外国為替市場で円高・ドル安の動きが止まりません。この記事を書いている4月7日の夕方時点では、ドル円は一時1ドル=108円に接近し、あわや107円台突入かというような動きを見せています。
さて、年初から続く円高進行の裏側で、ここ数年の市場を知っている人なら「?」と思うような動きが相次いでいます。
4月6日の米国株式市場は堅調で、米S&P500種指数は上昇し、4月1日につけた今年の高値に接近しました。米国株は2月中旬以降、上昇基調を続けています。そして翌4月7日の日経平均株価も8日ぶりに上昇しました。 株式市場に安堵感が広がるかと言えばそうではありません。ドル円相場は108円台まで円高が進んだからです。
米国株が上がっても円高が進む。まるで「リスクオン」(リスク選好)で円高という流れにも見えます。これまで、リスク回避時に買われる通貨だった円が、リスク選好時にも買われている。いったい何が起こっているのでしょうか。
利上げ→円安は通用しない
第一生命経済研究所の藤代宏一・主任エコノミストは、4月5日に『「利上げ→円安」は通用しない』というタイトルのレポートを発行しました。日米の金利差とドル円相場との連動性が薄れているという話です。
通常、米国の景気が改善に向かうと、利上げの期待が高まり、米国の金利は上昇します。日本の金利はゼロ近辺のため、日米の金利差が拡大。お金は金利の高いところへ向かうのがセオリーのため、日米金利差の拡大はドル買い・円売りの材料とされます。 ですが、下記のグラフ(赤線がドル円相場、青線が日米金利差、QUICKデータで集計)を見る限り、米国が利上げに踏み切った昨年12月ごろから、逆に動くようになっています。
藤代氏はレポートの中で、米国の「初回利上げの混乱を経験して市場参加者は、利上げとその後のリスクオフを同時に織り込むようになったので、米利上げ観測が高まってもキャリートレードを膨らませなくなったと判断される。世界経済がFED(米連邦準備理事会)の利上げを上手く乗り切れるかについて、投資家が自信を持っていないということだろう。FEDの6月利上げが単純に円安に繋がるとは限らない」とコメントしています。(キャリートレードとは日本円などの金利の低い通貨を調達し、高金利通貨で運用する手法です)
要するに、次の利上げが実施された場合、世界経済の動揺につながり、米景気が腰折れしかねない、という心配があるということです。実際、市場は初回利上げ前に緩和マネーの引き上げを警戒したため、原油相場が急激に下落しました。次の米国の利上げが見えているからといって、簡単に円売り・ドル買いの動きが高まらないわけです。
「円高」は投機筋のリスク選好の象徴?
もちろん、米国は経済に配慮し、利上げのペースを緩やかにすると声明を出しました。
2月以降の米国株上昇も、緩和マネーの急激な引き締めが無いとみた安心感が背景にあります。つまり市場は、以前よりも「リスクオン」の雰囲気をまとっています。
ではなぜ、円高が進むのでしょうか。本日、日本経済新聞電子版で、以下のような分析が掲載されていました。
米国では利上げが緩やかになるという観測が幅を利かせており、米国債利回りは低位安定が続いている。半面、金利先高観の後退は米株価の支援要因になり、ファンドも恩恵を受ける。お金に余裕ができた分を円買い戦略に振り向けられる。かつて投資家のリスク回避姿勢の映し絵とされてきた円高進行が足元に限れば、リスク選好の象徴のような動きをしているわけだ。
リスクオンによる米国株高で資金的余裕が増え、円買い戦略を取りやすくなっているという見方です。確かに、マイナス金利政策発表後に円安が進まず、国際協調の面で円売り介入も仕掛けにくいという背景があるため、ヘッジファンドにとっては円買いはチャンスのある投資戦略となっています。
このサイトのFXポジションを見ると、年明けから海外の投機筋は円買い一辺倒であることが一目でわかります。
投機筋がどういう戦略で、どの市場に向かっているのか。FXのようなリスクの高い金融商品で運用する際は、常に考えておく必要がありそうです。