%がソーシャルメディア上の金融サービス・プログラムを利用し、43%が無線接続と音声操作の機能を備えたスマートスピーカーを所有している。これらを踏まえると、今年4月に深センに本社を置くインターネット企業騰訊控股(テンセント)が時価総額で世界第10位となり、11位に電子商取引大手のアリババが続いたことは驚くにはあたらない。 百度、アリババ、テンセントは単一プラットフォームでアプリ構築 西欧では、スマートフォン利用者がそれぞれ異なるニーズでワッツアップやアマゾン、フェイスブック、ウーバー、エアービーアンドビーなど異なるアプリを使用している。これに対し中国では百度(バイドゥ)、アリババ、テンセントのいわゆる「BAT」が単一のプラットフォーム上で作動するユニバーサルアプリを構築している。アプリからアプリに移動する必要が無く、一つのアプリをインストールすればほぼ事が足りる。 6年前にテンセントが微信(ウィーチャット)のサービスを開始したときは単純なチャットアプリに過ぎなかったが、現在のウィーチャットはソーシャルメディア、決済、マッチングサービス、ニュース、メッセージをはじめとするサービスを9億人以上のアクティブユーザーに提供している。いわば、スナップチャットやワッツアップ、スカイプ、インスタグラム、ペイパル、フェイスブックライブ、イェルプ、ティンダー、アップルペイなどのアプリが一体になったものと考えることができる。これに対し、ウィーチャットに相当する西欧のサービスでは、単一のプラットフォームで提供できるものは比較的限られたユーザー体験にとどまる。 しかしウィーチャットが、競合相手のサービスの単なる模倣版を寄せ集め、利便性を提供していると考えるのは大きな間違いである。わずか10年前に地味なスタートを切った中国のインターネット企業だったテンセントは、今や世界のテクノロジーセクターのクリエイティブなアイデアを生み出す中心的存在だ。3つの基本的なアプリを使えば、ほぼ全てのものを手にすることができ、どんなことでも可能で、誰とでも会うことができる。ウィーチャットを使えば、ショッピングモールに向かう前にその場所がどれだけ混雑しているかを色分け地図によってリアルタイムで表示することまで可能だ。 中国国内で一段と増加している洗練された若い世代は、デジタル技術とその革新を受容する能力が極めて高い。HSBCの調査では中国の回答者の90%がテクノロジーによって生活は改善され、また89%がテクノロジーの進歩によって世界はより良くなるとの見方を支持した。   実際、中国の消費者は新しいテクノロジーが秘める可能性に沸き立っており、79%の消費者が出来る限り新しいテクノロジーを使って用事の大半を済ませたいと考えている。事実、中国では指紋認証技術を取り入れることに積極的で利用率は40%と世界最高であり、インドが31%でそれに続いている。対照的にフランスとドイツでは指紋認証技術を本人確認に利用している比率は9%、カナダでは14%にとどまっている。 「BAT」をはじめとする中国のテクノロジー企業は巨額のイノベーション投資を行っており、人工知能の研究では最先端を走っている。人工知能は医療機器から自動運転、決済サービスなどの分野の製品の機能性をさらに高める技術として、電力の発明に匹敵するほどの影響を人類生活に及ぼすと予測されている。 13億人の膨大な消費者、迅速な規模拡大が可能 また中国では、国内の巨大なインターネット産業が生み出す膨大なデータの通信に必要な物理的インフラを、一部の先進国をはるかに上回る規模で構築している。中国の地方村落の大半では4G通信が可能であり、インターネット接続速度では欧州内の多くの首都をしのいでいる。これによってオンラインショッピングを利用する消費者の利便性は大幅に向上し、オンラインで購入した品物は効率化の進んだ配送会社と近代的な高速交通網によって玄関口まで配送される。 おそらく最も重要な点は、中国には13億8,000万人もの膨大な消費者が存在するということだろう。これを背景にインターネット企業やテクノロジー企業は迅速に規模を拡大することができる。有望な新興企業は、この巨大な市場のごく一部を捉えさえすれば、その将来性だけでベンチャーキャピタルから資本を引き出すことができる。 まさにこれが今、珠江デルタで起きていることである。米国のシリコンバレーに触発されて、深センにはベンチャーキャピタリスト、アクセラレーターそして巨大テクノロジー企業出身者が集まり、次に成功する新興企業を見出そうとしている。 こうした要素のすべてが、既成概念を覆す大変革を生み出している。中国のインターネット企業が世界的な成長を遂げている中で、次世代の世界的なインターネット巨大企業は中国から誕生すると考えるのが妥当だ。それは、中国の大手旅行サイトのシートリップ(Ctrip)がスコットランドの同業スカイスキャナーを買収したような企業買収の形で進むこともあれば、またアリババの決済サービス「アリペイ」のように小売業者の世界的ネットワークを構築し、事業の成長により拡大する形で進むこともあるだろう。 アイデアに詰まった米国のシリコンバレーのトップは、中国のシリコンデルタに目を向けてみると何か得られるかもしれない。数年中にはもっとはっきりとそのような状況になっているはずだろう。  

