QUICKではアジア特Q便と題し、アジア各国・地域のアナリストや記者の現地の声をニュース形式で配信しています。今回はシンガポールの現地記者クリストファー タン シ(Christopher Tan, Si)氏がレポートします。※この記事は2016年4月20日にQUICK端末で配信された記事です。
シンガポール金融通貨庁、金融引き締めから中立へ…6年ぶり
シンガポールの中央銀行に相当するシンガポール金融通貨庁(MAS)は14日、これまでの引き締めを軸としてきた金融政策を中立に変更した。シンガポールでは他国の中央銀行と異なり為替政策を政策誘導の目安としており、シンガポールドル高への誘導は金融引き締め、同ドル安への誘導は金融緩和を意味する。政策変更は6年ぶりで、MASによる金融刺激策がアナリストらを驚かせた。
為替も反応…アジア通貨全般も連れ安
MASは為替政策を変更し、シンガポールドルの名目実行為替レート(NEER)の誘導目標をこれまでの方針だった「緩やかで段階的な上昇」から「0%(ニュートラル)」に変更した。
MASの決定を受け、14日の外国為替市場でシンガポールドルは米ドルに対して1.2%を超える下落を記録し、また通貨の切り下げ競争が起こるのではないかという懸念から、米ドルに対してアジア通貨全般が下落した。マレーシアリンギやニュージーランド(NZ)ドルが1%前後下落し、インドネシアルピアは0.4%程度の下落となった。
前回、MASが為替政策をニュートラル、つまり0%状態に変更したのは金融危機のピーク時にさかのぼる。
より広域な地域経済の指標とみなされることが多いシンガポール経済が、後退局面に向かっている兆候はこれまで全くなかった。今年1~3月のシンガポール経済は、好調なサービス分野に支えられ、前年同期比1.8%増と順調なペースで成長していた。
DBSグループ担当者「経済状況は悪化し続けている」
しかし、MASの最新決定は、特に世界経済の中で今後はより厳しい時期が待っているとの見通しを明確に示している。「世界経済の展望は昨年10月以降、陰りをみせている。米経済の拡大ペースは、労働市場の強化が民間消費を支え続けているものの、投資と輸出が衰退しているため以前の予想よりも緩やかとなる見込みだ。ユーロ圏と日本では、さらに緩和的な金融政策を通じて成長をテコ入れしようという努力にもかかわらず、通貨高騰と外需低迷により、経済活動が阻まれるだろう」とMASは指摘する。
中国の経済成長は引き続き伸び悩むとみられるため、これはシンガポールの外需分野にダメージを与えるだろう。
4月と10月の年2回、政策方針を発表しているMASは、今回の決定により自国通貨を切り下げることを目的としているのではないと主張する。しかし、その影響は明らかだ。また、アジア域内の通貨が下落する中、タイやマレーシアを含む域内の他の国々もシンガポールの方針を見習う可能性があるという危惧もある。
シンガポールの地場銀行最大手DBSグループ・ホールディングスの上級エコノミスト(通貨担当)、フィリップ・ウィー氏は「前回のMASの会合以降、経済状況は悪化し続けている」と指摘。そのうえで、ウィー氏は「状況がすでに悪化しているのであれば、なぜ10月まで緩和を待つ必要があっただろう」と付け加えた。
【翻訳・編集:NNA】