日経QUICKニュース(NQN)香港=安部健太郎
中国の人民元相場の下落が止まらない。26日は上海外国為替市場で一時7.15元と、2008年2月以来およそ11年半ぶりの元安水準まで下げた。前週末に米中が互いに制裁関税の引き上げを発表し、米中の対立は泥沼化の様相を強めている。中国経済の一段の減速への警戒感が強まっており、市場では1ドル=7.2~7.3元が次の下値のメドになるとの見方が出ている。
「26日朝に中国人民銀行(中央銀行)は対ドルでの取引の基準値を7.0570元と、前週末の基準値よりも元高方向に設定していた。それだけに26日は当局が人民元安を容認しているというより、米中対立の激化を受けてパニック的な売りに押された」。上海の銀行関係者はこう話す。26日午前は前週末の日中取引の終値(16時30分時点)より0.0675元ほど元安が進む場面があった。オフショア市場(中国本土以外の市場)では一時7.18元台まで下落した。
人民元相場が下げ幅を拡大したのは8月に入ってからだ。トランプ米大統領が、中国からの輸入品ほぼすべてに関税を課す制裁関税「第4弾」を9月に発動すると表明したのが急落のきっかけとなった。それまでは7元が中国当局の「防衛ライン」とみられていたが、5日の上海市場で約11年ぶりに7元台に下落。その後もじりじりと売りに押されていた。
23日夜には、中国国務院(政府)が9月と12月の2回に分けて約750億ドル分の米国製品に5%か10%の追加関税をかけると発表した。すると米通商代表部(USTR)はすかさず、対中制裁関税「第1~3弾」の約2500億ドル分の税率を5ポイント引き上げ30%に、「第4弾」の約2700億ドル分は当初予定より5ポイント高い15%にすると発表。市場の想定を上回る速さで米中対立がエスカレートし、26日の元売りにつながった。
次の下値のメドとしては、7.2~7.3元を見込む声が多い。「購買力平価からみてドルと元は6.8~6.9元程度が適正レートだとみている。現状はこれから5%ほど下げた水準で、目先は7.2元までの下落を当局が容認するかを見極める展開になる」と前出の銀行関係者は話す。
ある上海の金融関係者は「9月末までは7.2元、年末は7.3元程度が下値のメドとみている」という。中国の輸出に対する米制裁関税の悪影響をある程度相殺する一方で、中国からの急激な資本流出を避けたい当局にとって折り合えるのがこの水準との見立てだ。そのうえで「日本円が買われるなど、元相場にとどまらず世界的にリスク回避の地合いが強まっている」として、当面は元売り圧力は続くと指摘する。
野村国際(香港)の野木森稔エコノミストは「年末までに7.35元への下落を予想している」と話す。元安が進む局面で当局が元買いの為替介入をするにしても「外貨準備が3兆ドルを大きく下回るような事態となれば、中国からの資本流出が加速しかねない。当局は介入で元相場下落のペースを緩やかにするだろうが、元高にすることはない」とみる。
もっとも、「すべてはトランプ米大統領が次に何をしてくるか次第」(上海の金融関係者)。米国が一段と対中圧力をかけ、混迷の度合いが深まるようだと「7.5元程度への下落も意識されるようになる」(上海の銀行関係者)と身構える声も出ている。
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