ASEAN発足50周年、インフラ事業を基盤とする経済成長の黄金期が到来 HSBCレポート

QUICKではアジア特Q便と題し、アジア各国・地域の現地の声をニュース形式で配信しています。今回は、HSBC商業銀行部門アジア太平洋地域統括責任者のスチュワート・テイト氏がレポートします。 ASEAN主要経済圏、今後5年間でインフラ投資2倍に 今年で発足50周年を迎えるASEAN(東南アジア諸国連合)の主要経済圏は、今後5年間にインフラ投資を2倍に拡大して7,000億米ドル超とすることを約束している。これによって貿易や観光産業、今後数十年間の持続的な経済成長のための開発事業に弾みがつく可能性がある。 またASEANのメンバー10ヵ国の経済政策における財政支出計画の焦点は、主に2020年にかけて輸送環境を整備することにある。 世界経済フォーラムの国際競争力レポートでは、長期的に堅調な経済を創出する上でインフラが極めて大きな役割を果たすことから、こうした投資が重要であるとされている。 さらに、ASEAN内外の貿易や投資を活発化し、人とモノの流れを円滑にするために、一段と連携を強化することの重要性も軽視できない。 こうした取り組みは、世界最大の人口を抱えて急速に成長を遂げる、活気に満ち溢れたASEAN地域において域内外の企業が事業機会を最大限に拡大するための支援となる。ASEAN諸国全体のGDPは約2兆8,000億米ドルとすでに世界第7位の規模にあり、今後2030年までには世界第3位まで入ってくることが予想される。 ASEAN地域のサプライチェーンの輸送網が改良されれば輸入コストが減少する。現在の世界貿易の70%を中間財やサービス、資本財が占めているとの世界銀行の推計から判断してもコスト減少の効果は決して小さいものではない。   ASEANの潜在的な購買力に中国も期待 またASEANでは、今後数10年間に新たに創出が見込まれる5,700万世帯の中間層家計の消費活動を追い風に、貿易数量が2014年から2025年の間にほぼ倍増して2兆8,000億米ドルに達すると予想されていることからも、サプライチェーン改良のもたらす効果は小さくない。 こうした裕福で若い都市人口の増加により巨大な消費者購買力が見込まれることは、中国が「一帯一路」構想の下で貿易活性化につながるインフラ整備や投資、事業を強化しようとする大きな理由でもある。 ASEANと中国は、相互貿易額を昨年の5,000億米ドルから2020年までに倍増させて1兆米ドルにするとの目標を掲げている。こうした背景からもインフラ投資や主要プロジェクトに関わるエコシステム事業の機会は特に魅力的なものとなっている。   インドネシアに大規模な事業機会 ASEAN域内のあらゆる大国に事業機会はみられるが、直近で大規模なチャンスが生まれているのはインドネシアである。 インドネシアが2016年から2020年の間に計画しているインフラ投資は3,500億米ドルとASEAN主要5ヵ国の合計額の約半分に相当する。それには以下のような理由がある。 ASEANで最大の経済規模を有するインドネシアでの輸送インフラへの投資はGDP比6%と域内で最も低い水準にあり、フィリピンの同13%やマレーシアとタイの19%、シンガポールの31%に遅れをとっている。 インドネシア政府のインフラ予算は2014年以降に倍増したが全体的な支出必要額には遠い。また財務省は2015年から2019年までに民間セクターには1,300億米ドル相当の事業機会が生じると推計している。   タイは1,200億米ドルのインフラ支出を計画 インドネシアに次ぐ規模のインフラ市場を有するのはタイである。事業規模で700億米ドルに相当する56件の巨大プロジェクトを始めとする、1,200億米ドルのインフラ支出が計画されている。 タイでは、GDPの84%を製造業が占め、また製造業製品のほぼ全て(96%)が陸上輸送されているという現実が、輸送網の改善を促す背景となっている。 