民泊にライドシェア(相乗り)にレンタルスペース――。インターネットを介して個人がモノやサービスを売買・貸し借りするシェアリングエコノミーが、海外に続いて日本国内でも広がりつつある。シェアリングエコノミーの経済規模を捕捉するのは難しいが、2016年は総額4700億~5250億円程度にのぼったと内閣府は試算する。今後一段とシェアリングエコノミーが広がると、国内の消費や物価にどのような影響があるのか。大和総研でシェアリングエコノミーの研究に関わる市川拓也主任研究員と、「デジタル資本主義」(東洋経済新報社)の執筆に関わった野村マネジメント・スクールの森健上席研究員の2人に話を聞いた。
■「物価の下押し圧力に」 大和総研の市川拓也主任研究員
シェアリングエコノミーは現在余剰となっている資産やスキルを有効に使えるようにする動きだ。空きスペースや車だけでなく、写真撮影といったスキルの個人間の提供もインターネットを通じて広がるとみている。
財やサービスの提供は、個人が副収入のひとつとして手がけるとみている。個人の所得を増やし、支出を後押しすることになる。
ただ価格設定はすでにある競合サービスと比べて低価格になることが多い。利用者側にはプラスだが、対象となる財やサービスの価格は押し下げることになりそうだ。既存事業者との競合が厳しくなれば、価格競争も起こりやすい。
財やサービスの販売にも影響が出てくる。一段とシェアリングエコノミーが普及し、「モノを持たないことがいい」という価値観が広がれば、消費者の購買行動が変わる。企業にとっては仮に単価は上昇しても、販売数量は減るだろう。
■「一物一価の概念が崩れる」 野村マネジメント・スクールの森健上席研究員
シェアリングエコノミーの普及・拡大によって、物価の概念が変わり、「一物一価」という考えは崩れそうだ。提供される財・サービスが非常に多種多様になるだけでなく、同じ財やサービスを使っていても、使い方や利用条件に違いがあるため価格もひとつに定まらない。いままで購入していたものを買わずに使うだけになると、そもそもある財やサービスの「価格」を比較しにくくなる。
デジタル化の下で製造業が進めている「モノ」売りから「サービス」売りへの転換も同じ影響がある。
「サービス」売りの価格設定では、顧客の「支払い意思額」を明確にして請求することが必要になる。この支払い意思額は顧客ごとに異なるため、ここでも価格に差が付く。例えば音楽配信業界では1曲ごとの価格体系から、何十万曲へのアクセス価格へと価格の設定方法が変化している。これも物価の概念を揺さぶっていると言えるだろう。
シェアリングエコノミーは、高齢化や人口減少によって資産の稼働率が低下する日本との相性が良く、着実に拡大する。今後は退職者の知識やスキルもシェアの対象になるだろう。
【日経QUICKニュース(NQN ) 聞き手は岩本貴子】
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