外国為替市場でトルコリラの動きがさえない。3日には6月の消費者物価指数(CPI)の上振れをきっかけに売りがかさみ、対ドルで一時1ドル=4.68リラ台半ばと1週間ぶりの安値を付けた。中央銀行はインフレを抑えるために本来は利上げを加速させなければならないところだが、金融引き締めに厳しいエルドアン大統領はいずれ利上げを阻むとの懸念が改めて強まっている。
トルコ統計局が3日に発表した6月のCPIは前年同月比で15.39%上昇と、市場予想の13~14%程度の上昇を大幅に上回った。原油高や3月以降のリラ安を受けて輸入物価が上がり、全体を押し上げた。トルコ中銀は4月以降に政策金利を5%引き上げたが、市場では「さらなる引き締めが必要」との声が多い。
足元のトルコ経済は政府の景気刺激策に支えられている面が大きいものの、経常赤字と財政の「双子の赤字」が重い。対米関係が良くない一方でロシアやイランなど米国と距離を置く国に近く、投資家がトルコでの運用を控える要因になっている。
トルコの新閣僚の顔ぶれや議会の招集時期などの日程、新政府の政策方針などはまだ見えず、政治の先行きには不透明感が残る。リラは前週は悪材料が出尽くしたとして持ち直していたが、買い戻しの域を外れなかった。リラ安や原油高により経常赤字が拡大し、さらなるリラ安を招く悪循環を断ち切るには引き締め的な金融政策の継続が欠かせないと映る。
問題はエルドアン氏の出方だ。トルコ中銀が5~6月に利上げに踏み切った際、それまで利下げの必要性ばかりを訴えていたエルドアン大統領が特に反発を示さなかった。市場からは「リラ安抑制には利上げが必要との考えで中銀と大統領が一致したのではないか」(みずほ証券の山本雅文チーフ為替ストラテジスト)との声も出ている。だが、中銀と大統領との関係性が問われるのはエルドアン氏の続投が決まったこれからだろう。
トルコ中銀が次回の政策決定会合を開くのは7月24日。物価上昇の加速から利上げはほぼ確実との見方が優勢で、「最低でも1%は利上げするのではないか」(第一生命経済研究所の西浜徹主席エコノミスト)。市場を驚かせてリラ安阻止の効果を高めようと大幅な利上げを決めるとの予想も出ている。これに対し、エルドアン氏はどう応じるか。大統領選前に訴えていた中銀支配を強める姿勢から変わらなければリラの弱気が再び台頭しそうだ。
〔日経QUICKニュース(NQN) 蔭山道子〕