早期着工が予定される56件の巨大プロジェクトの事業規模が700億米ドルであることに加え、事業規模440億米ドルの「東部経済回廊」開発計画によりタイは民間セクターの資金調達の主要市場となり、必要資本の4分の1前後は「官民連携(PPP)」の下で調達される見通しである。   フィリピン、道路・鉄道整備の「ドリームプラン」 ASEANの議長国を50周年の節目の年に務めているフィリピンも、2017年から2022年までに1,440億米ドルの積極的なインフラ投資を行うことを念頭に、今後数十年間をかけて競争力を強化するための画期的な計画を策定している。 実施が予定されている投資案件の約90%は輸送網に関連するものであり、また政府が「ドリームプラン」と称する2018年から2020年までの道路と鉄道に係る直近の整備事業の規模は410億米ドルである。 フィリピンでは政府が税制改正に動いていることによって外国からの対内直接投資が促進され、外国資本による企業所有の規制が緩和されている。また一段の民間投資が促され、すでに中国企業がフィリピンのインフラ事業に参画し始めている。   マレーシアは鉄道投資を柱に輸送網を整備 マレーシアでは、輸送網を巡る大きな事業機会は、国内の各地域間の連絡や地方における連絡を活性化し経済効率を改善することであり、また適切に統合された輸送システムを創設し、ASEAN地域における国際貿易ハブとしてのマレーシアの地位向上につながる物流能力を高度化することにある。 2016年から2020年までの5年間のインフラ支出計画は850億米ドルとされ、2011年から2015年までの500億米ドルから増加している。 輸送網の整備への支出においては鉄道投資が柱とされ、シンガポールとバンコクをつなぐ高速鉄道を中心に、現存の大量輸送能力を強化し東海岸の開発を進める計画が立てられている。   シンガポール、地下鉄システムの規模を拡大 シンガポールの輸送インフラはすでに世界最高水準だが、さらに都市国家として地下鉄システムの規模を2030年までに2倍に拡大する政府計画の下で一段と進歩する見通しだ。 2016年から2020年までの期間に3つの新しい路線を建設して地下鉄網をさらに113キロメートル延伸させる事業では、600億米ドルの新規投資が生まれると予想される。これは2011年から2015年までの期間の投資額の500億米ドルを上回っている。   ASEANはインフラ事業を基盤に黄金期へ ここに挙げた全ての経済活動は、ASEANの各経済圏が未来を見据えて経済成長と経済開発の基盤作りに注力していることの表れである。 すなわち、50周年を迎たASEANではインフラ事業が貿易と投資の成長を下支えする黄金期が始まろうとしているのである。

10周年を迎えるグリーンボンド市場 HSBCレポート

QUICKではアジア特Q便と題し、アジア各国・地域の現地の声をニュース形式で配信しています。今回は、HSBC グローバル・バンキング&マーケッツ、アジア太平洋地域統括責任者のゴードン・フレンチ氏がレポートします。 グリーンボンド、2016年の発行額は900億ドル以上 注目高まる 最初のグリーンボンドが発行されて今年で10年目となるが、グリーンボンド市場は成熟した市場を目指して現在も急成長中である。気候変動の影響を抑制する世界経済全体の取組みを支援するプロジェクトの資金源としてその重要性は一段と高まっている。 これまでの10年間を幼年時代とするならば、全く心配のない幼年時代だったとは必ずしも言えない。世界初の「グリーンボンド」が発行されたのは2007年7月で、その発行額は6億ユーロだった。その後に続く動きもまずまずだったが、当初の勢いは影を潜めていた。2013年には年間発行額が100億米ドルの節目を上回ったが、それでも債券市場全体から見れば極小さな存在だった。 しかし10年の年月を経た今、資本市場に生まれたグリーンボンドという幼子は目覚ましく成長した。昨年のグリーンボンド発行額は900億米ドルを突破し、2015年の2倍以上となった。その中にはポーランドが発行した、発行額7億5,000万ユーロの世界初のソブリン・グリーンボンドが含まれる。この1月にはフランスが22年物の発行額70億ユーロのグリーンボンドを発行した。これは発行額と長期年限の面で画期的だっただけでなく、投資家の需要が230億ユーロ超にまで膨らみ、発行予定額を大きく上回ったことでも大きく注目された。 成長を確信する3つの理由   気候変動は地球にとって差し迫った脅威であり、炭素集約度の高い技術やインフラを減らしていく取組みに充てる資金を確保するためにはまとまった資本注入が必要である。それは、風力発電タービンや太陽光発電企業、低炭素型交通システム、建造物や街全体のエネルギー効率と水資源利用効率を一段と高める技術などの進歩に向けて活用される。 