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「気になる熊本地震の影響」双日総合研究所・吉崎達彦氏

記事公開日 2016/5/27 17:34 最終更新日 2018/1/9 13:12 経済・ビジネス コラム・インタビュー 金融コラム

語り手:双日総合研究所 チーフエコノミスト 吉崎達彦氏※この記事は2016年5月16日にQUICK端末で配信した記事です。

【景況判断】現状(3カ月前比):横ばい 先行き(3カ月後):改善
GDP予測:16年度+1.0% 17年度0.0%
【金 利】短期:TIBOR3カ月 +0.10%
長期:10年物新発国債 ▲0.10%
【円 相 場】105円/1ドル
【株 価】1万6500円/日経平均
*GDP予測値は実質GDP成長率、前年比%
*長短金利、円相場、株価は3カ月後(2016年8月末)の予測値

1.景気見通し:「気になる熊本地震の影響」

熊本地震の発生から1カ月が過ぎた。日本経済への影響が気になるところである。
九州は面積、人口、事業所数、域内総生産などで日本全体の約1割を占めるに過ぎない。しかし地震の影響は九州だけにとどまらない。4月の景気ウォッチャー調査を見ると、「個人の一般客はほぼキャンセル」(近畿=旅行代理店)、「当社の加工量も減っている」(東海=輸送用機械器具製造業)、「自粛ムードが高まっている」(北海道=高級レストラン)、「余震が続いていることから、なかなか消費マインドが上昇しない」(四国)など、全国各地からのコメントが寄せられている。
熊本地震の規模感は、「阪神・淡路大震災(1995年)よりは小さいが、新潟県中越地震(2004年)よりも大きい」くらいであろう。中越地震は、①震度7、②死者68人、③高齢化した地域が襲われ、④新幹線が脱線し、⑤近くの原発=柏崎刈羽が無事だった、など、今回の熊本地震と共通点が多い。ただし、「震度7が続けて2度来た」点が、今回の熊本地震の顕著な特色と言える。
特に気になるのは、③高齢化である。熊本県の人口(2014年)においては、65歳以上の比率が28.1%を占めている。これは2004年当時の新潟県23.4%や、2011年の東日本大震災当時の東北3県24.5%を上回っている。ましてや1995年当時の兵庫県14.2%から見れば、約2倍の水準である。いくらマイナス金利時代とはいえ、被災した高齢者が新たに住宅ローンを組んで家を再建するのは容易なことではあるまい。高齢化した地域の復興は、そうでない場合に比べてはるかに困難であると言えよう。
東日本大震災(2011年)も含めて、過去の大型地震はほとんどが景気回復局面で起きている。その点で2016年の熊本地震は、「景気が既に後退局面に入っているかもしれない」状況で起きた点が気がかりである。補正予算はもちろんのこと、なるべく手厚い対策が望まれる。

2.金融環境:「TPPの仇を為替で討つ?」

4月28日の日銀金融政策決定会合は、大方の予想に反して「現状維持」であった。その翌日には、米財務省の為替報告書が発表された。その中で新たに「監視リスト」なるものが導入され、中国、韓国、ドイツ、台湾とともに日本が入っていたことが、新たな円高材料となっている。
為替報告書は、以前から米財務省が年に2回、議会に提出してきた。それが今年2月に法改正が行われ、問題国の認定基準が明確化された。すなわち下記の3条件のうち、2つを満たすと自動的に監視リストに入れられるようになった。
①顕著な対米貿易黒字(200億ドル以上)
②顕著な経常収支黒字(GDP3%以上)
③継続的・一方的な為替市場への介入(外貨買い年間GDP2%以上)

現時点では日・中・韓・独が①と②に、台湾が②と③に該当している。仮に日本が③市場介入を実施すると、その時点で唯一の「三冠王」になってしまう。米財務省としては、議会に対して日本をかばうことができなくなる。日本としては、為替介入へのハードルが高まったことになる。
このような法改正がなぜ行われたかというと、昨年春のTPA論議の際に「為替監視機能を強化すべき」との声が議会内で強かったからだ。そこで「TPPに為替操作防止条項を入れよ」との要望があったが、それではTPP交渉が困難になるからと、米財務省が瀬戸際で押しとどめた。その代償として、財務省の恣意を許さない「認定基準」が導入されたのである。
他方、大統領選挙においては、事実上の共和党候補者となったドナルド・トランプ候補が、反自由貿易を掲げ、日本や中国に対して厳しい発言を繰り返している。これで日本が為替介入をするようなことがあれば、「日本叩き」の格好の材料を敢えてしまうだろう。もちろん、今後の米議会におけるTPP批准審議にも悪影響が懸念される。
今週末にはG7財務相・中央銀行総裁会議が仙台で行われる。各国要人の発言に注目が集まるだろうが、米国の国内政治が急速に「内向き化」していることには警戒が必要である。

3.注目点:「石油安効果を享受する日本経済」

5月12日に財務省が発表した2015年度の国際収支速報は、以下のように目覚ましい内容であった。
*貿易収支は0.6兆円の黒字(5年ぶりの黒字)
*経常収支は17.9兆円の黒字(前年比倍増で、震災前の2010年度の水準に戻る)
*第1次所得収支は20.6兆円の黒字(史上最高)
*サービス収支は1.2兆円の赤字(前年比6割減で過去最少)

これらの変化をもたらした主な原因は、石油価格の下落である。2015年度の通関統計を、石油価格がまだ1バレル100ドルを超えていた2013年度と比較してみると面白い。この2年間で、総額の輸入は84.6兆円から10兆円近く減って75.2兆円となり、貿易収支も12.6兆円改善した。

貿易赤字.png

個別の品目でみると、原油及び粗油が2年前の14.8兆円から、7.4兆円に半減した。ただし、数量は2.1億キロリットルと2.0億キロリットルで大差がなく、純粋に価格下落を反映したものである。他の化石燃料も原油価格に連動しているので、液化天然ガス(LNG)は7.3兆円から4.5兆円へ、石炭は2.3兆円から1.9兆円に減少した。鉱物性燃料全体では、28.4兆円から16.1兆円に激減している。
産油国に対して毎年支払ってきたおカネが、2年でざっくり10兆円も減ったことになる。なおかつ資源を取り巻く昨今の情勢を考えると、原油価格が再び50ドルを超えて大きく上昇することは考えにくく、日本経済にとっては「10兆円の恒久減税」が行われているに近い。
ところが個人消費は不振が続いており、石油安による可処分所得の増加効果は見出し難い状況である。ひとつには円安による食品価格の上昇が、エネルギー関連価格の下落分を帳消しにしているからだが、今後、円高が進むにつれてその効果も薄れてくる。今後、次第に「石油安効果」が消費を下支えしてくれるのではないだろうか。

<吉崎達彦氏略歴>
1960年生。84年一橋大学社会学部卒、日商岩井入社。91年ブルッキングス研究所客員研究員、93年社団法人経済同友会調査役を経て、95年日商岩井調査・環境部。2003年日商岩井総合研究所主任エコノミスト、2004年合併により双日総合研究所副所長。岡崎研究所理事、テレビ東京「モーニングサテライト」コメンテーターなども務める。個人サイト「溜池通信」を主宰。フジサンケイグループから第14回「正論新風賞」を受賞。

次回のQUICKエコノミスト情報は、6月16日(木)配信予定。コメンテーターは、櫨浩一・ニッセイ基礎研究所専務理事です。


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