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平成・危機の目撃者➎ 二宮圭子が見た1ドル=79円台突入(1995)

「リスク回避の円高」ここから定着

1985年の「プラザ合意」以降に強まった円高の圧力は平成にも引き継がれた。円相場は95年に1ドル=79円台後半と未曽有の高値圏に浮上し、2011年には75円台前半とさらに値を伸ばした。95年は日本でバブルの後始末が始まり、同年1月に起きた阪神大震災の打撃が残る中で日本の経常黒字体質にも焦点が当たった。米シティバンクの外国為替ディーラーを務めていた二宮圭子氏は「95年は『危機の円高』『リスク回避の円高』が定着した年」と振り返る。

二宮圭子氏

にのみや・けいこ  シティバンク銀行入行後、1993~2000年に法人金融部門・外国為替部のインターバンクディーラーを経験。その後SMBC信託銀行に移り、投資調査部でシニアFXマーケットアナリストとして、為替市場の調査・分析および個人投資家向け情報提供を担当。テクニカル分析が得意。定期的に日経CNBCテレビ「朝エクスプレス」などのコメンテーターも

◆90円超えて天井見えず恐怖

インターバンク(銀行間)ディーラーになったのは1993年。著名投資家ジョージ・ソロス氏が引き金をひいた前年の英ポンド危機の波紋は既に収まっていた。対ドルの円相場も緩やかな調整局面が続いて鉄火場の経験を積めず、95年に加速した円高には戸惑い、慌てた。1ドル=90円程度までは想定の範囲だったが、それを超えたときには天井がまったく見えなくなった気分で、怖かった。

相場が一方向に振れ続けると注文は偏り、取引が成立しにくくなる。背景に金融危機などの何らかの事件・事故があると投資家はただでさえリスクをとれなくなっているので、参加者は細っていき、相場の振れ幅がより拡大していく。そんなときは対外債権を多く抱える日本で、マネーの自国回帰が通貨高を促すかどうかに着目すればよいというのが95年の超円高が示した教訓だった。

シティのような大手銀で、売り買い双方のレートを常に提示し市場に厚みをもたらす「マーケットメーカー」は苦しい。だがマーケットメーカーが逃げの姿勢だと顧客や取引相手の他の銀行は離れ、市場の流動性は一段と薄くなる。リスク管理の制約がきつくなった今では考えられないが、当時のマーケットメーカーは「相場環境が厳しくても、多少の損は覚悟で常に相手に適正な値を提示するのがディーラーの責務」との使命感にあふれていた。

ディーラーに攻めの姿勢がないと通貨当局の信認も得られない。90年代半ば~後半といえば「ミスター円」こと榊原英資氏などがアグレッシブに為替介入をしていたころだ。財務省の委託を受けた日銀からの注文にそつなく応じることもディーラーの責任。安心して任せてもらえるよう常に臨戦態勢をとった。提示される値から本気度を推し量ったものだ。

◆タイバーツ急落、ピンチヒッターでピンチ乗り切る

EBS(電子ブローキングシステム)が発達する前のディーリングは複数のブローカー(仲介業者)との間で専用回線を通したほか、銀行担当者とダイレクトに電話でやりとりしたり、ロイターのチャット機能を使ったりするアナログな作業の積み重ねだった。目の前にはブローカーとつながった7~8つのスピーカーとマイクが並び、それぞれから聞こえてくる売りと買いの値段の優劣を瞬時に判別しベストな条件で取引を成立させていく。それに電話やロイターなどを組み合わせていく職人芸の世界だった。

ボイス(声)中心の世界は現在に比べ、相場が緊張しているか否かを測りやすかった。半面、たいていは大台を省略するので、荒れているときにはいったいいくらで取引されているのかすぐ理解できない。そのリスクを痛感したのが1997年夏のアジア通貨危機だ。

タイを震源地とする危機が発生した後、休暇中だったアジア担当の代わりにアジア通貨のトレーディングデスクに回ったことがある。慣れていないので水準感がまずわからない。しかも取り扱う通貨の数が多く、スピーカーからは各通貨の値が一緒くたに流れてくる。発展途上だった各国の法規制にも目配りしなければならない。相場は大荒れで収拾のメドはたたず、大台がいくらか気にしながらの五里霧中の取引は生きた心地がしなかった。

代打期間は2週間ほどだったが、一日の上下動が激しいときだったので少しミスをしても挽回可能だった。場数を踏んできた他のディーラーのサポートも得て次第に平常心を取り戻し、どうにか乗り切れたのを覚えている。

97~98年は日本も大手金融機関の経営破綻などで危機的な状況にあり、当初は円の悪材料とみなす空気が出ていた。だが、米ロングターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)ショックなどを経た98年秋には円が急伸。ここでも「リスク回避の円買い」が勝った。

◆機械時代でも受け継がれるもの

足元の外国為替市場は機械の「アルゴリズム」取引全盛の時代。人間のディーラーは徐々に数を減らし、かなりの部分をコンピューターに任せるようになっている。コンピューターが高速で回転売買を繰り返すため相場のボラティリティー(変動率)は安定してきた。そのうえ20カ国・地域(G20)が通貨安阻止の姿勢を示していることなどを背景に自国通貨売りの介入は難しくなった。21世紀初頭までのようにやっていては生き残れないだろう。

それでも受け継がれるものはある。インターバンクディーラーの仕事は経済指標などのマクロデータや、事業法人と投機筋などのお金の流れを的確につかみ、顧客に適正なレートを示すことだ。基本はアルゴ全盛のいまでも変わらない。顧客の持ち高状況を把握できれば次のトレンドをいち早くつかめる。

もし生身の人間として取引判断をするのなら、損をしたときに「取り返してやる」などと熱くならないことも重要だ。相場には必ずオーバーシュート(行きすぎ)が生じる。感情を持たない機械がプログラム通りに働いても起こるときは起こり、次にいったん止まるか反転する。そこでテクニカル分析などを用いて冷静に値動きを眺め、潮目を外さなければ必ず収益拡大の好機がやってくるはずだ。

=日経QUICKニュース(NQN)金岡弘記

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