グリーンボンド市場の発展は緩やかかもしれないが、今や低炭素社会を創り出す上で欠かせない存在になっている。気候変動を抑制する事業への投資機会を求めている資金は世界的に増加している。グリーンボンド市場は、企業がそうした資金を利用することを可能とし、またそうした資金を持続可能な環境に保つためのプロジェクト資金に振り向けていくものである。   現時点では世界の債券市場の1%にも満たない規模のグリーンボンド市場だが、我々が今後急速に成長すると確信する以下の理由がある: ①まず、汚染や世界的気温上昇から生じるリスクについての企業や消費者、投資家の認識に根底から変化が生じている。2015年に採択されたパリ協定では気候変動に対処する必要性について全会一致の世界的合意が成立した。その前提として、世界の平均気温上昇を産業革命前と比較して摂氏2度未満に抑える目標に向け、国家的な計画の推進を200ヵ国近い加盟国が批准することが必要だった。これを受けて環境技術の投資とそのための資金調達が活発化した。 ②次に、技術進歩によって(代替エネルギー技術から電気自動車、バッテリーまで)経済的合理性を備えた低炭素型技術がますます増えている。倫理的な意味だけでなく財政面からも環境投資は一段と理にかなったものとなりつつある。 ③3つ目の理由として、中国とインドが環境重視の経済を強く支持する立場をとったことが挙げられる。中国とインドの発行体が2015年にグリーンボンドを初めて起債したことにより、それまではスカンジナビア諸国や米国、英国が中心だった市場が地理的に広がった。昨年は中国で330億米ドルあまりの規模でグリーンボンドが発行され、15年にわずか10億米ドルで始まった中国でのグリーンボンド発行はすでに世界全体の3分の1を超えた。インドでの発行額はそれよりかなり小規模で、昨年はわずか10億米ドル強だったが、インドもやはり低炭素技術に関するパラダイムシフトを経験している最中である。 グリーンボンドを支援する潮流の勢いは増しているため、債券発行体も投資家もグリーンボンドを無視できなくなっている。 機関投資家の多くは気候に配慮した投資先を増やしたい 気候変動や環境を重視する「グリーン」の姿勢を疑われる債券があることも事実である。調達資金が本当に気候変動や環境に関するプロジェクトに充てられるのか、あるいは「グリーン」な姿勢に疑問のある企業に調達資金が向かっていないか、といった問題である。さらに、ある債券発行が他と同じように「グリーン」であることを誰が評価するのかという問題もある。こうした問題についての一貫した透明性のある回答がいまだ得られない状況に多くの投資家は置かれている。一方の債券発行体も、情報公開や運用報告、「グリーン」なベンチャー事業の認証などに追加的な作業やコストを投入することに消極的である。 しかし追加的な作業やコストは過大に見積もられる傾向があり、標準化と査定の取組みは進展している。例えば格付会社のスタンダード&プアーズは、ある債券がグリーンか否かだけではなくどの程度グリーンなのかを評価する仕組みをこの4月から実用化している。 またグリーンボンドへの然るべき評価がまだ十分に広まっていないと考えられるが、その利点は大きい。 まず、グリーンボンドの発行を通じて企業は、自らの投資ポートフォリオが炭素依存度の高い、持続可能でない債券発行体や事業に関わっていることを懸念している年金基金や政府系ファンドなどの投資家の間で増えている、グリーンボンドのような投資先を求める動きを捉えることができる。2016年の年初時点で、約23兆米ドルの資産が専門家による責任投資戦略の下で管理されている。これは2014年比で25%増であり、専門家が管理している世界全体の資産の4分の1を超えている。 同じように先にHSBCが行った調査でも、世界全体の機関投資家の3分の2が、低炭素型で気候に配慮した投資先への投資額を増やしたいと考えていることがわかっている。 さらにグリーンボンド発行によって、発行体は自らが地球温暖化という長期的な課題を意識しそれに備えていることを周知させることができる。 また気候変動に関するリスク特性の特定や最小化、監視を発行体に要請することは、低炭素型の発想を発行体の企業文化や事業戦略に組み込んでいく上での支援となる。こうしたことが長期的には企業価値評価(バリュエーション)や事業見通しにおいて、準備の遅れている企業よりも優位に立つことにつながる。 このように、グリーンボンド市場が成長を遂げてきたことに対しては歓迎の一語に尽きる。10周年おめでとう。

勢いを取り戻しつつある人民元の国際化 HSBCレポート

