IPリポート Vol.7【中堅・新興企業の知財力】 正林国際特許商標事務所

知財の重要性が広く認識される今、特許が重要な業種はどこか、あるいは同じ業種の中で特許出願が多い企業はどこかというのは関心の高いポイントだ。そこで、比較的、技術優位が業績に結びつきやすいと思われる中小型株の中から特許が重要な業種と特許出願が多い企業を探してみた。具体的にはJPX日経200、ジャスダック、東証マザーズの1190社(2019年1月1日現在)について、1971年からの特許出願件数を調査。河西工業(7256)、ブイ・テクノロジー(7717)は、特許を良好な収益性につなげている事例と言える。 知財ランキング~技術競争力が高い中堅・新興企業は? 証券アナリスト=三浦毅司 第1章 特許が重要な業種 業種ごとに①特許出願社数、②特許出願企業の比率、③1社あたりの特許出願件数を分析し、3つの指標の大きい業種を総合的に見て特許が重要な業種を判断した。 1. 出願社数は情報・通信業が最多 1件でも特許を出願したことのある企業は602社と全体の51%。業種的には、もっとも多いのが情報・通信業の110社。以下、サービス業、機械、電気機器、卸売、化学、建設、その他製品、小売の順となっている。 ■業種別の特許出願社数 ※正林国際特許商標事務所 2. 輸送用機器などは業界全社が出願実績 業種毎に特許を出願している企業の比率を見ると、輸送用機器、非鉄金属、ゴム製品、繊維製品が100%となっている。機械、化学、金属製品、精密機器も90%以上と高い。 ■特許出願比率 ※正林国際特許商標事務所 3. 1社あたり出願件数が多いのは機械や電機 1社あたり平均特許出願件数で見ると、繊維製品が3533件とトップだが、これは中に含まれるユニチカが6960件を出願していることによる。機械の782件、電気機器の612件、ゴム製品の413件、輸送用機器の342件までがTOP5である。 ■1社あたり出願件数 ※正林国際特許商標事務所 4.特許の重要性が高い業種は機械、化学など 特許出願社数、特許出願企業の比率、1社あたり特許出願件数を順位付けし、これらの3指標の合計値の少ないものを特許が重要な業種と判断した。繊維製品、ゴム製品、ガラス・土石製品、非鉄金属、鉄鋼の5業種は、業界を構成する社数が少ないため除いた。16位以下の業種は、おおむね業界としての重要性はなく、個社の特許戦略によると思われる。以上の理由から、特許が重要な業種は、機械、化学、輸送用機器、電気機器、金属製品、精密機器、その他製品、建設業、情報・通信業、医薬品、の10業種と言える。 ■特許が重要な業種(数字は順位、低いほど優良) ※正林国際特許商標事務所 ※今回調査したのは上場企業の名義で出願・保有されている特許件数。大手企業になると、複数の子会社が特許を出願・保有していたり、特許を一括管理する企業を設立したりしている場合があり、上場企業の名義と知財管理している企業の名義は必ずしも一致しない。そうした名寄せの問題が比較的小さいことも今回中小型株を対象とした理由の一つ。持ち株会社形態をとる会社の中には子会社で特許を管理している可能性があることに留意が必要 第2章 特許を積極的に活用している企業は 1.素材開発と装置開発は表裏一体 第1章で述べた「特許が重要な10業種」ごとの出願件数TOP3の企業はそれぞれ以下の通りだ。 特許出願の中身を見ると、そのほとんどが装置(モジュール化)に関するものであり、素材そのものへの出願は多くない。このことは、画期的な材料開発により、技術優位性の順位が変化する可能性があることを示唆している。素材開発は装置開発と表裏一体であることから、特許出願で先行する企業には技術的な面で競争力があるともいえる。 ■各業種の特許出願数TOP3 ※正林国際特許商標事務所 ※中堅・新興1190社の特許出願件数ランキングはこちら 2. 注目企業の戦略 (1)河西工業(7256) 河西工業はグローバルに展開する自動車内装インテリア部品メーカーである。内装部品について幅広く特許を出願しており、出願件数で同業他社を大きく引き離している。特許出願も着実に実施されており、今後の技術優位も維持できる可能性が高い。特許が製品の良好な利益率につながっていると考えられ、資産収益性(ROA)、資本利益率(ROE)ともに良好な水準を維持している。 ■河西工業の特許公開・取得件数 ※正林国際特許商標事務所 ■河西工業の業績 ※正林国際特許商標事務所 (2)ブイ・テクノロジー(7717) ブイ・テクノロジーは液晶ディスプレー、有機ELディスプレーなどの製造・検査関連装置を製造する。技術優位性を武器に高成長を遂げている。高水準の特許出願が続いており、出願件数で2位以下を大きく引き離している。2015年3月期までの研究開発投資が実を結び、高水準での利益成長を維持。ROA、ROEともに良好だ。 ■ブイ・テクノロジーの特許公開・取得件数 ※正林国際特許商標事務所 ■ブイ・テクノロジーの業績 ※正林国際特許商標事務所 (2019年2月12日) (免責事項)本レポートは、レポート作成者が信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、レポート作成者及びその所属する組織等は、本レポートの記載内容が真実かつ正確であること、重要な事項の記載が欠けていないこと、将来予想が含まれる場合はそれが実現すること及び本レポートに記載された企業が発行する有価証券の価値を保証するものではありません。本レポートは、その使用目的を問わず、投資者の判断と責任において使用されるべきものであり、その使用結果について、レポート作成者及びその所属組織は何ら責任を負いません。また、本レポートはその作成時点における状況を前提としているものであって、その後の状況が変化することがあり、予告なく変更される場合があります。 正林国際特許商標事務所 (三浦毅司 takashi.miura@sho-pat.com 電話03-6895-4500)

