加熱する半導体投資 メモリ市場を価格競争の嵐が襲う

QUICKは「アジア特Q便」と題し、アジア各国・地域のアナリストや記者の現地の声をニュース形式で配信しています。今回は台湾の現地記者、李臥龍(リー・ウォーロン)氏が加速する世界の半導体大手の増産投資とその影響についてレポートします。 韓国サムスン電子、SKハイニックス、東芝、米マイクロン・テクノロジーのメモリー半導体大手4社が生産能力拡大に再び着手した。時期を同じくして、中国大陸の大手ファンドと同国半導体大手の紫光集団もメモリー事業への資金と人力の投入を強化する。市場調査機関は、来年にメモリー市場が再び激しい価格競争の嵐に巻き込まれることになると警告。NAND型フラッシュメモリーの供給過多の状況がDRAMよりも深刻なものになるだろうと警鐘を鳴らす。 サムスン電子は、今後3年間で70億米ドル(約2045億台湾ドル)を中国大陸の狭西省西安市でのNANDの生産能力拡大に投じると昨年8月に発表。先月末に新工場の起工式を正式に行った。今回の投資は、すでに発表済みのDRAM増産に続く重要な投資案件であり、世界のメモリー市場に再び衝撃を与えるものとなる。 西安にあるサムスン電子のメモリー工場は現在、主にNAND製品を生産している。新工場の竣工後、同社の西安におけるNANDの月産能力は現時点の12万枚から、20万枚へと67%拡大する。  今回の工場拡張案をめぐっては、かつて韓国の地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)配備事件を受けて中国が韓国に経済制裁を課したことから、韓国政府が同社に対して、西安への投資を再検討し韓国での投資を最優先にするよう求めていた。サムスン電子は韓国政府の期待に応え、韓国での半導体生産受託事業とDRAMへの投資を決定した。この投資案には、韓国の華城工場16号生産ラインを従来の2次元(2D)NAND生産からDRAM生産に改造することも含まれた。また、平沢工場での新たなDRAM生産ライン設置も決定した。同生産ラインの第1段階の生産能力は今年下半期(7~12月期)に投入される予定だ。 メモリー業界の関係者は、サムスン電子の華城工場と平沢工場におけるDRAM増産の市場への影響が今年年末に現れるとみている。2つの新工場のDRAM増産分は予測ベースで月間約23.5万枚にのぼる 。一方、韓国の大手メーカーであるSKハイニックスも中国江蘇省無錫市で新工場を建設中で、年末の竣工、2019年の設備設置を予定している。生産能力は月間12万枚 。この大手2社による生産能力拡大の進展が世界のDRAM需給にどのような変化をもたらすかに、市場は注目している。   東芝傘下の半導体事業子会社 、東芝メモリ(TMC)も2020年度までの5年間に2カ所で3次元(3D)NANDの新工場を増設する計画だ。現在、四日市にあるFab6と日本の 岩手県北上市にそれぞれ新工場を増設する。今後5年間で4つのNAND工場を保有することになる。提携先の米ウエスタンデジタル(WD)に投資分担を求めており、投資総額は3兆円を超える見通しだ。この投資により、トップのサムスン電子を追撃する。 一方、中国大陸の紫光集団傘下の長江メモリーテクノロジーズ(YMTC)は32層の3DNANDの生産に成功しており、承認に向けて製品サンプルを顧客に提出した。来年に生産能力を本格的に投入できる見通しで、市場に大きなインパクトを与えることが予測される。   ※アジア特Q便は、QUICK端末で先行してご覧いただけます。

仮想通貨のマイニング熱、半導体企業に大きな商機

QUICKは「アジア特Q便」と題し、アジア各国・地域のアナリストや記者の現地の声をニュース形式で配信しています。今回は台湾の現地記者、李臥龍(リー・ウォーロン)氏がビットコインなど仮想通貨と半導体需要の高まりについてレポートします。 世界中で仮想通貨のマイニング(採掘)熱が高まり、台湾の半導体メーカーに新たな活力を与えている。 消息筋の情報によると、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業グループが世界初となる仮想通貨の商業銀行の設立を計画している。ビットコインの中国マイニング最大手、ビットメインも別の仮想通貨イーサリアム向けの新たなマイニングマシンの発売を予定している。 こうしたマイニング熱は、特定用途向けの半導体集積回路(ASIC)の受託生産を手掛ける台湾積体電路製造(TSMC)やメモリー製造の晶豪科技、愛普科技、ASIC設計の創意電子といった企業に大きな商機をもたらしている。 仮想通貨の価格が足元でいくら激しく変動してもマイニング熱は一向に衰えず、この分野に参入する半導体企業は増える一方だ。 Electronic circuit board and global network concept. マイニングマシン市場では中国のビットメインが世界市場シェアの80~90%を握るベンチマーク的なトップ企業だ。 マイニングマシンの機能向上に向けて、同社は今年、TSMCにウエハー10万枚を発注。使用する半導体製造プロセスを当初の回路線幅16ナノメートル(ナノは10億分の1)から12ナノメートルに微細化した。TSMCの最先端技術となる7ナノメートルにする可能性もあるという。 また、ビットメインは智原科技にマイニングマシン向けASICの設計を委託するとともに、サムスン電子のウエハー受託生産部門で生産を行う。こうした動きは仮想通貨に携わる企業が依然として旺盛な市場開拓意欲を持っていることを示す。 ビットメインはライトコインなど仮想通貨専用ASIC半導体を有する。また3年前からTSMCと提携している。昨年は業績が急速に伸び、中国のIC設計企業トップ5に躍進。同時に、TSMCの主要顧客5社に入り、同社の昨年の売り上げの10%を占めた。 ビットコインはマイニングの難度がますます高まる一方、大量の電力を消費する。このため、ビットメインは事業の主軸の一部をイーサリアムに置く方針を固め、今後の需要に備えて次世代マイニングマシンを発売するもようだ。 ビットメインが近く発売するイーサリアム向けマイニングマシンF3は、DRAM全体のバス幅を拡大させると同時に、メモリー搭載量を増やした。今後、マイニングマシン1台につきマザーボード3枚を搭載。マザーボードには1枚当たりマイニング専用ASICプロセッサ6個が装備され、このASICプロセッサに1GBのDDR3が32個含まれる。 1台当たりのマイニングマシンF3は72GBのDRAMメモリーを搭載する計算だ。512MBのDDR3メモリーを搭載するビットコイン向けS9型マイニングマシンと比べ数百倍の規模となる。マイニング熱がビットコインからイーサリアムへと広がりを見せるなか、市場では、TSMCやサムスンにマイニング用ICの巨大な注文がもたらされる一方、現時点で品薄状態にあるDRAM産業の品薄感が一段と強まり、価格上昇期間も長引くとの予測が出ている。 ※アジア特Q便は、QUICK端末で先行してご覧いただけます。