 QUICKではアジア特Q便と題し、アジア各国・地域の現地の声をニュース形式で配信しています。今回は、HSBCグレーター・チャイナ統括 チーフ・エグゼクティブのヘレン・ウォン氏がレポートします。   人民元、世界的利用拡大へ インフラ整備拡充進む  人民元の国際化はこの1年減速したとみられるが、中国は水面下では人民元の世界的利用拡大のために引き続き金融インフラの整備拡充を進めてきた。国際取引での人民元の利用は2016年に大幅に減少した。世界中の銀行が国際資金決済のために利用している通信ネットワークであるSWIFTによれば、人民元建ての国際決済額は2016年に30%近く減少し、通貨別の国際取引額ランキングでは現在7位となっている(2016年初めには5位だった)。  オフショア人民元の預金も同様な状況にある。中国本土以外での人民元の預金残高は2015年初頭以来縮小してきた。オフショア人民元の世界最大の拠点である香港での人民元の預金は4月末現在で5280億元と、香港の預金残高がピークをつけた2014年末の1兆元強から50%近く減少した。  人民元の利用と保有の減少は、中国経済の減速、人民元の下落、国際資本移動に関する規制強化に対する懸念と無関係とは言えない。しかしこうした現状に対して、中国は外国人投資家が売買可能な国内資産の範囲を拡大して人民元の国際化を進めた。 3つのコネクト制度が人民元国際化の戦略を証明  まず中国の株式市場の開放が挙げられる。深セン市場と香港市場の間の相互株式投資制度(ストックコネクト)の導入が昨年8月に発表され、発表後4ヵ月足らずで運用が開始されたが、この制度によって外国人投資家は、より小規模で起業家精神あふれる企業に投資することが可能となった。こうした企業の成長は中国の経済改革の重要な構成要素となっている。現在では、世界中の投資家は香港市場を通して中国本土の市場に上場されている企業の大半に直接投資できるようになったが、こうした機会はわずか3年前には存在しなかった。 次に中国の債券市場の開放を挙げることができる。中国は今年5月に、中国の債券市場を世界につなぐ取引接続制度である「債券通(ボンドコネクト)」の導入を発表した。中国債券市場の発展におけるこの最新の画期的な改革が正式に導入されれば、中国の資本市場開放における重要な出来事となるのは確実とみられる。 急成長している中国の債券市場の規模は世界第3位であるが、海外投資家の参加は限られている。中国の国債市場における外国人投資家の保有比率は2%未満にとどまり、日本の10%、英国の25%超、米国の50%程度を大きく下回っている。中国の債券市場の段階的な開放によって、発行者、投資家だけでなく、両者をつなぐ全ての取引仲介業者にも豊富な事業機会がもたらされるとみられる。   3つのコネクト制度、つまりボンドコネクト、深セン・香港ストックコネクトと2014年に一足先に導入された上海・香港ストックコネクトの導入の意義は、中国本土の債券、株式の世界的指数への組入れを実現したことだけにはとどまらない(MSCIは2017年6月20日に中国A株を同社の新興国市場指数に組み入れると発表した)。これら制度は人民元の国際化が中国の中長期的な戦略となっていることを証明するものでもある。直近では今年3月に中国人民銀行がこの見方を再確認した。 人民元決済の拡大、一帯一路構想も影響  国際取引で人民元の利用が2016年に減少したにもかかわらず、外国為替市場と金融市場の改革を進め、中国経済と金融市場を開放し、人民元の国際通貨化を推進する姿勢を中国が明確にしているという事実に変化はない。   オフショア人民元市場は、貿易決済額と預金残高が減少しているため、短期的な課題に直面する可能性はあるが、引き続き戦略的に重要な市場である。ボンドコネクトのような国際投資のための制度を導入することは、オフショア人民元市場の広がり、深さ、健全性を改善させるだけでなく、同時に人民元の国際化に再度弾みをつけるであろう。  もう一つのきっかけは、一帯一路構想である。人民元国際化の背景には中国の貿易額の拡大に加えて、人民元によるその決済がある。2016年には一帯一路に関係する国々と中国との貿易額の伸び率が中国の貿易額全体の伸び率を上回ったことを考慮すると、一帯一路は、地域内および地域間の接続性を強化することにより長期的に一帯一路沿いの地域の貿易を拡大させるのに加えて、貿易決済での人民元の使用も拡大するとみられる。  さらに重要なのは、一帯一路構想によって資金調達の際の人民元利用の増加が見込まれる点である。政府の後押しもあって、中国企業は一帯一路関連プロジェクトに積極的に参加している。