IPリポート Vol.6【ペロブスカイト太陽電池】 正林国際特許商標事務所

あらゆるモノがネットにつながる「IoT」の進展とともに市場拡大が見込まれる太陽電池。シリコン系太陽電池がコストと用途の両面で成熟するなか、脚光を浴びるのがペロブスカイト太陽電池だ。素材の改善が必要だが、変換効率ではシリコン系に匹敵する水準に到達している。製造コストの安さや、幅広い環境で使用できるのが強みで次世代太陽電池の主力とみなされている。 ベースの技術となる有機系・色素増感太陽電池で先行するフィルム大手がペロブスカイト太陽電池の特許出願でも先行。ただ鉛フリーの素材開発では決め手を欠き、その他の企業にも逆転の可能性がある。ベンチャー企業が一躍トップに躍り出る可能性もある。 次世代型太陽電池~鉛フリーの素材開発を制するのは? 知的財産管理技能士=岩垣賢 証券アナリスト=三浦毅司 企業評価への視点 色素増感型太陽電池を既に事業化している積水化学工業(4204)、富士フイルムホールディングス(4901)が、ペロブスカイト型の特許出願でも先行している。両社の事業化は先進ユーザーとの協業を前提とするもので、製品化の段階では他の化学大手との提携が想定される。東芝(6502)、住友化学(4005)、カネカ(4118)、パナソニック(6752)などの出願も多い。これらの企業は太陽電池生産のリソースを持っており、優位に立つ可能性を十分に残す。 現在の特許出願はモジュール化が主体で、現在の高効率ペロブスカイト型の弱点である鉛を使用しない素材での開発は決着がついていない。この分野は世界的に開発競争が激しく、日本も官民を挙げて開発に取り組んでいるが、比較的生産コストが安いために資金力の小さい企業でも技術開発が可能だ。ペロブスカイト型の研究で先行する京都大学が主導するベンチャー企業などが大化けする可能性もある。 第1章 シリコンからペロブスカイトへ 1. シリコン系太陽電池の成熟 現在の太陽電池はシリコン素材のものが主流だ。ただ、おおむね基本的な技術開発は完了し、現在の変換効率がすでに理論上のピークに近づきつつああるため、劇的な改善は難しくなってきている。 加えてシリコン素材の太陽電池の採算悪化が技術開発余力を低下させている。原料となるシリコンそのものの価格は半導体市況の活況とともに高止まりしている。一方、最終製品は中国製などの価格が低迷し、マージンが悪化している。これに伴い、日本企業の特許出願は急激に減少している。 ■シリコン系、特許出願件数は右肩下がり 正林国際特許商標事務所 IoTの進展とともに、太陽電池の市場は拡大が見込まれている。特に、工場や家庭など屋内での用途拡大が見込まれるが、シリコン素材の太陽電池は一定の照度(明るさ)を必要とする。設置する場所の制約も多い。コスト削減要請と相まって、シリコン素材以外の太陽電池の開発が望まれていた。 2. ペロブスカイト太陽電池の誕生 これらの問題点を解決する新しい太陽電池として期待されるのがペロブスカイト太陽電池だ。ペロブスカイト太陽電池は、光を吸収する材料にペロブスカイト結晶構造を持つ化合物を用いたもので、2009年に日本の桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授らが開発した。宮坂氏はノーベル賞の候補にも挙がっている。 ■低コスト、用途加工の制限ないのが強みだが 各種資料を基に正林国際特許商標事務所作成 ペロブスカイト太陽電池は有機系・色素増感太陽電池の一種で、その結晶構造から生成された電子の自由度がシリコン系太陽電池並みに高く、高効率の発電が可能だ。原材料価格や製造コストの大幅削減が可能なうえ、設置場所の制約が少ないといった性質も脚光を浴びる理由だ。さらに課題だった変換効率は20%台半ばと、シリコン系太陽電池とそん色ない水準に改善してきている。 3. 鉛フリーの素材で機能性や耐久性を追求 一方で、現在高変換率を達成しているペロブスカイト太陽電池には大きな問題がある。それは、ペロブスカイト結晶構造を持つ化合物に鉛を用いることだ。鉛は有害物質で、厳密に管理された環境化しか利用が認めれず、広く屋内外で個人や企業が利用することが出来ない。環境への対応を重視する「ESG」の考え方の広がりなどから、鉛を材料とする事業の資金調達も難しい。 世界的に鉛を使わない材料での高変換効率、高耐久性を目指した素材開発が行われており、錫(すず)を原料としたものの研究が先行しているが、未だ鉛との変換効率の違いが大きく、決定的な素材とはなっていない。   第2章 開発競争はフィルムメーカーが先行 1. 素材開発と装置開発は表裏一体 ペロブスカイト太陽電池の特許出願はこの太陽電池が発表された2009年以降に本格化しており、まさに新しい技術だ。シリコン系と比較しても件数がまだまだ少なく、今後も増加する見通し(特許出願書類は一部を除き、出願日から1年半経過後に公開されるため、17年と18年の件数が少ない)。企業の取り組みが多いのもこの分野の特徴で、有効性にいち早く気がついた内外企業が研究開発にしのぎを削っている。 ■有機系太陽電池の特許出願件数 正林国際特許商標事務所 特許出願の中身を見ると、そのほとんどが装置(モジュール化)に係るものであり、素材そのものへの出願は多くない。このことは、画期的な材料開発により、技術優位性の順位が変化する可能性があることを示唆している。一方で、素材開発が装置開発と表裏一体であり、安定した性能を確保するためには、装置開発技術が重要であると言えるだろう。その点では、やはり特許出願で先行する企業が優位と思われる。 ■企業別の特許出願分野 パテントマップEXZにより正林国際特許商標事務所作成 2. 個別企業の出願状況 ペロブスカイト太陽電池はフイルムや基板に塗布して作成するためフイルムメーカーの既存技術との親和性が高い。現状では積水化学工業や富士フイルムなどの大手フイルムメーカーが先行している。 第2グループを形成するのは、東芝、住友化学、カネカ、パナソニックだ。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)や大学との共同研究を通して実用化を進めようとしている。 実験段階で先行するのは京都大学。東京化成工業との共同開発により、ペロブスカイト太陽電池の研究用試薬を世界の研究者に提供している。ペロブスカイト太陽電池は製造コストが比較的安く、ベンチャー企業にとっても面白いテーマだ。新素材の開発により、京都大学が主導するベンチャー企業などが一気に強力な知財ベースを獲得する可能性もある。 ■企業別の特許出願件数 パテントマップEXZにより正林国際特許商標事務所作成 3. 積水化学と富士フイルムの戦略 ペロブスカイト太陽電池はまだ研究開発段階で、事業化に成功しているところはない。ただ、各社ともおおむね色素増感太陽電池と同様の事業展開を進めると思われる。ここでは特許出願トップ2社の色素増感太陽電池の事業戦略を紹介する。 積水化学工業は色素増感太陽電池の開発で先行している。低照度で発電可能、軽く薄い、曲げられ貼れる、といった特徴を活かして、電子広告やIoTセンサー分野での独立電源として事業化を進めている。窓などに太陽電池を貼り付けてセキュリティセンサーの電源にするとともに、余剰電力を活用する次世代セキュリティセンサーの開発、事業化を進めている。これを先進ユーザーと共同で事業化する方針だ。 一方、富士フイルムホールディングスはファインケミカル事業の一環で、色素増感太陽電池用の色素を販売している。自らが太陽電池を製造するのではなく、製造会社に対して色素を販売する戦略をとっており、最終的には他の大手と共同で製品化する可能性が高い。 ■富士フイルムHD 色素増感太陽電池を含む産業機材/電子材料ファインケミカルセグメントの売上高 会社資料を基に正林国際特許商標事務所作成 (2019年1月28日) (免責事項)本レポートは、レポート作成者が信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、レポート作成者及びその所属する組織等は、本レポートの記載内容が真実かつ正確であること、重要な事項の記載が欠けていないこと、将来予想が含まれる場合はそれが実現すること及び本レポートに記載された企業が発行する有価証券の価値を保証するものではありません。本レポートは、その使用目的を問わず、投資者の判断と責任において使用されるべきものであり、その使用結果について、レポート作成者及びその所属組織は何ら責任を負いません。また、本レポートはその作成時点における状況を前提としているものであって、その後の状況が変化することがあり、予告なく変更される場合があります。 正林国際特許商標事務所 (三浦毅司 takashi.miura@sho-pat.com 電話03-6895-4500)