インドとASEAN、成長のカギは競争より協力 HSBCレポート

QUICKは「アジア特Q便」と題し、アジア各国・地域の現地の声をニュース形式で配信しています。今回はHSBCシンガポール最高経営責任者(CEO)、トニー・クリップス氏が経済成長への期待が高まるインドと東南アジア諸国連合(ASEAN)についてレポートします。 ASEANとインドは互いに競争するよりも、協力する方がはるかに道理にかなっている。両者間には数々の相違点もあるが、実際には多くの共通点がある。 中国関連の記事が報道の大半を占めることが多いが、アジアにおける成長戦略を追求している国際的な投資家や企業ならば、インドと東南アジアという急成長中のアジア経済の二大勢力にさらなる注意を向けるべきだろう。 インドは世界人口の18%を占めており、2016年の経済成長率は7.6%に達した。世界のGDPに占めるインドの比率は3%にすぎないが、同国の規模を踏まえれば、2018年には世界のGDPの成長に対する寄与度はユーロ圏を上回るとみられる。 一方、ASEAN加盟10ヵ国(タイ、フィリピン、マレーシア、インドネシア、シンガポール、ブルネイ、ベトナム、ミャンマー、ラオス、カンボジア)のGDPを合計すると26億米ドルとなり、2016年の成長率は4.6%に達した。人口は約6億3000万人を超え、中国、インドのいずれの人口に対してもその半分を下回るが、米国や欧州連合(EU)の人口をはるかに上回っている。 互いの消費市場から恩恵 さらに注目されるのは、両方の経済圏で消費者の購買力が成長しつつある点である。2025年までにインドでは中間層の人口が現在の2倍となる約5億5000万人に達し、その増加数は世界のどの国よりも多くなるとみられている。ASEANでは、中間層の世帯数は2025年までに、2010年の倍近くの最大1億2000万世帯になると見込まれている。 この中間所得層の成長は貿易を大きく促進させる形で消費構造を変化させつつあり、これは消費者をターゲットにする国際的な複合企業、そして投資家にとっては大きな意味を持つ。これら企業の多くはすでに国際的な製品を現地の嗜好に適合させており、その例としてはエルメスが販売している薄地のサリー、インドの複数の言語に対応したサムスンとアップルのスマートフォン、現地の好みに合わせてメニューを変えているバーガーキングなどが挙げられる。 興味深いことに、ASEANとインドは直接的および間接的に、つまり、直接的にはコモディティの貿易で、間接的にはITサービスおよびエレクトロニクスで、お互いの消費市場から恩恵を受けることになるとみられる。 コモディティへの依存度を低下させるのに成功してきてはいるものの、ASEANは依然としてコモディティの輸出に大きく依存しており、特にパーム油はマレーシアとインドネシアの輸出全体の約10~12%を占めている。このコモディティの主要な輸出先の1つがインドであり、インドで消費される植物油全体の3分の1をインドネシアが供給している。 アップルやサムスンが持つような広範なサプライチェーンはASEANにとって非常に重要であり、この地域の輸出全体の30%を占めている。これには、シンガポールでの半導体の受託生産から、マレーシアでの半導体の検査、フィリピン、タイ、ベトナムでの組立てなどが含まれる。 最終製品を輸出するのは中国や韓国かもしれないが、最終消費者は実際にはインドにいる可能性もある。インドで現在スマートフォンを所有しているのは3億人にとどまり、この所有者数は今後数年以内に50%増加する見通しであることを考慮すると、驚くべきではないのかもしれない。中国のメーカーは現在インドの市場で半分のシェアを持っている。 貿易と投資の関係改善が加速 2つの経済圏は発展段階が同程度であるため、貿易と投資で競争関係にあると思うかもしれないが、実際にはインドとASEANは相互に協力する方が理にかなっている。 11月にマニラで開催されたASEANビジネス・フォーラムで、インドのモディ首相は、インドの「アクト・イースト政策」での取組みの中心になるのがASEANとの関係改善であると述べ、さらにASEANとの経済的および事業上の関係について、「格別に良好な政治的および人的関係」と呼べる水準にまで高めることを約束した。 今年1月にインド・ASEAN間の正式な対話関係樹立25周年を記念したサミットがデリーで開催されたこともあって、貿易および投資での関係改善は今後数年間加速すると確信できる十分な理由がある。 実際、両者はインド・ASEAN間の貿易額を2022年までに少なくとも2000億米ドルにまで拡大するという目標を設定したが、目標時期がまだかなり先であるため実現の可能性は高いとみられる。 ASEANは現在、インドにとって4番目に大きな貿易相手地域であり、インドの貿易額全体の10%を占めている一方、インドはASEANにとって7番目に大きな貿易相手国となっている。より詳細に見ると、インド・ASEAN間の年間貿易額は2014~15年には約765億3000万米ドルだった。しかし、2015~16年には、世界経済の停滞を背景としたコモディティ価格下落の影響で650億4000万米ドルにまで減少した。 貿易と比較すると投資の流れは非常に好調で、インドに流入した海外直接投資(FDI)の25%はASEANからの投資であり、その大半はサービス、電気通信、建設、ITセクターに対する投資であった。 相違点から見出される投資機会 経済発展の共通点によってASEANとインドは類似性が高まったものの、2つの経済圏の地理的およびセクターの多様性によってこの経済回廊構想の可能性が現実のものになるとみられる。 すでにこのような変化が起こりつつある。インドのモレとタイのメーソットをミャンマー経由で結ぶインド・ミャンマー・タイ三国間高速道路が建設中で2019年の完成が目標とされている。ミャンマーとタイは共同で喫水の深い船舶も入港可能なダウェィ港を建設中で、インドはこの港とチェンナイを結ぶ航路を計画している。シンガポールはインド南部のアンドラ・プラデシュ州と、同州の新州都の開発とフィンテック協力協定に基づくプロジェクトで協働している。 2017年初めのマレーシアのナジブ・ラザク首相によるチェンナイとニューデリーの訪問が、メディカル・ツーリズム(医療観光)および教育を含めたサービス業に重点を置いた320億米ドルの協定の締結につながった。アダニ・グループを含む複数のインド企業が、予想投資額が90億米ドルのマレーシア、キャリー島の新港湾都市開発計画に協力するとみられる。 フィリピンでは、インドのIT企業、ウィプロ、TCS、インフォシスなどがBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)事業をマニラで展開している。 カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナムはインドの繊維産業と連携している。2016年末に、インド政府はインド企業がこれら4カ国で生産およびサプライチェーンの構築支援をするため、総額7700万米ドルのプロジェクト開発基金の設立を承認した。さらに、インドネシアはインドで消費される食物油全体の3分の1を輸出しており、両国はそれぞれの海上インフラの改善を目指すという共通の意向を持っていることを表明した。 世界経済の成長の原動力に インド、ASEANがともに経済的成功を続けられるかどうかも、両国の貿易およびビジネス運営上の障壁を削減する意欲にかかるとみられる。 ASEANとインドが当面重視するのは、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の締結とみられる。RCEPはASEANが主導し、それぞれの人口を合計すると世界人口全体の50%に達するインド、中国の2カ国を含む自由貿易協定締結国6カ国も参加した多国間貿易協定である。 インドはRCEPを後押しするために、ASEAN(およびその他の締結国)がサービス市場を一段と開放して、労働力の移動の自由度を高めることを条件に、自国の関税を最大80%削減することを最近約束した。 これが実現した場合には、インドの輸出全体の48%を占めながら急成長を続けているITサービス・セクターの大きな成長ポテンシャルが開花するはずだ。この協定が締結されれば、今後参加国全体の輸出を4%拡大させる可能性がある。 RCEP協定交渉参加国は、今年11月にシンガポールで開催されるASEANサミットでの協定締結に期待している。 貿易および投資の道筋をつけるための貿易協定の改善は今後も最重要の戦略であり続けるとみられるが、一方でASEANとインドの間の通商上および投資に関する連携は、より革新的かつ現実的な方法で拡大させる必要がある。 上述のように、既存の足がかりの上に新たな成長のための環境を構築することが出発点であることは明白である。同様に、インド・ASEAN間の正式な対話樹立25周年を記念した最近のデリー・サミットのような首脳会談の機会も活用するべきだ。 インドとASEANは、現時点では米国、EU、中国の経済ほどの重要性は持っていないかもしれないが、世界経済における成長の原動力としての役割が急速に高まっている。両国間の関係強化によって、両国の国際的な重要性はともにさらに高まるとみられる。 このような背景から、国際展開する複合企業および、それらの各地域のサプライチェーンが新たな成長機会を求める場合には、これら2つの市場に注目するだけで十分とみられる。 ※アジア特Q便は、QUICK端末で先行してご覧いただけます。

