外国為替市場で7月以降に加速したトルコリラの下落は、日本で外為証拠金(FX)を手掛ける個人投資家に大きな打撃を与えた。銀行の為替ディーラーからFX業界に転じたJFX(東京・中央)の小林芳彦社長は「個人はどんぶり勘定になりがちで気がつくと負けが込んでいる」と指摘し、「自分がどれだけの頻度で勝ち、1回当たりどのぐらい勝てるトレーダーなのかの『身の程』をきちんと知ることが勝利への近道」と説く。【聞き手は日経QUICKニュース(NQN)編集委員=今 晶】
小林芳彦(こばやし・よしひこ)氏
1979年慶大商卒、協和銀行(現りそな銀行)入行。87年から本店資金為替部の調査役となり、カスタマーデスクのヘッドなどを務めた後、89年10月に外資系金融機関に移る。クレディ・スイス銀行の資金為替部長や独バイエリッシェ・ヒポ・フェラインス銀行(現ウニクレディト)為替資金部長、バンク・オブ・アメリカの為替資金部営業部長を歴任しFX業界に入った。「NO.1為替ディーラーが伝授するインターバンク流FXデイトレ教本」(日本実業出版社)などの著書がある
■自らの「損益分岐勝率」を知る
金利差重視で外貨を売り買いする人は金利の高い通貨を安く買って長く保有するだけなのでとりたてて戦法はないが、秒単位で売買を繰り返す「スキャルピング」などの短期取引で差益を狙うのなら押さえておきたいポイントがある。運も実力も備えた「常勝型」はめったにいない。たいていは勝率3~6割の間をうろうろしているだろう。問題は勝つときにどれだけ収益を上げられるかだ。
まず過去を振り返るところから始めてほしい。例えば円の対ドル取引で勝ちを収めた際に1ドル当たり何銭程度利益を上げ、負けたときに何銭損をしたか紙に書き出してみる。
敗戦時の損失が勝利を収めたときの1.5倍だったら、6勝4敗でどうにか収支トントン。7勝3敗でようやくプラスになる。勝率7割はかなり難しいはずだ。勝ちの数を増やせないなら1回当たりの損失を抑えるしかない。
含み損を抱えた持ち高をずるずると維持した結果、それまでコツコツと積みあげてきた利益がパーになった苦い経験はないだろうか。「まずいな」と思ったらただちに手を引くべきだ。リーマン・ショックなどのように相場が大きく荒れる局面ではなおさら、撤収のスピードが大切になる。
市場では「仮に1勝9敗の成績でも、その1回で大きく勝てれば収支はプラスにできる」とのもっともらしい解説をよく聞く。だが6勝4敗でトントンの人間がいきなり1勝9敗で勝てるはずはない。「逆転ホームラン」を狙うあまり損失確定のタイミングが遅れ、損を取り返せないまま終わるのが関の山だ。
限られた資金をどう使うかのルールは厳格にすべきだ。持ち高は差し入れた証拠金の10~20%程度に抑えたり、損失は証拠金の2%以内にとどめたりする。含み損を平準化するために持ち高を増やす「ナンピン」は避けたい。ナンピンを絶対ダメだとはいわないが、撤退の方針を決めて臨んでほしい。
■ファンダメンタルズは金融政策と金利に絞れ
ディーリングの基本は相場の流れに乗る「順張り」だ。日本のFX投資家は流れに逆らう「逆張り」を好むものの、逆張りはいわば、ぶつかってくる相手を受け止める横綱相撲だ。横綱のように胸を貸せるぐらいの力(お金)の余裕があればそれはそれで1つの選択肢だろうが、たいていは「衆寡敵せず」で寄り切られてしまう。
7月の金融市場を動揺させたトルコリラ安の局面でもFX勢は果敢に逆張りでリラを買った。だが結局は欧米ヘッジファンドなどの投機筋のリラ売りに歯が立たず、損失覚悟のリラ売りがさらなるリラ売りを招く悪循環に陥った。
ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)では金融政策と金利に絞って考えるとよいだろう。チャートなどを用いたパターン分析は何でもかんでも手を出すのではなく、ローソク足や一目均衡表、移動平均線など4~5個に絞って定点観測をする。値動きからマーケットのセンチメント(投資家心理の傾き)を瞬時に判断し、取引につなげていくアプローチも大切だ。
短期のディーリングは気持ちに余裕がないと勝てない。負けてカッカしているときは無理にディールをせず、パソコンのモニターの電源を消したり、冷たい水を飲んだりして心を落ち着かせることだ。
思い通りにいかないからといって「相場が間違っている」とムキになってはいけない。相場は常に正しいと謙虚に受け止める冷静さを保ちたい。(随時掲載)