IPリポート VOL.5【がん治療薬】注目のCAR-T、メガ再編相次ぐ

規模がモノを言う新薬開発、大型買収さらに加速 AIPE認定 知的財産アナリスト(特許)、弁理士、博士(理学)=松田隆子 証券アナリスト=三浦毅司   企業評価への視点 がん免疫療法に係る特許出願で、上位は中外製薬(4519)、創薬ベンチャーのオンコセラピー・サイエンス(4564)、第一三共(4568) 大型買収が可能な体力を残すのは、売上高が1兆円規模の武田薬品工業(4502)、アステラス製薬(4503)、大塚ホールディングス(4578)、第一三共 最先端の「キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T細胞)療法」では、タカラバイオ(4974)が他の国内企業に先行して開発中。後れをとった武田がシャイアー買収により規模を拡大、巻き返しの可能性も ■先進2分野で出遅れる日本勢 がんによってブレーキがかかった免疫攻撃力を回復させる療法に使う免疫チェックポイント阻害薬の世界市場規模は、主要製薬会社の売上ベースで、2017年は約100億ドル、20年までには250億ドル弱に拡大し、26年には市場全体で300億ドルを超える。 一方、遺伝子改変により自らの細胞の免疫力を強化してがん細胞を攻撃させるCAR-T(カーティー)細胞療法は17年に米国で初の製造販売承認がなされた。市場規模は現状では比較的小さいが、19年~28年の年平均成長率は46%強、28年の世界市場規模は80億ドルを超える。 がん免疫療法における企業別の日本での特許出願件数を見てみると、国内での出願にもかかわらず日本企業は海外大手に大きく遅れをとっている。上位に名を連ねるのは中外製薬、創薬ベンチャーのオンコセラピー・サイエンス、第一三共だけだ。 ■日本国内での特許出願件数(2008年以降に出願されたもの) ※特許庁係属:特許出願(申請)がされたもので、まだ権利化(登録)の可能性が残っているもの 出所:正林国際特許商標事務所作成 先進2分野(免疫チェックポイント阻害療法、CAR-T細胞療法)において、海外企業は非常に積極的な権利化を進めているが、日本企業の権利化はほとんど進んでいない。海外の上位勢には潤沢な研究費を確保している大学などの研究機関もみられる。研究予算が限られる中で海外勢にこれだけ水をあけられると、日本企業が自前の研究開発で追いつくのは非常に難しいだろう。 ■「第2のオプジーボ」の可能性は? 免疫療法で用いられるバイオ医薬品の場合、生きた細胞を用いるため開発研究に掛かる費用が数十億円に跳ね上がるうえ、量産化のための投資も莫大である。そのため、トータルの開発コストが一桁上がることも多く、日本の市場だけでは投資回収が難しい。ライセンス導入ではジェネリック医薬品並みの利益率に落ち込むであろうし、将来の生産にも不安定さが残る。資金調達が可能であれば買収に向かうだろう。 買収できるかどうかは、負債の返済能力からみて、売上高が1兆円あるかどうかが分岐点となる。その条件を満たすのは、武田薬品工業、アステラス、大塚ホールディングス、第一三共の4社。世界に伍していくためには、数兆円の売上高が必要でハードルは高く、現在世界との競合が見えているのは武田に限定される。 小野薬品はオプジーボの開発までは中堅製薬会社であったが、発売により株式時価総額では大手と互角になった。ただ当時と比較して世界的な製薬会社や大学・研究機関がこの分野の研究開発に凌ぎを削っている現状では、小規模メーカーが一発逆転を実現する可能性は大幅に低下したと言わざるを得ない。 CAR-T細胞を用いたがん抗原特異的T細胞療法は、がん免疫療法で現在最もホットな分野であるが、日本企業では、タカラバイオが先駆けて開発・権利化を進めている。 国内トップの武田は、昨年、山口大学の玉田耕治教授による「固形がん」を対象としたCAR-T細胞療法に関する成果を基に立ち上げられた大学発ベンチャーのノイルイミューン・バイオテックとの提携を発表。現状のCAR-T細胞療法に関する成果の多くは、「白血病・リンパ腫等の血液がん」に対するものであり、固形がんに関してはその性質の難しさから、世界的にも未だ有望な効果が示されていない。今後、固形がんに対する効果が確認されれば、武田の巻き返しもあり得る。 (2018年12月27日に配信したものです) ⇒リポートの詳細はこちら (免責事項)本リポートは、リポート作成者が信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、リポート作成者及びその所属する組織等は、本リポートの記載内容が真実かつ正確であること、重要な事項の記載が欠けていないこと、将来予想が含まれる場合はそれが実現すること及び本リポートに記載された企業が発行する有価証券の価値を保証するものではありません。本リポートは、その使用目的を問わず、投資者の判断と責任において使用されるべきものであり、その使用結果について、リポート作成者及びその所属組織は何ら責任を負いません。また、本リポートはその作成時点における状況を前提としているものであって、その後の状況が変化することがあり、予告なく変更される場合があります。 正林国際特許商標事務所 (三浦毅司 takashi.miura@sho-pat.com 電話03-6895-4500)