テンセント決算予想 ゲーム好調で5割増収か 課題はコンテンツコスト抑制

QUICKは「アジア特Q便」と題し、アジア各国・地域のアナリストや記者の現地の声をニュース形式で配信している。今回はフィリップ証券(香港)のルイス・ウォン(Louis Wong)氏が香港上場の中国インターネットサービス大手、騰訊控股(テンセント)についてレポートした。 テンセントが21日に2017年12月期決算を発表する。アナリスト予想では売上高は前の期比57.9%増の2398億人民元、純利益は64.6%増の676億4000万元。1株当たり利益(EPS)は57.5%増の6.9元が見込まれている。 17年1~9月期のテンセントの売上高は、前年同期比59%増の1713億元だった。スマートフォン向けゲームやPCゲームのほか、決済関連サービスやデジタルコンテンツ販売、オンライン広告もけん引した。純利益は44%増の507億元だった。テンセントの17年12月期の市場予想をもとに試算すると、第4四半期(17年10~12月期)は売上高が5.1%増の685億元、純利益が5.9%減の169億4000万元だったことになる。 この1年のテンセントの株価の推移 事業別でみると、付加価値サービス(オンラインゲームやPCクライアントゲーム、ソーシャルネットワーク関連)が引き続きテンセントの主な収益源となっている。1~9月期の付加価値サービスの売上高は前年同期比45%増の1140億元で、売上高全体の66.5%を占めた。粗利益は33.3%増の689億元で、全体の80.7%に達していた。 オンライン広告業務の売上高は50.3%増の280億元(全体の16.3%)、粗利益は32.9%増の102億5000万元(全体の12%)。決済関連業務やクラウドサービスの売上高は171.5%増の292億5000万元と大幅に伸び、粗利益も337%増の62億64000万元に拡大した。 テンセントの交流サイト(SNS)「QQ」の月間アクティブユーザー数(MAU)は17年9月末時点で前年同期比3.8%減の8億4300万人で、ブログサービス「QQ空間」のMAUは10%減の5億6800万人だった。 一方、チャットアプリ「微信(ウィーチャット)」のMAUは9億8000万人と15.8%増えた。1日当たりのメッセージ送信数は25%増の約380億件に達した。月間のアクティブ公式アカウント数は14%増の350万件、公式アカウントの月間アクティブフォロワー数は19%増の7億9700万人だ。QQユーザーの伸びが頭打ちになる一方、ウィーチャットのユーザーが引き続き増えているということが、これらのデータからうかがえる。 注意すべき点は、テンセントが売上原価について一定程度のプレッシャーを抱えているということだ。ゲームを中心とする付加価値サービス事業の7~9月期の売上原価は前年同期比73%増え169億元に上った。レベニューシェアやコンテンツコストが比較的多いことに加え、第三者との提携によってアプリケーションストアのスマートフォン向けゲームチャネルのコストが増えたことが主な要因だ。 今後いかにしてコスト増を抑えるかが、テンセントの課題となる。 ※アジア特Q便は、QUICK端末で先行してご覧いただけます。 本情報は、情報の提供を目的としており、投資その他の行動を勧誘することを目的としたものではありません。有価証券その他の取引等に関する最終決定は、お客様ご自身のご判断と責任で行って下さい。株式会社QUICKおよび情報提供元であるルイス・ウォン氏は、本情報を利用して行った投資等により、お客様が被った、または、被る可能性のある直接的、間接的、付随的または特別な損害またはその他の損害について、一切責任を負いません。

