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江戸時代にもHFTは存在した!? 現代は1秒に150回以上約定も

記事公開日 2016/5/9 17:49 最終更新日 2018/1/9 11:51 経済・ビジネス コラム・インタビュー 金融コラム

2016年4月8日、麻生太郎財務・金融相は「取引の高速化が市場の公正性、透明性、安定性に及ぼす影響について検討していくことが重要」*¹と発言しました。今後は金融庁が主体となって、超高速で取引する高頻度取引業者(ハイフリークエンシー・トレード、HFT)の規制に乗り出す方向性だと報じられています。

1秒に163回約定

アルゴリズム取引とはコンピューターシステムやソフトを介して取引する手段の総称です。HFTはこのアルゴリズム注文を執行するうえで、必要であれば用いられるという関係になっており、直接の関係はありません。*²

現在、証券各社はアルゴリズム取引を行っています。大口注文のマーケットインパクトを低減させるために運用する手法が主流です。代表的なものとして、アイスバーグ注文を紹介します。アイスバーグ注文は、意訳をすると「氷山の一角注文」というべきものです。これは、大量の売買注文を発注したい場合に、注文株数を少量に分割して発注するアルゴリズムです。注文数量のうち一部を事前に板に乗せておき、一部が約定すると残りの注文がすべて約定するまで注文を出し続けます。このように、市場に注文として出ている株が、実は氷山の一角(the tip of the iceberg)に過ぎないということからアイスバーグ注文と名付けられたのです。

アイスバーグ注問

このQUICK端末画面(有料サービス)の赤枠に注目してください。1秒間に1万株超と多くの注文が殺到していることが分かります。約定に応じて値段が下がっていることから大口の売りがアイスバーグ注文で執行されたのではないか、と推測する市場関係者もいます。つまり特定の時間に大量の小口約定が見受けられる場合は機関投資家がこのアルゴリズム注文を用いて株式を売買していると推測できるということです。

どの注文がアイスバーグ注文にあたるか事前に察知することはできませんが、歩み値を見ることによりその足跡はある程度推測することができます。この注文方法を用いるメリットは、機関投資家の手口をほかの市場参加者にできるだけ悟られないようにするという点にあります。たとえば一回の注文ですべての注文を執行してしまえば、その時注文を入れた大口の主体は1つであることがばれてしまいます。その結果、逆方向に相場を動かされ、損失になるといったリスクが存在するのです。しかし、アイスバーグ注文を用いることにより注文主体の数や正体を不明確にし、相場の動きをなだらかにすることができ得るのです。

ミリ秒単位で取引を見ると、実際はこれの何倍もの取引が行われていることがあります。例えばQUICKの提供する専用端末で三菱UFJフィナンシャルグループの歩み値を見てみましょう。13:35:06秒の1秒間に163回約定が成立していることが分かります。昔は同じ枚数でスライスして出すのがアイスバーグのシグナル、などと言われていますが、最近では一回の注文数をランダムにする機能がついているアイスバーグのアルゴリズムも存在しているため、163回の取引主体が1つなのか2つ以上なのか全くわかりません。

