QUICKではアジア特Q便と題し、アジア各国・地域のアナリストや記者の現地の声をニュース形式で配信しています。今回はシンガポールの現地記者クリストファー タン シ(Christopher Tan, Si)氏がレポートします。※この記事は2016年5月25日にQUICK端末で配信した記事です。
ブレント原油価格、7カ月ぶりの高値…東南アジア株連れ高
年初以来、大幅に下落していた原油価格がここ数週間で回復し、17日には7カ月ぶりの高値を記録した。ブレント原油価格は昨年10月以来の高値となる1バレル49ドルまで上昇した。供給過剰状態が解消されつつある中で、ナイジェリアやカナダなどいくつかの産油国が供給を停止したことが追い風となった。東南アジア地域の株価も連動して値を上げ、同地域の取引所の株価指数は軒並み値を戻している。
米各大手金融機関、今後の株式市場には悲観的
ゴールドマン・サックスによると、原油価格は今後も回復傾向を維持する見通し。同社は、原油価格が20ドルまで下落すると予測していたが、現在は年末まで50米ドル前後で推移すると見込んでいる。しかし、原油価格が上昇しても、株式相場の回復が継続するとは限らない。アナリストらは、逆の現象が起こる可能性もあると指摘し、すでに東南アジア地域を含む株式市場の評価を引き下げている。
ゴールドマン・サックスのクリスチャン・ミュラーグリスマン氏率いるアナリストチームは向こう12カ月間の世界株式の成長率と評価に関する判断をニュートラル(中立)に引き下げた。同様に、シティバンクとバンクオブアメリカ・メリルリンチも株式市場の今後の方向について悲観的な見方を強めている。
シティバンクの株式ストラテジスト、トビアス・レフコビッチ氏はレポートで「不安な兆候を示している指数がいくつかある。株式相場が崩れる可能性を踏まえ、そうした指標の動向を注視する必要がある」と指摘している。ゴールドマン・サックスのアナリストらは「成長回復を示す継続的な兆候が見られない限り、株式リスクを取ることは避けたい。株価評価が上限水準に近いというのが主な理由だ」と語る。
バンクオブアメリカ・メリルリンチの株式ストラテジスト、サビタ・スブラマニアン氏によると、「夏に向かって、不安要素は増える」という。不安感を高める最大の要因は、企業収益の低下だ。 CIMBのレポートも「伝統的に底堅い市場であるシンガポールですら、企業収益が大幅に低下している」と指摘。「企業収益が悪化している企業は、収益が予想を上回っている企業の2倍に達している」と分析する。世界経済が依然として脆弱(ぜいじゃく)な中での原油価格の上昇は、需要が拡大しているというよりも供給が縮小していることを示している。
シンガポールの4月の輸出額(NODX、石油と再輸出は除く)は、前月から引き続き縮小し、前年同月比で7.9%減少した。同国の輸出額は東南アジア地域の輸出需要の指標とされることが多い。シンガポール市場が強気の地合いに回復するには、複数の大きな悪材料を克服する必要がある。
米国の”追加利上げ”と”大統領選挙”の行方が鍵
1つは、米国でさらなる利上げが実施される可能性だ。各国の市場は米国の金融政策を決定する米連邦公開市場委員会(FOMC)を6月に控え、神経質になっている。2つ目は、中国の債務状況の悪化だ。世界最大の資産運用会社であるブラックロックのラリー・フィンク会長兼最高経営責任者(CEO)は、中国の債務レベルの上昇はすべての人が懸念すべき問題と警告している。
最後の悪材料は、米国の大統領選挙だ。共和党の候補ドナルド・トランプ氏と民主党の指名を獲得する見通しのヒラリー・クリントン氏の接戦という好ましくない展開を市場は喜ばないだろう。つまり、今後の大きな変動に備える必要があるということだ。
【翻訳・編集:NNA】