世界レベルに成長する中国の「大湾岸圏」 HSBCレポート

QUICKは「アジア特Q便」と題し、アジア各国・地域の現地の声をニュース形式で配信しています。今回は、HSBCグレーター・チャイナ統括 チーフ・エグゼクティブのヘレン・ウォン氏が中国の大湾岸圏についてレポートします。 中国は「広東・香港・マカオ大湾岸圏」として知られる同国南部に、世界的な競争力を備えた国際的水準の都市圏を構築するという地域統合計画を推し進めている。技術革新、金融、貿易に軸足を置くこうした地域は、グローバリゼーションの新たなリーダーとして浮上しつつある。 1970年代後半以来、長期にわたって広東省は中国の改革開放政策で先頭に立ってきた。広東省は再び、この経済の転換をリードしつつあるが、今回は世界の工場としての地位からサービスと技術革新のための非常にダイナミックな拠点(ハブ)への転換が目標とされている。広東省のサクセスストーリーで重要な役割を果たした要因の1つが、香港に近いという地理的条件であり、両地域は主に市場主導で共に成長してきた。 広東省、香港、マカオの経済の統合をさらに発展、深化させ、中国の経済発展と改革開放政策におけるこの地域の役割を拡大させるために、中国は「大湾岸圏」として知られる都市群の開発計画を策定した。 この画期的な構想は、自然の地理的条件に基づいて、広東省の珠江デルタ地域の9都市(広州、深セン、珠海、仏山、中山、東莞、恵州、江門、肇慶)に加えて、香港、マカオの2つの特別行政区を結びつけ、世界的な競争力を備えた経済圏を構築することを目的とするものである。 過去数十年間にわたって、大湾岸圏の都市はそれぞれ独自の優位性および経済構造を生み出してきた。この計画の狙いは、香港、マカオ、広東省で、確立された製造業のサプライチェーン、技術革新力、金融サービス、物流、洗練された消費市場などの分野の相補的な強みを結び付けることである。この計画の最終目標は経済の新たな成長拠点を生み出すことである。この成長拠点が、中国の経済発展を先導し続けるだけでなく、東京、サンフランシスコやニューヨークなどの世界の主要な湾岸地域に匹敵する規模に成長することが目標とされている。 この構想は非現実的なものではない。大湾岸圏の11都市は、人口、経済規模、その資源の観点から見て、1つの独立国家同様の繁栄を実現することが可能である。 大湾岸圏の人口を合計すると6795万人となり、世界最大の都市群である東京首都圏の人口4400万人を上回る 。その面積は約5万6000平方キロメートルとニューヨーク都市圏の面積に匹敵する。 中国で最も急速に成長している地域の1つである広東・香港・マカオ大湾岸圏の2016年のGDPは合計で1.4兆米ドルであった。2030年までにこの地域のGDPは4.6兆米ドルに達すると予想されており、その場合、東京、ニューヨーク、サンフランシスコの湾岸地域を上回り、経済規模が世界最大の湾岸圏になることになる。 大湾岸圏は経済規模が巨大であるだけでなく、国内のみならず国際的にみても明確な競争力を備えた多様な産業を多数抱えている。 世界的にみて成功している湾岸地域を調べてみると、いくつかの共通点が見いだされる。全ての地域に、活発な国際金融センター、発達したサービス産業、強固な物流網、複数の一流大学に加えて技術革新の拠点がある。この好例として、技術革新とハイテク分野で高く評価されているサンフランシスコ湾岸地域や、金融サービスで強みを持つニューヨーク都市圏を挙げることができる。 シリコンバレーがサンフランシスコ湾岸地域の中心部にあるのと同様に、深センには製造業の大きな集積があり、中国における技術革新の中心地となっている。中国で最も高く評価され、最も独創性のある企業のうち、ファーウェイ(華為技術)とテンセント(騰訊控股)という2社の本拠が深センにある。アップルなどの海外のテクノロジー分野の巨人も深センに研究開発拠点を建設している。 香港は、深センの革新的な環境に対して、完全に補完的な役割を果たしている。香港は引き続き金融センターとしての役割を果たし、中国企業がグローバルな展開を始める場合の出発点として機能することになるとみられる。深センには中国本土における2つの証券取引所のうちの1つである深セン証券取引所があることもあり、香港と深センは活発な金融センター、そして証券取引所を持つニューヨークに類似している。例えば、中国のインターネット関連サービス分野の巨人であるテンセントは深センを本拠としているが、香港証券取引所に上場している。 一方、広州は先進的な製造業および最新のサービス業の拠点として発展しつつある。さらにマカオは、隣接する珠海市横琴とともに、国際的なレジャー産業の中心地となることを目指している。 これら中核都市に加えて他の珠江デルタ地域の都市の膨大な資源、面積、比較的安価な労働力という強みにより、大湾岸圏は国際的な協力および競争での優位性を大幅に高めて、技術革新、金融、物流、貿易面で世界的にみて重要な都市群として浮上することになるとみられる。 大湾岸圏の発展に伴い、その影響は地理的境界をはるかに越えて広がり、中国の「一帯一路」構想の進展にとって追い風となるとみられる。大湾岸圏は「シルクロード経済ベルト」(中央アジアから欧州へ)および「海上シルクロード」(東南アジア、大洋州からアフリカおよび中東へ)に沿った国々を結ぶ上で重要な役割を果たすことになるとみられる。 湾岸地区の発展には包括的な輸送ネットワークの構築が不可欠である。橋とトンネルから構成される東京湾アクアラインやサンフランシスコ・オークランド・ベイブリッジ、ゴールデン・ゲート・ブリッジは湾岸地域のインフラを象徴するほんの数例である。 大湾岸圏では近年輸送インフラが大幅に拡充され、地域統合の基盤となっている。広州、深セン、香港を結ぶ広深港高速鉄道は2018年第3四半期に開通する予定である。これにより香港から深センの国境までの列車移動の所要時間はわずか14分に短縮されることになる。香港、珠海、マカオを結ぶ港珠澳大橋によって、香港と珠海またはマカオ間の車移動の所要時間は4.5時間から約40分に短縮される。この橋によって、香港、マカオおよび珠海デルタ西部地区の経済発展が促進されるとみられる。 中国経済は、労働集約型で製造業が基盤となった経済から、中流階級の成長に支えられたサービス業・技術革新指向型の経済に移行しつつあるため、大湾岸圏は中国の新しい成長モデルへの転換を先導することになるとみられる。製造業、技術革新、物流関連の多くの分野で圧倒的な強みを持っていることとは別に、大湾岸圏は金融テクノロジー、再生可能エネルギー、バイオ医薬、ヘルスケア、医療機器、観光、ウェルス・マネジメントの分野でも成長する可能性がある。 適切な金融、物流、製造業および技術インフラが整備されていることは、大湾岸圏構想が成功するための条件の一部にすぎない。人、物、資本の地域内の自由な移動を確保するためには、関連する地域間の政策および規制を整備する必要がある。 大湾岸圏の発展は始まったばかりである。世界はこの胸を躍らせるような変化に細心の注意を払うべきである。なぜなら、この都市群は世界的な生産、技術革新の重要な拠点にとどまらず、世界の商業および経済成長の中心となる可能性があるからだ。

アリババ、5億人のデータを「リアル」活用 商取引の転換目指す【アジア特Q便】

QUICKではアジア特Q便と題し、アジア各国・地域のアナリストや記者の現地の声をニュース形式で配信しています。今回は、フィリップ証券(香港)のルイス・ウォン(Louis Wong)氏が中国インターネット通販最大手、アリババ集団の動きをレポートします。   2016年開催のアリババ集団のフォーラム「雲棲大会」で、馬雲会長は初めて「ニューリテール(新小売り)」というコンセプトを打ち出した。その戦略の一つが、オフライン企業への投資や買収を通じてオンラインとオフラインの業務を結合するというものだ。百貨店業態がアリババによる従来のリテール改造の最初の試験場となる。アリババは14年3月に香港株式市場に上場していた中国百貨店大手の 銀泰商業に53億7000万香港ドルを出資し、同社の2番目の大株主となった。さらに17年5月には同社の株式を非公開化した。 「生活選集(ハウスセレクション)」はアリババと銀泰商業が提携する新たな小売りプロジェクトだ。生活選集は16年12月、銀泰商業の浙江省杭州市の武林店内に1号店を開設した。面積約1200平方メートルの店内に並ぶ商品はいずれも、アリババ傘下の通販サイト「天猫(Tモール)」の良質な「淘(タオ)ブランド」。ホームテキスタイルや食器・調理具、家具、児童用品、ペット関連のほか、撮影といったクロスオーバーなサービスを含めた6つの商品群をそろえている。 ハイパーマーケットとショッピングモール内スーパーは、アリババによる従来のリテール改造の2つ目の試験場となる。アリババは17年11月、約224億香港ドルを投じて高キン零售(サンアート・リテール)の株式36.16%を直接的、間接的に取得すると発表した。サンアートは中国最大規模のハイパーマーケット運営企業で、「欧尚(オーシャン)」「大潤発(RTマート)」という2大ブランドで全国29省・市・自治区にハイパーマーケット446店を展開している。16年度の売上高は1000億人民元を超え、長年に渡り中国小売業界でトップシェアを維持している。 その後、アリババはサンアートに対して同社発行済み株式すべてをまとめて買収すると提案した。しかし、結果はサンアートの発行済み株式の約0.0032%の30万3600株を取得したにとどまった。このため、サンアートは引き続き香港株式市場で上場を維持している。 サンアートの非公開化に失敗したものの、アリババはわずか1カ月でアリババ経済圏の5億人を超える消費者や数百万社に上る販売業者、クラウドプラットフォーム、ビッグデータのリソースが、大潤発のサプライチェーンの店舗ネットワークにダイナミックに融合しつつあることを明らかにした。ネットスーパー「天猫スーパー」 の100万点を超える精選された商品が大潤発の20都市にある店舗167軒に導入されたと発表した。 調査研究機関のリポートによると、日用消費財(FMCG)分野の約1割の消費者がサンアート(欧尚+大潤発)の消費者であると同時に、淘宝(タオバオ)系列(天猫+淘宝)の消費者でもある。このため、両社の提携は相乗効果を生み、新たな市場の獲得が可能だという。両社は今後さらに、かつてない消費体験を消費者に提供するべく、AR(拡張現実)やVR(仮想現実)といった新たな技術を提供していくとみられている。 一方、アリババ集団は引き続き、ニューリテールの事業組織の変更を進めていく。同社はこのほどクラウドリテール事業部と天猫、淘宝とを全面的に合併させると発表した。天猫のニューリテールプラットフォーム事業部がアリババ集団のクラウドのインフラ設備やデジタル化能力、ビッグデータのリソースを統合することになる。 アリババはクラウドリテール事業部のニューリテール業務とデジタル業務の全面的な融合で、オンライン・オフライン一貫のより完備されたサポートを世界のブランドに提供し、商取引(コマース)全体の大転換をけん引すると表明した。同時に世界のブランドとともに、最先端のニューリテール業態を通じ、より高い消費者ニーズを満たしていくとも述べている。 ※アジア特Q便は、QUICK端末で先行してご覧いただけます。 本情報は、情報の提供を目的としており、投資その他の行動を勧誘することを目的としたものではありません。有価証券その他の取引等に関する最終決定は、お客様ご自身のご判断と責任で行って下さい。株式会社QUICKおよび情報提供元であるルイス・ウォン氏は、本情報を利用して行った投資等により、お客様が被った、または、被る可能性のある直接的、間接的、付随的または特別な損害またはその他の損害について、一切責任を負いません。

