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相場は人生の師でありよき友である by 高木晴久氏(シリーズ:ベテランに聞く)

高木晴久氏は三井住友銀行が生んだ伝説級の外国為替ディーラーの一人だ。念願がかなってディーリングの道に足を踏み入れてからはずっと相場漬けの日々を送り、ここ20年ほどは年間ベースで一度も負けていない。座右の銘は「相場とは人生の師でありよき友である」。市場から常に一歩引いて自分の立ち位置を知り、何が起きても冷静でいられる姿勢が肝要だと話す高木氏は、2019年1月にドルやユーロが対円で急落した「フラッシュクラッシュ」にも動じなかった。【聞き手は日経QUICKニュース(NQN)菊池亜矢】

高木晴久(たかぎ・はるひさ)氏
1989年に三井銀に入行。社内公募で志願し94年から市場業務を担当。ドルの対ドイツマルク(現ユーロ)や対円のボードディーラーを経験しニューヨーク拠点ではトレーディンググループ長。東京に戻ってからは通貨オプションと為替トレーディングの両グループ長や副部長を歴任し、現在は上席推進役として様々な商品を取り扱うトレーディング部隊の中核を担う
■必要なのは4次元の視点

ディーリングは人間の弱さに謙虚に向き合うところから始まる。相場は純粋で無機質だ。自己中心の考えで臨んだり、てんぐになったりすれば報いを受けて大損する。ダメになっていくディーラーはたいてい「この相場はおかしい。間違っている」といって自分を振り返ることをしないものだ。

アート(芸術)のセンスも必要だ。ポジション(持ち高)を作った後にどの水準で利益を確定するか、どこであきらめるかなどを考える際には論理的に物事を考える左脳の働きが大きい。半面、感覚をつかさどる右脳を使っていく機会も多くなる。

大切なのは上下と左右、前後、時間を総合判断する4次元(空間)の視点だ。ドライブしていると目まぐるしく景色が変わる。ディーリングも同じで、時の経過とともに変わる空間の中で相場を捉えるべきだ。ディーラーの成長や進歩は、変化する環境を受け入れる適応能力を向上させることと同義といっていい。

■自分を追い込まないようにする工夫を

ディーラーになってからは徹頭徹尾、相場と向き合ってきた。まさに相場中毒。睡眠時間は断片的に1日2時間程度で、夜も昼も休みも関係なかった。そうしていると相場の音だったりリズムだったりが徐々に分かってくる。

巨大な市場は絶対に支配できない。一方、自らの精神状態や戦略はコントロールできる。ディーラーとして生き残るためのポイントはこの2つをどう制御するかだ。

金融機関などに属するプロのディーラーは定期的に収益を上げることを求められる。プロの認定制度はないが、仮にもプロを名乗るなら、ルールを守ったうえで一定期間内に期待以上の収益を上げ続けなければならない。複数の期間にわたって損失を出すようなディーラーはプロ失格。速やかに退場すべきだろう。

致命的な損失を避けるにはどうするか。取引を始める前に失敗したときの「出口」を考えるのだ。実績を求められるためか、真面目に取り組む人ほど「勤勉のワナ」に陥り、常に持ち高を保有していないと不安になる。わからない相場に手を出す。難しい市場環境のときには持ち高を減らしたり通貨オプションでリスクを抑えたりして自分を追い込まないようにする工夫が大事になってくる。

相場予想は6割当てられれば上々だ。4割だからダメというわけではない。ポイントはその4割のうちでも「必ずそうなる」との確信を8割持てるかどうか。ここぞとばかりにポジションを膨らませ、利益を最大化していく行動力が備わっていれば大丈夫だ。もし8~9割の「確からしさ」で続けてうまくいかなかったら、相場環境が変化していたと判断し基本的な戦略を見直すと良いだろう。

人間には向き不向きがある。武器もピストルと大砲で飛距離が違う。得意な通貨のペア(組み合わせ)や期間も人それぞれだ。優秀なボード(顧客注文を銀行間市場に取り次ぐ業務)の担当がすべてすぐにプロップ(自らの裁量でポジションを作り、利益を上げる役割)をうまくこなせるわけではない。自分の適性を忘れず、長所を生かしながら適応していく段階を踏まなければならない。加えて、現在の相場を形作っている情報を関係者がどう見ているのか、市場と自らの距離を測っていく努力を怠らないことだ。

■どんなときにもポジティブ思考

さくら銀(旧三井銀と旧太陽神戸銀が1990年に合併し、当初は太陽神戸三井銀と称したが92年にさくら銀へ改称)時代の98年から2001年の三井住友銀の発足時までディーラーは歩合制だった。収益が1年間マイナスを出したらクビ。絶対に損失は出せないと本当に頑張った。ニューヨーク支店にいたころに仕えた上司も損失に厳しく、どうすれば納得してもらえるか合理的に考えた。上の信頼を勝ち取れば仕事をしやすくなる点で、リスク管理の一つと言えるかもしれない。

三井住友銀を代表するトレーダーで、副頭取まで上り詰めた高橋精一郎氏の下でも働いた。高橋氏は懐が深く、それまで持ったことがなかった巨額のポジションを任せられ、信頼に応えて収益を最大限にする力をつけられた。いずれにしろどのような上司にも真摯に向き合い、要求に応えることが自らの成長につながるのだと常にポジティブに受け止めてきた。

ここ数年で急速に台頭してきた人工知能(AI)が人間より優れているかどうかは分からない。分からないが、恐れを知らない精神力や強靱(きょうじん)さ、情報の蓄積量と分析手法、取引スピードなど確かにメリットは多い。ディーラーは相当に淘汰されていくだろう。それでも大きな市場ではAIは参加者の1つの形態でしかない。人の感覚などAIで対応できず、人の出番が訪れる領域は必ずある。人間が負けるとは想定していない。

AIは使い方次第で優秀な補助器具になる。例えばあるニュースが出てきたとき、その背景や関連報道について会話できるAIのシステムが欲しい。カバー取引(顧客注文によって形成された持ち高を調整し利益につなげる取引)でポジション管理をしている人には、どの商品からいくら持ってくれば戦略としてベストか、価格を統合したうえで示すなどの用途でも使えそうだ。

■相場への熱意、いまだ衰えず

自分の頭で考えることの重要性を相場は教えてくれた。間違っていたら遠回しにせず、結果を直接がつんと教えてくれる。無上の喜びや達成感を与えてくれる相場は人生の師であり良き友である。

学生時代に映画「ウォール・ストリート」(米公開は1987年)をみてから、ずっとディーリングをやりたかった。三井銀に入行後、配属された支店での進路面談では2年続けて希望勤務地を「北米」、希望職種を「外為ディーラー」と記入。適性は他にあると判断していた上司にあきれられたがあきらめなかった。

しばらくして社内公募があり、面接をそつなくこなしてほっとしていたときに「英語はできるか?」と聞かれ、「不得意中の得意です」と答えてしまった。それを「反射神経が強い」とでも評価してくれたのか、念願のディーラーとなってからは市場一筋。情熱はいまもまったく衰えていない。

(随時掲載)


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