「中国の司馬遼太郎」の遺言 アリババ会長も心酔、経済人と小説家の二刀流

【NQN香港=桶本典子】中国の時代小説である「武侠小説」の大家・金庸(本名・査良公鏞)氏が10月末に94歳で亡くなった。「中国の司馬遼太郎」ともいえる大人気作家で、代表作の1つ「射雕英雄伝」の映画は日本でも1996年に「楽園の瑕(きず)」のタイトルで公開された。金氏は香港有力紙の「明報」を創刊するなど上場企業オーナーとしても手腕を発揮。中国では最近、文化人による財テク不祥事が目立つが、金氏は小説家と経済人の「二刀流」を見事にやり遂げた。

「先生がいなかったらアリババは存在していたかどうか」――。中国電子商取引(EC)最大手アリババ集団の馬雲(ジャック・マー)会長は金氏の訃報を受け、ミニブログ上で追悼文を発表した。馬氏は金氏と20年近い親交があったといい、自社オフィスの会議室に金氏の小説から取った部屋名を付けるほどの大ファン。中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席や台湾総統府も哀悼の意を表明し、華人社会における金氏の存在の大きさを印象づけた。

金氏の小説を座右の書とする政財界人が多いのは、登場人物が武術だけでなく商才もあるからだ。例えば「射雕英雄伝」の主人公は、知らずに優しくしたホームレスの娘が実は富豪の娘で後に結婚することになるなど、経済面でもサクセスストーリーを歩む。中国のネット上には金氏の小説の登場人物の財テク法を分析する書き込みがあふれ、小説を題材に銘柄選定法を説く株式投資家もいる。

金氏自身も「中国の歴史上、最も稼いだ文化人」と呼ばれたほどビジネスの才覚があった。1959年に明報を立ち上げたのに続き、週刊誌や月刊誌を次々創刊。旅行会社経営にも手を伸ばした。明報は91年に香港市場に上場(現社名は世界華文媒体)し、創業時の資本金わずか10万香港ドルから上場時で時価総額8億香港ドル(現在の為替レートで約110億円)の企業に成長した。

しかし金氏は明報上場後、保有株をほとんど手放している。当時の売却益は10億香港ドルともいわれた。市場参加者の間では「その後のネットメディアの隆盛を考えると、早めに紙媒体の株を売ったのは賢明だった」(地元証券会社のアナリスト)との評価が聞かれる。投資家として時機を見極める眼力も持っていたわけだ。

文化活動で一獲千金を実現した後、財テクに乗り出すお金持ちは中国にも多いが、みな成功するとは限らない。中国では国際的人気女優・范冰冰(ファン・ビンビン)さんが10月、脱税で巨額の罰金を科せられたばかり。有名女優の趙薇(ヴィッキー・チャオ)さんの株式投資トラブルなどの失敗例もある。その点、金氏は「武侠」の精神通り、投資の引き際も鮮やかだった。晩年は80歳を超えて英ケンブリッジ大学の大学院に入学し、学問に専念したという。

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