IPリポート VOL.5【がん治療薬】 注目のCAR-T、メガ再編相次ぐ

規模がモノを言う新薬開発、大型買収さらに加速 AIPE認定 知的財産アナリスト(特許)、弁理士、博士(理学)=松田隆子 証券アナリスト=三浦毅司   企業評価への視点 がん免疫療法に係る特許出願で、上位は中外製薬(4519)、創薬ベンチャーのオンコセラピー・サイエンス(4564)、第一三共(4568) 大型買収が可能な体力を残すのは、売上高が1兆円規模の武田薬品工業(4502)、アステラス製薬(4503)、大塚ホールディングス(4578)、第一三共 最先端の「キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T細胞)療法」では、タカラバイオ(4974)が他の国内企業に先行して開発中。後れをとった武田がシャイアー買収により規模を拡大、巻き返しの可能性も ■先進2分野で出遅れる日本勢 がんによってブレーキがかかった免疫攻撃力を回復させる療法に使う免疫チェックポイント阻害薬の世界市場規模は、主要製薬会社の売上ベースで、2017年は約100億ドル、20年までには250億ドル弱に拡大し、26年には市場全体で300億ドルを超える。 一方、遺伝子改変により自らの細胞の免疫力を強化してがん細胞を攻撃させるCAR-T(カーティー)細胞療法は17年に米国で初の製造販売承認がなされた。市場規模は現状では比較的小さいが、19年~28年の年平均成長率は46%強、28年の世界市場規模は80億ドルを超える。 がん免疫療法における企業別の日本での特許出願件数を見てみると、国内での出願にもかかわらず日本企業は海外大手に大きく遅れをとっている。上位に名を連ねるのは中外製薬、創薬ベンチャーのオンコセラピー・サイエンス、第一三共だけだ。 ■日本国内での特許出願件数(2008年以降に出願されたもの) ※特許庁係属:特許出願(申請)がされたもので、まだ権利化(登録)の可能性が残っているもの 出所:正林国際特許商標事務所作成 先進2分野(免疫チェックポイント阻害療法、CAR-T細胞療法)において、海外企業は非常に積極的な権利化を進めているが、日本企業の権利化はほとんど進んでいない。海外の上位勢には潤沢な研究費を確保している大学などの研究機関もみられる。研究予算が限られる中で海外勢にこれだけ水をあけられると、日本企業が自前の研究開発で追いつくのは非常に難しいだろう。 ■「第2のオプジーボ」の可能性は? 免疫療法で用いられるバイオ医薬品の場合、生きた細胞を用いるため開発研究に掛かる費用が数十億円に跳ね上がるうえ、量産化のための投資も莫大である。そのため、トータルの開発コストが一桁上がることも多く、日本の市場だけでは投資回収が難しい。ライセンス導入ではジェネリック医薬品並みの利益率に落ち込むであろうし、将来の生産にも不安定さが残る。資金調達が可能であれば買収に向かうだろう。 買収できるかどうかは、負債の返済能力からみて、売上高が1兆円あるかどうかが分岐点となる。その条件を満たすのは、武田薬品工業、アステラス、大塚ホールディングス、第一三共の4社。世界に伍していくためには、数兆円の売上高が必要でハードルは高く、現在世界との競合が見えているのは武田に限定される。 小野薬品はオプジーボの開発までは中堅製薬会社であったが、発売により株式時価総額では大手と互角になった。ただ当時と比較して世界的な製薬会社や大学・研究機関がこの分野の研究開発に凌ぎを削っている現状では、小規模メーカーが一発逆転を実現する可能性は大幅に低下したと言わざるを得ない。 CAR-T細胞を用いたがん抗原特異的T細胞療法は、がん免疫療法で現在最もホットな分野であるが、日本企業では、タカラバイオが先駆けて開発・権利化を進めている。 国内トップの武田は、昨年、山口大学の玉田耕治教授による「固形がん」を対象としたCAR-T細胞療法に関する成果を基に立ち上げられた大学発ベンチャーのノイルイミューン・バイオテックとの提携を発表。現状のCAR-T細胞療法に関する成果の多くは、「白血病・リンパ腫等の血液がん」に対するものであり、固形がんに関してはその性質の難しさから、世界的にも未だ有望な効果が示されていない。今後、固形がんに対する効果が確認されれば、武田の巻き返しもあり得る。 (2018年12月27日) ⇒リポートの詳細はこちら   (免責事項)本リポートは、リポート作成者が信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、リポート作成者及びその所属する組織等は、本リポートの記載内容が真実かつ正確であること、重要な事項の記載が欠けていないこと、将来予想が含まれる場合はそれが実現すること及び本リポートに記載された企業が発行する有価証券の価値を保証するものではありません。本リポートは、その使用目的を問わず、投資者の判断と責任において使用されるべきものであり、その使用結果について、リポート作成者及びその所属組織は何ら責任を負いません。また、本リポートはその作成時点における状況を前提としているものであって、その後の状況が変化することがあり、予告なく変更される場合があります。 正林国際特許商標事務所 (三浦毅司 takashi.miura@sho-pat.com 電話03-6895-4500)