一帯一路関連プロジェクトを推進している国々で事業を展開することにより、これら企業は人民元建てのバランスシートで管理されるため、現地の人民元建て流動資産のプールは拡大するとみられる。プロジェクトを推進している国では全ての通貨が常に流動性不足に直面しており、また多国籍金融機関は十分な資金を供給できるとは限らないため、人民元は資金調達通貨として競争上の優位性を備えている。  従って、オフショア人民元の流動性プールの拡大に加えて、人民元建債券発行に対する需要の増加によって、価値保蔵手段としての人民元の魅力が高まるとみられる。さらに一帯一路関連のインフラ建設プロジェクトによって人民元のヘッジのための需要も増加するとみられる。中国の国内債券市場の開放も手伝って、人民元の国際取引での利用も増加するとみられる。  人民元の国際化はこの1年減速したかもしれないが、中国は資本市場の開放を続けてきた。さらに、一帯一路構想の影響で徐々に貿易取引および資金調達通貨としての人民元の利用は拡大するとみられる。人民元の国際化は勢いを取り戻しつつある。

ニューエコノミーの離陸 HSBC中国レポート

QUICKではアジア特Q便と題し、アジア各国・地域のアナリストや記者の現地の声をニュース形式で配信しています。今回は、HSBC中国のデビッド・リャオ(David Liao)社長兼CEOがレポートします。 雲に覆われた風の強い5月の午後に、上海浦東国際空港から乗客を乗せていない旅客機が離陸した。オレンジ色のジャンプスーツを着た5人のテストパイロットが操縦するその旅客機は長江デルタの上空を1時間ほど飛行すると帰路につき、浦東空港に着陸した。 目的地のない短時間の飛行ではあったが、この飛行は中国初の国産大型旅客機となる「C919」の試験飛行の成功を象徴するものであった。過剰設備と非効率性から脱却し、国内製造業の生産能力を向上させようとする中国の経済改革路線における画期的な出来事である。  中国は、高度ハイテク産業を世界最大で最先端の国と競争できるものに仕立てることを通じて国内経済の新しい局面を切り開く取り組みを積極的に推進している。 中国、2016年から供給サイドの構造改革  市場規模は数兆ドルと推計される世界のジェット機市場において、今後20年のうちに中国の国産旅客機がボーイング社やエアバス社の旅客機と競争する存在となることは果たして可能だろうか。これを疑問視する見方もあるが、中国がしばしば驚くべき能力を発揮することも確かである。パソコンやスマートフォン、民生用ドローンなどの産業において中国は当初は全く意識されない存在だったが、その後世界を主導する立場に成長している。  GDP成長率が過去数年にわたる減速を経て安定化している現在は、中国にとって大切な経済転換のための過渡期である。重要なのは、2011年から減少が続いていた民間投資がようやく回復に転じ、素材・機械設備の製造業からサービス業にいたるまで広範なセクターで投資が反発を見せていることである。輸出も世界的需要の増加と供給サイドの改善を背景に成長していくと見込まれている。  2016年初めから中国は供給サイドの構造改革を進め、新しい技術や産業、製品を振興するかたわら非効率的な国有企業の経営刷新や生産設備の削減、負債の圧縮に取り組んできた。 これらの取り組みは、高度な製造業セクターでの「メイド・イン・チャイナ2025」戦略や、経済成長の新たなけん引役を育成するための革新的な「ニューエコノミー」戦略と統一性がとれている。 ニューエコノミー、起業家精神などの推進力が必要 ニューエコノミーが定義する範囲は広い。昨年、李克強首相はその概念について、eコマースやクラウドコンピューティングといった新興産業にとどまらず、スマート製造業や大規模カスタマイズ生産、家族経営農場までを包括するものであると説明している。このような経済には起業家精神や技術革新といった推進力が必要となる。従って中国の民間セクターがこのニューエコノミーをけん引する上でより大きな役割を担い、一段と持続可能な経済成長を実現するための課題に対応していくことになる。  すでに中国では、起業家精神にあふれる企業が先導的役割を果たす例が目立つようになっている。4月にはメッセージと通話のアプリのウィーチャット(WeChat)を生み出したIT企業テンセント(騰訊)が時価総額で世界10位となり、11位には中国の大手eコマース企業アリババが続いた。この2社が中国企業の時価総額1位と2位を占めていることは、国有銀行や国有エネルギー会社がかつての支配的地位から徐々に退きつつある実情を物語っている。  そしてニューエコノミーの勝者であるこれらの企業には、なお一層の成長の余地がある。