今から55年も前に登場したカレールウのCMで「インド人もびっくり!」というセリフがあった。見たことはないが聞いたことはある、という人も多いかもしれない。本場の人が驚くような美味しさだ、とアピールしたわけだ。こちらのチャレンジは世界最大のカレー王国をビックリさせられるだろうか。
「カレーハウスCoCo壱番屋」の壱番屋(7630)株が堅調だ。9日に一時前日比140円(2.9%)高の5020円と約1年ぶりの高値まで買われ、10日もしっかりの展開。三井物産(8031)と共同でインドに進出するための共同出資会社を設立したとこのほど発表した。壱番屋が同国に進出するのは初めてで、カレーの本場への出店に期待がかかっている。ただ、インドはオペレーションの構築や食文化の違いを背景に、日本の外食企業の進出があまり進んでいない。「未開の地」開拓は当然だが甘口ではない。
■三井物産と組み5年で10店を計画
共同出資会社の資本金は約3億円で、壱番屋が4割、三井物の子会社が6割を出資した。2020年をメドに首都のニューデリー近郊に1号店を出し、5年間で10店の出店を目指すという。
壱番屋は国内で系列店を含めて約1300店を出店。海外にも力を入れ、中国や韓国を中心に約180店を展開している。いちよし経済研究所の鮫島誠一郎主席研究員は「壱番屋はこれまでは親会社のハウス食品グループ本社(2810)や現地企業と組んで海外進出する例が多かったが、今回はより海外での事業展開に詳しい三井物と組んでおり、力を入れている印象がある」と評価する。
本業は好調だ。6月下旬に発表した2019年3~5月期の連結決算は、ポークカレーなど主力商品の値上げ効果や海外子会社の収益増が貢献し、純利益が前年同期比27%増の10億円と大幅な増益となった。
もっとも、今回のインド進出はまだ詳細な計画が決まっておらず、専門家からは乗り越えるべき課題もいくつかあるとの声が出ている。
■外食業界「未開の地」で利益だせるか
1つ目は、会社側が「まず直営店での出店を目指す」(広報担当)と説明している点だ。ある国内証券のアナリストは「直営ということになると、ほぼ自前で展開しなくはならず、食材の仕入れから輸送、保管など、様々な点でハードルが高い。インドというただでさえ日本企業にとってノウハウが少ない場所で利益を出すまでに至るか否か」と指摘する。
実際、タイの屋台料理をコンセプトにした「WOK TO WALK」7店をインドに出店しているトリドールホールディングス(3397)は、現地の会社と組んで17年に進出したが、全てフランチャイズで展開しているという。物流網やオペレーションを自己流で構築できるかは課題となる。
もう1つが、当然のことながら宗教上の食文化の違いに対応できるかだ。第一生命経済研究所の西浜徹主席エコノミストは「インドは牛を神聖化するヒンズー教徒や、豚を食べないイスラム教徒など国内で宗教が多様化している。外食企業が進出する際は、提供する料理をどこまで区別して出せるかがカギになる」との見解を示す。宗教によっては、禁忌となる食材だけでなく、その調理法も厳しく決められていることもある。
会社側は対応については今後詰めるとしながらも「メニューはポーク(豚)ソースを中心とした、日本で提供しているカレーを軸に検討している」と説明。さらに「進出しているマレーシアでは豚を一切使わないカレーを既に提供しており、ある程度のノウハウはある」(広報担当)と述べた。この場合も、食材を取り違えて提供しない仕組みを厳格に導入するなどの配慮が必要だ。
ある大手外食企業の幹部は「実は、インドへの直営店の進出は当社も検討しており、壱番屋の動きは注視したい」と述べる。13億人の巨大市場であるインド市場への日本の外食企業の期待は高い。「世界最大のカレー消費国」(壱番屋のニュースリリース)であるインド進出は、同社だけでなく外食産業全体からも熱い視線を浴びている。
【日経QUICKニュース(NQN) 松井聡】
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