IPリポート VOL.4【自動運転技術その2~クルマvs非クルマ】 正林国際特許商標事務所

スタートアップ企業の活動が注目される自動運転技術だが、特許の出願では既に日米大手メーカーが逆転、その優位性が鮮明になりつつある。今後も続く巨額の投資負担を考えると、大手メーカーの技術的優位はさらに強まり、中堅以下のメーカーは大手との技術提携を急ぐステージに入る。スタートアップ企業は正念場で、そろそろ「身売り」の話がでてくる時期になった。 日米の自動車大手が技術開発を主導~正念場のスタートアップ AIPE認定 知的財産アナリスト=鳥海博、証券アナリスト=三浦毅司 企業評価への視点 自動運転技術では自動車大手メーカーの特許出願件数が急増してスタートアップ企業を逆転。年間1兆円もの研究開発負担を考えると、今後の主要プレーヤーはトヨタ自動車(7203)、ゼネラル・モーターズ(GM)、フォードモーター(F)、ホンダ(7267)など日米大手に限られる。日産自動車(7201)、ルノー(RNO)、三菱自動車(7211)連合は経営統合が鍵を握る。 欧州・中堅・新興国企業は大手との技術提携を急ぐ。自動車メーカーのみならず、部品メーカーや新規参入企業を巻き込んだアライアンスの拡大が進む。 大手自動車メーカーが自動運転開発を本格化させた結果、スタートアップ企業の収益機会は縮小する。 第1章 自動運転を取り巻く特許出願 1. 件数トップはフォード センサーや地図情報、外部情報を処理して最終的に自動運転を行う技術についての特許出願件数は、ここ数年で飛躍的に増加している。自動車メーカーは2020年の完成、2030年代の実用化を目指しており、今後とも特許出願は増加を続けるだろう。 ■自動運転に係る特許出願件数 出所:正林国際特許商標事務所 出願件数のトップ4は、フォード、Waymo(Google)、トヨタ、GMだ。それにUBERやホンダが続く。センサーや通信技術の開発の先が見通せるようになり、それらの完成を前提とする自動運転技術の開発が、大手自動車メーカーにおいて本格化している。 非自動車メーカーの出願も増えてきている。一度は落ち着いたかに見えたWaymoの出願が増加に転じ、UBERも増加している。次世代通信規格「5G」の整備や半導体の集積度向上などを背景に、データ処理の技術開発が再び活性化してきた。自動車、非自動車メーカー双方の目指す方向性は一致している。 WaymoやUBERなどのスタートアップ企業にとって、自動車メーカーが開発に本格的に乗り出したことはマイナス材料だ。自動車を製造しないスタートアップは自動運転システムを自動車メーカーに売って収益を上げるビジネスモデルを目指すわけだが、自動車メーカーは基幹技術は自社開発し、周辺技術だけを外部から購入するようになるだろう。スタートアップにとって、周辺技術だけでは研究開発費を回収できない可能性が高く、今後の自動運転技術開発は自動車メーカーを軸に展開していく可能性が高い。 ■主要プレーヤーの自動運転特許出願件数 出所:正林国際特許商標事務所 2. 「日産連合」は経営統合が必要 売上高の順位に比べて特許出願順位が高いフォード、GM、ホンダ、現代自動車などは、今後の新技術開発の過程で市場シェア拡大の期待が持てる。一方、全体的に欧州や中国勢は特許出願順位が低い。ただ中国企業は、国内市場で稼ぐ圧倒的なボリュームのキャッシュフローで研究開発予算を確保するのに加えて、国を挙げた開発支援によりキャッチアップできる可能性もあり、今後の特許出願動向が注目される。 日産・ルノー・三菱連合は売上高でみると世界2位だが、特許出願件数では8位と順位を落とす。これは個々の企業規模が大手メーカーに比べると小さいからだ。今後の研究開発を考えると、早急な経営統合が必要だと言える。 ■売上高上位の自動車メーカーの特許出願順位 出所:各社決算資料を基に正林国際特許商標事務所作成 3. 研究開発費は1兆円規模に 自動運転技術の特許出願は日米メーカーが先行している。このもっとも大きな理由は収益力だ。 自動運転やEV(電気自動車)の開発などで、大手自動車メーカーの年間の研究開発費は1兆円近くに膨らんでいる。この金額を負担し続けられる体力があるのは、売上高からみて大手に限られる。売上高で世界7位のホンダでさえ、2018年10月にはGMと自動運転で提携することを発表したのは、この開発競争が如何に熾烈なものかを表している。 自社開発が難しい中堅・新興国企業は生き残りのために大手との技術提携を急ぐことになる。こうした流れが業界再編につながる可能性も大きい。 ■大手5社の研究開発費 出所:各社決算資料から正林国際特許商標事務所作成   第2章 大手自動車メーカー中心の体力勝負に 1. 欧州勢はアライアンスに活路 日本の大手自動車メーカーは売上高・利益ともに大きくかつ安定しており、研究開発費の負担に耐えられる財務的余力が大きい。トヨタを筆頭に、次世代の自動車を見据えて技術開発を続けてきた結果と評価できる。 一方、米国大手メーカーの出願件数が多いのは、最近の好調さを反映している。世界、特に新興国での好調な販売の恩恵を受けた結果、ベースとなる利益水準は大きく改善した。フォードやGMの場合は、スタートアップの自動運転技術開発が活発化し、それに煽られた面もあったが、巨額の研究開発費を負担できた。両社とも業績好調なうちに大胆なリストラを発表するなど、着実に将来の研究開発費の資金を確保している。 欧州メーカーでは、VWやダイムラーなどの大手が研究開発余力がある。ただし、日米に比べて出遅れた形になっており、キャッチアップまでの時間的余裕はない。自社開発が難しい中堅・新興国企業に加え、欧州勢も日米大手との技術提携を急ぐことになるだろう。さらに、自動車メーカーのみならず、部品メーカーや新規参入企業を巻き込んだアライアンスの拡大が進むだろう。 ■大手5社の税引前損益 出所:各社決算資料から正林国際特許商標事務所作成 2. 制度・規格整備の遅れもリスク要因 もっとも自動運転の研究開発には懸念材料もある。 まずは業績面。世界的な貿易摩擦により自動車の販売台数が落ち込んだり、金利上昇により各社の金融部門の収益が悪化したりする可能性がある。業績の落ち込みはそのまま研究開発費の見直しにつながり、技術革新ペースがスローダウンしかねない。 2つめがインフラ面だ。交通規制の見直しが進まず公道での実用化が遅れる、5Gの基準作りや高速データ通信の実現が遅れる、などのことがあれば、巨額の研究開発投資の改修時期も大きく影響を受ける。投資回収に時間がかかれば各社の技術開発ペースもスローダウンする可能性がある。 3. スタートアップの苦悩 新技術で脚光を浴びたスタートアップ企業は曲がり角に来ている。大手自動車メーカーの開発本格化により、研究開発投資資金を回収することが難しくなってきた。自動車メーカーのオープンイノベーション戦略もスタートアップの資金回収を難しくしている。自動車メーカーは広く新しい技術を求める意向で、スタートアップ企業にとっては技術価値のダイリューション(希薄化)につながる。そろそろ大手への会社売却の話が出てくる時期になった。 (2018年12月12日)   (免責事項)本レポートは、レポート作成者が信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、レポート作成者及びその所属する組織等は、本レポートの記載内容が真実かつ正確であること、重要な事項の記載が欠けていないこと、将来予想が含まれる場合はそれが実現すること及び本レポートに記載された企業が発行する有価証券の価値を保証するものではありません。本レポートは、その使用目的を問わず、投資者の判断と責任において使用されるべきものであり、その使用結果について、レポート作成者及びその所属組織は何ら責任を負いません。また、本レポートはその作成時点における状況を前提としているものであって、その後の状況が変化することがあり、予告なく変更される場合があります。 正林国際特許商標事務所 (三浦毅司 takashi.miura@sho-pat.com 電話03-6895-4500)