AI半導体最前線 エヌビディアにライバル続々

QUICKではアジア特Q便と題し、アジア各国・地域のアナリストや記者の現地の声をニュース形式で配信しています。今回は台湾の現地記者、李臥龍(リー・ウォーロン)氏がAI半導体の最前線をレポートします。 時代はGPUからASICへ 人工知能(AI)が急速に隆盛し、グラフィック処理ユニット(GPU)が主な演算チップに採用されたことで、画像処理半導体の2大メーカーであるエヌビディアとアドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)の株価が急騰した。もっとも、アプリケーションが一段と多様化するなか、特定用途向け半導体集積回路(ASIC)に切り換えるシステムメーカーも少なくない。画像処理半導体は今年にもASICにその地位を奪われることになると予測するアナリストは多い。 AIは過去数年間の半導体におけるメインストリームだと言えるだろう。エヌビディアやAMDの株価が数倍に高騰したことからも、高速演算チップを用いた膨大なデータや画像を処理は今後の流れであることが充分に分かる。 多くのシステムメーカーが音声・画像認識や自動運転、医療などに深層学習(ディープラーニング)を備えたAI半導体を導入している。エヌビディアは最も早い時期からこうしたメーカーと提携しており、当然のことながらAI市場の隆盛の最大受益者となった。 しかし、画像処理半導体の高速演算アルゴリズムは、すでにシステムのニーズを満たすことができなくなっている。 TSMC、ビットコイン関連で大型受注 最新の調査によると、最近の市場で注目を集めているビットコインなど仮想通貨ではマイニング(採掘)の難易度が絶えず高まり、GPUに替わりASICが用いられるようになった。 最新情報によれば、ビットコインのブームを巻き起こした中国のマイニング最大手ビットメインは今年、半導体受託生産会社(ファウンドリー)世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)にウエハー10万枚を一気に発注した。TSMCの回路線幅12ナノメートル(ナノは10億分の1)製造プロセスを用いてASIC半導体を生産し、次世代マイニング機器のコアチップにするという。関連の発注に関しては今年から出荷を開始し、毎月1万個を納める見通しだ。 この大型受注により、TSMCの株価に対する悪材料は打ち消された。スマートフォンの受注が予想を下回り、売上高が当初の想定から1割近く落ち込むとされていたが、減収幅は5%未満に縮まるとみられている。外国人投資家のTSMCに対する評価も変化した。外国人投資家は今年1月2日以降、累計でTSMC株を5万株買い越しており、TSMCの株価を226台湾ドルから7%高の242台湾ドルにまで押し上げた。 期待されるザイリンクスのFPGA 専門の海外投資機関も今後ASICがGPUに取って代わりAIの新たなスターになると有望視している。なかでも特に将来性を期待されているのが、製造後に回路構成の設定が可能な半導体FPGAの最大手である米ザイリンクスだ。FPGAの消費電力がGPUを下回る一方、処理速度が比較的速いというのがその主な要因。FPGAチップを用いてゲノム配列解析や音声認識の精度向上に必要なディープラーニングを行っているメーカーもすでにあるという。 AI発展の分け前にあずかろうとASIC開発を目指す半導体企業もますます増えている。米グーグルのAIチップの研究開発に協力したブロードコム、キャビウム、マーベル、マイクロセミ、台湾の聯発科技(メディアテック)と中国インターネット通販最大手アリババの連合などが例として挙げられる。AIアプリケーション向け半導体の商機をめぐって争う競合が増えることで、エヌビディアとAMDの好況も間違いなく分散されることになるだろう。 ※アジア特Q便は、QUICK端末で先行してご覧いただけます。 ※本情報は、情報の提供を目的としており、投資その他の行動を勧誘することを目的としたものではありません。有価証券その他の取引等に関する最終決定は、お客様ご自身のご判断と責任で行って下さい。株式会社QUICKおよび情報提供元である李臥龍氏は、本情報を利用して行った投資等により、お客様が被った、または、被る可能性のある直接的、間接的、付随的または特別な損害またはその他の損害について、一切責任を負いません。

