世界の株式市場で一人勝ちの様相を強める米国株だが、その強気相場が転機を迎えた時は不人気な日本株が相対的に輝きを取り戻すかもしれない。いまは見向きもされない投資指標面での割安感が強みに変わる可能性があるからだ。
「経済の実力を考え米国株の保有を増やす一方、日本株を空売りしている」。ある運用会社の幹部は明かす。循環的には世界景気の後退局面が近づいている。米中貿易戦争の先行きも全く読めず、強気一辺倒には傾けない。そう考えると、米国株に加え中国株とも連動性がある日本株はショックに備える際の格好のヘッジ売り対象になるというわけだ。
QUICK・ファクトセットによれば、世界の主要50株価指数(ドルベース)のうち、年初来で上昇しているのは米ナスダック総合指数の約14%など15にとどまるが、その3分の1を米国の指数が占める。日経平均株価は上げ下げを繰り返して、ほぼプラスマイナスゼロ近傍。押し目待ちの投資家にも、上昇基調に乗りたい投資家にも中途半端な水準だ。
日本には米国のアップルのようなIT(情報技術)関連のスター株が存在しない。物価は上がらず、企業の利幅も広がりにくい。ないない尽くしの日本株をあえていま買う必要はないというのが投資家の本音だろう。
日本株のPBR(株価純資産倍率)は1倍台前半だ。2倍台半ばの米国株や1倍台後半の独仏株を大きく下回る。割安といえば聞こえは良いが、資本効率が悪く投資家の期待が低い証拠でもある。
ただし、そうした見方は平時の立論だ。リーマン・ショック時のような大乱世では、割安という不名誉なレッテルが売り込みにくさという強みに変わる。
海外投資家は日本株に売り一辺倒というわけでもない。今年6月にニューヨーク証券取引所に上場した日本株上場投信(ETF)の「JPモルガン・ベータビルダーズ・ジャパンETF」が先月、市場で話題となった。運営費用の低さが投資家を呼び、大規模な資金流入があったためだ。QUICK・ファクトセットによれば上場来の資金流入差額は18億ドル。今年に入ってからのニューヨーク上場のETFへの流入額としては上位に入る。
「強気相場の最終局面での典型的な現象だ」。著名ストラテジストのピーター・タスカ氏は先月、英紙フィナンシャル・タイムズ(FT、電子版)に米アップルや米アマゾン・ドット・コムなど一部のIT(情報技術)大手に物色が集中する傾向に警鐘を鳴らす論文を寄せた。米S&P500種株価指数の年初来の上昇率は7%だが、業種で比較するとIT、及びアマゾンが含まれる一般消費財がいずれも16%で群を抜く。
■「S&P500」(赤)、「S&P500(業種別一般消費材)」(青)、「日経平均」(緑)の3指数の相対比較
※昨年末を100とする
タスカ氏が危ぶむように米株が波乱に見舞われれば、日本株への影響も避けられないだろう。しかし、東証1部の予想PER(株価収益率)は現在でも14倍台半ばで過去5年では最低水準という点を忘れてはいけない。
日興アセットマネジメントの神山直樹チーフ・ストラテジストは年末の日経平均を2万3900円と予想する強気の見方を崩していない。電子部品など市場占有率が高い企業を中心に、1株利益の増加基調は変わらないとみているからだ。冒頭の米株買い・日本株売りポジションの賞味期限が来るのは案外、近いかもしれない。
【日経QUICKニュース(NQN )編集委員 永井洋一】
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