IPリポート VOL.3【自動運転技術その1~LiDAR】 正林国際特許商標事務所

レーザーで高速・高精度で距離を測る「LiDAR(ライダー)」と呼ばれる技術に注目が集まっている。LiDARは本格的な自動運転の実現に必須の技術。自動車メーカーやIT企業の開発が遅れるなか、光学系メーカーの技術が光る。旧来事業の不振に悩むハイテク企業が進めてきたセンサーの研究開発が業績を大きく回復させることになるかもしれない。 センサー技術が事業リストラを救う~リコーの大逆転 AIPE認定 知的財産アナリスト=宮内和行、証券アナリスト=三浦毅司 企業評価への視点 自動運転のレベルが向上するなか、車載の増加が見込まれるLiDAR。特許出願件数でデンソー(6902)に次ぐリコー(7752)はLiDAR技術をてこに業績が回復する可能性がある。 第1章 LiDAR―自動運転開発のフロンティア 1. 鍵を握る認知システム 運転支援にとどまるレベル2と自動運転のカテゴリーに達するレベル3との大きな違いは、周囲の認知をドライバーが行うか、システムが行うか、という点だ。今後本格的な自動運転技術が確立されていく中で、その鍵を握るのは認知システム、中でもセンサー技術である。 1990年代、自動車メーカーが考えていた運転の高度化は、衝突防止や駐車サポートなど運転支援だった。周囲の認知はあくまでドライバーが行うという認識であり、自律センサーの開発はさほど急ぐものではなかった。ところが、2000年代に入ってGoogleやUberなど非自動車メーカーが自動運転に参入して、本格的な自動運転開発競争が始まったことから、急速に自律センサーの開発が進められた。もっともIT企業にとってもデバイスの開発は実績が少なく、結果として自律センサーは自動運転関連技術の開発で最後に盛り上がりを見せている分野だ。 ■自動運転のレベルと周囲の認知状況 出所:SAE International J3016を基に正林国際特許商標事務所作成 2. センサーの違い 外部を認識するセンサーには大きく分けて4つある。このうち、超音波で周囲を認識する超音波センサーや、可視光線を認識するカメラセンサーは、ほぼ技術が確立されており、運転支援レベルでは既に広く使われている。 一方、自動運転のためには、遠方にある対象物を認識する、ドライバーの目に代わる検知機能が必要だ。このために、ミリ波レーダーやLiDARが自動車に搭載される。 LiDARの技術開発が遅れたのは、①価格、②小型軽量化、③消費電力の面で、他のセンサーに比べて著しく不利だったことが原因である。光をパルス状に照射して反射光を認識するという走査機能は、光学系メーカーの得意とする分野であったため、自動車会社が取り組みにくかった面もあっただろう。 とりわけ大きかったのは価格の制約である。LiDARは高価であるため、量産化による価格低下が見込めないうちはどうしても開発に及び腰になる。ところが、LiDAR搭載の前提となるレベル3以上の自動運転は、世界中の主要国で認められておらず、現時点では発売の目処が立っていない。こうした状況で、各社とも条約・法律改正のスケジュールをにらみながら開発を続けてきたというのが実情だろう。 もっとも、既にドイツなどが批准するウィーン条約では自動運転が認められ、米国や日本が批准するジュネーブ条約でも改正の準備が再び進められている。技術開発の進展とともに世界各国で自動運転が認められれば、価格低下を見込んで開発はさらに進むと見られる。 ■使用する電波が異なる 正林国際特許商標事務所作成 3. LiDAR市場は年率50%成長も 自律センサーの中で、遅れてきた分、LiDARの予想成長率は年率50%ともっとも高い。また単価が高い分、市場規模も大型化し、矢野経済研究所では2030年にはメーカー出荷金額ベースで約5000億円に達すると予想している。今後、自動運転レベルの向上と共に、LiDAR市場はさらに拡大するだろう。 ■自動運転用センサーの世界市場規模予測 出所:矢野経済研究所「ADAS/自動運転用センサ世界市場に関する調査(2018年)」   第2章 自律センサー特許申請の動き 1. 特許出願は2度目のピーク 自律センサーの特許出願動向を見ると、1990年代後半に車線、対物感知センサーの特許出願がピークを迎え、2013年からは対人、あるいは路上の3次元計測装置に焦点が移った。今後特許出願はさらに増加する見込みである。車線、対物感知センサーに比べ、現在の技術開発対象は市場規模も大きく、特許による知財優位が確立できれば高い収益性も期待できるだろう。 LiDARに限った部品に係る特許出願を見ると、リコーはデンソーに次いで2位と健闘している。 ■自律センサーの特許出願件数推移 ■企業別特許出願件数(LiDAR) 出所:いずれもパテントマップEXZにより作成 ※特許庁係属:特許出願(申請)がされたもので、まだ権利化(登録)の可能性が残っているもの    第3章 リコー、LiDARが業績回復のドライバーに リコーは事業立て直しの途上だ。2018年3月期は下期だけで税引き前損益が約1,400億円の赤字となったが、主因はオフィス向けコピー機の不振によるオフィスプリンティング部門の損失だ。オフィスで紙のコピー、印刷需要が激減するなかでコピー機の価格が下落しているのに加え、収益源だったトナーや紙など消耗品、リースも競争激化により採算が厳しくなった結果といえる。 ■リコーは2019年3月期に黒字化へ 出所:リコー リコーも手をこまねいていた訳ではない。民生用カメラ開発そのものは後発で、先行するソニー(6758)、日立製作所(6501)などビデオカメラを生産していたメーカーの後塵を拝しているが、リコーは小型化に力を入れ、世界最小の車載用ステレオカメラを開発、量産化した。 平行して、リコーは2014年からLiDARに関する特許出願を本格化させた。世界の競合企業が技術開発にしのぎを削る中、リコーが2014年以降出願した特許の多くは現時点で特許庁係属となっている。これらが登録できれば、リコーの業績はLiDAR技術をてこに大きく改善する可能性がある。 ■ リコーのLiDAR関連特許出願件数推移 出所:パテントマップEXZにより作成 ※特許庁係属:特許出願(申請)がされたもので、まだ権利化(登録)の可能性が残っているもの  (2018年11月20日)   (免責事項)本レポートは、レポート作成者が信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、レポート作成者及びその所属する組織等は、本レポートの記載内容が真実かつ正確であること、重要な事項の記載が欠けていないこと、将来予想が含まれる場合はそれが実現すること及び本レポートに記載された企業が発行する有価証券の価値を保証するものではありません。本レポートは、その使用目的を問わず、投資者の判断と責任において使用されるべきものであり、その使用結果について、レポート作成者及びその所属組織は何ら責任を負いません。また、本レポートはその作成時点における状況を前提としているものであって、その後の状況が変化することがあり、予告なく変更される場合があります。 正林国際特許商標事務所 (三浦毅司 takashi.miura@sho-pat.com 電話03-6895-4500)