キャッシュレス化を目指すインド HSBCレポート

QUICKではアジア特Q便と題し、アジア各国・地域の現地の声をニュース形式で配信しています。今回は、HSBCグローバル・アセット・マネジメントのインベストメント・ダイレクター、ニラン・メータ氏がレポートします。 インドの電子決済革命を牽引しているのは意外に思えるかもしれないが、政府である。 インド政府は、インド準備銀行(中央銀行)の助言の下、民間の専門家の協力を得て、ここ数年で国内の電子決済を飛躍的に前進させた。通常、新興国の政府は官僚主義的で、大きな技術革新を主導するようなことはほとんどなく、極めて珍しい成功例と言える。 インド決済公社(NPCI)は、インド国内のすべての小売業の決済システムを統括する組織として約10年前に設立された。その主要な目的は、複数のシステムを1つの標準的なプラットフォームに集約、統合することである。 決済手段の革新 インドは2022年までに携帯電話、スマートフォン、インターネットの利用者数が世界第2位になると予測されており、現在は電子商取引と電子決済の普及拡大を加速させるのに最適な時期とみられる。しかし現在のインドの現金決済比率は約80%と、先進国の約20-25%や中国の50%を大きく上回っているため(※1)、「キャッシュレス」経済とは程遠いのが現状である。そのほかにも、スマートフォンの普及率が低く、インターネットのサービスエリアが限定的で、電子決済の手数料が相対的に高いことなどが障害となっている。 しかしNPCIはこれらの課題に対処するため革新的な解決策を開発した。具体的には、スマートフォンやインターネットの普及率が比較的低いという問題を解決するために、インターネットに接続できない基本機能のみのベーシックな携帯電話を使って電子決済が可能なシステムを開発した。NPCIはまた、統合決済インターフェース(UPI)という、ピアツーピア、個人と商店、または企業間の決済をベーシックな携帯電話で行える統合型のオープンアーキテクチャシステムを開発した。世界の決済システムの展望において現時点で最も革新的な動きと言えよう。 だが、インドの巨大人口をカバーできるまでに利用網を拡大するのは依然として困難を伴う。しかし、アドハー(国民総背番号制)対応決済システム(AEPS)が、インドの電子決済革命の起爆剤になると考えられる。AEPSによりスマートフォンを持っていない利用者、そしてPOS(販売時点情報管理)システムを備えていない小売店という二つの問題が解決する。小売店側が普通のスマートフォンを持っていれば、10米ドルで買えるデジタル読取り装置をこれに接続することによって指紋および虹彩をスキャンできるようになり、買い手は銀行口座の本人確認にも利用できる生体認証IDを使って決済が可能となる。この「アドハー決済」は、インド特有の課題の解決のためにインドが独自に編み出した解決法となっている。 高額紙幣廃止がきっかけとなったキャッシュレス革命 インドは伝統的に現金中心の経済であったが、大きな変化がゆっくりと進行している。決済全体に占める現金決済の比率は2005年には92%だったが、2015年までに78%に低下した(※1)。つまり毎年1%ポイントずつ低下してきたことになる。昨年インド政府がGDPの12%、流通紙幣の86%(金額ベース)に相当する高額紙幣を廃止したことが電子決済を後押しする形になった(※2)。この決定によって人口の大半は、新紙幣が銀行やATMに届くまでの間、電子決済を利用することを余儀なくされた。 この期間に政府は、UPIシステムの根幹を強化し、自ら開発したスマートフォン用電子決済アプリ、バーラット現金決済インターフェース(BHIM)のサービスを開始した。BHIMシステムによって、銀行口座と携帯電話を持っていれば誰でもワンクリックで即時送金することが可能となった。2017年10月現在でBHIMアプリのダウンロード数は2,000万件(※3)に達し、政府は2018年3月までにこれを4億件にするという野心的な目標を設定した。 新たな参入企業と後続企業 インドの電子決済市場にはこれに注目した世界的な企業も参入している。中国のアリババはモバイル・ウォレット大手のPaytm(ペイティーエム)と提携し、より最近では、フェイスブックやグーグルがUPIを利用して、統合決済サービスをWhatsApp Messenger(ワッツアップメッセンジャー)や様々なグーグルのアプリに統合しようとしている。 WhatsAppはUPIに接続した決済システムの試用を2017年8月から実施しており、近日中に本格的に展開する予定だ。WhatsAppのインド国内のユーザー数は2017年半ばで2億5,000万人、またインドで販売されるスマートフォン10台中9台がアンドロイド端末であるため、これら企業の参入は電子決済革命に向けて注目すべき潮流と言える。 インドは決済の電子化を急速に進展させているため、電子決済に対する抵抗感は薄れ、デジタル化分野の透明性は向上し、今後も拡大し続けるとみられている。インド経済における現金に関わるコストの総額はGDPの1.7%(※4)程度と推定される。電子決済の拡大により、長期的にはこのコストは減少が見込まれる。企業と個人にもデジタル化分野の拡大による恩恵が広がるだろう。金融サービス企業が消費者行動・需要に関するデータを利用して顧客の理解を深め、利用者が適切なコストで金融サービスにアクセスできるように状況を改善するはずだ。 インドでは、デジタル決済革命が起こりつつある。同国の人口規模、経済成長ポテンシャル、また政府の電子決済普及に向けた積極的取り組みから見て、これは注目すべき潮流と言える。 出所: ※1. ボストン コンサルティング グループ(BCG)およびグーグルの報告におけるデータ – 電子決済2020(Digital Payments 2020) – 2016年7月現在 ※2. インド準備銀行(RBI)による2016年11月現在のデータ ※3. NPCIによる2017年12月現在のデータ ※4. Visaによる2016年10月現在のデータ

中国での環境意識の高まり:自転車利用、カーシェア、植樹 HSBCレポート

 QUICKではアジア特Q便と題し、アジア各国・地域の現地の声をニュース形式で配信しています。今回は、HSBC中国のデビッド・リャオ(David Liao)社長兼CEOがレポートします。   11月6~17日、ドイツのボンで第23回国連気候変動枠組み条約締結国会議(COP23)が開催された。COP23では、世界中の政府関係者が一同に会し、気候変動に関する世界的取組の今後について協議する。そこへ世界各国の政府にとっては意外な協力者が出現した。中国の13億8,000万人の消費者である。 中国の過去数十年にわたる飛躍的な経済成長は、人口の大半を貧困から脱却させたが、環境を犠牲にしてきたことは疑いようもなく、世界第2位の経済大国である中国の温室効果ガス排出量は世界最大である。中国の重工業が関連する大気汚染のニュースや、スモッグで包まれる国内の大都市のイメージが度々報じられている。 このため中国の消費者が環境を意識しているとの見方には説得力がないかもしれない。 しかし、中国の環境汚染がきわめて広範に拡大する兆候が浮上し、国民は気候変動に敏感になり新たな対策が必要と考えるようになった。 例えば市場調査会社のイプソスが8月から9月にかけて世界各国で実施した調査(※1)によれば、国内の気候変動を懸念する回答者が最も多かったのは中国で、回答者の24%が懸念事項上位3つのうちの一つに気候変動を挙げている。中国に次いでカナダが21%だったが、調査対象の26ヵ国の平均はわずか10%だった。 ※1 Ipsos, What Worries The World Survey, September 2017 https://www.ipsos.com/ja-jp/what-worries-world-autumn-2017J 同時に、中国で急速に拡大する中間所得層の間では、健康と生活の質に関する要求が一段と高まっている。こうした人々の多くはテクノロジーに詳しく冒険心が旺盛で、自分たちの嗜好や要望に応えようと革新的な民間企業が提供する新しいプロダクトやサービスを積極的に試そうとしている。 顕著な事例として、昨年1年あまりの間に急速に普及した自転車シェアリングが挙げられる。中国では一時は街路からほとんど姿を消した自転車が、現在は再び息を吹き返している。今や中国の多くの都市の街角や地下鉄の出口で、市民がモバイル機器をスキャンしてレンタル自転車の鍵を開け、毎日の通勤の最後の交通手段あるいはスーパーマーケットまでの足として利用する光景が見られる。 いたるところに自転車が駐輪されることを懸念する見方も一部にはあるが、こういった便利で低コストの取組をきっかけに、より健康的で経済的負担が少なく環境保全にもプラスとなるこの交通手段を、数百万人の中国人が再び愛好するようになっている。 自転車シェアリングサービスの新興企業として、中国のテンセントや米国シリコンバレーのベンチャーキャピタル、セコイア・キャピタルからの投資を得ているモバイクによれば、同社の1億人に上る顧客の自転車の利用はこの1年以内で倍増し、自動車での移動を半分に減らしたとされる。 さらにモバイク社は、10万人の顧客を対象に行った調査を基に、同社のサービス利用者は2016年半ばに計画がスタートしてからの1年間で、二酸化炭素排出量を54万トン減らしたと推計している。これは自動車を1年間に17万台減らしたことに相当する。 自動車を選好する人々にとっても、中国はカーシェアリングの試験台となりつつある。ドイツのミュンヘンを本拠地とする経営戦略コンサルティング会社ローランド・ベルガ―は、中国国内でカーシェアリングに利用される自動車の数は、大気汚染を抑止したい政府の取組を背景に、2025年まで毎年45%のペースで増加すると予想している。(※2) ※2 Roland Berger, Car Sharing in China (6 April 2017) https://www.rolandberger.com/en/press/Car-sharing-in-China-Size-of-fleet-to-grow-45-percent-per-year-through-2025-%E2%80%93-h.html 環境に特に配慮している事例として、上海拠点のEVカードは23都市で8,000台を超える電気自動車を短期レンタルしている。利用者はモバイル端末のアプリとキーカードを使って、1分間当たりわずか0.50人民元ないし1日当たり180人民元でレンタルできる電気自動車を探すことが可能だ。180人民元は30米ドルに満たない金額である。 政府の振興策もあって中国の電気自動車市場も活況を呈している。昨年1年間に中国では25万7,000台の電気自動車が登録された。これは世界全体の電気自動車登録台数の55%に相当し、米国での登録台数の3倍である。 また中国当局が化石燃料自動車を将来禁止することも視野に入れていることから、電気自動車の市場は急速な拡大を続けるだろう。中国当局がこうした取組みを検討していると9月に報道された一方で、今年に入ってからフランスや英国でも同じ趣旨の発表が行われた。 より一般的な市民生活レベルでも、環境保全の考え方は中国人の日常に浸透しつつある。2016年8月にはユビキタス・モバイル決済アプリのアリペイに「アント・フォレスト」というミニアプリが導入された。このアプリの利用者はウォーキングやネットショッピング、請求書のオンライン決済などを通じて「グリーンエネルギー」ポイントを獲得する。アント・フォレストに十分なポイントを貯めた利用者は、それを実際の苗木と交換し内モンゴル自治区の砂漠に植樹することができる。 国連の環境プログラムと協調してこの取組みを主導しているアント・ファイナンシャルの報告によれば、このアプリが導入されてからの6カ月間に2億人のユーザーが参加し、この間のユーザーの行動変化によって推計15万トンの炭素排出量が削減され100万本を超える苗木が植樹された。 世界全体に突き付けられている環境問題に比して、こうした動きの全てはほんのわずかな前進にすぎないかもしれない。しかし中国の人口と経済規模の大きさを考えれば、こうした進歩は中国国内だけでなく世界全体にとって重要である。 またこれは中国で急速に増加する中間所得層の要求に応えたい企業にとっての教訓でもある。英国のベビー服販売業者であれ、日本の自動車メーカーであれ、あるいはアメリカのレストラン事業者であっても、中国の消費者が製品やサービスの価格や利便性だけでなく環境への影響を一段と意識し始めたことには注意を向ける必要がある。 消費者とともに中国の政府当局も、気候変動に関するパリ協定を順守するとした上で、エネルギー消費抑制や排出ガス削減、再生可能エネルギー創出の取り組みを強く推進している。これらによって地球環境は改善されていくだろう。    

