世間の健康志向の高まりに恩恵を受け、業績を伸ばしている業界があります。それはフィットネスクラブ業界です。
フィットネスクラブ業界 好調の理由を徹底調査
フィットネスクラブ業界の売上高・会員数はともに堅調に推移しています。経済産業省・特定サービス産業動態統計調査によれば、2015年の業界全体の売上高は3000億円を超え、会員数はおよそ300万人となっています。
(経済産業省・特定サービス産業動態統計調査をもとに作成)
2006年以降売上高・会員数の伸びは鈍化しているように見えますが、直近のフィットネスクラブ業界の株価は上昇傾向にあり、投資家の高い期待が維持されていることが読み取れます。
(QUICK調査)
今回はフィットネスクラブ業界の好調の理由を徹底調査し、トレンドを探りました。
大手フィットネスクラブから見えるトレンド
まずは、大手フィットネスクラブ5社を見てみましょう。
業界最大手のコナミホールディングス(9766)は、「コナミスポーツクラブ」を全国展開しています。質の高い設備と年代層の厚さが特徴です。「健康サービス事業」セグメントの売上高営業利益率は3%前後を推移しています。
業界第2位のセントラルスポーツ(4801)は、スイミングスクールが前身のスポーツクラブです。全店舗のうち9割以上の店舗にプールを設置し、スイミングスクール時代のノウハウを活かしたレッスンを提供していることが強みです。「スポーツクラブ経営事業」セグメントの売上高営業利益率は7%前後を推移しています。
業界第3位のルネサンス(2378)もセントラルスポーツと同様、スクールに強みを持ったスポーツクラブです。ヨガや格闘技とフィットネスを組み合わせた独自のスタジオレッスンに注力しています。「スポーツクラブ運営事業」セグメントの売上高営業利益率は7%前後を推移しています。
業界第4位のコシダカホールディングス(2157)は女性専用フィットネスクラブ「カーブス」を全国展開しています。スタッフ含め利用者全員が女性であるという安心感と、丁寧な指導を特徴としています。1つ1つの店舗が小規模であり、設備を最低限にすることで実現した低価格・圧倒的な店舗数(2015年12月時点で1648店舗)が強みです。「カーブス事業」セグメントの売上高営業利益率は20%前後を推移しています。
業界第5位の東祥(8920)は、大人だけのスポーツクラブをコンセプトに「ホリデイスポーツクラブ」を地方中心に展開しています。低負荷のマシンや利用者同士の交流スペースを用意し、高齢者層をターゲットとしていることが特徴です。「スポーツクラブ事業」セグメントの売上高営業利益率は25%前後を推移しています。
以上より、
<ケース1>スクールに力を入れて差別化・定着化を図る(例:セントラルスポーツ(4801)、ルネサンス(2378)等の大型総合業態フィットネスクラブ)
<ケース2>「女性」や「高齢者」等のようにターゲットをうまく絞ることで利用者の満足度向上・定着化を図る(例:コシダカホールディングス(2157)、東祥(8920)等の小規模業態フィットネスクラブ)
という2種類の戦略がトレンドとして見えてきます。「スクール需要の高まり」と「対象顧客を絞り込んだ経営戦略の奏功」が、フィットネスクラブ業界の好調の理由と考えられます。とりわけ、ケース2として取り上げた、「女性」や「高齢者」にターゲットを絞った企業の利益率が突出して高い状況となっています。
新興フィットネスクラブの隆盛
また、近年のフィットネスクラブ業界では、新興企業の急成長が老舗企業を圧迫する構図が読み取れます。
例として、健康コーポレーション(2928)の展開する「ライザップ」が挙げられます。結果にコミットするというコンセプトと、成果指向型のマンツーマンレッスンを特徴としたジムです。減量・理想の身体づくりに本気で取り組む層にターゲットを絞ることにより、事業の拡大に成功しています。
新興フィットネスクラブは小規模ながらも前述の<ケース2>と同様の戦略を打ち出し、様々なタイプのサービスを展開しています。24時間営業セルフサービス型ジム、ホットヨガスタジオを併設したフィットネスクラブ、ストレッチサービスを提供するフィットネスクラブ――。このような新興企業の成功が、市場の成長を牽引しているといえそうです。
ターゲットを明確化できている企業に注目
なお、フィットネス業界をお気に入り銘柄に登録し、簡単業種分析ツールで見ると以下のようになります。各社1000億円未満の売上高で、複数の企業がせめぎ合う状況となっています。ただ、上述したように、「女性」や「高齢者」にターゲットを絞ったコシダカと東祥の利益率は相対的に高くなっています。差別化を果たし、利益率を上げることが、投資家を引き付けるための重要な施策となっていると言えそうです。
日本国内の人口増加については明るい見通しを聞かない一方で、高齢社会の進展、小学生のダンス必修化、健康志向の高まり、2020年東京オリンピック開催に向けたスポーツへの興味関心など、フィットネス業界周辺には様々なビジネスチャンスがあると言えます。これらのニーズを取り逃さないよう、ターゲットを明確化した業界中堅や新興企業に注目すると、フィットネス業界の投資アイデアが見えてきそうです。
(編集:QUICK Money World)