代表的なオールドエコノミーの一角である製紙業界がイノベーションにより新たな成長の道を見いだした。各社が力を入れる新素材「セルロースナノファイバー(CNF)」が実用化されはじめ、電子化などで紙離れが進む業界を立て直せるかもしれないと、株式市場は期待を寄せる。
▼CNFの特許多い王子HDと日本紙
「王子ホールディングス(3861)が建築資材向けにCNFの出荷を開始」--。2月13日の大引け後にこう報じられると、翌日の王子HD株は下落する日経平均株価を尻目に3%高の逆行高を演じた。実用化が進み、CNFの本命とされる自動車など工業用途への採用に一歩近づいたと、期待が膨らんだ。飛行機などに利用され、需要が急拡大した東レ(3402)の炭素繊維を思い浮かべた投資家もいただろう。「将来的には自動車の車窓のほか、化粧品やスマートフォンのディスプレー向け材料への採用を目指し開発中だ」(王子ホールディングス)。
CNFはパルプを髪の毛の1万分の1ともいわれる超極細にした繊維だが、強度は鋼鉄の5倍あるといわれる。足元は衛生用品などに利用がとどまり、市場規模は数億円程度だが、経済産業省は製造コストの問題を解消できれば2030年にCNF関連市場が1兆円規模に拡大すると試算する。市場が拡大した場合、CNF関連の特許を幅広く所有する王子HDと日本製紙(3863)は、恩恵を受けられそうだ。
▼値上げの春、改元や選挙の特需期待も
日本株相場はハイテク株主導により昨年末の安値から戻り歩調だが、紙・パルプも上昇を支えている。堅調な株価の背景には、業績回復に加えて、4月の改元の発表、統一地方選、夏の参院選といったイベントによる紙需要の増加も追い風もある。
2期先までの業績予想が可能な「QUICK Forecast企業業績」(2月19日時点)で業種別に2020年度の連結純利益を集計したところ、紙・パルプは今期見込み比2倍と海運に次ぐ回復が見込まれる。段ボール原紙や印刷用紙の値上げが足元の業績に寄与し始めたなか、製紙各社は4月1日出荷分から新聞用紙を一斉値上げする。来期はこうした値上げによる効果が丸々効いてくる。
段ボールは王子HDやレンゴー(3941)がシェアの面から優位だが、用紙は日本紙が強い。大和証券の平川教嗣アナリストは、業種内では日本紙に投資妙味があると話す。「来期の連結営業利益は今期予想比で2倍弱と想定している。業績の変化率が大きいほか、予想PBR(株価純資産倍率)は0.6倍程度とセクター内では相対的に低い」指摘する。平川氏は2月21日、日本紙の目標株価を従来の2000円から2500円に引き上げている。
■王子HD(グラフ黒)と日本紙(青)の株価は市場平均を上回る
足元の紙・パルプの株価回復は業績改善が主因。しかし、PBRは0.7倍と日経平均株価の水準を下回る。紙・パルプのPBRがこの10年間、1倍を下回って推移しているのは、やはりオールドエコノミーとして、成長性に対する期待が相対的に小さいからだろう。新素材のCNFは、PBR1倍超えのトリガーになる可能性を秘めている。(根岸てるみ)
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