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「消費不況と次の増税」第一生命経済研究所・熊野英生氏

記事公開日 2016/3/24 18:29 最終更新日 2018/1/9 10:27 経済・ビジネス コラム・インタビュー 金融コラム

語り手:第一生命経済研究所 首席エコノミスト 熊野英生氏 (※本記事は2016年3月15日にQUICKで配信された記事です)

【景況判断】現状(3カ月前比):悪い、先行き(3カ月後):やや改善

GDP予測:16年度0.7% 17年度▲0.3%

【金 利】短期:横ばい TIBOR3カ月0.100%、長期:小幅上昇 10年物新発国債0.200%

【円 相 場】  115円/1ドル

【株 価】18,000円/日経平均

*GDP予測値は実質GDP成長率、前年比%

*長短金利、円相場、株価は3カ月後(2016年6月末)の予測値

1.景気見通し:「当面は世界的な製造業不振に苦しむ」

世界的に製造業が不安定である。米国では、雇用統計は好調であるが、半面でISM製造業景況指数の悪化が目立つ。ドル高が製造業に不利に働いているとされる。同様の図式は、中国にも成り立つ。ドル高に引きずられて人民元高が進んだ。中国は、対ドルでの人民元の切り下げを2015年8月から行っているが、実効レートではまだ人民元高である。そのため、製造業PMIは低調である。中国経済も、サービスは好調であり、製造業の不振とはコントラストがある。

米国 ISM製造業景況感指数(PMI)_

 日本の製造業もまた、米国や中国の製造業の不振のあおりを受けるかたちで、2015年初から低迷している。2016年はリオ五輪という4年に1度のイベントがあるのに、その追い風は過去のような勢いが感じられない。日本の為替レートも、110円台前半まで円高傾向になっていて、それが収益面で製造業の下押しになっている。
 日本の景気全般を見渡すと、今は悪化している製造業も、先の五輪効果がいくらかは表れてくるはずなので、年央(7~9月)くらいから持ち直しの動きが出てくると期待している。製造業の稼働率が高まれば、設備投資の需要に波及して、それが景気の底上げに寄与する。また、2017年4月の消費税の再増税が予定通りに行われれば、2016年冬には駆け込み需要が、多少なりとも消費全体の押し上げに寄与するだろう。消費税の再増税に向けた景気対策もきっと打たれるはずなので、2016年後半に景気が盛り返していく公算は低くないと予想している。

2.金融環境:「原油反転と米長期金利反転」

年初来の株価下落に影を落としてきたのが原油下落である。1バレル30ドル台では、米エネルギー産業が厳しい。これまで事業者の破綻懸念が警戒されたことが株価にも投影された格好であった。それもどうやら、現在、底入れしたようにみえる。2月上旬がボトムになって、1バレル40ドルに接近していく展開に変わってきた。
 この動きは、原油のみならず、米・欧の長期金利や新興国通貨を反転上昇させる動きと同調している。最近は、ドイツの長期金利も底打ちして、欧州にも広がってきた。もともと原油下落はインフレ予想を弱めて、中央銀行に緩和圧力を働かせるが、そうした動きは今変わりつつある。ちょうど、3月10日にはECB(欧州中央銀行)の理事会が開催されて、追加緩和が行われたが、ここでECBはむしろ、先行きの緩和打ち止めをアナウンスした。理事会後の記者会見では、ドラギ総裁は「一段の金利引き下げが必要になるとは思わない」と述べたのである。
 追加緩和の期待を一気にしぼませたことについて、深読みすれば、ドラギ総裁は、さらなる追加緩和予想を刺激しなくても、原油反転がデフレ予想の後退に向かわせると読んだのかもしれない。追加緩和の予想をあまりにかき立てると、自縄自縛に陥ることを警戒したという見方もできる。

