外国為替市場でトルコリラの下落が続いている。トルコ中央銀行は3日、インフレ率の急上昇を受けて9月の金利引き上げを示唆する声明を出したが市場の反応は冷ややかだった。利上げに否定的とされるエルドアン大統領の姿勢が変わらない限り、物価抑制と景気安定に必要な金融引き締めは難しいとの認識が広がっている。
4日の東京市場でリラの対円相場は1リラ=16円台後半で推移している。3日の中銀声明の発表後は17円前後まで上値を試したが、買いは続かなかった。8月の急落時に付けた過去最安値の15円台後半に近い水準で低迷したままだ。
3日に発表された8月のトルコ消費者物価指数(CPI)の上昇率は前年同月比17.90%と2003年12月以来ほぼ15年ぶりの高さになった。国内の生産者物価指数(PPI)は同32.13%と7月(25.00%)から一段と上昇ペースが速まった。生産者が物価上昇に耐えきれず消費者に価格転嫁する公算は大きく、「CPIの前年比上昇率は年末までに20%に達する」(みずほ証券投資情報部の折原豊水シニアエコノミスト)。トルコ中銀の危機感は相当高まったはずだ。
3日の中銀声明は「物価の安定を支えるため必要な措置を講じる」、「9月の金融政策委員会で金融のスタンスを調整する」というもの。オランダのラボバンクは3日付リポートで「中銀のチェティンカヤ総裁は声明を出すことによって、正攻法の利上げに踏み切る義務を自らに課した」と解説していた。
だが、エルドアン氏がチェティンカヤ氏の意向を尊重してくれるとは限らない。
みずほ証の折原氏は「市場が期待する大幅利上げにはおそらく踏み切れない」と話す。中銀介入にかじを切るエルドアン政権のもとで、引き締めを強化し通貨安を止められるかは依然として不透明だ。「少なくとも10%は利上げしないと市場は驚かないだろうが、政治サイドに金利上昇への嫌悪感が強いなかで、中央銀行がすべきこととそれが実際にできるのかは分けて考える必要がある」(ラボバンク)との懐疑論が目立つ。
三菱UFJリサーチ&コンサルティングの橋本和子研究員は「リラ安が進むなか、外貨建て債務の多いトルコ企業が経営危機に陥る恐れがある」と指摘する。市場からは「信用リスク懸念からトルコ系銀行のドル調達コストは上昇した」との声も聞こえてくる。
ただでさえトルコの大手企業はエルドアン大統領の縁故主義が強く、ガバナンス(統治)がうまく機能していないとされる。「トルコの金融機関が、借り換えが集中する年末にかけて円滑に借り換えを進められるかが焦点」(みずほ証の折原氏)との警戒感が広がってきた。
〔日経QUICKニュース(NQN) 菊池亜矢〕
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