IPリポート VOL.2【リハビリ支援ロボット】 正林国際特許商標事務所

 本庶祐京都大学特別教授のノーベル生理学・医学賞受賞に沸く医薬品業界。電気機器・繊維製品・精密機器業界においてもQOL(Quality Of Life=生活の質)改善の観点から、失われた運動機能の代替・リハビリテーションを支援する「リハビリテーション支援ロボット」(リハビリ支援ロボット)の研究開発が急ピッチで進んでいる。手掛ける企業の株価への織り込みは、医薬品の領域に比べて不十分と言え、今後楽しみなテーマだ。   大手企業が新分野である脳波由来信号制御のリハビリ支援ロボット開発に注目し続々参入してきている。将来、患者にとっても、従来の筋電位による運動機能の代替・リハビリに加え、脳波由来信号制御という有望な技術が加わることで、よりポジティブな選択肢が加わる。 脳波で動かす新技術、QOL改善に選択肢~大手ハイテク企業が注目 AIPE認定 知的財産アナリスト=小暮佳史 知的財産スペシャリスト=原哲史 証券アナリスト=三浦毅司 企業評価への視点 脳波由来信号制御のリハビリ支援ロボットの利点は、脳の重要な機能部位を損傷あるいは機能喪失してしまった患者でも、目的動作に対する意識から生じる脳波にもとづき駆動部位に補助動作を行わせることができる点。国内ではパナソニック(証券コード6752、以下同)が先行して研究を進め実用化が期待される 帝人(3401)がイスラエル企業のモトリカと組み、脳波由来信号制御のリハビリ支援ロボットを販売。筋電位信号を主体とした信号制御による動作補助のトップ企業であるCYBERDYNE(7779)も軸足を脳波制御ロボットに移し、売り上げ再拡大をうかがう 第1章 リハビリ支援ロボットの進化  動作支援型ロボット(パワーアシストスーツなど)は製造業・農業などの分野ですでに幅広く実用化されている。介護・医療分野においては、介助者の負担を軽減するもの、見守り・離床検知機能をもつもの、排泄支援型などの「自立支援ロボット」が製品化されている。自立支援ロボットの市場規模は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の予測によれば2030年に2200億円に達する。 ■自立支援ロボットの市場規模 (出所:NEDO)  最近のパワーアシストスーツ市場の拡大は自立支援ロボット、中でも介護ロボットの成長がドライバーとなっているが、これには2015年に始まった国の「介護ロボ導入補助金制度」によるところが大きい。こうした国のサポートも自立支援ロボットの市場拡大を期待させる大きな要素のひとつだ。安易な導入による弊害も一部見られたが、使用事例が拡大したことで、今後の目指すべき方向性(低価格化・使いやすさ・効果の実感)が明確になった。 四肢に運動機能障害のある患者を補助・支援するリハビリ支援ロボットは近年多様な技術が応用され開発が進んでいる。 1 国が5か年計画で開発後押し  2013年から経済産業省と厚生労働省で進められてきた「ロボット介護機器開発5カ年計画」が昨年終了した。介護現場のニーズを吸い上げ、介助動作を支援する装着型のパワーアシスト機器、移動支援歩行器、見守り支援などの分野でロボット介護機器の技術進化を加速させた。 ■ 各社が得意な技術を持ち寄り製品化   (出所:経済産業省/AMEDロボット介護機器開発・導入促進事業製品化機器一覧を基に正林国際特許商標事務所が作成)  2018年4月からは新たに「ロボット介護機器開発・標準化事業」がスタートした。介護効率化型ロボットの普及促進、高齢者の自立した生活維持のためのロボット介護機器の開発・安全基準の標準化などを目的としている。 2 脳波由来信号制御式の開発の背景  筋肉が動作しようとする時に意思に伴い表皮に発生する電位(筋電位)を測定してロボットの制御信号とするリハビリ支援ロボットは、既に技術が確立され普及段階にある。CYBERDYNEは脳卒中や脊髄損傷の患者の動作訓練を支援する装着型リハビリ支援ロボット「HAL」を国内・国外に展開している。  さらに重い障害により四肢に麻痺などを有する人のリハビリ向けに研究開発が進められているのが、手足を動かそうとする意思に伴う脳波の変化を測定して制御信号とするリハビリ支援ロボットだ。脳波由来の生体信号を用いる技術は、「Brain Computer Interface」あるいは「Brain Machine Interface」と呼ばれ、医療、スポーツ、教育、軍事など幅広い分野への応用研究が進められている。なかでもリハビリ分野での研究が先行している。意思に伴い複雑に変化する脳波を解析・抽出して、上肢・下肢のどの部位を動かすかを整理して信号化し、補助ロボットのアームなどに補助動作をさせる技術が開発されている。  脳卒中などで上下肢の機能に関わる脳の部位が損傷すると、その部位が司る機能が失われるという認識がこれまでは一般的だった。だが近年の研究で、麻痺している側に対する補助動作を主としたリハビリを実施し、適切な刺激を繰り返し与えることにより、損傷部位周辺に新たな神経回路が形成され、失われた機能が徐々に回復してくることがわかってきている。  脳波由来の信号を用いる技術が確立され利用できるようになり、さらに脳波由来の信号と筋電位由来の信号を組み合わせることが可能になると、より利用者に合った効果的なリハビリ技術として一層の普及が望める。  わが国には、急性期を脱し在宅復帰を目指すために行われる回復期リハビリを行う病棟を備えた病院が1186カ所、脳血管疾患で継続的に治療を受けている患者数は国内で約120万人、新たに発症する患者数は毎年約30万人と推定されており、その半数以上が上下肢の麻痺など、何らかの後遺障害に悩まされている。脳卒中だけでなく、交通事故などによる脊髄損傷や外傷性脳損傷の後遺障害としても、上下肢に麻痺が残ることが少なからずある。 ■ 国内の脳血栓疾患患者数 (出所:厚生労働省)   第2章 企業評価 1 パナソニック  リハビリ支援ロボットに欠かせない生体信号計測に関わる特許出願動向は下のグラフの通りだ。総合電機、自動車、ロボット、研究機関など多岐な企業が名を連ね、中でもパナソニックの出願件数は突出している。 ■ 生体信号計測に関わる特許出願件数 (SRPARTNERおよびパテントマップEXZにより正林国際特許商標事務所作成)  次のグラフは各社の脳波計測に関わる出願の時期を示している。パナソニックの脳波計測に関わる出願開始の時期は早く、その後も継続して出願されている。同社は脳波由来の生体信号によるリハビリロボットについて他研究機関と共同で治験を行っている。 ■ 脳波計測に関わる特許の出願時期   2 帝人  帝人(帝人ファーマ)はイスラエルのモトリカ社が設計・製造する、脳波信号によるリハビリ用ロボットのプラットフォーム ReoGoを日本仕様にした上肢用ロボット型運動訓練装置 ReoGo-Jを2016年11月に販売開始した。ReoGoと下肢用のReoAmbulatorは、世界各国の病院・リハビリ施設で使用され実績がある。帝人は自社でも筋電仕様のリハビリ支援ロボットを販売するほか、繊維技術を活かしてセンサーと組み合わせるウエラブル型端末に関する特許出願を行っている。  帝人は中期経営計画2017~2019の中で、整形インプラントデバイス、機能性食品素材、デジタルヘルスケアとならんで、リハビリ支援ロボットを含む新規医療機器をヘルスケア事業領域の発展戦略プロジェクトと位置づけ力を入れている。発展戦略プロジェクトの売上高は順調に伸張しており、2025には1500億円程度を目指すとしている。 ■ 帝人のヘルスケア事業・発展戦略プロジェクト売上高 (出所:帝人) 3 CYBERDYNE  CYBERDYNEは生体信号(現在は主に筋電位)により駆動するリハビリ支援ロボットの国内での先駆者である。ロボットスーツ「HAL」は医療用として日本では脳卒中の医師主導治験が進行中であるほか、米国ではFDA承認を取得するなど各国で展開されている。また民間保険会社との特約や包括連携協定などを締結して用途を広げている。  上述した国の「ロボット介護機器開発・標準化事業」では衣服型HALの研究開発が補助対象として採択。同社は筋電位による駆動・制御系には豊富な技術的ノウハウを有し、脳波測定に関わる特許出願も行っている。新しい生体信号のインプットに関する技術展開が期待される。 ■  CYBERDYNEの売上高と損益 (出所:CYBERDYNE) 4 その他  国際電気通信基礎研究所はNTT(9432)、KDDI(9433)、ほか112社からの出資を受けた産官学連携型の株式会社組織の研究所。脳情報科学や知能ロボティクスなどの分野ではトップクラスの研究機関である。リハビリ支援ロボットについても民間との共同研究を進めており、脳波由来の信号による制御技術の進展に期待がかかる。  日本光電(6849)は脳波計に関する特許出願を早い時期に済ませた。現在国内で共同研究を行っているのは、脳の表面に生体親和性素材でできた電極シートを埋め込み、より微細な脳波変化を長期間測定して制御信号として用いる技術である。 (2018年10月24日)   (免責事項)本レポートは、レポート作成者が信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、レポート作成者及びその所属する組織等は、本レポートの記載内容が真実かつ正確であること、重要な事項の記載が欠けていないこと、将来予想が含まれる場合はそれが実現すること及び本レポートに記載された企業が発行する有価証券の価値を保証するものではありません。本レポートは、その使用目的を問わず、投資者の判断と責任において使用されるべきものであり、その使用結果について、レポート作成者及びその所属組織は何ら責任を負いません。また、本レポートはその作成時点における状況を前提としているものであって、その後の状況が変化することがあり、予告なく変更される場合があります。 正林国際特許商標事務所 (三浦毅司 takashi.miura@sho-pat.com 電話03-6895-4500)

