平成・危機の目撃者➍ F・ギレスピーが見た欧州債務問題(2013)

大手銀の技術者流出、そこからアルゴが広がった

平成時代の後半を彩ったコンピューター・プログラム取引「アルゴリズム」。アルゴが急速に広がった背景に、ギリシャの財政問題に端を発する危機に揺れた欧州大手銀からの技術者流出があったことはあまり知られていない。米JPモルガンや米ゴールドマン・サックスなどでアルゴに携わったフィリップ・ギレスピー氏は「欧州銀に集まっていたアルゴ専門家がヘッジファンドなどに移っていなければアルゴ取引はここまで普及しなかっただろう」と話す。

フィリップ・ギレスピー氏

ジョージア工科大学経営工学部を卒業し、コンサルタント業務を経験した後の2006年にリーマン・ブラザーズ入社。株部門の電子取引チームに属した。破綻前にリーマンを離れ、カリフォルニア大学で金融工学の修士号を取得しバークレイズ銀行東京支店の為替ディーラーとして市場に戻る。JPモルガンやゴールドマン・サックスを経て、18年2月より電子取引を主体とした暗号資産の流動性提供会社であるB2C2日本法人の代表取締役

◆日進月歩の技術、慢性的にエンジニア不足

アルゴリズム取引の一種で、目にもとまらぬ速さで売り買いを繰り返す高頻度取引「HFT」は2010年代に入ると頭角を現し、13年(平成25)年ごろには外国為替を中心に進化が速まった。劇的といっていい。

13年前後といえば、ギリシャの債務隠しをきっかけとした危機のあおりで欧州銀の経営不安が拡大。ドイツ銀が不動産の関連商品を販売していた米国で、リスク管理の不備に絡む大型の訴訟案件を抱えるなどスキャンダルも相次いだ。その余波で報酬カットや人員整理などのリストラを余儀なくされた欧州銀から、マーケットに精通した多くのエンジニア(技術者)が流出した。

アルゴはとにもかくにもエンジニア次第だ。現在の仮想通貨(暗号資産)業界が技術者不足に悩んでいるように、技術が日進月歩であるためにその数は慢性的に足りない。しかも為替や株のアルゴには高度な金融知識が求められる。ギリシャ発の危機はそれらの問題点の解決に寄与してくれたわけだ。

HFTは円とユーロの対ドル取引など厚みがある市場で常にオファー(売り)とビッド(買い)双方の注文を示し、基本的にはリスクをとらずに小さな差益を積みあげていくモデルだ。市場に流動性を供給するマーケット・メーカーに似た役割を果たす。他のHFTとの激しい競争に勝ち、利益を出し続けるには技術的なアドバンテージを保ち続けなければならない。

◆市場拡大で飽和、次は暗号資産へ

山口県で生まれた後、9歳で米国に渡り、小学校から大学まで米国で過ごした。卒業後は経営工学の知識を生かしてコンサルタントとして働いていたが2006年、リーマン・ブラザーズから株のトレーダーにならないかと誘いを受けたのをきっかけにマーケットでのキャリアをスタートさせた。アルゴ取引に出会ったのもそのころだ。

投資銀行には「プロップデスク」と呼ばれる自己売買部門がある。リーマンも同様で、そこでまずは海運コンテナの運賃動向に絡めてどの国のどの資産を取引するのがベストかというプログラムの構築にかかわった。

リーマンが破綻する少し前に入ったカリフォルニア大学バークレー校のハース・スクール・オブ・ビジネスでは大手ヘッジファンドのプロジェクトマネジャーなどそうそうたる面々が講師だった。そこでアルゴのおもしろさにはまり、どっぷりと漬かっていく。ビッドとオファーのさや(スプレッド)を取りに行くマーケット・メイク型アルゴは当時としては新しかった。

以降は英バークレイズ銀の外為ディーラーとしてアルゴを手掛け、JPモルガンを経て15年にゴールドマンに移った。実力主義のゴールドマンは居心地が良かった。だが、ヘッジファンドや他のフィンテック会社に技術的ノウハウが行き渡るにつれて先行きを不安視するようになった。そんな中で元同僚に誘われ、コンピューター時代の落とし子となる暗号資産の市場に転じた。技術者の流入が市場を広げ、飽和していく構図はアルゴと変わりない。

◆「デジタルゴールド」化の可能性も

17年後半~18年初めのビットコインやビットコイン以外の「オルトコイン」の価格急騰は確かにバブルだった。流動性の低さや手数料の上昇など課題だらけで、金融資産としての人気もすっかり下火だ。それでも限られた自分のお金を守る手段の1つとして依然として魅力的だと考える。

ビットコインはリーマン・ショックの余韻さめやらぬ中で生まれた。銀行預金よりも多額の紙幣や電子マネーが当の銀行によって作り出される状況に対し、「非中央集権」の理念を掲げて登場した。ソブリンリスク(政府の信認リスク)が高まったときの常道は「無国籍通貨の金を買う」。ただデジタル化社会では、ビットコインなどが「デジタルゴールド」のポジションを得てもおかしくはないだろう。

足元では様々な国でポピュリズム(大衆迎合主義)が台頭している。例えばトルコのように経済基盤が脆弱で金利も高く、企業が外貨で資金繰りをしていた国では今後、政府の資本規制や外為リスクが上昇する過程で「自分の資産は自分で守る」との心構えが重要になる。トルコに限らず政治経済、通貨システムなどに難題を抱える国や地域で国境のない暗号資産を求める動きが出るのは自然の流れだ。

日本は株や為替を軸にした金融都市としては近年、シンガポールや香港に後れを取っている。一方、暗号資産の分野では逆転のチャンスがあるのではないか。その「根源的価値」がマクロ経済とどう結びつくのかについてこれから吟味し周知させながら東京を金融センターとして復活させるのが夢だ。

=聞き手は日経QUICKニュース(NQN)尾崎也弥

=随時掲載

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