HSBCがテクノロジーに対する消費者の信頼感に関して5月24日に発表した調査結果からは、テクノロジーで生活が向上するとの信頼感において中国の消費者が世界をリードしていることがわかった。これは巨大かつ有望な市場を創設していく機会を革新的な中国企業に与えるものである。 テンセント、メッセージアプリは月間9億4000万人が利用 深センを本拠地とするテンセントを例に挙げれば、3月末時点で同社のメッセージアプリのウィーチャットおよび微信(Weixin)の月間アクティブユーザーは約9億4,000万人に達し、より若い世代をターゲットとする「QQ」アプリでは8億6,000万人を超えた。消費者はこれらのアプリをオンライン・ゲームの支払いやその他の料金の支払いだけでなく、資産管理にまで利用している。しかしそれにとどまることなく、これらのプロダクトを収益化する斬新で創造的な手法が継続的に生み出されている。 中国のテクノロジー企業は未来への備えも進めており、人類の生活に将来与える影響としてはかつての電気の発明に匹敵するとも予想される、人工知能(AI)の最前線の研究に取り掛かっている。3社まとめて「BAT」と呼称される百度、アリババ、テンセントの大手テクロノジー企業はこぞってAIやソフトウェアに巨額の投資を行い、医療機器や自動運転車、決済サービスなどの面からプロダクトを強化していく態勢にある。  中国のハードウェア企業も技術革新の面では遅れをとってはいない。いずれも深センを本拠地とするスマートフォン製造のZTEとファーウェイ(華為技術)の2社による昨年中の特許出願件数は約8千件に達し、発明企業として世界1位と2位の座を占めた。国内のスマートフォン市場を制覇した中国ハードウェア企業のプロダクトは国外でも支持を伸ばし、ファーウェイやオッポ(OPPO)、シャオミ(小米科技)などの製造業企業は東南アジアからインドにいたるまでの新興国市場で市場シェアを獲得している。 中国のシリコンデルタとして急速に知られるようになった珠江デルタ地域を中心に、テンセントやファーウェイのような大規模テクノロジー企業がさらに出現する可能性がある。米国のシリコンバレーに倣って、深セン市はベンチャー投資家や起業間もない企業に少額投資を行うアクセラレーター、ハイテク大手の創始者などをつなぐエコシステムの構築を進め、次代の有望な新規事業の創出に備えている。 例えば、中国の配車サービスアプリ市場で米国のウーバー(Uber)との競争を制したことで知られる滴滴出行(Didi Chuxing)は、現在では世界における最も貴重な新興企業の一つとされる。創業者はかつてアリババで経営幹部を務めた人物であり、またテンセントは早い段階から同社に投資していた。 中国政府、ネット企業支援の1000億元基金を創設 こうした経済構造の転換を支える最近の動きとして、今年中国政府はインターネット企業を支援するための1,000億人民元の基金を発足させた。それに先立って広東省では、ロボット工学や医療機器の分野などの関係団体を地理的に集積させるスマート製造業クラスターの計画が発表されている。  中国の「ニューエコノミー」に参加したいと考えている中国国外の投資家の選択肢も広がっている。中国本土で上場されている株式が香港市場で取引されるようになったことで、国外投資家は一段と多くの中国企業への投資が可能となった。また中国の債券市場を、香港市場を介して国外投資家に開放することも計画されている。中国本土企業の株式や債券が世界的な指数に組み込まれる可能性があり、そうなれば投資機会はさらに広がる。  中国の経済構造転換の今後の道のりが長いことは、国産旅客機C919の初の試験飛行からも明らかである。そして国外から調達した部品がC919型機に使われていることと同じように、中国がニューエコノミーを確立するためには国際的な協力と専門的技術が欠かせない。そこに投資機会が存在する。  

台湾イノテラ完全子会社化の米マイクロン、台湾投資を拡大へ 中国進出は明言避ける

