株主総会シーズンに入り、企業統治(コーポレート・ガバナンス)を巡る議論が活発化している。ガバナンス改革の重要性が高まる中、機関投資家は株主総会にどう対応するのか。ESG重視の長期投資を実践してきたアバディーン・スタンダード・インベストメンツの窪田慶太インベストメント・ディレクターはQUICKなどの取材に応じ、「企業は社外取締役の割合を高め、多様な視点からすべてのステークホルダーの利益に配慮した経営をすべき」などと話した。
■企業経営、「1つの価値観」は最適解か
運用するファンドでの保有株の平均保有年数は6年におよび、年々長くなっている。長く投資できる銘柄については10年、20年と継続的に保有していきたい。そのためには長期的なダウンサイドリスクを減らすことが大切で、企業の経営戦略の根幹を担うESGの視点を運用に取り入れることは非常に重要だ。
ESGからみると、資源国でない日本の企業は「E(環境)」の点で優れているが、S(社会的責任)とG(ガバナンス)はほかの先進国に追い付いていない。こうした視点でのリスク開示の不十分さもあって、日本企業に投資する優先度が低いのだろう。エンゲージメントによって企業のガバナンスが改善し、透明性が増せば一段と海外マネーを呼び込める。すべてのステークホルダーにとってウィンウィンになるはずだ。
そのための1つの手段として、2018年から社外取締役の重要性と機能性に配慮した議決権行使をしている。最低でも2人以上の社外取締役、3分の1以上の構成などを求めている。この基準に合致していないすべての事例に反対するわけではないが、基本的な数値基準として守るよう働きかけている。弁護士、会計士、官僚出身など企業経営をあまり理解していない社外取締役が選任されている例もあり、きちんと機能しているかどうかも見極める。
日本企業は、生え抜きの社員が取締役に名を連ねる比率が海外と比べて高い。社外取締役の割合も低いため、1つの価値観をもとに経営している企業が多く存在する。決して悪いことではないが、ダイバーシティーを重視して多様な視点からすべてのステークホルダーの利益に配慮した最適な経営がなされるべきだ。レオパレスのように営業偏重のカルチャーでないかどうか、意思決定に「No」をいえる体制になっているかどうかなど、しっかりチェックしていくことが重要だ。
■ダイバーシティーもダイリューション意識も未熟
ダイバーシティーを欠いた経営陣でもう1つリスクが高いのは、株式価値の希薄化だ。日本は希薄化に対する規制が未熟で、上場企業は基本的に青天井で新株を発行できる。新株を大量に発行し、エンゲージメントしているアクティビストの持ち分を希薄化して実権を握り続ける、ということもできる。社外取締役がいてガバナンスが機能している場合はリスクは小さいだろうが、制度上の抜け道として懸念する海外投資家は多い。
こうした観点から、議決権行使にあたって取締役再任の是非は定性的、定量的な判断をしている。たとえば、在職10年を超えると利益相反が起きたり、少数株主を向いた経営がされなくなったりする場合がある。10年以上の在籍がすべて悪いわけではない。実際に経営陣に会い、少数株主の利益保護の視点が確認できれば、そのときに判断する。会えなければ当然、反対することになる。取締役会への出席率も75%を基準としているが、各社の事情もあり、ケースごとの判断だ。反対した場合は理由を企業に伝える。
財務担当役員(CFO)の設置も積極的に働きかけている。日本企業は事業の取捨選別や強いビジネスへの集中投資といった、資本効率を改善させる財務戦略が欧米企業と比べ弱い。過当競争に陥った事業を抱える企業が多く、6割超の企業は5%未満の営業利益率にとどまる。資本効率を意識した経営へのプレッシャーがかかるよう、CFOの設置だけでなく、株式持ち合いの解消に向けた働きかけもしている。(聞き手は川口究)
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