「国内輸出企業による円買いの圧力が弱まってきた」。外国為替市場でこんな観測が広がっている。日銀は3日、6月調査の全国企業短期経済観測調査(短観)全容を発表した。18年度収益計画の前提となる想定為替レートをみると、製造業はほぼ全てで3月調査から円高・ドル安方向に移った。足元の円相場は1ドル=110円台後半。円買いを急がなくてもよいと受け取れる水準だ。
6月の短観全容で、例えば「生産用機械」の想定為替レートは1ドル=105円97銭と、3月調査から2円74銭円高・ドル安に修正した。「自動車」は106円36銭と3円以上の円高・ドル安を想定する。三菱UFJ銀行の内田稔チーフアナリストは「海外売上の比率が高い大企業ほど保守的に相場をみる傾向が強い」と前置きしたうえで「想定よりも有利な相場水準にある現在、輸出企業が慌てて円を買い、円高が加速していく公算は小さい」との認識だ。
「保守的な相場予想」はほかに、先物の円買い予約や円のコール(買う権利)購入で為替差損リスク回避(ヘッジ)を一定額進めている可能性も示唆する。銀行ディーラーの経験が長く、現役とのパイプも太い豊商事の大倉孝シニアFXストラテジストは「自動車関連などの主力企業は年内の円の手当てをほぼ終えた」とみていた。
日本は貿易黒字の体質だが、数カ月先の分までの円買いが既に終わっているとすると、短期的には輸入企業の円売りが先行しやすくなる。実際、6月下旬以降は中値決済などでドル不足になる日が目立つ。3日も一時は円売りが優勢で、約1カ月半ぶりに1ドル=111円14銭近辺を付ける場面があった。
実需の円買いの存在感が薄い状態はいつまで続くだろうか。三菱UFJ銀の内田氏は「海外企業から受け取る配当金や債券の利子といった第1次所得収支を含めて円買いはコンスタントに入ってくる」と話す。日米金利差の拡大を背景にした円売り・ドル買いは根強いが、米中の貿易摩擦などへの警戒感から新規の外貨建て運用に慎重な投資家は多い。市場では「国内勢の需給は遠からず円買い優位に戻る」との見通しが支配的だ。
クレディ・アグリコル銀行の斎藤裕司外国為替部長は「企業の保守的な想定レートは将来の円高進行も視野に入れているはず」と指摘する。この先、円がじりじりと下げるようだと、再びヘッジ目的の円買いが高まってくるとの声が市場には多い。
【日経QUICKニュース(NQN) 菊池亜矢】