中国の「シリコンバレー」が主導するデジタル革命 HSBCレポート

QUICKではアジア特Q便と題し、アジア各国・地域の現地の声をニュース形式で配信しています。今回は、HSBC広東省チーフ・エグゼクティブのモンゴメリー・ホー氏がレポートします。   中国、テクノロジー利用拡大 シリコンデルタが目覚ましい成長 世界のテクノロジー産業における次の大変革はおそらく、中国国内で最も革新的な企業の多くが本拠地を置く広東省の都市集積地帯のシリコンデルタから生まれるだろう。起業家精神や創造性、市場構造、通信インフラ、壮大な規模などを併せ持つ中国本土のテクノロジーセクターが、中国全体のけん引役となる日がやって来るのは時間の問題である。 その萌芽は特に珠江デルタで容易に見出すことができる。世界最大級のハイテク企業の本拠地である深センをはじめとする珠江デルタ地域全体は、今や世界をリードする先進的デジタル製造業のエコシステムへと進化している。 中国でテクノロジーの利用が急速に拡大したことが、シリコンデルタの目覚しい成長のきっかけとなっている。HSBCの「トラスト・イン・テクノロジー(Trust in Technology、英文レポート:http://www.hsbc.com/trust-in-technology-report)」調査によれば、中国本土の回答者の100%がスマートフォンを所有し、そのうち82%がソーシャルメディア上の金融サービス・プログラムを利用し、43%が無線接続と音声操作の機能を備えたスマートスピーカーを所有している。これらを踏まえると、今年4月に深センに本社を置くインターネット企業騰訊控股(テンセント)が時価総額で世界第10位となり、11位に電子商取引大手のアリババが続いたことは驚くにはあたらない。 百度、アリババ、テンセントは単一プラットフォームでアプリ構築 西欧では、スマートフォン利用者がそれぞれ異なるニーズでワッツアップやアマゾン、フェイスブック、ウーバー、エアービーアンドビーなど異なるアプリを使用している。これに対し中国では百度(バイドゥ)、アリババ、テンセントのいわゆる「BAT」が単一のプラットフォーム上で作動するユニバーサルアプリを構築している。アプリからアプリに移動する必要が無く、一つのアプリをインストールすればほぼ事が足りる。 6年前にテンセントが微信(ウィーチャット)のサービスを開始したときは単純なチャットアプリに過ぎなかったが、現在のウィーチャットはソーシャルメディア、決済、マッチングサービス、ニュース、メッセージをはじめとするサービスを9億人以上のアクティブユーザーに提供している。いわば、スナップチャットやワッツアップ、スカイプ、インスタグラム、ペイパル、フェイスブックライブ、イェルプ、ティンダー、アップルペイなどのアプリが一体になったものと考えることができる。これに対し、ウィーチャットに相当する西欧のサービスでは、単一のプラットフォームで提供できるものは比較的限られたユーザー体験にとどまる。 しかしウィーチャットが、競合相手のサービスの単なる模倣版を寄せ集め、利便性を提供していると考えるのは大きな間違いである。わずか10年前に地味なスタートを切った中国のインターネット企業だったテンセントは、今や世界のテクノロジーセクターのクリエイティブなアイデアを生み出す中心的存在だ。3つの基本的なアプリを使えば、ほぼ全てのものを手にすることができ、どんなことでも可能で、誰とでも会うことができる。ウィーチャットを使えば、ショッピングモールに向かう前にその場所がどれだけ混雑しているかを色分け地図によってリアルタイムで表示することまで可能だ。 中国国内で一段と増加している洗練された若い世代は、デジタル技術とその革新を受容する能力が極めて高い。HSBCの調査では中国の回答者の90%がテクノロジーによって生活は改善され、また89%がテクノロジーの進歩によって世界はより良くなるとの見方を支持した。   実際、中国の消費者は新しいテクノロジーが秘める可能性に沸き立っており、79%の消費者が出来る限り新しいテクノロジーを使って用事の大半を済ませたいと考えている。事実、中国では指紋認証技術を取り入れることに積極的で利用率は40%と世界最高であり、インドが31%でそれに続いている。対照的にフランスとドイツでは指紋認証技術を本人確認に利用している比率は9%、カナダでは14%にとどまっている。 「BAT」をはじめとする中国のテクノロジー企業は巨額のイノベーション投資を行っており、人工知能の研究では最先端を走っている。人工知能は医療機器から自動運転、決済サービスなどの分野の製品の機能性をさらに高める技術として、電力の発明に匹敵するほどの影響を人類生活に及ぼすと予測されている。 13億人の膨大な消費者、迅速な規模拡大が可能 また中国では、国内の巨大なインターネット産業が生み出す膨大なデータの通信に必要な物理的インフラを、一部の先進国をはるかに上回る規模で構築している。中国の地方村落の大半では4G通信が可能であり、インターネット接続速度では欧州内の多くの首都をしのいでいる。これによってオンラインショッピングを利用する消費者の利便性は大幅に向上し、オンラインで購入した品物は効率化の進んだ配送会社と近代的な高速交通網によって玄関口まで配送される。 おそらく最も重要な点は、中国には13億8,000万人もの膨大な消費者が存在するということだろう。これを背景にインターネット企業やテクノロジー企業は迅速に規模を拡大することができる。有望な新興企業は、この巨大な市場のごく一部を捉えさえすれば、その将来性だけでベンチャーキャピタルから資本を引き出すことができる。 まさにこれが今、珠江デルタで起きていることである。米国のシリコンバレーに触発されて、深センにはベンチャーキャピタリスト、アクセラレーターそして巨大テクノロジー企業出身者が集まり、次に成功する新興企業を見出そうとしている。 こうした要素のすべてが、既成概念を覆す大変革を生み出している。中国のインターネット企業が世界的な成長を遂げている中で、次世代の世界的なインターネット巨大企業は中国から誕生すると考えるのが妥当だ。それは、中国の大手旅行サイトのシートリップ(Ctrip)がスコットランドの同業スカイスキャナーを買収したような企業買収の形で進むこともあれば、またアリババの決済サービス「アリペイ」のように小売業者の世界的ネットワークを構築し、事業の成長により拡大する形で進むこともあるだろう。 アイデアに詰まった米国のシリコンバレーのトップは、中国のシリコンデルタに目を向けてみると何か得られるかもしれない。数年中にはもっとはっきりとそのような状況になっているはずだろう。  