1秒163約定

わずかな時間で上記のような大量の小口注文が入った場合は、何らかの思惑が絡んでいる可能性があると考える必要がありそうです。

HFTの特徴

HFTは高頻度取引注文のことです。定義は不明確ですが*³取引の速度が速く、ポジションの保有時間が数秒以下であり、注文の取り消し割合が高いなどの特徴が挙げられています。
 一般的には0.5ミリ秒(0.0005秒)レベルの速度で取引できる注文です。取引所施設内に自社回線を設置する、コロケーションシステムを使っている会社では、気配情報の取得・注文の送信時間を片道で数10マイクロ秒(0.00001秒)以下にまで短縮することが可能になります。まばたきの速さが0.150秒であることからして、とてつもない速さであることが分かります。専門の情報端末の反応速度が数ミリ秒程度であることから、HFTが私たちの目に見えることはありません。またHFT取引やアルゴリズム取引は、ポジションを持っている時間や目指す値幅などがかけ離れています。そのため、個人投資家と対立しているというよりもむしろ他社のHFT取引業者が競争相手となっているのです。 HFTは薄利多売を目的にしているため、高確率で利益になるケースでなければ取引しません。またHFTをする上で得意な銘柄に取引が集中する傾向があるようです。相場解説で話題にならない銀行株が、出来高トップやティック回数上位にランクインしていることにお気づきの方が多いかもしれません。これらの銘柄は流動性があり、発行済み株数が多く、呼び値単位が縮小されているという特徴があります。東証一部の中でも呼び値が小さい銘柄はHFTの得意とする銘柄です。反対に、市場参加者の心理に大きく左右されるような新興市場の銘柄は定量的な分析に基づく取引が困難のであるため苦手であるとされています。HFT取引のない環境を求めるのであれば新興市場に参入することも検討すると良いかもしれません。

HFT

江戸時代のHFT

ここ数年で成長したHFT(高頻度取引)ですが、これは市況を超高速で伝達・受信することにより速く注文を行うという意味において、江戸時代から存在していました。それは、紀伊国屋文左衛門が考案したとされる旗振り通信というシステムです。米飛脚が大阪・堂島の米相場を伝えるために時速10キロメートルが精いっぱいであった時代です。その中で、旗振り通信の時速720キロメートルという伝達スピードは驚異的でした。米飛脚に頼る者を出し抜くためにこれを利用した商人は、大儲けしたと言い伝えられています。江戸幕府は、旗振り通信を禁止した理由について「先格・先例もなく、精度も疑わしい手品がましき手法によって相場を報知することを取り締まる意図があったと考えるのが自然である」と考えていたという説*⁴もあります。速すぎる情報伝達に基づく取引で大儲けすることが市場の正確性・公平性をゆがめてしまうのではないかという考え方はこのころから存在していました。

技術進歩とHFT問題

HFT取引もアルゴリズム取引も、何年も前から問題になっていましたが、利益がすべて上記の手法を用いる取引参加者に吸収されたというわけではありません。個人投資家も従来の業者もこの時代に順応し、利益を上げることができています。むしろ、HFT業者は過当競争にさらされ、利益をあげることが難しくなっています。

技術の進歩に備えて私たちがしなければならないことは、アルゴリズム取引やHFTを敵とみなすのではなく、単なるツールとして使い方・裏のかき方をマスターすることから始めることだと思います。幸いなことに、個人投資家向けの取引アルゴリズム生成サービス等も開発が進んでいます*⁵。その他、様々な観点でプロとアマチュアのギャップを縮めるような技術進歩も見られつつあります。

先ほど説明した旗振り通信は1865年に解禁されましたが、大正時代になると電話・電報の発達、低廉化が達成され陳腐化しました。その電話、電報もラジオ・テレビ等にとって代わられ、それらはインターネットにとって代わられつつあります。証券取引所の売買システムを見ても、テクノロジーの発展に応じる形で場立ち方式からコンピューター管理、そしてArrowheadシステムでの管理と進化を遂げてきました。江戸時代のHata-Furi-Tsushin(HFT)は、現代の問題が解決しても新たに課題が発生することを示唆しているように思われます。その過程を踏んで、金融市場はさらなる発展を遂げるのではないでしょうか。

参考文献

*¹日本経済新聞社、2016/4/8.「株の高速取引検証へ審議会 金融庁、実態を調査」

*² IOSCO, 2007.Regulatory Issues Raised by the Impact of Technological Changes on Market Integrity and Efficiency Consultation Report.

*³ 同上

*⁴高槻 泰郎「近世日本における相場情報の伝達 ―米飛脚・旗振り通信―」郵政資料館 研究紀要 第2号 (2011年3月)

*⁵ AlpacaDB, Inc, capitalico


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