IPリポート VOL.1【5G】 サムスン、クアルコム、ファーウェイ……

人工知能(AI)などの次世代ハイテクからバイオ・創薬、さらにはビジネスモデルそのものまで、強力な特許、知的財産(IP=Intellectual Property)戦略が企業の競争力を決定づける時代だ。株式市場でも、個別企業のIP戦略や特許件数などを投資判断の有用な材料の一つに位置づける動きが本格化している。正林国際特許商標事務所が提供するIPリポート「QuiP Insight」は、特許から将来の企業の姿を先読みし、企業評価への視点を紹介。IPの最新動向に詳しい知財アナリストと証券アナリストが共同で執筆し、専門的な内容を分かりやすく解説する。第1弾は、やりとりできるデータが飛躍的に増える次世代通信技術「5G」を取り上げる。 規格待ちで遅れる本格5Gの技術開発~競争は混沌、苦戦続く日本勢 知財アナリスト=鳥海 博、証券アナリスト=三浦毅司 企業評価への視点 サムスン電子の出願件数は冬季五輪でかさ上げされている。実際は規格待ちで、開発競争は混沌。4.5Gなら技術的には解決済みで2020年に商業利用で前倒しも可。ただ人口が多い主要国での本格展開は周波数帯の確定待ち。国どうしの安全保障の思惑もあり、本格5Gの特許出願順位は今後、劇的に変わる可能性 生産機能を持たないクアルコムの技術優位は後退。日本勢は苦戦が続く 第1章 5Gの現状 総務省が発表しているロードマップでは2020年にも実現が予定されている5G。ただ、特許情報から見る限り、実現当初は4Gの進化型であるeLTE(enhanced Long Term Evolution)が中心となり、限られた地域、場面での運用となるだろう。本格的な5G導入に向けたNew RAT(New Radio Access Technology=新無線インターフェース規格)をベースとする特許の出願は進んでおらず、本格導入は少なくとも数年先になるだろう。 技術開発の遅れは、もともと高度な開発であることに加え、導入の前倒しによる国際的な標準化作業が、追い付いていかない部分も大きい。規格が変われば大幅な仕様変更を余儀なくされるため、各社は、eLTE用の技術を5Gへ転用可能なように技術開発を進め、周波数帯、国際規格などの前提条件を待っている状態である。詳細な開発は、規格が決まってから一斉に始まるだろう。 冬季オリンピックの効果もあり韓国勢が現時点では優勢だが、国家プロジェクトとしてインフラ整備を進める中国勢の猛追、国家戦略を巻き込んだ欧米の巻き返しもありえる。一方、携帯端末の製造をやめた日本勢の技術開発は、通信キャリアとそのパートナーのみが担うこととなり、地盤沈下が否めない。 1 本格運用には技術的な壁が多い 5Gは、IoTを考慮した規格であるため、超高速・大容量通信(通信速度は現在の100倍、容量は1000倍)に加え、多数同時接続(一度に100万台以上)、超低遅延(1/1000秒以下)といった高度な技術要請に応えなければならない。 表1 スペックは大幅に向上 そのうち、現在の4Gの進化型であるeLTEは、使用する周波数帯が4Gと近いこともあって、さまざまな実証実験においても一定の成果を出している。2020年、あるいは2019年に前倒しで暫定的に商業利用を始めるとすれば、この4G進化型のeLTEで、となるだろう。 ただ、この場合、4Gの技術をそのまま利用するため、利用できる周波数帯など、新技術の導入が限られる。高速・大容量化、低遅延化などは実現できず、地域や場面がかなり限られた運用となろう。 一方、本格的な5Gの運用の前提となるNew RATの開発が進めば、5Gに要請される様々なメリットが現実のものとなる。ただ、5Gならではの通信能力を実現するためには、技術的にクリアしなければならない課題も多数ある。 表2 新しい技術開発が必要 (表1と表2の出所は総務省 情報通信審議会 次世代モバイル通信システムの技術的条件) 2 データ変換方式などの標準化に時間 我々が推定する5G分野の特許出願は、2014年から本格化した。現状、出願件数は、韓国のサムスン電子が圧倒している。ただ、内容は、具体化までに時間のかかるものが多く含まれ、技術的に先行しているとは言えない状況である(図1)。 一方、半導体設計開発の米クアルコムなど欧米勢は、これまで通信分野の特許をリードしてきたが、現時点の出願件数としては多いと言えない。しかし、欧米勢の出願件数は2015年から急速に増加している。また、4Gまでは少なかった中国勢の台頭も目覚しい。 通信技術は、国にとって最重要なインフラ技術の一つであり、昨今の保護主義の流れから言えば、国を挙げて自国の技術開発の支援に走るであろう。もっとも、このことは、国際的な標準化を遅らせる可能性を秘めている。例えば、符号方式の標準化において、米国は、低密度パリティ検査符号(LDPC: Low Density Parity Check Code)を提唱しているが、中国はPolar符号と呼ばれる別の方式を提唱しており、いまだに決着を見ていない。 図1 5Gの特許出願件数はサムスンが先行 図2 4Gと4.5Gは2015年がピークで米クアルコムが圧倒 (いずれもOrbitにより正林国際特許商標事務所が作成) 第2章 企業評価 1 クアルコムの特許優位は後退 5Gに係る特許は、いずれも開発に膨大な資金が必要であることから、各社とも焦点を絞りたいのが本音だ。特に、周波数帯、規格が異なれば、仕様は大幅に異なることから、各社とも規格の決定を待ってから技術開発を本格化させたいのが実情であろう。その結果、技術開発スケジュールは遅れ、New RATによる本格的な5Gの開始は、大幅に後ずれすると思われる。 国どうしの安全保障の思惑もあり、本格5Gの特許出願順位は今後劇的に変わる可能性がある。その中で注目すべきはクアルコムの順位低下だ。開発の中心は通信機器メーカー、キャリアになると思われ、生産機能を持たないクアルコムの地盤沈下は否めないだろう。 2 携帯端末製造をやめた日本勢は厳しい 4Gまではそれなりに外国に伍してきた日本勢だが、5Gに関する特許になると圧倒的に影が薄くなっているように見える。海外勢をみても、力のある通信機メーカーが、技術開発を主導する形になっており、残念ながら携帯端末の製造を取りやめた日本勢の特許出願は、海外勢と比較して、現時点において限定的なものとなっている。 (2018年10月1日) (免責事項)本レポートは、レポート作成者が信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、レポート作成者及びその所属する組織等は、本レポートの記載内容が真実かつ正確であること、重要な事項の記載が欠けていないこと、将来予想が含まれる場合はそれが実現すること及び本レポートに記載された企業が発行する有価証券の価値を保証するものではありません。本レポートは、その使用目的を問わず、投資者の判断と責任において使用されるべきものであり、その使用結果について、レポート作成者及びその所属組織は何ら責任を負いません。また、本レポートはその作成時点における状況を前提としているものであって、その後の状況が変化することがあり、予告なく変更される場合があります。 正林国際特許商標事務所 (三浦毅司 takashi.miura@sho-pat.com 電話03-6895-4500)

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