三菱自動車工業(7211)は4月20日、国土交通省へ提出した軽自動車4車種の燃費試験データについて、燃費を実際よりも良く見せるため不正な操作をしていたことを発表しました。影響範囲は計62万5千台です。発表によると、三菱自と協業で新型軽自動車を開発している日産自動車が現行車の燃費を測定したところ、国土交通省に提出されていた燃費試験データとの乖離があったことから発覚しました。三菱自は2000年、2004年にリコール隠しが発覚した際にも経営危機に陥っており、以降企業体質の改善に取り組んでいた中での3度目の不祥事となりました。
4月21日の株式市場で三菱自の株価は大きく下落し、大引けで20.5%安。QUICK Money Worldのトレンドワードでも話題となっているキーワードとして取り上げられています。
ここで、他の軽自動車メーカーも見てみましょう。現在軽自動車を販売している国内メーカーとしては、ダイハツ、スズキ、ホンダ、日産、三菱、マツダ、富士重工業、トヨタが挙げられます(2016年3月期の軽四輪車新車販売台数順)。三菱自の燃費試験データ不正操作に関する発表後、4月20日午後から4月21日午前にかけての値動きに注目します。
ダイハツ (21日終値:前日比3.08%高)
スズキ (21日終値:前日比5.33%高)
ホンダ (21日終値:前日比2.13%高)
日産自 (21日終値:前日比3.14%高)
三菱自 (21日終値:前日比20.46%安)
マツダ (21日終値:前日比4.75%高)
富士重工業 (21日終値:前日比5.01%高)
トヨタ (21日終値:前日比3.20%高)
三菱自株に売りが殺到する一方で、他の軽自動車メーカーは非常によく似た値動きをしています。すなわち、20日14時より株価の下落が始まり、21日に入ると持ち直して上昇を始めています。軽自動車シェアトップ4のダイハツ、スズキ、ホンダ、日産は、21日午前に伸び悩んだものの持ち直している点で似たチャートの形となっていることが分かります。軽自動車販売数の少ないマツダ、富士重工業、トヨタは午前中の伸び悩みがごく緩やかです。
20日午後の下落は、「三菱自が20日17時に記者会見を行う」という情報が入った時点での市場の不安が読み取れます。今回の問題が三菱自のみの問題なのか他社にも関わる問題なのかという情報がなかったために、その情報量の少なさから三菱自以外の軽自動車メーカーへの不安が広がり売りが強まったと考えられます。記者会見を通過した後の21日に株価が持ち直したことからは、今回の不正が三菱自固有の問題であり、業界全体に広がる問題ではなかったという市場の安心感が読み取れます。
以上のように、市場には軽自動車業界に対する安心感が既に戻ってきていると言えそうです。しかし、2015年9月に発覚したフォルクスワーゲンの排ガス規制逃れ問題が記憶に新しい中、エンジン不正に対して「次はない」と楽観しすぎず、注意しながら投資をすることが重要でしょう。実際、軽自動車のシェアが高い4社が午前に伸び悩んだあたり、21日に入っても若干の懸念が残っていたことが伺えます。
製品の安全性が人命に直接的に関わる自動車の性質上、メーカーには高いモラルやコンプライアンス意識が問われています。その意識が失われれば、事業の根幹が疑われることになります。投資家もそのことを常に意識しておくべきでしょう。