「売上高」と「時価総額」の順位が異なる業種
企業にとって、売上高と時価総額というのは大事な指標です。『簡単業種分析』では。東証33業種の業種別の売上高と時価総額上位10社の規模を、わかりやすく視覚的に確認することができます。
『簡単業種分析』を使って業種ごとの売上高と時価総額のランキングを見ていくと、あることに気付くかもしれません。それは、売上高と時価総額の順位は必ずしも一致しないということです。
例として、「化学」の業種を見ていきましょう。
このように「化学」の業種では、売上高と時価総額のランキングに大きな差があります。売上高1位の三菱ケミカルホールディングスは、時価総額だと9位まで落ち込みます。また、売上高では5位にとどまる花王は、時価総額だとトップです。他にも、時価総額で上位のユニ・チャームや資生堂は、売上高だとトップ10に入っていません。このような売上高と時価総額の乖離は、なぜ起こるのでしょうか。
時価総額上位は株価が割高
分析の前に、「時価総額」について確認しておきたいと思います。時価総額は、「株価×発行済株式数」で計算され、その企業の市場での価値(規模)を表します。株価が高い、あるいは発行済株式数が多ければ、時価総額も大きくなります。
株価が高い(割高)かどうかを判断するのに役立つのが「QUICKスコア」です。基礎スコアの「割安度」の項目について検証します。
売上高上位10銘柄の「割安度」の平均が5.7なのに対し、時価総額上位10銘柄の平均は4.3となっています。三菱ケミカルホールディングスの割安度は8ですが、花王・ユニチャーム・資生堂はともに割安度が2です。以上より、時価総額上位の銘柄は、株価水準が高いため時価総額が大きい傾向にある、ということが言えそうです。
順位の入れ替わりとコンセンサス
それでは、時価総額上位の企業の株価が高いのはなぜでしょうか。ここではまず「QUICKコンセンサス」の経常利益予想の数値を見てみます。先ほど挙げた花王は、経常利益予想が+11.2%と大幅増益予想となっています。同じくユニ・チャームも+13.0%で大幅な増益予想です。反対に、売上高で3位、時価総額だと10位まで順位を下げる住友化学の予想値は-2.6%です。同じく予想値が-4.0%の旭化成も順位を下げています。また、三菱ケミカルホールディングスはコンセンサスの予想値がありませんが、会社公表予想は減収・経常減益見通しです。業績予想の良い銘柄は、期待から株が買われ、売上高の順位より時価総額の順位が高いという見方ができます。
企業の「ブランド力」という視点から説明する
しかし、もっと明確に順位の入れ替わりを説明できそうなデータがあります。ここではひとつの見方として企業の「ブランド力」に着目したいと思います。
時価総額上位の銘柄を眺めていると、花王、ユニ・チャーム、資生堂など、よくTVのCMで見かける銘柄が並んでいます。JCC株式会社の「CM企業ランキング」によると、2016年4月のランキングにおいて、花王は2位(921分)、資生堂は7位(498分)となっています。
また、株式会社日経リサーチによる「ブランド戦略サーベイ」(2015年、全570ブランド)、株式会社トライベック・ブランド戦略研究所による「企業情報サイトランキング」(2015年、全252社)の結果は以下の通りです。
時価総額上位銘柄は、売上高上位銘柄に比べてブランド調査でも上位にあることが読み取れます。
ではなぜブランド力の高さが時価総額の大きさにつながっているのでしょうか。「株式投資は美人コンテストである」というのは経済学者ジョン・メイナード・ケインズの有名な言葉ですが、ブランド力の高い企業というのは、この美人コンテストにおいてみんなに名前のよく知られた出場者です。「自分が優勝すると思う人に投票するのではなく、みんなが優勝すると思う人に投票する」というのが、ケインズの言う美人投票ですから、知名度が高い方が有利な気がします。
また、ブランドを持つ企業というのは、その市場でのシェアを獲得しており、業績に安定性があるとも考えられます。『バフェットの銘柄選択術』(日本経済新聞出版社)によれば、あのウォーレン・バフェットも、ブランド価値の高い企業、あるいは取り扱う製品の市場支配力が強い「消費者独占型」企業に注目しているとのことです。
コンセンサスの値よりも「ブランド力」が順位の入れ替わりをよく説明できるのは、恒常的に株価の評価が高い銘柄は、目先の利益予想よりも長期に効果のあるブランド力に左右されるといえるのではないでしょうか。
以上、企業の売上高と時価総額の関係について分析してきました。化学という業種において、売上高と時価総額の順位がこんなにも異なるというのは、なかなか興味深い事実だったのではないかと思います。「売上高」と「時価総額」という単純で基本的な指標ですが、それだけに奥が深いものなのです。