ASEAN発足50周年、インフラ事業を基盤とする経済成長の黄金期が到来 HSBCレポート

QUICKではアジア特Q便と題し、アジア各国・地域の現地の声をニュース形式で配信しています。今回は、HSBC商業銀行部門アジア太平洋地域統括責任者のスチュワート・テイト氏がレポートします。 ASEAN主要経済圏、今後5年間でインフラ投資2倍に 今年で発足50周年を迎えるASEAN(東南アジア諸国連合)の主要経済圏は、今後5年間にインフラ投資を2倍に拡大して7,000億米ドル超とすることを約束している。これによって貿易や観光産業、今後数十年間の持続的な経済成長のための開発事業に弾みがつく可能性がある。 またASEANのメンバー10ヵ国の経済政策における財政支出計画の焦点は、主に2020年にかけて輸送環境を整備することにある。 世界経済フォーラムの国際競争力レポートでは、長期的に堅調な経済を創出する上でインフラが極めて大きな役割を果たすことから、こうした投資が重要であるとされている。 さらに、ASEAN内外の貿易や投資を活発化し、人とモノの流れを円滑にするために、一段と連携を強化することの重要性も軽視できない。 こうした取り組みは、世界最大の人口を抱えて急速に成長を遂げる、活気に満ち溢れたASEAN地域において域内外の企業が事業機会を最大限に拡大するための支援となる。ASEAN諸国全体のGDPは約2兆8,000億米ドルとすでに世界第7位の規模にあり、今後2030年までには世界第3位まで入ってくることが予想される。 ASEAN地域のサプライチェーンの輸送網が改良されれば輸入コストが減少する。現在の世界貿易の70%を中間財やサービス、資本財が占めているとの世界銀行の推計から判断してもコスト減少の効果は決して小さいものではない。   ASEANの潜在的な購買力に中国も期待 またASEANでは、今後数10年間に新たに創出が見込まれる5,700万世帯の中間層家計の消費活動を追い風に、貿易数量が2014年から2025年の間にほぼ倍増して2兆8,000億米ドルに達すると予想されていることからも、サプライチェーン改良のもたらす効果は小さくない。 こうした裕福で若い都市人口の増加により巨大な消費者購買力が見込まれることは、中国が「一帯一路」構想の下で貿易活性化につながるインフラ整備や投資、事業を強化しようとする大きな理由でもある。 ASEANと中国は、相互貿易額を昨年の5,000億米ドルから2020年までに倍増させて1兆米ドルにするとの目標を掲げている。こうした背景からもインフラ投資や主要プロジェクトに関わるエコシステム事業の機会は特に魅力的なものとなっている。   インドネシアに大規模な事業機会 ASEAN域内のあらゆる大国に事業機会はみられるが、直近で大規模なチャンスが生まれているのはインドネシアである。 インドネシアが2016年から2020年の間に計画しているインフラ投資は3,500億米ドルとASEAN主要5ヵ国の合計額の約半分に相当する。それには以下のような理由がある。 ASEANで最大の経済規模を有するインドネシアでの輸送インフラへの投資はGDP比6%と域内で最も低い水準にあり、フィリピンの同13%やマレーシアとタイの19%、シンガポールの31%に遅れをとっている。 インドネシア政府のインフラ予算は2014年以降に倍増したが全体的な支出必要額には遠い。また財務省は2015年から2019年までに民間セクターには1,300億米ドル相当の事業機会が生じると推計している。   タイは1,200億米ドルのインフラ支出を計画 インドネシアに次ぐ規模のインフラ市場を有するのはタイである。事業規模で700億米ドルに相当する56件の巨大プロジェクトを始めとする、1,200億米ドルのインフラ支出が計画されている。 タイでは、GDPの84%を製造業が占め、また製造業製品のほぼ全て(96%)が陸上輸送されているという現実が、輸送網の改善を促す背景となっている。 早期着工が予定される56件の巨大プロジェクトの事業規模が700億米ドルであることに加え、事業規模440億米ドルの「東部経済回廊」開発計画によりタイは民間セクターの資金調達の主要市場となり、必要資本の4分の1前後は「官民連携(PPP)」の下で調達される見通しである。   フィリピン、道路・鉄道整備の「ドリームプラン」 ASEANの議長国を50周年の節目の年に務めているフィリピンも、2017年から2022年までに1,440億米ドルの積極的なインフラ投資を行うことを念頭に、今後数十年間をかけて競争力を強化するための画期的な計画を策定している。 実施が予定されている投資案件の約90%は輸送網に関連するものであり、また政府が「ドリームプラン」と称する2018年から2020年までの道路と鉄道に係る直近の整備事業の規模は410億米ドルである。 フィリピンでは政府が税制改正に動いていることによって外国からの対内直接投資が促進され、外国資本による企業所有の規制が緩和されている。また一段の民間投資が促され、すでに中国企業がフィリピンのインフラ事業に参画し始めている。   マレーシアは鉄道投資を柱に輸送網を整備 マレーシアでは、輸送網を巡る大きな事業機会は、国内の各地域間の連絡や地方における連絡を活性化し経済効率を改善することであり、また適切に統合された輸送システムを創設し、ASEAN地域における国際貿易ハブとしてのマレーシアの地位向上につながる物流能力を高度化することにある。 2016年から2020年までの5年間のインフラ支出計画は850億米ドルとされ、2011年から2015年までの500億米ドルから増加している。 輸送網の整備への支出においては鉄道投資が柱とされ、シンガポールとバンコクをつなぐ高速鉄道を中心に、現存の大量輸送能力を強化し東海岸の開発を進める計画が立てられている。   シンガポール、地下鉄システムの規模を拡大 シンガポールの輸送インフラはすでに世界最高水準だが、さらに都市国家として地下鉄システムの規模を2030年までに2倍に拡大する政府計画の下で一段と進歩する見通しだ。 2016年から2020年までの期間に3つの新しい路線を建設して地下鉄網をさらに113キロメートル延伸させる事業では、600億米ドルの新規投資が生まれると予想される。これは2011年から2015年までの期間の投資額の500億米ドルを上回っている。   ASEANはインフラ事業を基盤に黄金期へ ここに挙げた全ての経済活動は、ASEANの各経済圏が未来を見据えて経済成長と経済開発の基盤作りに注力していることの表れである。 すなわち、50周年を迎たASEANではインフラ事業が貿易と投資の成長を下支えする黄金期が始まろうとしているのである。

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