QUICKではアジア特Q便と題し、アジア各国・地域のアナリストや記者の現地の声をニュース形式で配信しています。今回は台湾の現地記者、李臥龍(リー・ウォーロン)氏がレポートします。 (※この記事は2016年12月26日にQUICK端末で配信した記事です。) 米半導体大手マイクロン・テクノロジーが台湾DRAM大手の華亜科技(イノテラ・メモリーズ)を完全子会社化 米半導体大手マイクロン・テクノロジーは今月6日、台湾DRAM大手の華亜科技(イノテラ・メモリーズ)の完全子会社化を正式に完了した。マイクロンのマーク・ダーカン最高経営責任者(CEO)は完全子会社化完了後の12日に開催した祝賀会で、台湾への投資拡大を決定したと宣言した。台湾投資にはイノテラ工場の第2期拡張工事や台湾における初の3次元(3D)DRAMパッケージング・テスト工場の建設が含まれ、DRAMとNAND型フラッシュメモリーを結合するマルチチップパッケージ(MCP)をアジアへ供給する重要拠点にすることを明らかにした。 工場の用地確保に台湾政府が全面協力 マイクロンは台湾の桃園市政府に今後の拡張用地確保に向けた新たな土地提供を打診したと伝わっている。この件について、既に蔡英文総統の強い支持を得ており、蔡総統が鄭文燦・桃園市長に全面的に協力させることを承認したという。 また、タッチパネルメーカーの達鴻先進科技が中部科学工業園区(中科)に有する工場をマイクロン台湾支社が買収する計画もある。主にシリコン貫通電極(TSV)技術を用いた3D・DRAMのパッケージング・テスト工場の建設用地にする予定で、関連の用地購入計画について交渉が進行中だ。 一方、マイクロンは、半導体の後工程(組み立て)大手である米アムコアテクノロジーの台湾エリア総経理を務めた梁明成をマイクロンの台湾における3番目の総経理に迎え入れた。梁氏は主にメモリーの後工程とパッケージング・テストの業務を担当する。 ダーカンCEOは、イノテラのマイクロングループへの正式加入を取り仕切るために台湾を訪問した際、イノテラのグループ入りがマイクロンにとって重要な節目になると強調した。さらに、台湾での投資を継続し、台湾の従業員を優遇すると述べた。 また、ダーカンCEOは、台湾への投資拡大で中科を優先させることを率直に認めた。もっとも、関連の投資の詳細は明らかにしなかった。DRAM市場は現在、韓国のサムスン電子、SKハイニックス、マイクロンのビックスリーによる寡占状態にある。収益を安定して得られる現在の局面を大規模な増産で打破するようなことは各社いずれも望んでおらず、マイクロンもこうした局面を良しとするのだという姿勢が浮き彫りとなった。  (出所:DRAMeXchange、2016年第一四半期のデータより) 他方、中国本土がマイクロンの投資誘致に向けて強く働きかけている件について、ダーカンCEOは、中国本土は巨大な市場を持つ国だとした上で、特に今後、同国が「メイド・イン・チャイナ(中国製造)」を目標として強化する中、メモリーも重点発展産業のひとつとなるとの見方を示した。こうした中で、マイクロンとしても中国の様々な業界との商談を希望することは言うまでもないと指摘した。 同時に、ダーカンCEOは、台湾におけるマイクロンと化学最大手である台湾塑膠工業(台湾プラスチック)グループの企業によるイノテラの合弁設立はとても良い提携モデルだとし、こうした提携モデルを中国本土でも活用することは合理的であると強調した。 もっとも、マイクロンは現在、DRAM分野で日本の広島、台湾の中科と華亜科技園区に生産能力を有する。ダーカンCEOは、中科には今後の拡張計画を続行可能な土地もあり、台湾政府の支持も得ていると指摘。さらに、マイクロンが現時点で世界市場のシェアで重要な地位を占めており、ここ数年間の市況も安定しつつあるとの分析を示した。 中国本土での工場展開も検討している 一方、中国本土について、ダーカンCEOは、同国が製品の供給源の不足に対する懸念から現地供給を直接サポートできる生産能力の確保を望んでいると思われると分析。そのために他のDRAM大手メーカーとの提携獲得に積極的に取り組んでいると指摘した。ただし、マイクロンには同国に工場を建設して生産能力を拡大する切迫した必要性はないと述べた。 反面、NAND型フラッシュメモリーについては、景気と価格の変動が依然として大きく、今後、イノテラモデル(合弁と技術ライセンス提供)を活用して中国本土企業と提携する可能性は比較的高いと指摘した。 とはいえ、中国本土企業との提携合意の有無について、ダーカンCEOは詳しい情報を明らかにしなかった。市場の状況や各方面の条件次第だと強調し、現時点で具体的な計画はないと述べるにとどめた。   本情報は、情報の提供を目的としており、投資その他の行動を勧誘することを目的としたものではありません。有価証券その他の取引等に関する最終決定は、お客様ご自身のご判断と責任で行って下さい。株式会社QUICKおよび情報提供元である李臥龍氏は、本情報を利用して行った投資等により、お客様が被った、または、被る可能性のある直接的、間接的、付随的または特別な損害またはその他の損害について、一切責任を負いません。  

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