原油 WTI 先物

 もうひとつ、米金融政策にも、過度な原油下落が反転したことで、ゆっくりとした利上げを進める方針が好感された可能性がある。FRB(連邦準備理事会)は2015年12月に利上げに踏み切ったことで、市場に対して引き締め過ぎのリスクを意識させてきた。だから、原油下落に歯止めがかからない段階では、米長期金利を低下させてきた。その動きも2月上旬を大底にして上昇に転じてきている。原油下落を前向きな動きととって、株価上昇・長期金利上昇に向かってきたことは、相場の転換点として注目したい。

3.注目点:「消費不況と次の増税」

 2017年4月に消費税率を10%にすることは、景気条項を外してあるので、必ず実行するとみるのが道理である。それなのに、消費税増税は再び延期されるという観測が根強い。首相が約束していることが、多くの人に信じられていないという事実は、経済政策運営への不信感が根深いとしか言いようがない。困ったものである。
一方で、首相が消費税を増税するのならば、消費の勢いを高めて、増税ができる経済環境をもっと熱心につくっておかなくてはいけない。増税延期の観測を打ち消すには、経済政策にもっとアクセルを踏むはずであり、そうなっていない点に問題が感じられる。政治日程から考えて、5月の伊勢志摩サミット、7月の参議院選挙、という2大行事が終わったところで、何らかの骨太の経済活性化策を打ち出すのではないかと目算を立てられる。夏から2017年度の予算編成の準備が始まって、予算に景気刺激策を盛り込むこともできる。
 かつて、2015年10月の消費税率10%の引き上げが延期されたのは、2014年11月18日のことである。11カ月前がぎりぎりのタイミングということなのだろう。これを当てはめると、2017年4月から逆算して、2016年5月という計算になる。ちょうど、5月18日に1~3月の実質GDP一次速報が公表される。1~3月は、うるう年要因で多少は消費が前期比で増えることが予想される。伊勢志摩サミットが5月26・27日なので、首相にとってサミット前は増税の意思を改めて国際公約として表明するには、絶好の機会にみえる。
 一方、「消費税を増税すべきだ」というべき論を脇に置いておいて、家計に増税を乗り切れる地力があるか。筆者は、そう問われると、正直に言って心許ない。2014年4月以降の実質民間最終消費は、平均▲0.1%とほぼ横ばいである。消費者物価・除く生鮮食品の前月比伸び率も、年率で平均0.1%と低調なままである。ひとつの背景は、家計の所得増加が鈍いことにある。所定内給与は、春闘の効果もあってプラスの伸びであるが、所定外給与と特別給与の伸び率が足を引っ張る。さらに、非正規社員の構成比が上がっていて、1人当たりの給与水準は増えにくい。
 また、家計の中で、世帯主60歳以上の構成比が53.3%(総世帯)にまで増え、無職世帯(主に年金生活者)が38.6%を占めるようになっている。だから、賃上げの恩恵は乏しく、世帯数の伸び率も0.75%と時系列でみて段々と低い伸びになっている。目先、マクロの消費金額が増加する要因は見当たらない。
 消費不況を克服するには、勤労者世帯の所得増加で全体を牽引するほかに手立てがなく、高齢世帯の雇用者報酬を増やすことで消費のパイを拡大することが突破口になると考えられる。所得形成力の弱い非正規雇用の拡大や、不安定な株価上昇を通じた資産効果には依存できないのが実情である。一方、アベノミクスは、雇用分野に「岩盤規制」があると指摘して、2013年以降、改革に取り組んできたはずであるが、雇用面での実績は今ひとつである。非正規雇用比率は上昇し続けている。改革の狙いどころが外れていないかどうかを再確認して、消費税増税に耐え得るような雇用拡大・所得上昇を実現することが、今、最優先すべき課題になっている。

<熊野英生氏略歴>
1967年7月山口県生まれ。横浜国立大学経済学部卒。90年4月日本銀行入行。2000年8月より、第一生命経済研究所入社。2011年4月より現職。著書「本当はどうなの?日本経済―俗説を覆す64の視点」(日本経済新聞出版社)、「籠城より野戦で挑む経済改革」(東洋経済新報社)など。専門は、金融政策、財政政策、金融市場。


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